ご挨拶

大阪大学文学部・文学研究科で学ぶということ

文学部長・文学研究科長 江川溫

ときどき「文学部に行くには文学的才能が必要である」などと言う人がいますが、これはもちろんまったくの誤解です。文学部・文学研究科では人間の社会や文化を理解することを目指してさまざまな分野の教育と研究が行われており、ほとんどの人が自分に向いた対象と方法を見つけることができます。しかし、そもそも文学部・文学研究科の学問の特徴は何でしょうか。

今日の大学という制度は中世のヨーロッパで形成され、近世、近代と受け継がれてきたものですが、文学部や理学部の源流となっているのは「学芸学部」ないし「哲学部」と呼ばれた部分です。ここは学問の基礎を教える場でしたが、学問を学問それ自体のために学ぶことが建前でした。カントのことばを借りますと、「法学部」「神学部」「医学部」が国家や教会の必要から生まれ、それに奉仕するために組織されたのに対し、「哲学部」は知識と理性に奉仕するために生まれ、組織されたものだということになります。

私たちは、まずこのことを前提として受け入れたいと思います。つまり実用主義的、功利主義的な見方をいったん括弧に入れて、知ることそれ自体に価値をおき、またそれを大いに楽しむことを出発点とするということです。しかし、文学部・文学研究科で学ぶ人は社会的有用性の問題を念頭からいっさい振り払うべきだ、などと言おうとしているのではありません。カントは続けてこう言っています。哲学部は理性のみに奉仕し批判的な立場を貫くことで、その他の学部を含めた大学の学問全体に影響を及ぼし、それがひいては国家を理性的なものに変えて行くのだ、と。敷衍しますと、何ものにも拘束されず本質的な知を求めていくことで私たちの生きる世界の本質的な問題点が見えてくるのであり、そこから真に有用な指針を社会に対して発信できるのだということです。

大阪大学文学部・文学研究科は人文学の知を社会的に活用することをとりわけ重視していますが、そのことの意味は上に述べた通りです。このホームページをご覧になる皆さんが自分に必要な情報を得るとともに、私たちの学部・研究科の知的雰囲気を感じ取って下さるならば、これほど嬉しいことはありません。

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