凡例 {}はルビ []は発話者 〔〕は漢文の返り点 〈〉は漢文の送り仮名 【】は仮名に漢字が傍記されている際の漢字 ※漢文で一つの字に送りがなと返り点が付されている際、送りがなを先に記した。 ※割り書きの中は一文ごとに改行しない。 -------------------------------------------------------------------- 田舎芝居 東西/\。 暫{しはら}く/\。 夫珍奮韓詩外伝{それちんぷんかんしけてんい}に日{いわく}。 昔黄帝{むかしこうてい}の御宇{きよう}かとよ。 鳳鳳{ほうわう}出て東園{とうゑん}に来儀{らいき}す。 豊年{ほうねん}時に大当{あた}リ。 田舎{いなか}芝居始りて。 百姓等遊楽{ひやくせいらゆうらく}す。 その古事を其儘に。 どつさり居{すへ}た大名題{だい}。 為先ツはつ春の序開{じよひらき}に。 恵方{ゑほう}に向{むかつ}て書キ初メの。 万硯{すずり}は近江の虎班石{とらふいし} 為持{もつ}たる椎{しい}の実{み}三文筆。 曾我兄弟のせりふまて。 万工藤はあらずさら/\と。 ひつかく猿隈{さるぐま}小林の。 朝日に羽をのす屋が板{はん}。 為齢{よわい}は千代の竹杖が。 師匠自慢{しせうじまん}の鼻{はな}の先キ万高い山から谷底{そこ}見れば。お万にあらぬ万倍{ばい}が。 同じく息勢{いきせい}はる霞{がすみ}。 ひゐきの引キ幕{まく}切リ幕を。 為あくる岩戸の一番目。 万五ばん続{つづき}の一チから十迄。 二人評判{ひやうばん}頼上まするとホヽ敬白{うやまってもふす}。 序 先{さき}に遊子法言辰巳{ゆうしほうけんたつみ}の園{その}の二書出てより。年ン々歳々其粽粕{かす}を畷{すゝ}つて。 似たり寄ッたりの晒落本斗升{しやれぼんとます}を以ッて量{はか}るとも量り尽すべくもあらず。 其晒落本を閲{けみ}するに。 底{そこ}の底を穿{うがた}んと欲して。 八万ン奈落の汚泥{どろ}を堀リ出し。 @(注1){くま}の@(注1)を探{さが}さんと欲して。 六万坪の塵芥{ごもく}を掻出{かきだ}し。 見ぬ事清しの影穿鑿{せんさく}。 くら闇{やみ}の事をあかるみへ持出されて。 娼妓{じようろげいしや}の身の上には迷惑に及ふ事少{すく}なからず。 是見{みる}に興{きやう}なく見らるゝに害{がい}あり。 実{じつ}に笑を取に失{しつ}して。 苦笑{にがわらひ}を惹{ひき}出すに至らしむ。 是をや。 過たるはなほ及はさるが如しとやいはん。 予か兄弟子の万象亭謂{いへる}事あり。 凡稗官{しやれぼん}を編{つゞる}に一ッの書法あり。 能ク近く譬{たとへ}をとらば立役真ン剣を抜イて実{まこと}に敵役の頭{かうべ}を刎{はね}。 やつし女形をとらへて前をまくりはたえをあらはにしてゑならぬ事を仕出し。 道外褌{ふんどし}をはつして睾丸{きんたま}を振リ廻さば。 目を驚{おどろ}かし片腹を拘{かゝ}ゆべけれと。 正{せう}の物を正で御目に懸ずして。 しかも正の物の如く見するを上手の芸{げい}と云つべし。 戯作{けさく}も亦然{しか}り実を以て実を記{しる}すは実録{じつろく}なり虚を以て実の如く書成は戯作なり。 晒落本の晒落を見て晒落る晒落は晒落た所が晒落にもならねば。 只可咲{おかしきも}を専{もつはら}とすべしと此語戯作道の確論{くわくろん}といふべし此頃万象亭書捨{かきすて}の小冊あり。 晒落本にあらずして野夫{やぼ}本なり。 其筆先の穿{ほる}所は。 生得{せうとく}田舎の芋頭{いもかしら}にして。 是を読{よみ}是を味{あち}はゆれば。 忽然{こつせん}として屍{へ}を催{もよ}ほす。 放{ひ}る所の屍高鳴{たなり}して聞ク人の耳を驚かしめ。大となく小となく男となく女となく。 頤{おとかひ}を解{とき}腹を捧{だかえ}て一ッ笑を発{はつ}せすといふことなし。 ?{もし}鼻を撮{つま}み袖を覆{おほ}ふて。 糞{くそ}の如しといふ人ありとも。 そこは万象平気なものなり。 天明七年未のはつはる風来山人門生無名子神田の寓居{やどり}に棲遅{ぶらつく}暇久し振{ぶり}にて筆を採{とる} 田舎芝居 ○序開 万象亭著 越後の国は寒ン国にて降積{ふりつむ}雪の高入道。 みこし路{ち}の一ッにして。 夏さり来{くれ}ば首筋{くびすぢ}も。 縮{ちぢみ}の帷子暑{かたびらあつさ}をわするゝ。 田休{たやすみ}の畔道{あせみち}を。 ふら/\行若者は。 大沼{おほぬま}郡。 妻有{つまあり}の郷。 南鐙坂{みなみあふさか}村の百姓与五七。 立ッ浪に水車を染メ出したる。 手織木綿の単{ひとへ}物。 花色太織{ぶとり}の厚肌{あつごえ}たる帯を瓢箪{ひょうたん}くびりに引ッ縊{くゝ}り髪は先ン年はやりたる。 疫病{やくびよう}本ン田に癩眉{かつたいまゆ}。 江戸土産{みやげ}に貰{もら}つた自慢{しまん}に。 天驚絨{びろうど}の亀{かめ}の甲{かう}の附イた腹懸を見せ懸。 更紗{さらさ}団扇をさしかざし。山挽の下駄をがら付ヵせながら。 歌 ¬(注3)殿さア殿さ毎晩きやアれぞんきがなうてもいとし。 しめて寐{ね}た夜は猶いとし。 とのこうといなと小唄{うた}まじくら行跡より。 北鐙坂{あぶさか}村の勘太郎といふ若者。 縮織{ちゞみおり}の嬬婦{やもめかゝ}をちよろまかして拵{こしらえ}たる。柿縞{かきじま}の大極無類といふ縮の浴衣{ゆかた}に。 去とは不釣合{ふつりあひ}なる黒桟留{ざんとめ}の帯を猫じやらしに結ひ。 五十三ン次の駄賃附{だちんづけ}を摺{すり}たる油扇{あぶらあふぎ}をかざし。 草履{ぞうり}下駄を引キづりて来懸りしが。 夫と見るより。 [勘太]与五七どこへいく【行】しばや【芝居】だらどうしにいぐべい。<卜呼び懸られてふり返り> [与五]勘太かおらアはや先へいんだんべいと思つたア。 さあ/\一ッ所にいぐべい。 何ンでもはや今ン度はない【始】たわたり【渡】やア。 去年ンの簾明{すだれあけ}に来たよりやア大入だア。<はないたとははじめた事。わたりとはわたり芝居とて旅芝居の事。簾明とは八十八夜過には越後の国のならはしにて。家/\に見世をひらき。縮市とて縮の売買あり此時分は江戸よりも商人入込て殊の外賑やかなり。その節はいつでも芝居あり。> [勘太]其筈{はづ}てもあんべいさ。 新方{にゐがた}の山下作兵へが座本で。 桜川豊次郎だアの松本浜次良だアのといふせうよたうが来たからいゝはづたア。 けふは何ンのうしるな。<醤油樽とはすぐれて女かたの事をいふ。何のことか詳ならず。> [与七]よんべ太鞁が廻つけが。 今日なア豊年踊曾我田植{ほつねんおどりそがのたうへ}といふ江戸狂言だげだア。[勘太]おらア早九日目だアから。 忠臣蔵だんべいと思つたア。 <田舎芝居の九日目はぜひ忠臣蔵をするなり> [与七]そりゃァおぶちゃつて【打遣】。<うちすててといふ詞なり> 小泉{こいづみ}の太左右門のお袋が。 どうかしられたじゃァなかつけかの。 [勘太]ヲウものしけ。あるべいこった聞ヵつせへ。 此頃の晩景{ばんげ}あのお袋が。 刻昆布{きざみこんぶ}のうこしらつて【拵】喰ふとつて。 年の気{け}で目のわりく【悪】成ッた上に。 暗紛{くらまぎれ}のこんではあり。 刻煙草{たばこ}と取違へて。 三ン年垂{だれ}へぶち込ンでしよつからく煮たやつのう。<三年たれとは醤油の事。しよつからくとはしほつからくの事> 飯 {めし}の菜{さい}に頬張{ほほはつ}て。 がらーん飲ンだアから。 咽中{のどぢう}へ脂{やに}がこびり付イて。 落すべいしかくかねヱから。 只はア目眼{めまなこ}のうさつくり返して。 ぎつくりしやッくりしてべへ居るから。 太左ヱ門もお方{かた}も。 あんと仕べへあんと仕べへと方角{ほうかく}う失{うしな}つたアよ。<おかたとは女房のことなり> [与七]そりやアはア珍事{ちんぢ}ちうやうだつけなア。夫からどう仕けな [勘太]そこへおらか親仁{おやし}殿か逝合{いぎあは}せてコレ太左ヱ門どの。こかア動天{どうてん}しる所じやアござんねへおらが隣{となり}の大海伝竜{うみでんりう}様を頼{たの}んだが能くござると云ハれたら。 何がはア千手町の馬市に。 伯楽{はくらく}殿の中継{つぎ}で。 壱分五百で買ッた栃栗毛{とちくりげ}の馬に郷士{がうし}殿から借リ寄せて。置鞍{おきくら}のう懸りて迎{むかひ}にきたらそんま【其儘】伝竜さまがわつらわらと乗付{のつつけ}さしつた。 何でもはア伝竜さまは御功者{ごかうしや}だア。 お医者{いしや}の八宗兼学{はつしうけんかく}たア。 こりやァへへげへろ【蛙】の脂{やに}のう嘗{なめ}たアと違つて。 五臓六腑{ごぞうろっぷ}といふ腸{はらわた}のう嘗{なめ}さん出{だ}いて。洒{すす}ぎ洗濯{せんだく}なアなるめへ。 爰{こゝ}がはい頓智発明{とんちはつめい}八算見{さんけん}一の入る所だアといはれて。 暫{しはら}く考{かんかへ}て居られけが。 何のう思はれたかお蔵{くら}半紙のはな紙{がみ}のう取出{た}いて。 破ては捻{ひね}り/\。 くわんぜんよりのうこしらつて【拵】。 お袋{ふくろ}の口のへし割{わつ}て。 そのよりのうおしこまれたア。 [与五]夫からどふ仕けな。 [勘太]サァその跡{あと}のう聞ヵつせへ。 其よりこんだくわんぜんよりが。 しんなゝ【尻穴】へ抜出{ぬけだ}いたは。 夫から尻{しり}のうぼつ立テさせて。 づる/\と手繰{たくり}出いたら。 咽首{のとくび}にこびり付イた煙草{たばこ}の脂{やに}が皆ナとれて本腹{ほんふく}のうしられたア。 なら程医者殿の居ない村には住{すま}ないものだアといふが。 おらなんどが親仁殿なんだア仕合せで。 生{い}キ薬師{やくし}の伝竜{でんりう}さまの隣{となり}に居られるお蔭で。 疝気{せんき}の虫の根絶しのうしられたア。 [与五]そりやアへへお袋なア半死半生の目に逢{あは}れたな。 そしてあの伝竜さまの娘子{むすめこ}のおヒ{さじ}どな【殿】アどうしられたな。 [勘太]おヒ{さじ}どなア茂作{もさく}と色事{いろごと}よ翁{おきな}ぞろへの日にも<初日のことなり>しや【桟】敷へ来て居られたら。 向{むかふ}しやじき【桟敷】に茂作めが来て居て。 こつちから手まねぎをしれば。 あつちからはほつく【点頭】居てりを仕懸てねこしやめ【猫三弦】踊{おどり}の最中に。 ニタ人ながらどこへかおつぱづしたつきやア。 よくたんだへてきゝやア去年{きよねん}の盆躍{ぼんおどり}の時からの知音{ちいん}だけだア。 [与五]そりやアへへとんだアこんだアしかしはやきものやけたアこんだ。<トむつとした顔はこいつおさじに気かあると見へたり。> [勘太]そんだらにしも気があるか。 [与五]あにはアさうでもねへけんと。<卜はなしもつてゆく内に段々芝居ちかく成ツてくると見物はとろ/\田舎嚊子ともの手を引立て> [見物]アレヱ芝居がはねへた【始】げでてへこ【太鼓】が。 してれこ/\と鳴はへ。 早くあいベヱ。 [見物]はやくいがじやアいゝしやじきがふさがるべい。 [二人]おらもいそいでいぐべへ。 二立目 抑{そもそも}田舎芝居の構{かまへ}といつぱ薦垂{こもだれ}にて四方をかこみ。 栗{くり}丸太を縄{なわ}ゆひにしたる鼠{ねづみ}木戸。 看板{かんばん}は松板{いた}に役者{やくしゃ}の名を書キ付ヶたるを打付。狂言{きょうげん}名代は紙幟{のほり}に書たるを押{おし}立テ。<此のほり前のはんに太鞁をまはすとき先へかついであえるいたのをすぐに木戸へ立る也>太皷櫓{たいこやくら}は木戸の際{きわ}へ高く組上{くみあけ}。 座元の紋所丸の内に三ッ笹竜胆{ささりんどう}の幕{まく}をはりて。 間抜{まぬけ}千万なるしやぎりを打。 その下に札{ふた}場あり。 頭{かしら}といふは近在{きんざい}近郷名を知られたる通り者{もの}。 切{きり}竹を染たる伊達浴衣{だてゆかた}に。 虎班{とらふ}を打たるもんぱの帯郡内縞{くんなにしま}の揮{ふんとし}を見せかけ。 薬研鍔{やけんつは}の長刀{なかかたな}をぼつこみ。 銭{ぜに}ばこに褥{しとね}を敷きてむんつと居懸り。 傍{あたり}を睨{にらん}で扣{ひか}へたり。 木戸番はちぐはぐに。 思ひ/\の半点{はんてん}を着{ちゃく}し。 結綿{ゆひわた}と三舛の紋を。 胡粉{こふん}にてべつたり書たる。 茜{あかね}木綿の投頭巾{なけづきん}。 揃{そろ}へと見えて一ッとろに引ッかぶり。 [木戸番]ヤァはねへる【始】は/\。 此まくが対{たい}面だア。 石橋{しゃっきょう}の角兵衛獅子{かくべへじゝ}だア。 今ッからお仕廻のふち抜{ぬき}迄たんだ百だア。 安{やす}いもんだア。 見ば早く這入{はいつ}て見さつしやりましやう。 ふちぬきとは大仕懸の事也。 [見物]コレ元〆一ちばんしやじきはいくらし申な。 [かしら]一番しやじきが八百。 二番桟敷{しやじき}が七百。 三番桟じきが六百。 並{なみ}桟敷が五百。 土{つち}しやじきか百ッヽもし。<つちしやじきはきりおとしのこと。> [見物]そりやアへへげへに高くござるそんだら並[なみ]しやじきを三百に負{まけ}なさろ。 [頭]負るのへすのといふは只のわたりのこんだア。 関東{かんとう}八十八櫓{やぐら}のてつぺんといふ芝居だアから。 一もんだれ二文だれねぎりこぎりはこさんねへ。 [見物]そんだら弁当{べんとう}の運{うん}上は負なさろ。 [頭]いつせへ。<いんにやといふきみのことば。>弁{べん}当が一ト組{くみ}で二百。 酒が一舛で七拾弐文ッヽの運上は。 わたり芝居の式目{しきもく}だア。 したがはい。 モゥ翌{あす}切リになつたこんだア。 まけてやりますべい。 サア割印{わりいん}のう持ていがつせへ。<卜木戸札さけ弁とうの割いんをわたすあとへ来るは六十あまりのはゞさまつのかくしをかぶり珠数袋から銭をひねり出しながら> [婆々]コレお頭{かしら}どのよ。 冥加銭なこゝへさん出し申た。 其お札のうい【頂】なゝかせてくれさつしやりましよ。 [田舎嚊]わしは此頃毎日つゞけて来た嚊{かゝ}でござりもす。 けふははや札銭のしがくがござんねへから。 御{ご}ていどのに隠{かく}して。 引キ割のう弐舛たらず持て来もした。 是で土桟敷へいれてくれさつしやるべいなら忝{かたじけな}くござります。 [頭]こりやアへへ仕{し}づらい相談{そうだん}たアが。 毎日来めさるこんだ。 サァ札のう持ていがつへ。<卜引わりと取替る其外あまたの見物くんじゆおし合へし合木戸口へ与五七勘太も来る是はどふらくものゆへ頭も知たかほなり> [勘太][与五]親{おや}方どのけふもはいでかく盛{さかり}ます。 [頭]なんとしてかおそくござる今がてうどこひりだア。<こひり中入りの事>此まくで桜川豊次郎殿をほめてくれさつせへ。 [二人]誉{ほめ}べいとおもつてゑさわさ<わざ/\といふ事>来もした。 木戸番どの大義でござります。<卜云ながら木戸をはいるあとにつゞいてうさんらしき男はいろうとするを引留メ> [木戸番]コレ待{まち}なさろふだ銭のうよごさつしやい。 [かはかし]おらは山屋むらから来たのたア<卜云ながらはいりにかゝる> [木戸]なんぽ隣村のわかいしよでも。 神事{じんじ}芝居たア違ひ申す。 しいなはなり申さない。<卜やり合ている所へ同村のわかいものニ三人来懸り。> [ツレ]惣六じやアねへか何のうやじり合ウのだ。 [かわかし]何ンだア角{かん}だアのしやベち【差別】やアござんねへ。 おれか木戸を這入るべいといふ事もし。 夫を銭の出さしやアいれまいといふからおこつたもんちやくたア。 [ツレ]そんだらいゝは。 コレ元〆どの去年の出来{でき}秋に。 おらが村へわたりの来た時。 こゝの村かたから来めされたわかいしよは。 おらが木戸ばんのうして居たが。皆ンな只入レもしたは。 こかアあいみたがひだア。 やさくさいふことはござんねへ。 通しなさろ/\。 [頭]わりさまたちやアはい。 こつちの水帳にない事をいふ人たちだア。 去年そつちの村方の芝居のとき【時】やア。 おらが村方から薦張{こもばり}の筵{むしろ}を百枚。 杉皮{すぎかは}のう百把{ぱ}。 積{つみ}物にしたから。 夫ではい只見物のう仕たのだア。 今ン度こちらの芝居にやア。 一文げが物もよこさないで。 見物なアたゞ仕べいとか。 そりやア成申すまい。 油虫{あふらむし}だら焼畠{やせはたけ}へ付めさろ [かわかし]ならじやアならぬでよくござるは。 油虫と云れては一チ分{ぶん}がたち申さない。 [ツレ]ヲゝ一分所じやアござんねへ。 二分も三分も立チ申さない。 通{とふ}せる事がならじやア。 かふして通り申すは。<卜云さま木戸をやぶりにかゝるを木戸ばんとび下りたゝきのける。是より大つかみ合になれども元〆少しもさわがず。うしろにかけたる拍子木をはづし。はやひやうしぎをうでば。かねて相図のふせぎと見へ。村外れのゑたども竹やりにておつとまりまく> [ゑた]外の村でほたくとはあての横槌{よこづち}がちがひ申すそ。<ほたくとはあばれること> だまつていがじやア。 おらが相手に成て突留{つきとめ}申すそ。<卜鑓ふすまにて取まかれさすがのあばれものもぐんにやり。> サァはやくいがつせへ。 [かはかし]いぐめへたアやねへは。 コレ元〆どのきつとやげへしをもつて来もすそ。 [頭]ヲヽ持て来めされば。 やだアとは云申さない。 おしやらくの長介だア。 よくつらのう見知ていぐがいゝ。<卜ひげもみあげて太平らくは何かたも同しいきかたなり> [かはかし]一チ期{ご}わすれ申さないよく見知申た。 [ゑた]いがじやア突留申すそ。 [かわかし]いぎ申は。 [ゑた]いがつせへ。<卜村さかいへおくり出す跡はよび声いさましく。> [木戸]もう喧嘩{けんくわ}は済{すみ}申たア。 今ッから晩景{ばんげ}まで百だア。 〇三立目 芝居の内は開扇{ひらきあふぎ}を見ることく。 舞台{ふたい}を以{もつ}て要{かなめ}とし。 先広{さきひろ}に桟敷をかけ。 舞台{ふたい}の上と桟敷の上ばかり。 杉皮にて屋根{ね}を葺{ふき}。 落{おち}間の上は青天井{あほてんぜう}。 切リ落シの処{ところ}/\に。 大木立樹{たいぼくのたちき}ぬんぬつと生{はへ}てゐる。 桟敷は何れも中二階にて。 間イの仕切は簾{すだれ}を懸。 前の手摺{すり}は新川の前垂{まへだれ}の如くなりたる。 花毛氈{もうせん}を懸{かけ}たるが。 代官{だいくわん}殿の役桟敷。 引つゞいて文字入の打敷を懸たるが旦那寺{だんなでら}の桟敷。 其次に机{つくへ}懸の破{やぶ}れ毛{もう}せんを掛{かけ}たるか医者殿の桟敷。 夫より外は花@(注2)莚{ごさ}。 渋紙{しふかみ}。 大風呂敷{ふろしき}なんどを懸しもあり。 花道は土にて築{つき}立。 両方へ芝を敷。 瞿麦{なでしこ}姫百合{ひめゆり}をあしらひて植{うへ}付。 扠引キ幕は色いりにて。 地獄極楽{じこくごくらく}の躰想{ていそう}を染抜{そめぬい}たるは。 中条姫{ちうぜうひめ}のお曼陀羅{まんたら}とも云つべし。 [切落見物]どれこびりの間にばり【尿】のうこいて来べい。 ○おらアはこび【糞】のうぶんぬくべい。<卜居たり立つたりする。中うりも木戸番の如くあかね染のなげ頭巾かわごのふたへくひ物を入れ。> [中売]おこしごめや/\。 あめん棒{ばう}や/\ ○麦湯{むぎゆ}や/\。 ふつたおれ餅や/\。<あべかわもちの事> ○稗団{ひゑだん}子{ご}やもろこし団子。 ○濁{にごり}り酒や。 あま酒や。 ○握{にぎり}り飯{めし}や/\。 米の飯の握りめしや。 本ンの飯のにぎり飯や。 [見物]コレ/\こゝへひゑだんごのうくれさつせへ。 ○おれにはあめんぼうのう呉{くれ}さつせへ。<卜飴を買江戸の雨と八が日いなかにてはもみぬかにてつめてあるゆへまつ黒なつめでこそげにおとしてくふ> [勘太]あんでもでかい見物だア地頭屋敷へ強訴{こうそ}の来たやうだアはいあくとがさわりますべいよろさつしやりましよとすはる。<あくととはかゝの事> [与五]一番しやじきが代官どの。 二番しやしきが等行寺{とうこうじ}さま。 三ばんしやしきが伝竜さまだア。 しかもおさじどのも来て居られらア。 代官さまとおてらさまとお医しやさまははや。とごでも威光{いこう}が強{つよ}いは。 角力{すまう}も芝居も銭なしだア。<卜二人はそこらのさじきなど見まはしてゐる向ふの方にて何かこうろんの声がする> [又六]是孫作さつきから百万陀羅{だら}いふこんだア。 なんぼ札を先へ取てはいつても。 お身はおれが尻{しり}へ付べき筈{はつ}だ。 跡へさがつて見物のう仕めさろ。 [孫作]又六どのそんな横車{よこくるま}はやねへ物でおんじやる。 [又六]無理{むり}も非道{ひどう}もござんねへ。 お身が家筋{いへすじ}は。 おらが曾祖父{ひいしい}殿の代に。 普代女郎{ふだいめろう}のづばらんだ庭子だアから。 おらが先へたつべきはつしやアござるめへそ。 [孫作]亦六殿わりさまも地面の見て物なア云なさろ。 大飯振舞{おほばんぶるまい}の座席{ざせき}たア違い申す。 遊所{ゆうしよ}で席論{せきろん}なア入申さない。 先へ這入ッたものが先に居べき筈でござらアよ。 こかア【爰】悪所{あくしょ}でござりもす [又六]ハテあく所も灰小{はいご}屋も入申さない。 此南鐙坂{みなみあぶさか}の村中では指折{ゆびおり}の又六だア。 等行{とうこう}寺さまの正月参{まい}りにも。 おらが箸{はし}をとらない内は。 名のし殿でも。 庄{しやう}屋とのでも。 一チ番汁粉{しるこ}の親椀{おやわん}の蓋{ふた}のう。 だれも明{あけ}る事は成リ申さない。 代々大姉{だいし}代々居士{こじ}の家柄だア。 [孫作]代々大姉九年母{ほ}大姉でもとんぢやかアござんねへ。 そりやアへへ。 場所{ばしよ}と所に依{よつ}たらいへ柄も入申べい。 今も云通りこがア遊所だア。 遠くて見づらくは早く来て前の方へ這入たがよくござるは。 [又六]夫をおどれ【己】にならう【習】べいか。 [孫さく]知{しら}じやア教{おしへ}ますべい。<卜二人とも声高になる折からまくをあけて口上云罷出。> [口上]東西/\さアて【扠】。 此所に置まして当村他村から役者{やくしゃ}色子{いろこ}へ下さつた。 積{つみ}物のかき付のう読{よみ}上ます。 しつかにしておきゝやりもし。 東西/\。<卜いへば桟敷も落間もひつそりとなる>当村方弥平次様団兵衛様より銭廿四文。 倉橋熊吉へ下さる是で酒ても呑{のめ}とつてへ。 小泉村のお嚊{かみ}さま方より。 ぼた餅一トじ【食】きりやう手作{つくり}の醗{あまさけ}一トとつくり。 惣役者ども色子共へ下さる。 よつぱら飲喰{のみくつ}て働{はたら}けとつてへ。<よつぱらとはしたゝかといふこと> すがた村吉蔵さまの御隠居さまより。 絹紅{きねもみ}二三尺。 内山金三郎へ下さる。 越中褌{ふんどし}にでも仕ろとつてへ。 同温鈍{うどん}の粉{こ}一ト袋。 桜川豊次郎へ下さる。 是を顔へぬれとつてへ。 小泉{こいつみ}村。 稲葉{いなば}村。 山屋村鉢{はち}村千手{じゆ}町右五ヶ村のわかいしよさま方より。 麦{むぎ}一トかます。 茄{なすび}一ト籠。 かぼちや十。 玉味噌{たまみそ}五ッ懸。 葉煙草{はたはこ}三ン斤。 竹川三郎右ヱ門へ下さる。 随分{すいふん}かせいで働けとつてへ。 当むら等行寺の和尚{おせう}さまより。 線香{せんかう}五把。 五種香{しゆかう}一袋松本浜次郎へ下さる。 衣裳母衣着{いせうほろき}をふすべうとつてへ。<ほろぎとはうちかけの事> 同大海伝竜さまより。 枇杷葉湯{ひわようとう}百服{ふく}。 暑気{あつけ}に当{あたつ}た役者ともにふり出してのめとつてへ。 同お娘子さまより花絞{ほり}りの手拭{のごい}一トひずッヽ。 桜川豊次郎松本浜次郎へ下さる。 是をかぶつてじよなめけとつてへ。 山屋むら高井浦{うら}之介様より。 酒一樽{たる}縮一端銀一封。 森山平介へ下さる。 ずいぶんかせへでぎしめけとつてへ。 同村わかいしよさまかたより。 寒生姜{かんせうか}一ト袋。 黒砂糖{くろさとう}ニタ貝{かい}。 歌唄{うたひ}の富士田{ふじた}久兵衛に下さる。 是をねぶつてうたへとつてへ。 この外にいなゝ【頂】かさつせへた物は。 又跡{あと}で読立ますべいもはやこびりも済ましたから。 押付曾我兄弟{おしつけそがきやうだい}対面のきやうげんのうはないます。 左様{さよう}におもわつしやりましよ。 東西/\。 四立目 代官殿は高宮縞{たかみやじま}の帷子{かたびら}に紺生絹{こんすゞし}の羽織。木欄色{もくらんじき}の野袴{のはかま}。 しやちこばつて居られしが。 隣{となり}桟敷の等行寺の和尚{おせう}と咄{はなし}をする [代官]時に和尚さまけふの狂言{きやうげん}も面白ふござりました。 拙者{せつしや}も若い時分{じぶん}は至て放蕩{ほうとう}で。 所々方々遍歴{へんれき}致して。 旅芝居をも見物致したが。 銚子{てうし}の浦方の芝居では。 何の狂言でも。 大切{おほぎり}に張子{はりこ}の赤鬼{あかおに}を出さねば見物か立ませぬ。 仙台{せんだい}の釈迦堂{しやかどう}などの芝居は。 見廻{まは}りの役人が参ると。 楽{がく}屋から居合抜{ゐやいぬき}の形に拵{こしらえ}た役者が出て。 やつとふ/\のしなへ打と申て。 居合をぬく真似{まね}をするので。 薬売{くすりうり}の体{たい}に成ます。 又三人芝居といふは役者三人切の云立でござるから。 舞台へ役者が三人から上並{なら}ぶ時は。 せりふの廻て来ぬ役者は。 小{ちい}さな屏風{びやうぶ}を膝{ひざ}の前へ立て置{おき}ます。 又女形{がた}は女形の面{めん}。 立チ役は立役の面を腰{こし}へふらさげて。 人形{にんぎやう}芝居の体{たい}に成て居るのもござりますて [和尚]はてなもし。 此村方ではそんな法度{はつと}がなくつてよくござりもす。 そしてあの幕をお見やりもし。 稲葉の紺{こん}屋の惣兵衛が染たげでござる。 芝居の幕に地ごく極楽の体想{ていそう}とは。 能{いゝ}思ひ付でござりもす。 則{すなはち}是が狂言綺語{きぎよ}も讃仏乗{さんぶつぜう}の縁でござりもふすと。 咄シのとなりは伝竜老{ろう}。 急病用{きうびやうよふ}でそこら迄ゆかれ。 跡にのこるは娘のおヒ{さじ}。 所{ところ}名うての品ものにて。 朱ぬりの櫛{くし}に焼{やき}付の釵{かんざし}。 六斎{さい}市に買つた匂{にほ}ひ油をべた/\とつけ。 江戸.の姨子{おばこ}から鬢差{びんさし}を曲{まげ}もせずにその儘で差{さし}。 髪は鳶{とんび}の巣{す}のやふ二?{つか}みちらし。 駄白粉{だおしろい}をこてこてと面{めん}をかぶつたことく粧{けわい}。 仙台花{せんだいばな}の取立テの紅{べに}を口から頬{ほう}べたへぬり。 かすり越後のふり袖に。 根古{ねご}や絹{きぬ}の小六ぞめの帯を吉弥結{むす}ひにむすび。 忍{しの}び男の茂さくが切落{おとし}から目遣ひをして立て行ヶば。 其儘合点{がてん}して手水{てうづ}に立ッふりにて。 小便所{せうべんじよ}へゆくと茂作もそこに待て居る。 二人は小便桶{たご}の際{きわ}にたたずみ [おさじ]おらアはやさきつから逢{あい}たくてやるせがなかつけが。 とつ【爺】さまが付て居さつしやるから。 抜{ぬけ}べいやうがござらなんだアよ [茂作]アニおらに逢たかんべい。 小甚太節{じんだふし}に唄{うた}う通り。 さつさせう/\秋の風だつぺへ。<卜なみだぐむ> [おヒ]何としてそんなしよちつぷりをさつしやりもふす。 わしがこなさアにいつあき申た。 おらは一日も早く夫婦に成べいと思つて。 戸隠{とかくし}さまへ願{ぐわん}のうかけたから。 今年{ことし}は生{なり}年で脊戸{せど}の青梨{あほなし}が鈴生{すゞなり}に成て。 見るたびにぐい/\と唾{ツ}を引てかじりたいけれど。 それを辛抱{しんぼう}しるのは。 立チ物だアからでござりもふす。 おらアそれ程心中をたてますはよ。 [茂]そりやアいつわりでござんべヱ。 そんだらなぜせうよたう【醤油樽】どもに手拭のうやらしつた。 大方豊次郎か浜二郎に気があるだんベヱ [おさじ]ヤレハアありやアわしが分{ふん}にして爺{とつ}さまがやつたのでこさり申ス [茂]いつせへ。さうじやアござるめへ。<卜せい合うしろに与五七がうかゞいよつておさじがしりべた> [おさじ]アヽ、是尻{しり}のうしねるは<つめること也>だれだかなと。 横{よこ}へしやくつたたなつちり。 振飛{ふりとば}されてひよろ/\/\。 心得{こゝろへ}茂作が身をかわせば。 小便桶へまつさかさま [おヒ]これは [茂]かまわすとござりもふし。 〇五立目 [口上]東西/\。 さアて此所田植曾我豊年踊{たうへそがほうねんおどり}対面の幕でござりもふす。左{さ}やうに心得さつしやりませう。 但{たゞし}是が切リきやうげんでござりもふす。 チョンチョン 舞台正面松林{はやし}を書落{おと}したる簾{すだれ}をかけ。 大臣柱{だいじんはしら}の方へそこらのいなり様から借{かり}て来て真物{まもの}の鳥居{とりゐ}を縊{くゝり}つけ目付柱へ杉の皮を巻{まき}。 真物の杉の枝{ゑだ}を取付一たい{つる}が岡{おか}八幡神前のてい。 後谷黒弥五{しんがいくろやご}。 海野{うんの}紙でこしらへたる素袍{すほう}。 張子の立烏帽子{たてゑぼし}万歳扇のおや骨{ぼね}を折懸て末広{すへひろ}にしたるを持。 宮神楽{みやかぐら}の心意気なれど。 何だかつまらぬ鳴{なり}物にてまくあく。 [後谷]イヤコレ二人の衆。 今日は此が岡八幡様へ。 工藤左ヱ門介経{すけつね}殿が恵方参{ゑほうまいり}をお仕{し}やるげでござる。 その待うけのうすべいと思つて。 此後谷の荒次郎ゑさわさと。 出はり申した。 [黒弥五]此黒弥五も其分別{ふんべつ}でござり申 [海野]おらもそうでござる。 時にはや工藤殿は遅{おそ}い事でござり申。 大方朝飯{あさめし}の仕かけやうがおくれたアからでもござんべへ。<卜云ていると切まくの内より> ○梶原平三出はつたア<卜いふ> [三人]アニ平三どのがお出やつたアとか ○梶原平三出はつたア<卜梶原さいとうじまのもめんどてらに黒もめんのくゝり頭巾山かたなをさしくわへきせるにてうしろ手をくみ江戸なら太鞁謡といふ所なれどきつねつりのやうな相方になり花道の見へもなくぶらぶらと本舞台へ直る> [三人]コリアヤ梶原どなア【殿】用もござるめへに。なじよにお参りを仕やり申た [梶]今日は此頃ぬくとい日だアから。 脊戸のめぐらを野良{のら}廻りのうするとつて。 ついぶらぶらと爰{こゝ}迄来もした。 お稲荷{とうか}殿にでもばやかされたげてござる。 そして又にしたちやアとつときのき【取置着】り物のう着て。 なじよにそこに居やり申 [後谷]けふは工藤どのがお参りのうめさるげでござる。 夫を待受るのでござるはよ。<卜いふ内梶はら切まくの方を見て> [梶]時に三人の衆。 向ふの方からしよなめきが来もすはよ [三人]ホンニのんし<卜皆/\向かふの方を見ると。べこ/\三昧せんの相方になり。ふし田久平衛さるの子だんののうをうたひ出すと。とら少将柳にけまりにぶう/\貝を染たるもめん衣装。いんきんさらさの帯をむすびさげ。おさじ殿からもらつた手ぬぐいをかぶり。朝比奈はの丸をそめたる半てんもめんづきんをかぶり。太鞁をたゝきながらおたすけおどりの見へにて。すつとこおどりごな/\おどり小ぶないよこのをおどりながら本ぶたいへ直りとゞ覚兵へ獅子弓くゞりのしよさことすむ> [見物]ヤゥ/\桜川松本のせうよだろ熊吉殿も太義でおんじやる<卜ほめる内与五七勘太花道へあがり> [与五]東西/\。 狂言半{なかば}へ邪魔{じやま}だつぺへがちくとんはかり讃{ほめ}申そう。 豊次郎殿のいとしさは。 天にたとへば星の数。 山で木の数草{かや}の数。 七里が浜{はま}では砂{すな}の数。 召{めし}たる小袖の糸の数。 五反畠{たんばたけ}の芥子{けし}の数と。 ホヽ敬{うやまつ}てつん出るこんだ [勘太]つゞいておらかも讃申そう。 浜次郎殿の形振{なりふり}は。 立[たて]ば勺薬{しやくやく}居{すは}れば牡丹。 ありく姿は百合{より}の花。 熊吉殿をも誉{ほめ}顋{あご}さに頬{ほう}さに生{お}へた髭{ひげ}。 いわば野に薊{あざみ}の花よ。 日なたぼつこをめさるなら。 産毛屋鑷{うぶげやけぬき}でおぬきやり申と。 ホヽ敬てぶんぬいた。<この外ひきつゞいて五ツ六ツありこれを略ス> [梶]おらアはやお助{たすけ}だアと思つたら大磯の虎化粧坂{とらけはいざか}の少将太鞍ぶちなア朝比奈{あさいな}か [後黒海]コリャァへへたまげたこんだア [朝]げへに笑ひめさるな。 けふは工藤殿が恵方参りのうさつしやるから対面のうすべいとおもつて。 會我兄弟が出はるげだ。 夫のう聞かじつて。 此二人のおしやらくが達{たつ}しべい用があるから。逢せてくれうとせがむから同道{どうどう}のうしたのだア [虎]小林さアの云{いわ}つしやる通り。 おらが知音{ちいん}の十郎さアに逢べいと思つて。 少将さアと云合て人の眼{まなこ}にたゝないやうに。 こんな形にむくれて来もふしたアよ。<むくれるとはやつす事> [せう/\]虎さアの云つしやる通りだア。 おんじいたちよ。 恋には身をやつせでござり申ス [梶]夫で別{わか}つたアよ。 したがはい曾我兄弟なア貧乏{びんぼう}神の申{もふし}子だげて。 お夷{ゑべす}にもお大こくにもうとまれた青野良{やろう}共だア。 正月御{ご}だアの田うへ浴衣{ゆかた}だアのといふ物は。 夢に見た事もない。 三百六十余{よ}かんにのち。 野良着{のらき}のぼうた一枚{まい}て。 水ッぱなのうすゝり上る貧乏野良に心中つくすは悪{わる}い分別だア。 なアわかいしよ【衆】さうじやアござり申さぬか。 [後]夫さもし。 虎せう/\には介つね殿が気が有げた。 貧乏神なアおぶちやつて。 工藤殿にねつれるが。 沼垂{ぬつたり}の水糖{あめ}のうなめるより味{うま}いせんさくでござらアよ。<ぬつたりの水あめは当国のめい物也> [黒海]さうでごんざる/\ [朝]だまりなさろ。 曾我の貧乏がお身達{たち}が厄害{やつがい}に成申か。 人の七難{なん}より我身の八難だ。 お身たちが身代{しんたい}がどれほどよくござる [梶]なんほたれが身代がわりくつても。 曾我兄弟には叶{かな}ひ申さぬ。 なぜと云めさろ。 兄弟にかつ惚{ぼれ}た虎少将も。 尻押{しりおし}のうめさるお身さまも。 其ざまは何でごんざる。 お助{たすけ}の真似{まね}のうしるとは嘘{うそ}だんべい。 やつはり本ンに銭のう貰つて兄弟にみつぐのでこさんべい。 太鞁ぶちの朝比奈。 お助踊の虎せう/\。 こつちの村方は三年が内法施{ほうしや}留だア。 脇{わき}の村へ通れ/\ [虎少]小林さま名アあんな雑言{ぞうこん}のうつきますはよ。 肝{きも}か焼{やけ}て成ましない/\。<卜なく小林大はだぬぎになり> [朝]げぢ/\殿よ。お身さまア年に恥{はじ}たがよくごさる。 何の意恨{いこん}が有ッて今のやうな雑言のうつきめされた。 そしておらやとらせう/\にいゝ名をつけて下さつて忝くごんざる。 礼なアこうして云ますべい。<卜よこぞつほうをはれば三人取さへる> わいらも相手だア。<卜立まはりになるこれも江戸の芝居とはちがひ見へも何もなく本のつかみ合の如く也> [虎]ヤレハァ存分{ぞんぶん}いふだら口でいふがよくごさる。手を出{たし}したら負{まけ}に成ますべい [せう/\]虎さアの云つしやる通りだア。 虫のうへさへておつこたへなさろ [朝]アニハァ堪忍袋{かんにんふくろ}の緒{を}がきれ申た。 はなしめさろ/\ [虎少]もつけな事がおごつたア。 だれそ来て取さへてくれさつしやりましな。<卜大声てがなり立るときりまくの内よりばた/\にて工藤左ヱ門何かつまらぬ惣かみのかづら火うち入の布子ばおり同じ仕立の大とてら尻をまくりながら> [工藤]其喧嘩{けんくわ}はおれがもらつたア/\。<卜花道の見へもなく本ふたいへかけ付朝比奈を引留> 是あにいせく事はねへ。 此工藤左ヱ門がおつ留た。 一番留てくんさるなら。 恭茄子の鴫焼{しぎやき}だアもさ [朝]すけつねどのが留さつせへても。 聞申さないやだア/\はなしなさろ [梶]工藤どのいゝ所へ来て下さつた。 ちくとん斗{ばか}りの間違ひではや。 朝比奈殿がはんけへのうおこされて。 なじやうにも仕べいやうがござらなんだア [後黒海]よく挨拶{あいさつ}のうして呉{くれ}さつしやりまし。 ヤレハアつらいめに逢ましたアよ [工]あれ程にいふこんだ。 よろしてやりなさろ。 皆ナ土べたへ頭{あたま}のう堀込{ほりこん}で。 誤{あやま}りめさろ/\ [皆皆]朝比奈さま。 真平{まつひら}ようさつしやりもし [朝]よくござるりやうけんのうしますべい。 その代{かわり}に工藤どの。 ちくとばかり頼たい事がござるはよ [工]あんでも聞ますべい [朝]そんだら云ますべい。 別{べつ}の事でもござんねへ。 曾我兄弟の青野良どもが。 お身さまに対面のう仕たがり申す。 逢て遣{やつ}て呉めさろ [工]朝比奈殿待なさろ。 曾我兄弟のやつらはおらにはちつとさし合だ。 是はよろしてくれさつしやりもし [朝]そりやア詞{ことば}がちがひ申ス。 わりさまの云事なア聞ヵせて。 おらが云事なアきくめへとか。 夫じやア損徳{そんとく}なしじやアござんねへ。 そんだらよくござる。 又けんくわのうおはだつべへ。 梶原そこへ出され [工]アヽ是きくめへとは云申スめへ。 なら程逢てやりますべい [朝]又嘘言{きよごん}じやアござんねへか [工]君子に二言なしでござるはよ [朝]待めさろおれが爰{ここ}のう退{のい}たら。 介つね殿が逃{にげ}べへもしれ申さない。 お身達二人で押{おさ}へて居めさろ。〈卜とらせう/\工藤がそれを引ツぱり〉 [二人]死力{しにぢから}なァ出してさへ申た。 [朝]どりや二人のものを呼{よび}出しますべい。〈卜切まくの方へむかい〉 そこなア灰{はい}小屋の陰{かげ}に扣{ひか}へた二人のせなご達。 介つね殿を圧状{おふぜう}ずくめにしたら。 対面仕べいと云こんだ。 早く出て逢めさろ [十良五良]〈切るまくの内より〉心得申シた。〈卜江戸なら対面三重といふところなれどどふいふあつらへかきゞすのめりやすになると兄弟みの笠にて十郎は木ニテこしらへたる鍬をかたげ五郎は顔を真赤にぬり両方へ長く下つた前がみのかづら竹にてこしらへたる弓矢をもち花道の真中につゝぼりと立て案山子の思入この見へ大おちにて切落しよりどろ/\とかけあがり十五六人ほめことばあり〉 [梶]曾我兄弟なアどのやうなざまだアとおもつたら。 苗代{なわしろ}の案山子{かゝし}が。 道祖神{さへのかみ}殿のう見るやうな出立だア。 あれでも虎少将が知音{ちいん}だげだア。 みんなわらひなさろ [皆/\]〈ワアハゝア〉/\〈卜大口を明て分別もなく笑ふ〉 [朝]そまにたかつた烏{からす}のう見るやうにやかましくござるは。 サァ/\二人のせなごよいふべい事があらばそこで云めさろ。〈卜いふ内とこともなしにさう/゛\しきゆへ東西/\といへともしづまらずそれもそのはづ切おとしの板のうらにせみがとまつてなくのなり後見竹竿を持て来て追ちらす〉 かけ合せりふ 曾我十郎 守山平介 同五郎 内山金三良 ¬(注3)十夫桃栗{もゝくり}三年柿{かき}八年。 梅は酢{すい}とて十八年五けふ吹かへすあまぼしの。 かきたくる程肝{きも}玉が焼て頬{つら}さが赤沢山。 十おらが親仁{おやじ}の河津{かはづ}殿。 柏{かしは}が峠{とうげ}で猪狩{しゝがり}の。 列卒{せこ}に出られた帰り懸。 椎{しい}の実{み}取てくふ所を五蜂{はち}に珍宝{ちんぼう}さゝしつめて。放{はな}いた矢さきがあやまたず十ふんぐり玉{たま}なア射{い}かぢつて。横寐{よこね}所へおつ立たア。 五疝気{せんき}の虫なア音{ね}を立て。 十ぐうとも五すうとも云ばこそ十そのまゝそこで五おもいば/\十これ。 おもひ懸ない災難{さいなん}で。 河津どなアお死にやつた五車前草{おんばく}どのゝ御ンともらひ。 土午房{つちごんぼう}を見るごとく。 穴{あな}さア掘{ほつ}て埋込{うめこ}ンだ十夫から代々取付の。 掃除{そうじ}旦那の頼朝{よりとも}さま五今は掃除をすけつね殿。 糞附{こいつけ}馬のうま/\と。 人のかぶら菜{な}引ッこひて。 漬{つけ}大根迄納{おさめ}るげだ十圧{おし}のおもたい頬の皮。 川津。 宇佐美に。 久津美の庄{せう}。 合せて三ヶの庄屋殿。 紋{もん}の庵リにもつこうに。 さゝへ込だる宝の山五宝の山へ入ながら。 只は帰らぬ介つね殿十親の敵{かたき}をうつ鍬柄{くはづか}。 天ぴつかりの天ぢよこを五てつへんさアへいたゞかぬ。 仇{あだ}矢は放さぬ此弓矢。 腰{こし}の骨{ほね}なアぐつしやりと十立たら大事かそつ首{くび}を。 五其儘取てとりおどし十まアさう思つてくんされと二人ホヽ敬て白ス。 [朝]ヲヤがアおつたこんだ。川つかへなしに能クしやべつたア [工]コレ朝比奈殿よ。 あんまり誉{ほめ}さつしやるな。 あんだかはや気味{きみ}のわるい口上でごんざる。 おらはもふいぎますべい。 便気{うらごゞろ}が付申シた [虎少]なつぽうでもはなし申さない [朝]ヲヽさうだぞ。もしかけ出いたら。 褌{ふんどし}の下りのう引たが能{いヽ}ぞ。 コレニ人のせなごよ。 ちつとも早く爰へ来て対面のうしろ/\ [二人]呑込申シた。 さらばそこへいぎますべい。〈卜本舞台へ直る〉 [梶]ヤレ鳥居先へよるな。 せつかく掃{はき}ちぎつてある所が。 藁簑{はらみの}のこみになるはよ [朝]ごみに成てもよくごんざる。 すつこんで居めさろ [工]そこへねまつた二人の若者{わかいしよ}。〈ねまつたとは居る事〉 先へ出はつたはあんといふ [十]舎兄{しやきやう}の一万いつかく成て。 曾我の十郎祐成と云申ス [工]次に出はつた甘塩{あまじほ}は。〈前がみの事〉 [五]舎弟{しやてい}の箱王でつかく成て。曾我の五郎時宗と云申ス [工]兄祐成はお袋のまんかうに似て。 ぼやらこく。 弟の時宗は親仁の川津に似て。 岩畳{がんぜう}な生れ付だ。 親はなくてもがきつ子は育{そだつ}とやら。 ハテでかばちなく大きく成たなア [二人]介つね殿 [工]二人の若イしよ [二人]ハテめづらしい [三人]対面だなア [朝]何と工藤との久しふりでの参会{さんくわい}だア。 二人のものに盃{さかづき}のうやつてはおくりやり申さぬか [工]盃なア仕申さうが。 酒のう呑でやだをふんだら。 大{おほ}事だんべい [朝]ソリヤア気遣{づかひ}なござんねへ。 此小林が受合申ス幸腰{さいわいこし}へ付て来た。 徳利{とつくり}酒がござる。 サァ/\ぬしから始めなさろ。〈卜腰付のびんぼう徳利に石ごきをそへて突出ス〉 [工]そんだら辞義{しぎ}なしに始{はしめ}ますべい。 慮外{りよぐわい}ながらついで呉さつしやりましよ。〈卜ちやわんにうけて一口のみ顔をしかめあたまをふりさま/\うまきこなしあり〉 [朝]あんといゝ酒だつぺい自慢{じまん}ではないが。 おらが手造{づく}りだア [工]アヽいゝ酒でござる。 近頃は不作でどこても酒は造らないが。 いゝたしなみでござり申ス。 祐成さし申さう [十]ヲヽ〈卜返事をして側へより竹の子笠をぬき茶わんを受つゝとおし舌うちをして工藤へもとす〉 [工]時宗 [五]あんだア [工]石ごきのうさつくれべへ。 こゝへねまれ [五]ヲヽねまるべい〈卜つか/\と来て茶わんをうけ三宝こわしの思入にて石ごきをかぢりわる〉 [朝]ヤレハアあきれた肝癩癪{かんしゃく}だア [見物]ヨゥ/\五郎やつたり/\。 もちつとぎしめけ/\とほめる。 此所かけ合にて股野{またの}川津角力もの語りあれど。 丁数の登{のぼ}るをいとひてもらしぬ。 [朝]時にはや余義{よぎ}ないむしんでござるが。 二人の者に肴{さかな}をはさんではおくりやり申スまいか [工]わしもはアさう思ひますが。 何も持合せ申さない。〈卜そこらを見て〉 よくござる。〈卜十郎がぬいた笠を取あげ片手には朱ざやの山刀を持〉 十郎には竹の子笠。 五郎には此山刀。 是が肴だつまみなさろ。〈卜二人つか/\とよつてうけとり思入。〉 [十五]アニ是が肴だアとか [工]笠のうふせればふじの山。 半夏過{はんげすぎ}ての竹の子笠。 五月の末は駿河の国。 富士の裾野{すその}の陣{ぢん}屋の内へ [十]夜這{よばい}は仕付たおらゝが兄弟。 簑笠かぶつて忍ひ込ミ [五]親仁の敵と名乗懸{なのりかけ}。 すのこも通れと切リ付たら [朝]血{ち}はまつかいなさび刀 [五]此赤鰯{いわし}の山刀で [十]本望とげろといふことか [五]とてもの事だら今爰で [朝]ヤレハァせつ込事はない。 此場{ば}は別{わか}れて帰りなさろ [二人]わかれづらい所だが。 せう事がないいぎますべい [虎]咄{はなし}が有て来申シたが。 取紛{まぐれ}て云ましない [少]是から内へ帰り道。咄しながらいぎますへい [朝]サァいゝ道連が出来申シた。行道筋は向ふの田の畔{くろ}。〈卜いふせりふをきつかけに正面のすだれがばつたり落ると。見わたし二三里の天地自然の大仕かけ是は江戸では出来ぬことなり。見ぶつぶちぬき/\と云てほめる。〉 ソレどこぞいゝ麦畠{むぎばたけ}が有たなら。 ころけこんだがよくござる [虎少]朝比奈さア [朝]二人のおしやらく [十五]介つね殿 [工]二人のわかいしよ [皆/\]さらばてござり申ス。〈卜見へわるくならび〉 [工]先今日は是切でござりもふす 打出し 右之本以〈テ〉〔二〕作者書捨之原本〈ヲ〉〔一〕。 令〈メ〉〔二〕校合一-過一〔一〕畢〈ヌ〉。 師〈ハ〉如〈ク〉〔二〕大象〈ノ〉〔一〕弟-子〈ハ〉如〈シ〉〔二〕猿松〈ノ〉〔一〕。採〈テ〉〔下〕不〈ル〉〔レ〕足〈ラ〉〔二〕三本〔一〕筆〈ノ〉毛〈ヲ〉〔上〕。 補〈フト〉〔二〕其脱-漏〈ヲ〉〔一〕云〈フ〉〔レ〕爾。 門人 千差万別 天竺老人 後序 神代巻日天照世界{かみよのまきにいわくあまてらすせかい}の親玉速素蓋烏尊{おやたまはやすさのをのみこと}の悪晒落{わるしやれ}を疎{うと}ませ給{たま}ひ。 大疳癪{かんしゃく}の磐戸隠{いはとかく}れより以来{このかた}。 世は闇雲{やみくも}のめつた晒落。 次第/\に増{そう}長し。 五月蝿如無駄{さばへむすだ}言を小冊にさへ書著{かきあら}はして。 世に行{おこな}はるゝもの八百万ン巻。 何レも似{に}たり寄{よつ}たりにして。 阿那{あな}面白き趣向{しゆこう}もなし。 爰{こゝ}に我師万象亭。 鈿女命{うすめみこと}の昔を思ひ俳優{わさおき}ならぬ業{わさ}くれは。 世間の晒落の裏{うら}を行キ。 端出縄{しりくめなは}の横{よこ}なまれる。 夷振{ひなふり}の可笑味{おかしみ}にして。天照神に吹出させ。 しかも磐戸の差合{さしあひ}なく。 笑ふ門には福来る。 その福神ンの神等{かんたち}の。 員{かす}に合たる七珍万宝。 七尺下{さか}つて後{しりへ}に書す。 未の はつ春 跋 此小冊{さつ}は。 江戸前の隠士{いんし}。 万象亭{まんぞうてい}の戯作{けさく}にして今世に行{おこなは}るゝ晒落本{しやれぼん}の。 或は妓{げいしや}の耳{みゝ}の垢{あか}。 又は娼{しやうろ}の臍{そ}の脂{やに}を穿鑿仕{せんさくし}たるよふな。片づんだる物とは殊{こと}なり。通{つう}となく野夫{やぼ}となく。 一トたひよめば腮{あ}のかきかねをはづし。 数腹{しば/\はら}すしのよれて。 その可笑{おかし}さやめとなし。 予に清書せよとの師命{しめい}に任{まか}せ。 筆にも紙をくらはする。 未{ひつじ}のはつ春。 大高檀紙{たかたんし}の威{い}に押れず。 おめずおくせず書{かき}ちらすは。 狐{こ}めん堂{とう}の主人{しゆしん}。 其由{よし}をしるして跋{ばつ}とはなしぬ。 風来山人之孫弟子 筆者 狐面堂柳郷 ------------------------------------------------------------- 注) 注1:「くま」阿の異体字か? 注2:「ごさ」の「ご」くさかんむり×「完」×えんにょう 注3:庵点 洒落本大成本文、忍頂寺文庫蔵本 ・さるぐま(311頁 7行目)、さるくま(ホメ詞2オ5;濁点部分印刷不鮮明) ・枚で(323頁 2行目下段)、枚て(036 10行目;濁点部分印刷不鮮明) ・ぶたい(324頁13行目上段)、ふたい(038 8行目;濁点部分印刷不鮮明) ・かづら(325頁 8行目上段)、かつら(040 9行目)