第7章 プライムミニスタとプレミアは同じ?

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オーストラリアは連邦国家

この章では、オーストラリアの連邦システムと地域の特徴について扱っています。完全に消してしまった項目や、大幅に削減した項目など、手間のかかった章です。冒頭の項目の削減前のオリジナル・バーションをお届けします。カナダへの言及があってこちらのほうが実はおもしろいと思います。

ーストラリアのニュースを聞いていると、プライムミニスタと並んでプレミアという言葉が頻繁に使われています。「プライムミニスタ」を辞書で引くと、「首相」と書いてあります。阿部首相とかブレア首相とか、オーストラリアではハワード首相というような場合に用います。ところで「プレミア」は?最初の本格的なオーストラリア英語辞典、マクウォーリ辞典の縮刷版を見ると、最初の項目に、プレミアは、州政府の指導者、つまり州の「知事(首相)」という説明があります。付け加えると、カナダでも似かよった用法があります。ところがイギリスでは、プレミアはプライムミニスタの別名です。なぜこのような違いが生じたのでしょうか。それは、オーストラリアが連邦国家だからです。また、他方でその制度がイギリスの慣習法に大きく依存しているからです。

新聞やテレビなどでよく日本の議会制度と欧米の議会制度を比較したり、最高裁判所の機能の違いを論じたりしているのを見かけます。しかし、アメリカ合衆国やオーストラリアのように連邦制度を採用している国と、日本のようにそれを採用していない国の制度を単純に比較する議論は、根本的な見当はずれを起こす原因になります。

オーストラリア連邦は、一九世紀には互いに独立していた各植民地(後の州)が自発的に参加した組織です。ですから、オーストラリアの連邦政府と州政府の関係は、日本における中央と地方の関係ではありません。オーストラリアの州は、元来ステイト、つまり国です。連邦と州の関係は、連邦国家とそれに参加した国家の関係なのです。連邦政府と州政府の関係は、憲法によって規定されており、それぞれの主権の及ぶ範囲が明確に定められています。日本政府は、県との関係を、法律や政令を改廃することで一方的に変えることができますが、オーストラリアの連邦議会には、そのような権限はないのです。

連邦政府と州政府がそれぞれ主権を持ち、その関係が憲法によって規定されていると言っても、実際にどのような権限がどちらに属するかをめぐって、しばしば両者の間に対立が起こります。そこで裁決を下すのが連邦最高裁判所なのです。連邦政府であっても、州政府が主権を独占している領域では、何らの権限も持たないのです。

このような関係が連邦議会の構成に反映されています。オーストラリアの下院は、国民の声を直接反映する議院であり、人口に比例して議席が各州に割り当てられています。言い換えると、連邦に居住する国民を代表する議院です。それに対して、上院は各州の意見を反映する議院として、州人口に関わらず各州同数の議員が割り当てられています。しかも、上院と下院には権限の上で本質的な差はありません。上院が廃止されたクィーンズランドを除けば、各州にも上院と下院があり、それはイギリス本国の議会を国の議会として再現したものです。

日本国憲法では総理大臣の役割が規定されています。しかし、イギリスの慣習法を受け継ぐことを当然と考えたオーストラリア連邦憲法には、プライムミニスタという言葉さえありません。ですから連邦首相をプライムミニスタと呼ぶのは単なる習慣にすぎません。その役割も権限も積み重ねられた判例や慣習に基づくのです。実際、州が現在よりもはるかに大きな権限を持っていた両大戦間期までは、ニューサウスウェールズ州やヴィクトリア州の首相もしばしばプライムミニスタと呼ばれていました。

その他の項目は、テンタフィールドで一休み、最初のプライムミニスターって誰?(バートンです。典型的なオーストラリア人は、オーストラリアに帰化を望む移民に対する適正テストの問題には答えられない人だそうです、これは深い)、双子都市コロワから、州権論者の後退、クィーンズランダーズ、妻の好きなケーキ、アメリカズ・カップ、知識の木(農薬をまかれて枯れてしまいました)、消防車に乗ったサンタクロースです。

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