客物語 凡例 ・左注は【】にて示した。 ・「(カギ)で示した。 ・@部分の注は最後に付した。 ・洒落本大成との異同も最後に付した。 --------------------------------------------------------------- じじょ あやしきをみてあやしきとせざれば。おおもんのまちぶせも。そのあやしきすがたはなけむ。 きゃくをふるゆきのゆうべ。 よこにゆくそぼそぼあめのあしたせきばくたるいつづけびより。 いざやみじまいべやのきゃくものがたりなさんと。 みせあんどうのひかりをとって。ながとうしんのひゃくすじも。ぎりとなさけのふたすじみすじ。 (序三ウ) いとしかあいをとりまぜて。ただひとすじにきえのこる。 ゆきおんなのはっさくはこれゆうれいのではなるか。 こはどうしいしょうこうしさき。 まぶにあうまがときあれば。あんまのふえのひゅうひゅうたるかぜなまぐさくふいてきのじや。 (序四オ) ぞっとするくびすじもとのひやかしつう。 ほれててごわききゃくあれば。またおそろしくてありのおいらん。 うぬぼれきゃくのおてんぐは。きりかけられしもんびのくるしみ。 かのねってつもこころのうらぢゃや。 はこちょうちんのおくりおおかみ。ねらうはきゃくのあしもとにてくるかこぬかとおるゆびも。かみもろともにきりかぶろ。 (序四ウ) ばかさるるあり。ばかすあり。 それこそいっこのばけものやしき。 ここにいたってたいじするものは。はこねからこっちのせんせい。 かならずたましいをうばわるることなかれ。 おやのいけんもやみくもに。まよえばたちまちつれないのしたをだしてひっこみかむろ。 (序五オ) みをつきだしのかさいっかい。 しんじょうぼうにふりそでしんぞう。 これをむこうのひととやよばん。 ああおそろしいかな。 ひとをまどわすのももんがあ。 うそとまことのしょうたいをいまあらわしたるいちぶのありさま。 ああら (序五ウ) あやしやな ちゃちゃんとしかいう かみばなくらうひつじのはるはつぶみのころちょっとしちけんのろうにのぼって しきていさんばのべる (序六オ) けいせいかいだんきゃくものがたりそうもく だいいっかいばけものやしきのふるあなをうがつこと つけたりこうまんのてんぐおおいににかいをさわがす だいにかいどんすだいじんあやしきものをとらゆること つけたりぜんせいのおいらんゆうれいとちぎりをむすぶ だいさんかいふるだぬきのこっちょうきゃくじんをかきころすこと (序六ウ) けいせいかいだんきゃくものがたり はつご しきていさんばしるす 「けいせいにまことなしとはわけしらずめぐろにのこせしひよくづかとははやりうたのびげん 「しんではなみがさくならばひよくづかにもさくわいなとはじょうるりのきんげんなり そのかくろんのすいぶすいをきゃくとまぶとにひきわけてはりといきじのふたみちにみがきあげるはほっこくのきみならでやは たれがこかふりわけがみのころよりもしんきくがいにみをしずめたつきもしらぬひとなかにおぼつかなくもなれそめてしげりみどりのともよぶこどり (一オ) さるにてもあわれとおもうわけじりにこわめしそばのせわたのみひっこみかむろのなもいつかふりそでばんしんのこうをへてはやぬしとなるへやざしき やぐしきぞめはいうもさらもんびのしまいたたみがえちゃやほうばいのぎりのしがらみなおしもふえるきがねきづかい こわきやりてがめをしのびまぶはつとめのたのしみとたがいにこころあかしあいせわになるのをあねといいうきをかたるをいもとよび そのひをおくるくるしみもこうふんすいたいにおもてをかざり (一ウ) こまげたともんがらいりたるたんすながもちごもんとのおじぶつのごとくかがやき せいざんりゅうのいけばなはとこがけのせったんをおおいとうこうががくこぶつとなりて なでうしとともにひぞうなり ちんきんぼりのきじょうにはせいごげんごまぶちのかきいれぼんにしおりをはさんで ひゃくいんのかいしきょうかのすりものとよこたわり いんめいがぼくちくちょうめいがらんをうつしてぎしとうばのくぎのおれ うせきこうたくがめめずをかくはわかんとつかぬちゃらようのひっぽうか。 (二オ) そのたまずさのつたなからできゃくじんのながおをみくだしばんじばんしんにまかせてこころうんじょうにちかくさけとかねとはどこからわくか おあしのかぞえしりたるをしらざるとしてしらざるをしりたるとするにたやまのみちをてらすやなかのちょうちゃやがすだれのなかぞゆかしき ゆかりのきゃくようちょうたるおいらんひまんたるしんぞうもろともそとはちもんじつらなって かげんしょうごのこえしばらくもやまずおはいおはいのかみたちひきみんたんのにんちくりんをほっしたいとうが (二ウ) きょうげんらんぶらんせきざしきにしまをなしますみがみょうおんやまびこにひびくはかねか いりあいにはなぞさくなるくるわのふうけいせんきょうとやいわんらくごくとやいわん しゃかもこうしもいまのよにいてみるならばうつつをぬかしいろをしきとしてけんにやかえん さればりゅうきゅじんをむたびみたおやじもしどうかねをいちやになげうちひもののあたまをだしにつかう かんりゃくむすこもいけんせっかんをやぼときらってなじみふかまのまことをたのしむげにや (三オ) ゆうべのだいじんはけさのかみくずひろいとなりきょうのあんまはいちやけんぎょう かわるははやきばけものせかいひとたびおおもんをくぐればないしょうのからきをわすれ たちまちわがみをうつせみのからりとたがうたましいははやもぬけしてたのしみにおいをわするる [わかなやがひとかまえ]だいいっかい <○よざくらはいまをさかりとゆうぐれどきしきそめのきゃくじんありとみえたけむらのせいろうはどぶのうえにやまをなしてたれさまのさげふだてんすいおけとななめなり> (三ウ) わかいもののそろいかかえがかわはおりといろをあらそうおりしもつきだしのおいらんのあって はつどうちゅうのちゃやまわりなればおしょくをはじめほうばいじょろうきょうはみたてのつれどうちゅう いまなかのちょうよりかえりとみえてはこちょうちんをまんとうのごとくつらねかぶろおおぜいにこごりのごとくどやどやとかたまりくるそのあとへ しんぞうひとむれうちのまえへくるとわれさきへかけだし やれうれしやかたくをのがれたというあんばいでしきいをまたぐ ひきつづいてつきだしのおいらんやりてがかたへてをかけて まだちとたらぬそとはちもんじそりみになっていりくるあとにつづいて ほそみにひとつぶえりのおいらんたちつんつんぜんとしてくりだすはるかのあと そなえはいあってたけからぬこのいえのいちまいかぶ> ■よびだしわかくさ <うわぎははないろしゅすにえびをぬいたるすそもよう したぎはもえぎもおるのがくむくねずみじゅすにひちりめんのうらをつけたる しごきがみはひょうごむすびくしにまいとかんざしはっぽんはとうじのおさだまりなり しんぞうよにんついのいしょうのふたりかぶろばんしんつきそいうしろのほうからちょっとおいらんのえりをなおしじぶんもえもんをつくろいてかどぐちへくる> (四オ) [かかえのしごとし][わかいもの]<ぎゅうだいのわきへならんでことばをそろえ> これはおいらんおはようござります [わかくさ]あいいっそにぎやかでようすね <とめもとににっこりあいきょうをあらわしすっとないしょへいく> [かぶろこいの]<おいらんのなかおりのこまげたとしんぞうのげたといっしょにいくじなくさげる> [ばんしんわけざと]こんな。そりょをもってったらのあのれんじのわきへまあおきゃよ。 そしてつちのとさんのとけへいって。 あのおいらんでもうしいす。 りつうさんによくおいでなんしたのちほどまいりいしておめにかかりいしょう。 たんとおたのしみなんしと (四ウ) それからのまあよくききゃよ。 あのわけざとがもうしいす。 このあいだおやくそくいたししたものはどうでおざりいす <となんだかくだらねえことをいつまでもいう> [かぶろこいの]あい [ばんしんわけざと]さあはやくいきゃよ 「<ないしょにてはていしゅちょうばよりとびだして> [ていしゅ]これはみんなおはやかったの さあさあこっちへこっちへ どうだなかのちょうはにぎやかかの [わかいもの]あいきついひとごみでおざりいす もうようようでとおってまいりした [ていしゅ]やれやれくたびれたろう それまあゆへへえらねえか げんべえやげんべえや これげんべえはいねえか (五オ) [かぶろ]げんべどおお引 よばっしゃるよおお引 [ていしゅ]ちょうはちでもいいわ ちょうはちちょうはち [ちょうはち]はいはい [ていしゅ]ちょうはちか ちょっとそこへなんぞだしてくだせえ [ちょうはち]はいはい かしこまりました [くるまいど]ぎいぎい引 <わかものはだいのものちゃやのおくりものとひきちがえてうなぎやのあつらえはおかもちにもちきたり たけむらのじょうあんまきせんべいをたかつきにつみあげてもってきたりしがしんざんとみえてぎょうだいのわきでうろうろするを> [やりて]これこれ たけむらがこっちへよこさっせえ ついでにまめこりんをひゃくがたのみます <とはうぬがちゃうけにするのなり このたかつきはちょっくりきゃくじんのくちふさぎとみえたり> [かぶろ]<ふろしきづつみをかかえてげたをもってまたぎのせまいはしごをおりながら> かのとどおお引 おいらんでよばっしゃるよ (五ウ) [かのと]おいこんだあどけえく [かぶろ]どこぞのだるまのえんのしたへいかあ [かのと]しったかすかねえぞよおお引 <あんずるにくめんのわるいおいらんがななつやへやるつかいならんか ごけんぶつのくんしごすいもじくださるべくそうろう> [たいこもちうきよいのすけ]<にかいからしゃれながらおりてきたり ずっとないしょへくる> きょうはおめっとう [ていしゅ]あい。 うきいさんか。 きゃくじんはおやすみなすったかの [たいこもちうきよいのすけ]はいただいま ときにこのあいだは。おうたはどうでござります <とかたさきからすこしへこんですわる> [ていしゅ]いそがしくてさっぱりさ ほんにきのうおたまがいけまでついでがあったからぜんすけにもたせてやったっけが [にょうぼう]<ちょうをつけながら> あいたしかせんせいはおるすだといいやしたっけ (六オ) [ていしゅ]ふむそりゃあそうとうきいさん またけいぶつてんのへえけえがはじまるよ [たいこもちうきよいのすけ]へえそりゃあみょうでごせえすね ちとまたよくこころとでかけましょうかはははは さようなら <とたかちょうしにておもてへでるとであいがしらにはんかつうふたり> [そそう][ぶこつ]いしょうつきはたいがいごすいりょう <ふたりながらくちりめんのふろしきづきんをくびにまきそのうえにさらしのてぬぐいをくびにしぼって いっこうねうちのないおたちをきめてすこしみじかいぱっちをむりにひっぱってはき さんどばかりあらってすこしつぎのあたったたびさんまいうらのしもふりはなお ちゃやのまえをようようにぬけてきてかけかまいもないじょろうやのまえをわざとかくれるようなみぶりをしてうれしがるふうなり> [ぶこつ]どうだふきい <とぐっとこうまんなり> [たいこもちうきよいのすけ]やこれはぶこつさますきとこのあいだは (六ウ) [ぶこつ]ほんにきょうまちのまんまだっけ [たいこもちうきよいのすけ]ちといらっしゃいましや あなたよういらっしゃいました [そそう]あい [ぶこつ]こうなぜかえる まあいいわ ちとひさしぶりではなそうじゃあねえか <とはいえどこころのうちではああひょっとあがったらこいつだけよけいだ はやくかえればいいとむなざんよう> [たいこもちうきよいのすけ]<ぐっとみてとり> へいありがとうございます ただいまちょっとごじゅっけんまでさんじますから [ぶこつ]ふむそんならはやくいってきさっし まってるぜ これちゃやべえりはおおきにあやしいぜ [たいこもちうきよいのすけ]いずれなははははしかしせきしょをこします (七オ) [ぶこつ]こいつはああやまりだ [たいこもちうきよいのすけ]さようならぶこつさまへいあなたさま [ぶこつ][そそう]うきいのちにあおう <ちゃんとなかのまのとけい> <○にかいのあがりぐちにはかぶろにさんにんだしものをひきてすりへよりかかってはしごのしたをのぞき> さがりい引す <とうつむいているうしろのおびへひとりのかぶろひきさきがみをながくむすびつける> [かぶろ]<ふりむいて> かのえどんよさっせえ こんたはよくいたずらをするぞよ <とひらってでむねのところをたたく> [かのえ]<なきごえになり> おやおやおやあむねをたたいたからさんねんいきねえよ これよくしてくだせえ やりてしにそういうからいい <とまたひらてでふたつみつたたきあう> [かぶろ]これどうする [かのえ]しらねえは <とろうかをおいかけおんまわすところへあきざしきよりひょっくりでるはしょうめいいけどりのしょうづかのばあさんからつりをとりそうな> (七ウ) [やりて]これこのがきめらはなにをしやあがる えええもいってもいってもきかねえやつらだ おれがきがいいからなおつけあがりやあがってからに。 うぬらあうぬ。 どうするかみやあがれ。 それきりきりうしやあがらねえか <としかりつけてろうかのかみくずをひろってれんじからうちやりたちまちにっこりとかわってこちらのざしきへはいる さだめてさんかいめなるべし> △なかほどのざしきにはしんぞうのはいりましておさだまりのげいぞうありといえどもよにあるしゃれぼんにゆずりてこれをりゃくす △おもてざしきにはきゃくじんなきとみえておおぜいよりたかってべらありべらありとなぶりぐいをしながらきゃくのうわさとうちなかのことをならべている そのこすみっこにじしゃくのけんさきというみであんまにひねらせているはここのうちへとまりがけにきているおとこなり ただしひるのうちはにかいをゆるしてもひぐれよりはきゃくのほかあげぬものなれどもよっぽどのいろけなしとみえてしょうでんをゆるされたやつなり (八オ) [ふうが]こうみずのとさん おめえのくちのはたをみな こじきのえんまというくまどりがあるぜ [みずのと]ほんだんすかえ おやばからしい さっきいそいでふみをかくときつきいしたろう いっそつらいぞよおお引 [ふうが]なにそれにつらいがはいるもんか [つちのえ]ぬしやあくちぐせになんなんしたよ [みずのと]それだってついくちがすべりいしたものを [ふうが]おおかたきょうのそうざいはあぶらげののっぺいにくじらのこまじるだろう [みずのと]よくさがしなんすよ おやちょうしのふたがみえんせん (八ウ) はやくたっておみなんしな またなくなるとないしょでしかられんす <とすずりふたもはちさかなもてのおよぶだけはあらしてしまいかんざしでようじをつかいながらたかのつめをほうじている> [ふうが]<はやかんがちっぷうとこぼれるゆえふたをとる> どぶがわさんそこにあるしろいものはなんだ ぎょくろとうじゃあねえか ちょっとくんねえ [どぶがわ]これかえさあおあんなんし <とつまんでだす> [ふうが]<ひとくちくってかおをしかめながら> ぺっぺっああこいつああおそれる おらあまたぎょくろとうだとおもったらはなじおだ やっさおきやあがれ ああむねがわりい どぶがわさんおぼえていねえ [どぶがわ]それおみなんし あんまりいじがきたねえからいいきびだんす (九オ) いまじぶんなにぎょくろとうがあるものか [おおぜい]おほほほ <おりからろうかをばたばたとかけだしてくるしんぞう> [はげやま]おぼえていろちくしょうづらめ <とすてぜりふにてこうしんのきかざるというみにてしゃがんでいる> [どぶがわ]はげやまさんなにかはしゃぎなんすね [みな]いっそそわそわしてみぐるしいよ [ふうが]なんだはげやまさん にわとりへふところをにぎらせていろおとこのくいあきをしてえというばんだの きゃくいろのしょくしょうはあとがむずかしいもんだよ こいつあわたしがごいけんだ [はげやま]それだってもいっそけんばさんがなぶんなんさあな (九ウ) あのやっこづらはほんにくちがにくくってなりいせん おやここにもくちのわりいひとがいさしったっけ ふうがさんまだいなんすかえ [ふうが]まだというせりふはあんまりつれねえこった ははあごうせいおそるべし そうしたところはすいどじりのじょうとうろうときているわえ [はげやま]なぜえすそがひらってえというこっだんすかえ。 ようすよ。 かんにんしておやんなんし [ふうが]こりゃあいいおおてんちげえだ (十オ) りっぱにつくりたったというきどりだわな [みずのと]またひさしいあわせかがみさ ぬしのせじはききあきいしたよ あげたりおろしたりにちょうめにあったほりぬきのようでおざりいす [ふうが]おやごうぎとしゃれがごじょうたつだ こいつはにちょうめだけあたらしいわえ [つちのえ]こんなこんなそこをとおるはだれだ [ふうが]そこをとおるはちょうしゅうじゃねえか [かぶろ]わっちざんす [ふうが]おきやあがれ [つちのえ]つむじかちょっとはなのをよんでくりゃ [かぶろ]あいい引 (十ウ) [どぶやま]はなのといえばあのこはないしょのねこにねずみっこをとられたとってめそりめそりないていいした [みずのと]またおいらんにきかれたらしかられんしょう あれほどきらいでいさっしゃるものを [ふうが]<はまじりはまじりしていたりしがながくずりいだしてげだんのとをあけるとほとけえのひょうぐがかけてあるまえにおぶっきがぶちかえっている そばにはしたぜにがよんもんぜにまじりにごろくじゅうあり そのわきにかんろばいのまげものふたちゃわんになまづけのこうのもののうえにちゃやのにょうぼうのふみあり> こいつあみょうこいつあみょう <といいながらかんろばいをなめてしたなめずりをしながらまたなまづけのこうこうをかじる> [つちのえ]おやふうがさんおぶしゃれなんすな おいらんにもうしいすよ [ふうが]おっとそういっておめえくおうとおもってこうごしょうだからおんみつにしてくんな (十一オ) <とまたひときれとってあとのとをしめる> みずのとさんでえぶがんしょくがわりいぜ ひぢりめんのしちあけゆきのなかへしょうべんといういろだ しりぞいてかんがみるにいろきゃくにわかれてよりさるほどにさてもそののちというかたりだしだろう きついとやについたしんほいそうじゃあなかった おめえぎょうずいにでもなったか [みずのと]よしなんしばからしい ぎょうずいになりゃあいろのわりいもんでおすかえええ (十一ウ) すかねえすかねえ <ときせるでぶつまねをする> [ふうが]ああやにがかからあ つけねえこったがここのびょうぶはだれがかきやした [つちのえ]たしかたなかのべんしんさんでおした [ふうが]ふむこいつはみょうできだ やくしょのかべとはおおちげえなできだ ほんにあんまさんもういいよ [あんま]はいはい [はげやま]おやあのひとはおおきなこえでよんであるきなんすよ ぬしのくるじぶんはいつでもかねよつでおすねえ [あんま]はあいえわたしもおちゃをひきますとはやくとおりますて (十二オ) [どぶがわ]ぬしやあいっそかわいそうだよ めがみえなんせんじゃあおかみさんのかおもわかりますめえ [あんま]なにおまえかかあがかおなどははなでかいでしっております [どぶがわ]おやけしからねえやほほほほ そんならこりょおあててみなんし <とふくろうにたかったすずめのごとくおおぜいにていろいろなものをだしてあてさせる> [かぶろ]<あいびろうどのまおかもめんにもんどころがあるかねえかしれぬほどよごれくさったてんのぬのこをきてたいふうしのふみをもってほうっぺたをたたきながら> きちべえどんこりょおたのんもうしいすと [きちべえ]なんだおへんじか なぜこんやだす あすのあさでもいいのにこいつはあたらしいな (十二ウ) <とにかいのあがりぐちのてんすいおけのわきでふみをとりわけている> [つちのえ]こんたあいまけえったか [きちべえ]はいただいまかえりました ちゅうさんからおてがみがまいりましたっけ [つちのえ]ふむそしてこんたあまたえどへいくついでがあるならちとたのまれてくだせえ [きちべえ]はいはい [ふうが]なんだまたじたんぼうじゃあねえか もううるせえしゃれぼんにもかきつくしたもんくだ [つちのえ]うっちゃっておきなんし どうでおなじところへおちていくからさくしゃもかきにくうおだんすとさ ぬしのしったこっちゃあおっせん (十三オ) [ふうが]さあさあおおへこみおおへこみはりこのだるまへむねげりをくわせたというもんだ [かぶろはなの]ふうがさんなぜきのうのものをおくんなんせん さあいまおだしなんし おくんなんせんとくすぐりいすよ [ふうが]ああこれうるせえよしてくれ。 そうされるとからだがかのこまだらだ これてめえのかおをちょっとみや それへっついのこそくりみずがめのもりをとめようというぬりようだからべちゃあねえ くびとどうとのぞきつぎがあきれらあ (十三ウ) しかしそうはいうもんのうたまろがおおにしきへでるのはいまのあいだだろう <とはいえどもこのことばはいっこうにわからぬゆえねっからおちがこず> [かぶろはなの]なんでございますとえ そんならあのにんぎょうやのしょうどんがきたらかっておくんなんし [ふうが]むむやるというにさ ないしょにおいたからのつちにやろうよ [かぶろはなの]ほんざいますかえ そんならあぶらじゅうもんじおやのあたまへまつさんぼんをしなんし [ふうが]これまあちっとだまりや おくのほうがなにかそうぞうしい。ようだぜ (十四オ) □それはさておきおくざしきには [ぶこつ]<しごかいめとみえるきゃくぶりできもせぬきょうかはいかいをむしょうとひとにきかせたがるふうにてごちょうまちみんなちかづきなんでもしらぬというをはじにしてけいこじょのせわかしら きょうげんのかわりめをみっかもはやくしるをぐっとこうまんにしてばんじかすりへまわるをつうとこころえやりてとかごかきにいやがられるじんぶつなり ねずみやのきせるにごもんめごじゅうのとめをくらいいちりょうばかりのとこはなのかえしにきたたばこいれを みせかけふとんのうえにおおあぐらでやくしゃつきのざかしらおとくようたびかたをあきなうというてつきをして なにかりくつをならべるそばにくろうすけいなりのあまいぬというみでわかいものつくばっている うしろのほうにはうたかるたをはちぶされたみょうだいふりしんけげんなかおをしていまいねぶりががさめたというかおいろ> [ぶこつ]こうわけいしやなにもこんたをひきつけてふるいすじなきょうげんにやまもわからねえほんよみをするじゃあねえが (十四ウ) ぜんてえあのおんなのこころいきがおらんだもじのかなあみるようにわるくからんでさっぱりとわからねえ これがしょやうらならまだしものこと [わかいもの]いえさそこでござりますから [ぶこつ]はてききっしおなじみがにひよろしくとひなたぼっこのうるしかきでまんまるにかきまわそうとはぬしがつけくのあたりめえだか そりゃあはやこととすべによったらもれえびきもねえことじゃあなし たとえかんしゃくのむしががってんしねえでもすいどうのみずかげんでせんじようつねのごとくにさっぱりとそいつもしょうが (十五オ) いっぺんぎりほとけのかおもさんどとやらでにへんとなっちゃあしなたまのえへんとちがってたねがつきよう おいらあだいこくめえのこびはちじゃあねえがおぶさってくるなどというきたなびれたあそびいはしんぞっこのおけらさんよりはもちっときんもつだ しらっきりなしょうがにゃあこよいいちやはおれがつまというばもあるがそんなやぼはいわねえよ (十五ウ) [わかいもの]それはもうあなたがおっしゃりませんでもわたしどもがしょうちいたしております せんじついらしったおりもあいにくなきゃくじんでよんどころなくおもらいもうしますし またこんばんもとはどうももうしあげにくうござりますがごじょさいのねえあなただけにあまえましておねがいもうすのでござります (十六オ) <とてぬぐいをひざのうえでひねくりまわしてかたへかけてみたりまたはずしたりたたみのちりをひねってこちらをむいてひたいへつけしりをもじもじしている> [ぶこつ]ねがいをきかねえなでうしじゃああんめえし こんなにしみったれたふとんのうえにつくねんとしているとはまあおいらはごじんたいがつりあわねえおひとがらのすたったことだが このふとんもはっさくのしろむくからにどばかりいろあげをしてななつやのくらげえもとどとしあけまえでやっとふとんにへんじたのだろう (十六ウ) ああいうじょろうにかぎってわかいもののおびをかりてはひるみせのあいだにあわせしたぎといっちゃあはんえりとそでぐちばっかりとりかえて いくたびもはれをさせはりつきのからくさをしょってきらずのひゃくまんごくもとったつらをしてすけんのくちごたえもうるせえやつだ えどっこのありがたさはおんばちちいっぺえのじぶんからこのさとへいりびたってじょろうのしんてということだあ おいらがはらからおしえてやるのだ (十七オ) ごてえそうだがぶこつさまといっちゃあだいちょうかしみせいうにおよばずどこのうちへいこうがいちどもはたいたことがねえ あげやちょうのゆはとめゆにしてかどにいるせったなおしがしまってけえるじぶんから あしたのあさはみのわだちょうのおはりばばあのくるじぶん ちゃやのこたつへふんごんでむかいざけのゆどうふをくいなかのちょうへこえとりがならんでわかいもののしおをもるころは (十七ウ) しらかわよるふねでいるくろうすけいなりもしっぽをちぢめてあさひにょらいもしょうらんあれといっちゃあおつなせりふだけれど おらああんまりしかたがおもしろくねえ <とからくりのいいたてへやくばらいをこたまぜにしたるごとくとうとうたるべんぜつへらりへらりとかみそりのごときしたをひるがえし わかいものひとのみとしやれるところへいちざのきゃく> [そそう]ああよった <といいながらしょうじをあけ> ぶこつさんなんでごぜえす [ぶこつ]おやかましゅうごぜえしょう (十八オ) おめえのおいらんへよろしく [そそう]なにさおめえ <とこのそそうがことばはすこししずかによむべし> [ぶこつ]ききなせえ あのじょろうのしかたが [そそう]いいえさせんこくからわっちがところへやりてがきてなんぶんわりくどいてたのみやしたからそれゆえわっちもなんぶんおそなわった しかしおもうこといわでやみなんもはらふくるるわざとやらだからなんぶんいうもようごぜえすが こんやこのとはなんぶんいっせきのろんにあらずだからなんぶんわっちにおあづけなせえ (十八ウ) いずれあすのばんにもきてこのあとまくはわっちがきょうげんをかきやしょう なんぶんわっちがこころいきをおいやましくもよしなにおくませというところだ まあまあそれにきめてくんなせえ <となんぶんなんぶんわっちわっちということをうるさくならべる> [ぶこつ]こりゃあおめえのいうこったからまんざらおれもつきあいをしらねえでもねえが [そそう]はてさようごぜえす (十九オ) なんぶんきょうちゅうのありやす [わかいもの]<せんこくよりいっこうくちもだされずききやくになっていたりしが> あなたさまよろしゅうおねがいもうします [そそう]あいあい こうなんやわいしやこんたあ まあしたへいかっし おれがなんぶんあずかったからまんざらにもしめえ [わかいもの]はいはいそれはありがとうござります いずれよろしゅう はいぶこつさま <としびれのきたところをてをついてやっとたちていくひきちがえて> [やりて]これはもうあなたさまありがとうおざいます もしぶこつさまえこよいはさぞおはらだちでおざいましょう (十九ウ) ごかんにんなすってくださいまし もしへこぶまきさんへおだいじになさりいしえ <みょうだいふりしん> [こぶまき]<うっかりとしてぶこつがかおをまじりまじりとみていたりしがきゅうにきがついたように> 「あい [やりて]<しんをよびだし> もしえむずかしいときのみょうだいはわけておいらんのためでおざりいすよ <とこごえでいいきかせ> 「へへへへへはいさようならごきげんよう <くちのなかで> いまいましいと <いきすぎる> ○<あとはさんにんこううしんのきかざるみざるいわざるにてさるとはつまらぬさるまつきゃくきからおちたるふりそでしんぞうおおかぜのふきたるあとのごとくにてよるははやごこうのころなれば (二十オ) うわぞうりのおとしばらくたえたなかのかわずねずがあぶらをついでまわるもろうかのおとのしばしばにやりてがもしえとおこすこえ もてたよどこのぼちぼちもふられたとこのはいふきもみょうだいのいびきにひびきはるかどてのあたりときこえていぬのとおぼえものさびしく ぞくにいうふうりんそはこのさとでいう> [おかくらのこえ]そばあいそばいい引 だいにかい ほくほうにかじんあり ひとたびえめばそのしろをかたぶけ ふたたびえめばそのくにをかたぶくとはびじょをほめるからうたをいまのゆうりのなによぶもいやとはいわれぬいろすがた (二十ウ) しかもほくしゅうみずあそび いきとはみずのいさぎよくしょわけしかたのいきとどきこころをこえによませたり やぼとはがちのかえなにてみずにうつれるかけのつきもと ほんたいにあらざればとりところなきうつじんのきんかひからすびんつきやいとによるものならなくにやなぎにうけてあいしらういちざのものがなるくちのさけびたしなるおおさわぎ のめやうたえといつよりもめれんになってどんすだいじんきょうわかくさをもてなしとて (二十一オ) きをなぐさめのおおぢゃわん なにがなごきげんとりがしにほんまのとこにいなおれば <よびだしおいらん> [わかくさ]<みすがみをくちにくわえてちょいとよこづまにて ごしきはなおのうわぞうりをはきろうかをはたはたとちょうずにたちていく> いろゆえにみをばぶすいのいのすけがむかしはひとにもたせたるたいこを いまのよわたりにうきようきよともろびとによばれてここへきさくもの それにつづいてかみこのりはちたこのきちべえらんじゅうらんじとうべえでんしちいうもさら (二十一ウ) なだかきたゆうたいこもちおんなげいしゃ。 もろともにむだをいうありしゃれるあり みなみなびょうぶのかたかげにここをせましといならんだり <ほどなくおいいらん> [わかくさ]<ちょうづよりかえる> [げいしゃおおぜい]さあおいらんこちらへいらっしゃいまし <とからだをひねってすこしとおりみちをあける> [ばんしんわけざと]おいらんさあおめしかえなさりいし <とねまきをわたす> [わかくさ]<ねまきをきがえるどうはひぢりめん まわりはもをるにてねずみじゅすににうらのつきたるしごきをしめる> [ばんしんわけざと]<おいらんのきものをぬいだままにてそばのいこうへかけたばこをすいつけちゃやのにょうぼうへいだす> [ちゃやにょうぼうおてつ]<いただいてのみまたいっぷくついて> おいらんといだす <このうちさまざまのしゃれおかしみありて> [ちゃやにょうぼうおてつ][げいしゃ][たいこもち]はいさようならごきげんよう (二十二オ) <とみなみなたちあがる> [わかくさ]おさらばよ <といったばかり> [ふりしんふるかわ]おてつさんおぼえていなんしえ [ちゃやにょうぼうおてつ]またあんなことをいわっしゃるよ なにをおぼえていますえ <といいながらはいりぐちのはきものをてでにとる> [ふりしんふるかわ]よくこのあいだおいらんのところへきなんせんね [ちゃやにょうぼうおてつ]おやあんなことをいわっしゃる あれほどまいりましたものをや [ふりしんふるかわ]いつえ [ちゃやにょうぼうおてつ]はなさんのおざしきをしまってまいったらおまえさんすずりばことそうしをまえにおいていねぶりをしていさしってからに [ふりしんふるかわ]そりゃあほんだんすかえ (二十二ウ) おやおやよくうそをつきなんす [ちゃやにょうぼうおてつ]いいえほんとうでございますよほほほほほ [ばんしんわけざと]おかさんおさらばよ [ちゃやげじょ]<かみさまのはきものとじぶんのとひとつにもち> はいさようなら <とみなみなやりてべやのまえへいきてまた> はいさようなら <とこしをかがめてはしごばたばた> 「<うきよいのすけはこのどさくさのまぎれさいわいあとへのこりてあきべやへしのびいる つぎのまにばんしんかぶろばかりにてみすがみをふとんのあいだへはさみびょうぶをたてまわせば しばらくけいちゅうのこんたんはさくしゃがおあずかりもうしんす> [ばんしんわけざと]<おいらんのくしとしのぎをわりがみでぬぐいそのうえをみすがみへつつんでくるくるとはこへしまいながら> 「これゆきのや そりょをしまったらのすいどうじりのみょうがやへいってかんしょうがをかってきや (二十三オ) ちっときりきりしやよ <といいつけあたりのひとめをしのびそっとあきべやへいく> [ばんしんわけざと]<こごえになって> ふすいさんかよくまっておいでなんした さぞきゅうくつでおざりいしょう [たいこもちうきよいのすけ]わけざとさんかどんすさんのとこはもうおさまりやしたか [ばんしんわけざと]あいいまおよりいした もしふすいさんへおまえさんのおこころじゃあ さぞつらいこっておざりいしょうがむかしはむかしいまはいまたとえひとなかでどんなにくやしいことがありいすとも おいらんのことをおもいなんすならばじっとしんぼうしてつらいつきひをおくらしなんし (二十三ウ) はておまえさんいつまでそうしたすがたでもおだんすめえ またおかんどうでもゆりいしたらいまのしんくをむかしがたりとうめがえのじょうるりにあるとおり それをたよりにおたのしみなんしてかならずかならずたんきなことをなさりいすなえ [ふすい]いやもうおまえのおこころざしはありがてえともうれしいともほんにおれいのいいようもねえ わかくさはそのはずだがかけかまいもねえわたしがことをそれほどまでにじつをつくしておもってくんなさるとは (二十四オ) たとえあすがひしぬとってもこのおこころざしはわすれねえ [ばんしんわけざと]なんのおれいにおよびいしょう つねからきぼそいおいらんのうまれつき ひょっとまあつきつめたことでもあったときはあとにのこってわたくしがどうまあくげえがつとまりいしょう それがこれかとおもうにつけてもなおおいらんがいとしぼく はてあねじょろうのみのうえにどのよなことがおざんすともともどもちからをあわせやって (二十四ウ) せわになったりなられたりするのがくがいのわすれぐさでおざりいす それにつけてもおいらんにくれぐれいけんをいたしいした あのどんすさんがきさしったらどうぞしてごじゅうめほどのむしんをおいいなんし そうすりゃとうぶんのしのぎにもなりいしょう かならずかならずほかのきゃくじんにあしくあたりなんしてはないしょのてまえやりてしのおもわくちゃやはもちろんどこここもひとつにわるくなりいすから (二十五オ) おまえさんのみのつまることでおだんすからずいぶんこころをしかってもちっとはりをもっておいでなんしともうしいしたら なみだをこぼしておききなんした おもいだしいすともうもうわたくしがむねがいっぱいにはりさけるようになりいす <とほろりとこぼすひとしずくはいもうとじょろうのひとすじにせいいっぱいのしんじつなり> [ふすい]なにからなにまでおめえひとりのここづかい いかにとしがいかねえでもわかくさもあだやおろそかにはききやすめえ (二十五ウ) [ばんしんわけざと]こうしているあいだもひとめがうるそうおだんすからはやくおかえりなんし こよいもまたわたしがしゅびしておあげもうしいすからいつものところへそっとしのんでおいでなんし <となにからなにまできをつけてじょさいないしょをうぶせくもしのびでうきいいはかえりける> △[それとはかわるどんすだいじん]ああごうぎとあつくなった <とうわぎはぬいでゆうきつむぎのあいぎしたはりゅうもんおなんどがえしやなぎしぼりのきぬじゅばん くろななこのおびをまえでむすびしねまきすがた> [わかくさ]<がもとへこのだいじんはなはだのろくなりかよえどもきにいらぬきゃくじんなればためになるのもうちすてて (二十六オ) ふちょうしなることばかりゆへばんしんにいけんをされよんどころなくくちをあわせている> [どんすだいじん]ああよったぞよったぞ なにがかみこやどうべえめがむりこじつけにのませおったによってごうぎとよったよった ああふうげいふういやまたのたまくでいうのではないがかねとこころとおとこぶりとみっつそろったものがあらばくがいのつらいこともあるまい そこでわれらがもちこまれるのじゃ ああうるさいうるさい のうわかくさこれどうおもっていやるぞや <はははははとはないきあらくよりそうはちっとむりなたとえなれどもとらにおっかけられたておいじしのごとし> (二十六ウ) [わかくさ]<ふしょうぶしょうに> いいえもうそりゃあおまえさんがおいいなんせんでもぞんじておりいす だんなさんをはじめちゃやのごてさんはいうにおよばず ぬしがおいでなんせんとほりのうちのにってん【にちれん】さんへがんかけやらしおものだちをいたしいすやらほうばいちしゅうもてんでんに どんすさんはなぜおいでなんせんとあすこやここのへやべやでかいろうびをしばったりかみでかえるをこしらえいしたり やれさかずきをしめてしばんなんしの (二十七オ) <[さくしゃいわく]まちびとのまじないはさまざまあれどもいまもっぱらもちいるほうは ○うなぎをいっぽんくいそのくしをきゃくのなをかきたるかみへさしたたみのよつつじへさしこみてあとをふみつけておくなり またほうれいこくときゃくのなをもとゆいがみへかきそのうえへびんづけをまぜおはぐろにてかきまわしかきまわしにるなり そのあとはまたたたみのよつつじへいれてふみつけおくなり これいたってひなりといへどもさるおいらんにききがきしてここにあらわすなり> とおおぜいよってさわぎいすよ ほんにおまえさんはくるわにおすまいなんしておやどへあそびにおいでなんすようでおざりいす [どんすだいじん]いやそいつがおれがたのしみだがさてさてゆうじんとつきあうとまいにちあそびでいそがしい きょうもこげつとまんようしがうたのかいからまわってきたがあしたもまたせんりがところへちゃのゆにいく (二十七ウ) あさってはなおいそがしい にゅうぼくどうがしょかいとたんせいががかいがおちあってぜひにというからいかねばならぬ そうするとそうろくとしろべえがどうぞえのしまかまくらへおともいたしたしという さてなにからさきへしようやら やれやれつうといわれるもかねもちといわれるもうるせえうるせえ おらあもうはしのしたにこもをきているやつやちょうばにいはってきまじめでいるやつらがやぼでうらやましくてならねえ (二十八オ) <とじまんたらたらうぬぼれにむしょうとのばすはなのした ながよもさとはみじかきにわけてしゅんゆういっこくもまつみとなればながばしごかけじやそでのぬれぬさきつゆにもおじるのきのつま そのつまゆえにこいしのぶじこくもよしと> [うきよいのすけ]<しろしょうぞくのすそよりしたをこんにそめゆうれいとすがたをかえてなんなくうらとぐちよりにかいへしのべば> [ばんしんわけざと]<こごえになって> うきいさんか [うきよいのすけ]わのじか [ばんしんわけざと]さあこっちへついておいでなんし <とてをひきてあきべやへしのばせる> ○<おりからとなりのじょろうやはよをうちあかすきゃくのしゅこうつるががこえのしんうちぶし> 「ながきながよもふけゆればきたけもねぶるおりよしとねまきのままにわかくさは とこをぬけいであきべやにしのびてひとりいのすけがふぜいみるよりすがりつき なみだにじつをあらわせり (二十八ウ) [おおぜい]やんやああ引 <こちらのあきべやには[わかくさ][うきよいのすけ]ふたりさしむかいにてさまざまのこんたんありといえどもひとめをしのぶこいなかなればくわしきことはさくしゃにもききとれず> [わかくさ]あれききなんし となりでうたうしんうちぶし ぬしとわたしがふたりのわけをつつむとすれどあらわれんした じょうるりにまでつくられておなじつとめのひとたちになぐさみものになりいしちゃあわたしはともあれぬしのみがごちょうじゅうへたちいすめえ (二十九オ) [うきよいのすけ]はてさていまさらどうするもんだ うきなのたつはこいじのならいかくごのまえとはいいながらこれわかくさおのしはこころがかわったな。 <とわれをわすれてこえをたかくするゆえはっとおどろきまたひそひそ> いもうとじょろうのかがみといってもおしくねえあのわけざとがこのごろのせわたいていのじつじゃあねえ ほんにかげじゃあ おがんでいる それにひきかえうぬがこんじょう あのだいじんのかねにほれただひつてんとみくびっていまじゃあおれをながさおしたじあそのはずよ (二十九ウ) くちをもとでにかせぎあるくいやしいたいこもちのぶんぜえでもってえねえおいらんといろごとをとはおもってみれど ときどきはむかしのことをおもいだしてああおれもふこうのばちとはいいながらこんなにしがなくなったかと ひとりむしゃくしゃきをもんでもおもてはうわきにみせかけて ざしきざしきのむりざけとなみだをひとつにのみこんでくらすこころのはかなさは (三十オ) けんばんのせんこうよりたちぎえのするほそいみのうえ それもだれゆえせいげんじゃあねえがみんなうぬゆえまよったは <とややはらだちのくぜつのじょかいひとめしのべばひそひそとこえをもたてずおとこなき たたきたいのもおとやせんむしゃぶりつくにもあたりをはばかりはぎしみかんでむねんのなみだ おかめからみるときはつんぼうとおおしのけんかをするようなり ここらがもっともだぞもっともだぞときりおとしのじゃじゃものなり> [わかくさ]これもうしふすいさん むりはおとこのならいといいすがそりゃああんまりうたぐりだんす <とひざにもたれてしのびなみだ> いいてえことはなんやかやいっぱいこころにありいすがなみだでむねがはりさけいす (三十ウ) [となり]しんない「ぐどぐどいうもぐちながらいつぞやしたのひまちのよる だんなさんがたげいしゃしゅうおおくのなかでこなさんのおとしばなしやくちあいにおもしろいざのもちようじゃ すいたらしいとかげごとに [わかくさ]ほうばいしゅうがよりあいなんしてぬしのうわさをなんすをきいてわたしがこころのそのうれしさはとびたつようでおざりいす (三十一オ) すぎしもふたりがうきながたってぬしはにかいをとめられなんす またそのうえにおやごさんのごかんどうをうけなんすし あとにのこったわたしがみもおやかたさんのりょうけんですまされるだけはと おしんでおくんなんしたがそれさえよんどころないわけでとうとうここへくらげえしてとてもいままでのようにあうこともなりいすめえと (三十一ウ) おもひついてのたいこもちさだめてぬしにもつろうおざんしょう ああどうぞしてかうしたらとつえにもはしらにもわけざとさんをたよりにしてなにからなにまでせわになりいす これほどこころをつくしいしてもそんなにぐちばっかりいいなんすからひょっとこころがかわったかと ほんにほんにあけしいひまはおざんせん [しんない]「くがいするみをたてるとてぎりいっぺんのあたつきはけっくこころのもめるたね (三十二オ) どうぞおまえもじつにしてあいとをしたいこいのよく かってなことをがんにねがいだいしさんのおみくじもひにやいくたびうらやさん [うきよいのすけ]ぐちはこいじのならいというがちっともあわずにひをおくるとどうかこうかとうたがいがでてついひとくちもいいすごす むねさえわかればなんにもねえからはらがたったらかんにんしや (三十二ウ) <となみだをそででふいてやる> [わかくさ]わたしもひとのうわさにもぬしがあすこのこうしさきでだれだれさんとさしむかいでおもしろそうにはなしをしていなんしたの そんじょそこのうらぢゃやへはいんなんしたのとききいしてはたきつけられるとしりながら [しんない]「しみじみはらもたつたやまよはあかつきのゆめならではれてあわれぬひそひそごえ (三十三オ) <「いつのまにかは[どんすだいじん]てしょくをたずさえ> くせものみつけた <ととびかかるであいがしらに> [ばんしんわけざと]<てしょくをふきけすしんのやみ> [どんすだいじん]いまのはたしかに [ばんしんわけざと]このごろうわさのゆうれいでおざりいす だいさんかい みのはてはいかにととうもうししまやとはぬもつらきあぶみちょう それはむこうのむさしのをきょうはなやきぞ [わかくさ]はつまにはなれてきのうきょううきなのたちしとがめにてわかなやがべつぎょうにかぶろひとりに (三十三ウ) そえばんのきすけといえばみのうきをいつよろこびにたすけんとおもえと ままにならのさとそれにもにたるこうふくじ [もくぎょのおと]ぼくぼくぼくぼく [ごんぎょうのこえ]なむおみどうぶうなむおみどうぶうなむおみどうぶうなむおみどうぶうなむおみどうぶう [かぶろこいの]もしおいらんのところへあのおてらさんじゃあとうふでもおうんなんすのかえ なんでおざりいすえ <としんくにくらすおいらんのこころもしらずにあどなきはさすがかぶろのならわしなり> [わかくさ]<ふとんのうえよぎにもたれてうすうゆきものがたりをよんでいる> (三十四オ) あれはむこうのおてらさんがおつとめをしなんすのだよ [かぶろこいの]おやぼうさんもつとめをしいすかね もしえそんならおてらにもやりてぼうさんというがおざりいしょうね [わかくさ]おやこのこはやいっかなこってもおほほほほ <とたまたまはうきをなぐさむこころのたすけまたとりあげるうすゆきものがたり> よみくせ「なみだとともにたちわかれしおおな。 おのこのそでをひかえてかくこそよみけれ つきいでばそなたのそらをながむべし (三十四ウ) かたうかはまたおもえみやこじ おとこかえし やみのよはおもいたえなんうらめしや つきなきとてもわれはわすれじ かくいいてたちわかれしたがいのこころのうちおしはかられてあわれなり おとこもしがのさとにさんじゅうにちになるまでひをおくりけり そのあとにうすゆきなんとしてかやまうのとこにふしいまをかぎりとみゆる (三十五オ) <とよめばよむほどわがみのうえにつまされておもわずこぼすなみだのしずくかぶろがみつけて> [かぶろこいの]もしおいらんえ そのほんはあわれでざいますかえ またおしゃくにでもさわんなんすりゃあわるうおざりいすよ [わかくさ]なにさあんまりよみいってついなみだがこぼれたよ ああなんのうそかまことかしれもせぬこのほんをほほほほ <とわらいにまぎらすくちもとめもと。たきがわよそおい。 ひともと。もゆびをくわえんそのすがた (三十五ウ) なるほどななじゅうごもんめではたいきょくむるいのおおやすうり べんけいさんでもこいつはのろくなりそうなものなり> 「<りょうもりおやじ> [ごろしち]はいわかくささまさぞごたいくつでござりましょう おちゃをこしらえましたからさあさあおあがりなされませ <ともなかのつきをちょっとくちとりにだす> [わかくさ]おやおじいさんかならずおかまいなんすなえ [ごろしち]なにさおまえさま わたくしもごぞんじのとおりだんだんのふしあわせでたったひとりのむすめめをおやかたさまへおたのみもうしましたが ただいまではおまえさんのしんぞうになりましてわけざとわけざととごふびんがってくださりますげな (三十六オ) それにつけてむすめめがきのうのふみにもおまえさまをごたいせつにいたせともうしてくれぐれもうしつけてよこしました かならずかならずおきづかいなしにごほようなされませ そこでかのどんすだいじんづらめがおまえさまをしたいおってこんどのそうどうをさいわいにここからうちうちでうけだすといううわさもござります (三十六ウ) はてわかいうちいはにどとござりませぬ そのうえにおまえさまがたはひとよりつらいいろのあきないをなさあるこっちゃによって あああいだにはあわぬこともあろしまたもうかることもあろし そのうちにもそうばがくるへどまあそろばんのたまちがいなことはおよしなされませ てんでんのきにいってあのひとならばていしゅにしたいあれなればにょうぼうにしょうと (三十七オ) そこでしゃんとじきができる わたしがむすめなどもまたかようなことがござりますまいものでもない もしそんなときにはとぞんじますゆえおまえさまのおこころがなおさらいとおしぼうござります やぜんもつくづくとかんがえましたが。 どうしてみてもこりゃかけおちなさるより。ほかにしかたはござりませぬ。 そうじゃてて。おやごたちにもちょっとかおみせて。そしてどこぞしれぬところへみをかくしておいでなされませ。 (三十七ウ) はてわたしひとりかぶりますればどこもかしこもかどはない はてまるいはあたまのやくわん おやじもむすめがごおんほうじとぞんじますりゃ。 すこしもつらくはござりませぬ <といけんおくばにかみまぜてすいをとおしておやじがことば> [わかくさ]は<さしうつぶきしばらくことばもなかりしが> ほんにまあわけざとさんといいそのおやごさんといいおふたりながらこれほどまでふかしいごおんになりいすとは (三十八オ) どうしたさきしょうのやくそくでおだんする いかにそうざんすとておまえがたおふたりになんぎをかけいしちゃあゆくすえがおもわれんす [ごろしち]はておいらんのようにもないそのよなやぼをおっしゃりますな しらがでこそあれいにしえはほんだあたまのしわこそよったれそのむかしはうすげしょうながばおりのはやりだしに うた「よかのんしよかのんしと。しゃれたものでござります (三十八ウ) はははは もうちっとうきうきなさりませ いまにもきすけがかえりましょう きのうちょっとふすいさんまであいずをしらしておきましたがのちほどゆるりとおはなしもうしましょう とすこしはこころはらさせんときさくなおいがざれごとをいう こしくればいおささきやはやてらでらになりわたるしょやのごんぎょうきんのおと しょぎょうむじょうのかねがふち (三十九オ) そこにひびきてむしのねもすみだがわのとおざとにいとものさびしくさぶえのあわれはおなじ [うきよいのすけ]すぎしよよりのもつれごと いまわくるわのうちをかまわれ [わかくさ]がしるべにてよわたりもうきみのわのさとおはりがかたにわびずまいかねてこよいとしのびいで たずねきつれどうちのしゅびあいずいかにとしらひげや ひそかにそこをみめぐりてとぐちによれどかたかたと (三十九ウ) かたわのあしのふるわれしひさしのこかげにしのびいるりょうあずかりの [ごろしち]それとこころへとをほそめぜんはいそげと [わかくさ]をかどへつれいでとをぴっしゃり [うきよいのすけ]わかくさか [わかくさ]ふすいさんうれしゅうおだんす [うきよいのすけ]うれしい <とてをとりいかんとするところへ> さてこそのがすながってんとみちをふさいでじゃまするふたり [うきよいのすけ]こころえたりとみがまえし やあじゃまひろぐおのれらはのりじ [ふたり]かねておきゃくのそそうとぶこつだ (四十オ) [うきよいのすけ]してまたそれがなんでささえる [ふたり]おおわけをしらぬはおどうりさまよ うぬらがおためのだいだいじんどんすさまとないつうしてふたりがあやしいなりふりをみきわめるためのまわしもの いままでつくしたこころのたけむらすっかりまいってじょうあんばい さあじんじょうにこっちへわたせ <とすかさずとりつく[ぶこつ]がうでくびふりもぎってずでんどう> これまちなんし <ととびつく[そそう]> [うきよいのすけ]こうふりあわせたそでのうめ これもたしょうのえんやらな (四十ウ) <とはねのけられてもかまわぬ[ぶこつ]またうちかかるこがいとなり> よいがさめずばよしなんし <とつきはなされてひょろひょろひょろ> そのきょうげんのやまやがとうふみじんになさんとがむしゃの [ふたり]<つかみかかるをもんどりうたせ> さってもくだをまきせんべい [ぶこつ]なげられやまのかんろうめ <とうしろからかみのえりじめを> [うきよいのすけ]おやまたくぜつでおざんすか <とすぐにかたてのせなくるまはずみに> [そそう]ころりみまいかご [うきよいのすけ]どてはっちょうより [ぶこつ]くちはっちょう <くちはたっしゃのがむしゃもの> [ふたり]りょうほううちこみにちょうたちこれは [そそう]と[ぶこつ]があいうちたがいにうんとのりかえれば (四十一オ) <かきねをそっとりょうまもり[ごろしち]> そんならおまめでおふたりさま [うきよいのすけ]ただいままでのふたりがおれい [わかくさ]わけざとさんへもよろしくえ [ごろしち]おれいにおよばぬおちつくさきは [わかくさ]ふみのたよりで [うきよいのすけ]おしらせもうそう [ごろしち]まずそれまでは [わかくさ][うきよいのすけ]らいしゅんのこうへん [しもやしきのときまわり]ちょんちょんちょんちょん けいせいかいだんきゃくものがたりお (四十一ウ) ごじょ じょろうやをしばいにひしてみればかれにおおどうぐありこれにもんびのおおじかけあり さればやりてがめだまのくろまくはいろごとのにかいをきゃくとめちゃやがすだれにうりきりのふだはなけれど おおもんをうつだいじんあり はたしきはつのそばふるまいはいささかやくしゃのぜっくにひとし はっさくのしろむくもじょろうのむねのちゅうがえりほれたきれたのはやがわり よみせしらするすずのねはひょうしぎならぬしがかきに またひるみせをひきかえしのまくあきとうほんますみのいっきょく なみざきがたかちょうしはしかものこさとにとまるよがおいらんしきていしゅじんれいのいつづけのけえるさにいろざとのがくやをさぐり すなわちいなりまちのよにばっせよといい おさきまっくらやみじあいのことなればただひいきれんのひきったてに はんもとのおおいりならんことをかみかけおたのんもうしんすとしかいう しきていもんよう らくていばしょうばつ (四十一ウ) ばつ ゆうべのとこにぎょうずいとことわってあしたのふろやにひやかさせ ゆかたぞめのいきじあるともふりしんねぶったきこもんはきず かむろがつとのはりうちもいつしかしゃくのてくだをみならい みつぶとんにみをなげさせむなづくしにくびをしめて やわらかきころしもんくはたいへいをはくのたまくもいちもんぜにのしわんぼうも きっていだすなまずめにはいかでかやぐもせざらんや そのしきぞめにしきていしゅじんことばのあややにしきをつづり (跋ノ二オ) したてあげたるおりはしのかみはんえりのぐけめもしらぬやぼなるよ このしょをぐるぐるすけんしてたちまちみたてのごどうをほっし ひけすぎならぬくらやみのはじをあきばとうのあかるみへいだし なにかすいどうしりがおにしかいう どんどんていまつりわたるしき (跋ノ二ウ) ごじょ きくならくましでもおっせんとはかくろうのりげんにしてそうおうざんすとはぎょくろうのかくげんなり しかはあれどすいどうじりのひかるほたるにはいわむおもいのむねをこがし なかたんぼのかわずにはりをさしてきゃくまつよいをかこち あるいはみかえりのやなぎにさんきょくのみちのへだたりたるをうらみ にほんづつみのゆきげしきもくろべいのうちにものこしなどほうしょくのことばのうちにも (跋ノ三オ) おのづからかじつのよせいをとどむるそのあらましをしきていしゅじんがきじょうにふんでをはしらせ かきつくしたるそのしりえにはあたまをかくよりほかはあらじ ぎゆう じっぺんしゃいっく (跋ノ三ウ) ----------------------------------------- ≪注≫ 序三ウ 廛×こざとへん 序五オ 歟 序六ウ 女×搖-てへん 二十ウ 口×笑 三十四オ ノ 三十七オ そ 三十八オ ゐ 三十九オ 金×声 ≪異同≫ 五ウ割注  おりなから      →  大成17.262上段7 おりながら 二十二オ  女げいしや。もろとも →  大成17.268下段8 女げいしやもろ とも 二十三オ  明へや        →  大成17.269上段9 明べや  二十三ウ  明へや        →  大成17.269上段14 明べや 三十四ウ  [恋]ヲヤ坊さん   →  大成17.273下段2 [若]ヲヤ坊さ ん    跋ノ二オ  其敷初{そのしきぞめ}→  大成17.277上段6 其敷初{しきぞ め}