商内神 --------------------------------- あきないがみじょ うりものにかざれる。はなのさくらたい。 なかのちょうにひらきしより。さんまいのかごをとばすあれば。おひれをふるちょきぶねあり。 いずれしおさきにむかいし。くろたいのはのしろみそに。こってりとしたうまみをくわせ。うしおじたてにちょいとした。きどりをみせて。きゃくをよぶ。 (序一オ) これしょうばいのかがみだい。 きみがめもとのしおだいに。あまいと見らるるあまだいの。 ひたいくめんをするもあり。 (序一ウ) きゃくのかずかずはまやきの。たいへいらくをまたしても。あげつめにしておきつだい。 たいのどうぐの。みつみつはなすいろきゃくあれば。かすこたいほどやすくされ。 こだいかねてはわかえいす。 (序二オ) よんでこごとをゆうがしの。たいのあらをいいちらし。けっくもとねにならぬもあり。 うるもいろ。 かうもいろ。 ときのそうばのぜにしだい。 こばんのいびつさぶろうかさんぶのひるこにしゅのみや。 (序二ウ) あきないがみとしるしたる。 じっぺんしゃしゅじんが。かいだしのてちょうのはじめに。やたてのふんでをとって かくめいろうのあるじじゅつ (序三オ) じじょ ことし。しゃれのみせをいだして。すこしくかじょうをうるにいたる。 されど。いまだとりつきしんしょうのしみつたれにして。しろものいたってそまつなるも。きょうちゅうのもとでとぼしきゆえなり。 しかれども。たりきをもとめて。ちくとんばかり。 (序三ウ) きどりをしこみたれば。もしきゅうぎゅうがいちもうも。こうしこれをうることあらば。それこそさくしゃのえびをもって。たいをつるにひとしからんと。とりあえずあきないがみとひょうだいして。このそうしのみせをひらき。すなわちうりちょうのはじめにしるす (序四オ) じっぺんしゃいっく きょうわにみずのえいぬもうしゅん (序四ウ) じっぺんしゃ さんようのそとにききたりほととぎす (序アキ五オ) とうざちょうのしりのつまりはにっちがさっちもいかぬそろばんのたまたまきゃく ねからさんようのあわぬよるはめばかりぱちぱち だいふくちょうのしめてねるよはねねちのしれぬそうろうたまのまことかうがとくゐのつりだしものはごくじょう@むるいとびきりのおおてごと きんぎんでいりちょうのしめくくりはめにみえぬふところのむなざんよう たがいのこころのたなおろしはのびるはなげのかんじょうあってぜにたらず (序アキ五ウ) ○ほったん せいしょくかようのごとく。じょうしょうせつげつをあざむく。 きじょがふうしには。せんざいのうらみをさんじ。ばんしょのうつをひらくという。 りびんがことばさることながらさけはびすいにのみ。はなははんかいにみるをもってかえって。ふりょうのきえんをおもう。 みかえりのやなぎに。いかんのじょうをのこし。えもんざかのつまのぼりに。じゃくそうのたもとをひかる。 いまどのけぶりには。むねのひをくらべ。なかたんぼのかわずに。はらわたをたつのおもいをなす (アキ六オ) そのみたざるをこそ。ふうがのかんじょうとはいうべけれ。 されば。うりものにかざれるはなのよしわらに。かねのとくいは。そろばんのけたをはずし。ちょうめんのしりもむはで(@)。かいかぶるあれば。ほりだしあり いろとなさけのおろしうり。 こがいにせんと。ほそもとでの。こくらのかみいれをひねくりまわすさんにんづれ。 いっぽんきめて。ひるみせをのぞきあるくは。とぶらいがえりとみえもなくひるばかりだがしょうちかと。あたまからきめてあがる (アキ六ウ) ○〈せかいはまじりみせながら。しろもののしいれてあつくみえて。おおみせにおとらぬあきない。 かのさんにんはひとつかくつつのとくいにして。ざしきはおさだまりのうりことばにかいことば さかづきのとりやりに。うちておけしやんやんしゃんとねができてとこへまはる。 しょかいきゃくは[たくろう]しじゅうぐらいにて。すこしやつこがかりしあたまつき めんちりのあわせばおり。まくらもとにぬぎすて。あいびろふとのつむぎのこそで。ふとんのうえにはらばつている。 あいかたは[みちしの]としのころにじゅうにさん。 なかじしにてきりょうじゅうにんなみ。 いしょうにはでをこのまず。あたまのわけを。あさぎちりめんにてくくりしは。これてとりのかんばんなり (アキ七オ) [みちしの]ぬしたちゃあきょうはどけえいかしったえ [たくろう]てらまいりにさ [みち]そりゃあおきどくざんすね。 いっそ。うそをおつきなんす [たくろう]しれたことさ。 おいらあふかがわのうそっつきだ [みちしの]ふかがわのうそっつきたあ。わっちらにゃあわかりいせん [たくろう]わかりんせんどうおちのひとか [みちしの]おやおやぬしゃあよく。いろいろなことをいわっしゃるよ。 ほんにきょうのおいちざは。みんなきのかるいおかたばかりでおすよ [たくろう]そのなかでおれがいっちおもい。 (アキ七ウ) このがけえだから [みちしの]なあにぬしがいっちかるくみえいす。 どうでもとしのこうだね [たくろう]おやこのわけえものをおやじにしたの [みちしの]そんでも。あのなかでおめえさんが。いっちぶんべつらしくみえいすはな [たくろう]とんだことを。おらあいくつだとおもいなさる [みちしの]ぬしかえ。 こうと。 もうわっちらよりやあにじゅうしごもうえでおっしょうね [たくろう]そりやあおいらがほうが。うえにならああたりめえだが。ここしゃあいちばんちょうすにして。おめえのほうがうえだろう (アキ八オ) [みちしの] おやかんにんしておくんなんし。 よが世ならわっちらあ。まだきむすめでおさあな [たくろう]ええきのつええ 〈とやきぎせるをあてるまねをする。 はやおのれはじゅうぶんもてるこころもちなり〉 [ごんひち]〈いちざなり せうじのそとから〉 どふだたくろうさん。 もふけへりやせう [たくろう]ごんさんか コレへヽらつし [ごんひち]おらあけえるよ [たくろう]まあきさっし。 いりぐちにたっていずと。はなやのやなぎじゃああんめえし。 〈ごんひちうちへはいる〉 [みちしの]もしえ。 おめえさんはなぜけえるとおっせえすえ (アキ八ウ) [たくろう]まだよかろう [ごんひち]おらあひるばかりあそんでけえるつもりだ。 もうおっつけくれるはな [たくろう]くれてもいいじゃあねえかえ [ごんひち]なにじつは。おらはひのばんだあな [みちしの]ひのばんたあ。あのたけえ。ひのみやぐらとやらへあがっていなんすのかえ [たくろう]なあにありゃあおやしきでやりもちのせつちんだ。 ごんさんわりいことをいふぜえ 〈とにがわらいする〉 [みちしの]ぬしたちゃあたったいまきなんして。ひがくれてもようすはな。 すぐにおいでなんしな (アキ九オ) [たくろう]ごんさんおれがのみこみだ。 すぐにいつづけさらさらとしなせえ 〈というところへいまひとりのつれもきたり〉 [りさぶろう]ろせいさん。 ちょっとおめに 〈とかたすみのほうでまねく〉 [たくろう]なんだはいみょうをいうこたあごめんだ。 やりてがいやがる。 なんだこけへきな [りさぶろう]そこしゃあわりい。 ちょっとこけへ [たくろう]きびのわりい。 ざしきからはすによびだされるやつは。どふでろくなはなしじやあねえ 〈といいながら。かたすみのほうへよつて何かべちやくちやいふ。 これはひるばかりあそんでかえるつもりのところ。ちゅうやになってはめんめんのふところのさんだんがちがうゆえ。そのそうだんなり (アキ九ウ) あらかたきまったとみえて〉 [たくろう]もうもうそれでよかろう 〈ともとのところへすわる〉 [ごんひち]りさこうどうする [りさぶろう]どふするものか。 いるのだはな。 そしてたくろうさんのじゃまにならあ。 はなしがあるからこっちへきねえ [みちしの]なにようすはな。 もっとおはなしなんし [ごんひち]まあいってきやしょう 〈とふたりながら。つれだちでていく〉 ○〈しんぞうしのざき。 あはただしくかけてきたり。ずっとはいり。おやといって。びょうぶのそとへで〉 [しのざき]おいらんへちょっと [みちしの]なんざんすえ そうぞうしい 〈トいいながらろうかへでなにかはなしてまたざしきへかえる〉 [たくろう]こうおめえ。いくところがあるならいってきねえ。 (アキ十オ) こっちはいいから 〈とわざととおったことをいう〉 [みちしの]なぜえ [たくろう]なぜじゃあねえ。 いろおとこがきたろうから。 それで今のひそひそものだろう [みちしの]そりゃあおありがとうすよ。 そんならいってきいしょうと。もうしたらようざんしょうが。まあやっぱりおきらいなんす。 ぬしのところにおりいしょう 〈とよぎのそでのうえへねころぶ〉 [たくろう]おやそんなら。まつりのうしをみるように。しかたなしにねるというもんだの [みちしの]よくいわっしゃるよ。 (アキ十ウ) そんでもぬしのように。そんなにいっておくんなんすきゃくじんは。こっちもけっくでしにくうおすはな。 そりゃあくげえというもんでざんすから。いくらもきゃくじんのさしようこともおすが。そんなときゃあ。もふもうきぐろうでなりいせん [たくろう]きのきいたきゃくは。あんまりゃあねえものよ。 おいらは。またほんのこったが。こけへこそはじめてきたが。いつでもきんかんどうふと。さかなのいちを。みずにけえったことのねえおとこよ (アキ十一オ) 〈これはほうこうにんか。きむすこのように。あさもとっぱかわして。くらいうちからはけえらず。よがあけて。ゆうゆうとけえるというを。みえにいうせりふなり。 やまやのきんかんどうふ。いつづけのちゃづけによくでるやつにて。さかないちは。なかのちょうの。さかなのいちなり〉 そしてさいけんのきもんに。なおっている。 やりてばあさんにまで。かあいがられ。わけえしゅにもついど。わらあたかれたこたあねえ から。そのおかげにゃあ。どけへいっても。すいぶろの。しろくならねえうちに。へえるというもんだ 〈わらをたくというは。わるくいふことをいうなり。 またすいぶろのしろくなるとはじょろうよりさきへはいるといふことなり〉 (アキ十一ウ) というもんだから。おめえかたのくげえということものみこみきっているはな。 それだから。ざしきをあけたの。なんのかのと。いさくさをいうきゃくをみると。こいつあいたらねえやつだと。おかしくおもっているくらえだから。どこのうちでも。あんまりかみがられたこともねえのさ [みちしの]そりゃあそうでざんすよ。 ぬしのよふなきゃくじんばかりでおすと。てえてえいいこっちゃあおざんせんが。このあいだもきいておくんなんし。 (アキ十二オ) これもしょかいのきゃくじんでおすが。そのばんになじみのきゃくじんがきなんしたゆえ。ざしきをむりにあけて。もらいいしたが。もっともわっちもわるうおざんした。 どうも。なじみのきゃくじんが。はなしなんせんから。しょけえのきゃくじんのとけへ。いかずにいんしたら。わけえしゅをよんで。いっそこごとをいいなんして。おけえりなんしたが。おおかたみちではいぬにでもくっつかれなんしたろう。 (アキ十二ウ) ちっとのあいだざしきをあけたとって。そのくらえのことは。だまつていておくんなんすと。そこじゃあ。うおごころあれば。すいしんあるとやらでおざんすものを。 そのときなんざあ。いっそくろうをいたしいした。 〈というはなじみのきゃくが。なかのちょうにきていることを。さきほどしんそうがしらしてきたゆえ。そろそろと。あみをかけておくせりうなり〉 [たくろう]そりゃあはじめて。あそびにきたきゃくだろう。おいらがはたけにゃあ。くすりにしたくても。そんなやぼてんはねえよ 〈とこのうちたばこをのんでははたきついではのみはいふきにすいがらやまのごとくにたまる〉 (アキ十三オ) [みちしの]ほんにぬしのように。さばけていなんすきゃくじんにゃあ。めったなこたあいわれんせんが。わっちやあ。いっそくろうになることがおざんすが。どうも。いいにくうおさあな [たくろう]いいにくいというは。なにかこんやも。なじみがきたといいなさるのか [みちしの]なあにそうじゃあおっせんがね。 ことによると。きなんすきゃくじんがおざんす。 もっとも。ふけえなじみというでもおざんせんが。よんどころねえきゃくじんで。わっちやあもう。いやでおすけれども。どうもしかたがおざんせん。 (アキ十三ウ) せんどもあしくして。けえしもうしんしたから。よもやもう。きやあしなんすめへとおもいいすが。ひょっと。いまにでもきなんしたら。どうしんしょうと。いっそ。それがくろうでなりいせん。 〈とよぎのうえへもたれてうつむく〉 [たくろう]いいはな。 きたらきたように。そのときのそうだんさ [みちしの]ぬしがもう。そんなにいっておくんなんすが。うれしくてなりいせんよ (アキ十四オ) 〈といううちにろうかより〉 [ふりしん]おいらん。 ちょっとおいでなんし [たくろう]そりゃあもうきたぜ [みちしの]じれってえのう 〈このなじみのきゃくというは。こよいにかいめのきゃくにて。ちとあんばいしきのあるきゃくにて。せんこくより。おいらんがこころのうちにはまちたいくつしていたることなれば。ざしきをでるには。さもいやそうにふしょうぶしょうにたちいでしが。ろうかへでるとすぐに。うわぞうりを。よこちょにはいてかけだす [たくろう]いめえましい 〈とすずりぶたなどを。づまみぐひしているところへおいらんしばらくしてきたり〉 [みちしの]もしえどふしんしょうね。 いまのきゃくじんがきなんしたとさ。 そのくせむつかしいきゃくじんで。ざしきまで。もらわにゃあがってんしなんせん。 ぬしがしょけえだとって。いいようにするとおもいなんしょうが。くげえのことをくみわけていなんす。ぬしのことでおすから。こんな。わがままなことを。おねげへもうしんす。 (アキ十四ウ) もうどうも。おきのどくざんすねえ 〈きゃくもすこしはかほいろがちがってきたれどもせんこくいっぱいにいっておいたくちがあるゆえいやだともいわれずしかたなし〉 [たくろう]どふせこんやあ。こんなめにあおうとおもった。 しかたかねえわ どうともどうとも [みちしの]かんにしておくんなんし。 わっちがじきにいきいすから。 ちっとのまみょうだいをとっておくんなんし (アキ十五オ) ええもうこよいにかぎって。じれってえのう 〈とかんざしにてつふりのうしろをかく このうちわかいものそっとはいる〉 [わかもの]おいらんいまのことは [みちしの]もうようすよ [わかもの]こりゃああなた。 いろいろなことをおねげえもうして。おきのどくでござります [たくろう]これもときのまはりやわせだ 〈とこのうちしんぞうしのざききたる〉 [みちしの]しのざきさん。ぬしをあっちらへおつれもうしておくんなんし [しの]もしおいでなんし 〈ときゃくのはおりがみいれをもってたてば。きゃくきせるたばこいれをもってまごまごする〉 [わかもの]さあこういらっしゃいませ (アキ十五ウ) 〈となりざしきのうた〉 すまぬこころの中にもしばしすむはゆかりのつきのかお ○〈かのなじみのきゃくというは[よしさぶろう] まだとしはにじゅういちになかぐらいのところのむすこかぶとみえてまんざらでもなきゆうきじたて。 せんこくよりほかのざしきに。ちゃやげいしゃをあいてにして。のみかけ。かおはすこしさくらいろのほろよいきげん。 おいらんはおりのそでをひきて。ざしきへつれきたる。 もっともこよいにかいめのきゃくなり [みちしの]すぐにこけへおいでなんし 〈とふとんのうえへつれゆく〉 [よしさぶろう]よしねへ いろおとこのねたあとの。まだどくきもさめぬとこへ。きみのわりい。 そしてかみくずがでえぶあるの。 〈とわざとよったふりをしてよろよろする (アキ十六オ) つきたおすようにふとんのうえにひきすえ〉 [みちしの]ひとのこころもしりなんせんで。いろいろのことをおっせえす。 ぬしのきなんしたことをききいすと。もうもううれしくって。とびたつようにおもいいしたが。おりわるく。ひるからのきゃくじんで。ようようのことでもらいいした。 ほんにぬしゆえ。てえてえの心づけへを。したことじゃあおざんせん 〈とたばこをすいつけいだしきゃくのかおをみてにっこりとわらい〉 ほんにぬしゃあ。このあいだかんだとやらだとおっせえしたが。ほんとうざんすかえ (アキ十六ウ) [よしさぶろう]そうさ [みちしの]そんならかんだに。ああなんとかいいなんした。 それつぶりのはげた。いっそよく。はなしをしなんす。おじいさんがありいすが。しつていなんすかえ [よしさぶろう]そりゃあかんだにも。じいさまあいくらもある [みちしの]あのなにさかこうさんとかいいなんした [よしさぶろう]おおそりゃあしっていやす [みちしの]そしてこのあいだぬしゃあ。あにさんがあるとおっせえしたが。そのにいさまは。どんなおかたでおすえ [よしさぶろう]おめえいろいろのことをいう(アキ十七オ) それをききてどうしなさる [みちしの]わっちゃあね。 とんだこころやすくしたおかたが。そのかんだとやらにいなんしたが。そのおかたに。もうもうぬしがいっそよくにていなんす。 きょうだいといっても。ちげえねえようでおすから。それでおききもうしんす [よしさぶろう]おいらがあにきなんざあ。あそびにゃあきたこともねえが。わっちがにているというは。そりゃあおめえのいろおとこか。 [みちしの]なにそうじゃあおざんせんけれど 〈にているというはじつはこのおいらんがふかくいいかわせしきゃくなれどもいまはとおざかりてこず。 (アキ十七ウ) あさゆうこいしくおもっているゆえ。そのきゃくににたるをうれしく。いっそそわそわしていてうつりやすきはこのみちにして。あわぬおとこをおもうあまりに。せめてもという。うわきがかえってこくなるものなり〉 [よしさぶろう]そうしてそのひとはどうしたえ [みちしの]そりゃあわっちがきょうだいのようにした。ほうばいしゅうのきゃくじんで 〈これはうそなり わざとそのみのきゃくとはいわず〉 とんだこころいきのたのもしい。おかたでおざんしたが。いまはいなかのほうへ。いきなんしたということでおさあ。 わっちもおせわになりいしたきゃくじんでおすが。ちょうどぬしのような。あいらしいめつきで。わらいなんすときなんざあ。いっそよくにていなんすから。もうもううれしくってなりいせんよ (アキ十八オ) [よしさぶろう]そりゃあいいひとににていて。おおきにわっちがしやわせだ [みちしの]もしへこれからみすてずにきておくんなんし [よしさぶろう]しれたことさ [みちしの]ほんにかえ [よしさぶろう]おめえがたにうそをつくとばちがあたらあ [みちしの]にくらしいのう 〈とつめる。このうちたがいに。くすくすわらいながら。しつっこく。つめりやい しまいにはきゃくのてへくいつく〉 [よしさぶろう]アイタタタタタ [みちしの]それみなんし おんなにゃあまけていなんすといいものを (アキ十八ウ) 〈といいながらまくらもとのちょうしさかづきをひきよせ〉 ひとつおあがりなんせんか [よしさぶろう]もうごめんだ [みちしの]わっちゃあ。たべべせんけりゃあ。ならねえことがおすわな 〈トなみなみとついではんぶんほどのみしたにおく〉 [よしさぶろう]よろしくおあがりなせえ [みちしの]あいさわっちやあぬしにいいてえことがおすがね。 とうもいいにくうおざんすから。おもいれよってもうしいしよう [よしさぶろう]なんだ よわずといいねえ。 さあきこう [みちしの]あのね。 これからほんにきておくんなんすかえ [よしさぶろう]くるたんか [みちしの]そんなら (アキ十九オ) あのね。 はらをおたちなんすなえ [よしさぶろう]なにを [みちしの]いまわっちがもうしいすことを。 こういっちゃあどうか。ぬしをみくびるようざんすが。わっちゃあいちずにおよびもうしとうすか ら。ちっともぬしのこころづかいのねえようにと。おもいいすから。 うちあけておはなしもうしんすにえ。 ぬしこそなんとも。おもってはいなんすめえが。わっちゃあもう。ふけえなじみのきゃくじんのように。おもっておりいすから。いいにくいことをもうしんす。 (アキ十九ウ) かならずはらをおたちなんすなえ そりゃあ。ぬしだとって。はじめてこけへきもしなんすめえし。しよけえはこう。にどめはこうだということも。いわずともしれたことでおすが。ここをよくききわけておくんなんし。 ぬしをあなどるじゃあおざんせんが。いつまでもすえながく。きておくんなんすように。そんなことも。なにもかも。そうだんづくにしておくんなんし。 こりゃあわっちが。おたのみざんすよ。 (アキ廿オ) [よしさぶろう]そりやアありがてえおこころざしだね。 しかしまたなんぼわっちらがようなじみったれでも。そうまた。みくびってくんなさるこたあねえよ 〈こころのうちにはうれしさやまやまなれども。わざとひそったことをいう。 たとえきんぎんにふそくなき。まんりょうぶげんのだんなかぶでも。ここは人じゃう。かねづくでなければ。ひとのこころいきはわからぬもの よくをすててかかるけいせい これよりうえのまことはなし。 このおいらんまったく。このきゃくをあなどるにあらず。 ほれた■からは。とんだあどけなくみえて。まだかねのさいかく。なにかのやりくりおぼつかなく。むりなかねのさんだんをさせては。えんのきれるもといと。とんだふかいところまでおもいすごして。かくはいふなるべし。〉 [みちしの]ソレそんなに。わるくききなんすから。いっそじれっとうすはな どうしたらわっちがこころいきがしれいしょう。 (アキ廿ウ) これほどまでにおもっておりいすものを 〈ふとんにかおをおしあてて。ばったりとくしをおとす。 きゃくはかんざしにめをあぶながって。かおをそむけて〉 [よしさぶろう]おめえはでえぶあきないがじょうずだ。 これではけえにこざあなるめえわえ 〈とわざとひぞる。 おいらんだんまりにてかみつく〉 [よしさぶろう]いてえわな [みちしの]それたとって。はらがたちいす。 なぜそんなにうたぐりなんす。 そりゃあゆびをきるのかみをきるのと。よくひとのいうことでおすが。そんなことより。わっちやあ。ぬしがこうだと。いいなんすこたあ。いまでもどうともしいすこころでおすから。よくをすてて。ぬしをよびてえこころいきは。しれきっておりいすものを。 (アキ廿一オ)  じれってえのう 〈とさかづきをとりしがまたしたにおいててをたたく〉 [わかもの]およびなすったああなたかえ [みちしの]きすけどん どうぞひをちっとおくんなんし 〈このうちおいらん。 こだんすよりなにかかみにつつんだものをとりいだし。ひばちのひをかきさがして。ちょうしをかける。 おりからわかいもの。ひをもちきたるを。すぐにひばちへいれさせ〉 [みちしの]きすけどん。 なんどきだへ [わかもの]ひけすぎでござりやす [みちしの]まだようがありいすによ。 もしへひとつおあがんなんし(アキ廿一ウ) 〈とさかづきへついで〉 きすけどん。 ぬしがこよいはちかづきになろうと。おっせえしたが。さっきのとりこみでわすれんした。 もしそのさかづきをあのひとへさしておくんなんし 〈とそでからそでへ。かみにつつんだものを。そっときゃくのてへわたす。 きゃくもいぶかしながら。たもとにて。ひねくりまわしてみればなんりょうふたつ。 さてはとしょうちして [よしさぶろう]あげやしょう [わかもの]おいたたきもうしやしょう 〈とさかづきをてにもちながら。ひたいできゃくのてもとをみている〉 [よしさぶろう]おいおさかな 〈とべつにふところのかみいれよりいちぶだしてやる〉 [わかもの]これはおありがとうございやす。 おいらんよろしゅう 〈とでていき ちかごろとこへいって。わかいものへはなをやるとがはやりものなり。 (アキ廿二オ) わかいものもざしきとちがって。とこでもらえば。だいのものというところを。ちょっとした。ちよづりのさいぐらいにてすますゆえ。すこしでもわかいもののふところへ。みいりのよいようにとのこころづかいなり。 [よしさぶろう]こうしまっておきな 〈とおいらんがよこした。いちぶをほうりだす おいらん。あいさつもせず。うつむいている〉 [よしさぶろう]おめえなぜだまっていなさる。 たかがあれしきのかねがねえかとおもって。いいかげんにひとをやすくしなさるがいいよ 〈とはいふきとんとん。おいらんなおもだんまりにて。すこしめもとうるみてうつむく。 このうちわかいもの。ちょびとしたうすでのはちに。ありあわせのやきたまごと。えびのつけやきにはしょうが。どんぶりに。するがうめのあおづけ。さとうたっぷりとかけて。ひろぶたにのせて [わかもの]もうなにもござりやせん。 みちしのさんおちょうしわへ (アキ廿二ウ) [みちしの]ようすよ [よしさぶろう]これはごちそうだ [わかもの]ははははは 〈おかしくもねえことをわらってでていく。 きゃくてじゃくにてすこしのみ。はしょうがをつまんではのさきにてしゃりしゃりとおとをさせてくう〉 [よしさぶろう]おいらんひとつのみなせえ [みちしの]まあおあがんなんし [よしさぶろう]おめえどうした [みちしの]どうもしいせんがはらがたつてなりいせん [よしさぶろう]なぜだ [みちしの]ぬしのこころいきを。そうとはしらずに。わずかなかねをだして。わっちがこころをさげしまれるが。くやしくってなりいせん。 ほんとうにまた。じつがありいすならば。ちっとはくみわけておくんなんし。 (アキ廿三オ) いちどやにどおでなんしたきゃくじんに。あつかましくこんなことがしられるもんじゃあおっせん。 かねはわずかでもぬしをよびてえこころいきが。あまってのことでおざんすものを。 ぬしをみくびるという。わけじゃあおっせんけれど。あてつけて。ああしなんしたは。わっちがこころをしりなんせぬゆえ。むそくにしられたと。おもいいすりゃあはらがたちいす。 あれもおめえさんに。だしてやっておくんなんしたあいわれず。わっちがてがらやっちゃあわるし (アキ廿三ウ) なぜまた。こよいああするとおもいなんしょうが。あれもああしておきいすと。あしたからでもぬしのとけへ。ふみがやられんすといふものでおすからさ。 もうもうてえてえのおもいじゃあおっせんよ [よしさぶろう]もうもうわっちがわるかった。かんにしなせえよよ 〈ときせるでわきのしたをつつく。 にっこりとしておきあがり〉 [みちしの]なぜこんなきになったのう 〈といやというほどきゃくをつめる〉 [よしさぶろう]こうそれをおいらがしったことか 〈とよぎのえりをひきかぶる〉 [みちしの]しったことでおすよ (アキ廿四オ) 〈とよぎをぐっとまくってぶっつかるようにきゃくのはだへぴったりと〉 こえはくぐもるよぎのうち。 かなえにあらで。けんこうが。ふでもおよばぬこういのじょう。 いえをわすれ。みをわするる。ししょくのみちには。こうせつもろんずべからずと。さくしゃもしばらくふでをやすめぬ ○〈ここにかのねごかしにあいたるきゃく[たくろう] まわしざしきの。うすぐらきあんどうに。かりくびのくすぶるばかり。たばこいれのそこをはたき。よのあけるをまちかね。いちざのざしきをさがしあるき。まこまこしてとりちがへ。よそのざしきへずっとはいり〉 [たくろう]ごんさん。 どうだ もうけえろうか 〈というこえに。くっつきやってねていたりしきゃく。めをさまし〉 (アキ廿四ウ) [きゃく]だれだだれだ 〈というかおをみて〉 [たくろう]これはそそう。 ごめんなせえ [このざしきのあいかた]だれだのう ふけいきな 〈きゃく。ふとんのわき。ある。かみいれをかたよせ〉 [きゃく]おえねえよいよいだ 〈このうちたくろう。こそこそとにげだし。ようようつれのざしきへさがしあたり。のぞきみて〉 [たくろう]ごんさんはここかな [ごんひち]たくじるしか へえんなんし [たくろう]かどちげえをしておおきにしかられた 〈とまくらもとにすわる〉 [ごんひち]たくさんさぞちぎったろう [たくろう]なあにきいてくんねえ。 たなたてをくってとんだめにあったはな。 なじみのきゃくがきたのなんのと。おつうからくって。むしょうにひとをだんごにしゃあがって。そしてかぜのかみでもおくりだしたように。あと@やあかまいつけもしねへ。 (アキ廿五オ) りくつをいうもしっているが。たかがあえつらあ。くぼへやつらだと。こっちでりょうけんつけているも。ここはふんどしのしろくなったおかげだわな [ごんひち]ぜんてえ。いめえましいやてえぼねよ。 おいらもてえげえ。ひやめしをもった。かなじゃくしのように。のろまにされてしまったわな 〈とむしょうにはなすこえにあいかためをさまし〉 [あいかた]もしおゆるしなんし 〈とちょうずにでていく〉 [ごんひち]ざまあみな 〈とわるくいう このうちいまひとりのつれがきたり〉 [りさぶろう]さあしゅったつのしたくにしよう [たくろう]あしもとのあかるいうち。でかけるがよかろう。 したがりさこうばかり。じにしたというかおだ [りさぶろう]なにちゅうぐらいよ おめえたちゃあどうだ [たくろう]おいらあもういのちにべつじょうがねえというばかりで。とんだめにあったあな。 ぜんてえおらあ。ひるばかりあそんでけえろうといったに。りさこうがいたがるから。つきやっていただけむだをした。 このわりは。きこうにもふりかけにゃあうまらねえ [りさぶろう]とんだことをいうわな おめえがなおしていようといいだしたは。 そしてごんさんのつとめはおれがだしているがどうする [ごんひち]これきさまもきたねえことをいうもんだ。 そりゃああとでどうともすらあな。 おいらなんざあ。きのうもこまかたまでのふなちんと。どてのちゃだいをだしておいた [りさぶろう]そりゃあおたげえよ。 たまちでくっただんごのぜには。みんなおれがはらったわな (アキ廿六ウ) [たくろう]こうぬしたちゃあここで。そんなしみったれなことをいうもんじゃあねえ。 ひとがきいたらげえぶんがわりぃ。 そりゃそうと。りさこうそこに。はしたぜにがあらはじゅうろくもんばかりかさっし [りさぶろう]なんにする [たくろう]けえりにたばこをかうわな 〈これもきのうここへくるときはろくじゅうよんのこくぶを。ごもんめかって。いれてきたりしが。かえりにはじゅうろくもんのごもんめなり〉 [ごんひち]さあでかけようでかけよう 〈このうちりさぶろうがあいかた。はおりをもちきたり。きせる。 そとのてやいもてんでにひっかけ。ばたばたとでかける〉 [りさぶろうがあいかた]もしようおいでなんしよ [わかもの]またいらっしゃいませ (アキ廿七オ) 〈さんにんろくろくあいさつもせずたちでる くぐりどぐわらりにのきしたのいぬがめをさまし〉 [いぬ]わんわんわあんわあいわあいわあいわあい ○すでに。けいけんのこえばんこにひびき。しうんひんがしによこたう。 つきだすかねは。ゆとならで。ひとのめをさまし。つげわたるからすのこえは。ろうかとんびとともにおきて。にさんずんれんじをひらき。たばこのひをはこぶ。 ふりしんがあしおとかまびすく。しょうべんじょのげだのおともっともしげし (アキ廿七ウ) 〈はやがえりのきゃくねとぼけごえにて〉 [うた]おとっさんや。おっかさんにしかられて。そんなよはいきで。つまるものかえ 〈みちしのがきゃく〉 [よしさぶろう]ごふぜいにつまった 〈ときせるを。はいふきにてむしょうにたたく〉 [みちしの]とおしてあげいいしょう 〈とかんざしにてほじりぽんぽんとふいて。すいつけさしいだし。きゃくのひざにもたれて。いっぺん。かまで。ゆでられた。といふかおつき。 おおたふさのかつやま。うしろへおうのき。まえがみ。ふたかわめのうえにかかるを。かんざしにてかきあげかきあげただうっとりとしたるかおにて〉 [みちしの]もしえ。なぜわっちやあ。こんなになりいしたね [よしさぶろう]どうしなさった [みちしの]もうもう。なんだか。きがおかしくなって。いっそものをいうちからもおざりいせんよ。 (アキ廿八オ) なぜこんなにしておくんなんした [よしさぶろう]おいらはしらねえわな [みちしの]なあに。ぬしがこんなになさりいしたわな。 ゆうべからのうれしいにひきかえて。けさはおけえりなんすだろうとおもいいすりやあ。かなしくってかなしくってなりいせん。 どうしんしょうね [よしさぶろう]おめえがそんなにいってくんなさると。せんねんもなじんだようなきになって。いっそかえりたくねえきになったが。これでもつまらぬものだ (アキ廿八ウ) [みちしの]それだから。すぐにおいでなんしということもいわれいせん。 もうもういいくろうをもとめんしたよ 〈とかじりついて。きゃくのはなのさきへ。かつやまをこすりつける。 ばいかのにおいにたまらずぐっとしめつけて〉 [よしさぶろう]いっそのくされに。きょうはいようか [みちしの]そりゃほんとうにかえ したが。いなんしてもようすかね [よしさぶろう]いいことはねえが。さいわいおやじは。いなかへいってるすだから。きょうはながしときめてしまいやしょう [みちしの]ほんにこんどからは。おとめもうしいすめえが。きょうばかりはそうしておくんなんし。 (アキ廿九オ) そのかわりごちそうをいたしいしょう [よしさぶろう]そりゃあありがてえね。 ときにきょういるにしちゃあ。やりてやなにかにやるものは。みなやらざあなるめえ。 かねはいくらでもここにあるから。いいようにしてくんなせえよ [みちしの]そりゃのちにいいようにいたしいす [よしさぶろう]ほんにこれみな。ゆうべのいちぶが。まじまじとここいるわな 〈とわらいながらたばこぼんのひきだしへいれんとしてかのひきだしににかみにておりしかいるのあるをちらとみつけて〉 [よしさぶろう]おやなんだえ (アキ廿九ウ) 〈おいらんはっとおもってとりにかかるをふりはなし〉 かいるのせなかに。よひちとかいてあるは。 こりゃあまちびとのまじないだね 〈このさとにてきゃくをよぶまじないに。かみにてかいるをおり。それにきゃくのなをかきて。これへはりをさしておききゃくのきたることをちかって。そのきゃくきたるときはこのはりをぬいて。かいるをながす。 とりどころもなきわざくれながらここがいろざとのじょうなるべし おいらんはかほをあかめてうつむく [よしさぶろう]ゆふべからみんな。 おめえがいいなすったこたあ。うそということがこれでしれた。 おそろしいこころいきだね 〈とかのかいるを。みちしののふところへいれ。きせるたばこいれをしまいおびをしめる〉 [みちしの]ぬしやあどけへおいでなんす [よしさぶろう]どけへいくもんだ。 けえるはな [みちしの]なぜえ 〈とすこしなみだぐむ〉 (アキ三十オ) [よしさぶろう]けえりたくなったからさ 〈とずっといきにかかる とびついてだきとめ〉 [みちしの]まあおまちなんしな。 したにいてわっちがもうしいすことをききておくんなんし [よしさぶろう]なにさこんなに。まじないをしてよびてえきゃくがあるものを。なにおいらがようなものに [みちしの]そりゃあこのわけをおしりなんせんから。そうおもいなんすは。 むりじゃあおざんせんが。このきゃくじんにわっちがほれているの。なんのというわけじゃあおざんせん。こりゃあてえてえ。せわになりいすきゃくじんでおざんすからさ。 (アキ三十ウ) それともぬしのおきがすみいせずは。このきゃくじんをきれいいしょうから。どうぞ。きげんをなおしておくんなんし [よしさぶろう]きれるとって。おいらがついていやあしめえし。それが。あてになるものかえ [みちしの]そりゃあこうしておくんなんし。 こんどそのきゃくじんがきなんしたとき。ぬしのとけへ。おしらせもうしいすから。どうぞきておくんなんし。 そうしいすと。そのきゃくじんをよくじつまでもとめておきいして。つきだすどころをじきに。おめ にかけいしょうわな (アキ卅一オ) [よしさぶろう]そりゃあおおかた。ほかのよいよいきゃくを。そのきゃくだといってか [みちしの]おやごしょうざんす。 ぬしゃあどういえばこういうと。よくじらしなんす。 くらあしいすによ 〈とたたくまねをして。ずっとたち。こだんすより。かんざしをにほんいだし〉 もしへ。こりゃあそのきゃくじんがもってきて。おくんなんしたのでおざりいすから。おみなんし。よのじと。こっちらにみちというじがほりつけておざんすにへ。 (アキ卅一ウ) それだからこういたしいすは 〈とひばちのひのなかへいれ。かんざしのもじのとこをやき。へしおりまげ〉 こりゃあぬしにあげもうししいしょう。 きせるにでもうたせなんし 〈とほうりだす きゃくもこころとけて〉 [よしさぶろう]おめえ。そういってもかわいいこころいきだね。 もういちごんもねえ。 かんにしなせえ。 そのきゃくじんもためになるひとなら。つきださずともいいわな。 あんまりうたぐりすごして。おきのどくなことをした。 そのかわり。かんざしはおいらがせしゅにつきやしょう (アキ卅ニオ) [みちしの]なにようすはな。 ぬしのおこころさへすみいすりゃあ。なんにもいりいせん。 もふもふわっちがこころにゃあじょざいはおざんせんから。かならず。うたぐっておくんなんすなえ。 [よしさぶろう]はいかしこまりました [みちしの]いろいろなことで。きをもませなんすから。いっそくたびれいした 〈とよこになり。よぎをはなのうえまでかぶってきゃくのかおをじろじろみている〉 [よしさぶろう]なんだな。 きみのわりい [みちしの]ぬしゃあもうおかみさんがおざんしょうね [よしさぶろう]なあにまだなしさ (アキ卅二ウ) [みちしの]ほんとうにかえ。 あ ね。 わっちゃあとんだばからしい。ねがいがおざんす [よしさぶろう]なんのながいだ [みちしの]わらいなんすなえ あのひょっと。ぬしのようなほれている。ていしをもちいしたら。ね。おもいれふうげんかをして。みとうすわな。 わっちらがとこのないしょうで。おかみさんがいっそ。りんきふかくて。よくふうふげんかをしなんすが。わっちも。あんなにしてみてえと。うらやましくってなりいせんよ (アキ卅三オ) [よしさぶろう]おめえもへんちきなことをいう。 なにけんかがおもしろえものか [みちしの]けんかは。おもしろくもおざりいすめえが。そのあとで。またいっしょにねて。なかなおりのときは。さぞたのしみでおっしょうね 〈とかおにそでをあてる〉 [よしさぶろう]そんなら。これからけんかをしようか [みちしの]さあいたしいしょう 〈とひきよせてほそきてもおるるばかりだきしめる。 このみちしの。いたってはつめいにて。ばんじにしょさいなきしろものなれどもまたここらのあどけなきことをいう。 ここがけいせいのじょうにてせんりょうのねうちのところなり (アキ卅三ウ) いちざのきゃく〉 [ふうすい]どうだよしさんもうけえりやしょうか 〈とはいりまくらもとにすわる〉 [みちしの]きょうはとうりゅうをしなんすとさ [ふうすい]よしさんほんにか [よしさぶろう]おいらんがごちそうをするから。いろとってさ [ふうすい]そりゃあおおかた。ごちそうはしよう。 ぜにはそっちでだせといいなさるのだろうから。こうしやしょう。 おめえとたったふたりで。いけすへでもめえりやしょう [みちしの]おやにくらしいのう 〈とこのうちふうすいがあいかた〉 [とこなつ]ぬしゃあばからしい。 そこらじゅうをたずねいしたはな (アキ卅四オ) 〈とはいってよしにむかい〉 きょうはおんとうりゅうざんすかね 〈といいながらよしがかおをみてわらい〉 みちしのさんそうでざんすよ [みちしの]もうそれだからうれしゅうおざんすよ 〈とかおをかくしてわらう これはこのよしがいぜんのきゃくによくにていることをゆうべよりはなしやいたることなればなり〉 [ふうすい]なにがうれしいかわからねえ [とこなつ]ぬしたちのような。いいおとこがきておくんなんしたから。それでみちしのさんも。わっちもうれしいということざんす [ふうすい]おきゃあがれ。そりゃあゆうべのきゃくのことか。 こうみちしのさんきいてくんねえ (アキ卅四ウ) ゆうべとうすいさんとやらいういろおとこがきて。おおさわぎよ 〈とうすいといふはこのとこなつがきゃくにておやじなり わざとからかっていろおとこという〉 [とこなつ]あいそうさ。 そりゃあおめえさんよりかあとうすいさんがよっぽどいいおとこざんすものを。 そのはずのことでおざんす 〈じょろうもわざとからかっていう〉 [ふうすい]ほんにそうよ。 どんないいおとこだかみてやろうとおもって。ふすまのあいだからのぞいてみたら。とこなつさんかほれたも。むりはねえおとこよ。 なんのこたあねえ。 くらのかべにかいてある。おやだまがよこむきのにつらという。やせこけたおやぢよ。 (アキ卅五オ) なにが。とこなつさんがそのおやぢのひざへいきなりにもたれると。どうちゅうすごろくのとらがいしをだかへたように。このずうてえを。しなびたうでで。とやっていたわな [みちしの]よくいわっしゃるよ [とこなつ]さあにありゃあ。うそざんすはな。 とうすいさんはてえてえいいおとこじゃあおざんせん。 それだから。そのほうへばかりいっておりいして。ぬしひとりを。ねごかしにしておきいした いいきみざんす。 (アキ卅五ウ) そうしたらおききなんし。 いっそはらをたって。さけをむしょうにおあがんなんして。しめえにゃあ。ろうかへだいのじなりになって。ねていなんしたわな [ふうすい]なにだいのじなりになるもんだ。 た(@)のじなりだ [とこなつ]た(@)のじなりたあへ [ふうすい]はてこうてあしをおっぴろげると。だいのじだが。そのしたに。これみなちよっぽりと。ここにてんがあるから。た(@)のじなりだ。 それもこのてんがどうかすると。ぐっとながくのびることがある。 (アキ卅六オ) そうするときのじなりよ。 そこで。きのようになったといいやす。 なんといわれをきけば。ありがたかろう [みちとこ]おほほほほほほほ [ふうすい]まずおいとまいたしやしょう [みちしの]もつとおはなしなんしな [ふうすい]いやあげやまちのゆにでもへえってこよう。 [とこなつ]うちでおへえりなんしな [ふうすい]いやなまがいをしおでもむように。れいこくをごしごしとやったゆはおそれやすよ [とこなつ]にくらしいのう 〈とつれだちてでていく〉 (アキ卅六ウ) ことはざにいはくけいせいのまことは。うそのかわ。 うそはまことのほね。 ばんかくなむるくちべにの。こいもあり。うすいもあり。 いちがいにはろんずべからず。 さきにまじないのかいるは。きゃくをまつのけっこうなりと。 からくにのこうせんせいがかいるとなって。しょうかつもんにばげんをまちたるためしにもあらず。 またひよくもんのかんざしをとりそのしそうをあらわすこと。きょうこうごうがいしょうをしゃし。かんざしをぬきて。せんおうにほうずる。 (アキ卅七オ) そのしいせいをならべるにもあらさるべけれど。おのづからそのえいせきにあずかること。じつにいっしょうするにたえたり。 なおちょうすうをかさぬるに。いとまなければ。よはこうへんにゆずりて。あいおもうこのりょうしのゆくすえをしらせまいらせんことをねがうのみ (アキ卅七ウ) ----------------------------------------------------------------- 《注》 JISコードにない漢字 ・アキ24ウ2 @=さんずい×冥 ・アキ24ウ2 @=さんずい×幸 ・アキ25ウ2 @=に×濁点 洒落本大成との異同 ・アキ7オ7「このます」→大成13下15「このまず」 ・アキ8オ8「こ+しやア」→大成14上13「こ+じやア」 ・アキ10オ3「いるのた」→大成15上3「いるのだ」 ・アキ10オ7「なんさんすへ」→大成15上7「なんざんすへ」 ・アキ12オ1「おめへかた」→大成15下13「おめへがた」 ・アキ13オ6「さきほと」→大成16上13「さきほど」 ・アキ13オ6「しんそう」→大成16上13「しんぞう」 ・アキ13ウ1「すいから」→大成16上16「すいがら」 ・アキ14ウ5「づまみぐひ」→大成16下17「つまみぐひ」 ・アキ15オ6「しかたかねへ」→大成17上8「しかたがねへ」 ・アキ15オ8「めうたい」→大成17上10「めうだい」 ・アキ16オ5「さしき」→大成17下4「ざしき」 ・アキ17ウ8「といふは」→大成18上11「といふは。」 ・アキ18オ1「なれ共」→大成18上12「なれ共。」 ・アキ18オ2「していてうつり」→大成18上13「している。うつり」 ・アキ18ウ7「つめりやい」→大成18下8「つめりやい。」 ・アキ19オ8「くるたんか」→大成18下16「くるだんか」 ・アキ20ウ4「ひそつた」→大成19上16「ひぞつた」 ・アキ20ウ5「けいせい」→大成19上17「けいせい。」 ・アキ20ウ5「ほれた■」・・・「ほれたみ」か、不明→大成19下1「ほれた目」 ・アキ20ウ8「はな」→大成19下3「はな。」 ・アキ20ウ8「どふしたら」→大成19下4「どふしたら。」 ・アキ21オ5「それた」→大成19下8「それだ」 ・アキ21ウ1「心て」→大成19下12「心で」 ・アキ21ウ4「喜助どん」→大成19下14「喜{き}助どん」 ・アキ22ウ1「やるとが」→大成20上8「やることが」 ・アキ22ウ3「ほうりだす」→大成20上10「ほうりだす。」 ・アキ22ウ3「うつむいている」→大成20上11「うつむいてゐる」 ・アキ22ウ8「何も」→大成20上15「何{なに}も」 ・アキ23オ2「手しやく」→大成20上17「手じやく」 ・アキ25オ2「わき。ある」→大成21上14「わきにある」 ・アキ25オ3「さしき」→大成21上14「ざしき」 ・アキ25ウ2「跡に(濁点)やア」→大成21下3「跡じやア」 ・アキ25ウ5「おかげた」→大成21下6「おかげだ」 ・アキ25ウ8「て+行」→大成21下10「で+行」 ・アキ26オ1「つれか」→大成21下10「つれが」 ・アキ26オ5「別条{べづてう}」→大成21下14「別条{べつてう}」 ・アキ26ウ2「権{こん}さん」→大成22上2「権{ごん}さん」 ・アキ26ウ3「いるか」→大成22上3「いるが」 ・アキ26ウ3「コレ」→大成22上3「コウ」 ・アキ26ウ4「跡{あと}て」→大成22上4「跡{あと}で」 ・アキ26ウ5「とふ」→大成22上4「どふ」 ・アキ27ウ1「犬が」→大成22上15「犬か」 ・アキ27ウ7「喧{かまひ}すく」→大成22下3「喧{かまび}すく」 ・アキ27ウ8「下駄{げだ}」→大成22下3「下駄{げた}」 ・アキ28オ5「大たふさ」→大成22下9「大たぶさ」 ・アキ30オ3「置客」→大成23下2「置。客」 ・アキ30オ4「なるべし」→大成23下3「なるべし。」 ・アキ30オ6「心いきた」→大成23下5「心いきだ」 ・アキ30ウ1「なみだ」→大成23下7「なみた」 ・アキ33オ1「ア ね」→大成24下8「アノね」 ・アキ33オ4「なへ」→大成24下9「なへ。」 ・アキ33ウ6「仕よふ」→大成25上2「仕{し}よふ」 ・アキ33ウ7「引よせて」→大成25上2「引よせて。」 ・アキ33ウ7「たきしめる」→大成25上3「だきしめる」 ・アキ34オ7「ても」→大成25上9「でも」 ・アキ34オ8「そこらちう」→大成25上11「そこらぢう」 ・アキ34ウ7「おきやアかれ」→大成25上17「おきやアがれ」 ・アキ35オ2「いふは」→大成25下2「いふは。」 ・アキ35オ2「とこなつか」→大成25下2「とこなつが」 ・アキ35オ2「にて」→大成25下2「にて。」 ・アキ35オ2「也」→大成25下3「也。」 ・アキ35オ4「さんす」→大成25下4「ざんす」 ・アキ35オ7「とこ夏{なつ}さんか」→大成25下7「とこ夏{なつ}さんが」 ・アキ35ウ1「につら」→大成25下9「にづら」 ・アキ35ウ5「サアニ」→大成25下12「ナアニ」 ・アキ35ウ8「した」→大成25下15「した。」 ・アキ36オ1「大のし」→大成26上1「大のじ」 ・アキ36オ7「太の字{し}」→大成26上5「太の字{じ}」 ・アキ36ウ3「[道とこ]」→大成26上8「[道|とこ]」 ・アキ36ウ8「つれたちて」→大成26上13「つれだちて」 ・アキ37オ2「口紅彩」→大成26上15「口紅粉」 ・アキ37オ8「皇后{くはうこう}」→大成26下1「皇后{くはうごう}」 ・アキ37ウ1「簪{かんさし}」→大成26下2「簪{かんざし}」 ・アキ37ウ2「あらさる」→大成26下3「あらざる」 ・アキ38オ~アキ40ウ 該当跋文なし→大成27 よみ不明箇所 ・序アキ五ウ 極上@:「く」か? ・アキ6ウ むはで(@)→結(む)はで:「むすばで」か? ・アキ36オ4、5、7 たのじ→前後の「大の字」との文字遊戯。一応「太」を「タ」とよんでおく。