文学部日本語学講座 青木直子
私の専門は一にも二にも第二言語教育です。ふだん関わっているのは、日本国内における第二言語としての日本語に関することです。日本の社会で「外国人」として生きることはかなりつらいことのようです。私自身にはその経験がないので「ようです」としか書けませんが、はっきり言って、ふつうの「日本人」はこのことをほとんど知りません。私は、日本語を学ぶ人たちに人間として敬意をもって接することのできる人、彼らの立場に立ってモノを見られる人、彼らの住む世界について学ぼうという謙虚な態度をもった人がもっと増えたらいいなと思っています。
日本語教育に限らず、教育は学び手の都合をかなり無視してきたと思います。伝統的な教育方法だけではなく、新しい理論にもとづく様々な提案でさえ、結局のところ、あなたのためになるからこれを学びなさい、こういう方法で学びなさい、というふうに「新しいやり方」を押しつけてきたのではないかと思います。学習者の言い分を聞くための仕掛けをもっている方法論は極めて稀です。ところが、教師や研究者は学習者について大切なことを実はほとんど知りません。学習者のためにと思ってやっていることが、まったく的外れである可能性はかなりあるのです。
だから、教師が学び手の声に耳を傾けなくてはいけないのと同じように、第二言語教育の研究は言葉を学ぶ「人」を研究しなくてはいけないと思います。(私自身は最近は言葉を教える「人」を研究していますが。)そのためには、まず、言語学とか日本語学とか応用言語学とかいう既成の学問の枠を超えて、心理学や教育学や社会学など人を研究する学問の知見を学ぶことが大切。さらに、人間を対象とした研究に適した方法論を身につけること。研究というと普遍的規則を客観的に発見することだと信じている方も多いだろうと思いますが、そうした実証主義的方法は、本来、自然科学のために考えられたものです。人は物ではないので、同じ方法で扱うことはできません。私のゼミの学生たちは、日本語を学ぶ人たちや日本語を教える人たちを対象にしたエスノグラフィーとかナラティブ・インクワイアリーとかライフ・ストーリーとかケース・スタディとか、そんなことをやっています。
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