グローバル日本研究国際シンポジウム

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満洲へ渡った女性たち―日露戦争後の国際的「婦人救済」活動とその背景

林葉子(大阪大学)

「人の移動」は、その「人」のジェンダーによって、しばしば、明確に異なる形で現れる。日本の近代史をたどっていくと、女性たちの国境を越える移動には、ほとんど常に、男性たちのそれとは全く違った意味付けがなされてきたことがわかる。明治時代の日本では、国外へ移動した女性たちは「密航婦」「在外売淫婦」と呼ばれ、そのほとんどが買売春のために連れ去られた人々であると、新聞等によって報じられていた。彼女たちの行き先は全世界に広がっていたが、東アジアへ移動した女性たちが最も多かったとされる。

本発表では、海外へ渡った日本人女性の売春が、日本の社会問題として広く認識されるようになった日露戦争後の時期に、最も重視されていた満洲の日本人女性に焦点を当てる。彼女たちの満洲への移動が、日本社会において問題化された経緯と、その女性たちを「救済」しようとした国際的な廃娼運動の性質や歴史的背景について明らかにしたい。満洲における廃娼運動が、最初に活動拠点とした都市は大連で、そこでの「婦人救済」活動を中心的に担ったのは、キリスト教団体・救世軍であった。したがって、本研究では、満洲で最も影響力が強かった日本語新聞である『満洲日日新聞』の大連に関する記事と、救世軍の機関誌『ときのこゑ』を主な史料とする。

明治期の女性の移動についての歴史的な検証を通じて、現代にも通じる課題として、移動する女性たちが被る暴力の問題とその解決への道筋についても提言したい。

略歴

林葉子(はやしようこ)。大阪大学大学院文学研究科助教。2008年、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。研究テーマは、近代日本の買売春と性暴力問題。主要業績に「公娼廃止後の廃娼運動―売春防止法制定過程における女性議員の役割」(出原政雄編『戦後日本思想と知識人の役割』法律文化社、2015年)、「生理衛生教科書に見る人体の表象―「人種」と性差の男女別教育」(小山静子編『男女別学の時代―戦前期中等教育のジェンダー比較』柏書房、2015年)、「『満洲日報』にみる〈踊る女〉―満洲国建国とモダンガール」(生田美智子編『女たちの満洲―多民族空間を生きて』大阪大学出版会、2015年)など。