『国語語彙史の研究』発刊に際して



戦後、国語史の研究は各分野にわたって著しく進んできた。次々と新しい文献・資料の紹介も行われ、それらについての研究も数多く発表されている。しかし、国語語彙史の研究は、音韻史や文法史の研究に比して、やや立ち遅れているように思われる。もっとも国語語彙史にかかわる研究論文の数は必ずしも少ないわけではない。ただそれらを国語語彙史としてどのように体系的にまとめてゆくかということになると、なお考えるべき点が多いように思われるのである。
そのような状況の中で最近になっていくらか様相が変わってきた。国語語彙史としてまとめることを目標としているような著書・論文も出てきている。国語語彙史の研究は、新たな進展の時を迎えているといえよう。そこで、私ども国語語彙史の研究に関心を持つ者が集まって、昭和五十四年春、国語語彙史研究会を始めることにした。幸い、心ある方々の力添えをいただき、ささやかながら関西を中心として研究会を開いてきた。そしてそのような研究活動の中で、論文集を出そうという気運がもりあがってきた。研究会に参加しているものを中心に、各地の国語語彙史の研究に関心を持っておられる方々の参加をえて、ここに『国語語彙史の研究』の発刊を見るに至ったのである。
国語語彙史の研究自体が、会則などのない(注)、開かれた、自由な会である。参加している人の考え方も、国語語彙史に関心を持っているということは共通としても、様々である。本論文集も研究会と同様に、いろいろな考え方のいろいろな分野の研究の発表の場となることを期待している。研究会ともども時には厳しく、時には暖かく見守っていただきたいと念願する。

昭和五十五年三月  
国語語彙史研究会幹事
根 来   司
前 田 富 祺
山 内 洋一郎

(注)その後、一九九六年一一月三〇日に会則を、一九九八年一二月に投稿・編集規程を制定するに至った。