― 『二もと松』解釈データ凡例 ― ・庵点は「¬」で示した。 ・傍線の引かれている部分は「””」で括って示した。 ------------------------------------------------------------ じょ みよしためやすがゆうじょのきはながいばかりであじわいうすし いまこのふたもとまつはわずかにすしのうちにけいちゅうのおもむきをあらわし えちごなまりのおかしみはあごをまわしざしきとともにはつす (丁付なしオ) ああうらびとがくるわのせかいにあかるきことあきはのもおよばざらんかなをは るのはつだのつきだしよりいずれもさまのごひょうばんあしからずみまえかしと しかいう (丁付なしウ) ねのはつはる (丁付なしオ) えどのまちにちょうめのかどにおいて @@ろうじんし (丁付なしウ) はつご くれたけのやぶのうちからしりむまにこむろぶしうたいしおもかげもいつかむか しになりけらし ただあみがさはたまち(@)をのこしたれどもかぶるとはきんくにてとりおいの ものとなり (イオ) こいのやみをてらすたそやあんどんにふかまはふみをまきかえしあるいはうらじ ゃやにひきまわされててれんつかうよねたちもあり いえなあたらしきはこうしさきにめじろおおくしてあしのかかとをふまれるをも しらず (イウ) はなぼうにてうちんをきつくきつくといわせていそぎもやらぬちゃやのわかいも のはえどけんぶつのあんないにもにたり あかつきおきのきぬきぬにおさらばえのひとことはすいたすかぬのしゃべつなく にくいとかわいのわこうどうじんすいはのへだてはなし (ロオ) ほんにおもえばじつじょうそとにあふれことばにあらわれてもやっぱりかわいと いうよりほかなければ すなわちじれったいとまえがみをこすりつけてはがたをのこすにとどまるのみ さればいたりやすきはじょうろかいのきょうにしてまたいたりがたきはしんのだ いつうなり (ロウ) ろうしおやじがしゃれていわくつうとすべきはつねのつうにあらずといえり さわとてこのこほんはそのつうをろんずるにもあらずやぼにならんとするをおし ゆるにもあらず (丁付なしオ) ただせんだちのそうはくをくいすぎてよいまぎれにくだをまくとさっしたまうべ しとしかいう さくしゃみずからしるす ふたもとまつ (丁付なしウ) こしじのうらびとちょじゅつ だいいちわ きゃくはえちごものにてごじゅうばかりのおやじなり あいかたはとめしんにてとしごろじゅうはちくとみえたり かおかたちことのほかほかやさしくこのきゃくのめはなだちにすこしにたるとこ ろあり (一オ) ざしきのようすもはやとこまわりてあんどうをすこしそむけきゃくはとこのわき につくねんとすわっているところへろうかにうわぞうりのおとばたばたばたばた ばたばたばた しょうじをあけてずっとはいり [あいかたなはまつがえ]をやぬしはなぜそこにすわっておでなんすへ (一ウ) [きゃくじん]わしはまたそこへあがったらそんまばちがあたろかとおもうてい ます あんまりおけっこうなきんらんでふかりかがやくひとんだすけのぼるのはよろさ っしゃれ [まつがえ]をやばからしゅうざんす <とむりにてをとりてゆかのうえにひきあげる> これさなぜぬしはそんなにちいさくなってかたはしへよんなんす (二オ) [きゃく]わしはこんがなはやふわふわしるきんのひとんねくろまってねちゃい っこにはやきがつまってわるいがのし もしあしのあくどのあかぎれにふっかかったらよぎのうらもひとんのおもてもみ りみりもりもりとふっさこかとおもうすけ ほてからふやっこいあせがでるがのし いやはやあつなったぞ おけつのわれめからふんぐりだまびっちりとあせかいたすけちっとここをだして すずましてくだされ (三ウ) [まつがえ]をほほほほほそしてさっきからおなかがぐふぐふとならっしゃるが もしひもじいのをこらえていなんすか [きゃく]なにふもじくはないがきょうやどやでこんぼうをおつけにしたがんを くうたすけいっこにはやはらがはってへがこきとうてならんのをこたえているす けはらのなかでみんなてんぢょくだまへへがえりをしるのだのし (四オ) [まつがえ]をやばからしい <とわらいながら> ちょうずばへいってだしてきなんし [きゃく]いやちょうずはつかわんでもいいがしょんべんもいっこにはやつつい っぱいにつまりきっています (四ウ) さあこをしょんべんおけのあるとこをはやおしえてくだされ [まつがえ]をや <とおきあがり> こっちへきなんし <とてうつばへつれてゆけば> [きゃく]いやはやとつけもないここもにかいだのし こをこをどこのくににかいからしょんべんこくということがあろかのし まあわしはこきますまい (五オ) したにいるおじょろのあたまへでもかかるときのどくだのし [まつがえ]ふざけさっしゃんな ばからしい さあはやくたれなんしな [きゃく]そうしてしょんべんこいてもだいじやないかえ どうもしたにいるふとにかかりそうでおっかないようだ [まつがえ]へびもだいじゃもいることではおっせんよ (五ウ) きをじょうぶにもってひよぐりなんしな よがふけいすわな [きゃく]あい <としりをぐるりとまくってうしろむきになってみたりまえむきになったりして まごまごする> [まつがえ]をほほほほほほほどうしなんすのだえ [きゃく]こらはやどふせうばいつこにはやしょんべんこきづらいがのし <とようようにたれて> ああすっかりとした <とわらいながらとこにはいりて> わしがいまこいたしょんべんがしたのしゅうのあたまやきもんにかからんかのし (六オ) [まつがえ]とんだくろうしょうだよ をやぬしのもんどこはわたしがもんとおんなじことだよ [きゃく]<いわれてまつがえがかおをみつめ> おまいいどのふとか [まつがえ]まあそんなものさ [きゃく]いやうそだかいちごだかどふだへ [まつがえ]えちごとやらならどうさっしゃる [きゃく]いやはやもしいちごだというとそらはやなあがいともなあがいともお いちがまんじょのけのほどさのはなしがごさらのし (六ウ) <とすこしなみだをもようして> なんともぶちほうなこんだがあのおまいはこのわしがむすめのまいかたふとかど いにかどわされたのにどうかめはなだちがようにていなさる [まつがえ]をやほんにかえ (七オ) [きゃく]<おきなおりて> こらおまいいちごだかというに [まつがえ]あい [きゃく]こらこらとんださべりになった おまいいくつのときここへござった そうしてまたいちごはどごでなはなんといいました [まつがえ]<こなたもこころにあたりあれば> わたしはえちごのにいがたのものでこどものときはおなみともうしいした [きゃく]<われをわすれおもわずおおきなこえをしていわんとせしが心づきあ たりをはばかりこごえになり> (七ウ) やあそれではこらこらおれがむすめだむすめだこらととだわととだわ <というもさきかつはなみだにて> これまあととをみわすれたか <といわんとすれどせきくるおんあいのなみだ> うながちょうどもつつのときおれとかかとてらまいりにいってろすのおりに <とまたなみだをこすりまだだきをしながら> ふとかどいがきてうなにさるぐつわはめてつれていったとて (八オ) きんじょのふとがみちまであつっぱいづらになってはしってきてしらしたすけ そらというてかかもきちがいのようになっておっかけたどもなにはやどごへぬげ てつれていったやら どうしてもめいないすけそのひをうながひにしてほうじしたりねんきともらうた りなにか(@)したども かかはまたうながことをあんじてしゃくのやまいがおこって (八ウ) <てぬぐいてめをふきふきして> とふとしんでしまうた <とむすめがかおをみれば> [まつがえ]<わっとなきだせしがこころづけはをくいしばりこらえる> [おや]<これもおなじくなみだをおさえて> おれはまたあんまりうながなつかしいすけもしもどごでかあうこともあろかとぜ んこうじさまへおまいりしるというてうちをでてちょうどおとといこのいどへつ いたがもしやこのよしわらへでもうられはしまいかとおもうたすけこんにゃここ のまちへきてみたればこのうちのむせにおれがこのめはなだちにようにたような のがいたどもじゅうさんねんもあわんもんだすけなにしれるもんか (九オ) それだどもむしがしったげであがりたうてあがりたうてならんすけままのかわか ねいちぶすてろ (九ウ) これもむすめのためほうじしたとおもいませよとりょうけんしてあがてみたれば にたとおもうたもそのはづのことだぞそれもはやくしれたでたがいにかなしいめ にもあわんでうろしいこんだ これもほんねほんねまちのおぼすなさまがおふきあわせだ (十オ) [まつがえ]<しじゅうなみだにくれいたりしが> ええもどういたしいせうごめんなんし <とおやとならんでいたるとこのなかをうろたえてゆかのそとへおりる> [おや]なにだいじやないそこへおりてかぜをふくなや [まつがえ]もうもうこんなとこでおめにかかりいしてはづかしうざんす それにまたよいからいろいろぞんざいなことばっかりもうしいしてかなしうざん す (十ウ) かんにしておくんなんし [おや]こらこらばかいうな なんにもだいじゃない はずかしいこともへちまもない さてもさてもうなはおおきになったことわいくににいたおりは <てまねをして> やっとふとふろほどであったがいっこにみわすれた (十一オ) [まつがえ]わたしがひとにかどわかされてからのかんなんはいまさらいうもな がいことざんすからゆるりとおはなしもうしいせうがわたくしはおききなんし いまはここのうちでのいちばんのおいらんまつやまさんというについておりいす がわたくしをほんのこのようにかわいがってなにもかもせわをしておくんなんす からいっそもっていねいようでざんす (十一ウ) このすえおりもあらばたんとれいをいっておくんなんし こんやはおいらんはわんやのきゅうべいさんというきゃくじんのふかいわけのあ んなんすにでておでなんすよ またそのきゃくじんのなをみんながただわんきゅうさんわんきゅうさんとばかり もうしいす (十二オ) [おや]え <といわんとせしがいろをなおして> はあそらまたなぢよなわけのあるふとだ [まつがえ]どういうもこういうもまことにふかしいなかでおでなんすがいまは そのわんきゅうさんはかんどうとやらをうけなんしていなんすそうでざんすがひ としきりのぜんせいにひきかわりいまはおちぶれてしがないなりばっかりしてし のんでおでなんすからいっそかわいそうでざんすよ (十二ウ) [おや]ふうはてなこらそんがにおちぶれたふとはななおだいじにかわいがるも んだ かならずばかにしるもんでない ふとのみのうえだとおもうな いやいつまでいてもはなしはつきないすけまたかへつてこのあいさにこうか (十三オ) [まつがえ]おやどういたしいせう ろくろくにはなしもせずに せめてひけまでおでなんし [おや]いやいやまたおそなるとまちのいぬがおっかない [まつがえ]ほんにそうだということざんす すんならまたいつおいでなんすえ つとめのことはわたくしがほうでどうともいたしいす (十三ウ) それともないしょうへあかしておもてむきはれておでなんすか [おや]<かぶりをふりて> まだそんがなこともはやいはやいちっとりょうけんもあるすけやっばりきゃくに しておけ またかねのことはちっともくにしるなうな もちっとはおぼえているかしらんがおれはたんとでんちもやしきももっていたす けそれをみんなうってかねにしてもってきた (十四オ) そらなぜというにおれがろすのうちふとにあずけておいてもしひょっといんごく のたびでしんでもしるとあとはみんなふとのもんになるすけ [まつがえ]ほんざんすか [おや]をを <とおびをしめなおしでかける> 〔まつ〕<こごえにて> もしへしたでわかいしがおまえのはきものをなおすからかまわずおはきなんし (十四ウ) そしてみちはおぼえておでなんすか [おや]ををあんじるな <とはしごをおりてくる> [わかいもの]<わらぞうりをとってなおせば> [まつがえ]<おもわずしらず> なにうっちゃっておき <といいかけてきがつきたればこちらのことにいいまぎらかし> わたしをこれぎりにしてうっちゃっておきなんすとききいせんにえ [おや]<こころのうちにはおかしけれど> あいあい [わかいもの]<くぐりをあける> [まつがえ]おさらばえ (十五オ) だいにわ ここにまつがえはふしぎにおやにあいこころもいそいそとまつやまにこのことを はなしてよろこばせんとなにごころなくざしきのいりぐちにきかかるになにかや うすありげのこんたんなればとなりのあきざしきにみをひそめている みにかえておもうひとにはとうざかりおもわぬひとのしげしげにくるもつとめの うやつらやせうこともなきあだまくら (十五ウ) いまはまつやまもなかのまちへもでられぬほどになれどもきるにきられぬくされ えん ばんとうしんぞうまつがえがやりくりにてたまにあうのもこおりのぢごくはりの やまかぶろしたぢのこどもにまでもこころをおいてせりふたのしむなかなれども ひとめをしのぶほどかえってかわいいとしのまさりしがただなにごともはてはわ んきゅうがみづまりとなるばかりなればまつやまもいまはこころにこうとかくご をきわめこよいはことさらにむつまじくかたりあう (十六オ) [わんきゅう]<またしきりにふさいで> ふたりがこんなにうわきばなしどころじゃああるめえ (十六ウ) [まつやま]<ひばちのひをわるかみをおりてそれであういでおこしていながら > それでなくてさえこのごろはこころぼそくおもっていいすにまたふさぐことをお っせいすよ ほんにおまえさんがそんなになんなんしたももとはといえばわたくしゆえ <とすこしこえくもりて> かんにしておくんなんし <といいながらめそめそとなく> [わんきゅう]<ひばちのはいのかたまりをひばしでひろいてかたわきにつみあ げたりおなじじをいくたび(@)もかいたりしていたりしがためいきをつきなが ら> (十七オ) ばかあいわっしたとへてめいがいくらよんだとておれがほうでおとなしくしてい りゃあこんなにゃあならねいよ いまになっていくらくよくよといったとてしんだこのとしをかぞえるようなもん だ こんやぎりでなごりにさえすればなんのこたあねい [まつやま]<もっていたきせるでわんきゅうがもったひばしをおもうさまにた たきおとす> (十七ウ) [わんきゅう]こりやどうするのだ <とたてひざをはたきて> なんのまねだかきがしれねい [まつやま]きのしれねいことがおすものか [わんきゅう]ああしれたさやうならばまいにちまいりましょう [まつやま]そんなこっちゃおっせんわな <とむっとしている> [わんきゅう]わけもいわずにはらをたつせ これそんなにせうさいふくのようにふくれずともいいじゃあねいかこれさ <とちょっとこそぐる> (十八オ) [まつやま]およしなんし [わんきゅう]<まつやまがまえにまわりりょうてをついてかおをみてにっこり とわらいながらゆびでひざをつつく> [まつやま]おふざけなんすな <とわきへむけば> [わんきゅう]なんというみぶりだ いもむしかぼうふりむしか <とぐっとだきよせわきのしたをこそぐれば> [まつやま]をほほほほほおよしなんし せっかくはらをたとうとおもってもどうもおまいさんのかおをみるとはらがたた れいせん (十八ウ) もしヘいまのはねもふこれからしんぼうをするからここへはきはしねいとでもい っておきかせなんせばけっくうれしくおもってとうざかりいせうにおかしなきに かかることをおっせいしたからいっそはらがたちいした [わんきゅう]へそでなくてよかったがもしおれがしんだらどうする (十九オ) [まつやま]にくらしいよなぜかおとこというものはじょうのないものざんすか せめておもうしはんぶんのそのはんぶんもさっしておくんなすとうれしうざんす ほんにそしてなんぞというとぐちだのばかだのといいなんすがおまいさんとわた くしがなかのこたあだれしらぬものもなくひととうりやふたとうりのなかではな し (十九ウ) おまいさんもすこしはさっしておくんなんしこれがぐちにならずにいられいせう か <とひとむらさめのばらばらばら> [わんきゅう]これどうした これさなくなよ ろうかへきこへるわな それかおをはやくふきやな <とたもとからてぬぐいをだしてやる> せっかくたまたまくるにないたりなにかしてさ (二十オ) [まつやま]ほんにたまたまおでなんしたにそれでもどうも [わんきゅう]もういいいいいわづともわかりきっていらあ [まつやま]そしてもうほんとうにおでなんせんかたとえいまこふなってもたま たまにきなんすをたのしみにおもっていいしたが <とわんきゅうにしがみつきまたもまきだしそうなれば> [わんきゅう]なにさ (二十ウ) よしやつきだされたとてこうしまででもよそながらこずにいられるものか くるよくるよ <とこなたもめにもつなみだをみせじとまぎらかし> ばかにてめいはなみだもろくなりもなった [まつやま]をやほんにわたくしとしたことがこんなてまいがつっをもうしいし た かんにしておくんなんし もうなにもいうなとおいいなんせうが (二十一オ) [わんきゅう]もうなにもいふないうな りにおちているわな [まつやま]もしへもふたったひとこといわせておくんなんしおがみいすよ [わんきゅう]りくつぽいことならいやだいやだ [まつやま]なあにまずちょっといってみいせうか はらをおたちなんすな [わんきゅう]おれにはらをたたせることならよせよせ [まつやま]<わきにあったかんざましをにさんばいあをっきりでひっかけてむ せる> (二十一ウ) [わんきゅう]またあばれのみがはじまった だれもおしみはしねいよ <とせなかをさする> [まつやま]<ようようおもいきりて> あのねもうこんやぎりにしておくんなんし [わんきゅう]なにを [まつやま]あすびを [わんきゅう]どこへいくことを [まつやま]このにかいにきなんすことさ [わんきゅう]<きかぬふりにてうた> 「わしにばかりはまこととおもい はまりやすきはすいのふち (二十二オ) しずむものなればおもえばさいな ほんにぶすいがましじゃ ものこころしらずやあけのそら [まつやま]そこらがあたりさ いままでわたくしにほれられなんしたをいんがだとあきらめなんしてさっぱりと わたくしにきれてしまっておくんなんし <とうってかわりしことばにいっこうにがてんはゆかねどもいなおって(@)> (二十二ウ) [わんきゅう]なるほどじつのあつことをいうもんだわえ これわりやあうそにもしろしなばもろともといいかわしたこともあるぜ それからとうとうこんなになったもいちにちでもふうふになってみたいばっかり それにひきけいなぜいまになってわりゃあ <とせきたつこころをおししずめあたりをはばかりこごえ> (二十三オ) いまさらこんなみれんらしいことをいうもあんまりちえがねいがわりゃあ もうじつごかしでつきだすつもりだな これそふいうやつだとはやくしったら <とまたせきたつこころをしっとこらえて> いやこうしていてごうはぢをはたこうより <とみづくろいをよる> [まつやま]そのまあしみったれたなりをよくつらのかわあつくきなんした (二十三ウ) あすはいろおとこでもよびにやってこんやからみあがりして ほんにまあなにからさきへしようかうれしくててにつかねいぞよう をほほほほほほほ <とたんすからもぐさをだしきゅうべいにせいのつまとほったうでのほりものを やきけす> [わん]<さすがのわんきゅうもはらをたつにもあまりのことにあきれはていま はいとしかわいのこころはどこへやらなくなりろうかへでてたちかえり> おのれみやあがれいまにかおをみけいしてやるぞ (二十四オ) <とこれをわかれのことばにてふりむきてゆかんとする> [まつやま]おしのつよいあすからははしのしたでこもをかぶるがきいてあきれ いす <とこなたもこれがわかれのすてことば> このときしんやじゃくまくとしてろうかのはっけんいとかすかにとうとうとちら つきかなぼうのひびきみにしみじみとちりんちりんちりんちりんちりんちりんの きには (二十四ウ) [わんきゅう]<あまりのことにまつやまがしうちのがてんゆかざればまたこう しさきにようすをうかがう> [まつやま]<わんきゅうをむりばらをたたせてかえしてのち(@)とこのうへ におきなをりとわずがたりのしうたんのなみだながら> きゅうさんへかんにしておくんなんし いまつきだしたのはしょせんわたくしというものがあってはいつまでもおまいさ んのしんぼうのじゃまとおもいつめいしてしんでしまいいせうとかくごはいたし いしたけれど ここにたったひとつよみしのさわりはないしょうとまつがえさんのことだんなさ んもおかみさんもわたしがまだひっこみのうちからなにからなにまでせわにして おくんなんしたに (二十五オ) おまいさんにでいしてからいつかこのようにこりかたまりほかのきゃくじんにで るがしみじみいやになりなんのとがもないきゃくじんをふりつけたりつきだした りいたしいしたのが (二十五ウ) いまになってきのどくさつらさこうかいいたしいすが ちかいころはなかのちょうへもでられぬようになってもないしょうではやっぱり わたくしをかわいがっておくんなんしておまいさんのことはしらぬふりをしてお いでなんす まつがえさんといえばわたくしをおやのようにおもってういもつらいもかたりあ いたがいにちからをつけおうたに (二十六オ) ないしょうとまつがえさんにひとことのれいもいわずにいましぬとはなんぼおま いさんのためだとてこれがかなしくなくてどういたしいせう さっしておくんなんしてこんやはらをたちなんしたこころのいつまでもかわらぬ ようにさっぱりとこころをきりかえひとにほめられなんすようにしんぼうをして おくんなんし (二十六ウ) くさばのかげでもききたうざんす <というもなみだのしゃくりなきようようにかきおくふみもあとやさきいまはこ うよとみえしにとなりのあきざしきからあわただしくかけこみうしろからとりつ くは> [まつがえ]<ふるえながら> おいらんへきこいいせんにへこれほどにまでおもいつめなんしたことならなぜひ とこといっておきかせなんせんまあまあ (二十七オ) [まつやま]あれさおがみいすはなしてくんなんし わたしはもうどうあってもしなねばならぬぎりとぎりになりいした かまわずにしなして [まつがえ]みんなようすはきいてしっておりいすまあどうなさりいすともちょ っとおはなしなんし <とむりやりにおさえとめる> (二十七ウ) よのなかにぎりほどつらいものはなしとはいままつやまがみのうえなり ばんとうしんぞうまつがえがしんじつはまことからでたまことなり [まつやま]<たもとでなみだをふきながら> としはもいかぬみでわたしをそれほどにまでおもってくんなんすはうれしゅうざ んす [まつがえ]わたくしゃあどうしたらおいらんのおんがおくられようとおもった ばっかりできょうまであだにつきひをおくりいしたのがかなしゅうざんす (二十八オ) なにをいうにもああどうぞこうしてあげいしたいのああしてあげいしたいのとお もうことはやまほどありいすけれどままならぬはしんぞうのみでいっそじれっと うおもいいす (二十八ウ) これほどにまでおもっておりいすのになんぼきゅうさんのためでもかならずかな らずおしになんすな しんではなはさきいせうか それともどうあってもしぬきでおいでなんすならわたくしももういきてはおりい せん [まつやま]ばからしいよ わたしがなくなったあとでこうはなでもたむけてくれるはおまいならではありい せんにえ (二十九オ) こういうくがいのみでしにいすからうかむことはおろかおおかたこのにかいのう ちをこんはくとやらがまようでおっせうほどに おまえがたったいちどでもみずむけなりとしてくんなんしたらよのひとのおだい もくよりかわたしがためになり (二十九ウ) 三十〜三十二落丁 したたらすけさんでもおあんなんし [まつやま]なにねるとじっきにおちつきいすさあもういってねなんし [まつがえ]あい <といってやっぱりもじもじしている> こんやはさっぱりねむとうざんせんめがさえきっておりいすといっているうち [やつのひょうしぎ]ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん [まつやま]それみなんし もうやつでざんすよ はやくいってやすみなんし (三十三オ) これさいちふくすいつけてくんなんし [まつがえ]あい <とあまりにいそいできせるのすいくちのかたへたばこをつがんとしてきがつき きせるをとりなおし> をほほほほほ [まつやま]どうしなんしたえ [まつがえ]すいくちとがんくびととりちがいいした [まつやま]そりゃねむいのをこらえていなんすからさ [まつがえ]なあにちっともねむったうはおっせん <とたばこをすいつけてさしだす> [まつやま]<これもたばこのなごりとは心の内でおもいながらなにげなきよう すにて> こんやはたばこもむまくないようでおす (三十三ウ) [まつがえ]そうでおでなんしょうとも ほんにしゃくのさしこむのはどんなでおでなんすへ [まつやま]もうおちつきいした <とやかくするうちすやすやとねたふりをしてみせる> [まつがえ]もうねいりなんしたそふだ <とそっとのぞいて> おいらんがあんまりきゅうさんのことをくにしなんすからこのごろはよっほどか おがおやせなんした (三十四オ) ああまださつっのしゃくがむなさきにつかえている <とむねをさすり> なぜだかどうもここがはなれとうないぞ それでもこうしていてめがさめなんしたらおしかんなんせう <としぶしぶたていくまもなくだれとはしらずまたからかみをそっとあけはいる ゆえみれば> [ないしょうのにょうぼうおつう]どうだえ <といわれて> [まつやま]をや <とびっくりすれば> [おつう]をっとしづかにしなよ (三十四ウ) ほかへもれてはわりいから まあなんにしろしたへおりてはなしましょう こわいことでもなんでもない くわしいわけははなさねばわからず まあわたしとひとつに <とつれていきないしょうのちゃざしきには> とうだいのとのしびほそく ふけわたるつきはいとさやかにこししょうじにふゆがれのこずえをうつし (三十五オ) しんちゅうのしかみひばちのさくらずみあわれにときならぬほたるのおもかげを なし くろぬりのふちのろはいたくらとなりてとりおどろかぬつづみのむかしににたり おりからまつやまをつれてくるは [おつう]はいだんなへつれてまいりました [ていしゅ]あいあいあとのからかみをたてさっしゃい (三十五ウ) [からかみ]すうとんときにこれげんとうよながくしてひとりさむさもみにしみ じみとふけわたるにほんつつみのかたをいとはるかにまよいこをたずねる かねたいこのおと ドドンカンドドンカンドドンカンドドンカン (三十六オ) ないしょうのちゃざしきにてのいけんはあまりにことながければにへんめにゆず りてまづこのしょへんのごひょうばん(@)をうかがうのみ ふたもとまつぜんぺんたいび (三十六ウ) 注 ・漢字やかなの読み方が確定できないときや不明のときは、@で置き換えた。  以下にその詳細を示す。   丁付なしウ2  @→原文「売油老人誌」:読み方不明。   イオ3     @→原文「田町に」  :読み方不明。   十七オ6    @→「いくども」か   二十三オ1  @→「いなおりて」か   二十五オ1  @→「かえしてあと」か   三十六ウ3 @→原文「おんひょうばん」か