音楽学・演劇学(芸術学講座)

音楽学も演劇学もともに我が国の総合大学の中に位置づけられているという点で数少ない存在である。ともに音楽文化、演劇文化全般を広く扱い、いわゆる「クラシック」音楽や民族音楽から日本古典音楽、ポップ・ミュージックまで、また西欧演劇や日本古典演劇からミュージカルやバレエまで、それらを広く表演芸術(パフォーミング・アーツ)としてとらえて、音楽史演劇史的にはもちろん、人類学や社会学また美学や文学などの隣接諸科学との関係の中で研究を進めています。ここには多くの大学院生が所属しており、それぞれの専門領域の研究に熱心に取り組んでいます。専門領域や知的背景を異にする多くの院生たちは、日々の講義や演習を通して互いに刺激しあい、学会での口頭発表や論文執筆をする一方で、それぞれにコンサートや演劇上演など実際に関わる機会も少なくなく、研究の社会的広がりを常に念頭において活動しています。

写真:尼崎ピッコロシアターにおいて舞台機構見学

教員紹介

教授 永田靖

ながた やすし
1957年生。1981年上智大学外国語学部ロシア語学科年卒業,1988年明治大学大学院文学研究科演劇学専攻博士課程単位取得退学。文学修士。日本学術振興会特別研究員、明治大学人文科学研究所客員研究員、鳥取女子短期大学助教授を経て、1996年から現職。
専攻:演劇学
研究紹介
現代の演劇理論を土台にして、20世紀におけるモダン・シアターの展開過程を歴史的理論的に究明しています。とりわけ、ヨーロッパの近代演劇とロシア、日本との間の演劇的な接触現象に興味があり、現在は、ロシアのモダニズム演劇におけるアジア的様態とロシアにおける朝鮮系演劇の活動とその作品などを対象に研究しています。他方、パフォーマンス・スタディーズとドラマ研究の統合にも関心があり、演劇理論の現代的展開にも強い関心をもっています。
メッセージ
世界中の演劇の遺産は多大なものがありますが、残念ながらそれらを鑑賞することは、例えば絵画や文学のようにはできないのが、演劇研究の面白いところです。現在上演されている演劇も、上演が終われば基本的には過去のものになってしまいます。そんな過去の中にしかない演劇という把え難い芸術に、研究を通して未来の人間の姿を読み取ることは、知的な興奮を覚えることだと思います。
主要業績
『ヨーロッパ演劇の変貌―ゲオルグII世からストレーレルへ』(共著; 山内登美雄編 明治大学人文科学研究所叢書 白凰社 平成 6 年 8 月);『演劇論の現在』(共著; 西洋比較演劇研究会編 白凰社 平成11年 5月);『アヴァンギャルドの世紀』(共著; 宇佐美斉編 京都大学人文科学研究所研究報告 京都大学学術出版会 平成 13 年 12 月); Theatre and Democracy, coauthor, Rawat Pub. 2008;『日本の芸術論』(共著、ミネルヴァ書房、平成12年4月);『20世紀の戯曲Ⅲ』(共著、社会評論社、平成17年6月)
概説・一般書
(翻訳) 『アンドレイ・タルコフスキー:映像の探究』P・グリーン著 国文社 平成6年12月; (共訳)『セルゲイ・パラジャーノフ』国文社 平成10年8月 その他。

教授 市川明

いちかわ あきら
1948年生。大阪外国語大学外国語学部ドイツ語学科卒業。1976年、大阪外国語大学外国語学研究科修士課程ドイツ語学専攻修了。文学修士。近畿大学教養部助手、同講師、同助教授、大阪外国語大学助教授、同教授を経て、2007年10月より現職。
専攻:ドイツ文学/ドイツ演劇
研究紹介
ブレヒトとハイナー・ミュラーを中心にドイツ現代演劇を研究してきました。最近では「ブレヒトと笑い」「ブレヒトと音楽」といったテーマでドイツの研究者と共同研究を進めています。送り手(作者)と受け手(観客)の間に演出家や俳優が存在することによって戯曲は変容していきます。演劇作品を上演との関わりのなかで考察することで、テクストの静態的・内在的解釈に厚みと変化をもたらすことが研究の力点です。そこから戯曲(ドラマ)と演劇(シアター)の相克も見えてくるはずです。
メッセージ
演劇作品は上演・パフォーマンスにより、音楽や美術など様々な芸術を束ねながら増殖し、静態的な文学テクストに回帰していきます。演劇創造の現場に入って、演劇を動かしてみませんか。大学の演習だけでなく、演劇実習(演技実習でも観劇実習でもない)にも参加して理論面から上演をサポートしてください。劇場の制作者や劇団のドラマトゥルク、新聞社や出版社の文化担当者など、演劇の魅力を伝える人を養成したいと思っています。
主要業績
Brecht-Handbuch Bd. 2, Gedichte(共同執筆,Verlag Metzler,2001);『ドイツの笑い・日本の笑い―東西の舞台を比較する―』(共著、松本工房、 2003);”Befremdendes Lachen”(共著、IUDICIUM Verlag、2005);『世紀を超えるブレヒト』(編著、郁文堂、2005);『抒情詩への回帰――歌としてのブレヒト詩』(編著、花伝社、2007)
概説・一般書
Brecht-Handbuch Bd. 2, Gedichte(共同執筆,Verlag Metzler, 2001);『ドイツの笑い・日本の笑い―東西の舞台を比較する―』 (共著、松本工房、2003);”Befremdendes Lachen”(共著、IUDICIUM Verlag、2005);『世紀を超えるブレヒト』(編著、郁文堂、2005);『ブレヒト 詩とソング』『ブレヒト 音楽と舞台』 (編著、花伝社、2008、2009);『ブレヒトテクストと音楽―上演台本集』(翻訳、花伝社、2009)

教授 伊東信宏

いとう のぶひろ
1960年、京都市生まれ。大阪大学文学部美学科(音楽学)卒業。同大学院修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、リスト音楽院(ハンガリー)客員研究員などを経て、1993年、大阪教育大学助教授。2004年、大阪大学助教授(後、准教授)、2010年4月より現職。
研究紹介
(1)20世紀ハンガリーの作曲家、バルトークの民俗音楽調査、研究について(下記業績の新書『バルトーク』など)。そして、そのような民俗旋律を素材とした編曲の研究(博士論文)。(2)中東欧の村の楽師の音楽に関する研究。こちらは、だんだん南下し、今はブルガリアの大衆音楽にハマっています(下記『中東欧音楽の回路』など)。 (3)東欧から見たハイドン(下記『ハイドンのエステルハージ・ソナタを読む』)。そこから派生した鍵盤楽器の歴史などについても関心あり。 (4)計画中の研究は、東欧からみたリゲティ。
メッセージ
「音楽学」というのは、とても魅力的で、同時に非常に要求の多い学問です。対象とする文化の言葉を学ばねばならないのは当然ですが、それ以外にその文化の音楽実践を習得せねばなりませんし(楽器を演奏するとか、特殊な発声で歌うとか)、その記譜法や、その対象にふさわしい分析のやり方にも通暁せねばなりません。音楽学は、そういう苦労をしてでも取り組んでみる価値と魅力を持っている、と信じています。阪大の音楽学研究室は、そういう音楽学を本格的に専攻できる数少ない場の一つです。
主要業績
著書『バルトーク』(中公新書、1997年、吉田秀和賞受賞)。著書 『ハイドンのエステルハージ・ソナタを読む』(春秋社、2003年)。 著書『中東欧音楽の回路:ロマ・クレズマー・20世紀の前衛』(岩 波書店、2009年、サントリー学芸賞、木村重信民族藝術学会賞受賞)。 「バルトークによる民俗音楽調査・研究・編曲」(博士学位請求論文、2009年 )。 論文 "Az utolsó hiányizó láncszemek: Bartók, Negyvennégy duó, 8. Sz. - a ”Tót nóta” eredeti népzenei forrása”, in Parlando 50(2008)/6, pp. 7-10.など。

准教授 輪島裕介

わじま ゆうすけ
1974年生。東京大学大学院人文社会系研究科(美学芸術学)博士課程単位修得退学。修士(文学)。日本学術振興会特別研究員、国立音楽大学ほか非常勤講師を経て、2011年4月より現職。
研究紹介
民族音楽学・ポピュラー音楽研究。特に非西洋地域の大衆音楽について。現在の主要な関心はレコード産業成立以降の近代日本の音楽で、昨年「演歌」ジャンルの形成についての著書を刊行しました。元々はブラジル北東部のアフロ系音楽について、ローカル/グローバルの相関という観点から研究してきました。最近は、現代日本のポップ・カルチャーの海外での受容や、ヨーロッパ・南米・アフリカ(場合によってはアジア)を結んで近年形成されつつある「ポルトガル語圏」音楽にも興味を持っています。
メッセージ
大衆音楽は、それぞれの地域・時代の社会構造やメディア編制や文化的価値体系のなかで、常に揺れ動いています。こうした「ナマモノ」を扱うには、相応の道具立てとそれを使いこなす知恵と技術が必要です。ポピュラー音楽研究は若い学問分野ですし、民族音楽学が「近代」を問題にしはじめたのも最近です。必然的に隣接領域からの「借り物」が多くなります。そして、借りたものは返す必要があります。生産的で知的な貸し借りを行ううえで、総合大学の文学部という環境は非常に望ましいものであると信じています。
主要業績
『創られた「日本の心」神話』(光文社新書、2009年)、「クラシック音楽の語られ方」(渡辺裕・増田聡ほか『クラシック音楽の政治学』青弓社、2005年)、「音楽のグローバライゼーションとローカルなエージェンシー」(『美学芸術学研究』第20号、2002年)、「日本のワールド・ミュージック言説における文化ナショナリズム傾向」(『美学』第52巻4号、2002年)、「音楽による民族=地域的『文化』の創出―ブラジル・サルヴァドールの事例から」(『美学』第50巻4号、2000年)
概説書・一般書
事典項目「現代の民族音楽学」「日本のワールドミュージック」「祝祭文化の政治性」(『事典・世界音楽の本』岩波書店、2007年)、事典項目「ライブ」「ワールドミュージック」(『音の百科事典』丸善出版、2006年)、論考「『はっぴいえんど神話』の構築」(『ユリイカ』2004年9月号)、論考「100%NEGRO?:現代ブラジルにおける『アフロ・アイデンティティ』の諸相」(『季刊エクスムジカ』第4号、2001年)

講師 中尾薫

なかお かおる
1978年生。2001年、奈良女子大学文学部言語文化学科日本アジア言語文化学卒業、2008年、大阪大学大学院文学研究科(演劇学)博士後期課程修了。博士(文学)。2009年、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手。2011年4月より現職。
研究紹介
能の謡(テキスト)の変遷史。とくに江戸時代中期の謡曲改訂プロジェクト〈明和の改正〉と国学との関わりについて。しかし最近は、江戸幕府内における能楽発達史・沿革史に視点が移りつつあります。国家儀礼としての能、国家の芸能に対する思想について、理論的に解明したいと考えています。その流れのなかで、幕府崩壊後の能楽をとりまく芸術環境にも興味を持ち始め、明治・大正期の能楽について確認しなおそうと試行錯誤しているところです。
メッセージ
伝統芸能を研究していると、重層的な過去という地層の上に現在の事象があることを痛感します。そして、それぞれの環境やかかわった先人たちの創意工夫の異相性とともに、時代を経ても変わらない核のようなものを発見・認識できたとき、そこには未来への指針が隠されているように思います。芸能という形態によって結実する人間の営みをひもとき、その意義を理論的に解明し伝えられるように、みなさんと一緒に修練していきたいと考えています。
主要業績
「明和改正謡本と田安宗武―新作能《梅》を中心に―」(『能と狂言』2号、2004年5月)、「田安宗武と明和改正謡本―田安家旧蔵『版本番外謡本』の書込みをめぐって―」(『芸能史研究』166号、2004年7月)「田安宗武の能楽愛好―田藩文庫の能楽関係資料を手がかりとして―」(『フィロカリア』24号、2008年3月、「能大夫藤林権左衛門の観世家入門―中津藩町方記録『惣町大帳』の記事を中心に―」(『演劇学論叢』11号、2010年3月)など。
概説書・一般書
(劇評)「中川兄弟 落語かれっじVol.4お玉牛~落語と芸能史のコラボ」(『大阪日々新聞』「関西美術探訪 阪大美学研究室」2008年7月8日夕刊)、「茂山忠三郎舞台七十五年傘寿記念 忠三郎狂言会―感情起伏の自然な表現」(『大阪日々新聞』「関西美術探訪 阪大美学研究室」2008年11月11日夕刊)。

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