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大阪大学大学院文学研究科芸術学講座文芸学研究室

   Seminar for Science of Literary Arts,Department of Art Studies,Graduate School of Letters,Osaka University   


 文芸学とはいかなる学問であるのか、という問いかけがしばしば多くの方から寄せられます。それに対しては、芸術としての文学、すなわち文芸を研究対象とするのが文芸学である、と即答するのがいわば慣例となっています。しかし、芸術にしろ文芸にしろ、その概念規定は極めて曖昧です。つまり、定義の中に未規定項が混入してしまっているため、同語反復になってしまうわけです。それでは、明確な答えを得ることは期待できないでしょう。結局、漠然的に文学を芸術学の手法を用いて研究するのが文芸学である、という当たり障りのない解答で満足せねばならないことになってしまいます。
 私たちの研究室では、文芸というタームを抽象的な概念の枠組みの中で考察することから生じる弊害を回避するために、まず、文芸の黎明期、特にギリシア・ローマ時代に産み出された文芸作品に関する厳密な実証的研究を踏まえたうえで、多様な文芸事象の根底に存する普遍的法則性を解明する、という姿勢を重視しています。それは、原初的・原理的な事柄を把握するためには、まずは古典作品を研究する必要がある、と考えているからなのです。
 もちろん、文芸学は、その研究対象が文芸作品である限りにおいて、時代や言語の差異を超越しています。つまり、どの時代のどんな言語によって書かれていても、そうした作品は、定義上、文芸学の研究対象となるのです。その限りにおいて、文芸学の研究対象は、際限なく広く拡大し、人文学の全領域を包摂しているとすら言えるのです。実際、ルネサンスを文芸復興と翻訳する場合の文芸という語の外延と内包を文芸学は視野に収めています。
 しかし、差し向けられた視線の先に悠久の領野が開かれているにしても、眼差しを支える土台が脆弱では、そこに多くを期待することはできないでしょう。私たちは、研究対象が未規定であることは、古典作品に対する不断の顧慮によって規定されることで、逆説的ながら、いっそう豊饒な成果をもたらしうると考えているのです。
 私たちの研究室では、古代から現代に至るまで、洋の東西を問わず、実に幅広いジャンルの文芸作品を多角的視点に基づいて研究しています。端的にその特色を表現すれば、現代文芸学と西洋古典学の統一である、ということになるでしょうか。すなわち、文芸作品を古典文献学的方法論に立脚して研究するとともに、その成果に基づいて文芸一般の原理的諸問題を考察する、という手続きを踏むことを原則としているのです。ただし、西洋古典語の習得にはかなりの忍耐と時間が必要です。従って、学部段階の授業は、西洋古典語の予備知識を前提とはしてはいませんので、ご安心ください。
 ただ大切なのは、多種多様な文芸事象の究明に向かいながらも、いつでも立ち戻ることのできる地歩を常に確保することではないでしょうか。これが、私たちの研究室の基本的スタンスなのです。遠回りのように見えながらも、事柄の本質に辿り着くためには、こうした迂回がかえって近道であることが判明するのも、往々にして経験されるところです。私たちは、このようなかけがえのない経験を何にも増して尊重しています。須臾の癒しなどという一過的なものではなく、確たる手応えのあるものを求めてやまない方々のご来訪を心よりお待ちしております。

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