修了生のメッセージ

博士前期課程を修了すると

本研究科前期課程を修了した人の多くは、博士論文の完成をめざして後期課程に進学しています。その後、専門研究者となって、各種研究機関で活躍する人も少なくありません。しかし、本研究科は専門研究者の養成だけをめざしているわけではありません。高度な専門知識を備えた社会人として活躍する人材を養成すること、それも本研究科の教育目標のひとつとなっています。

以下、本研究科博士前期課程を修了して社会で活躍している方々のメッセージを掲載します。現時点では必ずしも研究者をめざしているわけではないが、大学院で人文学の研究に取り組んでみたい。そのように希望する方にとって、何らかの参考になれば幸いです。

「探求心」と「好奇心」

菅沼 美津子

専門分野
中国哲学 平成13年度博士前期課程修了
現在
長野市役所

私が文学研究科を修了してから、2年半が経ちました。私は現在郷里に戻り、公務員として働いています。

私が社会人になって1番大変だった事は、学生時代に自分が学んでいた分野と全く異なる分野の仕事をしなければならなかった事です。私は学生時代、中国哲学を学んでいましたが、現在行っている仕事はそれとは全く異なる、経済分野の仕事です。学生時代には縁の無かった分野の仕事を覚え、こなしていく事にとても苦労しましたし、現在も苦労しています。最近になって、ようやく仕事を任せてもらえるようになり、認められつつある事を嬉しく思っています。(忙しく大変ですが)

また、ほとんど同じ年代の人達との付き合いが中心だった学生時代とは違って、様々な年齢層の人達との付き合いが多くなり、苦労はありますが、世界が広がったような気がします。研究中心の生活は、下手をすると狭い世界にこもってしまいがちですが(今思えば、自分もそれに近かったと思いますが)、社会に出ると嫌でも色々な人達と付き合っていかなければならないので、自然と人との繋がりが出来てきます。初めはとても戸惑いましたが、今はそれを大切にし、楽しんでいます。

先に書いたように、学生時代の研究・生活と現在の仕事とは、分野も環境も全く異なりますが、「探求心」・「好奇心」が必要であるという点では共通しています。学生時代(特に研究室に入ってから)に得たこの2つの「心」があってこそ、社会に出ても広いそして深い知識が身に付き、それが自分を磨いてくれるのだと思います。また、研究室で苦労(?)を共にした仲間とは、違う道に進んでもいつまでも繋がっているような気がします。

学生でいる時間は、何もしなければ本当に無駄な時間になってしまいますが、自分のやる気次第で色々なことができ、身に付く時だと思います。学生時代の経験は、直接でなくても必ず将来何らかの役に立ってきます。「探求心」と「好奇心」を持ち、有意義な時間を過ごしてほしいと思います。

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井口 和之

専門分野
日本学 文化交流史 1995年入学 1997年修了
現在
同志社中学校社会科勤務

私の場合も当初は専門研究者を目指して大学院への進学をしました。学問的真理への純粋な好奇心も強かったのですが、一つの研究課題に挑戦しつづけるだけの持続する力に少し弱かったことと、それ以上に、培った知識を生かして貢献したいという思いが強くなり、前期課程をもって大学院を修了し、現在の中学校へ勤務することになりました。

子どもたちを前にしたとき、一部マスコミなどで報道されているような、「難しい子どもたち」というイメージを払拭するほど、子どもらしい好奇心にあふれていることを知りました。大学を卒業してすぐに教師になる場合も多いでしょうが、今の子どもたちは純粋な「知的好奇心」を刺激されることを欲しているように思います。

大学院での経験は、そのような子どもたちの好奇心に応えるための土台となっています。なかでも、学部生の卒論演習に参加させていただいたことは貴重な経験でした。卒論を完成させようと頑張っている学生に対して、院生としてつたないながらも精一杯アドバイスをしたりしたことは、私自身の勉強になっていました。史学科日本史専攻から日本学(文化交流史)へ入った私にとって、大学院での研究や学部生の卒論演習は、歴史一辺倒ではない多様な視点からの問題点の発見と、アプローチの仕方を学ぶ絶好の機会となっており、とても有意義なものでした。

これから教師を目指そうとしている多くの学生に、ぜひ大学院への進学を薦めます。圧倒的な知識というものに支えられたうえではじめて、子どもたちの好奇心を刺激しつづける授業を展開できるように思います。そして、大学院での経験が、教師となってからも研究しつづける姿勢と方法とをよりよいかたちで身につけさせてくれるのではないでしょうか。

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福林 靖博

専門分野
東洋史学
現在
国立国会図書館 資料提供部図書課

私は2001年4月に入学して、その年の9月に国立国会図書館から採用通知を頂き、それから翌年4月の採用までは旅に出たりしていたので、大学院生をやっていた期間は半年以下です。こんな人間が大学院について語るのもどうかとも思ったのですが、本道から逸れたからこそ見えることもあるかと考え、執筆を引き受けました。

専攻は東洋史学で、漢籍・石刻史料を用いた中央アジア史の勉強をしていました。教養の授業で血沸き肉踊った、阪大がこの分野ではハブ的存在だった、ということで選んだのですが、見事にハマりました。史料を読み、事実をつなぎ合わせ、史実を組み立てていく一連の作業は、脳内アドレナリンを無尽蔵に分泌してくれたのです。

卒論を出す頃には研究者しかないと思い込んでいましたが、その道は諸事情により諦めざるを得なくなりました。それでも修士号は欲しくて、進学したのです。しかし、同時に就職のことも考えなければいけません。少しでも自分の専門を生かせる職場、自分の勉強が続けられる環境のある職場、という理由で、今の職場を選びました(まさか1年目で合格するとは思っていなかったので、中退というのはあくまで結果論です)。

今は資料提供部図書課という部署で、カウンター・案内業務と、利用者サービスシステムの開発・導入をやっています。漢籍の知識や語学が思わぬ場面で役に立ったりしますし(将来、もっと役に立つかもしれません)、ゼミや色々な研究会での発表で叩き込まれた論理的思考方法、プレゼン方法は、ここでも有効です。

給料を貰うと嬉しいし、自分の専門を少しでも社会に還元できるのは有り難いし、やはり大学院では見えないことも多くある。これから、社会で得たことをまた学問に還元するもよし、自分の仕事で咀嚼していくもよし。

学部で卒論という学生の醍醐味も経験しないうちに仕事を決めて、学問の世界から足を洗うより、大学院に入ってより豊穣な学問の世界を垣間見るのも悪くない。そうすれば、外の世界も変わって見えてくる。 そう思います。みなさんも、是非。

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宗像 和登

専門分野
西洋史学 平成12年入学 平成15年修了
現在
大阪市職員(行政職) 東住吉区役所支援運営課に所属

私は現在、大阪市の職員として東住吉区役所で生活保護のケースワーカーの仕事をしてます。様々な理由で生活に困窮したため生活保護を受給することになった方々を相手に、厳しい現実と向き合いながら日々活動しています。大学院で私が専門として研究していたのは、イタリアの中近世の都市史(特にヴェネツィア史)であり、生活保護といった福祉行政とはほぼ無縁のものであります。大学院で学んだ知識が今のケースワークの仕事で役立っていることというのもほとんどありません。ただ、文学研究科というところは、専門知識を修得する場であると同時に、根本的な思索の訓練の場でもあります。大学院において人文学の最前線で研究するという経験は、その後どんな仕事に就くにしても、様々な場面で活きてくると思います。例えば私の場合ですと、生活保護受給者の「生活歴」を聴取・分析し、その人の処遇を考える際に、「歴史家」としての視点が役立っています。

私自身、大学院に入った時点ではまだ、修了後に後期課程に進むか、就職するかということははっきりとは考えていませんでした。ただ、たとえ就職するにしても、修士論文は後期課程に進めるだけのレベルのものを書き上げようと考えていました。実際、就職することにはなりましたが、修士論文は100%でないにしてもある程度満足できるものは書けたと思っています。それは今後の自分の人生にとっての自信となっています。

人文学の世界というのは、実社会の現実と比べると浮き世離れした感は否めません。しかし、そこにこそ人文学の価値があるともいえます。阪大の文学研究科には超一流の先生方がおられ、研究するにはこれ以上ない環境にあります。これから文学研究科に進学する方には、この優れた環境で研究できる喜びをしっかり噛みしめて日々過ごしていただきたいなと思います。

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鎌田 誠

専門分野
中国文学 平成9年入学 平成11年修了
現在
株式会社カプコン

わたしは現在ゲームデザインという仕事に就いています。正直なところ普段の仕事において大学院での研究が直接役に立つということはまったくありません。これはゲームデザインという特殊な仕事であるからというわけではないと思います。他学科のことはわかりませんが、文学研究科の場合、教員や研究所・それに類するところに勤めない限り、基本的には大学院での研究内容自体が役に立つことはまずないと思います。実際に就職活動中の面接でも「で、その卒論・修論は社会にとってなにか役に立つのかね?」ときかれます。では、研究者になるわけでもないのに大学院前期課程に進学する意味はないのでしょうか。まったくそうは思いません。文学研究科では研究内容はかなり自由で、しかもその選んだテーマを専門としている教授がいるとは限りません。ここが重要なところです。研究者を目指すのであれば是非、専門の教授がいる研究室を選ぶべきですがそうではない場合、逆にあまりこだわる必要はないと思います。自分でテーマを見つけ、調査して考えをまとめて他人にわかるような形で発表する。しかも周りの人は必ずしもそのテーマに興味があるとは限らない。こういった思考訓練は必ずどこにいっても役に立ちます。私のはじめの就職先であるコーエーは「信長の野望」「三国志」といった歴史ゲームを作っているところでした。てっきり中国文学専攻ということで三国志の製作チームに入れられるのかなと思っていましたが、結局退社するまでにかかわったタイトルは信長の野望・マージャン・ガンアクションと中国にはまったく関係ありませんでした。そろそろ違った系統のゲームをつくりたいと思い昨年の7月からカプコンへ移り、今はファンタジーRPG製作に携わっています。ますます中国からは離れてしまいました。しかし、ミーティングやプレゼン等では自分が発表する側であっても、聞く側であっても、研究室での演習や修論の経験がベースとなっています。プログラムといった専門技能はありませんが、社会生活においては自分の意見をまとめ発表するといったことの方が実際には重要で、文学研究科はその訓練の場として最適だと思います。また、直接的な知識と言う面においては、研究内容というよりも学生時代の読書や映画鑑賞・旅行から得たものが意外と役に立ちます。理系とくらべて圧倒的に自由になる時間が多いのも文学研究科に在籍する大きなメリットです。いずれにせよ学生時代をどう過ごすか、その経験をどう活かすかは皆さん次第です。有意義な学生生活を送られるよう願っています。

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海本 真理子

専門分野
国語学 平成8年入学 平成10年修了
現在
岡山県立玉野光南高等学校勤務(国語)

高等学校の国語教師として教壇に立ってはや5年。現在、普通科・情報科・体育科という三つの科を持つ県立玉野光南高等学校に勤務しています。多種多様な個性を持った生徒たちとともに、怒ったり笑ったり、充実した毎日を送っています。自由でのどかな校風の中で、伸び伸びと青春を謳歌する生徒は、とてもまぶしく、好ましく感じます。しかし、安易な方に流れ「今が楽しければいい」という生徒が多く見られるのも事実です。物事を成し遂げた後に得られる喜びや達成感を知りません。私は国語を学習することで、物事や自分自身についてより深く考えること、また、それによって得られる発見の喜びと楽しさを知ってほしいと思っています。

研究室での生活は、そんな私にとって、とても貴重な体験でした。「言葉」は人間関係にも大きな影響を与えます。大学四年生の時、人間と「言語」の関係に興味を感じ、大学院へ進むことを決めました。研究室の一番の印象は、研究に対して非常に真剣に、厳しい態度で臨むということです。膨大な文献にあたり、用例を読みとり、発見することは、並々ならぬ時間と生みの苦しみがありました。私の場合は、「木を見て森を見ず」。ついつい、調べるのに夢中になってしまい、結果、個々の言葉を全体の傾向として捉えることに一番苦労しました。そのような私のくせを先生や先輩方は的確にまた、適切に意見を下さいました。研究の難しさと楽しさを知ると同時に、自分を客観的に見据える機会を持てたことに大変感謝をしています。

本当に面白いと感じたとき、生徒は素直に反応します。大学院で学んだ「言葉」の不思議を授業で話す時、生徒は熱心に耳を傾けます。そして「言葉」に興味を持つことで、文章つまり国語そのものにも興味を持つようになります。生徒に教えることで、「言葉」の持つ魅力や不思議について私自身も、より深く考えるようになりました。

「言葉」と同じように、生徒も日々変化します。考える喜び、楽しさを知ることはこれから生きていくための「生きる力」も育てるものだと考えています。生徒と愛情を持って向き合い、その変化に応じながらも、自分の思いをきちんと伝えられる教師になりたいです。

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松井 冨美子

専門分野
ドイツ文学
現在
セイコーインスツルメンツ株式会社

わたしにとって修士学生として研究室に通った2年間は、何ものにも替えがたい時間です。本来は勉強するための部屋である研究室ですが、勉強そっちのけでイベント計画に励んだり、お仕事中の先生のお邪魔をして一緒にお茶を飲んだりしていました。悩みを話すのも、映画や本や音楽の情報を交換・収集するのも、全て独文研究室でした。そんな脳天気な学生をいつも温かく見守って下さり、研究や論文の相談や質問には懇切丁寧に応えて下さった先生方には本当に心より感謝しています。

修了後、精密機器メーカーに就職し、人事部門で採用担当として仕事をしています。いかにして、学生さんに会社のことを知ってもらい、よく知るごとに好きになってもらい、「入社したい」と思ってもらうか。初めて“社会”というものに触れる学生さんと企業との出会いの場を演出すること、それが私の仕事です。突飛に感じられるかもしれませんが、なんと、この仕事は論文を書く作業にとても似ているのです。仮定から結論に至るまで、論旨に矛盾がないようにひとつの完結したレポートを作り上げるのが、論文を書く作業です。仕事の基本も、目的を達するために様々なデータを読み取り、分析し、新たな戦略を考え、論理矛盾のない行動へと移すこと。仕事をしてみて初めて、「考える」ことの練習を繰り返した学生時代の経験が、自分の中に立ちのぼってきた気がしました。
(採用担当としての経験もありますので、独文学生の皆様、就職のことでご相談があるときはいつでもどうぞ。)

結局、わたしは研究の道には進みませんでしたが、会社にはいるとわたし自身の人間的成長のために教育して下さっていた先生のありがたさがよくわかります。いつでもふと帰れるような気がします。本当に、遊びに行くといつでも先生が笑顔で迎えて下さり、ほっと安心します。また何かの折りには研究室のイベントに参加させていただきたいと思います。これからもよろしくお願いします。

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山本 順子

専門分野
仏文学 平成13年入学 平成15年修了
現在
株式会社 半導体エネルギー研究所

文系の大学院に進学することは、研究者を志すことだ。一般によく言われることであり、確かに事実ではあるのですが、私は将来どうするかということをはっきり決めて大学院に進学したわけではありませんでした。「もう少し仏文学に触れていたい」というのが、進学の最も大きな動機であったように思います。

修士課程の二年間は非常に充実したものでした。学生は少人数で先生方の熱心な御指導を受けるという環境に恵まれ、特に演習や研究発表では、学生がそれぞれのテーマで発表し議論を戦わせる中で、自ら考え、それを説得力のある言葉にすることの難しさ、大切さを学びました。

博士課程に進まず、企業への就職を決めたのは、これが一般企業で働くことのできる最後の機会だと思ったからです。現在私は、半導体関係の会社で特許明細書の英訳に携わっています。半導体、特許、英語…、一見どれをとっても大学の専門分野とは全く関係ありません。新たな専門知識の習得は容易ではありませんし、実際、少なからず不安を抱えながら毎日仕事をしています。しかし翻訳というのは、書かれたものを正確に読んで理解し、別の言語に置き換えるという作業です。特に特許翻訳では、冠詞一つ、単語の使い方一つの違いで訴訟に発展することもあり、一字一句に神経を配らなければなりません。考えてみるとこれは、言語や分野が違っても、大学院の授業を通じて繰り返し教え込まれたことに他ならない。そのことに気付いた時、院卒で就職という選択肢は間違っていなかったと確信しました。

院生に求められる、自らテーマを設定し自主的に研究を進めるといった姿勢は社会人にとっても必要不可欠なものです。こうした姿勢を身につけ、修士課程を修了してから社会に出るという選択肢も視野に入れて、就職活動をされてみてもいいのではないでしょうか。

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浅尾 いずみ

専門分野
日本語学 平成12年入学 平成14年修了
現在
鳥取大学非常勤講師

文学研究科博士前期課程での2年間は、長いようであっという間でしたが、多くのものを得ることができた貴重な時間でした。

もともと私は、じっくり考えて地道に何かを行うことが苦手な性格だったので、修士論文を完成させるまでの道のりは非常に苦しく、途中で投げ出したくなったことも1度や2度ではありませんでした。そんな私にとって、この2年間は、問題にぶつかったとき、自分の頭で考えて解決策を見いだしていくという力を養う修行の場でもありました。私は今年4月から、地元の鳥取大学で日本語の非常勤講師として働いていますが、仕事をしていく中でも自分で解決しなければならない課題にたくさん出会います。そんなとき、博士前期課程での経験は大きな自信となって今の私の支えになっていると感じています。

そして、私が博士前期課程に進学して良かったと思う最大の理由は、同じ分野を志す多くの人たちと出会えたということです。ゼミに参加することによって、その分野の専門的知識をより深められ、新しい知見が得られるのはもちろん、様々な人に出会うことができました。異なる価値観や経験を持つ人々と出会い、互いに意見を交わすことにより、私の中での日本語や日本語教育に関する世界が大きく広がりました。喜びや悩みを共感しあえ、安心して相談できる仲間がいるということは、学生生活を終えて社会人となった今、仕事をする上での大きな励みになっています。

何を得るかは人それぞれ違うと思いますが、大学院は様々なメリットを提供してくれる場として、将来どのような道に進む人にとっても魅力的な場所だと思います。

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福村 久美子

専門分野
演劇学 1995年入学 1999年修了
現在
エジンバラ・インターナショナル・フェスティバル

私が大学院に進んだのは、学部の勉強を通じて興味のあった演劇学の勉強をもう少し深めたかったからでしたが、将来的には、舞台を実現する側の仕事につきたいと思っていました。院に進んでからしばらくは、学部からの継続で、戯曲の分析や上演史などを学びましたが、ちょうどその当時、各自治体で文化施設・劇場が競い合って建設されており、それに伴ってそれらの施設運営のあり方についてもマスコミや各地のシンポジウムで盛んに論じられるようになっていました。そうしたことから私自身の研究課題も文化政策、アーツ・マネジメントに向かうようになりました。

これらの分野では、とりわけ海外の事例がとても新鮮で、修士課程2年目に入ったころ、文化政策の分野で研究の進んでいたイギリスに留学しました。留学したイギリスの大学院は、実際に芸術団体で働いてる人や、文化関係の仕事に転職しようという人がステップアップのために学びにきているようなところで、その学ぶ姿勢も貪欲で積極的、たいへん刺激を受けました。

帰国後、阪大の大学院を修了し、最初に就いた仕事が、兵庫県国際交流協会の交流課のプログラム・コーディネーターでした。演劇とは異なる分野でしたが、この経験が次に静岡県舞台芸術センターの制作部の仕事に応募した際考慮されたと思います。その後イギリスに移住し、現在のエジンバラ・フェスティバル事務局でのマーケティング担当の職に就くまでの半年間は、レパートリー・シアターでボランティアやパートタイムとして働きました。

私にとって大学院での専攻研究がどう役立っているかということですが、まずは修士課程での研究を通じて、舞台芸術というジャンルや、芸術と社会との関わり方についての一般的な理解や、これらの分野における研究の諸潮流を概観できたことです。しかし、今振り返って何よりも有意義だったと思えるのは、多様な研究課題、研究アプローチをあの短期間に集中して学んだ、勉強の仕方そのものだったと思います。実際、時代も国も異にする数々の舞台芸術作品を、常にめまぐるしく変化しつづける社会的文化的環境のもとで、世界の観客にアピールしていかなければならない今の私の仕事には、優れた情報処理、論理的で総合的な問題解決の力が、結局もっとも重要なように思えるからです。この点、まだまだ未熟ですが、大学院での経験をもとに、励んでいきたいと思います。

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前田 聡志

専門分野
日本美術史 平成13年入学 平成15年修了
現在
茨木市職員(大阪府)

今、私は地方公務員として働いておりますが、時代の動きは激しく、住民の方々と直接向き合う地方公務員にもより高度で専門的な能力が求められるようになりました。しかしながら、率直に申しますと、私が大学院で学んだ知識は職場において直接的には役に立ちません。今まで聞いたこともないような用語に囲まれ、一から勉強しているような毎日です。では、大学院に進んだことは、私にとって全くの無駄であったのでしょうか。ここで身につけた「ものの捉え方・考え方」といったものは、これから仕事を続けていく上での私の基礎体力のようなものであり、何より私の人生に豊かさを与えてくれたと思うのです。

私の専攻しておりました日本美術史は、先人達ののこしてくれた数々の素晴らしい遺産を検証する学問です。古美術品というものは、なにも最初から作者や由来がわかっているものばかりではありません。ただ、そこに一つの物言わぬ作品がのこされているだけです。そして、それをじっと見つめ、その特徴を捉え、問題点を掘り起こし、その答えを推測し、裏付けとなるような資料を求め、一つの論を作っていくのです。ただし、どうやっても我々は過去に遡ることはできませんから、常に客観的な視点を持ち、事実のみを求める姿勢を保たねばなりません。

また、授業の一環として現地実習というものがありました。寺社や博物館、美術館を訪ねて、実地に本物を自分の目で確かめるというものです。色彩や大きさの印象など、図版や写真で見た場合と実際に目の当たりにした時とでは、大きく異なる場合があります。そして何よりも本物の持つ迫力に圧倒され、その魅力に引き込まれるのです。この体験によって、本物を見ること、そして本質を見抜く目の大切さを学んだように思います。

文学研究科では、どの専攻においても突き詰めれば、人間という存在を考察するものであると思います。私が専攻した日本美術史の場合は、先人達が築き上げてきた「日本の美」という一面から迫っているわけです。ここでは、仕事ですぐ役立つような知識などを教わるようなことはありません。しかし、もっと深く、そして知的好奇心を刺激する世界に出会えたと思います。こんな忙(せわ)しい世の中だからこそ、ゆっくりと、静かに物事を考えることのできたこの2年間は、私の人生において貴重な時間であったと思えるのです。

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