「京傳居士談」翻字データ 凡 例  【 】内は、返り点が入る。  『 』内は、上欄注が入る。  ☆には、音曲記号が入る。  〔 〕内は、会話部分ではないが、四角で囲ってあった部分。 ------------------------------------------------------------------------------ 京傳居士談 全 京傳居士談序 盛者必哀{せうじやひっすい}の理{ことは}り誰{たれ}かは脱{のが}れん沙羅雙樹{さらさうじゆ}の華の色{いろ}は変{うつり}にけりな徒{いたつら}に小野の小町もあなめ\/ 在五中将{むかしおとこ}も終{つい}に行冥途{ゆくみち}とはかねて聞{きゝ}しかど夕朝{きのふけふ}とは思{おも}はざりけり (丁付なしオ) それ京町の名妓{おいらん}は晋子{しんし}の猫句{ほつく}に名を知られはた京橋の大人{おいらん}は数多{おゝく}の戯作{げさく}に名高{なだた}かりしこと分花{ふんくわ}十あまりみつ菊月の節句前無常{はしめつかたむそう}の風に唱行{うけだされ}て娑婆{くるわ}の校作{くがい}を遁{のが}れ法名号{おのじなつけ}て一墓主{まちふう}となり (丁付なしウ) 初行{はきつけ}ぬ闇道{たび}の九品浄土浮世{ぢうまんおくど}の離行{わかれ}はいかならむや 艸紙好法君子{おなじみきまがた}察{さつ}したまへと如此云下劣{かくいふわたし}はまだ細見{さいけん}の山形{やまがた}を脊負{しよは}ねど鳳凰{ほうわう}の壁{かべ}の重{おも}きは知{し}る (丁付なしオ) 籬{まがき}に咲{さけ}る鄙菊{ひなぎく}といふ新造子{しんぞつし}四十八手はさて置て三味番{すがかき}の一手{ひとて}もまだ出来{ひけ}ぬ 短{みじか}き才{さへ}の貰衣布子{しきせぬのこ}に睡海鹿{あしか}の真似{まね}より外{ほか}に取所{とりへ}はならの葉{は}の名にあふ宮{みや}の古事{こじ}に居士{こじ} (丁付なしウ) 讀{よみ}と響{ひゞき}の似通{にかよ}へどそは万葉集{まんようしう}こは老杉板衆{やりてしゆう}や桃栗山人{おいらん}の間{め}を忍{ぬす}んで部屋行燈{へやあんど}のかげに懸案{したゝ}め懐{ふところ}のうちに校合{よみあはせ}じれつたいよと笄{かんざし}とつて前髪{まへがみ}とともにこの艶史{しよ}をかく (丁付なしオ) 東垣舎主人述 (丁付なしウ) 挿絵 (丁付なしオ) 挿絵 (丁付なしウ) 挿絵 (丁付なしオ) きみは今駒形あたり時鳥とまことこもりしおいらんのほつ句をかりたく。 西行もまた見ぬ花のくるは外とうそじやとんせぬ古人のほつ句をこゝにほんたくもくろくおわり (丁付なしウ) 〈四十八手後之巻〉 京傳居士談 馬鹿山人作 ○〈きみは今駒かたあたり時鳥とまことこもりしおいらんのほつ句を〉 外花街{かりたく} 哲夫成【レ】城哲婦傾【レ】城{てつふはせいをなしてつふはせいをかたむく}とは毛唐人{けたうじん}の寐語{ねごと}とるにたらず その外花街{かりたく}のにぎわひといつぱ深川{あつち}はあづけて浅艸{こつち}の繁栄柳橋{はんゑいやなぎばし}から漕出{こぎだ}す猪牙{ふね}は恋椎{こいしい}木{き}にうてうてんとなり 川岸裏{かしうら}より離行{かへり}の長吉{ふね}は首尾{しゆび}の松{まつ}に内をあんじ天窓{あたま}ばかい見ゆる二階格子{れんじ}は角田川{ぼくすい}をへだてゝ稲荷{みめぐり}の鳥居{とりゐ}に似{に}たり (一丁ノオ) 我{わが}思ふ人はありやなしやと左五中将{むかしおとこ}そゝり歌{うた}は獨寐都鳥{おちやをひくみやこどり}が胸{むね}にこたふ梅林庭{うめやしき}の臥龍梅{うめぼし}ならで好かれてすゝまぬ客{きやく}あればうしの御前{ごぜん}の涎{よだり}ならで悪忌{きだ}がられてのろける客あり 陽{おとこ}は天{うへ}にして畳{たゝみ}の流球{ぐにやつく}をそしり陰{おんな}は地{した}にして天井{てんじやう}の葭芦{よしあし}をさぐる本店出店{でみせ}と分{わか}る内であれば高直下直{かうじきげじき}を論{ろん}ずる客あり (一丁ノウ) 前{おもて}から帰{かへ}れば後{うら}から入{あが}り茶楼{ちやや}かと思へば妓女楼{じよろうや}の二階{にかい}なり 蓑輪{みのわ}から来る鶏卵売{たまご\/}は本所{ほんじよ}から出る鮮売{すしうり}と言葉{ことば}をかわし千住からかよふ按摩{あんま}は山の手の侍{あやしき}に躓当{つきあた}る 呼{くち}がかゝつて出る藝者{げいしや}はあいて帰る台{だい}の物と行合{すれちが}ふ茶屋\/の行燈光星{あんどうきらほし}のごとく円罷打合{とうまらくい}におつとりまき騒声{とき}をどつとぞあげたりける所仇侠{ぢまわり}の誼@{けんくわ}音たえてひつそりしたる蚊@{かや}の中{うち} (二丁ノオ) △〈客伊太八廿六七しんなりと男もよし〉 ☆[いだ八]コウよくめへばんけんくわがあるのうつかりひやかしてもあるかれねへ △〈女郎おのへ十六七きりやう人がらもつともよし〉 ☆[おのへ]どふしイしても丁のうちよちさう\゛/しうおつスモウかり宅もしみ\゛/あきんしたよ (二丁ノウ) ☆[いだ]なぜへ ☆[おの]なんだかこしをかけていんすようで物がきまりィせんものを ☆[いだ]それでも又おめへいゝ事があるだろう ☆[おの]なにがへ ☆[いだ]いろ男にあつたり又ひとつほかにいゝ事がありやしよう ☆[おの]なんだへ ☆[いだ]それ ☆[おの]ヲヤおつうおつせへすネわたしらがよふなものゝとこへながくきさつしやる客衆はありんせんものを ☆[いだ]ごもつてへねへわたしだと命でもあげるヨ。 およばぬ事だが (三丁ノオ) ☆[おの]ヨクおなぶんなんすネ。ほんに今どきの客しゆにはゆだんがなりんせん。女郎衆がみんなだまされんすヨ ☆[いだ]などゝいつちやアやつぱりだますのか ☆[おの]ぬしやアよく人にからかわつしやるねへ。にくい口だのうと 〈わきの下をちよいとつめるあとをさする〉 ☆[いだ]ヱヽいたみいつてうれしい 〈ろうかの八けんなにかさわつてぐるりとまはりひさきがしやうじのあいだからさすそのあかりにていだ八がかほをつく\゛/はてみぬふりし〉 (三丁ノウ) モシヱわたしがねがいをかなへておくんなんし 〈トいふところへしゆうじのそとよりしらはのしんざう〉 モシおいらんへ 〈へんじなければ〉 モシおいらんへ ☆[いだ]へんしをしてやんなゝ 〈ひたいへ八のじをだしふしやう\゛/に〉 ☆[おの]なんだなさう\゛/しい。へゝつていゝなゝ ☆[しん]アイごめんなんし 〈トしやうじをあけてはいりもぢ\/しながら〉 ☆[しん]モシおいらんへちよつと ☆[おの]ヱヽじれつてへ子だのウ。モシごめんなんし 〈トはいだしてかやへかほをおつゝけ〉 なんだな 〈こゞゑにて〉 ☆[しん]アノネ源さんがちよつとおよびもふしてくれとかうしにまつていさつしやるヨ (四丁ノオ) ☆[おの] 〈つんとして〉 おふかたそんな事だろうと思つたきざな人だのう 〈トわらいながらかんざしでまへがみをかき〉 アノこんやはいろ男がきさしつてからでられませんとそふいつてけへしな 〈いだ八たばこすいつけてしらぬふりをしている〉 ☆[しん]それじやアわるうおつさアネ。そういわれんス。 ものじやアありんせん 〈トいふ所へわらい者里{り}助あはたゞしくきたり〉 ☆[里助]山ぎしさん\/なにをしている (四丁ノウ) ☆[しん]いまそふ申ているのだよ。きついせはやきぢゝいだ ☆[り助] おいらんへちよつと 〈トいへどだまつていればあしをばた\/して〉 ヱヽじれつてへぞヨウ ☆[しん]ヲヤきついじやうつだんものだヨ ☆[おの] 〈わらいながら〉 なんだのばからしい。今にいくはな 〈トいわれてわかい者はゆくかのしんざうのみゝへ口をつけ〉 ☆[おの]アノきのふうらあんばひがわるくつてひつこんでいるからこんやはかへつておくんなんしとそふいゝなよ ☆[しん]アイ 〈トたつ〉 (五丁ノオ) ☆[おの]今かしの方でみやこさんをよばしつたのはだれてだへ ☆[しん]神田のいのさんに銀馬{ば}さんざいます。千住とやらへはいかいにいかしつたかかへりだとてかうしからおかへんなんした。おいらんへよろしくとおつせへしたヨ 〈トしやうじをあける〉 ☆[おの]コレサこのたばこぼんをそつちへよせていつてくんな ☆[しん]アイ 〈トわきへかたづけしやうじをたつてでゝゆく〉 ○〈あとはひつそりとこなたは二人一坐もつともしんぞうひろうかをへだてむかふ合て床はきまりしようすこなたの客は女郎のこぬにたひくつしちいさなこへにて〉 (五丁ノウ) [じやうるり] ☆花もわかばに夏のよのそらもなごりとみあぐればアヽ引 〈トあくびとして〉 ヱヽなぜこんやはねつかれねへかしらん女好子{じよこうし}をやすみか [こなたのきやく]☆いんやまだねやアしねへ。ちつとこつちへこねへか 〈じつはくるななり〉 ☆ちつといつてはなさうか。まだねるにやアはへゝ 〈トをびひろどけのまゝきたる〉 ☆[女郎]わたしの客人はねてばつかりいさつしやるヨ。ちつとおはなしなんしな ☆[ハイ]おまいににてじやアねへかへ。 (六丁ノオ) わたしやアこんやはちやにうかされたそふでさつぱりねつかれやせんときに女好子きよふのくわいはちうつくれへだのウ。ぜんてへあのまきは全雄{またきを}がかちじやアねへ。このおふぎを見ねへ成田屋にもらつたがよくかくの 〈こんな事も女郎のまへのみへなり〉 [一ざ]☆遠波{ゑんぱ}といふ男はさう\゛/しい男だの ☆[女好] 〈しかたなしに〉 そうよおらあこんやはなんだかねむくつてならねへ 〈はやくいけばよいなり〉 (六丁ノウ) [一ざ]☆ねむいはづさゆふべの川が大もてだから 〈うそにもうぬが事をいわれてきうに〉 ☆[女]川てへは梅もとのおかねがこつちへくらげへしたそうふだの ☆[一坐]ウヽかの一丁目か ☆[女]ちげへねへ。なんでも女郎は大みせのばんしんをかうがとくだぜだいいちさんだんができらア ☆[一坐]山とみやとめばの加介がなげられた花ぎぬをおれが此ごろ手に入たが ☆[女]又たれかわつちが心やすくしていたかのしんといふはたけだほどのいい女郎ヨ (七丁ノオ) ☆[一坐]かのしん 〈トへんなかほをしてかんがへる〉 ☆[女]おめへもまだいたらねへぜそれ 〈トおつなめつきをする〉 ☆[一坐]ウヽおれが心やすくしたけいにつかわれていたしんか ☆[女]そうヨ。あれヨ 〈こんな事も見へぼうのうそなるべし〉 ☆[女]あれはあげや町のおきんがいもふとだそふだのウ ☆[一坐]あのおきんがあれをこのごろ ☆[女]ヲツトまつたりまづうけちんからきめよふモウ。奴のかばはごめんだぜ (七丁のウ) 〈女郎ふたりのうぬぼれあきれてきいていたが思ひだしたように〉 ☆[女郎]ヲヤおくにどんにそふいんするを。モシヱじきにまいりんすヨ 〈トはづしてゆく〉 ☆[一ざ]どりやおいらもふせりやしやう 〈トたちながらこゑをひそめ〉 ☆さつきのはおり一{いつ}けんをきやつらなんと思つたろう 〈トいふははおりを三かいまできてあがりさとられぬようにあゝあついとぬいて引手ぢややにもたしてかへしまげてこんやふたりのいとめなり〉 ☆[女]そりやアおめへしれやアしねへ。どんないゝ客でもはおりを茶屋にもたしてけへすといふはあるやつだわな (八丁ノオ) ☆[一ざ]そりやアそふだがさつきおめへの女郎がしんていといふ事を思たがどうもげせねへ ☆[女]ナニしんていしんてたア心いきの事ヨ 〈これもおなじくやくしやなり。しんていとはこゝのうちにかぎりかりたくからのつうげんいうおとこの事也〉 ☆[一ざ]そんな事だろうと思たときに女好子ねまちとしよふ。此あついにだきつかれはごめんだ。ひとりのほうねごゝろがいゝのウ 〈まけおしみをいゝでゝゆく。さてしばらくしづまる〉 (八丁ノウ) ○〈あしおとはた\/とかむろふたり〉 ☆[竹の]まつのどんたんといぢわをさつせへこんたの事もいつゝけるヨ ☆[松の]そんならいつひきやるからだまつていさつせへ 〈トくわしふくろからほたるを一ひきやつとだす。下へおとす〉 ☆アレ\/そふつまむとおちてしまふヨ 〈トこゞむひやうしに八ツ口からゑんどうまめばばら\/〉 ☆[まつの]いゝさうつちやつておかつせへ 〈トそつととりたいじにつかんでひとりはゆくかやのうちから〉 ☆[おの]だれだ竹かいゝとこへきたれんじをちつとあけてくりや ☆[竹の]アイ 〈トすこしあけ〉 これでようすかへ 〈トゆく〉 (九丁ノオ) △〈ひやうし木の音〉 カチ\/\/\/\/\/カカチ ☆[おの]ヲヤモウ七ツだよ。なぜこんやはよがみぢかいノウ。もしへぬしやアねなんしたかへ。もしへ\/ 〈トゆすりおこす〉 [いだ]☆ムヽヽヽついとろ\/した。モウなんどきだの ☆[おの]八ツざいますヨ。モシヱぬしやアおなじみのとけへいかしつちやアねなんすめへねへ ☆[いだ]なにきよふほりの内のくたびれ 〈トはんぶんいわさず〉 ☆[おの]アイサ口はちやうほうなものざんすねへ。わたしらがよふな女郎だといつてそふおなぶんなんす事はおつせん (九丁ノウ) 〈トすこしつんとすれば〉 ☆[いだ]またそんな事をいつてわたしにきをもませなさるヨ。じつはかふだわな 〈トしつかりだきしめる〉 ☆[おの]ヲヤほんにかへうれしうざんすヨ 〈トまくらの下へ手をぐいと入いだ八が手をわきの下へしかせ口と口はだとはだ〉 △☆〈かしのうたそゝりぶし〉 ☆しよくわいにほれてとくおびのウ。むすばぬゑんとすへはなるウ △〈そとにまごつく蚊が曰〉 ☆いめへましいやつらだ (十丁ノオ) 此あついにどこからぞへへつてさしてやりてへ △〈あさくさのかね〉 ボヲン △〈あさくさの蚊が〉 ブウン ○いかなるや此閏中{けいちう}蚊帽{かや}は雲{くも}となりて涼風{りやうふう}にうごき鴛鴦敷物{ひよくござ}は雨{あめ}となりて恋水{なみだ}にぬるゝ巫山{ふさん}の夢此床{ゆめこゝ}にありや。於戯{あゝ} 〈これさなにをいわつしやる〉 ○〈これよりおのへ伊太八たがひに思ひ思はれいだ八はかりたく中かよひつゞけ丁へはいつてもます\/かよひくるはのこんたん此間のはなしさま\゛/あれどかみかづの多くならん事をいとひてこゝにはぶく (十丁ノウ) ○西行もまだ見ぬ花のくるは哉とうそじやごんせぬ古人のほつくを 内花街{ほんたく} けいせいにまことなひとはけいせいにうそいふ客やいゝはじめけんと三馬先生はよまれけいせいにまことないとはたがいふた。目黒にのこせしひよく塚と地廻り吉公はうたはれし。されば晦日ももなかの月はいでたまごやきの四角もあり。女郎のまぢめとお客の四かくあればみそかも吉原ばかり月夜がらすはかわひとなき (十一丁ノオ) まだはようおつさアネと明のかねさへうそを月日のねづのばん。ひまゆくげいしやの駒げたならでながひと思ふ仮宅もいつしかもとのくるはとなるかり宅でしやつきんをしよつてひつこんだ子あれば仮たくで佐渡からでさつしやる客人をつかまへてひつこんだ子あり (十一丁ノウ) なじみがねにきをもむむすこあればはつがねにはづかしがるしんざうあり。付がねにきをつけるおいらんあればほうばいにきがねをするつきだしあり。とかくかねのうきよかねがほしいなアはうめがえばかりにあらず。たがいにあいたひよびたいのかづかさなりて恋の山よりしやくきんの山高くなり。 (十二丁ノオ) こすにこされぬものびせつくたがひに身のつまりとなりし伊太八はきのふからのいつゞけたいこげい者のさわぎも今の身にはおもしろからねどやんやといつてざしきもひけびやうぶのうちしづかなり 〈いた八は手をくんでものいわずおのへはひざにもたれてなみだぐんでいるうはざうりのおとはた\/と〉 ☆[ほうばい女郎]いつてもようざんすかへ 〈なきがほをかくして〉 ☆[おの]アイよくなくててつとおはいりな ☆[女郎]ごめんなんし (十二丁ノウ) 〈とはいる〉 ☆[女郎]いださんよくおながしだネ ☆[いだ]こうのろけてもすへのどふなるもんだねへ ☆[女郎]すゑはいわづとたがひのむねにサ。ほんにぬしたちの身のうへにせめて三日でもなつてみたうおすヨ 〈トみゝにはさんだきんかんのほうづきをとつてふきながらおのへがかほを見て〉 ☆[女郎]ヲヤぬしやアいつそかほのいろがわるうおつすヨ ☆[おの]けさからづゝうがしてなりイせんからさつき小のうらさんにかみをくづしてかいてもらいんした (十三丁ノオ) 〈トめにうるむなみだをかほをそむけてまぎらしたばこすいつけて二くちのみ又すいつけてやる。女郎いただいて一くちのむはたく〉 ☆[女郎] わたしやアこんやはまことにいやなきやく人ざんすヨ ☆[おの] こなひだのうらかへ ☆[女郎]いんへはつでおやしきさ。こんやアからだがわりいといゝんしてもしやうちしめへ。いちどはじゆうにならざアなりんすめへ。つらひ事だのウ 〈トがくむくのしつけをかんざしでひきぬく〉 ○〈しんざうふたり三のくじめのじゆばんにつかまつたようふなこへをだしてうけきたり。やまはにしやうじをあけさふにする〉 (十三丁ノウ) ☆[女郎] なんだヨさう\゛/しい ☆[しん] 〈ためいきをつきながら〉 あのネひさ山さんの客人がへびをふところへ入れてきんしておつかけんすものを 〈ト又おもてにかいのほうへにげてゆく。これは客人すわ丁でかつてきしへび也〉 ○〈引ちがへて又しんざう〉 ☆モシおいらんへ小三がきのふのへんじをもつてきんしたヨ 〈此小三はしんざうかむろやりてげいしやナドかはゆがりてくわしあるひはさけなどやるなり 又文などたのむ女郎もありくるは中ごぞんしのこゝろよし也〉 ☆[女郎] さつきとつておいたいまさかをやつてくんな かみにつゝんでようだんすの上にあるヨ (十四丁ノオ) ☆[しん]アイ 〈トゆく〉 ☆[女郎]ヲヤようだんすのうへじやアなかつた。モシヱたんとおたのしみなんし ☆[いだ]マアいゝじやアねへかへ ☆[女郎]でも又おじやまをしては ☆[おの]ヲヤきついこつたヨ勇さんならば ☆[女郎]いへ\/わたしらはぬしたちのよふにしのうのいきようのといふ人はござりイせん。またのちほど 〈トたつてゆく。うらめしさふなかほをして〉 ☆[おの]人の心もしらずいゝきだヨ 〈トじれてしごきのはしをくひさく〉 (十四丁ノウ) ☆[いだ]またかんしゃくかひさしいものだ ☆[おの]ひさしいものといへばぬしやアどふしてもおかみさんをもたつしやるきかへ ☆[いだ]またぐちをいふよ。こないだもいつたとふりたとへうちをおいだされてもてめへとそひとげるといつたじやアねへか。したがおふくろがおれが事ばかりおもつていて此ごろはろく\/おまんまもあがらねへ (十五丁ノオ) ☆[おの]さぞおつかさんがわたしをうらんでいさつしやろうねへ。わたしがなけりやアごくろうもしなんすめへに思へば\/もつたひないとしつてもおもひきられねへといふのはなんといふあくゑんざいましよう。あのおとゝひのおくすりはとゞきんしたかへ。あれはりやうにひつこんでいる花山さんがなをりイしたおくすりでござりイす (十五丁ノウ) なにやまひにでもようざいますとさ。モシヱ金助がなにかねだつたじやアごさりイせんかへ。あんまりあつかましいおやじだよ。そしてあそこのかみさんはぬしがいかしつたらおかしな事をいゝんしたじやアござりイせんか 〈いだ八はしぢううつむいてものいわず〉 ☆[おの]ぬしやア人にばかり口をきかせてなぜだまつていなんすへヱヽ (十六丁ノオ) 〈トくびをふるはしひざへくいつく〉 [いだ] ☆アヽいてへてめへのしんじつはわすれやアしねへ ☆[おの] かのものはまにあひんしたかへ ☆[いだ] アレカあれは五両弐分になつたからかのはなしのをやつとおやじや与八がめをぬすんでくりまはしおふくろのきものにしのぎをたしてよう\/かたをつけた ☆[おの] そして茶屋のほうはちつともおすませなんしたかへ (十六丁ノウ) ☆[いだ]茶屋にしんるいはさしおいてきんじよにぎりのわるいのが百からもあろうがおれが今の身で百どころか三文のくめんもできるものか。このごろはおやじのかほつきがわるくなつたももつともだ。てめへにもそんなざまをさせいゝ客をはなれさしたもみんなおれがわるいからこゝの二かいもきよふぎりだと思へばてめへにももふあわれめへ (十七丁ノオ) 〈トいいゝさしてうつむくなみだがぽちりと女郎のかほへかゝる〉 ☆[おの]モシヱ 〈トのほをのぞいてみてともになみだぐっみひざにかほをあてしばらくことばなしやゝありて〉 [おの]ぬしにいわふ\/とおもつていんしたが 〈トつをのみこみ〉 ☆アノ源のすかんぴんがぜひ\/わたしをねびきするとき二三日{ち}のうちそうだんがきまりイす。しよせんわたしはぬしにやアそはれんすめへ (十七丁ノウ) これまでのゑんとあきらめておりんす 〈トなみだでかほへまつはりしみだれげをさゆうへみすがみではらい口びるで一まいとつて手のひらにまるめかんでたてかけた琴へぶつつける〉 ○〈しやうじのそとより〉 ☆おいらんへおくにどんがちよつと ☆[おの]いまにいくはな 〈トいだ八がかほを見て〉 [おの]いわずとしれたぬしの事ざんしやうもふかうなつちやアやりて衆{し}でもねへしよ。でもすこしもこわい事はおつせん。ぬしのおそばにいられねへくらいならわたしやアいきているきはありイせん (十八丁ノオ) 〈トふとんの下からかみにつゝんだかみそりをだす〉 ☆[いだ]ハテてめへそふいうきか。てめへにいゝだしにくいからかくしていたがじつはおれもかうだ 〈トおなじくふとんの下からみぢかいわきざしをだす〉 ☆[おの]〈びつくりして〉 ヲヤかうまた心のあうもいづもとやらのかみさんに見はなされんしたろう。ぬしとしねばかの源へもつらあてにもなりんすし思ひのこす事はござりイせんしたがぬしのおとつさんやおつかさんになんといゝわけがありんしよう (十八丁ノウ) ☆[いだ]そりやアおなじ事。てめへのおやたちもおれをうらむだろう。そんな事を今さらいつてどふなるものか。両しんへかきおきをしねへか ☆[おの]そんな事をしていんすと又じやまがはいりんしてしにおくれんす (十九丁ノオ) ☆[いだ]それもそふか 〈トひとこしをひきぬきしがぶる\/ふるへておもわつ手をはなす〉 ☆[おの]きのよわひはやくころしておくんなんし。わたしやアかくごうしていんすヨ 〈トはげまされて又とりなをす〉 ○〈そとよりきゝなれぬこゑにて〉 ☆いつてもよしかな 〈おのへはあせるいだ八はおもはずぬきみをかくす しやうじをさらりとあけていふうりん\/たるいつこのつう人つか\/とはいりてすわる〉 ☆ときにおのさん伊太さんぜんざい\/といゝてへとこだね。まづわたしがながだんぎをするからおやぢのこゞとおふくろのいけんだと思つてきいてくんな (十九丁ノウ) まだおめへがたにやアおちかづきじやアねへがわたしはネぜんぺん四十八手をかいた山東京伝だよ。きよねん此しやばのくがいをのがれてめいどゝいふとこへくらげへしたがおめへがたにやアのがれねへ中だからこんやぢぞうのぼうさんとゑんまのおやかたと三人一ざできたのもおふかたこふいう事だろうと思つての事よ (二十丁ノオ) ひととおりはなさねへけりやアわからねへがおめへたちはふしぎなゑんだぜ。まづ伊太さんのおとつさんといふは四十八手しんの手の伊之さん又おつかさんといふのはしんの手のさきおかさん。おめへがたのめへじやアちつといゝにくひがあいほれのちくるいかんたまごの四角といふ中わつちやアあと月から月のものを見んせんからいつそくろふだよといふ。 (二十丁ノウ) あくるとしごしんぞさんになつてうんだが此いださんおめへがことし廿七になるから廿八ねんむかしだ。又おのさんのおとつさんは四十八手しつぽりした手の栄さん(二十一丁ノオ) 十六のつきだし江戸花さんにとう\/内をらくじやうさせ江戸花さんを身うけしてあさくさへんにわびずまひのうちもふけたが此おのゑさんそれから栄さんがわづらつてよくあるやつだがおやのために身をしづめてなぢみかさねたが伊太さんふたりのおつかさんは女郎衆ふたりのおとつさんはおつかさんたちの色{いろ}客さ (二十一丁ノウ) しやうべへをしたものにはめづらしくできた子どもは今かういふなか なんとふしぎなゑんじやアねへかの。又おのさんにいやがられる源さんといふお屋敷は四十八手見ぬかれた手の家中者尾屋敷源吾{おやしきげんご}といふ人のむすこ源三郎といふ人さ。かの源吾どのは女房をもつてからまじめになりしよせん女郎はかうものでなしとさとつてたゞ女房大事をしんかうしてさづかつたが今の源さん (二十二丁ノオ) 寛政二年よりことしにいたつて親源吾五十一になりやす。又四十八手やすい手の里風はたでくふむしもすき\゛/でかのくらの戸をひきとつたが三年めにころりとやられだん\/つまらなくなつてとふ\/こゝのわかい者となり里助といふことしこれも五十一だよ (二十二丁ノウ) なんとあのじぶんからりうかういく流行{りうかう}すぎたろう此本の作者馬鹿山人なざアまだどこにいたかしれやアしねへ 土平あめがじぶんのひつこみかむろも口をむぐ\/するおばアさんとなつているしどふでありますときいろなこゑをしたつう人もまげをゆ屋へろうじんおとしてくる老人{ろうじん}となりやした (二十三丁ノオ) おびやきものゝいろ事もさめるにはやくあきるにやすくあたまのものをこせへてやるとかはるといふにちげへなくくしかんざしのなりかたちすたればはやりはやればかはりみぢかひはおりがながくなりながいはおりがみぢかくなりけんぼうごもんをきた人はむすこのなりをやかましくいふようになりやした (二十三丁ノウ) それだから助高屋をひいきなおばアさんが梅幸びいきのまご娘といぢりあいやす とぼけたばァさんからねぼけたかせんせいのはやるじぶんを思へばむかしだといつたらそりゃあたよあたぼうといふだろうがこれはしたりはなしにのりがきてとんだ事までいゝだした (二十四丁ノオ) 此しんぢうといふやつがやぼのうへなしといつちやァだれもしんぢうするものはねへがありやァわかぎのいたりでそのときのへんさ 『見ル人曰アタボウワルシバヽアヲイウナト云フヲシラスカバカサクシヤメ』 それだから見なせへどのしんぢうでもしなねへでもいゝのがわるいきをだしやす (二十四丁ノウ) またあつちへいつてふうふになられようとおもうがこれもあてのない事ヨ。あみださんやしやかさんのこそでぬふたりちんしごとト。おさめ新七にやアいふがしばいのよふにやアいきやせん。よくあるやつだが半ざをわけてまつているぞへ (二十五丁ノオ) あのぶら\/したはすのはのうへゝどふして二人のられるものか。九ほんれんだいより五しきの花ふりといつちやアたいさうだが一角の花ふるほどおもしろくもなし。三ぞん仏{ぶつ}らいかうもふたりかむろをつれたおいらんのどうちうほどはおちがきやせんみめうのおんがくも二上リ。いたこほどにやアさへず (二十五丁ノウ) 百みのおんじきもあさがへりのちやづけほどにやアくへやせん。いくらいつてもおなじ事。いとしいもかわいゝもしんでしまつちやアはなしはねへからしぬといふしやれはよしなせへ。はてどつちのおやたちもむかしのわけしりやぼはしねへ。きをながくもちなせへ。わたしもあつちへいつておゝきに心ぼそかつたが浅艸の鬼武竹の塚の東子といふものがこのごろあつちへきて又はなせやす (二十六丁ノオ) 〈おにたけ東子きよねん古人となれり〉 アヽおゝきに。ながばなしをした。そんなら伊太さんおのさんそのつもりでしやばのごひいきおこさまがたお女中さまがたへよろしく。本所のおやかた棚亭{りう}の主人にもよくいつてくんな。 (二十六丁ノウ) おさらばヨ 〈トゆくとおもへばこれふたりがそいねのゆめにしてとなりざしきをさうじするおとにめをさます〉 ☆[いだ]コウおつなゆめを見たよ ☆[おの]わたしもへんなゆめを見んした 〈トたがいにゆめあわせをして〉 ☆[いだ]そんならそちがおやたちは ☆[おの]アイ四十八手のしつぽりした手なかにできたはわたしざんす。してまたぬしのおやたちも ☆[いだ]四十八手のおくのしんの手 ☆[おの]またかの源は ☆[いだ]見ぬかれた手 (二十七丁ノオ) ☆[おの]わかいしゆ里介はやすい手と ☆[いだ]あつまるところは ☆[おの]ひとつところ ☆[いだ]おもへば\/此ほんの四十 ☆八手ふしぎなゑんであつたナア △とこの間のかけもの風で ○カタリ 〔作者曰〕 イヨ御両人サマありがたいと申ヤス 〈四十八手のちの巻〉 京伝居士談尾 (二七丁ノウ) 広告 (二十八丁ノオ) 広告 (二十八丁ノウ) ------------------------------------------ 《注》 JISコードにない漢字  ・二丁ウ(データ上では二丁オにあり) 誼@→ @=口×花  ・二丁ウ(データ上では二丁オにあり) 蚊@→ @=巾×厨  (データ上では一文終わるまで丁番号を付さないため、ずれが生じている) その他  序文中で翻刻しなかった部分は『洒落本大成』二十八巻p.168にみえる挿絵と同一であった。  「広告」は洒落本大成p.179にみえるものと同一であった。