オーストラリア辞典
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National Museum of Australia

オーストラリア国立博物館


 首都キャンベラのバーリー・グリフィン湖岸にある国立の歴史博物館。連邦政府成立100周年を記念して、2001年5月11日に新しく設立された。2002年8月現在までで来訪者が100万人を超えている。

 博物館の特徴として、まず印象的な外観があげられる。アボリジナル・ドリーミングの中庭には、アボリジナルの土地と言語が描かれた巨大な地図がある。この地図は小さなパズルのピースで構成されており、ひとつひとつがオーストラリアの歴史の要素となる複雑な歴史を表しているという。また赤く塗られた幾何学的な輪も目立っている。

 内部の展示は、従来の州立博物館や地域の博物館とは異なり、オーストラリア人とオーストラリア全体の歴史に焦点があてられている。つまり、国家に影響を与えた出来事や人々を通して、オーストラリアの歴史を見直すことが意図されているのである。そのため、展示には3つの領域、1978年以降のオーストラリア社会、人々と自然環境との関係、アボリジナルとトレス海峡島民の歴史が設定されている。

 常設展は、アボリジナルのドリーミングの世界から始まり、時代を追うように現在、そして将来へと進んでいく。具体的には以下6つの展示からなる。(1)初めのオーストラリア人First Australians さまざまなアボリジナルのグループや年代の人々による美術品などを通して、アボリジナルの歴史を概観する構成。過去の入植者との衝突や現在かかえる問題も隠さず展示されている。常設展の中心となる展示。(2)風上へPaipa トレス海峡島民の歴史。(3)国家Nation オーストラリアのシンボルを通した歴史。(4)地平線Horizons 入植者の生活史。(5)永遠Eternity 50人のオーストラリア人の個人史。個人の感情を通して歴史を描く初めての試み。(6)絡み合う運命Tangled Destinies オーストラリア大陸と人々との密接な関係性。オーストラリアの環境と人間の相互作用の歴史。この他、期間限定の特別展示や博物館が主催する共同研究の成果を発表する展示などもある。

 展示方法に関しても、ガラスケースを利用する、模造品を作るなどといった従来の方法に加えて、マルチメディアを利用した方法なども取り入れられており、それぞれの展示に応じて効果的な方法が採用されている。また展示の部屋自体も広く明るい部屋、狭く暗い部屋があるなど、自由に空間が使われている。このように展示にさまざまなアイディアを取り入れ工夫することで、博物館はつまらないという先入観を打破し、来訪者に楽しんでもらおうとしている。

 限られた予算の中で、オーストラリア国立博物館をオーストラリアで最も人気のある観光地のひとつにしたのは、初代館長のドーン・ケイシーDown Caseyであったが、ケイシーはいわゆる「歴史戦争」に巻き込まれ、2003年12月に事実上解任された。ハワード首相を支持する右翼的な文化人や歴史家は、博物館の展示が「喪章をつけた歴史」を代表するものであると批判し、国家と国民の歴史を祝福する展示を行うよう要求した。博物館の評議員にはハワードに関係の深い人間が就任し、ケイシーは館長の地位を去ることになった。

 門口実代0704