第6章 マック・カントリーの外には

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マクド・カントリーへ出発

この章では、オーストラリアを理解する上で避けて通れない、ブッシュという概念とその意味の広がりについて検討してみました。例として挙げるのは、最初の項目、この章のタイトルを取った部分です。

私はオーストラリアに毎年出かけますが、シドニーやゴールドコーストなどの町にいるときには、ケンタッキー・フライドチキンやマクドナルドでは食事をしません。しかし、オーストラリアの内陸部に出かけるときは別です。トイレがあり、しかも朝から開いているマクドナルドは貴重です。ただし、私は大阪の原住民なのでマクドと言いますが。オーストラリアには二つの顔があります。私も別々の顔を持つことになります。

オーストラリアは、観念的に、人口の圧倒的多数が住む海岸部の都市と、ブッシュ(ないしはアウトバック)に大きく二分されてきました。ブッシュとは何か、あるいはアウトバックとは何かと問われても正確に答えられません。でも、一つ言えることは、都市と対立的なオーストラリアの地域概念だということです。ブッシュは、もともとは深い森林地帯のことでしたが、入植が進むにつれて、森林であれ、草原であれ、内陸部の未開の土地を指すようになります。他方、アウトバックの典型的イメージは、乾燥した、人口の少ない内陸の大地です。観光宣伝のイメージが最近では強烈です。アウトバックについては、「目に埃が入らないようにカラスが後ろ向きに飛ぶ、ウープ・ウープの近く」という定義もあります。ウープ・ウープとは、さあどこにあるのでしょう。

牧羊・牧牛地帯はブッシュのイメージに当てはまります。だだし、このイメージには、中間的な地域、開拓された農業地帯はうまく当てはまりません。ブッシュと都市の対照にはあいまいな境界地帯が残ります。実際、伝統的に農業州であった南オーストラリアの人々は、ブッシュではなく、カントリーという語を都市(この場合はアデレイド)と対照される地域にしばしば用いてきました。都市以外のすべての地域がカントリー、カントリーの中で、とりわけ未開で粗野ではあるが、同時にロマンティックなイメージをもたれる地域がブッシュということになるでしょう。

私はオーストラリアの主要都市部以外の地域を学生に説明するときに、ケンタッキー・カントリーとマクドナルド・カントリー、完全なアウトバックに分けています。ケンタッキーが地域の中心の町に見られる場所は、比較的文明施設が利用可能な地域で、銀行や他のサーヴィスも整っています。人口一万人を超える町が多いようです。これに対し、地域の中心の町で、マクドは見られるが、ケンタッキーが存在しない、マクドナルド・カントリーになると、町からスーパーマーケットは消え、銀行は少なくなり、夜はボーリング・クラブやホテル(パブ)だけの明かりが点いている世界となります。人口四〇〇〇人が基準になるでしょう。さらに両者がともに存在しない世界が完全なアウトバックです。これからブッシュとアウトバックに出発です。

マクドナルド理論はいかがでしたが、このほか夫婦幸福量保存の法則というのもありますが、本では紹介できませんでした。その他の項目は、クロコダイル・ダンディーはブッシュマン(スティーヴは死んでしまいましたが、代わって娘さんが活躍しています)、伝説になったブッシュレンジャー、脳みそのある人間なら誰でも(最近脳みそが腐りかけて)、地方党の苦しみ、国土の一割が灰に、死に瀕した大河、ブッシュ・ホスピタリティ、バークを知ればオーストラリアを知る、ストックマンです。

感想


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