グローバル日本研究国際シンポジウム

開く日本・閉じる日本 —「人間移動学」事始め—

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西鶴文学における移動 ー移動する社会を反映する小説

ストリューブ・ダニエル(パリ・ディドロ大学)

俳諧師を経て浮世草子の新しいジャンルを創造した西鶴は近世都市の多種多様な様相を把握し、「世の人の心」を描こうとした作者として知られている。この「浮世」の中心である遊郭の遊びの世界から始めて武家の義理や町人の金銭などにも視野を広げて当時の都市社会を鋭い目で観察した西鶴は「人は化け物、世にない物なし」(西鶴諸国ばなし・序)とまで書いて、伝統的な「道行」や語り物の流れを汲みながら、最新の現象を静止したものではなく動態として捉えることに成功した。遊興や出稼ぎの旅、敵討ちの放浪、掛取りからの逃避などという、好色物・武家物・町人物を貫く移動や変化の現象は「浮世」のひとつの特徴でもあり、物語の構想をも決定する基本的なモチーフでもある。作者の分身と見られる世之介など観察者の人物は絶え間なく移動して経験を積んでいく。勘当された息子が非人の身になって放浪の生活の末再び金持ちになる、などのようなパターンの話が多く、「人生は旅」という中世から継承された「無常」の意識は新たな展開を見て、開かれ変化を重ねていく近世初期の社会の表象に再構成されている。今回の発表ではこのような西鶴作品の中で反復する移動や変換のモチーフなど、揺れ動く社会を映そうとする文学の方法に焦点を当て、俳諧をも視野に入れた西鶴文学の再検討の道を探る。

略歴

ダニエル・ストリューブ(Daniel Struve)は、パリ・ディドロ大学 東アジア言語文化学部、准教授。専門は日本古典文学で、井原西鶴と物語文学を研究テーマとしている。主要論文に「『源氏物語』箒木巻を通して見る物語観」(『物語の言語』青簡舎、2013年)、「断片としての「文」―西鶴と書簡体物語」(国文学資料館、コレージュ・ド・フランス編『集と断片』勉誠出版、2014年)、「源氏を訳す - 翻訳が照らし出す源氏物語」(『日仏翻訳交流の過去と未来 来るべき文芸共和国に向けて』大修館書店、2014年)がある。