start your research
美学研究室では、学生の皆さんは[1]研究分野[2]研究対象[3]キーワード[4]研究題目を定めて、
毎月定められた課題に取り組みます。これらは、研究を進めていくうちに変わりうるものですが、
自分が何の専門家になろうとしているのか、自分がいま何について論じようとしているのか、
一人一人がつねに自覚を持つようもとめられます。以下では、各項目の考えかたについて説明します。
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研究分野を定める
大学で何を勉強したのかと問われて曖昧にしか答えられないのは残念です。 大学の4年間で、一つの分野の小さな専門家になりましょう。 この分野については人より詳しくなったと言えるようになりましょう。 わたしたちの研究室で、何でもできるわけではありません。 以下の分野について理解を深めることができます。
| 大分野 | 小分野の例 |
|---|---|
| 美学 | 分析美学 環境美学 日常美学 |
| 美学 | 古代哲学 中世美学 ドイツ観念論 |
| 美術史(現代) | 装飾史 現代美術 |
| 映画 | ドキュメンタリー映画 |
| 映像 | 広告映像 報道映像 実験映像 |
| 写真 | 肖像写真 風景写真 建築写真 |
| 工芸 | 陶芸 漆芸 染織 ジュエリー |
| デザイン史 | 衣服 インテリア タイポグラフィー |
美学思想
美学という学問がこれまでどんな問題に取り組んできたのかを知りましょう。 佐々木健一『美学辞典』の見開きの目次をみると、創造・様式・価値・解釈・批評というように、美学が論じてきた問題がわかります。 小田部胤久『西洋美学史』は、重要な美学思想家の思想が紹介されていますが、同時にまた美学の問題が分かるようになっている入門です。 英語の概説書 The Routledge Companion to Aesthetics の目次にも、思想家の項目や、問題別の項目が並んでおり、全体を見渡したうえで、自分の関心のある項目から読んでみるといいでしょう。
工芸思想
工芸はけっして古い分野ではありません。 今日ではハイテクと結びつきから伝統技術が見直されつつありますし、手仕事のありかたも変化しています。 工芸とは何かについて理解を深め、工芸とデザインとの関係から考えるのであれば、工芸思想家である柳宗悦の著作を読むことから始めるといいでしょう。 文章は、美しく理解しやすく書かれています。柳の思想を基準として、他の考えかたを見つけたり、現代の異なる状況を考えたりできます。 工芸には、漆芸・陶芸・染織など分野に分かれていますから、興味のある分野の通史も読んでみましょう。
デザイン史
文学部の学生は、 文献を読むのが得意なはずなので、デザインの歴史研究をお勧めします。 高安の『近代デザインの美学』は、近代・造形・構成・形式・空間というようなデザインの基礎概念について説明しており、19世紀から20世紀にかけてのデザインの歴史の大きな傾向についても各所で説明していますし、 同時代のアートとの関係にも触れていますので、歴史の入門書としても読めます。 美術出版社から出ている『世界デザイン史』あるいは『日本デザイン史』は、フルカラーですので持って読んでおくといいでしょう。 景観・ 建築・製品・衣服・文字それぞれの通史もあります。
研究対象を定める
研究対象は、論文があつかう対象です。思想史研究ならば、メルロ=ポンティの知覚論といったように、 思想家の書いたテキスト。哲学研究ならば、飲食といったように何であれ、考察の対象となるもの。 芸術研究ならば、特定の作家、特定の領域、特定の作品となります。 研究対象は、研究分野というよりも狭いジャンルであるか、固有名詞であらわされるものを指します。
キーワードを定める
研究室でいうキーワードとは、研究対象をどういう関心から論じるのかという観点をあらわした語であり、
自分の問題関心を一言であらわした語です。たとえば、感性・共感・孤独・参加・友愛・連帯といった語が、
キーワードになりえます。キーワードは、固有名詞ではありえませんが、分野の言葉である必要はありません。
研究キーワードは、自分の研究に一本筋を通すために必要です。これがないと、何が言いたいのか分からない論文、
一貫性に欠く論文になりがちです。研究キーワードは、自分の問題関心をひとに伝えるうえで大いに役立ちます。
短い時間のなかで自分の問題関心をひとに伝えないといけない状況において、一言で察してもらうのも大事です。
学び始めのうちは、問題関心はかなり漠然としているのが普通で、問題関心をうまくあらわす語がなかなか浮びません。
そうした場合は、教員とよく相談したうえで、研究キーワードを一緒に考えましょう。
研究の深まりとともに研究対象への理解も深まりますから、研究キーワードを自分で考え直すとよいでしょう。
美学研究室では、哲学の一分野としての美学のほか、映像・工芸・建築といった分野の研究をおこなうこともできます。
ただしその場合でも、事実関係を明らかにするだけで満足するのでなく、衣服とは何かといったように、
物事の本質を問い直していく「美学」らしい態度がもとめられます。
キーワードを設定して、問いを深める態度こそ、あなたの「美学」なのです。
| 対応可能分野 | キーワードの例 |
|---|---|
| 美学 | 感性 感情 共感 親しみ 美的経験 |
| 美術史(現代) | 参加 集団創造 表現の自由 戦争 NFT |
| 映像 | クィア ディアスポラ トラウマ 視線 |
| 映画 | 音響 検閲 スペクタクル プロパガンダ |
| 写真 | アーカイブ セルフポートレート 痕跡 虚構 |
| 工芸 | 民藝運動 前衛 手仕事 中量生産 百貨店 |
| デザイン史 | 装飾 簡素さ 社会包摂 標準 批評 未来 |
研究題目を定める
研究題目すなわちタイトルは、論文の一番短い要約であり、
学生の皆さんは自分の研究テーマをつねに研究題目のかたちで述べ伝えることがもとめられます。
研究題目を先に決めておくと、構想もまとまりやすく、計画も立てやすくなります。
名は体を表すと言われるように、題目は他の人があなたの取り組みを知るうえでも欠かせません。
題目において、どのような対象をどのような観点から論じるのかが明示します。
たとえば「イサムノグチの空間造形についてー現象学からの考察」という題目において、
人物名「イサムノグチ」は研究対象であり、「空間造形」は自分の問題関心をあらわすキーワードであり、
副題の「現象学からの考察」は研究方法をあらわしています。
XXXにおけるYYYの問題ーZZZの観点からの考察
XXX:研究対象=自分の問題関心を深めるための具体例
YYY:キーワード=自分の問題関心
ZZZ:自分の問題関心を深めるための方法論
準備すること
教員と相談する: 最初は、教員と話し合って仮テーマを決めるとよいでしょう。
教員は、選択肢を多く持ち合わせており、最初にどんなテーマに取り組むならば有意義な勉強ができるか予想できるからです。
仮テーマについて調べるなかで、自分のテーマを 定めてゆきます。
通史を読む: 研究したいテーマがある場合でも、分野の通史を読むことで、歴史のなかで自分の関心がどう位置づけられるのか考える機会になり、他にもっと良いテーマと出会うかもしれません。
偶然の思いつきでなく、歴史をふまえて、自分のテーマを 定めます。
学術雑誌をみる: 各分野の学術雑誌をながめるならば、自分の知らない研究に出会うでしょう。
最近の研究動向を知るかもしれません。
各学会のホームページで学術雑誌 のバックナンバーのタイトルを閲覧できます。
大学生ならあえて洋雑誌をみてみましょう。勉強になります。
考慮すること
好きや嫌いではなく:私たちは芸術を自分の趣味によって判断しがちですが、
芸術をわざわざ学ぶのは、自分の好き嫌いといった趣味を超えて、芸術がもつ意味について考えるためでしょう。
まったく関心のないことをする必要はありませんが、
自分本位の動機よりも、他人にいかに有意義かを説明できるテーマが望まれます。
地道な歴史研究に取り組む: 現在進行中のことを現場で活躍している人ほどに深く理解するためには、
自分もなかに入って内側から見なければなりません。
そうでなければ、文学部の学生に向いているのは歴史資料にもとづく歴史研究です。
各分野の通史をとおして読んで、現代にとって意味のありそうな話題を見つけるとよいでしょう。
教員の専門に近いと良い勉強ができる:教員はけっして芸術のすべてに精通しているわけではありません。
教員の専門分野にかかわる研究をすれば、良い指導を受けられます。
教員はその分野について良いテーマについて知っているはずですし、
どんなテーマに取り組んだら有意義な学びができるか助言できます。教員の授業はテーマ決めのヒントを得る良い機会です。
洋物をするなら本気でしよう: 海外の対象について論じるとき、実際にその作品を体験したり、
原語で資料を読んだりするのが必須です。そうでないと二番煎じとなります。
安易に流れすぎず、語学力を生かして海外の対象にぜひ取り組みましょう。
海外の人と交流を深めたい人こと、日本の文化について理解を深めるといいでしょう。
二つの領域を横断するテーマ:二つの文化領域を横断するテーマは、
複数の角度から問題をとらえるうえで有効ですし、現代らしい意味をもちえます。
二つの国のあいだで活動した人物に焦点をあてるのもよいでしょう。
異なる芸術ジャンルに共通する原理を見出すのは、特定ジャンルに属さない美学らしいテーマです。
三つ以上だと分かりにくくなります。
メジャーすぎずマイナーすぎず:あるテーマについて検索したところ多くの本がヒットした場合、
そのテーマについて調べる必要はないと言えます。ただし、学び始めの人は、
各分野において位置づけがなされている事柄から始めたほうが、基礎知識をつけるのにいいでしょう。
知られている事柄の知られていない部分に注目するのはよいかもしれません。
| 研究分野 | 研究キーワード | 簡易題目 |
|---|---|---|
| 美学 | 感性 | 環境美学における感性の問題 |
| 美学 | 共感 | 芸術経験における共感の可能性 |
| 美学 | 没入(美的参与) | 自然鑑賞における没入体験 |
| 美学 | 快楽主義 | 音楽における快楽主義の問題 |
| 美学 | 労働の喜び | ものづくりにおける労働の意味 |
| 現代美術 | 市民参加 | 地域アートにおける市民参加 |
| 現代美術 | 集団創造性 | 共同制作における集団創造性 |
| 現代美術 | ケア | ケアの実践としてのアート |
| 現代美術 | 脱人間中心主義 | 人間のためでない芸術の意味 |
| 現代美術 | 共制作 | 非人間的存在との共制作 |
| 映像 | 物語構造 | ドキュメンタリーの物語構造 |
| 映像 | 音楽 | ドキュメンタリーに音楽は必要か |
| 映像 | 時間 | 記録映像における時間の再構成 |
| 映像 | 色彩記憶 | 映像アーカイブにける色彩記憶 |
| 映像 | アイデンティティ | 映像復元による民族意識の覚醒 |
| 工芸 | 前衛 | 民藝とアヴァンギャルドの共振 |
| 工芸 | 中量生産 | 中量生産における個体差の美学 |
| 工芸 | 百貨店 | 民藝の流通における百貨店の役割 |
| 工芸 | 継承 | 最新技術による絣の継承 |
| 工芸 | 巨大化 | 建築の内装に生きる伝統工芸 |
| デザイン | 機能主義 | 役立つことを問い直すデザイン |
| デザイン | 遊び | 工業製品における遊びの要素 |
| デザイン | 土着性 | 建築家なしの建築の見直し |
| デザイン | 社会包摂 | 障害をもつ人々とデザインする |
| デザイン | コミュニティ | コミュニティデザインの仕事 |