研究室だより(2006.8.〜) |
今年度は3名が課程博士学位請求論文を提出し、その公開試問が行われた。学位請求者の試問期日と題目は以下の通り。
◎2月2日(金) 中田美絵「安史の乱後の唐朝と仏教」
◎2月2日(月) 向 正樹「モンゴル帝国の海上進出まで―コネクション・軍事集団・海上勢力―」
◎2月9日(金) 赤木崇敏「河西帰義軍節度使政権の研究」
公開試問は、申請者による論文の概要報告(40分程度)、主査・副査(2名)の教員からの試問・コメント(1時間程度)、教員・学生ら参加者からの質疑という形で行われた。
本研究室の院生・学生、学外からの参加者を含め、総勢60名ほどの参加があり、盛大に行われた。
学外からは、中田の試問に白須浄真氏(比治山大学)、影山悦子氏(神戸市外国語大学)、向の試問に堤一昭氏(大阪外国語大学)、清水和裕氏(神戸大学)、菊池忠純氏(四天王寺国際仏教大学)四日市康博氏(九州大学)、赤木の試問に松井太(弘前大学)、馮培紅氏(蘭州大学敦煌学研究所、本学客員研究員)にご参加をいただいた。(T)
12月7日(木)と10日(日)の二日にわたり、3回生による卒論相談会が行われた.これは、来年度執筆する卒業論文の準備として、3回生が自身の現在の関心を明確化するために数年前から行われている。今年は10人の発表者があり、中国史を主とする学生が宋から清末〜民国初を、中央アジア史を主とする学生が、五胡十六国〜北朝の鮮卑・匈奴、吐谷渾、五代沙陀政権、モンゴルをテーマに取り上げた。
論文作成の過程では、史料や先行研究に引きずられて当初の関心を見失うこともある。そうした際に今回、自身の関心を明確化したことが、必ず役に立つはずである。常に自己との対話のなかで、研究をすすめてほしい。(T)
去る12月2日(土)から3日(日)にかけて,大阪大学において国際ワークショップ「近代東アジア土地調査事業研究」が開催された。この国際ワークショップは科研研究「1930年代広東省土地調査冊の整理・分析と活用」(基盤研究(A),2005〜2008年度)の一貫として,科研代表者である片山剛教授の主催で行われた。国外からは,報告者として国立台湾科技大学副教授の陳淑銖氏を,コメンテーターとして韓国の成均館大学校から宮嶋博史教授を迎えた。また国内からも関心を同じくする研究者が多数参加し,白熱した議論が交わされた。(開催の経緯,参加者等はこちらを参照。)
片山教授は今年台湾の国史館で発見した,長江下流域のある中洲の「地籍公布図」から見える中国農村社会を検討した。この新発見の「地籍公布図」は中華民国末期に作成されたものであり,中国において土地一区画ごとの利用形態・面積・所有者名・佃戸名等が記された詳細な地籍図は非常に珍しく,土地開発のあり方や農民の「生活空間」など,さまざまな事柄をうかがい知ることができる。
興味深い4本の報告に対し, 8人の刺激的なコメントが寄せられた。朝鮮・台湾・沖縄・満洲など東アジア全体における近代土地調査事業の意義や研究上の問題点といった大きなテーマから,片山教授の発見した「地籍公布図」は"なぜ貴重か"という根本的な問題まで,さまざまな意見が飛び交った。
地域・時代・テーマを共有した研究者同士の今回のワークショップは,参加者全員にとって有意義なものであったに違いない。片山教授も閉会の辞において「今回のワークショップの意見をふまえて研究を進め,またこのような機会を設けたい」と述べていたように,さらなる研究の深化が期待される。
最後に「地籍公布図」の数千にのぼる情報のデータベース化に尽力した院生・学部生,またワークショップ当日において運営を担当した中国史院生の働きがあったことも付記しておきたい。(Y)
11月6日(月),文学部研究室対抗の秋期ソフトボール大会が,猪名川河川敷において開催された。今年度の東洋史チームは,未だかつて無いほどの「打線の細さ」というもっぱらの噂であるが,堅い守備と黄色い声援で王座を狙った。若い力の台頭により,結果は何と無敗の2勝1分であった。
第1試合は無難に勝ち進み,決勝進出のかかった第2試合。相手に終始リードを許すも,最終回2アウトという土壇場で,代打T辺が同点タイムリー。試合はジャンケンに委ねられた。しかしキャプテンI藤が痛恨の敗北。決勝進出を逃した。3位決定戦は何とか勝利し,結果は無敗にもかかわらず,3位であった。
合同演習を利用して第二回目の修士論文構想発表が行われた。発表者5名はそれぞれ1コマを与えられ,およそ口頭報告90分・質疑応答30分一本勝負に臨む。もちろん発表者はレジュメの事前提出をクリアしており,教員から学生まで予習を済ませたことが前提の真剣勝負である。
口頭報告では修士論文の全体構成が示され,二回目の今回は各自論文の最重要部分を解説している。それぞれのオリジナリティが問われる部分であるが,それだけに厳密な史料批判が求められる。
忌憚なく質疑応答が行われるのは風物詩である。発表技術のお陰か,第一回目の発表内容の浸透か(あるいは前回発表レジュメを持参していたからか:各自持参してね!),今回は語句・用語に対する質問は少なかった。一方,史料の読みや行論に対して以前にも増して厳しい質問が続々と繰り出された。発表者にはオリジナリティや実証論文そのものを支える史料操作についての説明責任があるからである。読み手を納得させ疑問を払拭させる(もちろん誤解・疑義を与えない)論理構成をうみだすのが,この合同演習なのである。
なお,合同演習終了後も発表者を捕まえては質疑応答で伝えきれなかった疑問点・改善点を遠慮なく投げかける様子が見られるのもまた風物詩である。それは時代・分野の別を問わない。
冬の足音が聞こえる11月,締め切りまで2ヶ月を残すのみとなったが,各自3年間の集大成をなすべく作業を継続して欲しい。かような課程を経て磨かれた論文が一本でも多く斯学に寄与せんことを研究室一同が熱望している。(S)
10月30日(月)、待兼山会館にて、“Time, Space, and Economic Institutions of Early-Modern Maritime Asia”と題する研究会が開催された。報告者はいずれも直前に長崎で行われたCOE−ARI共催国際ワークショップ参加者で、西洋史研究室の秋田教授が主催するグローバルヒストリー・セミナーとの共催となった。演題は以下の通り。
Roy Bin Wongロイ・ビン・ウォン教授(UCLAアジア研究所所長)“Maritime Asia in the Longe Durée: Institutional Change in Regional Focus“
George Bryan Souzaジョージ・ブライアン・ソウザ教授(国立シンガポール大学アジア研究所客員研究員)“On Sea, on Land“
ウォン教授の報告は、グローバルヒストリーとローカルヒストリーとの関係をとば口に、グローバルヒストリーの可能性をめぐる、理論的問題を扱った。対してソウザ教授は、近著のIntroductionを解説する形で、実証研究からグローバルヒストリーへのアプローチの在り方について、自身の見解を披露された。研究会は、日東西の史学3分野を越えた30名余の参加者を得て、東洋史の院生も積極的に英語で質疑に加わるなど、盛会の裡に幕を閉じた。両先生は長崎ワークショップからの強行日程にもかかわらず、懇親会の席を含めておつきあい頂き、有益かつ濃密な議論が展開された。(H)
平成17年度〜20年度にわたる科学研究費補助金(基盤研究A)「シルクロード東部地域における貿易と文化交流の諸相」の一環として、昨年に引き続き、本研究室の森安孝夫教授を団長とする考査団が中国北部〜西北部の景観調査および出土文物の調査を行った。河北省に始まり、山西省・陝西省を経て、河西回廊を通過して敦煌に至る今年の旅程は、文字通りシルクロード東部を横断するものであった。
今年度は、本学の荒川正晴教授のほか、本研究室の赤木崇敏・鈴木宏節・白玉冬らが同行。さらに、早稲田大学教育学部 石見清裕助教授、弘前大学人文学部 松井太助教授、関西大学文学部 森部豊助教授など、学外の研究者も多数参加し、総勢は16名を数えた。
今夏の調査ルート及び調査地の詳細は以下のとおり。
北京→居庸関→張家口→フフホト(内蒙古大学・単于都護府遺跡・武川県 西烏蘭不浪鎮)→固陽県(懐朔鎮遺跡)→包頭→バインノール→阿拉善左旗→西夏王陵→銀川(塩池県 何府君墓)→須弥山石窟→固原(寧夏固原博物館・史氏一族墓群・李賢夫妻墓)→富県→
西安(陝西省考古研究所・陝西省文物保護考古研究所・陝西歴史博物館・昭陵・昭陵博物館・碑林博物館)→
天水(天水歴史博物館)→蘭州(甘肅省博物館・甘肅省図書館・蘭州大学敦煌学研究所)→武威(文廟 武威市博物館・武威西夏博物館)→焉支山→張掖(大仏寺 張掖市場博物館・合黎山)→酒泉→安西(楡林窟)→敦煌(敦煌研究院・莫高窟・西千仏洞・党河故城)→北京
8月19日から9月2日にかけて、片山剛教授が、台湾で調査を行った。これは片山教授を代表とする、近代の中国大陸における土地調査事業に関する研究の一環で、本研究室からは大坪慶之(博士後期課程3年)・山本一(博士後期課程1年)の2名も参加した。
今回の調査における成果については、本年12月に開催される国際ワークショップにて、詳しく報告される予定である。(O)
鈴木宏節(博士後期課程3年)が、8月7日から26日の20日間、モンゴル国で突厥関連遺跡調査に従事した。本研究室OB、大阪国際大学の松田孝一教授を代表とする学術振興会科学研究費補助金「内陸アジア諸言語資料の解読によるモンゴルの都市発展と交通に関する総合研究」によるもので、その研究分担者である大阪外国語大学の大澤孝助教授とともに、鈴木はその研究協力者として渡蒙した。
鈴木は第九回国際モンゴル学者会議の日程にあわせて首都ウランバートル市に入り、8月10日、そこで学術報告(タイトル:On the Tribal Composition of the Second Türük Qaγanate - An Approach from the Turkic Inscriptions in Mongolia -)を行い、市内の民族歴史博物館などの諸機関で古代トルコ時代の遺物調査も行った。
その後、8月13日から24日が国内の突厥関連遺跡の調査にあてられた。調査ルートはトーラ河流域からオルホン河流域に西進したのち、ハンガイ山中を周回するというもので、踏査した遺跡はホショーツァイダム遺跡をはじめ十ヶ所以上にのぼった。
8月1日から3日にかけて、第四回全国高等学校歴史教育研究会が開催された。
本会は、教育の現場を担う高校教員と研究の最前線で活躍する大学教員とが、連携して新たな歴史教育を創造することを目的としている。21世紀CОEプログラムの一環として2003年に始まり、今回が最終年度となる。なお2005年秋には本会をさらに充実させるべくIAE研究会(詳細はこちら)が発足しており、その成果を発表する場にもなっている。
今年度も、本学の大学教員(日本史・西洋史・東洋史)による最新の研究成果報告と、高校教員による授業実践報告がなされた後、質疑応答と討論が行われた。本研究室からは、森安孝夫教授と桃木至朗教授が講演を行い、山内助手と前助手の杉山清彦氏(現.駒澤大学専任講師)も臨席した。最終年度である今回は特に「歴史学と歴史教育の連携について」と題したグループ討論会の場が設けられ、少人数で、教育方法に関する4年間の研究成果が総括された。