神山孝夫 『脱・日本語なまり:英語(+α)実践音声学』 (大阪大学出版会

解説と音声・映像データ 

(音声データ) (音声・映像データ) を含む付加的な情報を掲載しています。自習等にお役立てください。

正確な音声表記のため、一部で Doulos SIL font を使用しています。

うまく表示されない場合は ここ からダウンロードしてインストールしてください (お金はかかりません)。

 

第T章 日本語の音と音声学の基礎 その2

 

その1と同様に、音声や映像を参考にして、ゆっくり、はっきり、大きな声で 発音しながら、

自分の発音を ばかりでなく も用いて確認してください。

§

映像・音源

ひとことアドヴァイス

子音の分類

IPA の主要子音表を用いて、子音分類の原理と同表に掲載された主な子音を紹介します。

ここで扱うのは、呼気を使う子音(肺気流子音)だけです。

こちらにきれいな録音がありますので併用してください → University of Victoria

§63

閉鎖音

日本語に生じる [ p b t d k ɡ ] 以外に下記があります。

[ ʈ ]    [ ɖ ]

   

そり舌閉鎖音 : 歯茎の後方に舌先をくっつけて発音されます。

高名な音声学者である故 Peter Ladefoged氏による

録音を添えておきます。 (→ 元データはこちら

[ c ]    [ ɟ ]

   

硬口蓋閉鎖音 : 硬口蓋に舌背前部をくっつけて発音されます。

[ q ]    [ ɢ ]

   

口蓋垂閉鎖音 : 口蓋垂に舌背後部をくっつけて発音されます。

 

§64

鼻(音化

閉鎖)音

日本語に生じる [ m n ɲ ɳ ŋ ɴ ] 以外に下記があります。

[ ɱ ]

唇歯鼻音 : 下唇と上の前歯をくっつけて発音した鼻音です。

マラソンの高橋尚子選手は [ ɱ ] を多用します。

 

§65

ふるえ音

(煽動音)

日本語でも時に用いられる [ r ]  以外に下記があります。

ちょっとひとこと。

この音を普通の英語では roll というので、

その訳から 「巻き舌」 とも呼ばれますが、

カメレオンじゃあるまいし、舌をぐるぐる巻くことなんて

普通の人間にはできっこありません。

実は、roll すばやく連続してたたくことを表しています。

ドラムのロールについては例えば こちら をご覧ください。

[ ʙ ]

両唇ふるえ音 : 呼気で上下の唇をふるわせます。

[ ʀ ]

口蓋垂ふるえ音 : 呼気で口蓋垂をふるわせます。

要するにうがいの音です。

 

§66

たたき音

(はじき音)

日本語に生じる [ ɾ ] 以外に下記があります。

[ ]

唇歯たたき音 : 下唇で上の前歯をたたく音。

2005年からIPAに採用されましたが、恥ずかしながら小生はできません

例えばこちらで聞けます → University of Victoria

[ ɽ ]

そり舌たたき音 : 舌先で歯茎の後ろをたたきます。

時に日本語でもその一種が使われます。

 

§67

摩擦音

(せばめ音)

日本語に生じる [ ɸ β s z ɕ ʑ ç x ɣ h ɦ ] 以外に下記があります。

[ f ]   [ v ]

   

唇歯摩擦音 : 下唇と上の前歯の間でせばめが作られます。

別途§105以下で練習していただきます。

Ladefoged氏による録音では [ f ] の録音がよくないようです)

[ θ ]   [ ð ]

   

歯摩擦音 : 上の前歯と舌の間でせばめが作られます。

別途§108以下で練習していただきます。

[ ʃ ]   [ ʒ ]

   

後部歯茎摩擦音 : 歯茎の後ろと舌背前部でせばめが作られます。

別途§111以下で練習していただきます。

[ ʂ ]   [ ʐ ]

   

そり舌摩擦音 : 歯茎の後ろと舌先でせばめが作られます。

[ ʝ ]

硬口蓋摩擦音 : 要するにの子音 [ ç ] の有声音。§76参照。

[ χ ]   [ ʁ ]

   

口蓋垂摩擦音 : 口蓋垂と舌背後部でせばめが作られます。

[ ħ ]   [ ʕ ]

   

咽頭摩擦音 : 舌根を後退させ、咽頭でせばめを作ります。

 

§68

側面摩擦音

下記の一組しかありません。

[ ɬ ]   [ ɮ ]

   

歯茎側面摩擦音 : 舌の両脇と側面の歯茎の間でせばめが作られます。

 

§69

接近音

すでに紹介した [ j w ] 以外に下記があります。

[ ʋ ]

唇歯接近音 : 下唇と上の前歯が接近します。

マラソンの高橋尚子選手は [ ʋ ] を多用します。

[ ɹ ]

歯茎接近音 : 歯茎と舌が接近します。

以下とともに英語のRですから、別途§103で練習していただきます。

[ ɻ ]

そり舌接近音 : 歯茎の後ろに舌先を接近させます。

[ ɰ ]

軟口蓋接近音 : 舌背が軟口蓋に接近します。

日本語のワ行の子音だと言われることがありますが、

まったく異なることがおわかりでしょう。

Ladefoged氏による録音はあまり状態がよくないようです。

こちらでも聞いてください → University of Victoria

 

§70

側(面接近)音

舌の両脇を呼気が通過する接近音です。

[ l ]

歯茎側(面接近)音 : 舌先(だけ)が前歯の後ろに密着します。

別途§100で練習していただきます。

[ ɭ ]

そり舌側(面接近)音 : 歯茎後方に舌先(だけ)が密着します。

[ ʎ ]

硬口蓋側(面接近)音 : 硬口蓋に舌背の正中部分が密着します。

[ ʟ ]

軟口蓋側(面接近)音 : 軟口蓋に舌の正中部分が密着します。

 

§71

その他の記号

IPAでは、上に言及した [ ɕ ʑ w ] もここに分類されています。

その他に、少なくとも下記は知っておくべきでしょう。

[ ʍ ]

無声唇軟口蓋接近音 : 唇を丸め、同時に軟口蓋に舌背が接近します。

英語のすたれつつある wh 音です。§117を参照のこと。

[ ɥ ]

唇硬口蓋接近音 : 唇を丸め、同時に硬口蓋に舌背が接近します。

母音分類の基礎

§72

東日本の発音

日本語の母音。

特に 「」 が東西でかなり異なります。

西日本の発音

   

        

イエアの順に口の開きが大きくなります。(狭母音開母音

東日本の発音

ウオアの順に口の開きが大きくなります。(    〃    )

西日本の発音

   

§73

では唇が丸まります。(円唇母音非円唇母音

§74

舌はで口腔全部にあり、では奥に引っ込みます。

前舌母音後舌母音

調音音声学では、これら3つの基準で母音を分類します。

母音の限界

§76

非円唇 前舌 狭母音の限界 [ i ]

誰でもすぐに言えますね。

これより狭くなると母音の限界を超え、

有声 硬口蓋 摩擦音 [ ʝ ] が発されます。

   

[ i ] から前舌性を保ちながら徐々に口を開けると、

非円唇 前舌 開母音の限界 [ a ] が得られます。

単独で発した [ a ]

   

英語(英音)に現れるこれによく似た母音の例

   

日本語に現れるこれによく似た母音の例

[ o ] からいっそう唇を激しく丸めてみましょう。

円唇 後舌 狭母音の限界 [ u ] が得られます。

(映像は少し大げさです)

日本語(特に東日本)の「」とは大きく異なります (→ §84)。

[ u ] より狭くすると母音の限界を超え、

円唇化した有声 軟口蓋 摩擦音 [ ɣʷ ] が発されます。

[ u ] から後舌性を保ちながら徐々に口を開けると、

非円唇 後舌 開母音の限界 [ ɑ ] が得られます。

単独で発した [ ɑ ]

   

英語(英音)に現れるこれによく似た母音の例

日本語に現れるこれによく似た母音の例

[ a ] [ ɑ ] はこんな違いです。

母音の分類

こちらにきれいな録音がありますので併用してください → University of Victoria

§79

1 [ i ]   

2 [ e ]  

3 [ ε ]  

4 [ a ]  

5 [ ɑ ]  

6 [ ɔ ]  

7 [ o ]  

8 [ u ]  

Daniel Jonesが定めた1基本母音をお聞きください。

彼自身の発音です。

元データはこちらです。

1 [ i ] 

2 [ e ]

3 [ ε ]

4 [ a ]

5 [ ɑ ]

6 [ ɔ ]

7 [ o ]

8 [ u ]

Ladefoged氏による録音

元データはこちらです。

   

併せて口の形をご覧ください。

   

[ e ] [ ɛ ] の違い

[ o ] [ ɔ ] の違い

 

§80

  9 [ y ]

10 [ ø ]

11 [ œ ]

12 [ ɶ ]

13 [ ɒ ]

14 [ ʌ ]

15 [ ɤ ]

16 [ ɯ ]

17 [ ɨ ] 

18 [ ʉ ]

Daniel Jonesが定めた2基本母音をお聞きください。

彼自身の発音です。

元データはこちらです。

  9 [ y ]

10 [ ø ]

11 [ œ ]

12 [ ɶ ]

13 [ ɒ ]

14 [ ʌ ]

15 [ ɤ ]

16 [ ɯ ]

17 [ ɨ ] 

18 [ ʉ ]

Ladefoged氏による録音

元データはこちらです。

        

日本語でもこんなときに第2基本母音  [ œ ]

によく似た母音が発されます。

日本語の母音

日本語の母音の中では「ウ」が特殊です。[ u ] との違いを把握してください。

§84

東日本の「」はこれですね。

概して唇の丸めは弱く、

上下の前歯は接近しています。

[ o ] からいっそう唇を激しく丸めて [ u ] の練習をしてください。

」の場合のように、下あごを上げすぎると

違った母音([ ʉ ] に近い)になってしまいます。

個人差はあることでしょうが、

上下の前歯の間に指先が入るくらいがいいと思います。

母音の脱落とアクセント

§85

ノーマル+スロー

gak(u)sē

括弧に入れた母音が無声化脱落)しています。

スロー映像で確認してください。

 

関西では母音の無声化は起こらない

と言われますが、そんなことはありません。

確かに頻度は下がりますが、

関西でも無声化はまま生じます。

恐らく日本中で生じていると思いますよ。

uket(u)ke

s(u)kides(u)

k(i)syōdai

kēs(i)tyō

kotomit(u)ki

dais(u)ke

as(i)ta

s(i)kinsenzyō

k(u)tus(i)ta

h(i)kak(u)ka

k(i)tanoumi

s(i)kak(u)syōgai

tok(u)simas(i)ta

ノーマル+スロー

このように発音されることもあります(関西)。

1音節の母音が発されています。

ノーマル+スロー

   

全部の母音をちゃんと言う、こんな発音はめずらしいと思います。

(小生にはとても奇妙に聞こえます。)

 

§86

日本語のいわゆる「アクセント」とは語のメロディーのことです。

この習慣を外国語に持ち込むと深刻な「日本語なまり」が生じます。

   

頭高型」と呼ばれるパターン。最初だけが高く、あとは低い。

   

        

平板型」と呼ばれるパターン。最初がやや低く、あとは高い。

例えば 「大学生」 ( daigakusei ) のように、

最初は低く、次は高く、そしてどこかからまた低くなる

というパターンもあります。

話が長くなるので、ここでは捨象させていただきます。

 

§89

   

        

日本語は他の言語では考えられないほど長短に敏感で、

3倍や4倍の長さなど屁のカッパです。

   

これなんて7倍の長さです。

(左の映像では途中に声門閉鎖音が挿入されています)

概して外国語はもっと長短におおらかでして、

外国語のいわゆる短音と長音は

ただちに日本語の1拍と2拍に対応するわけではありません。

英語についてのこの事情の概略は§89の記載をご覧のほど。

 

第T章 日本語の音と音声学の基礎 その1

第U章 英語の音と日本語なまり その1

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