研究成果報告書

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LaTeX による古典籍のコード化のためのマクロ作成


      
研究代表者: 金水 敏(大阪大学・文学部)
研究分担者:月本雅幸(東京大学大学院・人文社会系研究科)
研究協力者:池田証寿(北海道大学・文学部)
交付金額: 900,000円
代表者連絡先: 〒560-8532 豊中市待兼山町1-5
大阪大学 文学部
Tel.06-6850-5682 Fax. 06-6850-5836
Email: kinsui at let.osaka-u.ac.jp


1 はじめに

活版印刷から電算写植へという近年の出版・印刷技術の大変動に伴って、古典籍の翻刻・出版に必要な組版技術が失われ、適切な経費による出版が大変難しい状況にあります。この問題は、日本文学、日本語学、歴史学、仏教学など古典籍に依拠する多くの実証的研究にとって大きな障害となっています。現に、私の関係する「高山寺典籍文書綜合調査団」で企画された『高山寺資料叢書第十八冊』の刊行にあたって出版社と交渉した際にも、「完全版下の提供」が条件として提示され、これを電算写植で行った場合、1頁あたり2万円というような経費がかかることが分かり、計画自体が暗礁に乗り上げかけたのでした。

一方で、パーソナル・コンピュータやプリンタは長足の進歩を遂げ、手軽に美しい印刷が得られるようになってきました。出版社でも、版下作成にパソコンを利用しているところが既に多数あります。しかし、市販されているパソコン用のワードプロセッサやDTP(組版)ソフトは、本来横書きのために開発されたもので、日本語のために縦書き用に拡張されたものでも、案外、必要な要素が実現できなかったり、できても非常に特殊な“裏技”を駆使しなければならなかったりして、不自由が多いものです。まして、左ルビ、左右ルビ、2行割り注、3行割り注等、特殊な組みを多用する古典籍には、結局不向きであると言わざるを得ません。

このような状況下で、筆者が思い当たったのは、LaTeX(ラテフ、ラテック、レイテック等と読む)を応用することでした。LaTeX は本来理工系の論文の組版を容易にするために開発されたソフトウェアで、数式など複雑な組版でも比較的容易に実現できます。また、中核的な部分はフリーソフトウェアとして配布されており、UNIX、DOS、WINDOWS、MACINTOSHという異なったOSのもとでも利用できるようになっています。しかも電算写植への変換ソフトが開発されているので、理工系では、著者がLaTeX で版下を作り、それを出版社に持ち込んで電算写植で出力、出版するということがごく普通に行われているのです。学会によっては、雑誌の投稿原稿を TeX ファイルとすることを推奨したり義務づけているところもあるくらいです。

とは言っても、やはりもともと英文・横書き用のソフトウェアですから、日本語・縦組みへの応用はそれほど簡単にできるわけではありません。日本語・縦組みのための基本的な拡張は、(株)アスキーという会社が開発したヴァージョンによって実現されましたが、古典籍の組版のためのコマンドは自作する必要がありました。ただしそのようなコマンドは、一旦作ればその後さまざまな応用ができますし、必要とされる向きに配布すれば、難しいコマンド作成の過程を経ずに結果だけを利用することができます。我々はそのようなコマンドを集めたマクロを作成し、現在公開しております。

また、このマクロを基礎として、平成9年1月、『高山寺資料叢書第十八冊』(東京大学出版会)が刊行されました。おそらく、LaTeX による縦組みの本格的な出版としては初めてのものでしょう。

2 LaTeX とはなにか

LaTeX は,D. Knuth氏が開発した植字シミュレーション・システムである TeX を中核としています。TeX はごく基本的な組版の手続きが定義されているだけなので、応用性には富んでいますが、一般的な文書を組む場合にはやや煩雑な手順が必要になります。そこで現在では、学術論文等の作成を容易にするために L. Lamport氏が開発した TeX の拡張マクロである LaTeX を TeX のシステムと併用することが一般的になっています。LaTeX では、論文、レポート、手紙、書籍などの基本的な書式があらかじめ定義され、タイトルや章・節の見出しなども簡単に指定できます。また少し凝った組みが必要であれば、いつでも TeX が本来持っている強力な組版機能を利用することができます。現在では、TeX を使うと言えば LaTeX を利用することを意味する場合がほとんどです。またさまざまな専門分野の著作に適するように、LaTeX をさらに拡張することも盛んに行われています。

[LaTeX概説]

3 我々の4年間の歩み

1995年度
訓点資料用マクロ・ファイル kunten.sty を試作、インターネット上で公開する。
1996年3月、「『方便智院聖教目録』翻字」『平成7年度 高山寺典籍文書綜合調査団 研究報告論集』を発表(金水)。kunten.sty を応用し、LaTeX で作成したもの
1996年度
『高山寺資料叢書第十八冊』刊行へむけて、原稿および必要なマクロを作成する。
1997年度
1997年7月、『高山寺資料叢書第十八冊』の原稿、ほぼ完成
1997年10月、第77回訓点語学会研究発表会(於山形大学)において「計算機による古典籍資料の組版・印刷について」発表(金水)、あわせて kunten.sty および 雑誌『訓点語と訓点資料』用スタイル・ファイル kunj11.sty を学会会員に配布
1998年1月、『高山寺資料叢書第十八冊 明恵上人資料 第四』(東京大学出版会)刊行
1998年3月、「計算機による古典籍資料の組版・印刷について」『訓点語と訓点資料』記念特輯(金水)
1998年度
1997年5月、第78回訓点語学会研究発表会(於白百合女子大学)において LaTeX2e版マクロ・ファイル kunten2e.sty、およびドキュメントを学会会員に配布
1999年1月、「辨顕密二教論院政期点巻上訳文稿」を作成(月本)
1999年1月、「LaTeX 漢字自由自在のための覚え書き」を作成(池田)
1999年2月、kunten2e.sty をヴァージョン・アップ