トップ | 研究室 | 授業 | 学会 | 懐徳堂 | 古典のことば | 電子テキスト | 研究情報 | 蔵書 | リンク | ご意見 | サイトナビ

 

■ 参考資料「夢」の文献案内

 
       
 阪大中哲HP授業情報参考文献解題→「夢」の文献案内

       
  • 「夢」に関する文献を、以下、6つの分野から各々数冊ずつ取り上げ、紹介する。
  • 書誌情報の内の定価は、刊行時のものであり、現在改定されているものもある。
  • この文献案内は、平成10年度開講「中国哲学基礎」(湯浅邦弘)において紹介した文献を中心として作成したものである。
  1. 広く人間と夢との関わりについて
  2. 生理的現象としての睡眠、夢、精神分析と夢について
  3. 日本の夢、日本文学の夢について
  4. ユング、およびユング心理学を踏まえた文化論について
  5. 夢、あるいは夢と現実を主題・題材とした文学作品・随想など
  6. 中国の夢の研究

1.広く人間と夢との関わりについて

『夢と人間社会』上下
(ロジェ・カイヨワほか編、三好郁朗ほか訳、法政大学出版局、1978・1985年、2400・2800円) 上下巻計24の論文からなる夢の総合的研究。上巻は「夢の威信と問題」「夢の精神生理学」「夢の社会学」など夢の各論、下巻は「古代ギリシアにおける夢とインキュベーション」「古代近東における占い夢」「アラブとイスラムの民衆文化における夢」など地域別時代別の夢の考察からなる。
『夢の王国−夢解釈の四千年』
(M・ポングラチェ、I・ザントナー著、種村季弘ほか訳、河出書房新社、1987年、3600円) ヨーロッパ・中近東の著名な「夢の書」を古代から近代に至るまで広く収集した夢の記録の集大成。全体は3部からなり、第1部「夢解釈の歴史」はエジプト・メソポタミア・ギリシア・ローマなど地域別の解説、第2部「夢の象徴表現」は人体・人間・行為・動物など夢の内容別の解説、第3部は「頻度の高い夢とその解釈」である。
『夢と象徴の深層』
(馬場謙一ほか編、有斐閣・日本人の深層分析5、1984年、1800円) 「無意識の世界」「夢と精神分析」「夢の比較文化」「夢と神話世界」「夢と童話の世界」「影への招待」など、夢と象徴に表れた深層心理の諸相を、13人の分担執筆により多方面から解説。第13章「宗教と無意識管見」は遠藤周作が担当。
『夢とビジョン』
(木村尚三郎編、東京大学出版会、1985年、2200円) 「フロイトにおける夢判断とその理論」「生命科学の夢と現実」「古代ギリシア人と夢」「西洋近代絵画における夢」など、古今東西の夢を、11人の分担執筆によって多方面から解説。東京大学教養講座の中の一冊。
『夢と人間』
(木村尚三郎編、東京大学出版会、1986年、1900円) 『夢とビジョン』の姉妹編。「ユングにおける夢とビジョン」「西洋中世の時代と夢」「中国思想における夢」「民話における夢」など。
『澁澤龍彦コレクション1 夢のかたち』
(澁澤龍彦著、河出書房新社、1984年、1300円) 古今東西の多種多様な夢の記述を収録。シェイクスピア「音楽の夢」、列子「陰陽の夢」、ポー「夢の夢」、南方熊楠「夢を記憶する法」、今昔物語「二人同夢」など、すべて平易な現代日本語に訳した126 の項目から成る。
『夢を知るための109冊』
(東山紘久ほか編、創元社、1992年、1500円) 夢に関する文献紹介。全体を、「夢の生理学」「心理療法と夢1ユングとフロイト以外の派」「同2ユング派」「同3フロイト派」「同4その他」「夢事典」「夢と文学」「哲学・人間学・人類学と夢」「夢研究の歴史」「夢に関する雑談」の10部門に分け、2頁で1冊、計109 冊の文献を写真入りで紹介している。
『夢』
(imago臨時増刊号、青土社、1991年) 宗教・精神分析・ユング心理学・フロイト・脳生理学・夢と文学・夢と美術など、夢を多方面から語る特集。28本の評論・エッセイ、および河合隼雄・中沢新一の対談によって構成されている。中国関係では、山田慶兒「古代人の夢の地平−中国占夢術盛衰記」がある。
『夢の技法』
(imago1995年5月号、青土社) 夢は人間にとってどのような意味を持っているのか。特に、人間精神に与える夢の影響という面について特集する。「神意と夢−日本民衆の生活」「シャーマン−夢を生きる人々」「夢の精神医学的民族誌」「夢まくらの治癒神」など14の論考から成る。
『夢判断の書』
(アルテミドロス著、城江良和訳、国文社・叢書アレクサンドリア図書館第2巻、1994年) 紀元前2世紀頃に活躍したとされるギリシアのアルテミドロスの書『夢判断』の全訳。全5巻から成り、初めに「夢と睡眠中の幻覚の区別」「直示的な夢と比喩的な夢」など、夢の一般的理論を述べた後、主題別分析として、「誕生」「妊娠」「戦争」「飛行」「死んだ人にであう」など約200項目の事例について、その夢の意味を解説する。

2.生理的現象としての睡眠、夢、精神分析と夢について

『夢判断』
(フロイト著、高橋義孝訳、新潮文庫、1969年、上440円、下400円) 意識の深層に抑圧された欲求と夢との関係を分析したフロイトの名著。「夢の問題の学問的文献」「夢判断の方法」「夢は願望充足である」「夢の材料と夢の源泉」などから成る。精神分析学を初め、今世紀の諸学問に多大の影響を及ぼした。『精神分析入門』(新潮文庫、1977年、上下)も参照。
『夢』
(宮城音弥著、岩波新書、1972年、430円) 人はなぜ夢を見るか、夢の内容にはどのような意味があるのかなど、人間が夢を見ることの本質を、主として心理学の観点から平易に解説する。
『眠りの精をもとめて』
(井上昌二郎著、どうぶつ社、自然誌選書、1986年、1800円) 睡眠や夢を誘発する物質は何か。眠りの精(睡眠物質)を求める科学的研究(睡眠学)の足跡を平易に解説しながら、睡眠と夢の神秘に迫る。
『夢を見る脳 脳生理学からのアプローチ』
(鳥居鎮夫著、中公新書、1987年、520円) 夢は脳のどこで作られ、どのような働きをしているか。レム睡眠や右脳・左脳の発見によって急速な進歩を遂げた脳生理学の立場から、夢の仕組みを分析し、右脳によって夢が生産されているという仮説を提示する。同著者の『行動としての睡眠』(青土社、1996年、2200円)も参照。
『夢の心理学』
(『青年心理』1988年11月号) 主として心理学の観点から夢を解説した特集。約20本の論考からなる。「フロイト派の夢心理学」「フロイト左派−フロムの場合」「夢療法」「催眠療法」など心理学に関するもののほか、「戦後社会の夢の変遷−日本」「夢・悪霊・祟り」「夢と創造−夢にみる天才の創造性」など、広く社会・文化に関わる興味深い論考で構成されている。
『20章でさぐる睡眠の不思議』
(ペレツ・ラヴィー著、大平裕司訳、朝日選書、1998年、1600円) 睡眠学の立場から、眠り、夢、脳の仕組みと役割を、計20章で興味深く語る。夢については、夢内容と目の動き、魚も夢を見るか、など、最新の研究成果を交えて分かりやすく解説している。

3.日本の夢、日本文学の夢について

『日本古典文学 夢についての研究』
(江口孝夫著、1987年、風間書房、15000 円) 奈良時代から江戸時代にいたる日本の古典文学の中の夢についての研究書。全体は、「文学作品にみる夢の時代相」「文学作品の夢」「夢の特性」「夢の作品化」「夢書とその周辺」の5章からなる。取り上げられている作品は、『源氏物語』『蜻蛉日記』『今昔物語』『太平記』など多数。古典の中の夢を通時代的に取り上げた貴重な研究である。
『日本中世における夢概念の系譜と継承』
(カラム・ハリール著、雄山閣出版、1990年、7800円) 歴史学の立場から『万葉集』『玉葉集』『明月記』など和歌・日記にあらわれた多彩な夢を時代背景や時代精神との関わりの中で分析する研究書。「古代における夢概念の変遷」「古代〜中世変革期と夢」「中世人の夢」「近世人の夢」と付論「日本人の夢とアラブ人の夢」からなる。著者は現在カイロ大学教官。
『古代人と夢』
(西郷信綱著、平凡社、1972年、1400円、1994年平凡社ライブラリー) 「夢殿」「長谷寺の夢」「黄泉の国と根の国」など、日本における古代人と夢の関係を解説し、更に、『更級日記』『源氏物語』など、古典文学に表れた夢、「夢を買う話」「夢あわせ」などについて論及する。夢は古代人が神々と出会う回路であり、この世界の意味が示される場であったと説く。
『夢と日本人』
(樋口清之著、講談社・日本人の歴史10、1982年、980円) 夢が、浄土、地獄、ユートピアなど日本人の精神世界を表していることを、日本の歴史を辿りながら、平易に解説する。「日本人の眠りと夢」「極楽浄土の夢」「観音信仰と補陀落山」「庶民の夢を支えた民衆信仰」「日本人とユートピア」からなる。

4.ユング、およびユング心理学を踏まえた文化論について

『明恵 夢を生きる』
(河合隼雄著、京都松柏社、1987年、2000円) 鎌倉時代初期の名僧・明恵上人の生涯にわたる膨大な夢の記録「夢の記」を取り上げ、明恵上人の自己実現の軌跡を追った書。全体は「明恵と夢」「明恵とその時代」「母なるもの」「上昇と下降」「ものとこころ」「明恵と女性」「事事無礙」の7章からなる。ユング心理学の観点から、夢に対する態度によって、夢も人も変わって行くさまを、宗教と科学の接点に立って解説する。
『絵本と童話のユング心理学』
(山中康裕著、大阪書籍・朝日カルチャーブックス67、1986年、1200円) 人間の普遍的無意識が絵本や童話の世界にどのように反映しているか、「太母と不安」「影」「アニマとアニムス」などユング心理学のキーワードを軸に探る平易な入門書。
『影の現象学』
(河合隼雄著、講談社学術文庫、1987年、800円) ユング心理学の主要概念「影」についての解説書。全体は、(1)影(影のイメージほか)、(2)影の病(二重人格、夢の中の二重身)、(3)影の世界(不可知の世界、地下の世界ほか)、(4)影の逆説(道化、トリックスターほか)、(5)影との対決(自我と影、影と創造性など)、の5章からなる。例えば、ナチスの台頭は、キリスト文明に余りにも抑圧された北欧神話の神オーディンの顕現である。教育者・宗教家の子どもに変人が多いのは、親の影を子どもが背負わされているから。太閤記に人気があるのは、秀吉が一生の間に、道化・英雄・新王・旧王など全ての役割を一人で演じているからなど、興味深い話題の連続である。二重身(ドッペルゲンガー)を主題とした遠藤周作の『ピアノ協奏曲二十一番』の解説を河合隼雄が担当しているが、逆に、本書の解説を遠藤周作が行なっているのも面白い。
『夢の治癒力−古代ギリシアの医学と現代の精神分析−』
(C.A.マイヤー著、秋山さと子訳、筑摩書房、1986年、1900円) ユング派の巨匠マイヤーがユング派による典型的な夢分析の実際を記した古典的名著。僅かな夢の断片から人の心の深奥を探る。専門的。
 また、同著者に、『夢の意味』(C.A.マイヤー著、河合隼雄監修、河合俊雄訳、創元社・ユング心理学概説2、1989年、2200円)があり、ここでは、「夢研究の方法」「昔の夢理論」「C・G・ユングのコンプレックス心理学における夢」など全5章で概説している。
『夢診断』
(秋山さと子著、講談社現代新書、1981年、480円) ユング心理学の元型(影、ペルソナ、アニマとアニムス、太母と老賢人など)を駆使しながら、漱石の夢、更級日記の夢、未開部族の夢などを探り、抑圧された欲望の表現(フロイト)としてではない、夢の豊かな可能性を語る。全体は「夢の意味」「夢分析の諸相」「ユングの元型とイメージ」「文学作品における夢」「大いなる夢」「夢分析の実際」「現代人と夢」の7章からなる。
『夢と昔話の深層心理』
(河合隼雄著、小学館、1982年、680円) 昔話に表れた「夢」と「笑い」とを手掛かりに、日本人の深層心理を分析する日本文化論。T「イメージの世界−夢を分析する」V「笑いの心理学」のほか、U「自己変革から創造へ」W「本能と文化の表象」は梅原猛・湯川秀樹らとのシンポジウムを採録したもの。
『夢の神話学』
(多田智満子著、第三文明社、1989年、1600円) 東西の神話・伝説の中に見える夢を手掛かりに、古来、神からのメッセージと考えられてきた夢について紹介する。「夢中の人物を求めて」「夢をたよりの宝探し」「縮約された人生」「偉人誕生の夢」「死を告げる夢」など11章からなる。資料集的性格を持つ。
『ユング派の夢解釈−理論と実際』
(ジェームズ・A・ホール著、氏原寛ほか訳、創元社・ユング心理学選書9、1985年、1500円) ユング派の立場からのまとまった理論と実践の解説書。全体は、「ユング心理学の基本概念」「夢の性質」「夢に対するユング派のアプローチ」「診断指標としての夢」「一般的な夢のモチーフ(近親相姦・喪・家・車・死・ヘビなど)」「夢解釈の二つの対立関係」など11の章からなる。多くの具体例を挙げながら心理臨床に役立てられている夢を簡潔に説明し、特に、夢が本人の人生とどのように関わっているかに注目している。巻末に「ユング派用語解説」を付す。
『魂の言葉としての夢−ユング心理学の夢分析−』
(ハンス・ディークマン著、野村美紀子訳、紀伊国屋書店、1988年、2500円) ユングの理論によって、夢の象徴体系を解説する書。夢とは「魂の言葉」、つまり無意識から意識への訴えかけであり、意識に向かってその誤りや偏り、さらには進むべき方向をも教示していると説く。全体は10章からなり、いずれも歴史上の人物が見た夢を実例として豊富に引用している。
『夢と死−死の間際に見る夢の分析−』
(M−L・フォン・フランツ著、氏原寛訳、人文書院、1987年、2300円) おとぎ話・神話の研究家として日本でもよく知られている著者が、ユング心理学の観点から、夢と死の関係について論じた書。夢は死について何を語っているのか、また、死後の魂は存在するのか、などについて古今の具体的な夢を例に検証する。
『ヨブへの答え』
(ユング著、林道義訳、みすず書房、1988年、1854円) 旧約聖書から新約聖書に至るユダヤ−キリスト教の全歴史を貫く人間の心の変容を、意識と無意識とのダイナミックなせめぎあいを通して明らかにする。旧約聖書「ヨブ記」と1950年「マリア被昇天」の法王教書との関連性を指摘しながら、神の人間化と人間の神化の様相を説く。何故に善良なヨブが子供を殺され、財産を奪われ、不治の病に苦しむのか。しかもなぜ、神がヨブを試した結果としてそうなるのか……。
『ユング心理学の応用』
(林道義著、みすず書房、1988年、2000円) ユング心理学を基盤として、古今東西の諸現象・文物・伝説などの意味を解説する。「海幸彦・山幸彦の心理的構造」「鬼の元型心理学」「ムンクにおける母性と父性」などから成る。例えば、スサノヲ神話の分析では、人徳に惹かれて周りの方から帰順してくる日本型英雄像と武力によって周りを征服していく男性性・攻撃性の突出した西洋型英雄像が析出され、土偶の変化の分析では、善悪に分化する以前の豊饒性・生産性、心的リビドーの豊かさ、集団の生命力を象徴していた土偶が、やがて性交的、妊娠的、否定的な母性性へと変化しつつ消滅していったと説かれ、ムンクの絵の分析では、幼少期における母性の欠如や突然の喪失が、アニマ元型の母元型からのスムースな分離を妨げ、それが絵画に反映していると説く。
『夢と神話の世界−通過儀礼の深層心理学的解明−』
(J・ヘンダーソン著、河合隼雄ほか訳、新泉社、1985年、3200円) 夢と神話の関係を媒介として人間個々のイニシエーションの問題を論じた書。古代において聖なる世界へ参入するために重要視されていたイニシエーションは、現代社会では意味を失い消滅してしまったが、個人の無意識の中に生命を持ち続け、「無意識の言語」である夢の中で個人としてのイニシエーションを体験していることを、多くの事例によって説く。全9章。

5.夢、あるいは夢と現実を主題・題材とした文学作品・随想など

『夢十夜』
(夏目漱石著、岩波文庫、1986年、200円) 「こんな夢を見た」という書き出しで、第一夜から第十夜まで10の夢が語られる。夢の内容は、死んだ女が百年後に生き返ったとか、背中に負っていた盲目の我が子が、実は百年前に殺した盲人であったとか、不気味で悲しいものが多いが、実際に漱石が見た夢なのか、作品を構成するための全くの虚構なのか、それぞれの夢は何を意味しているのかなど、新たな漱石論を巻き起こした異色の小品である。
『はてしない物語』
(ミヒャエル・エンデ著、上田真而子・佐藤真理子訳、岩波書店、1982年、2800円) 人間の夢や希望によって支えられている空想の国ファンタージェンの危機を、夢見がちな劣等生バスチアンが、物語の呼び掛けに応じて救い、また、数々の苦難の末に現実の世界に復帰し、自ら人間的成長を遂げるという壮大なファンタジー。夢の世界を失いつつある現代人に、現実に根差した大きな夢、夢に支えられた豊かな現実、の重要性をさわやかに呼びかける。物語は、夢(空想世界)と現実とが錯綜しながら進行し、現実の部分は、赤い文字、夢の部分は青い文字で印刷されている。物語の結末で、夢と現実の境をさまようバスチアンの姿は、『荘子』斉物論篇の「胡蝶の夢」を連想させるが、ミヒャエル・エンデは、自らの人生に大きな影響を与えた25の著述を紹介し、その筆頭に『荘子』の「胡蝶の夢」を挙げている。また「ネバーエンディング・ストーリー」として映画化され、日本でも公開された。
『日本の名随筆14 夢』
(埴谷雄高編、作品社・日本の名随筆14、1984年、1200円) 夢を主題とした近現代の名随筆を収録したアンソロジー。森鴎外「夢」、井上ひさし「夢の逃げ足」、埴谷雄高「夢と人生」、佐多稲子「夢とうつつ」、芥川龍之介「夢」、萩原朔太郎「夢」、柳田國男「夢と文芸」、大岡信「夢のうたの系譜」、安部公房「睡眠誘導術」など37の随筆を掲げ、各執筆者の簡単な紹介を付す。
『夢探偵』
(筒井康隆編、光文社、1989年、1300円) 現代日本の小説と日記計17編による夢のアンソロジー。小泉八雲「夢飛行」、島尾敏雄「孤島夢」、石川淳「夢の殺人」、正木ひろし「夢日記」など。全作品の冒頭に、編者・筒井康隆が解説を付し、また、巻末に筆者紹介・収録作品出典一覧を付す。筒井は「宗教がくたばり果てた現代、それに取ってかわるものとして夢しかない」と夢の重要性を力説する。
『夢』
(友岡子郷編、蝸牛社・秀句350選22、1990年、1400円) 夢を題材とした近現代の俳句350 首を収録したもの。全体を「眠りの中の別世界」「目をくらますもの・幻」「ひろがる想念」「願い・望み・志」の4つに大別。松尾芭蕉「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」という著名な句から夏目漱石「菫程小さき人に生れたし」という意外な句まで多彩。全句に数行ずつの解説、巻末に編者のテーマ解説、掲出句・作者一覧、初句索引、作者索引を付す。
『夢の引用』
(武満徹著、岩波書店、1984年、1600円) 「私にとって、映画は、夢の引用であり、そして、夢と映画は相互に可逆的な関係にあり、映画によって夢はまたその領域を拡大しつづける」と考える著者の映画随想。全体は、「夢の時」「夢と死−恐怖映画」「映画の両義性」「夢判断」「夢への離脱」など10章からなり、巻末に、引用した映画作品(制作年度、監督名)の索引を付す。映画においては、現実と非現実が絶えることなく相互に再生・強化し合っており、それが私たち人間の生によく似ているという指摘は興味深い。
『夢』
(黒沢明著、岩波書店、1990年、2500円) 1990年5月に公開された黒沢明監督作品「夢」(配給ワーナー映画)の基となった著者自身のコンテとシナリオを編集した書。映画は8つの「夢」からなるオムニバス形式で、いずれも「こんな夢を見た」という字幕によって始まる。「人間は夢を見ている時、天才なのです。天才の様に大胆で勇敢なのです。……この脚本を映画化するためには、夢を見ている時の様に、大胆不敵な表現が不可欠です」と述べ、失われ行く自然へのノスタルジーを「夢」として幻想的に描き出す。
『夢の城』
(ミッシェル・ジュヴェ著、北浜邦夫訳、紀伊国屋書店、1997年、3400円) フランスの睡眠研究を主導し、「逆説睡眠」の発見でも著名な脳生理学者ミッシェル・ジュヴェの小説。18世紀のヨーロッパ、睡眠研究に携わる「私」がアンティークの家具の中から不思議な「夢日誌」を偶然に見つける。「夢見る脳」の謎にとりつかれた男の冒険は、やがて時を越え、現代の沖縄へと飛ぶ。全30章。著者の夢研究の成果(例えば、時間経過と夢の関係、動物の身体と夢の持続時間との関係など)が随所に盛り込まれており、小説と言うよりは、夢の評論という印象。原著は、18世紀の文体を使用しており、フランスでベストセラーになったという。なお、同著者の姉妹編に、『睡眠と夢』(紀伊国屋書店、1997年、2300円)がある。全9章からなるが、特に第7章「夢は何の役に立つのか」が興味深い。

6.中国の夢の研究

『夢的迷信与夢的探索』
(劉文英著、中国社会科学出版社、1989年) 中国初の本格的な夢の研究書。全体は、3部からなり、上編「中国古代的占夢迷信」では、中国古代の夢占いの実態について、下編「中国古代対夢的探索」では、夢の理論や分析について、全9章に亙って考察する。外編「現代世界夢説的進展」は弗洛伊徳(フロイト)を中心とする夢理論、および現代中国の夢の研究の紹介である。夢占いを「宗教・迷信」、夢についての理論を「科学」と捉えている点に特色がある。
『中国の夢判断』
(劉文英著、湯浅邦弘訳、東方書店、1997年、2600円) 上記『夢的迷信与夢的探索』の邦訳。原著の下編および外編を中心に訳出。原著の引用する漢文資料の誤記を修正するなど大量の補注を加え、さらに、訳者あとがきにおいて、中国における夢研究の現状を解説する。
『中国古代的夢書』
(劉文英著、中華書局、1990年) 中国古代の残存夢書を集めたもの。中国歴代の「夢書」「占夢書」「解夢書」等はほとんど散佚しているが、僅かに他文献中に引用される形で残存し、また、今世紀初頭、敦煌から出土した写本の中に「解夢書」「周公解夢書」なる夢書が含まれていた。本書は、そうした断片的資料をまとめて一書とした資料集である。序文に当たる「夢書概説」に続いて、「歴代夢書考証」、および「唐宋類書所見夢書佚文類編」「『占夢書』残巻」「『夢書』残巻」「『解夢書』残巻」「『周公解夢書』残巻」「『新集周公解夢書』完本」などの資料を掲げ、各々簡単な注を付す。付録として「歴代夢書著録存佚表」「敦煌夢書抄本参照表」。
『中医釈夢辨治』
(柴文挙ほか編、学苑出版社、1991年) 中国医学という観点から夢を考察した研究書。全体は3部からなり、上篇は、「中医釈夢的源流与発展」「夢的本質与特徴」「夢的形成原因与材料来源」「夢的作用」「夢的分類」「夢診」「釈夢的方法」など理論面の9章からなる総論、中篇は、「夢遊」「夢魔」「夢交」「夢尿」「夢飲食」「夢飛」など夢の具体的内容を観点とした11章からなる各論、下篇は、「部分夢象文献選録」「参考方剤」「常用治療夢疾的薬物」という付録的な3章からなる。巻末に「方剤索引」。
『中国夢文化』
(卓松盛著、三環出版社、1991年) 夢を一つの文化として捉えようとする総合的研究書。全7章からなる。1「夢学歴史簡述」は弗洛伊徳(フロイト)を中心とする世界の心理学的夢理論の紹介、2「夢文化的構想」は夢文化学の構想と本書の研究範囲・方法を提示、3「中国夢文化的故事母題」は中国の夢の文化の概況説明。以下4章はその内容を3つに分類しながら検討するもので、4「夢境的信仰・上」5「同・下」は、夢と魂魄との関係、占夢・解夢という信仰としての夢、6「理智的辨駁」は医家の夢論、思想家の夢観、夢の分類の歴史など、理知としての夢、7「調和与共存」は中国夢文化の深層構造と筆者が考える調和としての夢を取り上げ、全体の結論を述べる。付録として「道家説夢・釈家説夢」「対中国古代画夢形式的考察」「民間流伝之『古代周公解夢』与『孔明解夢』対照」「民間流伝之『周公解夢』対勘及評議」。中国の夢を、その基本的性格によって3分類する点、及び図解を多用する点に特色がある。
『夢・象・易:智慧之門』
(黎瑞剛著、浙江人民出版社、1992年) 夢・象・易を中国古代の智恵の門として紹介する書。「大夢先覚的中国智恵」「聖人之夢」「遊園驚夢」など随想風の8つの章からなる。全ての夢を古代人の智恵と位置付ける点に特色があるが、引用される資料は断片的で少ない。
『中国古代夢幻』
(呉康著、湖南文芸出版社、1992年) 中国古代の夢をその内容によって6つに分類しながら紹介する書。全体を「預言夢」「通神夢」「夢魂」「性夢幻」「地獄」「哲理夢」の6章に大別した上で更に各々4〜8の節に分けて夢の資料を掲げ解説する。既存文献からの孫引きも多く、研究書というよりは資料集的性格が強い。
『夢与生活』
(洪丕謨著、中国文聯出版公司、1993年) 中国古代の夢を「夢与人生」「夢与文学芸術」「夢的占断和謬誤」の3つの観点から解説する書。「夢与人生」では、夢因の分析と夢象の分類、『黄帝内経』など医書における夢、祈夢・禳夢などについて、「夢与文学芸術」では、夢と文学創作、詩歌と夢、夢と音楽絵画の創作、夢の典故などについて、「夢的占断和謬誤」では、占夢の歴史、夢の類別と占断、占夢術の誤謬について論ずる。平易な読み物となるよう図版を多数挿入している点に特色がある。
『中国夢文学史−先秦両漢部分』
(傅正谷著、光明日報出版社、1993年) 夢を主題とした中国文学史の研究書。本書「先秦両漢部分」は、第1編「総論」で文学創作における夢の重要性を論じた後、第2篇「史論」で先秦から後漢に至る諸文献中の夢を考察する。まず先秦時代を「中国夢文学的萌芽与奠基時期」と位置付けて、詩歌(『詩経』)、辞賦(『楚辞』)、諸子散文(孔子・荘子等)、歴史散文(『左伝』『国語』)を取り上げ、次に漢代を「中国夢文学発展的重要時期」と位置付けて、賦、史伝文学(『史記』『漢書』)、詩歌、政治家・思想家の夢説、を取り上げ、また夢理論家(王充・王符)の誕生、仏教・道教と夢との関係などについて論ずる。

トップ | 研究室 | 授業 | 学会 | 懐徳堂 | 古典のことば | 電子テキスト | 研究情報 | 蔵書 | リンク | ご意見 | サイトナビ