研究室だより(2003.7〜)

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■平成15年度,卒業式及び学位授与式(04.3.25)

 3月25日,本学吹田キャンパスにて卒業式・学位授与式が行われた。今年度,東洋史研究室の学位取得者・卒業生は以下の通り。

 ○博士(文学)学位取得者 4名
  萩原 守(神戸大学助教授)
  佐藤貴保
  上谷浩一(社会人) 橋本浩一(社会人)

 ○博士前期課程修了者 4名
  宅見有子  田先千春  田村 健  山本明志

 ○学部卒業生 11名
  石附 玲  浦川政輝  勝田尚孝  島田亜由子
  砂田篤子  牧野直子  松本真由美
  高月亮子  香月寛之  小松允彦  清家康尊

 学位授与式の終了後,東洋史研究室にてささやかに茶話会がひらかれた。常日頃文献が散乱して殺風景な研究室も,この日は卒業生・修了生の晴れ姿によって華やかに彩られていた。研究室に残る者も,研究室から巣立つ者も,一同,今後の抱負や思い出話を語りつつ久方ぶりに和やかな時間を過ごしたのである。
 学位を取得された皆様,東洋史研究室で学び得た知的財産を活かしつつ益々ご活躍されることをお祈りいたします。

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■研究室図書インスペクション(2004.3.9-11)

 3月9日〜11日の三日間,毎年恒例のインスペクションが行なわれた。
インスペクションとは阪大東洋史独自の蔵書整理のことであり,研究室に配架されている図書現物と研究室備え付けの図書カードとを実際に対照させ,登録された図書とそのカードとが遺漏なく存在するかなどを調査する,研究室を挙げての一大行事である(過去の研究室便りも参照されたい)。このインスペクションのおかげで,我が阪大東洋史学研究室で学ぶ者は多くの専門書・図書資料の極めて正確な配架位置を知ることになり,その成果を各演習で発揮していくのである。

 今年も昨年同様,和漢書班・洋書班・共通教育棟班・地図班の四班に分かれて作業を行なった。
 毎年,蔵書量が一番多い和漢書班のインスペクションは最多の人員が投入され,書名を読み上げる院生の怒号が飛び交う殺気だったものとなるのだが(その声を聞いた他の研究室所属の人々が恐怖心を抱くほどである),今年もその例に漏れず,院生・学部生ともども張り詰めた緊張感の中で真剣勝負とばかりに取り組んだ。しかしながら,書名の読み上げに慣れない者が多かったことにより,和漢書班は例年になく遅れをとり,院生の間には焦りと苛立ちが募ったようだ。最終日,書名を読み上げるその声はさらに大きくなっていき,それを聞いた学部生たちの間には恐怖のさざ波が広がっていった。
 そのような和漢書班とは対照的に,他班では和やかに作業が行なわれたようである。洋書班では今年度は著者名カードと図書とを照らし合せる作業が行なわれ,地図班では目録作りが昨年に引き続き行われた。阪大東洋史所蔵の図書・地図には貴重なものも多く,それらの所蔵確認や目録作りは研究活動を行う上で基本的かつ重要な作業である。
 インスペクションにこれだけ真剣に取り組むのも,当研究室の学問への姿勢の表れだと言えよう。

 最終日のインスペクション終了後には,追い出しコンパが構内の待兼山会館で行われた。各卒業生・修了生は別れの挨拶として研究室での思い出を語ったが,同時にその言葉には四月からの新生活への希望もあふれ出ていた。卒業生各位の今後の活躍を祈るばかりである。なお,進学する者はそれぞれマスター・ドクターとしての自覚を持ち,より一層学問に打ち込むことを期待する。

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■上谷・橋本(D3),博士学位請求論文公開試問(2004.2.14・17)

 課程博士学位請求論文の公開審査に,社会人ドクターである上谷浩一・橋本浩一の両名が臨んだ。
 14日は,上谷浩一「後漢王朝崩壊過程の研究」の審査が行われた。この研究は,(1)従来,外戚と宦官が交代で専権を振るった,(2)宦官・外戚を「濁流」と呼んで批判した「清流派」官僚が逆に弾圧されたという二つの視点から語られ続けてきた後漢時代政治史を,皇帝権力のあり方に注目して再構築したものである。そして後漢政治史は,台頭する「儒家官僚」と皇帝権力の間に対立軸を設定し,両者の相互関係の中で展開していくものであると結論付けた。
 審査にあたっては,後漢時代を研究されている東晋次氏(三重大学)を,副査としてお招きした。後漢時代のみならず中国古代史を通じた大きな視野から,質問がなされた。  17日は,橋本浩一「福建人民革命政府の研究―第三勢力による抗日民主政権の試みと国内外諸勢力―」の審査が行われた。1930年代を対象とする従来の研究では,南京国民政府と中国共産党の研究に関連するものが大多数であり,第三勢力である福建人民政府は等閑視されてきた。氏はその理念や主張,内外勢力の反応を中心に詳細に検討し,福建人民政府の成立とその試みが,単なる反蒋を目的としたものではなく,満洲事変より続く救国運動の一つであると再定位した。
 審査員からの試問では,近年の革命史観の変化という問題があげられるなど,様々な視点から討論が行われた。
 上谷・橋本両氏とも現職学校教員であり,激務の合間をぬっての執筆であったが,完成度の高い論文が提出された。審査においては,この点も大いに評価された。両氏の今後の活躍をお祈りしたい。

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■佐藤(D3),博士学位申請論文公開試問(2004.1.15.)

 課程博士学位請求論文の提出者である佐藤貴保が,公開試問に臨んだ。学位申請論文の題目は「西夏貿易史の研究」。
 公開試問での概要報告は,西夏語史料の実見に基づいた新たな発見も盛り込まれており,学部生をはじめとする臨席者は西夏史の最先端の研究成果を聴講することができた。
 概要報告の後,審査員から試問を,その他阪大東洋史の教官から質問を受けた。続けて神戸大学の萩原守氏・学振(阪大)の杉山清彦・学振(阪大)の坂尻彰宏からも質問・コメントがあった。史料の解釈に対してはもちろん,中央ユーラシア政権としての西夏の位置付けという問題もあげられ,活発な議論が発表者との間に交わされた。


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■横山(D5)・大坪(D1)・梶原(D1)が学会発表(2003.11.8-9)

 去る11月8日,本研究室の横山政子(D5)がアジア政経学会全国大会(50周年記念大会/於 一橋記念講堂学術綜合センター)で研究発表を行った。発表題目は以下の通り。

 横山政子「公共食堂運営からみた人民公社化過程における生産組織と家族─大躍進期黒竜江省を中心に─」

 また11月8-9日に開催された第101回史学会大会(東洋史部会)において,大坪慶之(D1)・梶原真(D1)の二名も研究発表を行った。

 大坪慶之「清末、清朝中央の重要政策決定過程」(11月9日)
 梶原 真「十九世紀前半、湖南省西部における屯田制設置とその社会的影響」(11月9日)
 ※大坪・梶原の発表要旨は『史学雑誌』112-12に掲載予定。

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■第二回修士論文構想発表(2003.10.9-11.6)

 10月9日〜11月6日にかけての合同演習で,今年度の修士論文執筆予定者四人による,本年度最後の構想発表が行われた。発表題目は以下の通り。

10月 9日 田村 健「9・10世紀のハザル王権」
10月16日 山本明志「モンゴル時代におけるチベット人の漢地―チベット間往来研究
                          ―人と物資の移動を中心に―」
10月30日 宅見有子「契丹前期における皇后と皇太后 ―皇帝との関係を中心に―」
11月 6日 田先千春「中国における蚕神の系譜 
              ―コータン“Silk God"『耕織図』の蚕神をめぐって―」

 いずれも修士論文たりうる,熱のこもった発表であった。あとは来年1月の提出まで,修士論文を執筆するのみである。

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■秋期大会は4位(2003.11.4)

 11月4日に行われた本学文学研究科のソフトボール大会。今回は大阪市住之江区の住之江公園という遠隔地で行われた。
 東洋史チームは,初戦を9対0と考古学チームに快勝したものの,つづく英語学チームに12対5で敗れてしまった。3位決定戦では,日本史チームに13対3と大敗し,結局,第4位という情けない結果に終わった。
 主将であるO坪は責任をとって,来期も采配を振るとのこと。次回は王座奪回がチームの至上命題。一致団結して,東洋史ソフトボール部(?)の再建に取り組まねばならない。

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■2003年度 第2回卒業論文相談会(2003.10.18-19)

10月18・19日の両日,2回目の卒論相談会が開催され,計12名が進捗状況を報告した。出来不出来の差こそあったものの,各人にそれぞれアドバイスや叱咤激励が送られた。二日目終了後は恒例のソフトボール練習で汗を流し,互いに卒論の完成(と春秋2連覇)を誓い合った。この機に高めた緊張感を持続させ,是非とも良い卒論を完成させてほしい。

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■桃木教授,在外研究へ(2003.10.1)

10月1日より年末までの予定で桃木教授が在外研究に出発した。滞在先は著名な東南アジア史家のアンソニー・リード氏が所長を務める国立シンガポール大学アジア研究所である。当地の研究者との意見交換は勿論だが,雑務に追われる日本での日常から離れ,研究に集中する予定である。

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■中田美絵(D3),向正樹(D3)留学(2003.9.30)

 本研究室の中田美絵(唐代仏教史)と向正樹(元代史)が中国留学に出発した。両人とも北京大学歴史学系中国古代史に高級進修生として受け入れられ,それぞれの研究の深化が期待されている。
 本研究室における博士課程の院生の海外留学は,昨年の笠井とあわせて3人目となり,後進の学生の研究意欲を大いに刺激している。将来,海外での研究経験を持つ院生が新たな風を研究室にもたらしてくれるであろう。

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■石川亮太,アジア太平洋研究奨励賞受賞(2003.9.17)

 本研究室博士後期課程修了の石川亮太(現佐賀大学経済学部専任講師)が,第二回井植記念「アジア太平洋研究奨励賞」佳作《アジア太平洋フォーラム・淡路会議 代表理事:井上敏(三洋電機株式会社代表取締役会長兼CEO)》を受賞した。受賞論文は,課程博士論文「近代朝鮮をめぐる国際流通の形成過程―アジア域内市場の中の朝鮮植民地化―」(2002年12月提出,2003年3月合格。審査教官:片山剛教授,桃木至朗教授,青木敦助教授)である。
 アジア太平洋研究奨励賞は,アジア太平洋地域の多様な文化が共生する“新たなアジア太平洋のビジョン”を明らかにするとともに、その実現に向けて社会に政策提案を行うことを目的として設立された「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」が,アジア太平洋地域に関する優れた人文・社会科学領域の博士課程論文を顕彰するものであり,(詳しくは,
http://www.awaji-conference.com/参照。)今回の受賞は,これから博士論文の執筆を目指す後輩にも,大いに励みとなる。
 なお,受賞論文の要旨は『大阪大学大学院文学研究科紀要』44,2004年に掲載予定。

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■COEシンポジウム@ハノイ(2003.8.31-9.1)

8月31日,9月1日の両日,ハノイ貿易大学構内の日越人材協力センター(VJCC)にて,本学21世紀COEプログラムの主催で「映像の力−日越両国文化の比較と交流のために」と題するシンポジウムが開催された。

桃木教授が山口修名誉教授(音楽学)とともに企画・運営に当たり,当日も司会進行役を務めた。また,蓮田(D2)は藤岡穣助教授(美術史)の報告にて通訳を担当したほか,2日目の学術討論会(「語られるものと書かれるもの−若手による日越の文化比較と共同研究」)では"Lich su Viet Nam the ky 17 qua hai ban bo Dai Viet Su Ky Ban Ky Tuc Bien ――so sanh noi dung hai ban NVH va ban Chinh hoa――"と題する報告を行った。

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■ベトナム村落調査と記念シンポジウム(2003.8)

毎年恒例,夏のベトナム村落調査が行われた。今年は最初の村落調査から10年になることを記念して「近十年のバッコックむら調査プロジェクトとベトナム村落研究」と題する国際会議を、8月17日は調査村であるバッコック村の属するナムディン省にて,19・20の両日はハノイにて開催した。合作社大会が地元で開催される多忙な時期にもかかわらず,村の幹部たちも挙って参加してくださった。当研究室からも三名が参加し,桃木教授が"Nam Dinh trong thoi Ly-Tran"(李陳朝時代のナムディン)と題する報告を行った。

会議終了後,桃木教授,蓮田(D2),岡田(M2,留学中)は,タインホア省およびナムディン省での調査を行い,17世紀の勅封をはじめ,多くの興味深い資料を収集した。

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■COE,夏期海外調査(2003.8.9-9.6)

COE「シルクロードと世界史」班プロジェクトの一環として,本研究室の坂尻彰宏(学振研究員)・赤木崇敏(D2)・鈴木宏節(D1)の三名が,8月〜9月にかけて海外調査を行った。坂尻・赤木は8月17日〜9月2日まで,大英図書館及びフランス国立図書館で敦煌文献の調査,鈴木は8月9日〜9月6日まで,モンゴルで碑文の採拓及び遺跡の発掘に当たった。

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■張銘心,博士学位申請論文公開試問(2003.7.29)

7月23日の朱海濱に続き,29日に同じく本学大学院客員研究員である張銘心の博士学位申請論文『トゥルファン出土高昌墓磚の源流とその成立』の公開試問が行われた。

張銘心は北京故宮博物院陳列部金石組学芸員を経て,1999年に大阪教育大学大学院の修士課程を修了。その後,本学の荒川教授の下で高昌墓磚を中心とした研究を行ってきた。

張銘心は本学位申請論文にて,中国内地出土の墓誌を形態によって分類し,さらに高昌墓磚の源流が中国内地墓誌にあることを発見した。

中国内地からトゥルファン地方への文化変容の様相や論文作成のメソッドなどに関して問題点が多々指摘されたが,本論文は,現在確認できる300点以上もの高昌墓磚を資料集成としてすべて網羅した点,それらを通じて多数の興味深い事実を発見した点,また外国語である日本語で本論文を執筆した点が評価された。

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■非公式卒論相談会(2003.7.24-25)

かつては年3回開催されていた卒論相談会だが,近年の就職活動状況を受けて数年前より春と秋,年2回の開催となっていた。

とはいえ,大学院進学希望者を中心に開催を望む声も根強く,ここ数年は報告希望者と院生有志のみによる“非公式”相談会を開催している。趣旨は第一回相談会以降の進行状況を報告し,夏期休業中に取り組むべき作業についてアドバイスを受けるというものである。

本年は進学希望者も多いため二日間,総勢10名が報告を行った。院生陣の放つ厳しい突っ込みの前に,文字通り「顔色なし」となる者もいたが,ともかく各々今後に為すべきことが明確になった。アドバイスを生かして有意義な夏休みを過ごして欲しい。

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■朱海濱,博士学位申請論文公開試問(2003.7.23)

 去る7月23日,本学大学院客員研究員である朱海濱の博士学位申請論文『明清浙東地域の民間信仰』の公開試問が行われた。
 朱海濱は復旦大学で歴史地理学を学んだ後,大阪大学に留学し,濱島・片山両教官の指導のもと,現在も未解明の部分が多い明清時代の民間信仰について,五年間研鑚を重ねて来た。今回の試問では,主査として指導教官の片山教授,副査として桃木教授・青木助教授,及びかつての指導教官たる濱島名誉教授がそれぞれ審査に加わった。
 試問前半は朱海濱から,約一時間ほど博士論文の概要報告があり,つづいて審査員からの質疑に移った。そこでは,論文の作法から,論旨に関わる論点まで白熱した議論が展開された。
 本論文が,浙東地域の民間信仰について,広範な史料の渉猟を通じて,多数の興味深い事実を発見した点,また外国語である日本語で本論文を執筆した点は高く評価された。

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■鈴木(D1)野尻湖クリルタイで発表(2003.7.19-22)

 7月19日から開催された第40回野尻湖クリルタイ(日本アルタイ学会)で,昨年度の杉山清彦・佐藤貴保に引き続き,本研究室の鈴木宏節が研究発表を行った。題目は「覊縻支配期から第二可汗国勃興期の突厥について―阿史那思摩の系譜問題を中心にして―」で,要旨は『東洋学報』の彙報(本研究室の杉山清彦が執筆担当)に掲載予定。

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■桃木教授,シンガポールシンポにて発表(2003.7.18-19)

7月18-19日の両日,シンガポール国立大学にてSoutheast Asia in the 15th Century: The Ming Factorと題するワークショップが開催された。本学の桃木教授も招待報告者として参加し,これまでほとんど活用されてこなかった風水関係史料を取り上げた"Nation and Geo-Body in Early Modern Vietnam: A Preliminary Study through Sources of Geomancy"と題する報告を行った。

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■集中講義(2003.7.14-18)

 7月14日から7月18日にわたって集中講義が開講され,小牧昌平先生(上智大学外国語学部教授)が五日間の講義を担当された。「新しいイラン世界像の可能性をめぐって」というテーマのもと,本学のカリキュラムではなじみのうすいイラン・西アジア地域の近世史・近代史を中心に講義が行われた。

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大阪大学大学院・文学研究科・東洋史学研究室