文学部長・文学研究科長 片山剛
たとえば、私は中国の歴史を研究する日本人です。日本人やアメリカ人が、外国である中国の歴史を研究する意義はどこにあるでしょうか。中国人の研究者は、中国語による発想、中国の文化・歴史や学問スタイル、そして現在の社会状況を背景にして中国の歴史を研究しています。一方、日本やアメリカの研究者も、それぞれの母語、文化・歴史や学問スタイル、そして現在の社会状況を背景に研究を進めています。おかれている環境が異なりますから、取り組もうとする問題、それへの切り込み方、意識的にあるいは無意識的に比較参照する枠組みも異なります。そのため、中国人研究者が関心をもたない領域に、日本人だからこそ、あるいはアメリカ人だからこそ着目し、中国の歴史の核心をつくような研究成果を出す場合があります。
同じことは、日本を対象とする研究についても妥当します。日本人にとって当たり前に思われる事象が、外国人には不可思議に映り、それを外国人が研究することで、日本の文化・歴史の特色が鮮明にされることもあります。
つまり、同一の対象に対して問題関心、研究の視点、アプローチのあり方が国ごとに異なること、これが人文学の醍醐味です。ある国の事象をその国の人の視点で内側から見るとともに、外国人の視点で外側からも見る、つまり比較の観点で複眼的に見ることができれば、見えてくる世界は広がり、人類がもつ(もっていた)多様性とこれからもちうる可能性を柔軟に認識することができるでしょう。
人文学における国際化とは、英語などの外国語で意見を交換するだけでなく、問題関心、研究の視点、アプローチのあり方が異なることを理解し、認識と発想の枠組みを相互に広く豊かなものにすることではないかと思います。このような国際化をめざし、大阪大学の文学部・文学研究科では、3年間の計画で2010年2月から、大学院を修了した若手研究者を中心に、大学院や学部の学生も加えた総数約140名を海外に派遣して研究の国際性を涵養する「多言語多文化研究に向けた複合型派遣プログラム」をスタートさせました。
このプログラムには、(1)「横断型研究視察」、(2)「共同プロジェクト」、(3)「個人リサーチ」の3つの派遣タイプがあり、文学部の学生は①に、文学研究科の修士課程・博士前期課程の学生は(1)(2)に、博士後期課程の学生は(2)(3)に応募することができます。文学部あるいは文学研究科に入学されるみなさんが、自身が派遣されることで、あるいは派遣された先輩たちがもたらす研究成果を通じて、認識と発想の枠組みをより広く豊かなものにしていくことを期待します。
ところで、みなさんはEU(欧州連合)が運営するERASMUS MUNDUS(以下、EMと略す)マスタープログラムというのをご存知でしょうか。これは、高等教育機関の国際連携と学生・教員の国際的流動性を高めるためにEUが資金的援助を行っている事業です。EMプログラムの一つに、「ユーロカルチャー」プログラムがあります。文学研究科は2008年より、このプログラムに域外パートナーとして参加しています。人文学領域におけるEMプログラムへの参加は、本研究科が日本で最初です。ヨーロッパからの留学生を受け入れるために、2008年から5科目の英語授業を毎年開講しています。この英語授業は本学の大学院生にも開放されており、留学生と一緒に履修することができます。また、本学の大学院生若干名を16ヶ月間ヨーロッパのユーロカルチャー・コンソーシアム大学へ派遣しています。派遣される学生にはEUから奨学金が授与されます。
以上の2つは、文学部・文学研究科における教育・研究の国際化をめざす事業のうち、最新かつ規模の比較的大きいものですが、このほかにもさまざまな事業が企画・実施されています。そして、このホームページのあちこちに掲載されている記事をご覧になり、大阪大学文学部・文学研究科の魅力を読み取っていただければ、これほど嬉しいことはありません。さらに、大阪府豊中市のキャンパスにもお出でいただき、その魅力を実感していただくことをお待ちしています。