美地之蠣殻 凡 例   一文が長い場合、次頁の最初の句点箇所までを、その頁内のものとしておさめた。   紋・印・花押・曲節記号等は△で示した。   三重は▲で示した。   角書は『 』で示した。   三行書きは★< >で示した。  現行のかなづかいを用いて、本文、および発話者名をひらがなで入力する。  現行のかなづかいに即して濁音表記を補う。   現行のかなづかいに即して促音・拗音表記に置き換える。   割り書きは< >として入力する。   発話者を示す(四角で囲まれた)人名表記は[ ]で括り入力する。[ ]は全角。  原文で発話者の名前が略されている場合は、略す前の形に直してひらがなで入力する。   小文字の「サア、ヲゝ」等は、大文字に統一する。  合字は開く。  踊り字は原文に即して開き、繰り返されると思われる部分をひらがなで入力する。  本文と傍訓に二重性がある場合、傍訓をデータに反映した。 ------------------------------------------------------------ みちのかきがら じょ ふかがわのあそびはたえずして。しかももとのふねにあらず。 よつあきのひょうしぎは。たなもののあしをはやめ。まんのじゃんじゃんは。むすこかぶのむねにこたえ。きぬぎぬを。おしまぬとこは。まわしにとりし。いろきゃくにつうず。 まことにとみがおかのはんえいはさんけいをしらずして。えいたいじのもんぜんにくんず。 くわしくはたつみをみて。 (序一オ) とうぼうのつうにならむと。かんたむを。くだひて。けんとくのまくらに。ごじゅうばんのだいつきをねがうもゆうきんのもとでにほしく。そのがんもうはちいさくみれど。おんじゃくなん。たいびょうのこころをしらむとは。もんもうにきくく。こじつけなり。 おごるときはしじょうはんに。しびれをきらして。しらうおもなかおちをきらい。みとおしにきをてんずれば。しゃちほこもせごしをいとわず。ふるけれどなかとみがどうじょうじは。たいじんこくのふうれいをおもい。やすみびのせんとうには。 (序一ウ) こひとしまのおけぶせをかなしむも。みなばいしょくのみちならずや。 せんきんをころすことはぬりぼんをもって。のみのたまごをうつよりやすく。すくなきかねをつかうには。かいるどんのとむらいを。おんばくほども。いかさねどこのしょうさつをみてのちは。ほれられもせず。ふられもせず。しゃれてふまるるみちのかきがらとだいするのみ (序二オ) あんえいやっつの としたつあした えほうにむかいて ほうらいさんじん ききょうじゅつ △△       (序二ウ) みちのかきがら むさしのくにのよしはらと。しもふさにあるふかがはの。あい(@)にかかりしりょうこくばしのほとりに。てんばといえるそうしょうあり。 みぎはふなやどのあんどうとおさし(@)のほおずきにひとしくならび。ひだりはたちばなのげいふまえばのごとくのきをつらね。そのまんなかにくらせども。かど(@)はげんかとかってをかね。にわはしょぼ@をうえこませ。しきおりおりのながめをつけ。ひとりみにてよをわたり。かたずけている(@)かどぐちから [しんしゃ]<たかのはねはちじょうのはおりに。あおちゃがえしのこもんのうわぎ。かんとうじまのしたぎに。むらさきほくそめの。はんそでのじゅばんにひはかたのおび> (一オ) これはせんせいごくろう。 きのうもつきなみのごかい(@)に。めえりやせうとおもいやしたが。@がちとあしくてめえられやしなんだ。 ぜえてん。べえめえのひらきはだれがかちやしたね。 しっかりというところをしておきやしたが [てんば]<たんこしまのはおりに。しまつむきのこそでに。うえたはちじょうの。きいろがちなしたぎに。ななつはんごろの。ふうつのおび> きのうはふうんで@もしやせん。 ざえてんはろこうさんがおかちさ。 ぎょくはひくいところでござりやした      [しんしゃ]なんというくがまいりやした [てんば]けえしをおんめにかけやせう。 <と。やきすぎのつくえのうえからだす。 はやらぬとみえて。ほかよりてんとりのかいしもみえず> [しんしゃ]てんばさん。 もう。しばいようもちいさいねえ (一ウ) [てんば]かきぬきはなんだろうとおもいなさりやす [しんしゃ]どのくであろうか <と。おくをみて。> なるほど。 あのりこうさんもよくいうねえ。 <といふてみている> ところへしゅうかくは <くろはぶたいのあわせばおりに。みじんしまの。ななこのうわぎに。しのぶすりのしたぎ。じゅばんはあさぎに。いれこびし(@)のかのこ。ひぬめのおびに。みつながら。くろじゅすのはんえりなり。 もんはかりのさんばとふところ [しゅうかく]てんそううちにか [しんしゃ]これはりょうせんおめづらしい。 そのごはおめにかゝりやせん。 きんこうは <そらいろかへしのこもんのはおりに。くろはぶたひのうわぎ。 くろてははちじょうのしたぎ。 じゅばんはなるみしぼりのちりめん。 ふじいろはかたのおび。 はんえりは、まえにおなじ。 もんいちょうづる> [きんこう]まきやのまえでたびのこはぜがはずれたから。なおしておいたらしゅうこうがきたから。つれだってへえったのさ。 (二オ) じょうげえにもでようとおもったが。おっ。けえされねえようはできるし。かてはせずひるじぶんからゆめをみたのさ。 ぜえてんはほかでもあるめえむすこだろうの。 [しんしゃ]なにさりこうさんのいれくで▲えのしまもあとをだすきのしおひがたというくが。ぬけたのさ。 へえけえも。もう。よくどうしくあんじねえければ。いけねえのさと。わるくはいうもんの。しおひと。みつき(@)のにのかわりを。よくひきずりこんであんじたねえ [しゅうかく]わっちがくは。どうだのう [しんしゃ]おまえのはおなりめえの。 (二ウ) みせものを。みるようにはかれやした。 [しゅうかく]ときにしんぼう。 てめえのところへ。とどけものがあるによ。 <といいながらこがねこくら(@)のおもてにかきさらさのうらのついた。おおかますのなかから。しもんせんとにしゅぎんを。わけわけふみをだし> きのう。ここへくるはずで。でたが。ちっとしゃくりがあって。ますやへいったが。ぬしのことばかりいって。おきくがこのふみをよこしたよ。 [しんしゃ]おおかたこのふみも。かみくずのなかからひろいだして。しいてねてのしたのでごさりやしょう。 [きんこう]なんぞいきなことはなかったか。 ひまならひとくさりはなしねえ [しゅうかく]ようもねえからきゅうじゅうごもん@。 (三オ) 挿絵 (三ウ) 挿絵 (四オ) ひゃくといういきまでもはなそうか。 <といいなから。よせきれのたばこいれをだし。ぎんのおとしばりで。すいつける> まずききねえ。 みとおしへあったところが。ひるだちのきゃくがけえったとみえて。ひもねえ(@)ひばちをおいたから。あしてよせるとって。すそをやぶったのさ。 それでごうがわいたところへ。おひさがきていうにゃあ。あのこはごさりやせんというから。ぬすみにもならざあ。 ちょっとかりてこいといったら。えどへいきなせいしたといって。よばせねえのさ。 そんならげいしゃをかってけえろうといえば。 (四ウ) だれぞおよびなせえしの。なんのというから。おれもなかかんというあくで。おときをよびにやってくれろといえば。おめえもすきなことをいいなさる。 あれほどうつくしいおてるさんをよびながら。どうしておときさんをよばれるもんだ。 またおそらくどばしでは。ぎゃっといって。なるこのおとをきいてから。かくさんをしらぬものはおぜえすめえ。 あのこもきゃくなしにはをそめたほどのこだものを。 どうしておめえでるもんだと。おおかぐらのきょくまりをみるようにあげたりさげたりするからの。 (五オ) おれもしかたなしにあいつがうちのなんとやら。まめにんぎょうのふたごという。けすひしんをばよばせたから。いいてえことをまきちらして。けえろうとおもったところへ。えどからおてるがけえったといふから。まずおちついていたが。あんまりさびしいによって。けんだゆうがひっこんだ。そのあとへでる。へんちきなやろうをよんだところが。こわたりのしおからというこえをだしていけねえのさ。 そうこうすれど。おてるがこねえから。 (五ウ) なにをしているときけば。おきくがいうには。いまえどからけえりなあったから。ちゃづけをくっていなせえすといってから。しばらくすぎてきていうには。ようおいでなせえしたと。おさだまりのこうじょうで。かざみのからすをみるように。つんとすましているからの。ひとつのまぬかといえば。だいこくやでのんだがかぜにふかれてのぼせたのさと。てらしてたばこをのむをみて。おきくもとおったきせるよの。あじにざしきをみたからの。もしちっとあっちへおいでなせえしと。 (六オ) たばこぼんをもってひったてるからまずはしごをばのぼったが。しうちがきにいらねえから。あんどうをみつめて。ぎんめのへるほどたばこをのんでいたれば。 もしかくさん。わっちもきこんに。おめえのしうちを。かんがえていやしたが。どうかわたしにいいぶんのあるようなかおつきだが。おめえでもおぜえすめえ。 わっちにてえしてあやまりがあるから。それで。そうしなせえすのと。 おっかぶせたから。 これまちねえ いうことがあるでもねえ。 (六ウ) またねえでもねえのさ。 おれがだまっていればすきなことをいうが。そんならわっちもききやしょう。 ひるおれがきてくちをかけたら。ねえというから。あとでもついてきいとたのめば。かたみちもこいでくるほとたって。えどへいきなすったから。あのこのうちのしんぞうでもよべというによって。こけなあそびでまっていた。 それになんだ。 だいこくやでのんで。かぜによったののぼせたのと。おきくがやったさかずきをば。わたでこせえたうさぎではあるめえし。はねることはねえもんだ。 (七オ) てえそうらしいえどでのんだこなからが。ちゃわんのなかのはりをじしゃくでまわすように。ついてここまできはしめえ。 あんなさかづきにいっそくやにそくのんだって。いきつきそうなかおつきかえ。 かぎやかなんぞのよこざしきて。たなのやつらのちょうめんでもまくらのしたにおいたろう。 よしにしねえな。 おめえのように。くずせんべいというこころじゃあ。ひけねえによ。 みせのやろうは。つらがしろくってもやわたぐろだよ。 (七ウ) てえげえちょうせんながやまでも。とかいをつかまつったじょろうしゅが。さきをひくひくおおかたは。べっこうのかずがへるもんだ。 なかにはひけるもあろうがの。まだぬけまいりのめにちらつく。かおにあおみのつかねえのだ。 そういうやつはみせさきのはりにびらびらはってある。 ためにゃあならねえよしねえな と。あげていったら。 おてるもしばらくなくふりをして。だまっていたが。くぜつのふるくがでたそうで。おっせえすところをききやしたが。 なるほどおめえのいいようでは。 (八オ) ごもっともでもごぜえしょうが。わっちがいうことをもきいておくんなせえし。 おめえさんがひるおいでなせえしたはいまききやした。 またえどへいったのはきょうのてんとうさまをかけても。ほんでごぜえす。 わっちがうちのしんぞうしゅうを。よびなすったもしっていやすが。そのめえにおときさんをよんでくれろと。おひささんになぜたのみなせえしたえ。 あのこもこのとちでは。いちといつてにのねえきりょうで。そのうえにじょうずなこではあるし。 (八ウ) また。おめへのおりこうで。おもしろくもおぜえしょうが。わっちがようなはかねへじょろうは。どうしておきにいるもんだけれど。もしえ。そこはまたとりいのならび。さんやぐらでだれしらねえものもねえ。 しゅうかくさんだから。ものびのとおやにじゅうは。しまってくんなすったって。はちまんさんもあんまりな。やぼともおもいなせえすめえ。 わっちがあしくもしたことか。 じつにながくもきなさるように。おこころやすいでいいやすが。むしんもついにいいやしねえ。 それにあんまりじょうのねえ。わっちをよぶがいやならきょうでもあすでも。 (九オ) いいようにわたりをつけたそのあとで。おときさんでもどのこでも。ちゃやでもだしもしやしように。かっこうもわるうごぜえしょう。 さっきもさけをのまぬのは。このことをひととおりいわうとおもってああしたのさ と。じゅうきゅうもんみせのいいたてをするやうに。すきなせりふをいうからの。おれもえらぎりこまったまくさ。 [きんこう]それからかたはどうついたの [しゅうかく]もうきょうぎりとおもっての。 これそういうことなら。えどから{けえって。じきにきそうなもんだ。 (九ウ) ちゃづけをくうの。ちゃがまをくうのとじらしておいて。まただいこくやもちょうねえで。くちをきくようでもねえ(@)。 さけばかりだすきのきかずにと。あとをのこして。いらぬふなやどのせわまでやいたのさ [きんこう]よっぽどはなしのくちぶりでは。ふかがわはじょうずになったが。まだまだそんなことではくえねえよ。 はじめはだいぶ。つうのようだが。かみびなのふるいように。さきからそんなにあげたとって。ふなやどのせわまですることはねえ それほどちゃづけがあやしかあ。てみじかくいったがいい。 (十オ) あんまりうぬぼれなせりふだぞ。 おれならそういうところでねえ。ちょっとつまんではなそう。 まずこうさ。 ちっといんぎんすぎるがの。 これおてるさん。 なるほどわっちが。おときをよぼうといったは。じょうのねえようだが。よくききねえ。 いのちからにばんとさがらぬ。かねをだしてくるものを。そのくれえなわがままは。いうめえものでもねえ。 またおときがでたとって。ぶりけえそうなうつわかえ。 おめえのようないっぽんづけえというじょろうしゅに。 (十ウ) おいらがような。はかりいうきゃくが。どうしておくばもたつもんだ。 よくつもってもみねえ。 ちゃづ@とって。あれほどてまがかゝるものか。 わっちらよりはとばのいい。ひけるきゃくしゅがひるっからきて。まっているのはしれたこった。 そのわけをもひととおり。とおしていけばけえりもしょうに。おんなまでがぐるになって。ひんにこそあそべひととき(@)やふたときおそくきたとって。ていしゅをよべのかかしをよべのというような。さんのうでもねえのさ。 こういっちゃあてえそうらしいが。 (十一オ) @@しでのはつかんじょうに。どこのじょろうがいくつうったの。なにやのかけえが。きものいちをとったのと。てならいのししょうさまよりさきへしると。とてもうぬぼをまかうなら。つうのことではききいいが。いろおとこのうぬぼれは。おきにはさわろうがごめんだ。 さんばしのしもをもちっとふめば。わるしゃれのくろきちはいまのあいだいまのあいだ [しゅうかく]きんこうのいうのは。いちいちいいところだが。そのようにもいわれんのさ。 かんばんがいいと。 のうしんこう [しんしゃ]りょうさきのごゆうろんもきついところてござりやすが。 (十一ウ) なるほどさきのつらがわるいと。からみがなくてあそびようござりやす。 そのおんついでにこのふみのわけはへ [しゅうかく]それをよこしたはみとおしさ。 ひるのおれにあっいうには。おととひしんしゃさんがきなすったが。わっちもちょうどここのうちへでていやしたが。どうも客がかえらねえから。そのわけをはなしてけへしもうしやした。 そののちははらをたちなすったかおいでなせえせん。 どうぞおつれもうしてきてくんなせえし と。おれにてをあわせてたのんでよこした。 (十二オ) あれほどぬしにほれているものを。もちっととかってやればいいに [しんしゃ]そういうことならいまからいっててみやしょう。 おめえもおいでなせえしな。 [しゅうかく]おれもちっとはあてもあるから。いってもそんじゃあねえのさ [しんしゃ]なにあてどころかおてるさんをかいながら。 さあまいりやしょう てんそうもつきあいだ いきねえな [てんば]わたしもいきてえが。こんやはそくてんをとりにくるはずだから。いきにくい [しゅうかく]るすだといえばいいはな。 だいみょうかちょうにんか (十二ウ) [てんば]なにかちゅうさ [しゅうかく]やしきならぜににもなるめえ。 こんやばかり。にひゃくごじゅうとらすにいきねえな。 きんこうもいくだろうの [きんこう]わっちはごめんだぞ。 しんしゃとぬしのとりとくに。いくようなもんだ。 それよりはかこうしたあそびはどうだろう。 おもてへあがってぬしとわっちと。じょろうをかいこなしてみようではねえか。 しんぼうとてんそうには。なんでもとびきりというこをかわせるが。どうだろう。 [しゅうかく]これはなるほどおもしろかろう。 みんなもそれにしねえな (十三オ) [しんしゃ]そんならわたしもそうしやしょう。 ふなやどはどこがようござりやしょうねえ [きんこう]やっぱりそこのふたみやがよかろう。 <とよにんながらしたくをして。そこらをかたづけ。そうしょうはとなりへかぎなどたのみ。ふなやどへつれだっていく> [しゅうかく]かみさん。 いっそうこせえてくんねえ。 [にょうぼう]ハイ。しょうはちどん。 はやくこせえさっせえ。 どこでござりやす。 ほりかえ。 [きんこう]なにさあぶらほりさ。 <とよにんはかわぎしへいく。せんどうはひなわはこと。おびできものをひとつくくり。さげてくる> [にょうぼう]はちどんふりそうだによ。 とまをもっていかねえか [せんどう]にしだからふりそうもねえ。 サアおめしなさりやせ。 (十三ウ) <よにんはふねにのる> [にょうぼう]はいさようなら。 ごきげんよう。 <とふねをつきだすだんだんはしをでてかわなかになる> [しんしゃ]なんとあのしらうおというものはひがすきかねえ [しゅうかく]そのことではなしがあるはな。 いつかつくだしまのやけたときしらうおのうえをにげたとさ [きんこう]そんならおれがいるしたは。しらうおがついてあるくだろう [しんしゃ]ひしょうかえ [きんこう]なにさ。 むねがやけるはな。 <みなみなわらう> [しゅうかく]こうしんちもさびしくなってはいけねえぞ。 しきあんもなつのどうぐだ。 なんとてんそう。 このごろにふなはいかいはどうだろう。 [てんば]それもようござりやしょうが。 (十四オ) やっぱりぬかるみげいしゃをつれて。むかうしまもようござりやしょう。 [きんこう]むこうのかどのすみやもいいうちだが。おしいことににけえがねえから。にじゅうろくやにわるかろう。 <だんだんふねはひのみのしたよりよこがわへはいる> ▲あのたつみにかいた。かやばちょうから。じょらいが。しんござえもんをつれて。このきんへんのたなおろしをしたが。よくかいたのう。 おおかたしんながかしぐらをみせてえといったも。ここらだろう。 しかしいまじぶん。あんなふつうはすくねえよ。 (十四ウ) むすこむすこというやつが。ひかれぬくめんをするのさ。 [しゅうかく]このこじきごやにいいむすめがあったが。どうしたのう。 [きんこう]ひさしくみねえのさ。 と <はなしもすぎてあぶらほりちかくなる> [せんどう]もしえなにやへおいでなさりやす [しゅうかく]なにやがよかろうの [きんこう]わっちやあなにやでもいい。 しんぼうがちかづきのところへいかう。 [しんしゃ]ちかづきはござりやせん。 まつばやばかりはひさしくまいりやした。 やけたあとはたちやせん。 いなかとやらへひっこんだそうにござりやす [せんどう]どなたもおちかづきがなくは。 (十五オ) 挿絵 (十五ウ) 挿絵 (十六オ) うえだやがようござりやす。 <といよいよそうだんきまりふねはうらやぐらのところへつく> しおがねえからもうさきへはめえりやせん。 ぬかりやすから。こちらの舟を。もやっておいでなさりやし。 もうすもうす。 いよいようえだやでござりやすね。 おあとからしまってまいりやす。 <よにんはつれだちうえだやへいきくぐりをあけてはいる> [ぎん]おきゃくだよ。 おつねどんみとおしへおつれねえ。 <よにんははしごをあがり。みとおしへいきおんなはたばこぼんをもちゆく。ともしび(@)をつけながら> [つね]どなたぞおなざしでもござりやすかえ [しゅうかく]なにさ。 だれでもいいから。なかとしまをよんでくんねえ。 しんこうはなざしはねえが。 (十六ウ) えんりょなしにいってやんねえ。 てんそうもだれぞあろう。 [しんしゃ]せんどほりどめで見た。おかなとやらをきいてくんねえ。 おめえはどうなさりやす。 [てんば]わたしはだれでも。ようこざりやす。 [しゅうかく]なんのこった。 そうしょうのようでもねえ。 さりきらひなしになさしてやんねえな。 おらもなざしはあるけれど。わけがあるから。けんとくなしに。ふりだすのさ。 [てんば]そんならおつれとやらを。きいてくんねえ [つね]きいてみやすよ。 あるならみんなよびもうしやすよ。 (十七オ) <おつねはうらへききにいく。おとめはすずりぶたと。ちょうしをもって。ねむ。さうな。かおつきでくる。> [とめ]ひとつおあがかりなせえし。 <よにんはじょろうのあるなしをききたく。さけもろくろく。のまずまっているところへ。おつねははしごのしたより。こえをかけ。> [つね]おとめどん。ちよつときねえ。 <とはしごのしたへよぶ。ちいさなこえで。> けんばんへいってみてきたりや。あとはみんないいがの。おつれさんはまるがついてあるよ。 どうしようの。 [とめ]あのほうずだからいいはな。 どのこでもよびねえな。 <このけんばんに。まるのついたは。えどへいったか。ようじにてよそへいきたる。しるしなるべし。> [つね]もしえ。 おかなさんはござりやすが。おつれさんは。ござりやせんから。おなおさんに。おそのさん。 (十七ウ) おかなさんに。おみおさんを。よびもうしやした。 [しゅうきん]だれでもいいのさ。 げいしゃをふたくみばかり。よびにやってくんねえ。 [つね]はおりにしようかねえ。 [しゅうきん]たゆうがいいわな。 <おつねはよびにいく。だんだん。さかづきもまわり。とうこうするうち。じょろうおみおは。ふるてがえしのこそでに。とびはちじょうのしたぎ。あかがっぱをみるような。いろの。じゅばんに。みつながら。くろしゅすのはんえり。もえぎはかたのおび。もんはごさんのきりもおさだまり。 さしものはちゅうくらい。おそのははちじょうのかわりじまに。なんきんがえしのしたぎ。ふたつ。ももいろもくめのじゅばん。はんえりはまえにおなじ。ちゃじのきんなしもうるに。からはなをおりしおびなり。 もんおにつたもふるいやつなり。 おかなはねずみいろちりめんに。むらさきとしろとごぶほどづつの。ぼうしまのうら。こびちゃのこもんと。しまちりめんのしたぎに。あさぎちりめんのじゅばん。はんえりはまえにおなじ。 くろびろうどに。きんさらさおりと。はらあわせのおび。 もんはきくちようもうぬぼれなり。 おなおはばんちゃちりめんにしまつむぎのしたぎ。 (十八オ) ふじいろしぼりのじゅばん。はんえりはまえにおなじ。びわちゃしゅすのおび。もんはやえうめの。とんでならびしもつうにんへのてきちゅうなり。 いづれもとばはよし。 これはしょうがつのしかけなり。 あきにもなればつむぎじまのたぐいなり。 かみはまえのほうをいちょうのごとくにし。うしろはひのしのがらのように。ひきだしてゆうしまだなり。 しんしゃはきしとみるよりかけだし。おかなとろうかにてささやく。 これはそとのうちにて。みょうだいににさんどもどりしゆえ。このうちにては。しょかいのぶんにするやうに。たのみいる。 おきんはげいしゃのしゃみせんばこ。もってとおりながら。ちらりとみていく。しんしゃはなにげなくいる。 [きん]こっちへおへえりなせえし。 <じょろうはひばちをなかにおき。ならぶ。おかなは。しんしゃがほうを。みぬようにみてわらう> もしひとつおあがりなさりやし <と。さかづきだいをしんしゃへやる。 おかなえさす。 きんこうはおその。しゅうかくはおなを。てんばはおみを。おさだまりのとおりにすむ。 そのところへげいしゃつまだゆう。しゃみせんひきとよはる。さわぎしょうぞう。しゃみせんひきりじゅう(@)。ざしきへはいり。よにんのかおをみまわし> ようおいであそばしました。 [しゅうかく] (十八ウ) もちあわせたひとつあげよう。 [庄蔵]これはさしあげましょう。 [しゅうかく]そんならだゆうへおあいさ。 <せんどうはろをしまひきて。うしろぐちから。おぎんがめをふさぐ。> [きん]だれだ。 どうもしれねえはな。 [つま]あててみねえ やなぎばしだよ。 [きん]まちなよ。 <と。うしろへてをまわし。さげどうらんを。さぐりみて> このかなものはしょうはちどんだ。 よしねえな。 [せんどう]<じょろうのかおをみて> これはみなさま。 おそろいだ。 おぎんどん。 きついもんだぜ。 [きん]わっちらがつとめるところはどうだ。 おそろかえ。 <このうちおさだまりのつう。つまだゆうほんをだす。 とよはるはちょうしをあわせる。 つまはしゅうかくがかおをみ。かんがえながら> [つま]あなたは。おちかづきで。ござりましたか。 (十九オ) おみしりもうしたようでござります。 [しゅうかく] ひさしいあとにうらでちかづきになったけれど。そんなところは。ねえばしょさ。 [きん]つまさん。 いちだんかたんねえな。 [つま]なんにしやしょうね。 [きんこう]そとのものはいやだ。 いたをばききてえの。 [つま]ハイ。さあひきねえ <とつまだゆうはいちだんかたる。 だしものももってくる。 おきんはなにやら。にょうぼうと?く。> [にょうぼう]おかなさん。 ちよっときねえ。 <おかなははながみをもち。ろうかへでる。 にょうぼうはちいさなこえにて> もしおめえは。あの。しんしゃさんとやらに。おちかづきだそうだが。どこのうちて。でなすった。 あいみたげえのこったから。 (十九ウ) しらせてやらねえければ。なりやせん。 いいねえな。 <といわれておかなも。すこしいやみのあるゆえ。こまり。しばらくかんがえ。> なるほど。あのおきゃくにたったいちど。ひさしいあとに。しまやのうちで。でたばかりさ。 きょうはあのおきゃくひとりではなし。 つきあいできなすったけれど。みんながしょかいだに。おればかりうらではわるいから。しょかいのぶんにしてくれろと。いいなすったから。おぎんどんもみたとおり。 はなしをしていたのはね。そのことをとおしたのさ。 それだによって。しらせてやらずと。ようごぜえす [にょうぼう]そういうわけならいいが。ほんに そうかえ (二十オ) <といってかんがえかんがえ。したへおりる。 おかなはもとのところへいる。 つまだゆうも いちだんかたり。しょうぞうもながうたこわいろなどつかい。いろいろいきまもあれども。ふうりゅうのほんにくわしければ。いまさらかくもむだなり [ぎん]もし。ちっとあちらへ。おいでなせえし。 <とすずりぶたちょうしをもち。よにんがさきにたちろうかをいく。 とこはおもてのざしきなり。 しんしゃときんこうしゅうかくとてんばとの。わりどこなり。 [きんこう]おらがながやはここらかの。 しんぼうきょうもとなりだの。 [しんしゃ]さようさ。 あいかわらず。おこころやすく。 [しゅうかく]しんこうはむこうだの。とおくてよいぞ。 [しんしゃ]それはなぜへ [しゅうかく]ふたちゃわんの。からくさをみるように。からむから。やかましくってねられぬ。 のうてんそう [てんば]あの子ば@@@もごせえせん。 (二十ウ) おめえのとなりも。あんまりしずかでも。ござりやせん。 <じょろうよにんひとりひとりのとこへはいり。いきまはいちどなれど。ひとりひとり。はじめよりあらわす。> [その]<きんこうがとこへきて。てをたたく。 しばらくしておとめくる。> おとめどんか。おらがうちへの。たばこをとりにやってくんねえ。 ついでにの。ちゃもひとつよ。 <あいとおとめは。しょうじをひきたてゆく> もしえ。こぎくをにまい。おくんなせえし。 [きんこう]おやすいごようさ。 <おそのは、まくらをほどき。だんだんふるいかみをとり。なかから。おめいこうのもちをみるやうな。あかいくくりしものをだし。まきなおしまくらのうえ@のせ。いわえる> [とめ]おそのさん。あけてもよしか。 [その]あけねえな。 <おとめはやくわんにぜんをもちそえ。たもとへはおそのがたのみし。たばこをかみにつつみ。はいりてくる> [とめ]さあいちぜんおあがりなせえし。 <きんこうはおきものをもいわすふたをとり> (二十一オ) [きんこう]なんだ <とひらざらのふたをとり> つつぎりのさかなにせりか。 ひさしいものよ。 そこつたきしおかわにごみというひらだ。 <しるのふたをとり> しゃみせんひきのめをくうようなかきだ。 てめえもいっぺいくわねえか。 [その]わっちはしょうじんさ。 [きんこう]めしは [その]たちものさ [きんこう]おれもおおかた。くふめえとおもった。 なぜしょかいではそういうの。 [その]しょかいだのうらだのと。わけもかぼちゃもねえけれど。くいたくなければくいやせん。 <とはなしなからいやいやきんこうはにさんばいくう> [とめ]おちゃにつけてあげやしょう。 (二十一ウ) <そうこうする。うちくいしまうと。> はい。さようならおやすみなせえし。 [その]もしえおめえにきくことがありやす。 きょうはわたしがおやのねんきだがね。 おとこといっしょにねねえのが。こうこうてごぜえしょうか。 またおきゃくをだいじにするが。こうこうでごせえしょうかねえ。 わっちがおもうには。ひとつところにねねえほうが。こうこうだろうとおもいやす。 [きんこう]かわったことをきくの。 そういうひなら。おいらかような。たけみつをかあいがるがこうこうさ。 [その]あんまりあきれて。ついぞねへ [きんこう]なにがあきれる。 (二十二オ) [その]ええひき もうおめえほど。しょうぶかわならいいわな。 <これはしばいでもうしあげますと。はなみちからでるやくしゃは。ひとのわるきつうげんなり> [きんこう]そんなことをいって。ねるつもりか [その]おめえもまたかわったことを。いいなさる。 ねたければねるはな。 [きんこう]これきをよくしていれば。てえへえらくな。 うぬがおやはなんだ。 おおかたまくそさらいのとうどりだろう。 よしにしろ。 じょろうはちにんをもってこばんいちりょうにかう。という。 とちにいながら。てめえのからだをみるように。ねるのゆるめるのと。そばがきでも (二十二ウ) こせえはしめえしこんやばかりはしらみがくってもかかしゃ あしねえ おおきなごたくはおきやあがれ [その]おきやあがれとはなんのことだえ ほうそうだなかよしわらのじょろうしゅのとこにあるとききやしたおめえのやすくいいなさるこんなとちにはごぜえせん こういうつとめはするけれどわたしがさとはだいみょうさ あんまりやすくしなさんな おめえのようなとおりものはこしもとはしたにうやまはれなつすずみだいでみたばかりさ <とあをむけになってあしをちぢめる> [きんこう]だいみょうとはなんのこった (二十三オ) おらがくににはねえこじきだ。 ねるならろうかへでやあがれ。 [その]なにさねやあしやせん。 おめえをつうだということさ。 そんなにはらをたてなさる。わけもあんまりごぜえすめえ。 なんぞかおきにさわったら。ちっとはふしょうしなせえし。 なんのかのといったのは。わたしがわるうごぜえした。 [きんこう]まだすきなことをいやあがる。 わたしだのかりばしだのと。こじきのうちがきんじょだって。ひとつところにふんでもらうめえ。 だいみょうとやら。かいみょうとやらの。むすめならおれはしおやのそうりょうだ。 てめえのようなかおのいい。 (二十三ウ) むねのいけねえじょろうはな。つちでこせえたにんぎょうよ@@かおうといってもねわしねえ。 おらはな。つらはこんなぶきようでも。きもののしたはぜんまいだ。 にほんのあしのつまさきから。ほんだにまげたはけさきまで。すいどのみずとにがしおが。ひにいちどさしひきする。 いまごろめんやへはらおうが。じゅっけんみせのにかいでも。はこいりやろうがさんじゅうはちりょうというしろもので。てめえなんぞとくらべては。とうしみにつりがねだ。 けいせいのこころのしがくところと。かねもちのきんたまは。つべてえものというからは。 (二十四オ) あしくするもがってんだが。そういうたとえのじょろうはな。はりもいきじもしりぬいた。ほくこくあたりのゆうじょのこった。 こんなところにいるならば。はおりのたけでもなげえきゃくは。ありがたいとはおもわずに。かってなねつをひきだすが。よしにしろ。 おきにしろ。 あんまりあきれてああつがもねえが。ひもねえから。とりてこい。ひとつふくのもう。 [となり]<おかなはとこへはいり。おびとうわぎをぬぎ。うしろぐちのほうやぎのすそのうえ@おく。> きょうはよっぽどさむいねえ。 おめえもうえをぬぎねえな。もめたらうちでわるかろう。 (二十四ウ) [しんしゃ]そんならひとつぬごうかねえ <といいながら。はおりとうえのきものをぬぎ。びょうぶへかけ。おびをしめる。> [かな]びょうぶへかけなさんな。 ねるとようじんかわるいわな。 わっちがたたんであげやしょう <といってたたむ> はおりはしたへやろうかね。 [しんしゃ]いいわな。 ようじんをよくしてねるつもりか。 [かな]なんのこった。 そうじゃあねえがの <といいなから。のいのぼり。びょうぶをひきまわす。> なぜおめえはあれほどうつくしい。おぬいさんをよびなさんねえ。 なんぞわけでもあるからは。わたしがうちのこではあるし。とりもってあげやしょう。 [しんしゃ]おめえもほんになんのこった。 あのこをわっちが。よびたければよぶけれど。 (二十五オ) さっきもあすこではなすとおり。きのうもしまやからふみかきて。どうぞおぬいをよべというから。あすこのうちでは。おめえをださねえによって。ここのうちででてくんねえ。 [かな]どうしてあしくおもうもんだ。 おめえさんさえ。そういうおこころなら。 したがの。さっきおめえとろうかではなしをしたのを。おきんどんがみつけて。かみさんにはなしたそうで。わたしをかみさんがよびだして。あのおきゃくにでたうちへ。しらせてやるというからの。ちよちよらをいっておいたはな。 (二十五ウ) <とはなしているところへ。ここのうちより。あいたいにて。しまやうちへおかなをよびし。なじみのきゃくきしわけを。しらせてやりしゆえ。おんなはたかつきに。せんべいをもちきたり。 せうじのそとから。> [女]おかなさん。 あけてもよしか。 <といわれて。しんしゃもおかなも。へんじをせずに。いきをつめ。ねたふりをしている。 おんなはあけてはいり。たびたびおこすゆえ。よったふりにて。かおをあげ。> [しんしゃ]だれだとおもったら。おみねか。 なんにきた。こんやりくつをいったって。わからねえよ。 いうことがあるならこんどきこう。 しかしこのこをよんだのは。わっちがみんなあくだ。 たいそうらしいせんどうまでおこして。つれることはねえ。 あのふなやどははじめてだに。 <とちゃやのおんなのむっとするように。おかなをたてていう。 おかなはいろいろと。いいわけのくふうをし。ものをもいわずしんだごとくになる。 (二十六オ) せんどうもはじめてのきゃくゆえところのちゃやもだいじなり。 またきゃくもだいじなり。 しちにとられし。あまいぬのごとく。なっている。> [みね]なるほど。 おかなさんを。よびなせえすも。ようごぜえすが。なにももうしやすめえ。 このわけをば。このあいだにつきやしょう。 <としょうじをたちていく。 あとよりおかなもたちていく。 こようしょのわきにて。しまやのおんなとささやきいる。 しんしゃはあとにたばこをのみ。まてどくらせどきぬゆえ。たかつきのせんべいを。ねずみのくうようにしてまっている。 しばらくしておかなくる。> <しんしゃ>どういってやんなすった。 [かな]わっちもこのくらいなことは。かんがえておいてでるものを。 [しんしゃ]それでもあのおんながいうところは。おめえのほうへあたるようで。きのどくだはな。 [かな]きづかいなことはねえ <といいながら。たばこをのみ。びょうぶをひきまわし。とこのなかへはい@。> おめえのあしもつべたいの。 (二十六ウ) わっちがあしもたっていたから。つべたいよ。 ききねえな。 わっちがしらせてやるなどいったに。うちからそういってやったから。こまったが。ろうかへでて。ちいさなこえでいうには。 おみねどん。きょうここのうちでしんしゃさんが。わたしをよびなすったから。せんどうしゅにしまやのうちへ。しらせてやってくんねえと。たのんだにの。あのひとのいうには。どういうわけかしらねえが。きょうはあのきゃくしゅも。つきあいできなすったそうだから。しらせてやらずと。 ようごぜえせう。 (二十七オ) よくつもってもみねえ。 ひとりのおきゃくで。あとのつれしゅもさわぐというもんだととめたから。わっちがやめにしたふうに。せんどうしゅのまいをいっておいたから。いまあすこでしんしゃさんに。なんのかのといいなすったけれど。まくらもとにあのひとがいるから。だまつていやした。 とおもいれかついでやったりやあ。おみねがいうには。 おおきにおせわでござりやした。 こんどからつたやのうちへ。きなさるように。おめえを。おたのみもうしやす と。いってけえった。 (二十七ウ) なんとじょうずなもんかえ。 [しんしゃ]なるほどひとをかけるは。きついもんだね。 ところのおんなさえ。そのくらいなもんだに。わっちらがようなものは <とわらう。 このところいろいろしうちあって。はなしもなくしずまりしは。せわにいう。びょうぶよりほかしるひともなし。 しばらくして。たばこをのみながらおきかえり。> [しんしゃ]さっききんこうがやかましくいったを。おそのさんとやらは。よくしづめたの。 [かな]しょてには。おそのさんも。きつくでたけれどちゃわんばちやのころんたように。そうぞうしいきゃくだから。はやくそこをば。つとめたのさ。またあのこはどばしでもよくうったものさ。 <しゅうかくはしんしゃがむかうなり。 (二十八オ) ねぶそうな声をして> [しゅうかく]しんぼうけえろうじゃあねえか。 いってもよしか。 [しんしゃ]さみしくってなりやせん。 ごようもなくはおいでなせえし。 <といわれて。たばこいりきせるをもち。おきてくる> [しゅうかく]おかなさん。 おんなでおんなをだますのは。なかつぼねのこまよりは。おそろしいぞ。 [かな]おやかましくっておきのどくだね。 [しんしゃ]いっぱいおあがりなせえし [しゅうかく]さけよりやあ。おらがいきまをきいてくんねえ。 まずこうさ。 こうじまちのぞうほどあるからだを。もってきていうには。 もしおめえに。ねがいがあるというから。 (二十八ウ) なんだときけば。おめえがとんだふつうなら。どうでもつうくつができるけれど。やしきのかなぼう。まちのはぶたえというしうちの。かわはおりとみたから。うちあけていいやす と。おれをば。ばんどころの。すすはきといふ。ぞうもつにたとへて。 たのむから。なんのこった。ぶきような。みずでっぽうをみるやうに。しびらずとも。いいねえなといったら。 わたしがうちのこころやすくする。じょろうしゅが。ねんあけでの。あすいきやすが。どうぞあってきとうござりやす。 そればかりならいいけれど。かりがあるから。 (二十九オ) やってしめえ てえと。たのむによって。いってこいといったれば。いまにけ@りやあからねえ。 がそれはまだ。がってんづくで。やったとおもえば。きもすむに。おのしがいざこざ。てんばがいびき。きんこうがわるじゃれ。 やかましくってねらりやあせずと。 <はなすところへ。おなおはかえり。しょうじをあけてはいり。> [なお]ありがとうごぜえしたねえ <と。しゅうかくがそばへよる。> [しゅうかく]あつかましいよりやあがんな。 ふとんとおればかり。やろうのねつけといいてえが。どんなびんぼなどうぐやでも。こんなふとんに。おしめもねえ。 とこをあけてあるくのも。 (二十九ウ) てえげえほどがあるもんだ。 いまごろまでつとめれば。とやをしている。よたかでも。ひちはっぴゃくににじゅうはちもくうほど。かせいでくるじぶんだ。 いけあつかましいよつあしだぞ。 [なお]それだからわけをたのんでいったのに。 よつあしとはなんのこったえ。 あんまりひげがおおすぎやす。 [しゅうかく]まだうわごとをいいやあがる よつあしはしれたこった。 うぬがとこのなかをみろ。 よつあしのあとがある。 ひげがおおいのすくないのと。いきゅうがにづらはかくめえし。わいらがようなけへだまと。くちをたたくとよ@あける。 (三十オ) しんぼうおれはけえるによ。 [しんしゃ]そんならはらをたたずとも。ひとつあがっておいでなせえし。 [かな]おなおさんもよんねえな。 わっちがかんをしてきやしょう。 <おかなはちょうしをもちしたへいく。 きんこうはこのさわぎをきき。おきてくる。 おそのもくる。> [きんこう]もうけへるか おれもいかうはの。 [しんしゃ]おめえはあしたでようごぜえしょう。 [しゅうかく]いんにやようがあるからいきやしょう。 <おかなはかんをしてひだりのてに。なつけを。てしおさらにいれて。もってくる。> [かな]さあひとつおあがりなせえし。 あおつきりで。はじめやしょう。 <とちゃわんへすこしつぎ。のむまねをして。しゅうかくへさす> [しゅうかく]いいかんだそ <とみなみなすこしずつのむしたくをする。> (三十ウ) [きんこう]あのそうしょうはどうするの [しんしゃ]おいていってもようごぜえしょう。 [きんこう]それでもしらせていかずはわるかろう <と。みなみなしたくして。てんばがとこへいき> [しゅうかく]めをさましねえな。 おめえはあしたけえっても。よかろうぜ <と。いわれめをさましおきかえり> [てんば]おおきによったぞ。 もうなんどきだ。 あしたくみええのうちに。ひょうものがあるから。けえりやしょう。 これかえるぜおきねえか <と。おみおを。おこす。 目をこすりながら> [みお]まだいいわな <といいながら。のびをしたそのてで。かみのものをかぞえる。 これは。ひとのわるいきゃくの。ましりきたりしゆえ。もしもあ@られもせんかとの。しうちなり。> [てんば]さあいきやしょう。 (三十一オ) <とおきてしたくをする。 じょろうもおきておびをする> [おとこ]おふねはようござります。 <よにんはつれだちしたへおりる。 おかなは。しんしゃをわきへよび。ちいさなこえではなしながら> [かな]いつおいでなせえす。 おぬいさんのわけもあるから。はやくきておくんなせえし。 しまやのうちのおんなは。なんといっても。おめえのおこころしでえだから。おたのみみもうしやすによ。 <みなみなぞうりをはく。 じょろうよにんくちをそろえ。> [その|かな|みね|なお]おちかいうちに。 <とあとのないようにいうは。きゃくのかえるをうれしがる。こらいよりのすてことばなり。 みなみなつれだち。もんをでる。 おきしばんのちゃやのおとこは。ちょうちんをもち。さきにたつ。> [しゅうかく]こんやのような。いまいましいばんはねえ。 [きんこう]そうさのふ。 このはらいせは。うらやぐらか。すそつぎで。 (三十一ウ) [しんしゃ]こうへんにそれは [てんば]まちたまえまちたまえ。 <からすがかあかあ> むすこのみみにかねはうえのかあさくさや 『裏裾』小きれ商ひ 近刻 『俳諧』ほこりよせ 近刻 (丁付なし一オ) ○目録板元 江戸堀江町四丁目多田屋利兵衛 廓{くるは}の大帳{だいてう} 遊子方言{ゆうしほうげん} 婦美車紫@{ふみくるまむらさきかのこ} 美地之蠣殻{みちのかきがら} 廓中奇譚{くわくちうきだん} 南閨雑話{なんけいざつわ} 辰巳{たつみ}の園{その} かよふ神{かみ}の講釈{かうしやく} (三十三オ) 格子戯語{か@しけご} 自惚鏡{うぬぼれかゞみ}       記原情語{きげんじやうご} 俗談諺草{ぞくだんことはざぐさ} 繁千話{しけ/\ちわ} ふくさ懐紙{くはいし}★<かせん廿七文 五千いん三十文 百いん廿六問> くゝ里猿{ざる} 月{けつ}下清談{せいたん}五冊 噺手本忠臣蔵{はなしてほんちうしんぐら} 清美問答{せいひもんとう}五冊 (三十三ウ) -------------------------------------------------------------- 注)    @の置き換え  JISコードにない漢字   ・三十三オ2 @=鹿×子  その他   ・一オ6   @=不鮮明。大成では「く」(230上6)   ・十一オ2  @=不鮮明。大成では「る」(234下8)   ・十一ウ1  @@=不鮮明。大成では「どば」(234下14)   ・二十ウ8  @@@=不鮮明。大成では「かりで」(239上8)   ・二十二ウ8 @@=不鮮明。大成では「そば」(240上5)   ・二十四オ1 @@=不鮮明。大成では「り。」(240下5)   ・二十六ウ8 @=不鮮明。大成では「る」(242上1)   ・二十九ウ2 @=不鮮明。大成では「へ」(243上8)   ・三十一ウ1 @=不鮮明。大成では「が」(243下6)   ・三十一オ8 @=不鮮明。大成では「げ」(244 4)   ・丁付なし二ウ1 @=不鮮明。大成なし。「う」か?    洒落本大成との異同   ・序一オ   俗字か?   売     → 大成229上1 殻   ・一オ1   俗字か?   売     → 大成230上1 殻   ・一ウ7   仮字漢字  御目    → 大成230下2 お目   ・二オ4   濁点欠落  とふところ → 大成230下7 とぶところ   ・十二ウ7  濁点欠落  行てへか  → 大成235上17 行てへが 漢字訓み不明箇所   ・一オ2 あい(@)→間イ   ・一オ4 とおさし(@)→十ヲさし   ・一オ5 かど(@)→門ト   ・一オ7 いる(@)→居る:以降「居」字は振り仮名がないかぎり、「い」るか、「お」るか不確定。   ・一ウ1 ごかい(@)→御会:「ごかい」か、「ぎょかい」か。   ・一ウ2 @→内 「ない」?「うち」?   ・一ウ5 @→結   ・二オ4 いれこびし(@)→「入子びし」:「いれこびし」「いりこびし」の可能性   ・二ウ7 みつき(@)→三月:みつき?やよい?さんがつ?   ・三オ2 こがねこくら(@)→金小倉:きん?こがね?かね?   ・三オ(四ウ1) 九十五文@→九十五文込:こみ?こめ?   ・四ウ ねへ(@→無ひ{ねへ}:傍訓側をデータに反映   ・十オ1 ねへ(@)→無ひ{ねへ}:傍訓側をデータに反映   ・十一オ7 ひととき(@)→一時:「ひととき」「いっとき」「いちじ」の可能性。一応、後続する「ふたとき」に合わせて「ひととき」としている   ・十一ウ1  @@=不鮮明。大成では「どば」(234下14)   ・十六ウ6  ともしび(@)→灯:「ともしび」?「ひ}?   ・十八ウ8  りじゅう(@)→利十   ・二十一オ6 うえ@→うえ江   ・二十四ウ7 うえ@→うえ江