◇「ことばの研究会自己紹介 国語語彙史研究会」

(「日本語学」第十三巻第十二号十一月号[平成六年十一月十日発行 明治書院])

昭和五十年代の初めごろ、根来司氏と話していて、語彙史の研究は音韻史や文法史に比して遅れているのではないかという話になった。そこで、根来司、山内洋一郎、前田富祺の三人が幹事となり、国語語彙史の研究の進展を図るために、会則なども定めず開かれた会として始めたのが国語語彙史研究会である。
第一回の研究発表会は、昭和五十四年四月二十一日に神戸大学教育学部で行われた。米川明彦、前田富祺の二つの研究発表があり、出席者は二十名弱であった。以後、年に三回、四月、九月、十二月の適当な土曜日の午後に、神戸、大阪、京都、奈良で研究会を行ってきた。出席者、発表者も次第に広がり、関西を中心にしながら全国にわたっている。会の案内を求められた方、これまでの会に出席された方を中心に会の案内をしており、最近は八十名ほどの方が出席している。研究発表は最近は三名の場合が多く、質疑の時間も入れた一人一時間ほどを配分しており、あまり時間の制約をせずに、ゆっくり発表して頂き自由な討議をして頂くよう心懸けている。なお、会の後に簡単な懇親会を開くことも恒例となっている。
本年の研究会は、
 〈第四十六回〉
 平成六年四月二十三日(土)午後一時半〜五時 松蔭女子学院大学において
 1 〈禿頭〉の語史と方言分布   フェリス女学院大学助教授  安部清哉
    —上方出自語同士が江戸語・上方語の対立をなすまで—
                  
 2 おほ−(大・多)の系譜        奈良教育大学教授 山内洋一郎
 3 後撰集詞書の敬語         松蔭女子学院大学教授  辻田昌三
 〈第四十七回〉
 平成六年九月十七日(土)午後一時半〜五時 龍谷大学文学部において
 1 『心』語彙と王朝文学          龍谷大学大学院   趙慧玲
 2 『なかなか』の語誌        武庫川女子大学大学院  福井淳子
    —江戸後期から明治期を中心に—      
 3 『今夜』考            同志社女子大学助教授  小林賢章
の二回がすでに行われている。第四十八回の国語語彙史研究会は、十二月十日(土)に大手前女子大学で行う予定である。
研究会を行うとともに、論文集を出そうということになった。昭和五十五年五月に『国語語彙史の研究』第一集を刊行し、以後、年に一冊ずつの刊行を続けている。第十四集は幹事の一人の根来司教授の逝去の追悼号として刊行された。その内容は、
「さわらびの歌 —野草語彙の文学性と実態と—」       山内洋一郎
「中古和歌の名詞語彙」                   伊牟田経久
「平安勅撰和歌集の語彙 —マクロとミクロの観点から—」    木村雅則
「後撰集詞書の場合 —仮名文生成の一段階として—」      辻田昌三
「蜻蛉日記の『かなし』の消長」                沢田正子
「『源氏物語』のあはれ詞考 —哀・憐の文字史からみた—」   藍美喜子
「『あひみる』考 —源氏物語を中心に—」           中川正美
「『とばかり(暫時)』考」                   坂詰力治
「古代語『いと』の行方 —中世における程度表現—」      信太知子
「平安女流語のその後 —擬態語をめぐって—」         松井利彦
「カ・ク・グ」                        蜂矢真郷
「両活用形容詞からシク活用形容詞へ」            村田菜穂子
「〈体言ナリ〉と〈連体ナリ〉の差異について」         高山善行
「『遊』(あそび・あそぶ)の意味とその展開 —仙郷の表現と異世界の表現—」
                              吉田比呂子
「甦える古語 —“あえか”の場合—」             前田富祺
「朝鮮資料の成長性 —捷解新語における陳述副詞の呼応をめぐって—」
                              福田嘉一郎
「語彙史の立場から見た『拾遺和歌集』 —使用語句の性格を統計的に見る—」
                               西端幸雄
            (和泉書院 平成六年八月三十日発行 九二七〇円)
のようになっている。第十五集は辞書の論考を中心として、現在編集中である。



国語語彙史研究会の研究業績、『国語語彙史の研究』刊行に対し、昭和五十七年に第一回新村出賞が与えられた。国語語彙史の研究は近年ますます盛んになってきているが、本研究会はその中で先導的な役割を果してきたものと考えられる。国語語彙史の研究の方法については様々な考え方がある。先に記した発表の題や『国語語彙史の研究』第十四集の目次を見ても分るように、本研究会は一定の立場で研究を進めようとしているのではない。語史の研究を中心とするもの、語彙体系を考えるもの、文学作品の語彙や方言の語彙を対象とするものなど、様々な語彙研究に発表の場を提供し、それぞれの考え方を尊重するとともに、自由に意見を出し合って、お互いを高め合ってゆこうとしているのである。
〈事務局〉


〒560 豊中市待兼山町一−五 大阪大学文学部前田研究室内
国語語彙史研究会(代表 前田富祺)
電話06-850-5110

(前田富祺 大阪大学教授)