一文塊 凡 例   筑紫方言の左横に添えられた江戸語は【 】でくくって示した。   傍線のつけられた促音、撥音、拗音は、≪ ≫でくくって示した。   紋・印・花押は△で示した。曲節記号は可能な限り忠実に翻刻したが、不可能な箇所はもっとも近い文字(例:z)で表わした。   歌の三重は▲で示した。   「様」の合字は◆で示した。   漢文のレ点は、「レ」(かぎかっこ付きのレ)で示した。   三行書きは★< >で示した。 ------------------------------------------------------------------------ 廓滑稽一文塊(見返し) 序 問屋へ送る富士の山はみかんかごにたんまれり (丁付なしオ) 作者金太楼先生田舎人形を作りふじより高き雲のうへまて (丁付なしウ) もさひかせ廓{さと}の妙{たへ}なるうろたへをたへなる史にあらはし名を一文塊といふ (丁付なしオ) 文化よつの卯のとし試筆 ともくに △△ (丁付なしウ) 金太楼あらはす こゝろあらん人に見せばや津国{つのくに}の大坂は。自然{おのづから}日々{ひゝ}に千艘{ぞう}万艘輻輳{ふくそう}して。交易{かうゑき}をなし。且{かつ}諸国{しよこく}に財{ざい}を送{おく}り貨物{くわぶつ}を聚{あつめ}て市{いち}をなす。 其繁昌{そのはんじやう}今更{さら}いふも愚{おろか}なり。 かゝる所{ところ}をまだしらぬ火{ひ}のつくしに御坐{こざ}ツた荷主{にぬし}三五兵衛なるもの。西濱{にしばま}の問丸{といや}に逗留{とうりう}して。大坂の名所{めいしよ}/\を伴当{てだい}が案内{あんない}にて方々{ほう/\}と廻{めく}り。薄暮{くれかた}に旅宿{りよしゆく}に戻{もど}りて (上ノ一オ) [三五兵へ]おやつと【御くらう】でござい申ス。 身{み}もだれ【くたびれ】申た <問{とい}屋の旦那{たんな}万蔵門{かと}口へ出迎{でむか}ひて> [万蔵]これは/\おはやいおもどり。先{まづ}々奥{おく}へ。お従奴{とも}のも勝手{かつて}でおやすみ [八右ヱ門]ヤヽ【ハイ/\也】 <ト三五兵ヘが僕{とも}八右ヱ門勝手{かつて}へゆく。万蔵は三五兵へを奥{おく}へともなひて> [万]扨{さて}三五兵衛様{さま}。 今日はおくたびれで御坐{ざ}りませふ [三]さち/\【扨々】きう【けふ】は。あんがい【あちら】。こんがい【こちら】。さるき【あるき】申たが。道頓堀{どうとんぶり}のしばや【芝居】は。あした【明日】つふは何{なん}の狂言{きやうげん}をし申ス (上ノ一ウ) [万]爰元{こゝもと}では同{おな}じ狂言{きやうげん}をいつまでもいたします [三]同じ狂言{きやうげん}を。しちより申ても。見{けん}物はあり申スか [万]ハイ/\。毎日{まいにち}/\おなじ人は観{み}にゆきはいたしませぬ [三]さち【さて】/\廣{ひろ}か所{ところ}。きう【けふ】もよか火{ひ}【やいと】を。し申ス方{かた}の看板{かんはん}に。此よか火{ひ}【やいと】をすれば。忽{たちまち}死{し}する事妙{みやう}なりと書{かい}てある。 都{みやこ}の地{ち}といふものは。つい死{し}ね申ス事も。じゆう【自由】ざり申スか [万]イヤそれは。ぢする事妙{みやう}也と書{かく}を。しするとかきあやまりのうへに。濁{にご}りまでおとして置{おき}ました。 (上ノ二オ) 麁相{そさう}な灸{きう}屋で御坐ります <此間に問{とい}屋の女房{にようぼう}は夜食{やしよく}の膳{ぜん}を持{もち}出て> [女ぼう]モシ今日はおくたびれ遊{あそ}ばしたで。御坐{ざ}りませふ。まづ御膳{ぜん}おあがり [三]何ニ{なに}ぜんを。くへといひ申スか [万]イヤ御飯{はん}よろしうおあがり [三]ヤヽ【ハイ/\也】。是{これ}は御世話{せわ}で。ござい申ス <ト汁{しる}のふたをとりかゝりて> [三]ンニヤ/\。此汁{しる}は。たもり申まい (上ノ二ウ) [万]なぜにで御坐{ざ}ります [三]きう【けふ】。町{まち}をさるき【あるき】申たが。どじやう釘{くぎ}。すつぽん針{ばり}と。行燈{あんどん}にかいてあるで。これの二才{さい}【手代】殿{どん}に。何{なに}かと聞{きゝ}申≪しや≫ア。汁{しる}の事で。これの御亭{ごてい}はすさまじひ。すき申スと聞{きゝ}申た。 モシ此汁{しる}が。どじやう釘{くぎ}。すつぽん針{ばり}どもでござい申せば。はらほげ【腹にあなあけ】申ては。なり申さぬ [万]是{これ}はそでつもない事仰{おほ}せられます。 それは。どじやう釘{くぎ}では御坐{ざ}りますまい。 (上ノ三オ) 汁{しる}の字{じ}の扁{へん}を。金扁{かねへん}にかきあやまり。ましたのでござりませふ [三]何{な}ニじやか。町小便{まちせうべん}じやの。曲物所{くせものどころ}じやの。 イヤ眼玉{めだま}しかへ所が有{あれ}ば。又顔{かほ}の仕かへといふて。さるき【あるき】申スやら。さち【さて】/\ 。繁華{はんくわ}な所で。ぐざり申ス [万]先々{まづ/\}御飯{はん}はお気遣{きづか}ひなされずと。よろしうおあがり。 扨{さて}今晩{こんばん}は。かの新町{しんまち}へお供{とも}申ましよ [三]ヤヽ。お国元{くにもと}へ。物{もの}ばなしの。たねにし申ス。 (上ノ三ウ) あれ【そなた】と罷{まか}り申そ <ト飯{めし}もしまひ。風呂(ふろ)へも入りて新町行{しんまちゆき}の出立{いでたち}には。茶{ちゃ}の琉球嶋{りうきうじま}の袷{あはせ}に。黒縮緬{くろちりめん}のひとへ羽織{ばをり}。紋{もん}所はのりやのかんばんのごとく。柄(つか)みじかき佩刀{わきざし}をよこたへ。今宵{こよひ}を曠{はれ}と男{おとこ}をしたてたり> [三]御亭{ごてい}。なんとそろつかい【そろ/\】ひんで【出】申そふ。 [万]サア/\おしたくがよくば。参{まい}りましよ [三]ヨイ。八よ [八]ヤヽ。          <ト奴{やつこ}いで来る> [三]わが【そち】も。つるゝで。ずいぶん麁相{そさう}のないやうに。し申せ [八]ヤヽ。身{み}ども都{みやこ}はつで。ござい申せば。よか事御亭様{ごていさま}。頼{たのみ}あげ申で。ござい申ス [万]是{これ}は/\ 御叮嚀{ていねい}。 (上ノ四オ) サア/\お出なされませ           [三]ヨイ。かゝさま。ねんの。いりやれよ [女ぼう]モウお出{いで}なされますか。 私方{わたくしかた}の旦那{だんな}は酒{さけ}がすぎますと。とんとたわいで。もし失礼{しつれい}が御坐{ざ}りましては。申わけがござりませぬ。 どふぞすごされぬやうに。憚り{はゝかり}ながらお頼{たのみ}申ます [三]何{なに}がわりや。 身がちへのふて【つれだちて】。まかる【まいる】に。大酔{おほゑい}ぐらひは。ござい申さぬ [女ぼう]左様{さやう}ならおしづかに [三]ヤヽ。戻{もどつ}て。あい申そふ (上ノ四ウ) <ト三人は問屋を出て道々> [三]御亭{ごてい}。 新町の太夫{たゆふ}は。揚代銀{あげだいぎん}な。なんぼ/\か [万]太夫は六十九匁でござります [三]アノ夜{よ}ひとひが [万]左様{さやう}/\ [三]直引{ねびき}はござい申さぬか [万]イヤ揚代{あげだい}はお定{さだま}りで御坐{ざ}ります。 其外{そのほか}倡妓{おやま}歌伎{げいこ}幇間{たいこもち}の事は。みをづくし。と申本に委細{いさい}にかいて。御坐{ざ}ります。 おなぐさみに取{とり}よせて。御覧{らん}なされませ [三]左様かナ (上ノ五オ) 挿絵 (上ノ五ウ) 挿絵 (上ノ六オ) <ト此内に西口{にしぐち}の井戸{ゐど}の辻{つじ}に来{きた}り。 井戸がわに行{ゆき}あたりて> [三]≪ほつ≫≪しや≫う【あきれた事】やれ。 辻にみづ風呂{ふろ}が。うつせてある。 八ヨ。 もどりに湯{ゆ}どもひいて。だれ【くたびれ】をやめよね [八]ヤヽ [万]是{これ}から砂場{すなば}のうどんそばへ。お供{とも}いたしましよか [三]御無礼{ごぶれい}ざれども。姉女{あねぢよ}どもを。はやふ見たふして【見たふて】。のし【なり】申さん [万]さ様{やう}なら。明晩{めうばん}の事になされませ <三五兵へは髭油{ひげあぶら}の行灯{あんどう}を見付て> [三]なに髭油{ひげあぶら}。 又こんがい【こちら】に。くれは紅粉{へに}。 八ヨ さち【さて】/\廣{ひろ}か所。 (上ノ六ウ) 髭{ひげ}に油{あぶら}を。ひんなするやら。 たゞでくれはべにといふ。 行燈{あんどん}が出{で}≪ちよ≫り申スが。これよりうへ安{やす}ひ。べにはござい申スまい <此うちに西{にし}口の門{もん}へくると。鮓店{すしみせ}や。さつま芋賣{いもうり}が。声々{こゑ/゛\}に> [すしや]こけら鮓{ずし}がアヽむまいいこつちやぜ引/\ [いもや]ぬく/\がほつこり/\ [三]ヨイ御亭{ごてい}。よけて通{とを}り申せ。 ほこり【埃】/\といひ申ス。 アノ釜{かま}の中から。ほけ【ほこり】の出るを。見{み}やい申せ [万]イヤあれは芋{いも}を蒸{むす}湯気{ゆげ}で。御坐{ざ}ります (上ノ七オ) [八]ンニャ/\。そんでも。こんがいな【こちらの】二才が。こけらくずで。あぶない。≪こつち≫やと。いひ申ス [万]ハ/\/\/\此門{もん}からが新町{しんまち}でござります。 イヤ三五兵衛様{さま}が。どつちへか見へぬ。三五兵衛様/\ [三]イヤ身は。しうべん【小べん】の。≪ばつ≫ちおる <ト三五兵へは小便{せうべん}しながら。風与{ふと}見た所が番所{ばんどころ}ゆへ。恟{ひつく}りして。おづ/\番所の前{まへ}へ手{て}をついて> [三]これは御やくじよ【役所】まへとも。ぞんじ申さで。麁相{そさう}し申た。 (上ノ七ウ) おゆるし≪やつ≫て。たもり申せ <番人{はんにん}はがてんゆかねど惣{そうじ}て他所{たしよ}の倡伎{おやま}。門{もん}を出{で}入のとき。その所を断{ことは}るなり 番{ばん}人は其{その}事かと心得{え}て。堀江{ほりえ}かとたづぬる> [番]江州{ごうしう}かナ [三]イヤ九州{きうしう}で。ござい申ス <万蔵はこれを見付て大にあきれ> [万]モシ何{なに}をして御坐る。外聞{ぐわいぶん}のわるひ <トひつたてて行{ゆく}> [三]ヨイ御亭{てい}。 行燈{あんどん}がふとかこと【大ぶん】。ござい申スが。ひの元{もと}や。かつをや。いつゝや。肥{ひ}の国{くに}や。たい十。呉{くれ}はしや。ト書{かい}てござい申スは。みな其{その}家々{いゑ/\}の苗字{めうじ}で。ござい申スか [万]左やう/\ (上ノ八オ) [三]また白{しろ}ひ行燈{あんどん}が。ござい申スが。火どもわるひ方{かた}かの [万]イヱ/\これは轡屋{おきや}で御坐ります [三]さち【さて】/\。大坂は広{ひろ}か所。質{しち}屋がござい申せば。おきやもござい申スか [万]これは妙{みやう}じや。 ハヽヽヽヽヽヽ <かつをやの二階{かい}には拳{けん}がはづむと聞{きこ}へて> スムユ。 サンナ。 チヱイ。 ヲヽ。 [三]≪ほつ≫≪しや≫ふ【あきれた事】やれ。 此二かいに。ものいさかひか。たゝき合{あひ}申ス蔭{かげ}を。見やい申せ [万]イヱ/\あれは拳{けん}を打{うつ}ので。ござります (上ノ八ウ) [三]成程{なるほど}。かつをやのけんな。鱠{なます}につかひ申スで。ござい申そ [万]ハヽヽヽヽ お国{くに}のは一拳{いつけん}で御存じじやに。洒落{ちやり}を仰{おほせ}られます [八]ヨイ旦那{だんな}。 左{ひだ}リに入リ申ス方{かた}の行燈{あんどん}に。飛{ひ}八。夏{なつ}八。葉{は}吉と。ことろし【大ぜい】な。人{にん}じゆの苗字{めうじ}のある家{いえ}どもで。ござい申ス <トたいこ店{みせ}の行灯{あんとう}を見て。あきれていると。巾着切{きんちやくきり}が八右ヱ門の首筋{くびすじ}へ。小石{こいし}をちよいと入ると。奴{やつこ}はつめたさに身{み}をふるはし。びつくりして> [八]≪ほつ≫≪しよ≫ふ【あきれた事】やれ。あれぞ/\ <とうろついている所を又小石を入れる> ヤレ/\。 ひやかなもの/\。 <トつめたい石{いし}を。骸{からだ}をちいそふしたり。いろ/\とわる身{み}をして下{した}へぬかしてしもふひやうしに。奴{やつこ}が所持{しよじ}の財布{さいふ}も一しよに落{おつ}るを。巾着切{きんちやくきり}は手{て}ももらさず。財布{さいふ}をしめこのうさぎとする (上ノ九オ) ○九軒{けん}の方{はう}から禿{かぶろ}たい吉△此紋{もん}の箱挑灯{はこちやうちん}を提{さけ}た高須磨{たかすま}やの男と歌を唱{うたふ}て [かぶろ]歌△ちらと見{み}そめしお組{くみ}がすがた。 とふで一度{ど}は忍{しの}ばにやならぬ。 しのびぞこのてもし顕{あら}はれて。長{なが}ひ刀{かたな}で切{き}らりよとまゝよ。 ほつとけ/\/\ヤ [八]ヨイ和子{わこ}【子ども上りをいふ】。一時{いつとき}あかりを。見せてたもれ [おとこ]アイ/\ <ト箱挑灯{はこちやうちん}を奴にかす> [八]ハテめんやうな事で。ござい申ス。 今{いま}爰{こゝ}でやくたい【さいふ】に。せん【銭】の入レて。あやし【おとし】申たが (上ノ九ウ) <トうろ/\さがす> [おとこ]何{なに}をいふやら。 気違{きちが}ひじやそふな。 ヲイこちは急用{きうよう}じや <トちやうちんをひつたくりゆく 此内{うち}に禿{かぶろ}たい吉万蔵を見付て> [かぶろ]万さんどこへ行{ゆき}なます [万]たい吉か。 今夜{こんや}はお客{きやく}のお供{とも}で。いつゝへゆくが。そちの太夫主{たゆす}は [かぶろ]けふは高須磨{たかすま}やの約束{やくそく}でおます <ト聞{きゝ}て万蔵禿{かぶろ}に何{なに}かさゝやくと> [かぶろ]<うなづき> モシ早{はや}う。いつゝへゆきなんで <トいひすてゝ先{さき}へゆく男{おとこ}をよびて> 専{せん}吉どん。 待{まち}なんで引 <ト走りゆく> (上ノ十オ) [八]此くらずみ【くらがり】で。さぐらるゝものか [三]ヨイ八。 わが。何{なに}を≪しち≫よるかい [八]やくたいの【さいふと】。せんの【せにを】。あやし申た【おとしました】 [万]それは大かた。巾着切{きんちやくき}リが取{とつ}たのでごんしよ [八]アノ巾着切リが。やくたいでも切{きり}申スか [万]切ルとも/\。 紙入{かみいれ}レ印籠{いんらう}。たばこ入レ。なんでも当{あた}り次第{しだい}に。切るじや [八]さち【さて】/\広{ひろ}か所{ところ}。 巾着切リと申スから。巾着{きんちやく}ばかりと。おもや。やくたい【さいふ】まで切{き}リ申ス [三]ヨイ。 (上ノ十ウ) 八ヨ。最早{もはや}さぐらずと。はからいこと/\【よしにせい/\】 [八]ヤヽ <ト通{とを}りすぢを東{ひがし}へさして行{ゆく}と。奴{やつこ}は軒下{のきした}の干店{ほしみせ}やを見付。こはふしぎやな。紙{かみ}入レ。巾着{きんちゃく}。印籠{いんらう}。たばこ入レ。あるひは財布{さいふ}。きせる筒{づゝ}何やかやならべたてゝあるゆへ。扨{さて}はこいつ巾着切リなりと心得{こゝろえ}。奴はいかりの眼色{がんしよく}にて。干店やをひつとらへ> [八]こな。ぬすと【盗人】。 諸事{しよじ}加事{かじ}な。すどもの【ぬすみもの】を。ならぶるからは。身{み}がやくたいも。わがの【われが】。おつとつたであろ。 身{み}どもに渡{わた}せ <干店{ほしみせ}やは思{おも}ひもよらず。とらへられそのうへに。盗人{ぬすびと}といふに大きに腹{はら}をたてゝ> [干みせ]この奴{やつこ}の。ド気違{きちが}ひめ。 おれをぬす人じやと。ぬかしあがつたぞよ (上ノ十一オ) <ト奴を叩{たゝ}きかゝる> [三]ヨイ二才{さい}。 そふするな/\。 [万]ヤレまたんせ/\ <ト両方{りゃうほう}へ引わけて> コレ八右ヱ門殿{どん}。 めつそふな事をいふ人じや。 此人は売物店{うりものみせ}じや/\ <トいへど合点{がてん}せず> [八]身{み}が。やくたいをだせ/\ <トいふを万蔵三五兵へに。わきへつれてゆけとしかたでしらすと。三五兵へさし心得{こゝろえ}。奴をかたわきへつれてゆく。 万蔵は早速{さそく}の智恵{ちゑ}をいだして> [万]コレ干店{ほしみせ}やさん。 是{これ}はゑらい間違{まちがひ}じや。 アノお人がたは西国{さいこく}がたじやが。お国{くに}では盗人{ぬすびと}の異名{いみやう}を。干店{ほしみせ}といふじや。 (上ノ十一ウ) コリヤ店{みせ}にあるものを。ほしそふな。つらつきじやと。いふ事じやげな [干みせ]フン [万]又大坂での干店{ほしみせ}は。あの方{ほう}で。巾着切{きんちやくき}リといふじや。 これは代物{しろもの}を安{やす}うまけてうり。巾着{きんちやく}の底{そこ}を。たゝかせるといふ事で。巾着切゛といふげな [干みせ]フウン [万]扨{さて}。アノ奴{やつこ}どのが。今{いま}の先{さき}財布{さいふ}をとられ。腹{はら}をたてゝいる所に。何心{なにごゝろ}なふ貴◆{きさま}の店{みせ}を見て。おれが干店{ほしみせ}があるといふたを。奴{やつこ}どのが。ぬす人と心得{こころえ}て。今のやうにいふたのじや [干みせ]ハアン [万]奴殿{どん}も気{き}が付て。身{み}がやくたい/\と。あやまれるから。了簡{れうけん}しなんせ [干みせ]何{なん}といひなんす。 奴{やつこ}が国{くに}では盗人{ぬすびと}を。干店{ほしみせ}といひ。又大坂での干店は。奴が国では巾着切{きんちやくき}リといふかナ [万]其通{そのとを}りの間違{まちが}ひじやほどに。了簡{れうけん}したがよい [干みせ]コラ奴め。おれは干店じやない。巾着切リじやぞよ [三]ヤヽ。 是{これ}は/\。 (上ノ十二ウ) 家来{けらい}が麁相{そさう}まふいた。 巾着{きんちやく}切リ様{さま}。 ごめん/\ [干みせ]ゑいわい。 了簡{れうけん}してこまそ [万]そんなら。巾着切リさんの御了簡がついたか。 先々{まづゝ}めでたい/\ [三|八]巾着切リさま。 おわかれ申ス [干みせ]<ハイ/\>。 しづかに行{ゆき}なされ <ト干店屋にわかれこゝを行過{すぎ}て> [三]さち【さて】/\我{が}をれ。身{み}が国は勿論{もちろん}。日本国中{にほんこくちう}にない事を。御亭{ごてい}の智恵{ちゑ}で。八か麁相{そさう}の難{なん}の。のがれ申た <奴ももはや合点{がてん}行たれば> [八]さち【さて】/\馬鹿{ばか}な。物{もの}うり殿{どん}で。ござい申ス。 (上ノ十三オ) あたまの一ツや二ツ。ひんなぐつても。御亭{ごてい}の智{ち}恵では難{なん}ののがれ申スに [万]甘{あま}ひやつでごさります。 一盃{ぱい}くらわせました [三|八]<ハヽヽヽヽヽヽ ワハヽヽヽヽヽヽ> [三]<ヨイ/\。> 格子{かうし}の内に。美{うつくし}ひわが嫁女{よめぢょ}【女郎の事】。たくさん。ひんならんで居{い}申ス [八]ヤヽ。 あんがいにも【あちらにも】。きらつ【きらり】と。≪しち≫より申ス [三]ヤア。 其向{そのむかひ}にも。ことろし【大ぜい】な。人衆{にんじゆ}の姉{あね}女たちが。居申ス [八]ヨイ。 (上ノ十三ウ) 御亭{てい}様。 これは女郎{ぢよらう}やの看板{かんばん}で。ござい申スか [万]<イヤ/\> これがかの。店付{みせつき}女郎といふのじや <三五兵へは是を聞{きい}て> [三]フウン <トしばらくうちながめ。思案{しあん}のてい> なるほど/\。 豆{まめ}をつぶすといふ心で。味噌搗{みそつき}と名付{なづけ}たもんで。あり申そふ [万]<イエ/\。> みそ搗{つき}ではござりません。 店{みせ}つきござります [三]左様{さやう}かナ <ト此うちに。向{むか}ふから天神{てんじん}の女郎弐三人。禿{かぶろ}をつれて。クワラリ/\の下駄{げた}の音{おと}に三五兵へは打詠{うちなが}めて> 今{いま}の。ひんならんで居{い}申シたが。店付女郎で此姉女達{あねぢよたち}は大かた。うろつき女郎。 (上ノ十四オ) 又うそつき女郎も。あり申そふ [万]ハヽヽヽヽヽヽ 東口{ひがしぐち}の門{もん}へさんじました [三]是{これ}より向{むか}ふへ。≪ひや≫いと行{ゆき}申シても。遊{あそ}び所{ところ}が。ござい申スか [万]これは御尤{もつとも}。 今宵{こよひ}初{はじ}めてのお出{いで}ゆへ。新町橋{しんまちばし}の夜店{よみせ}を。お目にかけませふと存{ぞんじ}まして [三]左様{さやう}かナ。 何ニ虎{とら}の看板{かんばん}歟{か}。 さち其{その}むかひは <ト脹質{はりかた}屋にならべたてたるを見て。大きに肝{きも}をつぶし> [三]ヨイ八ヨ。 あれ見{み}やい申せ (上ノ十四ウ) [八]ヤヽ。 <トこれも見てびつくりして> ≪ほつしやう≫【あきれた】やれ。 これは≪リヤン≫【男のしろ物】/\の切{きり}うりで。ござい申スか [三]ンニヤ/\。 ありやア。密夫{まおとこ}の獄門{ごくもん}で。あり申そふ [八]さ様{やう}かナ [三]さち又。これは。やよ【ばゝ】が瓢{ふくべ}をもちよる人形{にんぎやう}が。出{で}ちより申ス。 分{わか}り申た/\。 虎{とら}の看板{かんばん}の出{で}ちよるは。和藤内{わとうない}どんて。これは母女{はゝぢよ}の御隠居{いんきよ}の。かんばんと見へ申ス [万]<イエ/\。> 虎{とら}は千里も匂{にほ}ふ鬢付{びんつけ}油屋。 (上ノ十五オ) こゝは米饅頭{よねまんぢう}やで。ござります [三]さ様{やう}かナ <ト新町ばしの西づめにいたれば。往来{わうらい}の人大ぜい立{たち}どまり。芝居{しばい}の看板{かんばん}や。開帳札{かいちゃうふだ}を。髪結床{かみゆひどこ}の明{あか}りにてながめ入り> [道行人]何{な}ニ々五十日が間{あいだ}。大ゆふじ開帳{かいちやう} [三]ヨイ若{わか}イの。 五十日が間。太夫を買{かい}申スといふ。標?{たかふだ}で。ござい申スか [道行人]<イエ/\>。 大ゆうじといふ寺{てら}で。五十日が間開帳有ルのじや [三]ンニヤ/\。 そんでも其{その}高札{たかふだ}の下を。見やい申せ。 政{まさ}太夫。麓{ふもと}太夫。内匠{たくみ}太夫と。揚{あげ}申ス太夫の名{な}が。書付{かきつけ}てござい申ス (上ノ十五ウ) [万]是ハまた。何ニを仰{おゝせ}られます。 アレハ浄留理芝居{じやうるりしばい}の。かんばんて。ござります <ト此うちに。新町ばしの中ほどまで。きたり> [三]ヨイ御亭{ごてい}。 此くろか行燈{あんどん}の内に。帆{ほ}かけ舟{ぶね}の。穴{あな}ほが【あけ】いたとは。何{な}ンざり申ス [万]これは長命丸{ちやうめいぐはん}で。ござります <ト万蔵は。竹田の口上いふやうに。御坐{ござ}ります/\と。御坐りますづくしゆへ。いろ/\思案{しあん}すれども。大坂こと葉で叮嚀{ていねい}にあいしらふには。御坐りますよりとんと外{ほか}に。ことばが御坐りませんゆへ。御坐りますに大きにこまりますで。御坐ります> [三]黒舟{くろふね}の行燈{あんどん}に。庄兵衛丸とはよか名付{なつけ}申シた (上ノ十六オ) [万]<イヱ/\。> 命{いのち}長{なが}ひといふ長命丸{ちやうめいぐはん}で。ござります [三]何ニ。命{いのち}ながひ長命丸/\ <トしあんしても。閨中助慾薬{ねまでたのしむくすり}と。いふ事はしらず。 たゞ寿命{じゆみやう}を保{たも}つくすりと。ひとり合点{がてん}して> 是はよか薬{くすり}で。ござい申ス。 ヨイ御亭{ごてい}。 お身{み}も知{し}りやる通{とを}り。身が息子{むすこ}も。よはらしいで。長命{ちやうめい}がさせ申たい。 一弐腹{ふく}かい申そふ [万]<小声{こごゑ}にて>ゑらい助兵へじや [三]<コリヤ/\> 薬かい申そふ。 一腹{ふく}所望{しよもう}さつせやい。 かわりは何{なん}ぼ/\か。 [長命丸]小包{こづゝみ}が廿四文。 大包{おほづゝみ}が四十八文 (上ノ十六ウ) [三]これは下直{げぢき}に。ござい申ス。 百文がたたもり申せ。 さち【さて】用{もち}ひかたは。湯{ゆ}で呑{のむ}がよいか。煎{せん}じてのみ申スか [長命丸]<イエ/\。> ついあたまへ。ぬりつけますので。ござります <此間万蔵大赤面{おゝてれ}なれば> [万]<モシ/\> 人が。きよろつきます [三]人がきよろつき申スより。身{み}が息子{むすこ}の。よろつき申さぬ薬{くすり}を。かい申ので。ござい申ス <ト薬を買{かい}。扨{さて}向{むか}ふを見て> さち【さて】/\。にぎ々しい。≪ちやん≫と。ふ自由{じゆう}は。おざり申さん。 (上ノ十七オ) 挿絵 (上ノ十七ウ) 挿絵 (上ノ十八オ) 此夜店{よみせ}は。どこまで。つゞき居{い}申ス [万]ハイ。日本橋{にっぽんばし}までゞ。ござります [三]なに日本{につぽん}のはしまで。ござい申か。 さち【さて】/\それは。はてしもない事で。ござい申スから [万]これぎりにいたしまして。かの遊{あそ}び所{どころ}へ。参{まい}りましよ [三]よか/\ <ト東口{ひがしぐち}の門ンへ戻{もど}り。阿波座{あわざ}の方{ほう}へさして行{ゆく}> [三]ヨイ。 これにも。ふとか事【おびたゝしう】。 店はり{みせつき}が。ござい申ス。 八ヨくらむか/\【くるか/\】 [八]ヤヽ [万]扨{さて}この向{むか}ふのよこ町{まち}に。蕎麦{そば}やが出来{でき}ましたが。稲{いな}川先生{せんせい}を始{はじ}めとして。名家{めいか}の書画{しよぐわ}をあつめました (上ノ十八ウ) [三]何ニ生姜{しやうが}の入リ申ス蕎麦{そば}は。めづらしい事でござい申スの <ト此はなしのうちに。奴が見へねば> 八ヨヲ引/\。 万蔵どん。 八がくらまぬ/\【来ぬ/\】 [万]よふござります。 いつゝへ参{まい}つてから。たづねさせたら。ついしれます。 マア御出{いで}なされませ <ト万蔵は。三五兵へを伴{ともな}ひ。いつゝへゆく ○奴は杓子{しやくし}かけのおやまに。ひつとらへられて> [おやま]奴{やつこ}さん遊{あそ}びんか [八]何ニやすみんか。 (上ノ十九オ) 身{み}はだれ【くたびれ】申さぬ [おやま]だれといふのは。ざこばのふてう。 百か弐百か。そのきまりは。内{うち}での事。 マアはいり <トむりむたいに。鳩部{はとべ}やへ引こむ> [八]さち【さて】/\。 むりをし申ス。ね女{ぢよ}どんで。ござい申ス <其うちに。戸{と}を〆{しめ}。外{そと}からかけがねを懸{かけ}られ。八右ヱ門は。戸{と}を押{おし}て見れども。あからぬゆへ> [八]あんと【なんと】せふ。しばらくやすみ申で。ござい申ス <トあがり口に腰{こし}うちかける> [おやま]コレこちらへ。あがりんか <ト手をとりてうへゝ上{あげ}うとする> [八]ンニヤ/\。 これがよく。ござい申ス [おやま]ゑらい。まだな。奴{やつこ}◆ンじや。 (上ノ十九ウ) <トむりに手{て}をとりて。うへゝあげる> [八]さ様{やう}なら。御免{ごめん}下されませ <トこわ/゛\はい上り。両手{りやうて}をひざにおきて。しよんぼり。としているを> [おやま]コレよこに。なりんか <八右ヱ門びつくりして。どふするのかと。いよ/\こわみがたちて> [八]ンニヤ/\。 これがよく。ござい申ス <トふるひ/\いへば> [おやま]おまへも木竹{きたけ}じやあるまひし <トまたぐらへ手をさしいれると> [八]ワアイ。 人殺{ひとごろし}よ/\。 身{み}がリヤン/\【男のしろもの】を。ぶち切{き}り申スたくみで。ござい申シたか。 密夫{まおとこ}どもは。する事では。おざり申さぬぞ。 大事{だいじ}のこと/\。 リヤン/\の。獄門{ごくもん}にあげる覚{おぼ}へは。ござい申さぬ。 (上ノ二十オ) おぞい事【おそろしい】/\ [おやま]ヲヽなんじやぞい。やかましい奴{やつこ}じや。 ヱヽぎゑんのわるい。 あたいまいましい。 <サア/\>がしんな。ドやつこ。≪とつ≫とゝ。いにあがれ <ト戸{と}の外{そと}へつき出{だ}されて> [八]<ヤレ/\。> ≪ひつ≫たまげ【たまぎる也】申た。 おぞい事/\ <トそこらをうろ/\と見て> <ワイ/\。> 旦那{だんな}が。どんがいか【どちへか】。お行{ゆき}やつた <ト方々{ほう/゛\}尋{たづ}ね。店付{みせつき}の門{かど}に。大ぜいぞめきの若{わか}イものが。居{い}るを見付て> <コリヤ/\。> お身達{みたち}。 もの問{とい}申そふ。 身{み}が旦那{だんな}は。どちへお≪ゆきやつ≫たか。しらせて。たもり申せ (上ノ二十ウ) [若イもの]コレ奴貴{き}さまが旦那の。番{ばん}じやないわい。 けたいな化{ばけ}ものじや [八]ンニヤ/\。 化{はけ}ものじや。ござい申さぬ。 人間{にんげん}の旦那{だんな}で。ござい申ス [若イもの]<イヤ/\。> われが旦那≪にや≫。鼻{はな}があるまいがな [八]何ニ鼻{はな}は。一ツござい申ス [若イもの]そんなら目{め}は [八]目は二ツながら。ござい申ス [若イもの]口{くち}は [八]口かの。口は/\/\/\。 ヲヽあんぜ【あんじ】出{で}申た。 一ツ々 [若イもの]耳{みゝ}は [八]五器【左】手{ごきで}。箸【右】手{はしで}に。一{ひと}ヅヽござい申ス [若イもの]ハヽヽヽヽヽヽ (上ノ廿一オ) そんなら。やつぱり人じや。 コレ通{とを}リ筋{すぢ}の。うらなひに。見て貰{もら}ふたら。ぢき知{し}れじや [八]ヤヽ。 これは何ンとも。ごわざんで【おむつかしう】。ござい申そ [若イもの]<アイ/\。> よふおいで。 おとゝいごんせ [八]ヤア。 何ニがわ≪りや≫【さて】 <トていねいに礼{れい}をのペ通{とを}り筋{すぢ}へもどり。占{うらなひ}を尋{たづね}る> [若イもの]今{いま}の。ふぬけ奴{やつこ}の。うらなひ見に行{ゆき}あがつたを。聞{きい}てこふ。 皆{みな}こい/\ <ト二三人ぞめきの若イもの。奴の後{あと}をしたひ行{ゆく}。 奴はうらなひを見付> [八]<モシ/\> 見通{みどを}シ様{さま}。 うしないものを見て。たもり申せ (上ノ廿一ウ) [うらなひ]<アイ/\。> ハア。 先{まづ}貴公{きこう}は当所{とうしよ}の産{むまれ}では。ござらぬの [八]ヤヽ。 九州{きうしう}もので。ござい申ス [うらなひ]そふであろ。 今{いま}は古郷{こきやう}を離{はな}れ。上方{かみがた}に御坐{ござ}らふがの [八]さ様{やう}でこざい申ス。 今は此大坂の新町{しんまち}で。うらなひを見て居{い}申ス [うらなひ]そふであろ。 さて失{うせ}ものは。なんじやな [八]化物{ばけもの}では。ござい申さぬぞ。 人でござい申ス <うらなひぬからぬ顔{かほ}で> [うらなひ]目{め}うへか。目したか [八]旦那{だんな}で。ござい申ス [うらなひ]フウン。 (上ノ廿二オ) して旦那{だんな}をうしなふたは。いつの事じや [八]只今{たゞいま}でござい申ス [うらなひ]つれがあるかナ [八]問{とい}屋の御亭{ごてい}と。遊{あそ}びに罷{@@@}申シた [うらなひ]よし/\ <ト筮{ぜい}を出{いだ}しいたゞきて> 時泰倡伎仮「レ」有「レ」金{じたいおやまはかねあるによる} <ト三べん唱{とな}へ筮{ぜい}を。とりて> 「うらなひ」フウン。 本卦{ほんけい}は里花{りくは}。 リは里{さと}。 花{くは}ははな。 さとの花{はな}なら。此内{うち}では。花魁{たゆふ}。 ハア。おてまへの旦那{だんな}は太夫{たゆふ}を買{かい}にいたのじや [八]≪ほつしや≫う【あきれた】やれ。 さ様{やう}で。ござい申ス [うらなひ]変卦{へんけい}は。武蔵坊{むさしぼう}。 (上ノ廿二ウ) これ則{すなはち}播磨{はりま}の国{くに}の産{さん}。 此さんのうへは四ツ五ツヽ。 いつつは則{すなはち}九軒町{けんてう}。 此方角{ほうがく}を。たづねさつしやれ [八]よか見通{みとをし}シ様{さま}。御礼{ごれい}は。かさねて申そふ [うらなひ]アヽこれ/\。 見料{けんりやう}をおいて行{ゆ}かしやれ [八]けんりやうとは。机{つくえ}のうへに硯{すゞり}と。ひんならんで。ござい申スが [うらなひ]ヱヽ銭{ぜに}をおいて。ゆかしやれ [八]さて【これは】しさり【したり】。 此うらかたには。せん【銭】の入リ申か [若イもの]むまい事をいふ餓鬼{がき}じや。 銭とらずとだれが。みてやるもんで (上ノ廿三ウ) [八]御尤{もつとも}で。ござい申スが。身{み}がせん【銭】のさきに。すどわろ【ぬす人】に。おつとられ申シたて。もちやい申さぬ [若イもの]銭{ぜに}が≪なき≫や。銀{かね}やれ/\ [八]おけた【おほける】事を。いやり申ス。二才殿{さいどん}たち [若イもの]何{なに}ニ二さいじや。 おのれは占{うらな}ひの。くい逃{にげ}じやぞよ [若二三人]どやせ/\/\/\ <ト口々{くち/゛\にいふと> [八]ヨイそんがいに【そないに】。じんばらかいて【はらをたてゝ】。≪やきや≫んな【気をもむな】。 あんと【なんと】せふ。 これに豆銀{まめぎん}の。もちよるで <トたばこ入レの底{そこ}から露{つゆ}がね一ツ大事{だいじ}につゝみたるを。おしそふに出{いだ}し> (上ノ廿三ウ) [八]これでこらへて。たもり申セ <ト占{うらな}ひにわたすと> [若イもの]ゑいは/\。 かんにんしてこまそ。 いつゝは是{これ}から西{にし}じや。 足{あし}もとのあかいうちに。早{はや}うゆけ/\ [八]ヤヽ <ト小走{こばし}りして> ヤレ/\ひつまたげ【たまぎる也】申た。 おぞい事【おそろしい】/\ <若{わか}イものは奴が跡を見{み}おくりて> [若イもの]あアほよ/\/\/\ <トいふに八右ヱ門は跡{あと}をも見ず西へさして逃{にけ}ゆき。まなごやへ。ちやとはいりて> [八]御免{ごめん}なされ [ばんとう千三]なんでござります [八]これは九州{きうしう}もので。ござい申ス (上ノ廿四オ) [千三]ヱヽいそがしいわい。 マア通{とをつ}ておくれ [八]ンニヤ/\。 物もらいでは。ござい申さぬ。 もの問{とひ}申シたふ。ござい申ス [千三]いそがしいに。なんじやへ [八]うつゝと。いふは。ござい申さぬか [千三]うつゝは。大{だい}ふんあるわいな [八]そのうつゝは。どれで。ござい申スの [千三]イヤうつゝにも。名{な}があつて。うつゝ三太郎じやの。イヤ夢{ゆめ}のうつゝ≪じや≫のといふが。何ンといふ。うつゝを。たづぬるのじやへ。 (上ノ廿四ウ) [八]ンニヤ/\。 うつじと申ス揚屋{あげや}をたづね申ス [千三]うつといふ。揚{あげ}屋があつたら。こちらもゆきたい。もんじや ハハハハハハ。 ハアン。 大{おほ}かたいつゝの事で。ごんしよ [八]ヨイそのいつゝの事で。ござい申ス [千三]いつゝは。この西{にし}の辻{つじ}を北{きた}へいて。又西{にし}へゆくと。大きな二階座敷{にかいざしき}の。ある所{ところ}じや [八]ヤヽ。 これは。ごわざんで【おむつかしう】。ござい申そふ。 御礼{ごれい}はかさねて申ス <トていねいに辞宜{じぎ}してまなごやを。たち出て> (上ノ廿五オ) <ヤレ/\> おぞい事【おそろしい】/\。 いつゝをわすれ申たら。又豆銀{まめぎん}のおつとらるゝで。ござい申そふに トいひ/\九軒町{けんてう}へゆき。うろ/\たづぬる 上巻終 (上ノ廿五ウ) 金太楼のぶる 扨{さて}三五兵衛は。八右衛門にわかれてより。万蔵が案内{あんない}にていつゝへ来{きた}り。 二階{にかい}の西{にし}の座敷{ざしき}でそろ/\催宴{たて}かけ。歌妓{げいこ}もまだしつぽりものを弾{ひい}て居{い}る <奴{やつこ}尋{たづ}ね来{き}て> [八]二階座敷{かいざしき}とならふたが <ト段々{たん/\}西{にし}へゆき> イヤ@@申た/\。 この二階に旦那{だんな}の声{こえ}が。≪しち≫より申ス <ト@@@@@@@@@> <コリヤ/\。> お旦那{だんな}/\。三五兵衛様/\ [げいこ三人]歌▲@@@@@@@ (下ノ一オ) 山ほとゝぎす [八]これはわいた事【ごうがわいた事】。聞{きこ}へぬか。 たゞし又身{み}どもにものをおもはせるので。ござい申スか。 <コリヤ/\。> 旦那{だんな}/\ [げいこ三人]歌▲月やはものゝやるせなや [八]さち【さて】/\まだ聞{きこ}へぬそふな。 イヤあんぜつき【おもひだした】申た <ト大音{おん}はり上ゲ> ヲヽイ引。 住吉丸{すみよしまる}≪ニヤ≫イ引 <三五兵へは二階{かい}にて此声{こゑ}を聞> [三]ヨイ八か。 ヤ。わかア。どんがいくらふたか【どちへいたか】。 つい知{し}れなんだ。 今脚船{てんま}をやるぞ [たいこ飛八]ハアヽ旦那のお供{とも}かナ。 住吉丸ヤアイと聞{きゝ}ましたで。お公家{くげ}さんの迷{まよ}ひ子を呼{よぶ}のかと。ぞんじました (下ノ一ウ) [万]飛{ひ}八太義{たいぎ}ながら廓{くるは}初{はじ}めてのお供{とも}じやほどに。貴◆よいやうに斗{はか}らふてくれ/\ [たいこ飛八]畏{かしこま}りました <ト下へおり奴を僕部{ともべ}屋へともなひて> 申シ万さんが。おつしやつでゝござります。 私{わたくし}に参{まい}り。お気{き}に入ルやうにせいとの仰{おほせ}でござりますが。りくつ【木だるの事】を引合{ひきあひ}ませふか [八]遊所{あそびどころ}で。りくつをいふては。やぼでござい申スと聞{きき}申シた [たいこ飛八]ハヽヽヽヽヽヽさ様{やう}なら御酒出{だ}させませふ (下ノ二オ) <ト酒肴{さかな}いろ/\出{いだ}しもてなす ○二かいには> [仲居おそめ]モシ万さん。 あなたに太夫{たゆ}◆ンがた。おすゝめ申ます [万]よかろ/\。 かりにやれ/\ [三]<イヤ/\> 身{み}は初{はつ}じやで。無心{むしん}ないはぬ。 今宵{こよひ}は太夫{たゆふ}をかり申さずに。揚{あげ}申そふ [たいこ飛八]是{これ}は旦那中{おち}な事仰{おほせ}られます [三]何{なに}おち/\。 おちとは何かナ [たいこ飛八]おちとは。中{あたり}ましたと申ス事で。御坐{ざ}ります [げいこちう]はゞかりながら <ト三五兵へに盃{さかづき}をさす> [三]あいし申そふ (下ノ二ウ) [万]ちとさなぎ姫{ひめ}。 ぞめきを弾{ひけ}/\ [げいこさなぎ]モウぞめきなんすか <ト三人は三絃{さみせん}の調子{てうし}合せて。何かうなづき合{あひ}> チ。テチチリ [げいこ三人]歌▲しもの女郎衆{ぢよらうしゆ}のいふこときけば。 [万][たいこ飛八]なんとした [げいこ三人]歌▲あすはおたちかおなごりおしや [万][たいこ飛八]うそであろチヽチリ。テチチリ [げいこ三人]歌▲もしも沖{おき}にて東風{こち}などふかば [万]なんとした [げいこ三人]歌▲わしがとめたとおもふておくれ <僕部{ともべ}やにて。奴{やつこ}この三弦{さみせん}を聞{@@}て大きにうかれ。そろ/\僕部やを出て二階{かい}へ来@。床{とこ}の間{ま}へあがりて。みな/\のうかれを。くわへぎせるに。手{て}を組{くん}で。余念{よねん}なふながめて居{い}るを。風与{ふと}万蔵見つけて> (下ノ三オ) [万]ヤア八右衛門殿{どん}がいつの間{ま}にやら。床{とこ}の間{ま}へちやつと上{あが}ツてじや <トいふにみな/\これを見て> ★<ハヽヽヽヽウヽヽヽヽ ヘヽヽヽヽワヽヽヽヽ ムヽヽヽヽホヽヽヽヽ> [三]ヨイ八ヨヤ。 わがア。無礼{ぶれい}もので。ござい申ス [八]何{なに/\}があまり面白{おもしろ}さに。高見{たかみ}から見物{けんぶつ}の。≪しちよ≫り申ス [万]<マア> 爰{ここ}へきて。一ツ所{しよ}に一盃{ぱい}やつたがよい <ト八右ヱ門もともに酒宴{しゆゑん}につらなる ○此間に花魁{たゆふ}。介花{ひきふね}。香児{かぶろ}。大ぜい襖{ふすま}のかげに居{い}て。何{なに}か≪わちや≫/\声{こゑ}がするかとおもふと> [引ふねみのぶ]太夫{たゆ}◆ンおかし <ト聞{きく}とげいこ三弦{さみせん}下に置{おき}。座敷{ざしき}がじつとしづまる。 才婢{なかい}は。かし盃台{とさん}をわが前に置て> (下ノ三ウ) [仲居おちか]これへおかし <トいふと。太夫は襖{ふすま}のかけより出て。才婢{なかい}のまへに客{きやく}に対し{たい}て座{ざ}し。盃{さかづき}をとりあげ。呑{のむ}やうにしてそのま入るなり。 是{これ}をかしぶりと唱{とな}へて。襠{うちかけ}のさばきやういろ/\口伝{くでん}ある事とぞ> [万]三五兵衛様。 よう御覧{らう}じませへ [三]ヤヽ [仲居おちか]土{つち}屋呉縫{くれぬい}太夫主{す} <ト才婢{なかい}が。かしにきたる太夫の名{な}をいふと。万蔵料紙{りやうし}硯{すゝり}。引よせて> [万]くれぬひは園生{そのふ}にうゑても。かくれなき御きりやうじや <ト太夫の名をしたゝめおく> [引ふねしんよ]太夫{たゆ}◆ンおかし [仲居おちか]これへおかし <又々太夫出{いで}来りて。前{さき}のごとくする> (下ノ四オ) [仲居おちか]太夫主{たゆす}おむつかし <太夫は万蔵をちよつと見て。ゑみを含{ふく}んて入> [仲居おちか]東{ひがし}の能来{のふぎ}屋芳山{ほうざん}太夫主{す} [たいこ飛八]<小声{ごゑ}にて> 芳山はつと肝{きも}にこたへますであろ <ト万蔵に当{あて}ていふ> [万]<ちやつと小歌で> ▲しらずしられぬ中{なか}なれば <トまぎらかして。又かきとめる ○全躰{ぜんたい}此芳山{ほうざん}太夫は。万蔵があいかたなれど。三五兵へにはふかくかくし。才婢{なかい}にのみこませ。歌妓{げいこ}も幇間{たいこもち}もしらぬかほにている。 花魁{たゆふ}は。宵{よい}に禿{かふろ}が万蔵にあふて言伝{ことづけ}を聞{きゝ}。こゝへはきたれど。三五兵へにかくれある事なれば。座敷{さしき}へ行{ゆ}くにゆかれず。 余所{よそ}ながら顔{かほ}を見るといふ心で。此座敷へかしにくるといふは千万無量{むりやう}色{いろ}のこもる所なり> [三]御亭{てい}。 今の太夫が。身{み}がのぞみでござい申ス (下ノ四ウ) <ト聞て万蔵は。心の騒動{さうどう}なれど。さすがは万蔵そしらぬ顔{かほ}して。ちよつと仲居{なかい}へ目{め}くばせして> [万]今の太夫主とめてたも <仲居もぬからず> [仲居おちか]芳山主{ほうざんす}は今宵{こよひ}は。なりません外{ほか}の太夫{たゆ}さんがたに。しなませ [三]ンニヤ/\。 なり申さん太夫{たゆふ}が。なせに身{み}が座敷{ざしき}へ。ひん出{で}申た [仲居おちか]モシかりかしは。あるならひでおます。 外{ほか}のにしなませ <ト三五兵へ聞{きい}て。かりかしはあるならひによはり。これをおしていふた所が。やぼといはれんも口おしく。まけおしみに。なにかぐづ/\いふていると> [引ふねはやま]太夫◆ンおかし (下ノ五オ) 挿絵 (下ノ五ウ) 挿絵 (下ノ六オ) [仲居おちか]これへおかし <此度{たび}は新造{しんぞう}太夫にて。かの八文字{もんじ}を踏{ふむ}とか?{ねる}とかいふむつかしごとあり。 新造{しんぞう}のうちは此事あるとぞ> [仲居おちか]西{にし}の能来{のふぎ}屋。菊{きく}さと太夫主{す} [万]奇麗{きれい}/\大きれい。 漢{かん}の李夫人{りふじん}。楊貴妃{やうきひ}。小野小町{おのゝこまち}も。はだかで。はだしで。てん/\てんまを舞{まふ}であろ <ト今のてれかくしに。此太夫をよばそふとおもひ。万蔵はむしやう。やたらにほむる> [三]コリヤ御亭{ごてい}。 身は此太夫を揚{あげ}申そふ [万]是{これ}はよふござりませふ。 おちか新造{しんぞう}◆ンはやう留{とめ}ませ/\ (下ノ六ウ) [仲居おちか]アヽ入声 <此アヽのへんじに。こと/゛\くかわりあり。 こゝにしるす △うかめのアヽ去声{きよしやう} △うたがひのアヽ上{じやう}声 △ぢきしやうちのアヽ入声{につしやう} △がつてんがてんのアヽ平{ひやう}声 これらみな四声{しせい}をもつてしらしむ ○さて仲居{なかい}。太夫をとゞむれば。引舟{ひきふね}太夫をともなひ出{いで}て。ちよつと仲居にさゝやき三五兵へが隣{となり}へ太夫を座{ざ}さしめ。次{つぎ}に引舟かぶろとすはる> [たいこ飛八]モシ旦那。 新造{しんぞう}◆ンとはぎゑんで。こざります [万]これから碇{いかり}おろして。遊{あそ}びましよ/\ [たいこ飛八]万さん。暫時{ざんじ}御心配{ごしんぱい}。 まづ太夫◆ンも定{さだま}りまして <ト万蔵があいかたを。三五兵へが買{かを}ふといふたときの事を。与所{よそ}ながらいふを。三五兵へは何もしらす> [三]何{なに}からなにまで。御亭{てい}のお世話{わ}で。ござい申ス (下ノ七オ) <トいふに飛{ひ}八。けい子三人。顔{かほ}を見あはせ。心のうちでくつ/\と笑ふ> [仲居おそめ]モシ太夫主{たゆす}。 一ツのみなんで [引舟]あんたへあげなんで [太夫]アヽ去声 <太夫盃{さかつき}をとりあげ。ちよと呑{のん}で三五兵へにさす> [三]これは有{あり}かたい。 あいし申そふ <ト三五兵へは。酒をのむうちに> [八]ヨイね女{ぢよ}。 お身がつかい居{い}申ス楊枝{やうじ}を。身にたもり申せ [げい子]これはきたのおます。 外{ほか}のをあげましよ [八]ンニャ/\。 お身{み}のつかひ申たがよくござい申ス [万]これは妙{みやう}じや/\ (下ノ七ウ) [たいこ飛八]<ヨヲ/\。> 八さんに。ほれられてさま/\ [げい子]コレイナ飛{ひ}八さん。 何{なに}いひじやいナ [万]あのやうに八どんが。ほしがらしやる楊枝{やうじ}じや。 あげませ/\ [げい子]それでも。きたのおますもの [万]そのきたない所{ところ}が。しやうねじや。 あげませ/\ [三]これは八が。一生{いつしやう}のおもい出{で}で。ござい申スから。所望{しよもう}さつしやい [万]あげませ/\ [げい子]さよなら。しつれいながら (下ノ八オ) <ト楊枝{やうじ}を。ていねいにふいて出すと> [八]ヤヽ <ト楊枝をおしいたゞき。なんの苦{く}もなふ。きせるをさらへる> ★<ハヽヽヽヽヽ ワヽヽヽヽヽ フヽヽヽヽヽヽ [万]こいつは。たまらぬ/\ [たいこ飛八]ゑら面白{おもしろ}じや/\ [万]イヤおもしろいついでに。おとヽい市{いち}の側{かわ}の芝居{しばい}へお供{とも}していた。嵐{あら}吉か工{く}左衛門の。もの真似{まね}が聞{きゝ}たい。 飛{ひ}八せんかい [たいこ飛八]アノ私{わたくし}にもの真似{まね}かへ [万]しれた事 [たいこ飛八]ハイさよならお里◆ン。一寸{ちよと}ねりやくを [けいこお里]アヽ平声 飛{ひ}八◆ン。嵐{あら}吉がゑいぜ (下ノ八ウ) [たいこ飛八]又悪{あく}を <ト一寸{ちよと}たゝくまねする> [げい子]★<ワヽヽヽヽヽヽ ホヽヽヽヽヽヽ ヘヽヽヽヽヽヽ> <此幇間{たいこ}。嵐吉は得{え}せぬゆへ。歌妓{げいこ}に。まじめにせらる。 @@@三弦{さみせん}とりあげ> [げいこ三人]うた▲梅がえに。はつ音{ね}やさしきうぐひすのチ。チン。ツテン。ツ [たいこ飛八]物まね▲今また御辺{ごへん}自害{じがい}せば。鎌倉{かまくら}への義{ぎ}は立{たつ}べきが佐々木{さゝき}が首{くび}は贋{にせ}もの也と忽{たちまち}露顕{ろけん}し。これまで砕{くたき}し心は水{みず}の泡{あわ}。 時{とき}を待{まつ}て佐々木高綱{さゝきたかつな}。まことは爰{こゝ}にと。切{きつ}て出{いづ}るその時に [万]アヽ飛{ひ}八。 それは工{く}左衛門じや。 嵐吉せい/\ (下ノ九オ) [たいこ飛八]旦那{だんな}までがおなじやうに [げい子中居]飛{ひ}八さん。 あら吉待{まつ}て居ます/\ [三]なるほど工{く}左衛門どんも。よく似{に}申シたが。嵐吉が身{み}がのぞみで。ござい申ス [万]旦那の仰{おほ}せはそむかれまい。 あら吉せい/\ <歌妓{げいこ}は。ちやつと飛{ひ}八が外{ほか}へ。そらさぬやうに> [げい子三人]うた▲父{ちゝ}よ母{はゝ}よとよぶこゑきけばチ。チン。テン。ツテン。チ <飛八は。天窓{あたま}かき/\> [たいこ飛八]物まね▲音高{おとたか}し/\谷{たに}むら小藤次{ことうじ}。 シテ城内{じやうない}に変{へん}はなきや [万]飛{ひ}八。 妙{みやう}な嵐吉じやナ (下ノ九ウ) <ト聞{きく}とそのまゝ。飛八立あがり。ちやつと外{ほか}へそらして。出たらめに> [たいこ飛八]さん候゛ なまずのみぎはに。ひやうたんかまへ。こいつをとらんと催{もよふ}す所に。例{れい}の大髭{おほひげ}ぐつとふりたて。無弐無三{むにむさん}にぬらめくを。≪ちよ≫いとおさへりや。ぬらりとぬけ。≪ひよ≫いとおさへりや。又ぬらりと。十町{てう}ばかり引{ひき}しほに。ひやうたんかまへて追{おひ}ゆけば。なまずはこゝぞと奴{やつこ}さん 歌▲いかにあほふとひげふりて。水{みづ}のふかみへツン。ツン。テン。チ。はいりけり <此間始終{しじう}歌妓{げいこ}。三弦{さみせん}のあしらひ有> (下ノ十オ) [三][万]<ハヽヽヽヽヽヽ ワハヽヽヽヽヽ> [万]こいつは。おかしい/\ <ト飛八に花{はな}をやり> 旦那{だんな}から。浮{うか}せ【やれ】との仰{おほ}せじや [たいこ飛八]有{あり}がたの月が。はや出{いづ}るでござります <此うかれの面白{おもしろ}さに。八右ヱ門は燭台{しよくだい}にもたれ。うつゝをぬかし。見ていた所が。燭台{しよくだい}がこけて。蝋燭{らうそく}が八右ヱ門の天窓{あたま}の。まん中へおちければ> [八]<ヤレ/\> あつい事/\ [三]ヤレらうそくが。八があたまへ中{おち}をとり申シたか [八]そのおちをはやくとりのけてくれ申せ あついで命{めい}が終{おわ}り申ス/\ [三]ヨイくやみ申スな (下ノ十ウ) 長生{ながいき}のし申ス。薬{くすり}があり申ス <ト最前{さいぜん}の長命丸を。奴が天窓{あたま}へ。ひんなすつて> しばらくこらへてい申せ。 ついなをり申ス <トいふにやう/\おちつき。皆々{みな/\}もとの座{ざ}になをる。 奴は天窓をかゝへ。じつとしている> [万]先{まづ}おさまりまして。おめでたい。 この祝{いわい}に。おねだり申事がござります。 どふぞお国{くに}の歌{うた}が。うけたまはりたふ。御坐{ざ}ります [三]ンニヤ/\。 身{み}どもの御国{くに}のうたは。面白{おもしろ}くない。 はからいこと/\【よしにせい/\】 [たいこ][けい子][仲居]とふぞ聞{きか}しなませ/\/\/\/\/\/\ [三]そんがいに【そのように】申スから。うたひ申そふ。 (下ノ十一オ) ね女達{ぢよたち}。おやつと【御くらう】で。ござい申スが。三弦{しやみ}の弾{ひい}てくれ申せ <ト聞て歌妓{けいこ}。三弦{さみせん}を。めい/\手{て}にとりあげながら。何{なに}をひく事やらしれぬゆへ。たがひに顔{かほ}を見合{みあは}しているに三五兵へはいさいかまはず。うたふゆへ。よいかげんに調子{てうし}。合している> [三]歌▲倹{けん}しやおかいりやる{z} 田{た}の麦{む}≪ギヤ≫熟{うれ}る{z} ヨイサ/\。 何{なに}をちからに麦{むぎ}かろか。 サンサホ引 [万]妙{みやう}じや/\ [たいこ飛八]これは中{おち}じや/\ [三]嶋{しま}のこんぱいどんな{z}。よか嫁{よめ}をもちやつた{z}。 ヨイサ/\。 しま≪じや≫一ばん名{な}はほそ女{ぢよ}。 (下ノ十一ウ) サンサホウ引 <時{とき}にふしぎや奴があたま。≪ひよこ≫り/\と。うごくゆへ。気{き}を付てみな/\見るに。いよ/\≪ひよこ≫り/\とうごく。 此とき一度{ど}に立さわぎ。これ只事{たゞごと}にあらず。 狸{たぬき}のしわざか。何{なに}にもせよ。大そうどう也と。安{やす}き心なきに> [八]<なき/\> モシ/\。旦那{だんな}。 身が天窓{あたま}が。しぜんとおへ申て。ぴり/\とし申スは [三]皆々{みな/\}。おさわぎなさるな/\。 八が命{いのち}終{おわり}申から。長生{ながいき}し申スやうに。新町橋{しんまちばし}の長命丸{ちやうめいぐはん}の。ひんなすつておいたで。ござい申ス [大ぜい]ヱヽめつそふな <ト皆{みな}々肝{きも}をつぶすうちニ仲居{なかい}おそめは。めつたに手をたゝく> (下ノ十二オ) ハイ引 <ト小{こ}めろが上ツて来{く}ると> [仲居おそめ]盥{たらい}に。湯{ゆ}をもつて来{き}て/\ [たいこ飛八]これはよふ。御気{き}が付た/\。 しかしよく御案内{あんない}じやナ [大ぜい]★<ワヽヽヽヽヽヽ ハヽヽヽヽヽヽ アハヽヽヽヽヽ> <春薬{よろこばしぐすり}を。つけあやまれば。湯{ゆ}にてよく洗{あら}ふといふ穴{あな}なり。 此うちに湯{ゆ}をもちきたり。 八右ヱ門が天窓{あたま}を。大ぜいしてあらひ。八右衛門もやう/\きげんなをれば> [万]さて。これをはねにいたしまして。三五兵へ様ちと。おやすみなされませ [八]今宵{こよひ}はどんな難{なん}に。あい申そふも。しれ申さぬ <トつぶやき/\下へ行{ゆく}と。万蔵も座{ざ}をたつ (下ノ十二ウ) 歌妓{げいこ}。幇間{たいこ}も。三五兵へに挨拶{あいさつ}して座{ざ}をたつ。 此時太夫引舟{ひきふね}ともにたつ [仲居おそめ]三五◆ンモシ。ちとおやすみなませ <ト仲居{なかい}と禿{かぶろ}は。三五兵へを一間{ま}へ誘{いざな}へば。金屏{きんびやう}を立{たて}。純子{どんす}の夜着{よぎ}ふとんを。敷{しき}かさねたるに。三五兵へを座{ざ}さしめて> [仲居おそめ]モシおやすみ <ト仲居{なかい}は出行{いでゆく} ○三五兵へはそこらをば。見まはし/\。しばらく悶絶{もんぜつ}のかたち也。 禿{かぶろ}は。赤壁{せきへき}の図{づ}のかけものを。見付て> [かぶろ]モシアノかけものゝ画{ゑ}は。なんで [三]ヤヽ。 あれは唐人{とうじん}どんが。舟{ふね}に≪のちよ≫り【乗り】申ので。ござい申ス <同く。賦{ふ}を見て> [かぶろ]アノ上{うへ}の方{はう}に細字{こまかいじ}が。たんとかいておますのは。なんで [三]あれは御経{おきやう}で。ござい申そふ [かぶろ]唐人{とうじん}◆ンのお経{きやう}を申スと。なんの願{ぐはん}が叶{かな}ひますへ (下ノ十三オ) [三]寝{ね}ごとの。やみ申ス願{ぐはん}の。叶{かな}ひ申そ [かぶろ]<ヲヽイヤ。> モシわたしや。ねごとをいふて一向{いつかう}引舟{ひきふね}さんに。しかられます。 どふぞアノお経{きやう}を。おしへてくれなませ [三]ンニヤ/\ 身{み}は昼{ひる}ばかり。ものまなびを。し申たで。こんがいな【此やうな】くらずみ【くらがり】の夜{よ}は。字{じ}がわかり申さぬ。 はからい事 よしにせい】/\ [かぶろ]アゝ〔上声〕 そんな事はしりまん。 おしへてくれなませ/\/\/\ (下ノ十三ウ) <トむりむたいに。いふゆへ。三五兵へも。あたまかき/\> [三]あんと【なんと】せふ。 行燈{あんどん}の火をかゝげ申せ <ト床{とこ}のうへにあがり。両手{りやうて}を。かけものゝ左右{さゆう}にして。壁{かべ}につかへ。足{あし}をつまだてじ。そろ/\読{よン}で見る> [三]なに。 壬戌之秋{みづのへいぬのあき}。七月。ムンニヤ/\。望{のぞむ}。ムンニヤ/\。子{こ}。与{よ}。客{きやく}。ムニヤ/\。舟{ふね}。遊{あそぶ}。於{おいて}。なんじや。赤壁之下{あかかべのした}か。 イヤモなんじやか。くらずみ【くらがり】で。ものは見ゆる事では。ござい申さぬ。 火{ひ}をかかげ/\ [かぶろ]一向{いつかう}あかふおますがナ。 まだくらふおますなら爰{こゝ}をあけます (下ノ十四オ) 挿絵 (下ノ十四ウ) 挿絵 (下ノ十五オ) <ト禿{かぶろ}ハ。昼{ひる}のやうにおもひ。障子{しゃうじ}をあけると。風{かぜ}が内へ入ツて。行燈{あんどう}の火{ひ}が忽{たちまち}@へて。真黒暗{まつくらやみ}。 かぶろびつくりして> [かぶろ]アレヱ引/\/\/\ <トいひさま。三五兵へが足を。つまだてゝいる。下の方{ほう}から犢鼻褌{ふどし}が。ぶら/\してあるを。禿{かぶろ}はくらがりに。これをつかまへ。こわいが一ぱいゆへ。こゝを大事{だいじ}と。ふどしを引{ひつ}ぱりて> [かぶろ]アレヱ引/\ [三]アヽイタ/\/\/\ 化{ばけ}ものが。出{で}≪ちよ≫り申ス歟{か} 身{み}がふぐりを〆切{しめきり}申ス。 ヤレたすけて。たもり申せ/\ <此もの音{おと}に。いつゝやは大さわぎにて。料理人{れうりにん}をはじめ。飯焼{めしたき}。下男{しもおとこ}。はちまきに頭{かしら}をかため。手々{てんで}に棒{ぼう}。千切木{ちぎりき}にて。二階{かい}へあがり。挑燈{ちやうちん}星{ほし}のごとく。やかし。よく/\見れば。三五兵へは四ツ這{ばい}になり。禿{かぶろ}は犢鼻褌{ふどし}をもち爰{こゝ}を大事{だいじ}と。両方{りやうはう}へ引ぱりあふた形勢{ありさま}は。野飼{のがい}の牛{うし}をむりやりに。牽{ひい}てかへるがごとくなり。 (下ノ十五ウ) みな/\是{これ}を見て。一度{ど}にどつと笑{わら}ひを催{もよふ}せば。禿も気{き}がつき。ふどしをはなす。 三五兵へも面目{めんぼく}を失{うしな}ひ。すご/\元{もと}の寝間{ねま}に座{ざ}したれば。みな/\何かささやきあひ。くつ/\笑{わら}ふて下へおりると。やう/\引舟{ひきふね}太夫を伴{ともな}ひきたり。 三五兵へに対{たい}し座{ざ}さしめて [引ふねはやま]ゆるりとやすみなませ <ト禿をつれて引舟出{で}てゆく> [太夫]モシちとおよりなんで [三]ヤさ <トいへとも。太夫がいふ事合点{がてん}ゆかず。まじめになつているを。太夫心得{え}先{まづ}寝{ね}させて> [太夫]モシあんた。 おもはくがおますで。おましよ [三]ヤさ。おもはくは。今年{こんねん}な砂糖{さとう}を。ふとか【大ぶん】事登{のぼ}せ申ス <此うちに。太夫たばこを。つけて> (下ノ十六オ) [太夫]モシたばこはへ [三]ンニヤおhきn /\。 去年{きよねん}たばこで。損銀{そんぎん}のし申た [太夫]<イヱモシ> たばこのみなんで [三]お身{み}。ふ≪き【のみ】や≫れ <太夫がてんゆかず。すいつけたたばこゆへむさいと心得。袖{そで}にてふきて出す> [三]ンニヤ/\。 ふきやれ/\ <トいふて。太夫の脊{せな}をなで。顔{かほ}をながめて> [三]お身【わそが】すいたか【すきか】/\ [太夫]きのふすいて。髪{かみ}はけふでおます [三]ンニヤ/\。 上{かみ}は京じやといひ申スが。京ばかりかみでは。ござい申さぬ。 身が国{くに}からは。大坂も上々{かみ/\}とねんじ申ス (下ノ十六ウ) [太夫]あんた神々{かみ/゛\}さんを。しんじんしなますは。妙見{めうけん}さんで。おますかへ [三]ンニヤ/\。 身が母{はゝ}ぢよの名は。妙寿{めうじゆ}でこそあれ <此とき。下の中戸に△この紋の箱挑燈{てうちん}を。さげ高{たか}すまやの小婢{こめろ}。呼{よび}たてして> [小めろ]芳山主{ほうざんす}かぶろしゆう。 た{上一}い{z}吉{一z}た{下}い吉た{上一}い{一}吉{一z}た{下}い吉{z}≪た{上}い≫吉 <ト三五兵へは聞つけて> [三]太夫。 あのやうに呼{よび}たつるは。此うちにたれぞ。目どもまいとらかしたか。 家根{やね}からでも。ほたりおちたか [太夫]アヽ上声 何{なに}いふなますやら (下ノ十七オ) [三]なますなら。鰹{かつを}のいをの事 <ト此間たがひに齟齬{くひちがひ}にてわからず。訳{つうじ}の入リそふな事也 ○扨{さて}万蔵は。よびたてている太夫を。かりや姫{ひめ}としているに。八ツ鳥{どり}の啼{なか}ぬさきどころか。やつと手前{てまへ}に。よびたてられ。なごりおしんで別{わかれ}るといふ。せつない狂言{きやうげん} アヽまゝならぬ。身{み}じやわいな ○時に三五兵へは。ちかがつゑにて。右の一義{ぎ}を催{もよ}ふさんと。いろ/\心をくだけども。太夫は優々{ゆう/\}として。とりあへねば。大きに腹{はら}をたてゝ> [三]こよひは座敷{ざしき}へいて。遊{あそ}び申そふ [太夫]そふしなますか <ト手をたゝく> [かぶろ]アイ引 <ト禿{かぶろ}きたる> [太夫]あんたは。座敷{ざしき}であそびなますほどに。下へそふいふておじや [かぶろ]アヽ入声 <ト立と暫{しばら}くして。仲居おそめ出{いで}来り> (下ノ十七ウ) [仲居おそめ]モシ飛{ひ}八さんも。歌妓{げいこ}◆ンがたも。呼{よび}にやりました マア座敷{ざしき}へ。ゆきなんで <ト三五兵へを。座敷へともなへば。太夫は衣装{いしやう}改めに下へおり。禿がさいぜんの。犢鼻褌{ふどし}の咄{はなし}を聞て。あほうらしく。三五兵へがとんといやになり。そばへもゆかず。なをはなしをさせて聞ている。 二階{かい}には酒肴{しゆかう}を。とりそろへ> [仲居おそめ]モシお一ツ <ト盃{さかづき}をさす> [三]ヤヽ。 あいし申そふ <ト酒ハ飲{のめ}ども。右の一義{き}相済ねば。大ふさぎ。 殊{こと}に太夫は傍{そば}に居{い}ず。引舟ばかりゆへ大きにいれて> [三]太夫は。どんがいくらふた【どちへいた】 [引ふね仲居]アじょうしょう上声 <引舟も。仲居も。合点{がてん}ゆかず。顔{かほ}見合せている。おりから。小婢{こめろ}が来{き}て。仲居に何{なに}か。さゝやく> [仲居おそめ]モシ飛{ひ}八さんも。芸子{げいこ}さんもなりません。 (下ノ十八オ) 外の歌妓{げいこ}さんがたに。しなませ <ト聞て。三五兵へ今はこらへかね> [三]何{なに}。みんな来{こ}ぬと申スか。 ぜんたいわれどもが。身{み}ともをあなづるか。 くぼか【ふかい】所にや。ゆかんぞ。 身もお国{くに}では。二の座{ざ}とさがらぬやつ。 女に馬鹿{ばか}もどかしに。せられては。すまぬ/\ [仲居おそめ]そふおつしやらずと。一ツおあがり <トむりに。ついで。つぎめをしほに。さんじすかさんと思ひ。酒の有無{うむ}にかゝはらず> [仲居おそめ]是はお仕合{しあは}せ <と座を立{たゝ}んとするを> [三]ヨイね女{ぢよ}。 まて/\。 つぎめをし申スに。お仕合{しあは}せといひ申スは。身{み}が一ぱい酒{さけ}をよけい飲{のみ}申スを。しあはせといひ申スか。 (下ノ十八ウ) さち【さて】/\。むさい事/\。 下子女{げすぢよ}で。ござい申ス。 いよ/\。じんばらかいて【はらがたつて】。のし【なり】申さん <トへんくつものゝ。ねち上戸{ご}にて。仲居も引舟も。機嫌{きげん}を得{え}とらねば。伴当{ばんとう}のお杉{すぎ}。おこめ。太夫をつれきたり。 兼{かね}ての秘術{ひしゆつ}をつくし。いろ/\と機嫌{きげん}をとれども。中々承知{せうち}せねば。今は大きにもてあまし。アヽまゝよ。どふも仕やうが。ないと。一人リぬけ。二人リぬけ。とふ/゛\仲居のおそめと。三五兵へと。さしむかいになり。いよ/\三五兵へは。酣飲{おほのみ}にて。舌{した}もまはらず。仲居一人リを。いぢるうち。はや東雲{しののめ}も。ちかければ。今は仲居もたまりかね大息{いき}をついで逃{にげ}行ば。三五兵へもいぢりくたびれ。茫然{ほうぜん}として。眠{ねふ}リを催{もよ}ふす> (下ノ十九オ) 烏{からす}が。カア/\/\/\。 雀{すゞが}。チウ/\/\/\ <ト啼{なく}に三五兵へは眠{ねふ}リを覚{さま}し。あたりを見れば。酒肴{さけさかな}は。そのまゝに狼狽{とりみだし}。そばに一人リもいねば。なをも腹{はら}にすへかねて手{て}をむしやうに叩{たゝ}けば。大ぜいの声{こへ}で> ハアイ引 <トいへども。一人も座敷{ざしき}へ来{こ}ず> [三]ヱヽ餓鬼{がき}や。外道{げどう}どもが。 ハイ/\と。へんじきりかへしながら。こゝへはくらまぬ【こぬ】 <ト又手{て}を叩{たゝ}く。 又大ぜいが> ハアイ引 <トいへども。ねからこず> [三]ヱヽ <ト舌{した}つゞみうちて> まらくつそ。ね女{ぢよ}どもが。何{なに}をむんぢり/\【ぐづ/\】と。しておる <ト二階{かい}から。中戸{なかど}を。見おろせば> 鉢坊主{はちぼうず}が大ぜい。ハアイ引 (下ノ十九ウ) <三五兵へはこれを見て。大きに笑{わら}ふ。 このこゑに万蔵玄関{げんくはん}の戸をひらき。八右ヱ門は僕部{ともべ}屋の障子{しやうし}をあけて。うかかふに。鉢坊主{はちぼうず}は。たちまち。鉄鉢{てつぱつ}。法衣{ころも}。笠{かさ}。柱杖{しゆでう}。坊主{ぼうつ}かづらを。脱{ぬぎ}すつるに。次第不同飛{ひ}八。葉{は}吉。夏八。程{ほと}吉。知{ち}吉なんどいふ。幇間{たいこもち}なりければ。花魁{たゆふ}。介花{ひきふね}。香児{かぶろ}も。才婢{なかい}も。うかれ出て。ともにざゝめき。たちけるに> [たいこ飛八]モシ/\三五◆ン。 あなたの御きげん大きにそんじ [たいこ葉吉]ねぢても。こぢても。なをらねば [たいこ程吉]≪まつ≫こふせいと万◆が [たいこ知吉]ひそかの御下知{ぢ} [たいこ夏八]其図{そのづ}をはづさず御機嫌{きげん}なをり <みな/\一同に> お目出{めで}たふ存シます (下ノ二十オ) 跋 千早振神の倭なる西の宮にまします木偶神社は則その恵美寿の宮居に隣て傀儡師の祖神なりまた (下ノ二十ウ) 塊と題してあら玉の春書肆かはつ売千々の黄金の蔓柏の紋にもとつきて小判よ俵よ小糠雨の頻りと降る永き日の (丁なし一オ) つれ/\に傘に換て下駄はく脚は巨燵へ抛出し肘を曲ての高枕もたか根の花や見たはかりと伽人形にかはるひとつ (丁なし一ウ) あらかねの土人形はいにしへ今宮の翁か京のほり帰さの袖にして朝夕の伽とせしその草の菴もかの戎の御やしろの片 (丁なし二オ) ほとり也かれとこれとを一束ねに千代に八千代にさゝれ石津のゑひす紙を帳に閉て試筆の晒落本よろつ代の万をしる一文 (丁なし二ウ) ならんかしといふ 文化四 丁卯のはる 陸月 文鳥舎 漫誌 △ (丁なし三オ) 浪速金太楼蔵版△ (丁なし三ウ) ------------------------------------------------------------------------------------------ 《注》    @の置き換え  JISコードにない漢字   ・上ノ十五ウ4 @=片×旁  その他   ・上ノ廿二ウ3 @@@=不鮮明。大成では「まかり」   ・上ノ廿六オ5 @@=不鮮明。大成では「知れ」(161上5)   ・上ノ廿六オ6 @@@@@@@@@=不鮮明。大成では「ト門(かど)から。大音声(たいおんじやう)にて」(161上6)   ・上ノ廿六オ7 @@@@@@@=不鮮明。大成では「よべどこたへず」(161上7)   ・下ノ三オ7  @@=不鮮明。「きゝ」か?大成では「きい」(162上7)   ・下ノ三ウ1(データでは下ノ三オ)           @=不鮮明。大成では「り」(162上8)   ・下ノ九オ2  @@@=不鮮明。大成では「げいこ」(164下7)   ・下ノ十五ウ1 @=不鮮明。大成では「き」(167下5) その他   ・下ノ十六オ3 【のみ】は、「ふ≪きや≫れ」の「ふき」に附されたもの 洒落本大成との異同  本文の異同     下ノ二ウ1(データでは下二ノオ)         ・ルビ欠落        御酒   → 大成161下10 御酒{しゆ}    下ノ四オ5・ルビの濁点欠落    硯{すゝり}   → 大成162下4 硯{す+゛り}    下ノ四ウ1・割書き濁点欠落    含{ふく}んて  → 大成162下7 含{ふく}んで    下ノ四ウ1・一字欠落         入      → 大成162下7 入る    下ノ四ウ5・句点あり?      花魁{たゆふ}は。→ 大成162下11 花魁{たゆふ}は    下ノ四ウ5・ルビ         言傳{ことづけ} → 大成162下11 言伝{ことづて}    下ノ九オ2・           歌妓       → 大成164下7 歌奴    下ノ十八ウ6・濁点欠落      さんじ      → 大成169上5 ざんじ    下ノ十九オ6・ルビ欠落      仕やうが。    → 大成169上12 仕{し}やうが。    下ノ十九ウ1(データでは下ノ十九オ)          ・ルビの濁点欠落   茫然{ほうぜん} → 大成169上14 茫然{ぼうぜん}  ページの異同    跋「丁なし一オ」→ 大成の跋「二オ」    跋「丁なし一ウ」→ 大成の跋「二ウ」    跋「丁なし二オ」→ 大成の跋「一オ」    跋「丁なし二ウ」→ 大成の跋「一ウ」