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音楽学研究室では、機関誌『阪大音楽学報』を発行しています。
以下に、創刊にあたっての言葉と、各号の目次を掲載しています。



均衡ある過去・現在・未来指向の音楽学を

                                                   山口修先生


 昭和51(1976)4月に大阪大学に音楽学講座が設置され、平成15(2003)3月に『阪大音楽学報』第1号が刊行されることになりました。と、この書き出し文を私の大阪大学在任期間がそのまま記されるかたちでしたためるのは誠に名誉なことです。この学術定期刊行物の命名の経緯には私自身はほとんど関与していませんが、大学名の略称を出版物の正式名称の一部分として組み込むことは、いかにも関西風で面自いと思います。関西人は略称やニックネームをつける習性が他の地域の人たちより根強く備わっていると聞いたことがありますし、27年の在阪経験をふりかえっても納得できます。願わくば、「ハンダイ」なる略称が国際的にも通用するようになって欲しいものです。

 「人間の音楽性」を過去・現在・未来にバランスよくまたがって追及するのが「音楽学」であると私はここ十数年主張してきました。そして、これら三つの方向性のなかでもr未来指向性」という部分が従来以上に重視されてしかるべきではなかろうかという発想によって私は・新しい意味での「応用音楽学」を提唱し、そのさらなる展開を目指しています。学術的な活動としては、この方針を変更する気は毛頭ありませんが、日常生活のスタイルとしては、自分が間違っていたと反省することしきり、というのが定年退官を目前にした私の心情です。すなわち・過去を清算せずに現在を満喫したり、未来を夢想したりする方に比重をかけすぎたと実感しているのです。

 音楽学という学問にしても、過去・現在・未来を考える度合いのバランスが必要ではなかろうか・と思います。'個人レヴェルでは、それら三つの方向性のどれに重きをおくかはまちまちではあっても、全体としては均衡のとれた状態が望ましいように思えるのです。私自身は、新たに始まった大阪大学21世紀COE(Center of Excellence)プログラム「インターフェイスの人文学」の一環をなすr映像人文学」をすでに提唱して今までと変わらない未来指向性をとりつつ阪大との関係をもうしばらく続ける立場になりましたが、阪大音楽学としては、その動きに大きく影響されることなく、三つの方向性の均衡を保った学風をこれまで以上に培ってゆくことを望んでいます。





・第1号

山口修「創刊にあたって 均衡ある過去・現在・未来志向の音楽学を」pp.1-2

仲万美子「暗黙的な知の世界に眠る『日本音楽』 19世紀来日西欧人の分析をめぐって」pp.3-20

井口淳子「生き延びた民俗芸能 沖縄千原(せんばる)エイサー」pp.21-32

小西潤子「ミクロネシアの行進踊り その伝播とパラオにおける様式変化を中心に」pp.33-46

金士友「中国東北農村の歌舞芸能『二人転』」pp.47-62

増田聡「ポピュラー音楽のジャンル観念について その構造と機能に関する美学的考察」pp.63-76

前川陽郁「音とふれ合う 触感の視点からの音楽論の試み」pp.1-14(縦書き)

藤田隆則「現代式地拍子モデルの定着 能の謡における」pp.15-31(縦書き)



・第2号

上野正章「厚生音楽について 清水脩と石井賢次郎の仕事を中心に」pp.3-18

小川はるか「演奏における反復の中の差異 コミュニケーションについての一試論」pp.19-34

岡村睦「越境する音楽 istanpitta に見るイスラム的要素から」pp.35-48

三島郁「即興音型にみられる奏者の演奏行為 鍵盤楽器演奏における『4度下行+2度上行」の機能」pp.49-64

白石奏人「リヒャルト・ワーグナーの『公衆』批判についての試論 1840年から1851年までの理論的著作を中心に」
pp.65-78
趙維平「ベトナム宮廷音楽の黎明 黎、阮朝における中国音楽の受容」pp.79-98

李金叶「ヤオ族民謡の伝承に関する考察」pp.99-112

山本宏子「福建省泉州提線木偶戯の請神儀礼における音楽」pp.113-126

Stella Zhivkova(ステラ・ジブコヴァ) ”The Significance of Sound: Reflections on some Idiosyncratic Characteristics of Japanese Musical Sensitivity”pp.127140

福本康之「仏教界における初期洋楽受容 洋楽の位置づけを中心に」pp.150-166(縦書き)



・第3号

山田高誌「1770年―90年期に見られる、ナポリの民間劇場の”宮廷娯楽化”への道程 ナポリ銀行歴史文書館(ASIBN)史料に基づくパースペクティブ」pp.1-22

筒井はる香「1800年前後に発明された鍵盤楽器 『一般音楽新聞』での報告より」pp.23-38

井手口彰典「現代的メディアがもたらす『送り手』と『受け手』の関係変化 音系を事例に」pp.39-56

ITO Nobuhiro(伊東信宏) ”Japanese composers confront Japanese tradition: works by Michio Mamiya and Minao Shibata”
pp57-70.
リチャード・タラスキン「《小さな星》 民俗様式による習作(上)」pp.71-88

山口篤子「国民音楽協会と合唱音楽祭の初期事情 小松耕輔の民衆音楽観を中心に」pp.1-16(縦書き)



・第4号

上野正章「1930年代の日本の各都市における西洋音楽の普及について 雑誌『音楽世界』の「地方の楽信」欄から」
pp.1-32
井手口彰典「所有の魔術、あるいは音楽の象徴的支配について 女神はなぜ少年に恋をしたのか」pp.33-50

沈金雲「中国における19121930年の合唱音楽について」pp.51-62

川端美都子「ガウチョが舞台に登る時 《ファン・モレイラ Juan Moreira》とクリオージョ・サーカス」pp.63-78

リチャード・タラスキン「《小さな星》 民俗様式による習作(下)」pp.79-93



・第5号

齋藤桂「軍歌《抜刀隊》に見る明治初期の価値観」pp.1-14

小石かつら「F.メンデルスゾーンの演奏会用序曲《静かな海と楽しい航海》 Op.27の成立」pp.15-30

小林ひかり「グリーグとランスモール 1900年代前後のノルウェーにおける言語論争をめぐって」pp.31-46

大岩みどり「音楽の意味の『測定』をめぐって ヘヴナーの『心理学的美学』」pp.47-64

鄭守暎「韓国唱歌に窺える日本の影」pp.65-81

NEGISHI Kazumi(根岸一美) "Die im Kobe College hinterlassenen Musiknoten von Joseph Laska"pp.82-91



・第6号

山口篤子・齋藤桂・薗田郁「山田耕筰の歌曲制作における諸相」pp.1-26

大岩みどり「フレスコバルディのトッカータの二重構造 序文『読者へ』の‘avvertimento’をめぐって」pp.27-46

山口真季子「新聞記事『フランツ・シューベルトのピアノ・ソナタ』に見られるアルトゥール・シュナーベルのシューベルト解釈」pp.47-66

チュア・スーポン著、田中慎一郎訳「福建劇 シンガポールにおける芸能の形式と発展」pp.67-76



・第7号

大久保賢「池内友次郎の和声法教科書を読む」pp.1-18

山口篤子「明治・大正期の合唱変容 合唱観の変遷と活動の実際」pp.19-34

齋藤桂「山内盛彬の琉球音楽研究と『偽史』」pp.35-48

井手口彰典「《組曲『ニコニコ動画』 台湾返礼》の成立プロセスとその意義 CGMにおけるコンテンツ生成の一事例として」pp.49-64

中村真「レオシュ・ヤナーチェク『民謡における最も堅固なるものについて』(1927) 解題、翻訳ならびに訳注」
pp.65-98


・第8号

奥中康人「五線譜の普及による『国民音楽』の創成 祝日大祭日唱歌の変遷と制定」pp.1-22

齋藤桂「新民謡創作の参考書と曖昧な『地方』 大関五郎『民謡辞典』を中心に」pp.23-34

上野正章「大正後期の鳥取における西洋音楽の普及について 鳥取音楽協会の活動を中心に」pp.35-54

白石知雄「大栗裕《大阪俗謡による幻想曲》自作解説への注釈 1956年の二つの先行器楽作品及び大阪の祭り囃子について」pp.55-70

金銀周「韓国における交響楽団と日本との交流 1970年から1992年までの演奏記録を中心に」pp.71-82

岡村睦「ボッカッチョの音楽 『デカメロン』を題材に」pp.83-102

三島郁「18世紀前半の鍵盤プレリュードにおける『作曲慣習』 通奏低音奏から音型の記譜化にいたるまで」
pp.103-114
山田高誌「18世紀後半のナポリにおける諸劇場所属“コピスタ”の同定」pp.115-136

筒井はる香「パンメロディコンとその音楽 19世紀前半における鍵盤楽器文化再考」pp.137-150

KOISHI Katsura(小石かつら) "Der Verkauf von Noten als neue Publikationsgattung: eine Fallstudie der Rezensionen der "AMZ" im Zeitraum der ersten Halfte des 19. Jahrhunderts"pp.151-162

山本美紀「群れを導く歌 初期メソディストにおける賛美歌の意味」pp.163-178

近藤秀樹「“永遠の落日”の音楽 ラヴェル〈鐘の谷〉」pp.179-194

重川真紀「シマノフスキの作曲工房 オペラ《ルッジェーロ王》作品46をモデルに」pp.195-206

伊東信宏「バルトーク《44の二重奏曲》における民族音楽素材の選択」pp.207-217

黄木千寿子「ソノリスティカの表象 ポーランド・アヴァンギャルティズム再考」pp.219-238

奥村京子「リゲティの《ナンセンス・マドリガルズ》におけるクラスター
〈第3番 アルファベット〉に描かれた雲」pp.239-252

根岸一美「阪大音楽学研究室での12年を振り返って」pp.253-255



・第9号

上野正章「1961年の日本においてケージの音楽と思想はどのように広がっていったのか―
第4回現代音楽祭の報道から考える」,pp. 1-20

奥村京子「リゲティの《ナンセンス・マドリガルズ》におけるパロディソング―<キラキラコウモリ>と
<エビのカドリール>を題材に」pp. 21-38


阪井葉子「マーラーの《天上の生活》とその原典」,pp.39-50

山口真季子「E. エルトマンとE. クルシェネクによるシューベルト解釈」, pp.51-66

谷利 淳「“アウシュヴィッツ”以前の二つのオペラにおける表象の臨界―《ルル》と
《モーゼとアロン》」, pp. 67-80

井手口彰典「純愛者であることの困難―日本におけるアマチュア音楽の背景と課題」, pp. 81-98

小石かつら「F. メンデルスゾーンの初期未出版ピアノ作品―1820~25年の習作群を考察する」, pp. 99-114

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