グローバル日本研究国際シンポジウム

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コリアにルーツを持つ子どものことばとアイデンティティ

金素譽(大阪大学)

本研究は、様々な形でコリアにルーツを持つ子どもを対象に、各々の言語形成過程やアイデンティティの形成過程を詳細に調査することで、「外国にルーツを持つ子ども」のアイデンティティの形成における母語の役割や重要性、またそれらの世代間における変遷を明らかにすることを目的とする。

主要な先行研究では、「移動する子ども」を考える上では、アイデンティティの形成とことばの学習は不可欠であるとされている(川上 2011など)。しかし、「ことば」が子どものアイデンティティ形成にどう影響しているのか、また、ことばとアイデンティティの関係性が世代とともに変化していくものなのかという問題については具体的に言及されていない。

本研究では、上記のような問題意識を背景として、コリアにルーツを持つ9名の大学生にインタビュー調査を行った。具体的には、2015年6月〜10月の間に、一人当たり約1〜1.5時間半構造化されたインタビューを行い、調査対象者のライフストーリーを語ってもらった。

その結果、若い世代において、ことばは自分のアイデンティティを表現・交渉するツールであって、ことば自体が自己のアイデンティティと直結しているわけではないということが明らかになった。このことは、従来の在日コリアン研究に特徴的な「ことば = アイデンティティ」の図式とは異なるものである。つまり、かつてことばの持っていた「民族性」が、より「個人」を表現するためのツールに変わりつつあるという点で、多数指摘されている「アイデンティティの多様化」を説明することができよう。

略歴

金素譽(きむそいえ)は、韓国に生まれ、その後日本各地や韓国、ニュージーランドなどを転々とし、自身がまさに「移動する子ども」として成長期を過ごした。その後、日本に定住し、大阪大学に進学。現在は大阪大学大学院言語文化研究科および大阪大学未来共生イノベーター博士課程プログラムに在籍中。主な研究対象は、「移動する子ども」におけることばとアイデンティティの関係についてである。