― 『論語町』凡例 ― ・漢文に施された振り仮名・送り仮名は、便宜上、全てを送り仮名として扱う。 ・左ルビは《》で表示する。 ----------------------------------------------- 虚來先生著 論語町 北椒房梓 論語町序 余{レ}登{テ}〔二〕真乳山{ニ}〔一〕臨{ミ}〔二〕吉原{ヲ}〔一〕而{シテ}小{ントス}〔二〕転水桶{ヲ}〔一〕顧{テ}視〔下〕入{ル}〔二〕大門{ニ}〔一〕者{ヲ}〔上〕野夫有{リ}焉粋{@}有{リ}焉智愚賢不皆自{ラ}謂{ウタ}欣然{ル}吾{ハ}是通{トヲリ}人{モノ}也〔|〕矣蓋{シ}雖{トモ}〔二〕其品{ルト}〔一〕乎所〔レ〕極{ル}乃{チ}入{カ}我{カ}我人{シテ}而未{タ}《ス》〔下〕嘗{テ}不〔レ×上〕出〔二〕於思案{ノ}外{ニ}〔一〕矣 (一オ) 鳴呼惚{テ}〔二〕無{キ}〔レ〕体女即{ニ}〔一〕為〔レ〕徒{ムタニ}者{ノハ}固{リ}亡〔レ〕論彼{ノ}本田髻{アタマ}{ニ}銀烟管以{テ}〔二〕洒落{シャレ}{ヲ}〔一〕為{ル}〔二〕理運{ト}〔一〕者{モ}亦{タ}惟末也今読{テ}〔二〕虚来先生所{ノ}〔レ〕著{ス}論語町{ヲ}〔一〕喟然{トシテ}起{テ}而歎{テ}曰有{ル}〔レ〕斯哉{ト}魂膽無〔レ〕無〔レ〕所〔レ〕不〔レ〕尽{テ}焉 (一ウ) 世{ノ}之蠢{@}蠢幕{マク}自{ミ}以{テ}為{ル}〔二〕通人{ト}〔一〕者亦皆大間違也於〔レ〕是{二}乎振{テ}〔二〕一生之智囊{ヲ}〔一〕為{リ}〔二×レ〕之{カ}解{ノ}〔一〕使{ラ}《シム》{下}東邊木{ヲ}〔一〕咸{ク}知{ラ}〔レ〕向{コトヲ}〔中〕於北里{上}則遮幾其{ノ}鼻毛延{テ}至{ランコトヲ}〔二〕三千丈{ニ}〔一〕焉乎爾桃栗三年柿八月 (二オ) 北郭能転気撰 (二ウ) 論語町 町音徴謂吉原                後波  師 文 撰 学{テ}而時習{ナラハス}〔レ〕之{ヲ}不〔二〕亦説〔一〕乎 <細見を見ならひ向{ヒ}の伴頭にさそはれ初て新造をあてかはれたるなり> <習{ハ}鳥{ノ}数飛也とひたつやうに行たくなるとなり> (三オ) 自〔二〕遠方〔一〕来不〔二〕亦楽〔一〕乎 <身にかへて思ふ人には遠さかりと云遠の字にあらす又地色のたのしみにあらす> <爰には客色をさして云> 人不{ス}〔レ〕知{ラ}而{ルヲ}不〔レ〕愠{イキトヲラ}不〔二〕亦君子{ナラ}〔一〕乎 <ひくう出かけて遊ふへし> 巧{ン}〔レ〕言{ヲ}令{スルハ}〔レ〕色{ヲ}鮮{ナイカナ}矣仁 (三ウ) <女郎をあやなし口ぼこにかけよいかけんに長さほにするのたぐひ> 使{フニ}〔レ〕民{ヲ}以{ス}〔レ〕時{ヲ} <寐て後いもと女郎禿をつかふに心あるべし> 君子不{ルトキハ}〔レ〕重{カラ}則不〔レ〕威{アラ} <とをりものと云は穴しりの事と心得大尽の心さしを失はぬやうにすへし高慢から人から悪しくなるそ後儒粋の字義をうしなふか> (四オ) 過{テハ}則勿{レ}〔レ〕憚{ルコト}〔レ〕改{ルニ} <コハフシンシタト云盃はあらたむるにはゝかる事なかれと也> 譬如{シ}〔下〕北辰{ノ}居{テ}〔ニ〕其{ノ}所{ニ}〔一〕而衆星{ノ}共{ムカフカ}〔上×レ〕之{ニ} <大門口は北斗のことく諸客は星のことし是を俗によはひほしと云> 思{ヒ}無〔レ〕邪 <邪ハ横ト訓ス横なからん事を思ふと読へし> (四ウ) 唯{タヽ}其{ノ}疾{ヲ}之憂{フ} <指のまたからそろ/\出来てかくすとすれと隠されすアヽ何とせん我思ひ> 有{ルトキハ}〔二〕酒食〔一〕先生饌{ノミクラフ} <馴染て来ての小鍋たて知つた女郎かより集り> 人焉{イ}{ソ}廋{クサンヤ}哉人焉{ソ}廋{ン}哉{ヤ} <なんほ無腰ても武士は武士と見ゆる町人のまねするは野暮なり> (五オ) <或句に   人は武士なせ傾城にきらはるゝ> 其{レ}何{ヲ}以{テカ}行{ヤラン}〔レ〕之{ヲ}哉{ヤ} <もめるさかづきなるべし> 見{テ}〔レ〕義{ヲ}不{ルハ}〔レ〕為無{キナリ}〔レ〕勇{ニ}也 <たてひきなるへし> 夷狄{タモ}之有{リ}〔レ〕君不{アラス}如{キニハ}〔二〕諸夏{ノ}之亡{ナキカ}〔一〕也 (五ウ) <岡場所に壱分あり此里に大夫なきを歎く> 升{リ}下{タテ}而飲{ム} <はやる女郎なるへし> 其{ノ}争{ハ}也君子{ナリ} <女郎末社うち交りて拳酒なるへし> 絵{ノ}事{ハ}後{ニス}〔レ〕素{シロキヲ} (六オ) <湯あがりの身こしらへ也髪梳{ニ}曰くしけきやうたいとりそろヘと云云> 素{ヲシテ}以{テ}為{ス}〔レ〕絢{アヤ}{ヲ}兮 <八朔の出たちばへなるへし> 祭{ルコト}如{クス}〔レ〕在{イマスカ}祭{ルコト}〔レ〕神{ヲ}如{クス}〔二〕神{ノ}在{カ}〔一〕 <約束の夜は客きたらされともむさと寐す> 吾{レ}不{レハ}〔レ〕与{アツカラ}〔レ〕祭{リニ}如{シ}〔レ〕不{ルカ}〔レ〕祭{ラ} (六ウ) <ふりつけられて寐たりおきたり> 夏后氏{ハ}以{シ}〔レ〕松殷人{ハ}以〔レ〕柏{カヘヲ}周人{ハ}以〔レ〕栗{クリ}{ヲ} <きの字やの台のもの 一名責道具と云> 管仲{カ}之器小{スコシキナルカ}哉 <管{ハ}間也仲は酒のかんのよきなり盃は小さし茶碗て呑むへし> 邦君樹{シテ}塞{ク}〔レ〕門{ヲ} (七オ) <惣仕舞障子をたてかけ> 里{ハ}仁{ソ}為{ス}〔レ〕美{ヨシ}{ト} <物くるゝを大尽と仰く> 蓋{シ}有{ラン}〔レ〕之{レ}矣我未{タ}〔二〕之{ヲ}見也 <傾城のまことなるへし> 一{タヒハ}則以{テ}喜{ヒ}一{ハ}則以{テ}懼{ル} (七ウ) <爪をはがしてよこしても正月のしまいは胸につかヘ> 徳不{ス}〔レ〕孤{ナラ}必{ス}有〔レ〕隣 <時花女郎の名代なるへし> 屡{々}憎{ニル}〔ニ〕於人{ニ} <やり手かたひ/\座敷へ出る下こゝろ> 宰予昼寝{タリ} (八オ) <入相限りに帰る客> 或{人}乞{フ}〔レ〕醯{ヲ}焉 <舛のみの肴なるへし> 今{ハ}也則亡{ナ} <高尾薄雲揚屋町の名而已> 山川其{レ}舎{ステメヤ}諸 (八ウ) <山は山の宿辺川は花川戸辺なり> <年明けてあてのなき女郎も片つく場はあるへし> 中道{ニシテ}而廃{スタレナン}今女{ンチ}画{カキレリ} <大門につけてとらまへられ仕内により髪をきらるゝなり> <女画とは髪切らるゝの略語なり> 行{ユクトキハ}不〔レ〕由{ヨラ}〔レ〕径{コミチニ} (九オ) <中の町て見知つた女郎に物いゝかけられつれの前の見へらく心うれしきに向ひの茶屋の女房かチトヲヨリナンシに思案の外のいたことおそるべし> 知者楽{ム}〔レ〕水{ヲ} <水は酒の異名呑過きすたのしむを知者といふ> 於{テ}〔二〕是日{ニ}〔一〕哭{コクスルトキ}則不{ス}〔レ〕歌{ウタウタハ} <ロ舌のあとは松伝ふしに背中あはせ寐て見ても仕まいかつかず> (九ウ) 従〔ニ〕吾{カ}所{ニ}〔一×レ〕好{ム} <大勢つれて見たて歩行は仲間われになりて悪し心しつかに見立へし> 亡{ナケレトモ}而為{シ}〔レ〕有{リト}虚{レトモ}而為{ス}〔レ〕盈{ミテリト} <座敷おさまりて新造禿か鎰を鳴らし箪笥の明けたて> 弋{ヨクスレトモ}不〔レ〕射〔レ〕宿{ヤトリヲ} <せゝりおこして可也> (十オ) 与{ト}〔レ〕人歌{ウタウタフテ}而善{ヨキトキハ}必{ス}使{イテ}〔レ〕反{カヘリフセ}之{ヲ}而{シテ}後{ニ}和{ス}之 <楓江もはだして持てた一座> 丘{カ}之祷{ルコト}久{シ}矣 <常に花の多からん事を願ふ> 威{アツテ}而不猛{タケカラ}〔レ〕恭{ウヤ/\シウシテ}而安 <格子女郎なるへし今はなし昼三の中にも> (十ウ) 如{ク}〔レ〕臨〔二〕深淵{ニ}〔一〕如〔レ〕履〔二〕薄氷{ヲ}〔一〕 <間夫の出合なるへし> 任重{ヲモフ}而道遠{シ} <任音人ふとつた人をのせし駕龍を云かならす酒手をねたる> 吾{レハ}執{ン}〔レ〕御{ヲ}矣 <床いそきなるへし> (十一オ) 仰{ケハ}之弥{/\}高{シ} <与風馴染て春の初約束より年中の紋日夜着ふとんの敷そめ畳の表かへかんかへ見れは胸につかへむかしは物を思はさりけり> 無寧{ムシロ}死{ナン}〔二〕於二三子之手{ニ}〔一〕乎 <売られてもゆかしいは古郷成へし> 求〔二〕善賈{ア}{ヘヲ}〔一〕而沽{ウラメヤ}諸 (十一ウ) <身うけの相談なるへし> 沽{シテ}{ヤ}之哉沽{メ}{ヤ}之哉我待〔レ〕賈{ヲ}者{ノ}也 <御茶引てねむるへからす> 在{シテ}〔二〕川上{ホトリニ}〔一〕曰逝者{ノハ}如{キ}〔レ〕斯{カク}{ノ}夫{カ}不〔レ〕舎{ステ}〔二〕昼夜{シテ}〔一〕 <行帰る猪牙船なるへし> 未{ダ}《ス》〔上×レ〕見〔二〕其{ノ}止{ヤムヲ}〔一〕也 (十二オ) <のほりつめての思案やむ時てなけれは止ます> 後生可{シ}〔レ〕畏{ル}焉 <久しふりて行けは禿は新艘となりしんざうはとしまと変し我かあたまははけたわけはやます> 似{レリ}〔二〕不{ル}〔レ〕能{ハ}〔レ〕言{モノ云コト}者{ニ} <無理にさそはれ初て女郎を買行燈のかけに居る> (十二ウ) 趨{リ}進{ムトキハ}翼{ヨク}如也 <かぶろの袖なるへし> 屏{オサメ}{テ}〔レ〕気{ヲ}似{レリ}〔二〕不{ル}息{イキセ}者{ニ}〔一〕 <ふすま一重の損ならん> 足蹜蹜{トシテ}如{シ}〔レ〕有{ルカ}〔レ〕循{シタカヲコト} <道中なるへし> (十三オ) 長一身{ニ}有{フ}半 <姉女郎の上着かりて座敷はすめと中の町の見る目うるさし> 吉月{ニ}必{ス}朝服{シテ}而朝{ス} <紋日の見へは四季施小袖の外そ> 失〔レ〕飪不{ス}〔レ〕食 <焼ものかたしむさと食ふ事なりき> (十三ウ) 不〔レ〕撤{ステ}〔レ〕薑{ハシカミヲ}食不〔二〕多{ク}食{ハ}〔一〕 <名代をも少は食ふへし是礼なり> 徳行{ニハ}顔淵閔子騫冉伯牛仲弓言語宰我子貢政事{ニハ}冉有季路文学{ニハ}子游子夏 <役者揃ひの大一座なるへし> (十四オ) 升{レリ}〔レ〕堂{ニ}矣未{タ}《ス》〔レ〕入{ラ}〔二〕於室{一}也 <モウ呑ナンスナ寝ナンシ> 過{タルハ}猶《シ》〔レ〕不{ルカ}〔レ〕及{ハ} <いきすきは初心におとれりめれんは下戸におとれり> 小子鳴{ノ}〔レ〕鼓{ヲ}而攻{セメンコト}〔レ〕之{ヲ}可{ナリ}也 <末社引つれふみに行談合> (十四ウ) 吾{レ}以{テ}〔レ〕女{チヲ}為{ス}死{セリト} <天井かぞへなるへし> 可{シ}〔レ〕謂{フ}〔二〕大臣{ト}〔一〕与 <温和にあそふ客なるへし> 其{ノ}言{コト}也訒{シノヘリ} <二間持の口説はほのかにさへ聞とりかたしから紙一重のむつ言は詞しのひやかなり> (十五オ) 人皆有{リ}〔二〕兄弟〔一〕我{レ}独{リ}亡{ナシ} <つき出し女郎は盃をいたゞいてたび/\笑はれコハヲガミンスをおず/\云ならふ> 君子{ハ}質而已矣 <君は傾城の異名子は禿を云むかふの人と呼んてやりくりの使> 駟{モ}不〔レ〕及{ハ}〔レ〕舌{ニ} <かける女郎なるへし> (十五ウ) 無{シ}〔レ〕欲{スル}〔レ〕速{ナランコト}無〔レ〕見{ルコト}〔二〕小利{ヲ}〔一〕 <為になる客と見ばいさゝかの無心はいふへからす> 直{キコト}在{リ}〔二〕其中{ニ}〔一〕 <地色に質は置あけなからもやり手をこはかる心あり> 君子{ハ}泰{ユタカニシテ}而不{ス}〔レ〕驕{ラ}小人{ハ}驕{テ}而不〔レ〕秦{ナラ} <唐さんとめに甘みあり黒羽二重に辛みあり> (十六オ) 剛毅木訥{ハ}近{シ}〔レ〕仁{ニ} <空色の紋付浅黄うらのやきもち客はうるさけれと涙一雫か千金/\ 彼哉{カレヲサヘヤ}彼哉{ヤ} <百ざうの指きりなるへし> 被{カフムル}〔レ〕髪{ヲ}左{ス}〔レ〕衽{ヲ}矣 <わざくれの病気なるへし> (十六ウ) 君子{ハ}上達{ス} <上の粋の事なるへし> 小人{ハ}下{カ}達{ス} <穴を知り毒を云の徒宗儒これを粋といふ甚非なり> 必{ス}有{リ}〔二〕近{キ}憂〔一〕 <袖留前の新造強食くさき禿を持し女郎に馴染めは此厄のかれかたし (十七オ) 割{サク}〔レ〕鶏{ヲ}焉{ソ}用{ン}〔二〕牛{ノ}刀{ヲ}〔一〕 <水揚まへの新造は血気の若者をいむへし> 焉{イツクニ}往{クカ}而不{シ}三{ヒ}黜{ラレ}〔一〕 <不男のくせに穴をいひ毒を云旁/\てふりつけらる> 更{アラタムルトキハ}也人皆仰{ク}〔レ〕之 <禿も新造と化してさまつけとなる> (十七ウ) 難{ヰカナ}乎有{ルコト}〔レ〕恒{ネ}矣 <きのふのはれ着は飛鳥川の流冬帷子を持し女郎を聞かす> 我{レ}欲{スレハ}〔レ〕仁{ヲ}斯{ニ}仁至{ル}矣 <初会にもらはれ鳶か鷹の名代をとる> 倹{ナルトキハ}則固{イヤシ} <十露盤なしにあそふへし> (十八オ) 拝{シテ}而受〔レ〕之{ヲ} <堀の女房に花をやるとは今時ない事もらふ気もない所へおもひの外に> 聚斂{シテ}而附{ツケ}益{マス}之 <女郎とぐるな牽頭> 既{ニ}欲〔二〕其{ノ}生{一}又欲{ス}〔二〕其死{ンコトヲ}〔一〕 <方言曰請〔レ〕之謂〔レ〕生流〔レ〕之謂〔レ〕死也やりくり也> (十八ウ) 察{シテ}〔レ〕言而観{ル}〔レ〕色{ヲ}慮{ヲモンハカリテ}以{テ}下{ル}〔レ〕人{ニ} <牽頭の世わたりなるへし> 於{テ}〔二〕其{ノ}所{ニ}〔一×レ〕不{ル}〔レ〕知{ラ}蓋闕如{ス}也 <初会の客の一人遊ひならん> 誠哉{ナルカナ}是{ノ}言{コト}也 <或人問〔レ〕粋{ヲ}曰〔二〕古人薄雲{カ}〔一〕廓{ハ}来{ル}人{ニ}無〔レ〕粋皆野暮也一{ト}来{テ}而知〔二〕其味{シテ}〔一〕而{シテ}後{ル}不{レ}来人{ヲ}粋{ト}云 (十九オ) 雖{トモ}〔レ〕之{ユク}{ト}〔二〕夷狄{二}〔一〕不{ス}〔レ〕可{ラ}〔レ〕棄{スツ}也 <高倉 長山なと品川へ二度のつとめ> 辞{コトハ}達{リ}而已矣 <客の友たちへことつて> 更為{二}之辞{一} <機嫌わるく帰りし客へは文の文句もなかし> (十九ウ) 顔淵季路侍{ヘリ} <二人禿なるへし> 不幸短命{ニシテ}死{ス} <よひ客かついて袖留め前に惜しい哉> 游{フ}〔二〕於芸{ニ}〔二〕 <出入屋敷の役人をつれたち> (二十オ) 三人行{トキハ}必{ス}有{リ}〔二〕我{カ}師{一}焉択{テ}〔二〕其{ノ}善{ヨキ}者{ヲ}〔一〕而従{フ}〔レ〕之其不{ル}〔レ〕善{ヨカラ}者而{モ}改{ム}〔レ〕之{ヲ} <連の中にも気に相とあはぬか有るへしよからさるは見合てまくへし> 有{レトモ}若〔レ〕無{キカ}実{トモ}若{ス}〔レ〕虚{キカ} <人のふところをあてにするやつには無きふりをせよとなり> 必{ス}有{リ}〔二〕寝衣{一} (二十ウ) <汚れても白むくなるへし> 必{ス}有{リ}〔二〕明衣〔一〕布{ス} <夏客に借すへしかけかへなけれはわれはたゝ> 不{スシテ}〔レ〕俟〔レ〕駕{シテ}行{ク}矣 <夜更ては駕龍なし尻ひつからけて一さんに北国さしていそき行なり←> 帰{レリ}〔二〕女楽{ヲ}〔一〕 (廿一オ) <踊子を舟へかへして跡は床へ入はかりこゝろつかひもなし> 楽{ミ}亦{タ}在{リ}〔二〕其{ノ}中{ニ}〔一〕矣 <いやな客衆のくせに居つゝけその内に色客に名代をとらせておき> 帰与帰与吾党之小子 <中の町から御むかひの声におとろきさあおそくなつた> 三{ヒ}嗅{カイ}{テ}而作{タツ} (廿一ウ) <座つきのすいものほねまてほぐり喰へからす汁はかりすいてやむへしとなり> 禹〔|〕吾{レ}無{シ}〔二〕間然矣 <内の旦那と色する女郎なるへし> 東里{ノ}子産潤色{ス}之 <吉原を北里と云深川を東里と云子産は深川の土地の産と云事にて呼出しなりよしはらへ突出しに出て一はやり色を増すとなり> (廿二オ) 賢者{ハ}辟〔レ〕世{ヲ} <かしこき者は当世女郎買の気をさりてむたをつかわすにあそぶとなり> 其次{ハ}辟{ル}〔レ〕地{ヲ} <其次の了簡には吉原の地を去りて行さへせねはよしとなり> 其次{ハ}辟{ル}〔レ〕色{ヲ} <又の了簡には色事さへ遠さかりされは女郎買の気もなしと也> (廿二ウ) 其次{ハ}辟{ル}〔レ〕言{ヲ} <ひどいやつは吉原の噺さへせぬやうにすれは銭はいらずとなり> 見{ル}〔下〕其与{二}先生{一}並{ヒ}行{クヲ}〔上〕也 <箱てうちんを燈させなしみの女郎新造禿をつれて五町まちを見物見への一事成へし> 今{ハ}亡{ナイ}矣{ナイ}夫 <むかしは大門をうちし客もありしとなり> (廿三オ) 与{ト}〔二〕下太夫{一}言{ハ}侃々如也 <下太夫とは茶屋舟宿のむすこをいふ里俗にあにさんと云> 与{ト}〔二〕上太夫{一}言{ハ}誾々如也 <上太夫とは茶屋舟やとの亭主をいふ俗に御てさんといふ> 虎豹之鞟{ツクリカハ}猶{シ}〔二〕犬羊之鞟{ノ}〔一〕 <壱分のかいとりも中三にひとしきとなり> (廿三ウ) 夫子之求{ル}〔レ〕之也其{レ}諸異{ナルカ}〔二〕乎人之求{一×レ}之与 <よい女郎の物を買ふは大やうにねきらす人にかはつた所かありと也> 敬{シテ}〔レ〕事{ヲ}而信節{シテ}〔レ〕用{ヲ}而愛{ス}〔レ〕人{ヲ} <事は物事也節は節供也惣して紋日の約束をうけこみ物前のつけとどけ何によらず用をまちかえずやるは女郎を愛するかゆへなり> (廿四オ) 何{ノ}遠{コトカ}之{レ}有{ン} <神田から品川へかよふ客さへあるに吉はらへなんの遠い事かあらうそ> 鳳鳥不〔レ〕至河不〔レ〕出〔レ〕図{シ}吾{レ}已{ルカナ}矣夫 <いつまてかよつてもはてのないところだもうあそひもよいかけんにしてやめやうとなり> (廿四ウ) 跋 女郎買{ト}与{トハ}〔二〕内造作〔二〕不〔レ〕可{ラ}〔レ〕以{テ}〔二〕胸算用{ヲ}〔一〕矣不如買{テ}〔二〕於新艘{ヲ}〔一〕為{ンニハ}〔レ〕楽{ト}若{シ}夫{レ}洒{シャ}落{レ}有{ル}〔二〕各{テン}自{テ}{ノ}口拍子〔一〕耳因{テ}賦〔二〕一詩{ヲ}〔一〕曰 吾個大羅八寸茎今宵何 (終オ) 屋臥〔二〕空房{ニ}〔一〕旧来不{レ}歴〔二〕年間手{ニ}〔一〕特鼻褌中日月長              虚来山人 (終ウ) ------------------------------------------------------------- 注) ・一オ4 @=判読不明 ・二オ1 @=判読不明。「チョン」か。 ・九ウ1割注 見へらく  → 大成 見へよく