東洋史学(世界史講座)
阪大東洋史が世界の東洋史学界の中で重きをなす研究領域は、唐宋以後の中国史、前近代の内陸アジア史、そして中・近世の東南アジア史である。何れの領域の教員も漢文文献を根本史料にしながら、現地語史料とフィールドワークの成果を合わせた研究を行い、院生達にもそれを指導している。
本専門分野の教育の中で最も特徴あるものは、「合同演習」と通称され、教員から学部学生まで専門分野に所属する全員が出席を義務づけられている演習である。大学院後期課程学生は、年度当初に東洋史学史・漢文史料・工具書等について入門講義に類する報告を分担し、学部生を裨益すると同時に、自らが教職に就いた時のための訓練を行う。そしてそれとは別に、最低毎年一回は高度の研究報告を行う。前期課程学生も年一回の研究報告が求められるが、修士論文作成年次の学生には、年二回の修士論文関連報告の機会が与えられ、助言や質問を得る場となる。全員がこの合同演習に出席するということは、広大な領域にまたがり、時代も古代から近現代に亘る東洋史全般の発表を聞くということで、ともすれば狭い専門に閉じこもるのを打破する効果がある。合同演習は教員まで含めて演練の場である。
大学院に進学する者は、この合同演習に学部時代から大学院博士後期課程まで積極的に出席し続けることによって、幅広い知識と関心を持った研究者・高度職業人に育っていくし、学部だけで卒業していく者にとっても、歴史学の現状、学問の厳しさと奥深さとを肌で感じながら、プレゼンテーションの訓練を積むことができ、教育効果も絶大である。
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教員紹介
教授 森安孝夫
教授 片山剛
教授 荒川正晴
教授 桃木至朗
教授 森安孝夫
もりやす たかお 1948年生。1972年、東京大学文学部東洋史学科卒。1981年、東京大学大学院人文科学研究科東洋史学専攻博士課程単位修得退学。博士(大阪大学)。1982年、金沢大学文学部助教授。1984年、大阪大学文学部助教授。1994年、大阪大学文学部教授。1998年、大阪大学大学院文学研究科教授。(財)東方学会評議員。
専攻:東洋史学/中央ユーラシア史/敦煌学/トゥルファン学
研究紹介
シルクロードと遊牧騎馬民族が世界史的意味を持っていた時代(近代以前)の中央ユーラシア、なかでもその東部と中部に当たるモンゴルとチベットを含む内陸アジアの歴史・文化・宗教を研究している。漢籍史料のみならず、敦煌・トゥルファン出土文書や突厥・ウイグル碑文などの文献史料の研究と、中国・モンゴル国の現地調査とを平行して行い、失われた「事実」の解明という理科系的歴史学に情熱を傾けている。その一方で、西欧中心の世界史観を打破し、中央ユーラシアから見た世界史の構築という文科系的歴史学にも取り組んでいる。
メッセージ
我国の学問のほとんどは輸入超過ですが、東洋史学は数少ない例外の一つです。それは史料の宝庫である漢籍を駆使し、さらに現地出土の様々な言語の文書や碑文を史料として活用してきたからです。最近では現地調査も容易になりました。スキタイ・匈奴からモンゴルまで中央ユーラシアに出現した遊牧騎馬民族がダイナミックな世界史の原動力であった時代(16世紀までの約2500年間)の内陸アジア史こそは、日本が世界に誇る学問分野であり、これまで多くの研究者を輩出してきました。この分野は今や阪大が日本の中心です。歴史事実の「発見」に情熱を燃やす学生を期待しています。
主要業績
「増補:ウィグルと吐蕃の北庭争奪戦及びその後の西域情勢について」、流沙海西奨学会(編)『アジア文化史論叢3』東京、山川出版社、1979;「トルコ仏教の源流と古トルコ語仏典の出現」『史学雑誌』98-4、1989;『ウイグル=マニ教史の研究』、『大阪大学文学部紀要』第31・32巻合併号、1991;「《シルクロード》のウイグル商人―ソグド商人とオルトク商人のあいだ―」『岩波講座世界歴史11中央ユーラシアの統合』東京、岩波書店、1997;「ウイグルから見た安史の乱」『内陸アジア言語の研究』17、2002;森安孝夫(編)『シルクロードと世界史』大阪大学文学研究科、2003;森安孝夫(編)『中央アジア出土文物論叢』京都、朋友書店、2004.
概説・一般書
「渤海から契丹へ―征服王朝の成立―」『東アジア世界における日本古代史講座7東アジア世界の変貌と日本律令国家』学生社、1982;「中央アジア史の中のチベット―吐蕃の世界史的位置付けに向けての展望―」長野泰彦・立川武蔵(編)『チベットの言語と文化』冬樹社、1987;「仏教と異宗教との出遭い」龍谷大学三五〇周年記念学術企画出版編集委員会(編)『仏教東漸:祇園精舎から飛鳥まで』思文閣出版、1991;『シルクロードと唐帝国』講談社、2007.
教授 片山剛
かたやま つよし 1952年生。1981年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。文学修士(東京大学)。1981年高知大学人文学部講師、1984年同助教授、1989年大阪大学文学部助教授、1996年同教授を経て、1998年4月より現職。
専攻:中国近世/近代史
研究紹介
14〜20世紀の華南、主に広東省を対象に、文字・地図史料の解析と、現地調査での実見や老農民からのヒアリングとを併用して、リアルな像を伴った農村社会史の構築に努めている。具体的には、地域の社会・文化の特質と本格的農地開発の仕方・時期との関係、言説と史実の対比からうかびあがってくる地域社会の形成・変容のダイナミックな動き、等から中国史の謎を解明中。近年は、近代中国土地調査事業史研究にもとりくみ、近代的な技術や土地制度の中国的な受容のあり方についても考察中。
メッセージ
黄河文明は数千年の歴史をもつが、文明の発祥・持続・展開の理由については多くの謎があります。謎の歴史的解明には、まず文字史料の正確な解読が必要です。しかし、リアルな歴史像を構築して謎の本質に迫るには、自己と自己をとりまく同時代の諸事象(恋愛・失恋から国際政治・経済まで)に対する鋭敏な感性、および人文・社会・自然の諸学を動員した多角的構想力も必要です。「思いつき」を、説得力ある「構想」に鍛えていくのが大学院の「研究」です。
主要業績
「自然の領有における階層構造」『20世紀中国の社会システム』京都大学人文科学研究所(2009.6);「近世・近代広東珠江デルタの由緒言説」『歴史学研究』No.847(2008.11);「中国史における明代珠江デルタ史の位置―“漢族”の登場とその歴史的刻印」『大阪大学大学院文学研究科紀要』46(2006.3);「死者祭祀空間の地域的構造―華南珠江デルタの過去と現在」『死の文化誌:心性・習俗・社会』昭和堂(2002.10、所収)
概説・一般書
『フィールドワークを歩く──文科系研究者の知識と経験』嵯峨野書院(共著、1996.6);『流動する民族─中国南部の移住とエスニシティ』平凡社(共著、2001.4)
教授 荒川正晴
あらかわ まさはる 1955年生。1986年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。文学博士(大阪大学)。早稲田大学非常勤講師、大阪大学文学部助教授を経て、2001年4月より現職。(財)東洋文庫研究員。
専攻:中央アジア古代史
研究紹介
人は移動する生き物です。こうした人の移動が、政治・経済・文化・社会に如何なるインパクトを与えてきたのか、これを歴史学の視点から検討しています。これまでトゥルファン出土の古文書資料を利用して、唐の帝国支配を支えた交通システムの問題や、そのシステムを利用したソグド商人の交易活動について研究してきました。現在、「現世」から「来世」への移動の問題として、トゥルファンに生きた漢人たちの仏教信仰と冥界観の変遷の問題とも取り組んでいます。
メッセージ
私が研究対象としている中央アジア(東トルキスタン)は、現在、中国の少数民族自治区となっています。中国で語られる中央アジア古代史の像は、日本でのそれと共有する部分とまったく相違する部分とが混在しています。歴史は、それを語る人によって造られていることを実感しますが、どうしてそのような異同が生まれているのかについても、関心を注いで欲しいと思っています。
主要業績
「「唐帝国とソグド人の交易活動」『東洋史研究』56-3(1997);「唐 朝の交通システム」『大阪大学大学院文学研究科紀要』40(2000);
「トゥルファン漢人の冥界観と仏教信仰」『中央アジア出土文物論叢』 朋友書店(2004);「遊牧国家とオアシス国家の共生関係」『東洋史研究』67-2(2008);“Sogdians and the Royal House of Ch’ü in the Kao-ch’ang Kingdom”,Acta Asiatica (Bulletin of The Institute of Eastern Culture), 94(2008)
概説・一般書
「ソグド人の移住聚落と東方交易活動」『岩波講座世界歴史15 商人と市場』岩波書店(1999);『オアシス国家とキャラヴァン交易』山川出版社(2003);「オアシス国家ホータン点描」『NHKスペシャル新シルクロード』2(草原の道・タクラマカン)日本放送出版協会(2005)
教授 桃木至朗
ももき しろう 1955年生。京都大学文学部卒、同大学院文学研究科修了。博士(文学、広島大学)。大阪外国語大学専任講師(ベトナム語)、大阪大学教養部助教授、同文学部助教授(いずれも東洋史学)などをへて現職。現在、タンロン遺跡調査保存のための日越合同専門家委員会委員。
研究紹介
院生時代からの本来の専門は中近世ベトナムを中心とした東南アジア史・東南アジア地域研究だが、1990年代から中国史、日本史、東南アジア史などの枠をこえた海域アジア史の構築、2003年以降は歴史学の評論・解説と歴史教育などにも取り組んでいる。現在のおもな研究テーマは、中世ベトナムの都市と農村、王権とジェンダー、東北・東南アジアの小帝国群にとっての近世のグローバルヒストリー、世界史教育再建のための評論・解説・教材作成、東南アジア地域研究と高校・大学教育の接続など。
メッセージ
どの研究領域でも努力さえすれば、研究水準の絶対値はプラスにできる。だが、従来の「メジャーで安全な」領域の多くにおいて、学界や社会全体にとっての費用対効果はマイナスに陥っている。他方、今年の建都1000年祭に向け平城宮保存の経験に学んだタンロン皇城遺跡の保存を望むハノイでは、日本側に専門知識のあるベトナム語通訳が皆無なため、首相が約束した協力が難航している。大量の無駄な公共事業のカゲで本当に必要なものが不足するのと同じ構造が、私の研究領域のどこでも見られる。これに怒る院生を私は求める。
主要業績
「一家の事業としての李朝― ベトナム王朝国家形成史への一視角」 (『東洋学報』79-4、1998);“Dai Viet and the South China Sea Trade from the 10th to the 15th Century,”Crossroads 12 (1),1999;『海域アジア史研究入門』岩波書店(共編著、2008); “Một số câu hỏi mới về kinh đô Thăng Long thời Lý-Trần: Khai thác lại thư tịch cổ.”(「李陳時代のタンロンに関する新しい問い: 古文献の見直しから」第3回ベトナム学国際会議報告、ハノイ、
2008)
概説・一般書
『歴史世界としての東南アジア』山川出版社(1996);『ベトナムの事典』同朋舎(共編著、1999);『岩波講座東南アジア史2』岩波書店(共著、2001);『新詳世界史B』帝国書院(共著、2008);『新版東南アジアを知る事典』平凡社(共編著、2008);『歴史学のフロンティア―地域から問い直す国民国家史観―』大阪大学出版会(共編著、2008);『わかる歴史・面白い歴史・役に立つ歴史―歴史学と歴史教育の再生をめざして―』大阪大学出版会(2009)
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