第19章 家族計画と白人性
−強制された近代家族−

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要約

19世紀半ばから現れた新マルサス主義者たちは、人口過剰が貧困をもたらすとしたマルサス理論を認めたうえで、禁欲ではなく、避妊を行うことによる出生制限を主張した。避妊知識を大衆的に広めようとするバース・コントロール運動が、第一次世界大戦後に欧米や日本で盛んとなったが、これは、単に人口抑制のためだけではなく、女性の意思を尊重するためにも不可欠な知識であるとした。

しかし、これらの言説や運動は優生学との関連しており、出生制限が必要な人々として想定されていたのは貧しい労働者階級の人などであった。 バース・コントロール運動は40年代に入ると家族計画と呼ばれるようになった。この用語の変化は、運動が当初持っていた女性の自己決定の尊重という側面が後退したためであった。

 第二次世界大戦後、出生抑制の舞台は、欧米からアジアやアフリカなど途上国へ移行した。こうした動きは最初、政府ではなく、ロックフェラー財団などに代表されるアメリカ資本主義を象徴する多数の民間団体によって先導された。これら団体は国際機関としての装いをこらすことによって、先進国による人口抑制に対する第三世界からの反発をかわす狙いがあった。アメリカ政府も、80年代初めまでには、全世界における人口関連援助のほぼ半額を拠出するに至った。さらに、大学にも種々の財団からの寄付によって人口学の講座や研究施設が作られ、そこで政策と結び付いた人口学の制度化が推進され、また、途上国から招かれた人々が専門家として養成された。

しかし、工業化や経済発展のための前提条件を欠く途上国においては、子供こそが労働力であり老後の生活保障であったし、高い乳児死亡率や女性の地位が示すように家族計画は非合理的であった。そのため、家族計画の導入はしばしば強引な手段に訴えざるをえなくなった。インド政府も男性を標的とした不妊手術キャンペーンを展開したが、この強引なやり方は特に男性の反発を招いて、総選挙でガンジー政権が倒れる一因になったと言われる。これ以後、不妊手術の対象は女性に移った。不妊手術や子宮内避妊具の装着に同意すれば褒賞金などが支払われるというインセンティブが実行された。

家族計画援助の中で新しく開発された避妊法は全て女性がターゲットになっており、それに伴う健康上のリスクも専ら女性が負っている。そして、これら新しい方法を共通して貫いている技術開発の考え方は、安全や健康面の配慮よりも、当事者の意思に関わりなくいかに効率的に出生を抑制できるかという極めて機械的で権力主義的な管理の思想である。

用語解説

感想

人口問題は、環境学の中でも極めて重要な位置を占めている。本文にも引用されているポール・エーリックの「人口爆弾」は60年代急激な高まりを見せた環境保護運動との関連なしには語れない。バース・コントロールや家族計画の歴史的変遷、特に第二次世界大戦における、アメリカを中心に途上国を対象として推進された家族計画がわかりやすく語られている。人口転換理論に基づくこれら先進国主導の家族計画援助は、インドの例のように失敗ばかりであった。では何がいけなかったのだろうか?荻野さんはインドを例にとったが、その失敗理由については途上国一般と変わらないものを挙げたようだ。しかし、インドを挙げておきながら、ヒンドゥー教における女性の地位、農村などで根強く残るカースト制度といった文化的側面を提示しないのは違和感がある。インドが30年以内に中国を抜いて世界で最も人口の多い国になるが、その根本的要因は社会慣習的なものだ(経済発展、医療技術の進歩等は当然として)。 西欧中心主義に基づく強制的家族計画の導入が白人性との関連で語られている。11分の3を割く避妊テクノロジーの説明は興味深かったが、最後の「破壊的で権力主義的な管理の思想である」という結論で終わるのは歯切れが悪かった。この点を否定的に考えているのなら、それに対する解決策や現在進行中の解決策でいいと思えるものを提示すべきなのでは、と思った。というよりは3ページも保健 の教科書で書いてあることを言うよりは、もっと他のことが可能なのではないだろうか。それこそインドならバイオパイラシーとの関連で家族計画を語れば新しい研究だろう。 まあわかりやすかったので難しいのよりはよかったです。

コメント 発展途上国で一般的に家族計画が成功しない場合、その理由を考えるには、一般的な原因をまず考えるのが普通だと思いますが。社会習慣に根本的な要因があるとしても、発展途上国で一般に適用可能な社会習慣を指摘する必要があるのではないでしょうか。私も、インドの文化との関係には興味はありますが。バイオパイラシーbiopiracyとの関連でというのは、あまり意図がわかりませんでした。


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