さいごに、私たちはどのようにして古墳の造られた時期を調べるのかについてお話ししておきましょう。 考古学者は、古墳に納められていた鏡、腕飾り、武器などの形の移り変わりによって、かなりくわしい時期を知ることができます。しかし、長尾山古墳は埋葬施設のことがまったくわかっていません。このような場合、考古学では、年代を測る物差しとして、土器や埴輪を用います。なぜなら粘土で作るそれらは、人の思うままに形を作ることができ、そして大量に必要とされ、また壊れやすいので何度も何度も新しいものを作ること、そのために細かい時間の単位で形が微妙に変わっていくからです。			古墳の副葬品(鏡・腕飾り・よろい）
形象埴輪 （「踊る埴輪」は実は踊っているのではなく、 馬を曳く人の埴輪です）			埴輪の中で皆さんになじみのあるものは、馬のかたちをしたものや「踊る埴輪」かもしれませんね。一つ一つが芸術作品のようなこれらの埴輪は、個性豊かすぎて細かな年代の物差しには向きません。これらは埴輪の分類の中では「形象埴輪」と呼ばれます。
一方、年代の物差しに適しているのは、「円筒埴輪」と呼ばれる、土管のようなかたちをした埴輪です。右の写真のように古墳の墳丘の上に立てて並べ、埋葬施設という聖域を区画したり、墳丘を飾る役割があります。円筒埴輪は、土器のような日常品ではありませんが、このようにひとつの古墳において大量に必要とされます。そして古墳時代前期から後期の半ばぐらいまで、日本中のどの地域でも立て並べられています。そうしたことから埴輪は、古墳時代の細かい時間の単位を測ることができるものと考えられているのです。			兵庫県五色塚古墳の円筒埴輪と 明石大橋と淡路島
もちろん全国全て同じ物差しで測れるわけではありません。地域ごとの違いも考慮する必要があります。また、猪名川流域の前期から中期への埴輪の変化についてはわかっていないこともあります。 2007年度の発掘調査では、埴輪片が出土し、その作り方の細かい特徴から長尾山古墳が古墳時代前期(4世紀)に築造されたことがわかりました。しかし、まだ全体の形がわかる埴輪は見つかっていません。今年度の調査では、さらに多くの破片をみつけて長尾山古墳の埴輪の特徴をはっきりさせたいと考えています
《挿図出典》 丸山潔編2006『史跡　五色塚古墳　小壺古墳』神戸市教育委員会