全国高等学校歴史教育研究会

大学側講師陣の報告に関するレジュメと参加者からの質問に対する回答プリント

2006年8月1日〜8月3日にかけて開催された「第4回全国高等学校歴史教育研究会」には、全国37都道府県から100名を超す参加者があった。大阪大学側からは4名の教授が報告を行った。

以下に、研究会で配布されたレジュメと講演に対する質問回答プリントをPDFファイルで公開する。 ※PDFファイルの閲覧には専用のソフトが必要です(ネットから無料で入手できます)。

なお、質問回答プリントの内容は、研究会終了後、講師陣が加筆・修正を加えている箇所がある。

大阪大学21世紀COEプログラム主催の「全国高等学校歴史教育研究会」は、第4回研究会の最終日に、これまでの活動の総括と、今後の活動のあり方について、参加者全員による討論会を実施し、以下のようなまとめを行い、参加者全員の賛同を得ました。

大阪大学21世紀COEプログラム「インターフェイスの人文学」<世界システムと海域アジア交通>班(平成15年度までは<シルクロードと世界史>班)は、過去4回にわたり全国43都道府県260名あまりの高校教員・予備校関係者・出版関係者を集めて研究会を開催してきた。

この研究会では、「考え方や背景がわかる」「像を結ぶ」歴史教育を実現するための土台造りのため、大学教員が最新の研究成果を報告し、国家や地域の枠組みを超えた新しい歴史像を高校教育界に向かって提示してきた。この研究会の活動がきっかけとなって、都道府県の壁を超えた高校教員同士の交流が始まったり、類似の研究会も各地で開催されるなどの波及効果が生じている。

また、高校教育現場の現状報告や高校教員による実践報告は、大学教員にも刺激をもたらし、さらに将来の高校・大学教育を担う若手研究者に対しても、学界だけでなく社会へ向けて自己の研究成果を発信する訓練も必要であることを認識させた。大学側の研究と高校側の教育の双方に刺激を与える結果となった本研究会の活動は、「横断的な知」と「臨床的な知」というインターフェイスの構造を解明・構築することを目標とする大阪大学21世紀COEプログラムの活動の一つとして、大きな成果をあげることができたといえる。この研究会での討議に端を発して設立され、第4回の共催者となった「大阪大学歴史教育研究会」(「魅力ある大学院教育イニシアティブ」の一環として活動)は、高校教員のリカレント教育と大学院生の教育を直結した新しい試みである。

しかしながら、歴史教育の刷新という大目標に照らせば、これらの達成は第一段階を意味するにすぎない。研究会を通じて、大学の研究成果を高校の教育現場で活用してゆくために、大学入試のあり方・教科書の記述の混乱など、大学側も無縁ではない様々な問題に取り組む必要性が、具体的に明らかにされたからである。こうした諸問題が解決されない状況は、教育現場にいたずらに混乱を呼び起こし、その渦中で歴史嫌いの高校生を増加させている。この状況を放置するならば、歴史教育や歴史学の存在自体が「非実学」的学問として社会から軽視・排除される恐れがあるだけでなく、異文化との接触がさらに要求されつつある21世紀の社会に適応できない若者を、世に送り出すことにもなりかねない。

こうした状況を打破するためには、大学・高校間の討議や協働作業を継続・発展させる必要がある。大阪大学大学院文学研究科は、今後も歴史学(大学)と歴史教育(高校)の連携に取り組む考えである。とくに以下の活動を推進したい。

  1. 大学側の最新の研究成果を高校教員に発信していく活動を継続する。
  2. 古い枠組みと新しい枠組みの入り混じった教科書の内容を改善するための様々な検討を、大学教員と高校教員が協働で進めていく。
  3. 教育技術のみならず、豊富な知識も持たねば、多様化する社会のニーズに対応できない。大学側は歴史学の授業を高校教員のリカレント教育の場として積極的に開放する。
  4. 進学してくる大学生に対応するため、大学側でも高校教育の現状を注意深く把握し、それに見合った大学教育を展開していく。

2006年8月3日 研究会参加者一同

問い合わせ先
桃木至朗(大阪大学大学院文学研究科教授)
560-8532豊中市待兼山町1-5
TEL&FAX 06-6850-5674
Email momoki@let.osaka-u.ac.jp

過去の研修会と次回の予告

《インターフェイスの人文学》国際シンポジウム

模擬授業「北から見る、南から見る−中国とはなにか?」

模擬授業の風景模擬授業の風景

2006年10月15日、大阪大学中之島センターで《インターフェイスの人文学》国際シンポジウムが開催され、「世界システムと海域アジア交通」班は、「北から見る、南から見る−中国とはなにか?」と題し、高校生・高校教員に対する模擬授業を実施した。

冒頭で、印牧定彦氏(京都市立堀川高等学校教諭)が高校教育の現場で感じている、中国史教育の疑問点や問題点を提起し、これに答える形で桃木至朗(大阪大学教授)と佐藤貴保(大阪大学特任研究員)が模擬授業を展開した。

授業では、中華帝国がしばしば遊牧民などによる北方からの征服を受けながら20世紀初頭まで存続し、その結果様々な民族が交流・融合してできた今日の超多様な社会が完成したことを、桃木が五胡十六国・北朝・隋・唐の例から、佐藤が遼・金・西夏をはじめとする征服王朝の多元・多重統治体制及び中華人民共和国の民族政策から説明した。また、桃木は南方に拡大することでさらに新しい性格を付け加えた中国社会が、現代世界で活躍する華人ネットワークの拡大にも大きな影響を与えていることを指摘した。

授業を行うにあたり、本プログラムが目標として掲げてきた「臨床的な知」を歴史学にも応用することを目標とした。そこで、当班で毎年度開催した「全国高等学校教育研究会」を通じ高校教員から指摘された歴史教育に関する問題点に答えるべく、高等学校で教えている歴史事項と現代社会とのつながりを意識した授業展開を図った。

模擬授業には、大阪大学の学生・教職員のほか、京都市立堀川高等学校と六甲高等学校(兵庫)の生徒、近畿各府県の高等学校教員などあわせて約40名が参加した。模擬授業終了後には討論会が行われ、高校生からの質問にも答えた。模擬授業ではアンケート・質問票が配布されたが、その集計結果と質問に対する桃木・佐藤の回答についてはPDFファイルを参照されたい。

なお授業では、佐藤が西夏文字で日本人の名前を書く実演をおこなったが、その後高校で西夏文字で名前や数字を書く生徒が現れるなどの社会現象(?)が起きたという。

※模擬授業で使用した西夏文字の文字表は、荒川慎太郎氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助手)が作成したものです。詳しくは国立民族学博物館発行『月刊みんぱく』2005年2月号、16〜17ページの「西夏文字で名前を書く 1」をご覧下さい。

アンケート・質問回答(pdfファイル)


©2004 大阪大学大学院文学研究科東洋史学研究室 All rights reserved.