◎謡曲に地方差はないという話(月刊言語 昭和64-1言語空間)
 九月号のこの欄に七月号の徳川氏の記事に関して「謡曲界から広まった可能性」「江戸時代にまで広げる」ということを記しておいたが、それらしいものを指摘している記事にたまたま行き当った。
 音声学協会会報の四十二号(昭和十一年)コトタマ往来の第六百六十四項で吉町義雄氏は次の様に記している。
  例の奥九方言と謡曲との話は『音曲玉淵集』(享保十二年初刊)巻之三に「西国のはしの人と奥州の果の人と行あひ諷合てもそろひ」とあるのが最古の記述であろうか。
江戸時代中期の謡曲書にこういう記事があるのは意外な気がしたが、これは「方言差を謡曲で克服した」というわけではない。『音曲玉淵集』の巻三は主に拍子のことを記してあり、この項は目録によれば「拍子の論根元の弁」である。つまり、ここは言葉ではなく拍子のことを説明した個所である。しかし、「伝説」の最初の形としてはこのようなものだったとも考えられる。「伝説」は発展し変容するものであるから、そういう意味でも、「方言差を謡曲で克服した話」は「伝説」と呼ぶにふさわしいものと言えよう。
(粕屋郡・岡島昭浩)

これは、『武家共通語と謡曲』の注です。