『續ソフトボール實録長編』卷五,二〇〇七年秋之條

伊藤一馬 撰

 

●第一試合(対国文学戦)※「+」得点は女性点

 

東洋史学

国文学

+

 初戦の相手は「赤い彗星」の異名をもつ快速投手を擁する国文学。いきなり春季大会の決勝戦の再現となった。初回、東洋史打線は、打撃復調に燃える主将・I藤のヒットを皮切りにT辺・O谷・T田の4安打を集中し、幸先よく2点を奪った。その後はチャンスを作るものの、さすがに赤い彗星を打ち崩すまでは至らず、追加点を奪うことができない。こうなったらこのリードをなんとか守りきるしかない東洋史は、先発・S藤を中心に自慢の鉄壁の守備陣が躍動する。S藤は丁寧な投球で打たせて取り、Y本(1)・I藤の二遊間、レフト・T辺が再三攻守を魅せて国文学打線を抑えていく。

しかし三回、一点を奪われる。なおも一死満塁の大ピンチを迎えるが、ライトフライで本塁を狙った三塁ランナーを、O坪の弾丸レーザービームキャッチャー・K川のナイスブロックで本塁突入を阻止した。両者相譲らず同点のまま五回裏を迎えた。ピッチャーS藤が二死からヒットで出塁を許し、続くバッターのライト前ヒットの間にランナーが三塁へ進塁。さらにわずかな連携の乱れに乗じ相手ランナーがサヨナラを狙って本塁に突入しようとしたが、ショート・I藤からキャッチャー・K川へボールが送られ、再びK川の体を張ったナイスブロックでサヨナラを阻止して試合終了。国文学打線を1点に抑えたS藤の好投が光り、強敵を相手に2−2の引き分けに持ち込んだ

 

 

●第二試合(対英米文学戦)※「+」得点は女性点

 

東洋史学

英米文学

+

 二試合目は強力打線が売り物の英米文学と対戦。東洋史は組長・Y崎が久しぶりに先発した。二回までは両者無得点で静かな展開であったが、三回から試合の展開は一変。東洋史が2点を先制すると、すかさず英米文学も2点を奪い同点。緊張感が漂う展開の中、東洋史は四回に失策絡みで2点を勝ち越して流れをものにする。五回には打者一巡の猛攻で4点を奪って試合を決定づけた。

守ってはY崎がS藤に負けじと、打たせて取る投球で強打の英米打線を封じ、守備陣もY崎の投球に応え完璧に打球を処理してアウトを積み重ねる。投打がかみあった東洋史は9−3で英米文学に快勝した。

 

 

●第三試合(対日本史学戦)

 

東洋史学

日本史学

 

第三試合はK泊助教率いる宿敵・日本史学戦。新戦力を加えて意気盛んな日本史打線に対するは、初先発に抜擢されたM木。この試合から駆けつけたY内助教が見守る中、試合開始。初回、鉄壁を誇る守備陣のわずかなほころびから一気に4点を奪われてビハインドを負う苦しい展開に追い込まれる。しかしここで東洋史しぶとい打線が機能。制球の定まらない相手投手から4四球(六球)を選び、押し出しや内野ゴロなど無安打で3点を奪い1点差に迫る。先発・M木も二回以降は持ち前の脱力投法でのらりくらりと強打の日本史打線を翻弄し、初回には乱れも見えた守備陣も華麗に打球を処理していく。

三回に東洋史が同点に追いつくと、その後試合は膠着状態となり同点のまま最終回へ。点を取らなければ勝ちが消える東洋史は、先頭のY本(1)がヒットで出塁するも、続くI藤・T辺が凡フライを打ち上げてランナー動けずあっという間に二死一塁に。ここで日本史側から代打・Y内を求めて「Y内コール」が沸き起こる。しかし、主将・I藤はそれを無視。そのまま組長・Y崎を打席に送りその一打に賭けた。するとY崎が三塁線を鋭く破るヒットを放つ。レフトがボールをこぼす間に一塁走者・Y本(1)が長駆ホームインし、土壇場で貴重な勝ち越し点を上げた。この後、O坪・K川・M木・M原がつないでさらに2点を奪って試合を決めた。東洋史は7−4で日本史を下し、二回以降を無失点に抑える好投をみせた先発・M木は見事初先発で初勝利を飾った。

 

 

●第四試合(対西洋史学戦)※「+」得点は女性点

 

東洋史学

西洋史学

+

 

 最終戦の相手は西洋史学。近年は戦力不足に悩んでいるとは言っても、油断の出来ない相手である。最終戦が始まる前に東洋史と国文学(最終戦は英米文学戦)が2勝1分で並んでおり、絶対に落とせない試合となった。初回、一打席限定で先頭の打席に入ったY内助教のヒット(すかさず代走を送る)を皮切りに、4安打を集中して2点を先制した。続く二回には打撃絶好調T辺、番長・O谷の二者連続ホームラン(T辺は満塁)で一挙に5点を奪い、差を7点に広げた。一方、この大一番でも先発を任されたS藤は、初戦と同様に丁寧な投球で凡打の山を築く。守備陣も終始安定した動きで打球を捌きS藤を盛り立てる。四回にも2点を追加して勝利を決定付けると、声援を送り続けてくれた女性陣を打席に送るなど、若干余裕のある試合展開となった。先発・S藤は最後まで集中力を切らさず、完封勝利で最終戦を締めくくった

 西洋史に勝利して最終成績を3勝1分とした東洋史は、国文学の試合の結果を待つことになった。そして「国文学敗れる」の報が伝えられ、東洋史の春秋連覇が決定した。S藤・Y崎・M木の三投手の好投はもちろん、それを支えた鉄壁の守備陣によってつかみとった栄光である。他チームをして「東洋史の守備は堅すぎる」と言わしめる鉄壁の守備は、もやは東洋史の伝統となりつつある。さらに東洋史が目指す、細いながらもつながる打線がいよいよ真価を発揮しつつある。チーム一丸となり、攻守がかみあってつかんだ春秋連覇は、来季以降の東洋史黄金時代の到来を予感させるものである。

 

 

●祝勝会

 大会終了後、東洋史研究室において祝勝会が行われた。今回も残念ながらM安総監督のご臨席はかなわなかったが、みな大いに盛り上がり、勝利の美酒に酔いしれた。恒例の成績発表では、Y本(1)が念願の首位打者M木が最高出塁率T辺が打点王を獲得した。またMVPには、日本史戦で引き分け寸前から貴重な勝ち越しタイムリーを放った組長・Y崎が選ばれた。その他の成績は以下の通り。

 

 

 

成績

打率

出塁率

打点

 

本(1)

14打数8安打

.571

.667

 

8打数4安打

.500

.556

 

I藤

16打数6安打

.375

.436

 

14打数5安打

.357

.357

 

16打数7安打

.438

.500

 

8打数4安打

.500

.500

 

4打数2安打

.500

.600

 

10打数3安打

.300

.364

 

木(

4打数1安打

.250

.250

 

12打数6安打

.500

.538

 

5打数3安打

.600

.818

 

5打数1安打

.200

.200

 

1打数1安打

.000

.000

 

1打数0安打

.000

.000

 

1打数0安打

.000

.000

 

合計

119打数52安打

.437

.485

25

※ 赤字…1位,青字…2位

 

 

●選手列伝

・Y本(1)(D2)

不動の一番・遊撃手。東洋史の切り込み隊長。左打ちに転向して三年、ついに念願の首位打者を獲得した。来季は長打力を身につけ、更なる飛躍を誓う。守備でも本職の遊撃手はもちろん、国文学戦では二塁手もこなして遊撃手・I藤とコンビを組んだ。安定感抜群の守備と広い守備範囲で再三好守を魅せ、東洋史の誇る鉄壁の守備陣の中核を担っている。

 

・O坪(D5)

 五番・右翼手。東洋史の「ソフトボール衙門大臣」兼「ジェネラルマネージャー」。今季中堅手の定位置を新鋭・M原に奪われ、右翼手で先発。しかし、それに発奮して国文学戦では弾丸レーザービームが炸裂するなど、意地を見せた。打っては3打点をあげ勝利に貢献、過去の輝きを取り戻しつつある。

 

・I藤(M1)

 二番・三塁手。東洋史ソフトボール部主将。今回、三塁手のほかに遊撃手・中堅手をこなすなど、内外野どこでも守る守備の人。再三の好守で投手を盛り立て、Y本(1)とともに守備の要である。極度の打撃不振に陥っていたが、今季ようやく復調の兆しが見えた。主将として前人未到の四連覇をひそかに狙っている。なお、試合前のじゃんけんは4戦3勝であったことは特筆すべきである。

 

・T辺(M2)

 三番・左翼手。西洋史戦で満塁本塁打を放つなど打点王を獲得し、打撃好調を維持。勝負強い打撃と長打力は年々貧打線となる東洋史にあって貴重な戦力となっている。春から練習し続けた守備でも安定感抜群で無失策、左翼手の定位置を完全に自分のものにした。来季以降も無失策を継続しようと意気込んでいる。

 

・O谷(M1)

 四番・一塁手。言わずと知れた東洋史の番長。すべての送球を受け止めてくれるという安心感が東洋史の守備陣を支えている。打撃でも「赤い彗星」から貴重な先制タイムリーを放つなど、四番の重責をしっかり果たしている。すでに風格すら漂いつつあり、東洋史に欠かせぬ精神的支柱となっている。

 

・T田(D1)

 三塁手。移籍一年目で早くも主力として定着。初戦では「赤い彗星」からタイムリーを放ち、優勝に大きく貢献。守備でも無難に打球をさばき、随所に存在感を見せ付けた。来季はいよいよ定位置奪取を狙う

 

・K川(4)

 二塁手。初戦の国文学戦では急遽捕手となったが、それが大いに奏功した。タッチアップを狙った三塁ランナーを執念のブロックで阻止。また最終回二死からサヨナラを狙ったランナーも(タイミングはセーフだった?)吹き飛びながらもブロックし、失点を許さなかった。彼の体を張ったプレーが最後には優勝を呼び寄せ、「陰のMVP」である。

 

・M原(4)

 中堅手。今季ついにO坪から念願の中堅手のポジションを奪取、レギュラーに定着。腰痛を抱えながらも、持ち前の俊足高い打率と出塁率を残し、守備でも俊足を生かした広い守備範囲で勝利に貢献。ひそかに投手を狙っているらしい。

 

・M木(3)

 投手・二塁手。日本史学戦で先発に抜擢される。相手打線をのらりくらりとかわす脱力投法で、見事初先発初勝利の快挙を達成。打っては的確な打撃に加え、制球に苦しむ相手投手のボールを選んで6四球を積み重ねた。文句なしダントツの出塁率を残して、得点機を演出した。来季は投手としてさらなる飛躍を目指している。

 

・S藤(D1)

 投手。今季二試合(国文学戦・英米文学戦)に先発。国文学戦では周囲の予想を覆す快投で、「赤い彗星」と互角以上に投げ合い、引き分け(実質勝利)の立役者に。英米文学戦でも巧みな投球術でなんと完封勝利を達成。若手が台頭する中、二戦二勝をあげて確かな手ごたえをつかんで来季に臨む。

 

・Y崎(4)

 投手・一塁手。東洋史の組長。英米文学戦で先発。久しぶりの先発ながらも、丁寧な投球で英米文学打線を封じた。四番・一塁手として出場した日本史学戦では引き分け寸前の最終回二死から値千金の決勝タイムリーを放ち期待にこたえた。結果的にこのタイムリーが優勝を大きく引き寄せ、MVPを獲得した。

 

・S木(K)(D5)

 捕手。常に大声で選手を叱咤激励する(敵にヤジも飛ばす)東洋史の電脳タルカン。今季は出場機会が激減するも、その存在感はいまだ健在。本人はこれを機に引退も考えているが、その闘志が燃え尽きることはないだろう。

 

 

●応援列伝

・Y内(助教)

 日本史戦から駆けつけ、選手を鼓舞する。日本史の面々から「Y内コール」が湧き起こるがI藤が無視したため日本史戦での出場はならず。英米文学戦の先頭打者として打席に立つと、見事レフト前ヒットを放ち、初回の大量点の口火を切った。

 

・I野(4)

 今季も応援団のリーダーとして活躍。英米文学戦では代打で登場。惜しくも出塁はならなかったが、彼女が初ヒットを記録するのは近いだろう。

 

・N田(4)

 今季念願の初参加で優勝を目撃。英米文学戦で代打として初打席に立つも、惜しくも出塁はならなかった。最終回には右翼手のポジションにもついた。

 

・H手(4)

 東洋史応援団の貴重な一員。出場はならなかったが今季はじめて優勝を目撃し、表彰式では優勝トロフィーを受け取る

 

・S木(R)(3)

 今春の初参加からいまだ敗北を見ていない東洋史の「勝利の女神」。彼女の存在は来季四連覇を目指すに当たって心強いものとなるだろう。