編集部からのメッセージ



 本誌『内陸アジア言語の研究』は,元来,神戸市外国語大学外国学研究所の公費出版物として第1巻〜第6巻 (1984〜1991) まで刊行され,内陸アジアの言語・文献・歴史・文化・民族に関わる研究成果を発表してきたものです.

 ところが1992年,神戸市外国語大学の機構改革により,『内陸アジア言語の研究』は同大からの予算交付を受けられなくなり,廃刊の危機に直面しました.

 しかし,日本のアジア学界における本誌の存在意義を認め,内外に本誌の続刊を望む声が少なからずあったことから,有志によって,本誌第7巻 (1992) は自費出版されました.さらに第8巻 (1993) 以降は,新たに結成された「中央ユーラシア学研究会」が本誌の発行母体となって今日に至っています.
 「中央ユーラシア学研究会」は,本誌を恒常的・組織的に出版・販売することのみを目的とするボランティア団体であり,本誌各巻の編集者・執筆者および予約購読者がすなわち会員です.

 言語学はもとより,歴史学・考古学・民族学といった各分野をも包摂する内陸アジア学において,さまざまな言語で書かれた文献資料(文書・典籍・碑銘)がその研究の根幹をなすことはいうまでもありません.
 しかしながら従来の日本国内のアジア学関係学術誌においては,これらの資料・史料そのものを十全な形で発表するよりも,それに基づく立論がより優れた研究とみなされる傾向にあり,また紙数の問題から一次資料の提示・研究の場はきわめて制限されています.
 本誌はこの点の改善をめざし,紙数に制限は設けません.逆に,重大な発見であれば,いかに短くても掲載することにしています.本誌は,このように,内陸アジアの文献資料に関わる質の高い研究であれば紙数の長短にかかわらず掲載するという編集方針を採用することで,日本のアジア学界におけるその存在意義を高めていくものと確信しています.

 また,本誌は『内陸アジア言語の研究』と銘打ちつつも,決してその対象とする論考を狭義の言語学・文献学に限定するものではありません.既存の国内アジア関係学術誌には掲載しがたい内陸アジア文献資料研究を掲載すると同時に,歴史学・考古学・民族学など内陸アジアの文献資料に関わる各分野の研究者からの積極的な投稿をも歓迎するものです.

 内陸アジア学に関心を持つ多くの研究者・学生・読書人が,本誌の編集方針に賛同され,定期購読や販売促進,あるいは一定の学問的水準を維持する論文の投稿など,あらゆる形でご援助下さることを期待しています.


1997年10月

『内陸アジア言語の研究』責任編集

ペーター・ツィーメ
(ベルリン・ブランデンブルク科学アカデミー)

森安 孝夫
(大阪大学)

吉田 豊
(神戸市外国語大学)