研究室だより (2015.4.〜2016.3.)
目次

リーバーマン教授70歳記念国際ワークショップおよび公開講演会(2015.12.15-12.16, 12.18)

12月15日と16日の両日、大阪大学会館にてヴィクター・リーバーマン教授の70歳を記念する国際ワークショップWriting Global History from Southeast Asian Perspectives: In Honor of Professor Victor Lieberman’s 70th Birthdayが開催された(大阪大学未来戦略機構第九部門の主催)。ミシガン大学に所属するリーバーマン教授はビルマ史の大家として世界的に著名であるとともに、近年では比較史の方法を駆使し、東南アジア史からグローバルヒストリーを考察したStrange Parallels (Vol.1: Integration on the mainland, 2003. / Vol.2: Mainland mirrors, 2009. いずれもCambridge University Press ) の刊行によって大きな注目を浴びている。

ワークショップには著名な東南アジア史家であるアンソニー・リード教授をはじめ、日本史・西洋史・東洋史を代表する研究者が世界中から集まった。参加した研究者の数は40名以上、2日での報告数は合計20にのぼり、量・質ともに非常に充実した内容となった。ワークショップでは、リーバーマン教授がStrange Parallelsで提示した枠組みに対して各地域の専門家が最新の研究成果を踏まえたレスポンスを行い、活発な議論が交わされた。

また18日にはリーバーマン教授とジェフ・ウェイド氏(オーストラリア国立大学)による公開セミナーが行われた(大阪大学文学研究科グローバルヒストリー研究クラスターと大阪大学歴史教育研究会・海域アジア史研究会との共催)。明代を中心とする中国―東南アジアの関係史を専門とするウェイド氏は、中国と東南アジアの歴史的な交渉を壮大なスケールで論じた。またリーバーマン教授はPoliticized Ethnicityという概念を軸にして、イングランドとビルマの国家統合を比較史的に分析し、近代的なナショナリズムをより広い文脈に位置づける視座を提示した。

(文責:Y.T)

ワークショップ参加者の集合写真 講演するリーバーマン教授
ワークショップ参加者の集合写真(左)と講演するリーバーマン教授(右)
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松井教授、中国での学会発表および現地調査(2015.8-9)

8月:敦煌

本研究室の松井太准教授,山本孝子(学振研究員)は,2015年8月16日〜18日に中国敦煌市で開催された「2015敦煌論壇:敦煌与中外関系国際学術研討会」(主催:敦煌研究院・中国敦煌吐魯番学会)に参加して研究報告を行なった。

松井准教授の報告“Uigur Buddhist Pilgrims as Seen in the Wall Inscriptions in the Dunhuang Caves”は,これまでの5年間にわたる敦煌諸石窟の古ウイグル語題記銘文についての現地調査の成果を披露したものである。

また山本の報告「吉儀中是否有“三幅書”?」は、唐五代から宋にかけての日常のあいさつの書簡や通婚書といった吉儀で用いられる書簡の書式の変遷を追った発表である。

9月:新疆・揚州

本研究室の松井太准教授は,龍谷大学研究員の橘堂晃一氏とともに,2015年9月12日〜17日にかけて中国新疆ウイグル自治区吐魯番市を訪問し,吐魯番博物館所蔵の古ウイグル語文献資料と吐魯番周辺の諸石窟寺院に遺存する古ウイグル語題記銘文の調査を実施した。この調査はJFE21世紀財団アジア歴史研究助成プロジェクト「10〜14世紀東方ユーラシアにおける古代ウイグル族ネットワークの解明」の一環であり,新疆吐魯番学研究院の全面的協力により,新出・未公開資料についても多くの情報を収集することができた。

また松井准教授は,新疆から江蘇省揚州市へ移動し,9月18日〜19日に開催された国際学会「馬可・波羅与絲綢之路」(主催:揚州市人民政府・揚州大学・北京大学ほか)に参加して「蒙元時代回鶻仏教徒和景教徒的網絡」と題する報告を行なった。この国際学会には,今後の中国におけるモンゴル時代史研究を牽引すると予想される若手研究者や院生も多数参加しており,活発に研究情報を交換することができた。

「馬可・波羅与絲綢之路」学会の様子 センギム洞窟
「馬可・波羅与絲綢之路」学会の様子(左)とセンギム洞窟の遠景(右)
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第三回若手アジア史論壇関西部会(2015.8.8)

8月8日土曜日、文学部棟本館中庭会議室において、第三回若手アジア史論壇関西部会が開催された。本研究室からは、博士前期課程の中井勇人が「15世紀半ばにおける朝鮮内附女真人軍官とその活動」と題する発表を行った。本発表は、朝鮮王朝に「向化」し、朝鮮の軍官となった女真人が、その後も朝鮮の「外」の女真人とも結びつきながら、朝鮮北辺において数代にわたり独自の勢力を有していたことを論じたものである。

(文責:Y.N)

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世界経済史会議(2015.8.3-7)

 8月3日から7日にかけて、国立京都国際会館を会場に第17回世界経済史会議(World Economic History Congress)が開催された。本研究室からは博士後期課程の多賀良寛と田口宏二朗准教授が参加し、発表を行った。

 多賀は “Deflation, money and commodities: Maritime Asia and its linkage to the American in the first half of the 19th century”パネルの一員として、 “The development of silver economy in nineteenth century Vietnam”と題する発表を行った。当該パネルは、19世紀前半のアジア諸地域における貿易・貨幣・物価等の経済動向の比較を目的とするもので、多賀は阮朝治下ベトナムで見られた銀経済の発展について報告した。発表においては、まず銀貨幣の鋳造や銀納制の推進に代表される銀経済の制度的発展が検討され、さらに銀流出や銀銭比価変動の分析を通してベトナム経済と東アジア銀流通圏のリンケージが明らかにされた。

 また田口准教授は、前近代東アジアの経済成長を検討するパネル“Intensive economic growth in premodern East Asia, 1000-1800”において、“Economic development of the early modern China: A revisiting” と題する発表を行った。

(文責:Y.T)

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『内陸アジア言語の研究』第30号の刊行(2015.7.25)

 7月25日、第54回中央アジア学フォーラムが本校で開催され、内外から30名を越える参加者の集う盛会となった。会の冒頭では、本会の機 関誌に位置付けられている『内陸アジア言語の研究』の最新号が披露された。今号は、長年にわたり中央アジア学フォーラムと本誌の刊行を支えて いる吉田豊教授(京都大学)と荒川正晴教授(本学)の《還暦記念》として企画編集されたものであり、フォーラム参加者の見守るなか贈呈式が行 われ、献呈されたのである。

 この最新号の刊行によって同誌は創刊以来30号の節目を迎えることとなったが、ひとえに両教授のご尽力とご指導あってのものである。フォー ラム参加者からは両教授にねぎらいの言葉もおくられた。吉田・荒川両教授は、それぞれの業績目録とともに、内外から寄稿された12編のモノグ ラフを含めて280頁を超える過去最大のボリュームとなった今号を手に取り、1ページ1ページいとおしげに目を通されていた(内容については『内陸アジア言語の研究』のページを参照)。

 以下、中央アジア学フォーラムにおける口頭報告の題目である。また当日は、内外の新獲書も20冊以上閲覧に供された。

(文責:K.S)

CAF贈呈式
荒川正晴教授(左)と吉田豊教授(右)
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第52回野尻湖クリルタイ(2015.7.17-20)

7月17日から20日まで、長野県信濃町の藤屋旅館において、第52回野尻湖クリルタイ(日本アルタイ学会)が開催された。本学からは学振研究員の白玉冬、博士前期課程の中井勇人、学部生の八木啓俊の三名が参加し、うち中井は「15世紀前半における建州ジュシェン集団の対朝鮮関係――李満住による通交統制に着目して――」と題する発表を行った。 中井の発表内容は、15世紀前半において、建州ジュシェンの首長層が、朝鮮王朝に通交しようとする属下のジュシェン人に対し、統制・管理を試みたという内容を論じたものである。

(文責:Y.N)

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第7回 “Engaging with Vietnam”国際会議(2015.7.7-8)

 2015年7月7日〜8日、ベトナム・バクニン省のハノイ商工業大学で第7回 “Engaging with Vietnam” 会議が開催された。本会議は世界中のベトナム研究者が集まるインターディシプリンの国際会議であり、本研究室からは博士後期課程の吉川和希と多賀良寛が参加し、英語で発表を行った。

 吉川は“Embassies between Dai Viet and China during the Late Fifteenth century”と題する報告をおこない、1474年に雲南経由でベトナムに赴いた明朝の使節、及びこの明使の帰還に随行して翌1475年に雲南に到来したベトナム使節を取り上げ、15世紀後半における中越間の使節往還に如何なるアクターがどのように関わっていたかを考察した。

 多賀は “Food Supply in Hue under the Rule of Nguyen Dynasty”のタイトルで、19世紀ベトナムにおける穀物流通を、阮朝の首都であったフエを中心に検討した。発表ではフエへの穀物の流れをメコンデルタ地帯からもたらされる南米と紅河デルタ地帯からもたらされる北米とに区別し、両者が異なる流通原理によってフエに運ばれていたことを明らかにした。(文責:Y.T)

多賀発表 吉川パネル
発表中の多賀良寛(左)と吉川和希(右)
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第3回アジア世界史学会(2015.5.29-31)

 2015年5月29〜31日、シンガポールの南洋理工大学において、第三回アジア世界史学会(The Third Congress of the Asian Association of World Historians)が開催された。本研究室からは、桃木至朗教授、岡田雅志助教、上田新也特任研究員、学生として西田祐子、猪原達生、吉川和希(いずれも博士後期課程)が参加した。

 西田祐子と猪原達生は、6・7〜9・10世紀におけるユーラシアの諸帝国を支えた人やモノを主題とした“ ‘ The Age of Empires’ in the Eurasia and the Movements of the People or Goods”パネルで報告を行った。西田は“The Expansion of the Tang Empire and Turkic Nomads”と題し、唐初期における契苾を中心とする遊牧集団の移動を採り上げた。猪原は“Eunuchs, as Supporters of the Emperor: A Study of the Relationship between Eunuchs and Emperors in the Late Tang Empire”と題する報告を行い、国内外への使者に任命された宦官の移動について論じた。パネルには韓国、中国、インドなど様々な地域の研究者が詰めかけ、唐代の遊牧民や宦官、僧侶などが果たした積極的な役割について活発な討論が交わされた。

 また吉川和希は、国際情勢と地域社会の連関を主題とした“The Political Situations in the Eastern Eurasia and the Local Societies”パネルにおいて、“The Presence of Chinese Merchants in the Lang Son Region of Vietnam during the Seventeenth Century”と題する報告をおこない、17世紀後半における中国広西〜北部ベトナム間の内陸交易、およびそれがベトナムのランソン地域に与えた影響を考察した。

その他の発表者の報告タイトルは以下の通りである。

(文責:T.I & K.Y)

猪原パネル 吉川パネル
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春季ソフトボール大会(2015.5.5)

 5月5日、猪名川の河川敷グラウンドにて春季ソフトボール大会が開催され、晴天の下研究室メンバーが爽やかな汗を流した。今回の大会は全6チームを2つのリーグに分け、その後順位決定戦を行う形式で行われた。東洋史は初戦の日本史戦を落としたが、残りの試合に全勝し、2勝1敗の3位で大会を終えた。試合の模様は詳細については『続ソフトボール実録長編』二〇一五年春之條をご覧頂きたい。

ソフト
大会後の集合写真
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第2回卒業論文相談会(2015.4.26)

 4月26日、第2回卒業論文相談会が行われ、計9名が卒業論文の進捗状況について報告した。各報告に対しては、テーマの設定・先行研究の整理・史料の収集および読解などの諸点について、活発な議論が行われた。質疑では時に辛辣な意見も見られたが、執筆予定者は今回得られたアドバイスを糧に、心を強くもって今後の作業に取り組んでいってほしい。発表題目は以下の通りである。

(文責:Y.T)

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新入生歓迎遠足(2015.4.16)
虚空蔵山頂からの展望
虚空蔵山頂からの展望

 4月16日、東洋史研究室の新入生歓迎遠足および歓迎会が開催された。今年の遠足は、三田市に位置する虚空蔵山での楽しい登山。天候にも恵まれ、険阻な山道をものともせず参加者全員が登頂を果たし、雄大な丹波の山並みとのどかな村里を一望する絶景を堪能することができた。下山後は、丹波の幸をふんだんに使った御膳に一同舌鼓を打ち、さらに湯呑みの絵付け体験では、各々これまで秘めてきた芸術的センスを披露した。また自己紹介の時間には、先輩たちから矢継ぎ早に鋭い質問が続き、新入生たちはさっそく阪大東洋史の洗礼を浴びることになった。

 遠足終了後、梅田のイタリア料理店で行われたビュッフェ形式による豪華ディナーでは、これまでマンネリ化が懸念されていた東洋史歌唱団に新顔が加わるなど、研究室の歴史に新たな頁を開くものとなった。今回の遠足は、「新歓遠足とはいかにあるべきか」という模範を後世に示すものであり、新入生だけでなく、全参加者にとって一生の思い出となったことは疑いない。新入生は、今回の遠足で阪大東洋史の本質を会得したはずであるので、今後はそれをふまえ、東洋史研究室の構成員として積極的に学修・研究に精励して頂きたい。(Y.N)

絵付け 登山
焼き物への絵付け(左)/ 登山中の一行(右)
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新年度ガイダンス(2015.4.6)

 4月6日、東洋史研究室の新年度ガイダンスが行われた。ガイダンスでは片山教授によって進学にあたっての心構えが述べられ、続いて各教員による開講授業の説明と、新入生による自己紹介等が行われた。

 本年度東洋史研究室は新2回生8名、新マスター5名(内部進学1名、研究生を経て進学が3名)を新たに迎え、研究生を含む全体の学生総数は47名となった。また本研究室OBでもあり、モンゴル時代史・中央アジア史を専門とする松井太准教授が新たに着任された。

 なお本年度は非常勤講師として、上田新也先生(近世ベトナム史)にベトナム語、岡田友和先生(仏領インドシナ史)に歴史学フランス語演習、鈴木宏節先生(内陸アジア史・古代トルコ民族史)に中国古典演習、向正樹先生(モンゴル時代史・海域アジア史)に東洋史学講義をそれぞれご担当いただく予定である。(T. Y)

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大阪大学大学院・文学研究科・東洋史学研究室