演劇学研究室はこんなところです

 

 演劇学というと、俳優や演出家などの養成コースのように思われることが少なくありませんが、我々の演劇学研究室は、そのような実践家を育てるのではなく、演劇を学問的に扱う日本でも数少ない研究室の一つです。演劇はおよそ2500年の歴史を持つ人間の芸術活動ですが、そのあり様は時代や地域によっておよそ異なってきました。演劇の研究とは、そのような演劇の事象を個別的に扱いながら、そこに共通する演劇性を見出し、同時に微細な差異性にもこだわる、雄大でかつ繊細な研究を基礎としています。

 演劇の事象は人が演じることが基礎になっていますが、それは上演が終われば跡かたなく消え去ります。演劇学はそのような後には何も残らない上演作品を研究するのが仕事です。そこには扱い難さもありますが、同時にまた独自の魅力も潜んでいます。上演について残された書き物や図版、衣装や装置などがさしあたりの手がかりとなるでしょう。もちろん、劇(戯曲)はその最大の手がかりになります。劇の読解は、演劇史の理解とともに、演劇学の基礎になります。私たちが基礎研究を重んじる理由はそこにあります。

 しかし、このような仕事は演劇の過去にだけ向けられているわけではありません。演劇はいつも今、ここ、でしかあり得ない芸術です。現在の演劇は過去の演劇が培った土壌に出来上がっているのです。そのため演劇学は現在の演劇にも、そしてつまりは演劇の未来にも深い関心を持つ学問であらざるを得ないのです。例えば、19世紀の終わり頃の北欧の劇作家の劇や、16世紀のエリザベス朝時代の劇作家、さらには紀元前5世紀の古代ギリシャの劇詩人の書いた劇を、今もって、しかも日本語で上演しています。それを何の不思議もなく観劇するわけですが、私たちはそこに演劇の意味を考える、これは過去にも現在にも関わる、壮大な知性の仕事に他なりません。

 私たちの研究が、現代社会と密接に関係を持てるようにするために、私たちの研究室では、直接の演劇の現場に関心を持ち、また実際に足を運んでいます。授業の一環として、観劇実習というものがあります。これは授業として観劇して劇評を書くものです。能、歌舞伎、浄瑠璃から、新劇、ダンス、ミュージカル、前衛演劇まで、現代演劇のあり様を、その幅と歴史的なつながりの中で考察しようとしています。また授業として、実際に演劇を上演したり、演出家のワークショップを開いたり、また劇場に制作スタッフとして実際に研修を行ってもいます。私たちの演劇学は開かれた学問でありたいと考えているのです。

 私たちが対象にする演劇の幅は広大です。日本の伝統演劇から西欧の近現代演劇は言うまでもなく、多種多様に展開する現代の舞台芸術全般を射程に入れたいと思っています。このように演劇を専門に研究できる場所は日本でもそう多くはありません。いちど私たちの研究室のドアをのぞいてみませんか。




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