戦国楚簡研究会

中国古代思想史の再検討  戦国楚簡研究会

書誌情報用語解説

書誌情報用語解説 戦国楚簡研究会

以下の用語解説については、著者ならびに発行元の了解を得て、
『新出土資料と中国思想史』(『中国研究集刊』別冊、2003年)から転載しています。

簡牘資料の書誌については、伝世の文献資料に見える簡牘制度を中心に考察した王国維「簡牘検署考」(『王観堂先生全集』冊六、文華出版公司)が先駆的業績として知られる。また、実物の出土簡牘にもとづきその形制を論じた研究としては、陳夢家「由実物所見漢代簡冊制度」(『武威漢簡』文物出版社、一九六四年、『漢簡綴述』中華書局、一九八○年再収)が重要である。しかし、陳夢家氏の分析は甘粛省武威県の後漢墓から出土した『儀礼』簡が中心であるため、戦国期の楚簡などには適用し難い面が見られ、その後に出土した簡牘資料によって新たに加わった知見も少なくない。これらの書誌的な用語については、必ずしも十分な整理・検討が加えられるに至っておらず、研究者によって言い方が異なったり、同じ研究者でも後に変更した例もみられる。戦国楚簡の大量出土という現状に対応するためには、簡牘資料に関わる書誌的用語の統一を図ることは学界の急務と言えよう。
 ここでは取り敢えず各項の「書誌情報」に見える用語の一部について、若干の解説を加えることとした。

(1)簡長…簡の長さ。

(2)簡端…簡の先端と末端。

  1. 平斉…簡の両端が角をもった方形状になったもの[図1]。
  2. 梯形…簡の両端が角を落とした台形状になったもの[図2]。
  3. 円端…簡の両端が丸い円形状になったもの[図3]。

(3)編綫…竹簡を綴じる紐。

  1. 両道…竹簡を上・下二本の紐で綴じたもの。両道編ともいう。
  2. 三道…竹簡を上・中・下三本の紐で綴じたもの。三道編ともいう。

(4)編距…上・下または上・中・下の綴じ紐の間の距離。

(5)冊書…竹簡を紐で綴じて書物の形にしたもの。

※竹簡が冊書の形で出土する例はきわめて稀であり、ほとんどは、長い年月の間に綴じ紐が朽ちてバラバラもしくは泥塊状態で出土する。ただし、簡には多くの場合綴じ紐の痕跡が残っており、それによって何箇所で綴じられていたかが判明する。

(6)完簡…缺損が無く完全な簡。

(7)満写簡…上端もしくは上端に近い部分から下端もしくは下端に近い部分まで文字が筆写されている簡。

(8)留白簡…上端部と下端部、もしくはその一方に文字が筆写されていない一定の空白をもつ簡。白簡ともいう。篇や章の末尾にあたる簡については、篇末または章末の文字の後をそのまま空白にする例が多く見られる。上下に空白をもつものに『孔子詩論』がある。上部のみを空白にする例は現時点では確認されていない。

(9)標号…簡に記された記号。

  1. 墨釘…方形状の墨点。小方点ともいう。句読点や章・篇の末尾を表す[図4]。
  2. 墨鉤…釣り針のようなかぎ状の記号。句読点や章・篇の末尾を表す[図5]。
  3. 墨節…横に引かれた墨線。篇・章の末尾を表す[図6]。
  4. 重文号…同一字を重ねる記号。踊り字。多くの場合「〓」で表示される[図7]。
  5. 合文号…合文を示す記号。合文とは、表記法の一形式として、あるいは書記労力の軽減のために、異なる二字(例外的に三字の場合もある)の漢字を一字に合して表記したもの。その結果、一字一音節という漢字の特性に反し、一字が二つの音節をもつという特殊な状況を示す。合文で表記される二字には、点画の一部や偏旁が他の一字と共有関係にあるものが多く、これが合文で表記される条件の一つとなっている。例えば、上博楚簡に散見される「孔子」を表す「孔〓」[図8]の場合は「孔」字の左側と「子」とが共有されている。したがって、一時期論争となった「卜子」と釈読する説は、合文の成立条件である点画・偏旁の共有という点からも首肯し難いのである。合文は多くの場合、重文と同じ「〓」で表示され、合文か重文かは文脈によって判別したものと考えられる。