U-2機撮影の中国大陸空中写真



 

黄土高原上空で撮影されたU-2斜め写真の例



  U-2機撮影の中国大陸偵察空中写真は、アメリカ国立公文書館Ⅱ(NARAⅡ)において公開されている。中華人民共和国内においては地形図や空中写真の入手・利用が厳しく制限されており、地理学的研究に際しては、CORONA偵察衛星の写真が利用されてきた(渡邊・高田・相馬2006、熊原・中田2000など)。U-2機による空中写真は、約2万メートルという高度での撮影でありながら、焦点距離36インチのレンズを用いて2.5フィート(CORONA衛星写真は25フィート)の地上解像度を実現しており、精密な写真判読が可能である。撮影範囲は限定されているものの、20世紀中期の中国大陸を対象とする地理学的研究において大きな利用可能性を持つと考えられる。ここでは空中写真を実際に研究に利用するに際して必要となるカメラやフィルムに関する情報を中心に報告するとともに、実際の写真をみてその判読可能性について述べる。

 

ワシントンDCの航空宇宙博物館に展示されたU-2機搭載Bカメラ


■U-2機搭載カメラとフィルム・写真の特性

 U-2偵察機に搭載されたカメラには少なくとも6種類が知られているが、中国大陸での撮影(1957~1974年)に主に用いられたのはBカメラと呼ばれるものである。Bカメラはいわゆる首振り型で、左右に回転しながら7つの固定ポイント(右斜め写真×3、垂直、左斜め×3)で撮影される。最も外側の2つのポイントで撮影される斜め写真は地平線に至る広域をカバーしている。
 1回のフライトのためにU-2機に搭載されるフィルムは1220~1980メートル、200キロ超もの長大なものであるため、機体のバランスを保つためにフィルムは左右に2分割され、互いに逆方向からロールが巻かれる仕組みになっており、左右のフィルムをあわせると1枚が18×18インチ(およそ46センチ四方)の写真となる。ただし上記のようにフィルムが分割されているために、左右のフィルムの合わせ目の部分に細長いギャップ(未撮影エリア)が生じてしまっている。報告者らの計測によれば、ギャップはおよそ150メートルに及んでいる。この問題はBカメラの開発段階では重視されていなかったが、東欧の滑走路建設状況を偵察するための初めてのフライトで目標物の撮影に失敗し、後のフライトでは目標物の真上ではなく左右いずれかに少しずれたコースを飛ぶように指示されたとのことである(Pocock 2000ほか)。
 1回のフライトごとに撮影された8000枚にものぼる写真は、ミッション終了後に現像され、左右あわせて数十本に分割され、フィルム缶におさめられている(例えば、本報告の判読事例に用いたミッションの写真は59の缶に分割保存されている)。NARAIIでは、緯度経度1度ごとに作成されマイクロフィルムにおさめられている標定図と、U2写真のカタログを参照して取り寄せを申請することになるが、前回の報告でも述べたように目標とする地点の写真が数十缶に分割されたうちのどれにおさめられているのかは缶の蓋に記された情報を見るまでは確認できず、最悪の場合には全ての缶を取り寄せる必要が生じ、大きな手間がかかるのが現状である。


■黄土高原撮影写真のオルソ化と判読

 1963年6月3日に撮影された黄土高原・黄河本流周辺のU-2空中写真フィルムをスキャニングしたデータを用いて、写真判読および現在の土地利用との比較を試みた。この地域では人民公社の設立以降、段畑や谷底におけるチェックダム(斜面から流失する黄土を谷底でせき止めることによって造成される耕地)の造成がすすめられてきたが、1999年以降は退耕還林による造林と大規模な土木工事による段畑化がすすみ、現在では土地利用が大きく変わっている。人民公社設立後間もない頃の土地利用を復原するために、U-2空中写真は貴重な情報源となり得る。
 土地利用変化の観察にあたっては、現地での観察のほか、RPCファイルを用いてALOS衛星データをオルソ化した後にパンシャープン画像を作成し、これをベースにERDAS IMAGINE14.1を用いてU-2写真のオルソ画像を作成した。1963年当時の段畑やチェックダムの造成状況、作付け状況などの判読をおこない、経年比較を試みている。


 

U-2オルソ画像の3D表示例

 


 

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