大阪大学文学部・文学研究科
音楽学研究室

音楽学研究室を目指す人のために(学部レベル、大学院レベルの両方を含みます)

 「音楽」というものは、現代の社会では経済や政治のように重要なものとは思われていないし、医療技術や工業技術のように役に立つものでもないし、学校の教科の中でも主要ではないものとして、片隅に追いやられています。けれども、人間の社会において、広い意味での「音楽」を持たないところはありません。本来、政治や宗教の儀式、儀礼において、音楽は欠かすことのできないものでしたし、また個人的な好意を表明するのに音楽ほど効果的なものもありませんでした。「うた」とは、声帯を震わせ、息づかいを伝えるという極めて親密で個人的な行為であることもあり、また異様な音域で特別な発声をする極めて様式的で政治的な意味を担う行為でもあります。音楽を研究するということは、この人間の内奥の最も深いところに位置する行為を真っ正面から引き受けることを意味します。音楽学を学ぼうとする人には、そんな覚悟を持っていただきたいと思います。

 日本では、音楽学の勉強をできる研究室は、通常、音楽大学や芸術大学の音楽学部、あるいは教育学部の音楽科といったところに置かれています。その意味では、阪大文学部の中に置かれた当研究室は、特殊な存在です。ここでは音楽学の研究をしている人のすぐ隣に、絵画やデザインや映画や演劇の研究をしている人たちがいます。日本音楽を、日本学や日本史の厚い伝統の中で捉え直すこともできます。ニューヨーク産のラテン音楽をアメリカ文学との対比の中で考えることもできるかもしれません。私たちの研究室は、音楽をこのように文化の中に正確に位置付け、他の文化領域との関連の中で考えて行こうとしてきた点に特徴があるのではないかと思います。その意味でも、私たちの研究室で音楽学を学ぼうとするなら、音楽を単なる自分の余暇、趣味として深めたいというのではなく、広く人間の文化の中で考えようという意欲のある人が向いているのではないかと思います。

 一方で、芸大や音大の中の音楽学研究室のようにピアノや声楽の実践を勉強している人が身近にいない、というデメリットを克服するためには、いろいろな点で努力が必要です。楽譜を読めること、楽器が演奏できることは、入学時に特に条件として要請されているわけではありませんが、机上の空論に陥らないためにはぜひとも身につけなければなりません。といっても、プロの演奏家養成を目指しているわけではないので、入学してからでも(目的にかなった学び方をするなら)大丈夫です。楽譜といっても、研究の対象によっては、必要になるのは五線譜とは限りませんから、その研究対象に相応しい読譜力、実践力を身につける意欲が必要になってきます。そして、その研究対象に相応しい語学力というものも必要です。

 現実には、たとえば大学院レベルでは、学部時代に音楽大学などで作曲やピアノ演奏を学んでいた、という人がかなりの割合を占めています。あるいは他大学で特定の外国語を専攻して、その後で音楽学に転向してきたという人もいます。学部レベルでは、もちろんそのような経験を持つ人は稀ですが、何らかの楽器を演奏するのが趣味である、という人は少なくありません(逆に、本研究室で音楽学を学んだことをきっかけに芸術大学の演奏を専攻とする学科に進学し直した、という人もいますし、過去にはプロの演奏家になった人もいます)。

 いずれにせよ、本研究室では、現時点で何ができるか、よりも、これからどれほど貪欲に様々なことを学んで行く気があるか、ということが問題になります。音楽学研究に必要となる、こういった様々な能力を今から習得するだけの意欲を持った人に、私たちの研究室の門を叩いてほしいと思います。(文責 伊東)

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