アート・メディア論コース

本コースには大きく言ってふたつの柱があります。ひとつめの柱は、映像・空間メディア・サイバーメディア等これまで人文学や芸術学の分野では十分に扱われてこなかった領域、新しく形成され社会的重要度を高めつつある領域の研究拠点を形成し、現代アート・メディアの諸問題を専門的かつ実践的な視点から教育していくことです。ここでは既存の芸術論の枠を超え、社会的現実により密着したメディア・リテラシー等の理論学習をおし進める一方、コンピュータによるメディア処理能力を高めるための実習をも合わせて行うことが主要な目的となります。ふたつめの柱は、文化政策もしくは芸術計画に関する多角的研究です。つまり絵画・演劇・映画・文学テクストといった芸術作品を自律したものとしてとらえるのではなく、アート・メディア全般の製作および受容の具体的プロセスに着目することによって、その文化的・社会的な機能の解明をめざすわけです。ここでは作品の分析や解釈以上に、作品を刊行・公開・上演するさいの政策(ポリシー)とシステム、およびそれらを介した作品と受容者との力動的な関係が問題の中心に据えられます。

前者が多岐にわたるアート・メディアのいわば「中身」を扱うのに対して、後者は作品そのものではなく作品の「外側」あるいはそれが位置すべき「環境」を問題にすると言ってよいかもしれません。ただし本コースに所属する学生諸君はどちらか一方を専攻すると言うより、むしろ2本の柱をともども自らの支えとすることで、最終的には芸術的実践をモデルにした人間と社会との連携を各人なりに模索し構想する水準にまで到達する(少なくとも到達すべく努力する)ことが求められるでしょう。

以上の理念に基づき、本コースはアート・メディアに関する深い理解と幅広い知識(既存の学問的ディシプリンを含む)を身につけ、専門性と実践的能力を生かしつつ社会で活躍できる人材の育成をめざします。

教員紹介

教授 藤村昌昭

ふじむら まさあき
1947年生。京都大学大学院修士課程イタリア語学・文学専攻修了。文学修士(京都大学、1975)。大阪外国語大学助教、同講師、同准教授、同教授を経て、2007年10月より大阪大学大学院文学研究科教授。
専攻:イタリア言語文化史/記号論
研究紹介
言語文化史を自らの専攻と定め、ラテン語からイタリア語への変遷過程における「言語」と「文化」の双方向的作用を「伝統vs革新」の観点から研究してきましたが、ボローニャ大学のウンベルト・エーコと出会ってからは、記号論的「こだわり」の世界へ無理やり引きずり込まれたような気がします。故ロラン・バルトの無二の親友、トリノ大学では「美学」を専攻、自らクラリネットを演奏して音楽にも造詣が深く、来日したときはパチンコに強い関心を示した「怪人百面相」。少しでも近づけたらと、死に物狂いの振りをして「ことば」と戯れています。
メッセージ
「美」を享受するための観察眼には「巨視・微視」の複眼的焦点が必須条件です。「芸術」という額縁に閉じ込められた作品だけではなく、時にはゴミ箱に捨てられたチラシやトイレの落書のような「無用」にも眼を向ける「好奇心」と「遊び心」を携え、新しい「美的感覚」を一緒に模索してみませんか。頭が固くなったときには「駄洒落大会」なども開催したいですね。絶えざる変化の中で、独創的で実践的な「アート」を送受信するための道場のような雰囲気を少しでも用意できればと願っています。
主要業績
『イタリア・ルネサンス文化―知の饗宴―』(共著、紀伊國屋書店、1988);「古き言の葉から新しい言葉へ―伝達過程における表現と意味のズレ―」(『池田廉教授停年退官記念論文集』、1993);「Opacitaの不透明性について」(『イタリア学会誌』第52号、2002);「ドレミの誕生―“GAMMUT”と“SOLFA”に隠された鍵―」(AULA NUOVA Ⅳ、 2002);「子規〈ホトトギス〉考―失われた記憶表象の場を求めて―」(EX ORIENTE Vol.12、2005)
概説・一般書
ウンベルト・エーコ『フーコーの振り子』(文藝春秋、1993);同『前日島』(文藝春秋、1999);『デイリー日伊英・伊日英辞典』(監修、三省堂、2003);『気軽に学ぶイタリア語』(NHK出版、2004);『デイリー日伊英3か国語会話辞典』(監修、三省堂、2007)

教授 市川明

いちかわ あきら
1948年生。大阪外国語大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1976年、大阪外国語大学外国語学研究科修士課程ドイツ語学専攻修了。文学修士。近畿大学教養部助教、同講師、同准教授、大阪外国語大学准教授、同教授を経て、2007年10月より大阪大学大学院文学研究科教授。
専攻:ドイツ文学/ドイツ演劇
研究紹介
ブレヒトとハイナー・ミュラーを中心にドイツ現代演劇を研究してきました。最近では「ブレヒトと笑い」「ブレヒトと音楽」といったテーマでドイツの研究者と共同研究を進めています。演劇作品を上演との関わりのなかで動態的に研究する重要性を感じています。送り手(作者)と受け手(観客)の間に演出家や俳優が存在することによって戯曲は変容していきます。こうした拡散・ズレを総合的に考察することで、テクストの静態的・内在的解釈に厚みと変化をもたらすことが研究の力点です。そこから戯曲(ドラマ)と演劇(シアター)の相克も見えてくるはずです。日本演劇学会や阪神ドイツ文学会の役員を務める傍ら、演劇創造集団ブレヒト・ケラーの代表や国際演劇評論家協会の関西支部長として、翻訳・上演や演劇雑誌の編集にも携わっています。演劇の理論と実践を結ぶ、そんな研究をこれからも続けていきたいと思っています。
メッセージ
演劇作品は上演・パフォーマンスにより、音楽や美術など様々な芸術を束ねながら拡散・増殖し、静態的な文学テクストに回帰していきます。演劇創造の現場に入って、演劇を動かしてみませんか。大学の演習だけでなく、演劇実習(演技実習でも観劇実習でもない)にも参加して理論面から上演をサポートしてください。劇場の制作者や劇団の創造者、新聞社や出版社の文化担当者など、演劇の魅力を伝える人を養成したいと思っています。
主要業績
Brecht-Handbuch Bd. 2, Gedichte(共同執筆,Verlag Metzler,2001);『ドイツの笑い・日本の笑い―東西の舞台を比較する―』(共著、松本工房、 2003);”Befremdendes Lachen”(共著、IUDICIUM Verlag、2005);『世紀を超えるブレヒト』(編著、郁文堂、2005);『抒情詩への回帰――歌としてのブレヒト詩』(編著、花伝社、2007);『ブレヒト 音楽と舞台』(編著、花伝社、2009);『ブレヒト テクストと音楽―上演台本集』(翻訳、花伝社、2009)
概説・一般書
『ゲルマーニア ベルリンの死――ハイナー・ミュラー戯曲集』(共訳,早稲田大学出版部,1991);「ブレヒトからミュラーへ」(『世界地域学への招待』嵯峨野書院,1998);ギュンター・グラス『はてしなき荒野』(共訳,大月書店,1999);フォルカー・ブラウン『本当の望み』(共訳,三修社,2002);『ドイツ語ステップアップ』(共著,郁文堂,2006);「エルンスト・バルラハの演劇作品」(『エルンスト・バルラハ』,朝日新聞社,2006)

教授 永田靖

ながた やすし
1957年生。上智大学外国語学部ロシア語学科卒業。明治大学大学院文学研究科演劇学専攻博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員、明治大学人文科学研究所客員研究員、鳥取女子短期大学日本文化学科准教授を経て、1996年より現職。
専攻:演劇学
研究紹介
演劇はいつの時代にもどの国にもあります。それらは芸術としてばかりではなく、社会的な営みとしての意味や機能を持っているものも少なくありません。演劇的な出来事は、芸術としての演劇以外にも政治や経済、スポーツなど様々な領域でも営まれています。また同時に、個人の演劇的な身振りや振舞い、また態度は、私たちの日常生活や社会生活の中にも満ちています。ここでの私の研究はそんな芸術的領域と芸術外的領域にまたがって存在する演劇的事象を理論的に実践的に検討することです。そのことで演劇という芸術が広い裾野と多義性を持つものであることを理解したいと思います。
メッセージ
演劇と演劇の「環境」の研究は、個別の演劇作品ばかりではなく、その社会や共同体が演劇をどのように考えているかを理解することが前提になります。広い演劇的素養と演劇外的知識欲の旺盛な人を歓迎します。
主要業績
『20世紀演劇の誕生と演劇史学の研究』(科学研究費基盤研究報告書、2005);『近代演技論の実践と分析理論の研究』(科学研究費基盤研究報告書、2003);『アヴァンギャルドの世紀』(共著、京都大学学術出版会、2001);『日本の芸術論』(共著、ミネルヴァ書房、2000);『ヨーロッパ演劇の変貌』(共著、白鳳社、1994)
概説・一般書
『ポストモダン文化のパフォーマンス』(共訳、国文社、1989);『アンドレイ・タルコフスキー』(国文社、1994);『現代思想を読む辞典』(共著、講談社、1991);『20世紀の戯曲』(共著、2005)

教授 圀府寺司

こうでら つかさ
1957年生。大阪大学文学部西洋美術史専攻修了、アムステルダム大学Doctor der Letteren (文学博士、1988)。広島大学総合科学部准教授、大阪大学准教授を経て、2001年より現職。
専攻:西洋美術史/メディア論
研究紹介
西洋美術史においては「近代美術史とユダヤ」「中東欧の芸術」など、従来のナショナリズム的美術史に枠におさまらない越境的領域を研究する一方、美術館、批評、美術史学、美術マーケット、伝記映画など、「美術作品」や「美的体験」を支える制度、言説、メディアを主な研究対象とする。
メッセージ
社会主義の後退とサイバースペースの出現は、21世紀型の新しい研究と実践スタイルを要求しつつあります。従来の芸術諸学の枠組みに収まりきらない領域に関心を持つ人たち、従来の研究者の枠におさまらない生き方を求める人たちとともに、新しいコース、新しいスタイルを創っていきたいと考えています。サイバーメディア論、アニメ、ゲーム、アート・マネージメント、芸術の経済学、オタク、ロスジェネ論など、新しい分野に関心のある人、従来の人文学の核にあった「読書と著作」にとらわれない研究スタイルと発信メディアを探索する人のための場を作っていきたいと考えています。
主要業績
Vincent van Gogh: Christianity versus Nature (John Benjamins、1990) ;The Mythology of Vincent van Gogh (TV Asahi、John Benjamins、1993);「アムステルダム国立美術館 (Rijksmuseum) その成立の背景と象徴的意味」(『比較文化研究』12、1989);『西洋美術研究』第4号「特集 美術史とユダヤ」(2000);「展覧会と展示」『西洋美術研究』10(2004);「ファン・ゴッホ 孤高の画家の〈現〉風景 グローバル・メガ・マーケット時代のお色直し」『美術手帖』(2005);『アヴァンギャルド宣言 中東欧のモダニズム』(共編著、三元社、2005);『ファン・ゴッホ 自然と宗教の闘争』(小学館、2009)

准教授 三宅祥雄

みやけ よしお
1951年生。岡山大学法文学部哲学科卒業、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。文学修士(大阪大学、1977)。大阪外国語大学外国語学部講師、同准教授を経て、2007年10月より大阪大学大学院文学研究科准教授。
専攻:現代フランス哲学/映像論
研究紹介
学生時代から飽きもせずサルトル、バルト、ドゥルーズのテクストを読み続けています。この三人に共通するのはいずれも映像 (image) に関して重要かつ基盤的な仕事を残していること。修論に選んだサルトルの想像力論をたずさえ勇んで旅に出たものの、バルトの写真論でみごとに哲学の正道を踏みはずし、あちこちさまよったあげくドゥルーズの『シネマ』という巨大な森の入口にたどり着いたのがほぼ10年前のことでした。以後うす暗い木漏れ日の下で古参の固有名たち(バザン、ミトリ、メッツ)と戯れながら、研究も大学の授業も映画理論・映画美学に偏りがちです。分析哲学や精神分析など人並みの好奇心が疼かないわけではないのですが、S-B-Dによる三点測量の習慣は変えようのない体質としてわが身に固着してしまったかのごとくです。
メッセージ
年間500本をこなすと豪語したかつてのシネフィルやシネマディクトの存在は、このご時勢ではもはや望むべくもない(というより社会的に許容されない)お荷物なのでしょうか。それでも冗談半分に映画検定を受験したり、ジョン・カーペンターのお宝ヴィデオをこっそり収集している絶滅寸前の映画オタクが今なお生息しているとすれば、これを手篤く保護し種の存続をうながすベく尽力することにやぶさかではありません。映画を学問として極めるなどと大仰に構える前に、映画という密室の快楽をとりあえずの社会的実践や職業訓練に向けて開いていく工夫を学生諸君とともに重ねていきたいと思います。
主要業績
「〈心的なもの〉の疎外構造――初期サルトルにおける心理学批判の射程」『カルテシアーナ』第2号(1979);「『意味の論理学』注解(一)」etudes francaises no. 30(1997);「『意味の論理学』注解(二-a)」etudes francaises no. 31(1998);「表層の映像――ロラン・バルトは暗い部屋をいかに改装したか」EX ORIENTE vol. 12(2005)
概説・一般書
『現代思想のトポロジー』(共著、法律文化社、1991);『哲学基本事典』(共著、富士書店、1992);ロベルト・ザッペーリ『妊娠した男』(共訳、青山社、1995);『ラルース哲学事典』(共訳、弘文堂、1998)

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