研究室だより(2006.04〜) |
8月1日から3日にかけて、第四回全国高等学校歴史教育研究会が開催された。
本会は、教育の現場を担う高校教員と研究の最前線で活躍する大学教員とが、連携して新たな歴史教育を創造することを目的としている。21世紀CОEプログラムの一環として2003年に始まり、今回が最終年度となる。なお2005年秋には本会をさらに充実させるべくIAE研究会(詳細はこちら)が発足しており、その成果を発表する場にもなっている。
今年度も、本学の大学教員(日本史・西洋史・東洋史)による最新の研究成果報告と、高校教員による授業実践報告がなされた後、質疑応答と討論が行われた。本研究室からは、森安孝夫教授と桃木至朗教授が講演を行い、山内助手と前助手の杉山清彦氏(現.駒澤大学専任講師)も臨席した。最終年度である今回は特に「歴史学と歴史教育の連携について」と題したグループ討論会の場が設けられ、少人数で、教育方法に関する4年間の研究成果が総括された。
夏休みが近づく7月27日,非公式の卒論相談会が行われた(この会の発足の経緯については,2003年の「非公式卒論相談会」の記事を見られたい).4年生の希望者三名が発表し,現在の作業状況と夏休みに向けた作業目標を報告し,研究室有志の参加者が論文・史料に関する情報や叱咤激励などの助言を行った.昨今の学期日程などを鑑みるに,卒論を執筆するうえで夏休みの重要度は増したように思われる.発表者は学問的なものだけでなく,精神的なアドバイスも励みに充実した夏休みをおくってほしい.(T)
7月15日から18日にかけて第43回野尻湖クリルタイ(日本アルタイ学会)が開催された。この通称「クリルタイ」とは、故山田信夫教授らがその設立と運営に尽力された学会であり、日本国内の内陸アジア研究者の交流と専攻分野を越えた学際的発展を図るために受け継がれてきた。毎年、歴史学分野以外にも言語学や文化人類学などからの報告が企図されている。現在は研究会合宿の形態で開催されており、当研究室の出身者も多く参加している。本年は当研究室から5名が参加し、そのうち博士後期課程の田村健(D2)と白玉冬(D1)が研究発表を行った。
白玉冬は「8〜9世紀の九族タタール」と題して研究発表を行なった[7月16日/右写真]。白は遼寧省出身の留学生で、昨年、日本語で修士論文を提出しており、今回はその修論の一部を日本語で口頭報告した。当該時代のモンゴル高原の状況を、漢文のほか複数の史料を用いて整理・考察することが発表の眼目であった。ウイグル崩壊以後、モンゴル帝国勃興以前のモンゴル高原の歴史についての研究は寡少であり、白の研究はそれを補う意義あるものとの評価を得た。
一方、田村健の発表は「ハザルのユダヤ教改宗に関する諸問題」であった[7月17日]。ハザルとは7〜10世紀頃に現在の北カフカス地方を中心に勢力を有したトルコ系の遊牧国家である。発表で触れられる史料は、イスラーム文献からギリシア語・ヘブライ語史料などにわたり、ユーラシア全般の研究者が集うクリルタイに相応しい発表であり、専家との議論が交わされた。
また、関西大学の森部豊氏によって、昨年の夏、森安教授が主催した考査旅行の成果を取り込んだ発表「河北地域新出土のソグド人石刻資料」が行われ[7月16日]、同行した本研究室の鈴木(D4)、山本(明/D3)、白玉冬らもコンフェッションなどでその調査旅行の成果を報告している。
今回のクリルタイ全参加者や発表についての概要は『東洋学報』彙報欄に掲載予定である[萩原守氏(神戸大学)執筆予定]。(S)
6月26日(月)から29日(木)にかけて、前期の集中講義が開講された。今回は東京大学より吉田光男先生をお招きした。
吉田先生は韓国近世社会史がご専門で、東京外国語大学外国語学部助手・専任講師・助教授を歴任後、東京大学人文社会系研究科教授に就任された。著書として『韓国朝鮮の歴史と社会』(放送大学教育振興会,2004年.)などがある。
講義は「血縁・地縁・学縁─韓国近世の社会結合─」と題され、韓国近世すなわち朝鮮王朝時代の歴史を、その政界において形成された人的結合を中心に解説するものであった。特に官僚とその予備軍からなる士族の強い結合関係が指摘され、そこから朝鮮王朝社会の特質や近世史全体の概観が述べられた。
専門事項が解説される中で、しばしばサブカルチャーを中心とする現代日本人の韓国・朝鮮認識がとりあげられた。また、近世において形成された社会的結合と、現代における社会的結合との連続性が強調されたため、我々に身近なものとして、強い関心・問題意識を喚起する内容となった。受講者にとっては、韓国のみならず日本を知る上でも、さらには近世のみならず現代を知る上でも、刺激的な機会であったと思われる。(M)
6月15日・6月22日・7月6日の三回の合同演習を利用して第一回目の修士論文構想発表が行われた。発表予定者5名のうち4名が就職活動を並行させていたが、5名全員がレジュメ提出期限(発表1週間前)を遵守した上で、口頭報告を終えることができた。近年、修士課程(博士前期)の修業年限中に就職活動を行うケースが増えており、修士課程の院生は、従来以上に、効率よく時間を使う能力が要求されている。
口頭報告後、例によって、学部学生・博士課程(博士後期)の院生から教員に至る研究室のメンバー全員で、遠慮なく質疑応答が行われる。当然のことながら、発表の聞き手(論文では読者)を納得させ得る史料操作・論理展開が求められ、語句の説明から概念定義にいたるまで論点は多岐に及んだ。とりわけ実証論文の根幹となる史料の読みについては検証のための質問が投ぜられる。そして今回は修士論文の全体構成についてもしばしば追及がなされ、発表者の今後の作業を大きく左右する議論が展開された。
《発表時の修論仮タイトル》
6月15日これにて発表者各自は以後の作業方針が固まったと思われる。10月には第二回の構想発表が行われるが、精緻な論文を目指し、限られた時間のなかで作業を継続して欲しい。(S)
6月13日から18日にかけて、山内助手が科研「にんぷろ」・朝鮮班の済州島調査に参加した。今回の調査は、朝鮮中・近世の諸史料に記載される、半島西南部の島嶼や済州島の港津の現地調査を目的とするものである。
火山島である済州島の港津のほとんどは、溶岩が海岸と海底を覆い、水深や入江もかなり浅く、日本の港津を見慣れた目からすれば、けっして「天然の良港」とはいえないものばかりである。ところが、近年の文献史学においては、前近代の済州島の人々が、海上交通を通じて島外の諸地域とさまざに交流していたことが解明されてきている。前近代の済州島におけるこのような活発な対外交流と劣悪な港津の状況とを、どのように整合的に理解すればよいのか、さらに文献研究や実地調査が必要である。(Y)
6月14日(水)、台湾中央研究院・歴史語言研究所の研究員である于志嘉先生を大阪大学にお招きし、ご講演いただいた。先生には、主要著書として、『明代軍戸世襲制度』(学生書局,1987.)が、主要論文として「明代軍戸の社会的地位について―科挙と任官において―」(『東洋学報』71-3・4,1990,pp.311-351.)などがあり、明代の軍制史と軍戸社会史がご専門である。
講演は「論明代軍戸制度中"戸名不動"代役的現象」と題され、明代の「軍戸」、すなわち軍籍を世襲する家系のうち武官となった人々のリストである「衛選簿」や、それら家系の族譜などの史料を利用し、王朝による人民把握の方法という観点から明代の軍制を考察するものであった。明代の軍戸研究は従来少ないこともあり、大変貴重な機会であった。(M)
合同演習で、恒例の3回生による論文紹介が行われた。この演習では、発表論文を読んだうえで出席することが参加者全員に義務づけられているため、発表人数が11人と近年まれにみる多さであった今年度は、報告を聞く側にとっても大変な一ヶ月であった。
多くの3回生にとって、50人近い人々を前に発表するのは初めての経験であり、質疑で立ち往生してしまう場面なども見られたが、発表自体は要領よくまとめられたものが多く、質問されたことに対して初学者なりになんとか説明しようという気概が感じられた。
例年論文紹介を聞いているドクターの院生などからは初発の関心をもっと大切にして、なぜそのテーマを選んだのかという点をもう少し詳しく説明するようにという発言や、レジュメの体裁を聞く側にとってもっとわかりやすいかたちに工夫すべきだといったアドヴァイスもあった。これらの指摘は、卒論作成の過程だけでなく、実社会に出てからの様々な場面でも重要な、説明能力や宣伝能力を養うことが重要であるということを念頭においたものである。3回生には、来年度の卒論完成に向けて、自身が選んだテーマに関して様々な可能性を柔軟に考える能力や、それを他人にうまく説明する能力などを意識的に養っていってほしい。 (T)
サントリー文化財団の助成を受けて、ミシガン大学のJohn K. Whitmoreが来日された。来阪は昨年に引き続いて2度目である。ウィットモア先生はアメリカにおける実証的ベトナム前近代史研究のパイオニアであり、15世紀の政治史を中心としながらも、多方面に渡って多数の論考を発表されてきた。
このたびは、‘The Balance of Aristocratic and Literati Administration in Dai Viet, 15th-18th Centuries.’と題して講演された。年来のご研鑚の成果を踏まえた上で、近世ベトナム政治史を貫く通時的特徴を論じたもので、議論も密度の濃いものとなった。
桃木至朗教授と藤田加代子(COE特任研究員)とは、シンガポール大学アジア研究所(ARI)にて開催されたASIAN EXPANSIONS: THE HISTORICAL PROCESSES OF POLITY EXPANSION IN ASIA(12-13 May 2006)と題するワークショップに招待され、報告を行った。報告題目は以下の通り。
桃木教授と同じセッションで報告したJhon K. Whitomre教授(ミシガン大学)は、ワークショップ終了後に来日し、阪大にて講演を行った。また、この機会を利用して今秋に本学COEプログラムとARIが共催する国際シンポジウム(Dynamic Rimlands and Open Heartlands: Maritime Asia as a Site of Interactions. 28-29 Oct. 2006 於 長崎歴史博物館)に関する打合せも行った。