グローバル日本研究国際シンポジウム

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絹・綿・女工:近代日本の結核罹患

花島誠人(国立研究開発法人防災科学技術研究所)・友部謙一(大阪大学大学院経済学研究科)

日本の戦間期における結核死亡率は先進国中で最も高い値であった。当時、結核死亡者の大部分は若年層により占められており、それ故、結核の蔓延は近代日本における深刻な問題だった。とりわけ、若い女工の結核による死亡率は非常に高く、それが繊維工業における劣悪な労働環境と深く関係していたことはよく知られている。さらに、結核死亡率は東京や大阪のような工業地域のみならず、多くの農村地域においても高かった。従って、結核の問題は、個人の健康という視点だけでなく、工業化・都市化というコンテクストにおいても議論されるべきであろう。女工の結核にまつわる悲惨な状況については多くのエピソードが伝えられているが、その実態を数量的資料に基づいて検証した研究事例はほとんどない。近代日本における結核死亡率の意味を読み解くためには、数量的かつ地理空間的な視点が求められていると言えよう。

本発表では、若年女子の結核死亡率の地域差について検討し、結核による死亡リスクを地域的ハザードから構成される複合リスクとして説明する仮説モデルを提示する。このモデルを工業化、都市化、労働移動を表す社会経済的変数を用いた数量分析により検証した結果に基づき、我々は結核死亡率が近代日本の経済的成長のために国民が支払わざるを得なかった「人的コスト」の代理指標であると考える。このモデルは地域の疫学的状況と社会経済的諸要因の関係についての議論に寄与しうるものである。

略歴

花島誠人(はなしままこと)。国立研究開発法人防災科学技術研究所レジリエント防災・減災研究推進センター主幹研究員。博士(経済学)大阪大学。専門分野は日本経済史、疾病史、経済地理。

友部謙一(ともべけんいち)。大阪大学大学院経済学研究科教授、同副研究科長。博士(経済学)大阪大学。専門分野は日本経済史、歴史人口学。編著書に『前工業化期日本の農家経済:主体均衡と市場経済』 友部謙一著(有斐閣、2007年3月、第50回日経・経済図書文化賞)、『ワークショップ社会経済史:現代人のための歴史ナビゲーション』川越修・脇村孝平・友部謙一・花島誠人著(ナカニシヤ出版、2010年9月)などがある。