第1章 海を渡ったモンゴロイド
―アボリジナル・オーストラリアの形成―

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要約

オーストラリアの先住民であるアボリジナルは、近年の研究によりオセアニア系モンゴロイド、オーストラリアグループに分類される。今から約5万年前、アボリジナルの先祖は、東南アジアスンダ大陸から島をつたって、パプア・ニューギニアやオーストラリア大陸、タスマニア島を含んだサフル大陸へと移動してきた。現在でもアボリジナルの間では、祖先がカヌーに乗って海を渡ってきたという神話が語り継がれている。

サフル大陸へ移動後、海岸沿いから内陸部へと居住地を広げ、およそ1万6600年かけてサフル大陸最南端、現在のタスマニア島に到達した。その時点での人口は35万人強と推定される。

こうしたアボリジナルの先祖によるサフル大陸への移住と大陸内での拡散の過程は、各地から発見される化石人骨によって証明される。化石人骨には、マンゴウ人のようなきゃしゃなタイプと、タルガイヤ人やカウ・スワンプ人のような頑丈なタイプがあり、発見された年代と場所から判断して、まず前者がサフル大陸に到達し、その後後者が派生したと考えられる。また人間の移住とともにディンゴももたらされ、約4000年前と同定される骨が見つかっている。アボリジナルは冬の暖をとるためにディンゴを利用はしたが、家畜化することはなかった。

アボリジナルの先祖は顔料を用い、各地に岩絵を残した。その代表がカカドゥー国立公園内のものである。こうした岩絵は現在にも通じており、また作品を見ることで当時の環境変化や生活状況を類推することができる。

用語解説

感想

本章によると、アボリジナルの起源と歴史を示す資料は3つある。化石人骨と岩絵と神話である。これらの存在によってアボリジナルがオーストラリアの先住民であることが証明され、歴史の過程が推測される。文書の記録から歴史を再現しようとする日本の歴史に親しんでいる私にはとても新鮮にうつる。これら資料の価値を単純に比較することはできないが、どういった資料を使うかによって再現される歴史も異なるように思える。

コメント 日本には文書が多くあるから有利なはずなんだが、藤村の偽石器のようなことが起こるのは、科学的な研究手法・態度が欠けているのかもしれないね。


オーストラリア大陸では、きゃしゃな骨と頑丈な骨の時代が他の地域とは逆だということが一番おもしろかったです。きゃしゃな人類から頑丈な人類が派生したということは、きゃしゃな人類ではオーストラリアの環境にうまく合わず、その環境に耐えるために骨が頑丈になったのだろうか、と疑問に思いました。

また6万2000年前のマンゴウIIIの骨が赤オーカーでコーティングされていたということから、何万年前の人も色鮮やかな文化をもっていたことに驚きました。

コメント きゃしゃな人類から頑丈な人類が派生したということではありません。


印象に残った点は2点です。一つはアボリジナルの人々は華奢な骨が古く、頑丈な骨が新しい、ということです。進化論の図を見ていると、どう考えても昔の方がごつい体をしていそうなのに、これは一体どういうことなのだろう、と考えさせられます。もう一点は犬を、暖を取るのに使っていたという話です。その間だけ飼いならす、という人間にも、そしておそらく犬にもハッピーな方法がユニークで面白いと思いました。

コメント 人類の進化の問題は興味深いが、現在の支配的な見解は、きゃしゃな骨も、頑丈な骨も、同一人類の偏差の内にあるという考え方だと思う。


「精霊ムッカルの旅」のなかに見られる洪水の話、「ノアの箱舟」を思い出した。いまから2万年前をピークとする最終氷期、そのあいだの氷間期に、溶けた氷が海水面を上昇させ、世界規模での洪水を引き起こしたとするのは、あながち間違いでもないように思う。

「神々の指紋」かぶれ?でもそれほど空想とも思われない。自然地理学かなんかでそういう研究もあるんじゃないかと期待します。

コメント 神話の共通性から、レヴィ=ストロースは、人類に共通する文化構造を着想したよ。最近では脱構築の対象だけれども。


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