― 『阿蘭陀鏡』解釈データ凡例 ―   ・虫食いや印刷不鮮明等の理由により判読不可能な字面については,洒落本大成本の本文を参考に補った。   ・データ中の「(」は,奥州訛りの会話部分に付された記号「(」を示す。   ・データ中の「{左:}」は,奥州訛りの会話部分に当てられた左訓を示す。   ・漢字の読み方については、固有名、連濁等も含めると確定できないものが多いが、いちいち注すると煩雑になり過ぎるためこれを略した。 -------------------------------------------------------------------------------------- かりきのゆきながちょ <せいろう>おらんだかがみ<ぜんぶごさつ> しまばらのけいせいのあどけなきあなをさぐり うぬぼれぎゃくのあそびのおかしきをてにとるごとく かきあつめたるほんなり どうみゃくせんせいばつ (見返し) <せいろう>おらんだかがみじょ おいてのはかりごとをおもわず。がんぜんのたいへいらくをたのしみとし。もろこしのようきひ。わがちょうのおののこまちもてにいれて。かねのなるきもはちうえにしておくかおし。わかきはにどなきものに。しょうかのまじわりせぬひとをぐとし。いっすんきらるも。にすんもおなじつみと。あくだまのいちごんはそむかずしてぎりをたて。なさけをかけ。ざいほうをついやすこと。いわずとこれはごすいもじ。 (一オ) いまあらんだかがみにかくれば。まわたでくびのうきおもい。 まいらせそうろうのながぶみは。うしのしょうべんじゅうはっちょう。 なにがなにやらおやじのいけん。ちんぷんかんきみにしまず。 (一ウ) ついにたぬきのきんたま。はちじょうじきのうらやすまいとなり。しりきれぞうりのくるわかよいにおあしのいたむときもあらば。それぞまことにでぐちのおちゃでもあがって。おやすみなませとしかいう かりきのゆきながぎじゅつ (ニオ) 挿絵 (二ウ) おらんだかがみまきのいち しにいわくめんぱんたるこうちょうきゅうぐにとどまるといえりとどまるにおいてそのとどまるところをしるひとをもってとりにだもしかざるべけんやといえども。ひあたたかく。やなぎせいせいとしてふくかぜに。さそわれでるこむすこや。 しょせいのとものろんごよみも。かたきをうしない。ついにしょうかんろんけして。めれなのふちょうとなること。これいまだらいきのげつれいにもみえず。 (一オ) とかくとうせいは。えどふうぞくことばさえまぬれば。だいつうとか。 すいとやらんにこころえ。きもののこのみながばおり。 かきだしのうしょやひょうばんつきも。ここにいったるかみいれは。とんだおおきいふところの。うちはからからげたのおと。むねはさんようのしあんばし。おもわずなおすえもんばし。 こいのなかみちほそなごう。いついつまでもおかわりのうとあいさつは。みなこのさとのつうげんや。 (一ウ) おきゃくをにかいへあげやちょうの。ここにうわさのとりどりに○さるあげやのにかいにきゃくをぬすんだのぬすまれたの。それがすむのすまぬのと。かしゃがあいさつやりてひきふねがわびのとおおもつれ。 となりざしきはえどなまりのしょせい。じょうしゅうはちじょうのもみうらこそでに。むらさきちりめんのながばおりといすりかけ。これみてくれいといわんばかりは。ごもんもすかぬつらつき。はんもうさいけんじゅん。 (ニオ) えんのてすりにあごをのせ。にわをながめていながらも。さすがいしゃだけあって。ききはつったぞくごをまちがいながらおりおりつかう。 いまひとりはえまつうけんとてこれもおなじくけんじゅんじこみのえどなまり。 おっとせがなみまくらというみぶりで。ねおさきにてまくらし。むしょうにわるくちをいう。 ○げこさんにんくる。 じまえざけをこぶまきでいっぱいひっかけて。きながらそんなかおもせず (ニウ) えてむめぼしをこめかみへはり。こゆびのくくったてでおびをふたつみっつたたきわらいもせず。きゃくのかおをみながらおおしんどおいでなといいいいいすわり。しゃみせんへのぼりつき。みずてっぽうをつくというみぶりでしゃみせんさみせんをつぐまもだまっていず。なかいとはなししながらおさだまりのうたちょっとひき。しゃみせんはしりのほうへおしやり。 (三オ) かたすみにすずりぶたのよここぶさがしあいながら。きゃくがよいのいやわるいの。 かみゆいさんはおせいさんの。おなをさんのと。くちぐちのうわさは。こいえのかかがていしゅうわさやつけものばなしにひとし <けんじゅんはみなおれにほじるしであろうとおもうに。そばへよらぬゆえすこしはらをたて> [けんじゅん]こうおまえがた。きんぎょばちひなたへだしたように。かたすみにばかりいずとちとここへきな [つうけん]けんくんそくかみぎのかひんけんのせりふどうした (三ウ) <かひんけんとはしょせいなかまでびふをいう> [けんじゅん]<さかずきをしたにおき> まあきいてくれい。おれもいろいろほうをついてみたが。いったいさいしょはちんみゃく{左:おとなしい}のしょうのやつだ。そこでうちへいれるやくそくもしたよ。それがだんだんふみゃく{左:うわき}となりおったゆえ。しょせんだとおもいきょえんしたが。あのふじんもじゃくだつ{左:やくたたず}のしょうとへんみゃくだ <とみゃくろんでせりふをいう> [なかい]はいもしおさかな <とかまぼこをはさむ> [けんじゅん]このかまぼこでもりぐちのちゃせきに。りきゅうもしたたかはらをたてられた。 (四オ) 挿絵 (四ウ) 挿絵 (又四オ) すべてここなさけをのむは。ふぐじるくうよりはまだおっかねえよ。けんしもながくこのさけのまぬがえいさあ [つうけん]そうだよ。 おおかたあのさかなははんみょうのほねきりだあろ <とはものほねきりとはちとむりなくちあいじゃ> [なかい]そんなわるくちばかり。ぬたのはちのこうみょうとやらいわずと。つぎめにひとつのみなませんか [けんじゅん]こいつぁひとばんはなせるふじんだ (又四ウ) <といっぱいつがせ。ぐっとのみむこうへほれば。ことのはひざをすこしあとへひき。いととかおをみあわせこごえで> [げいこことの]いとさんあのきずもよっぽどにじゅうしじゃなぁ <とわるくちいいながらもまったくばちはたたみのうえにはおかず> ○<きずとはこのさとでぼうずのことにじゅうしとはごくどうということ> [げいこいと]ことのさんちょとみみかしんか <とみみのはたへくちをやりあいつはくるわへござるあんまとりに> にたなぁ <といえばかおをちょとみてわらいわらい> [ことの]ほんにようにた。いっこうちがいなしのまんなかじゃ [けんじゅん]なんだかおまえがた。おれがつらをみてたれににたの。かれににたのとみがわりにでもたてるのか (五オ) <というもこころのうちには。あらきちかひなすけにでも。にたかというきどりでむしょうにえもんをつくり> さいぜんからとなりがとんだこうげんだ <とふすまをすこしあけ。のぞき> すむのすまぬのと。いどがえのあとじゃあるめぇ。こう。あのろうさんぱん{左:やりて}をちょっとみな。そうれいのたつがしらというつらだよ [つうけん]なんだかじもちがくそをひるというつらで。とられたのぬすまれたのと。えどしばいのともきりまるじゃあるまいばかばかしい。 (五ウ) [けんじゅん]このまえどほくろう。せんすやのたきがわおいらんから。はいかいのまきをわっちにてんさくしてくれいとのぼしたよ [げいこさくら]あのもしわたしがよんだほっくなおしておくれなませんか。そしてつけくのいみことばはどうで [けんじゅん]おまえもまんざらではあるめぇ。まあなんとだきかしな。 というにさくらははいとくちをうごかし ほおずきのみをしぼりけんあきのくれ (六オ) [けんじゅん]ずいぶんそれでもくになるよつけくのいみごんはまたむつかしい と。ちしゃとも。けんじゃともいわれんつらつきに。すみながしのきれいせんをたずさえ。しょしんのちゃをたてるというくちもとし。こばなをいからし。ぼうずあたまをふりたてて。 それはいかいはれんがのわざにしてていとくにじぶつとなる。すえすえのたつじんあやにしきにつまびらかなり。いまもっぱらしょうおうのながれをくむ。もちろんつけくはしきほういみごんおおし。とかくしょしんはわからぬくをはなくそとともにひねくりださんと。ここをさいこべとあんず。 (六ウ) てんじゃのしゅういつときわむはこれ。おうむよくいえどもひちょうをはなれず。われよくいえどもすいげんをはなれず。まずさつまいもとくまのいがさしあいます。ときだいことせんこうはきゃくにいみます。それもやくそくとへんずればしちくざりてかまいませぬ。まぶとじまいざけはおもてをいみます。 (七オ) これをおぼえな。 わっちがこのごろのくに ふるいけやかわずとびこむみずのおと [さくら]とてばもとまりますかえ [けんじゅん]せぞくにいう。しかくなたまごにおうたどろぼが。やかな。なおらぬとまり だ <とおもしろないくちあいをいい。しらぬことゆえまぎらしている> [なかい]さくらさんそのほっくとやらでおもいだした。あのゆきさんはきなますかえ [さくら]おまえはまだきかずかえ。せんどのな。それ。ことからかれやこれと。あのおかたのうちもやかましく。こっちのうちもあのとおりじゃゆえもめて。それからわかれたわいなあ (七ウ) [なかい]<くびをすこしあとへひき> そうかいな。どうやらようらくらしい。ほんにさくらさんのまえじゃけれど。あんなしんのあるおかたはないもの。そしてくるわへおでなますかヘ <といえば。ばちをもちながらひとつまねいて> [さくら]まあききいなああれほどまでになったなか。わしもあまりこころようもなしきてならちょとみたいとおもえど。そのあときなますことはきかぬ。 (八オ) えらきまりじゃげな。ひといきはなあここへはなにきていても。こちらのときくとぬけつかくれついたが。いまはいっこうしゅみかたじゃ <とこえはりあげさんはきれてもにせいのえんとうたいさみせんをふたあがにしたり。みさがりにし。ばちでひざをたたき。きゃくのいうこともきかずにはなししている> [けんじゅん]てまえらはあちらのひとのこちらのをと。ひばちのおきいらうようなこと。あまりざしきできゅうかくのはなしはよくねえ。やぼぎゃくじゃ。むまにまるめろだ (八ウ) というところへ。なかいがみみのそばへきて。なにやらいえばどんなかおしてうなずいてばかりいる。 げこはみぬかおしていれど。むかいのこととすいし。ほかのはなしにまぎらしときがねをかくさんと。おもしろういいなすも。つとめのならいとて。よにくがいのおんなほどしょうばいにせいだすものはないとおもうが。なんとみなさんそうじゃねぇけぇ (九オ) おらんだかがみまきのいちおわり (九ウ) おらんだかがみまきのに さけのみほんしょうをたがえずと。めれんになっても。ろうそくのかわりめにむねをいたむること。よいざめのみずにひとしく。はらわたにしみ。なんとなくなかいをうらみにくむよりほかなしと。つうけんはつくづくかおをうちながめ。 [つうけん]てまえはまもりほんぞんがふどうかしてとんだこわいつらだ (一オ) ちとえびすさんでも。しんじんしてわろうたがええ <といえどなかいはそしらぬかおしているゆえ> [けんじゅん]しかしてまえはとんだしあわせするそうがあるよ といえば。なかいはそばへより。てのすじもみておくれな。わたしはちとやくそくしたひとがある。そこへいかれますかのいやあねきはおおさかのしんまちにいられます。おやじはつちもちで。かかさんはちごかいのと。うそとはしらずよいということきいて。くさじのことやなにもかも。ないしょうのわけをはなす。 (一ウ) げいこもわたしはこんなとしのひと。さきのこころに。しんがあるかどうじゃの。いやわたしはなんぎをするということ。そうでござりますかのと。ぜにのいらぬことゆえしんになってたずねる。 なかいはよいといわれたとおもい [なかい]もしなこのたばこはとおいおうしゅうとやらいう。おくのおきゃくのくにからでる。おいのがわらとやら。 (二オ) ちょっぽりのんでみなませんか <おいのがわらとはせんだいのめいようなり> [けんじゅん]なんださいのかわらだ [なかい]あほう。おいのがわらじゃといなぁ [けんじゅん]おいのがわらだ。いとこのがわらがあきれる <といいいいのみ> こいつぁいけねぇかだ。さんごやのほうひときている。いっぷくでけんえつのもようしだ [いと]おれんどんあのおうしゅうとやらは。じょうるりにあるところかい。どんなおきゃくじゃえ (二ウ) [なかい]はなのたかいせいのひくいおさぶらいさん。おおかたたとえのとおりどこやらが。あのわりあいではおもいやらるる <とくちへてをあてははははははとわらう> [けんじゅん]なんのばからしい。はながおおきくたかいのいやこおとこのとそれでおおきくば。えどのだんじゅうろうや。またふじんなりや。このくるわのなかのちょうとやらにいた。ちゅうきょなどぁむまからひだらだ。なにごともみなそのものにおうじたものだ。 (三オ) そこでこうしというひとがきみきみたればしんしんたりちちちちたればここたり と。ふじんとおもい。とってもつかぬことをしったがおしてひきことにいうも。ものしりじゃ。おもしろいおかたじゃとおもわれなば。なんぞのはしかけにもならんかとおもいいう。 またげいこなかいがたばこいれおうぎなどをみて。こりゃいっこうすいじゃおくれんかといえば。いやともよういわず。 (三ウ) あなたのことなら。ずいぶんずいぶんとばかり。いうてはいれどこころにはきょうおたびちょうでぎんいちりょうにこうてきたものをと。やちゅうにかえりとをたたくよりはなおむねにこたえ。いけぬおなごなればひとしおおしゅうおもう。 けんじゅんはさくらをみて。よそのこいめとなにがなわるくいわんと。 こおつうこう <とあごでおしえ> あのぎぶがあやみな。きんぱくでせきとうへつこうというふあやだ [つうけん]うそぁねぇよ。 (四オ) ときにこうは。かくしょうていのわけあいきいたか [けんじゅん]おうさおえねぇ。わたをしょじしておる。きやつもだいおうざいのしょうときているよ [つうけん]あのまた。こめたきめははやうちじゃあるめぇ。それにいつもたすきがけでちゃをくむべらぼうだ [けんじゅん]あいつくろいつらにほうげたとげたのむこうばなおばかりあかくしおって。 さぞしゅうきはなはだしかろ [つうけん]そんなにわるくいうな。あれもさるおとことこうけいのまくらをかわすきどりでちわってるよ (四ウ) [けんじゅん]そりゃおおかたこえといやのおとこだあろ <とらっちもないわるくちをあたひつこういうゆえ> [なかい]もしなはなしはこうしんにしなましてまあちょっとおすいな <とすいわんのきせをとりはしをのせだし> げこさんがたもいきなませんか <といいいいひばしでろうそくのしんきるは。はたのくうをおそいかおしてみぬというまけおしみのてじななり。 げこはひとくちすうてみれど。あまりうもうないものゆえ。なんたらどん。ちょっぽりやりんかと。わんのふちをはじきはしをふいてなかいへやる> [さくら]ことのさんいっこうすいじゃなぁ。ちとさかずきまわしんか <とすべてげこなかいのことばはみなあとへひく。まいごよぶきどりでよむべし> (又四オ) 挿絵 (又四ウ) 挿絵 (五オ) [ことの]もしなはばかりさんながら <といいさまかみをだしてさかなをうけえびをはさめば。いやいなぁこのようになるまでげいこせいとはあんまりむごい。なんぞといやみをいいくさるとさかずきをさし。もしひとつおあがりなぁ> [けんじゅん]おっとおもいざしか。きょうえつだきょうえつだ といいいいちょうしちがいにうたいだせば。げこはいやそうなかおしてなかいと。はなししいしいしゃみせんをとりあげひきいだす。うたいしまうやしまわぬにもしな。おひとつおあがりなぁといいいいてをたたき [なかい]おちょうしなおしておくれやぁ (五ウ) <はいとこめろはかたてにちょうしもちながらさくらにそっとなにやらいえば。まっているかえとさくらはたってしたへいく> [なかい]<こえはりあげ> きちさんおくれやぁ <きちさんとはこのさとでろうそくのこと> [けんじゅん]いませいじょう{左:しょうべん}におりたみすじめはおえねえやつだ。ざしきなかばでゆきさんとかなんとかにわかれたの。はなれたのと。まるいちいしうるしじゃああるまえ。それにもしもきてかとしょうふうむらさめの。いったいわけがすまぬうらじゃ。いっそあかしてふみやろうか。 (六オ) むこうへゆきさんのいやゆきひらのと。むねをやきなべにしおって。びんぼにんのそうれいでじあいばかりしあがるよこだ。 <というところへさくらかえれば。そしらぬかおでまけおしみにおくざしきのきゃくのことをいう とんださわぎだあのはしらにもたれておるおやじは。むげいだそうで。さいぜんからちゃわんばかりたたきばらいにしあがる。いわゆるさんさいのちごのいちごんもはちじゅうのおうとはあのことだ。 (六ウ) とわるくちいうもしらず。しゃみせんのひきしまいには。いつでもようようごくろうと。やぼなつらでほめている。 けんじゅんざしきもおもしろうないゆえ。げこはたいくつし。そろそろけんをはじめる [ことの]さくらさんひとつついでおきんか [さくら]おっとよしよしそれ。ちょうかけな。はんかけなちょうかけなはんかけな <はははははとわらいさわぐ> [つうけん]<しったかおしてもしらぬことゆえおしえてくれともよういわず> わっちはきんかくじはいけんだから。ぎょうじぎょうじ。けんじゅんもおなじくすきな。 (七オ) これはまけおしみにそばへもいかずにおれどだんだんおもしろくなるゆえ。まけたものにはのませのませ とさわぎたて。きんこくのしゅすうたれと。さわぐなかにもこびたことはなれずそれからわらうやらてをたたくやら。 あとにおもしろいくちあいもむだもたんとあれど。さわぎにてとんときこえぬ おらんだかがみまきのにおわり (七ウ) おらんだかがみまきのさん でぐちはむかいちょうちんに。たいふもここにまつのいろ。 いりくるきゃくのかびのなか。すけんてぬぐいほうかぶり。 こみせのきゃくのこわだかく。おびとせったにみをうちこんで。もじはしらねどやたてはまえに。ぶらりぶらりとぞめきゆく。 ろくちょうまちにたれしらぬものなきちょうさんは。くろはぶたえにながばおり。しのぶずきんのおくゆかし。 (一オ) のうれんまねけばかぶろがふばこ。はいともてくるはなやかに。ひかれくるわのにぎわいや。 たれもおもわずついここにとつっとはいればめはやき [なかい]ちょうさんおいでな。やぜんはもしだんだん <というこえにはしっていずる> [かしゃ]もしちょうさんおいでな。やぜんはもしな。だんだんおありがとう [すいちょう]あいゆうべはおおきにおせわ <といいいいあがるむこうにたゆうさんにんいる> [たゆう]ちょうさんどうで [ちょう]あいおかわりもないか [けんじゅん]にかいにまっていなますぞえ。 (一ウ) [なかい]ちょうさんもしおこしのもの [ちょう]おっとそれ <とわきざしわたしかみのたなのだいじんにんぎょうをしりめにみてにかいへあがるむこうより> [かぶろ]ちょうさんちょうさんたゆうさんがまだおいでなませぬかと。よいからでぐちへにどひとをたずねに [ちょう]どこにいるちょとしらしてたも。してきゃくはたれじゃ [かぶろ]はいおやしきのおかた [ちょう]それはこのあいだからのもさざえもんとやらか。まぁはようしらしてたも。 <はいとかぶろはなたねたゆうのとこへゆくおびをひきずりつまおりをくわえながら> [げいこいと]ちょうさんおいでな。もうあいなましたかえ。ようまいばんきてあげなます (二オ) 挿絵 (二ウ) 挿絵 (三オ) [ちょう]まあここへはいりな。 <というところへふたぬののひものみえるほど。つまをからげはしって> [げいここうめ]ちょうさんちょうさんやぜんはもしだんだん。ちとまたしらしておやりなんで。おねがいもうします。あねきおきゃくはたれで [いと]すかぬしょせいきゃくで。くすりのなのようなことばかりいいくさる。いっこういやでいやではようとれてほしい [こうめ]わしもしゅみかたの。ざしきできしょくじゃ。いまもなかいしゅといしでいっぱいやってきた <というにかみをちょとみて> (三ウ) [いと]すかさずつとへかんざしいやみじゃなばちのしりもくくっておきいなあ [こうめ]これでもいにくさらんしんきやの。それにあんまりきがない。きよさんがよいになんたらでえらかんてきおこすの。どうじゃあろ [ちょう]くっつりとえらはなやかしてさま。おたのしみ [こうめ]あほうちょうさんきらいやの <とてをふりあげそっとたたき> なんぞいいなますか。わたしがようなものにだれもくさじになってくれてがない <というところへくる> [なかい]うそうそ。 (四オ) ちょうさんききなませ。まいばんまいばんちょいといきの。ちょいとばやいに。えらわあわあさんじゃ。どうしてやろ [こうめ]おりょがいさん。なめくさりやの。 といいいいちょうさんまたのちほどと。みなつれだってざしきへ。ゆくもかえるもわかれはつらきこいごころ。 うそとはうそのかわにして。うそはまことのほね。 まよえばうそもまこととなりざしきをようようと。ぬけつかくれつここにきて。ふすまにもたれくいさきがみ (四ウ) [なたねだゆう]もしないまじぶんになにしにきなました <といえばすいちょうも。さすがふところごほどあって。ふるてなせりふいう> [ちょう]おそうてわるくばかえろう。どんなばんにさんじてさぞおじゃまになりましょう。どうでいなかさぶらいのようには <というをめでしらせこごえになり> [たゆう]これきこえるとわるい。しずかにいいなませ。あほらしいいなかものをすきそうなものか。たいていおもうてもみなませ。もうこんりんざいいやでいやで <というをみなまでいわさず> [ちょう]そうらしいもの。 (五オ) きけばよいきゃくじゃげな。とかくいまのうきよはかがみやまにある。きかくがほっくやまたこのごろのきょうかに うかれめはいろもなさけもきぬぎぬのえりもとにつくあかつきのかね ようきいたがよい。とうりばかりかとおもえば。いまのたゆうもそろばんづめでかきよせるのか <というにたゆうは。もさざえもんへきこえるかとあんじ。そこらをうろうろながめこえをひそめて> [たゆう]あほう。あんまりでわたしゃものがいわれぬ。 (五ウ) そんなさもしい。えりもとにつくのと [ちょう]それがはらがたつか <というくちおさえ> [たゆう]これひょっときこえて <ととなりをおしえ> このきゃくしくじってはここなてまえが[ちょう]だまりおれ。それほどかばうはさぶらいめがかあいいか <というくちまたおさえんとするをふりはなしみみにくちあてるをつきたおせばこけながら> [たゆう]あれまだかばうのなんのといいなます。わたしがこころがしれんじゃあるまいし。よしないことをはらたてなます <としくしくなく> (六オ) [ちょう]そんなことはききにこぬ。ほんにわしはゆうべもおそうかえった。こよいはおもてのしまらぬうちにどれかえろう <とたちあがるを。すがりつけばつきとばす。たばこぼんがったり。かまわずむりにとりついて。こころはせけどとなりをはばかり。ようようみみへくちをあてなきごえにて> [たゆう]これなあこのままでいのうとは。あんまりむごいまあわたしがこころをすいりょうしてみなませ。ゆうべもでられぬとこをぬけてでて。いっぺんさがせどいになましたあと。わたしばっかりこころをつくしても。そんなみずくさいことばかり。 (六ウ) たとえおまえにたたかりょうがふまりょうが。そうしられるひとにしられるとおもえば。わたしゃはらはたたぬが。せめてわたしがおもうはんぶんもおもうてくれてなら。うたがわるることもあるまいものとおもえば。わたしゃそれがはらがたつ <となきなきおとこのおびをしっかともっている。すいちょうもすこしこごえになり> [ちょう]わしもうたがうまいものか。ゆうべもせんどまたせなんのへんじもせず とはなしさいちゅうに。となりのもさざえもん。はいふきじゅうにさんたたきあはんあはんとせきばらいななつやっつする。 (七オ) こなたはなおもひそひそし。いきをころしてみみをだしたりくちだしたり。ようようたがいにうなずきあい。えみをふくんでとこへはいり。たゆうはかぶろにかがみぶくろをとりにやり。あおぬきにねながらのべかがみをみて。かおをふき。ちとおよりなませもくちのうち。 (七ウ) うすとなりきねとなること。これまなばずしていたるところとここにりゃくす。 このあとはおおぐちいわぬこと。 かかさんがしかってじゃ おらんだかがみまきのさんおわり (八オ) おらんだかがみまきのよん おうしゅうなまりのもさざえもんも。しゅにまじわればあこうなり。しょうべんにゆくになかいがつけば。でぬもいまはすこしもはじいるきなく。ただひとりふとんのぬいめへゆびつっこんだり。あくびをしてはしょうべんにゆけど。まだかえらぬはにくや。かわやへいたのではないか。たれぞとみれどひきふねもいずと。そろそろたってだんばしごから。こわごわのぞくだいどころ。 (一オ) げたのおとすりゃこころにこころをよろこばし。とこへゆかんとすればはいげこさんがたつまるとみっつといいすてゆく。 こりゃちごうたとまたたちのぞく。 かどはゆききのはなうたに。わしがおもうはこれよりひがしこれなんなんといちどにさわぐかぶろども。 これぞとおもいみをひそめば。さちじさんおまえか。いいやとこたうあんまとりに。もさざえもんはなおもはらたて。はなごえにてなまりかけ (一ウ) [もさざえもん]さいぜんから(いちゃい{左:いっこう}いちゃいわかりもうさない。さちじさんうまいかとは(あん{左:なに}だあ。くらいものだべいか。(うっしゅ{左:ああ}それよ。うらあが(すべた{左:たゆう}が <とだんばしごへかたあしおりだいどころのおんなをてまねきし> これさあねこここさおいでやれ [ひきふね]はいおよびなさりましたか [もさざえもん]おおよんだてやよんだてや [ひきふね]なんぞごようがござりますか [もさざえもん](おかなく{左:たんと}ようがあるてや。せんこくたゆうがどこさぁやらいきやりもうして。いまに(もんら{左:もどら}ないさぁ。 (二オ) ぜんたいあれさぁとは(らちやなく{左:とほうもなく}。(うらぁ{左:わし}とは(ふんばり{左:ひっぱり}があるでな。これは(にした{左:そなた}ちや。しるべいことだねえさ。このさきみうけしてほんごくさあ(かたって{左:つれて}(あいぶと{左:ゆく}というたれば。(やんだ{左:いや}ともいわず。しかしねんのうちはどうかさつとめたいおもむきかたる。これちゅうしんのめんじ。そのぶんにさしおいた。そのときかたみを(けてござい{左:くれい}と。いったれば。(はんてん{左:じばん}をとんだし。こんな(げな{左:わるい}ものさあとあとはなみだぁで(かっぷした{左:うちふした}。 (二ウ) うらぁ{左:わし}もいちべついらいでぬなみだぁを(しこたま{左:ぎょうさん}こたんとながいた。あまり(がいに{左:ひどう}おもいじょうしょうしたやらぁ。きかず{左:つんぼ}のようになるやら。からだは(ねずみつくり{左:てんかん}のようさであったを。(おかっぱ{左:ままよ}とこころをなおしても。はんてんをみればおもいだし。たんきんで(あぶ{左:すでに}なく。どうちゅうさあゆわれず。なんぎもくにおもわぁないできこくさぁしたてやさ。 (三オ) (ひらはまけねぇ{左:うそつかぬ}。これでも(よかんべい{左:よかろう}ものとおもうか。どうだてやどうだてや [ひきふね]いやもうあなたさんのおうわさはかねがねたゆさんのおはなしでうけたまわっておりますが。ほんにあなたのことなりや <とこゆびのはらをおやゆびでおさえ> もうもうこれほどもたゆうさんにじょさいのないことははいわたしが。ようしっております [もさざえもん]まあまあ(きかはれ{左:きかしゃれ}やこんどのぼりときくと(いきみ{左:しり}を(かいさま{左:さかさま}にしていえさぁの。(あっぱ{左:はは}(わらし{左:こども}やど(おかた{左:かか}も。(いつけて{左:すてて}おき (三ウ) (たった{左:すぐに}いまきょうさぁにつきもうして。(いちばん{左:さき}にきもうし。たゆうに(いきやい{左:ぶじにおうた}。(やいやい{左:これはこれは}(おてっぱら{左:ひさしぶり}で。あったなべいと。むかしがたり。またぁいぜんのとおり(くっついた。{左:なじむ}これこれはたゆうがうらぁに(けた{左:くれた}(はんてん{左:じばん}ださ。あまりに(がいな{左:ひどう}がいなやぶれたゆえ。このように(てんぺんふくろ{左:ずきん}のうらや。(けつわり{左:ふんどし}にしもうしたさ。 (四オ) かくあつくおもうべいうらぁがきださ。それにこう(むぞう{左:むがう}するとは。うらぁがしんせつなおざりにするだん。(たまげた{左:あきれた}ことださ。たゆうはそんなものではないべいが。こりゃどうしたものだべい。 <ひきふねはおかしさをかくし。おやじのいけんきくというみぶりでいるに。ひとつもわからねど。といかえされもせずたいていすじうえもんで> [ひきふね]あなたさんのおことばみなごもっとも。しかしただいまももうしますとおり。なんのたゆさんがあなたのごしんせつをなおざりにしなましょう。 (四ウ) たしかよいにおきゃくのごれんじゅうさんがたがおいでなました。おおかたそこに。いつもたゆうさんにあいせいのいやすけいのと。ささのおあいて。ざしきのばやいがわるうてかえりなますもかえられず。それでおひまいりわたしがちょとみてさんじましょう。さだめてたゆうさんは。はようかえりたいとおもうていなましょう <といいいいたって。すいちょうのとこへいく> ○けんじゅんざしきはさかずきもまわし。げこはしゃみせんしまいしまいなかいとはなしし。ふろしきのむすびめへてをいれもちながら。きゃくよりさきになかいへいんでこうや。またのちほどえといい。きゃくのかおをみてもしなこんばんはだんだんおありがとう。ちとおねがいもうしますと。おさだまりをいうて。せったなおしのいにしなのようにはこをさげ。あとをみいみいしたへゆく。 (五オ) 挿絵 (五ウ) 挿絵 (六オ) ふたりはあとになげあしし。えんをどんどんいわし。かしゃめがつとめにでぬのいやはしらのはたにいたげこはくびだの。がんくびのと。たゆうをまちながら。はなししているに。 (六ウ) となりのもさざえもんがせりふをきいて [つうけん]けんくんとなりのせりふきいたか。いざりというけだものはあるが。なおされというものぁきかなぇ。それにしんちゅうがしれんのあかがねのと。あんまりでほぞがみょうけんまいりだ [けんじゅん]かまわずおけい。たかがいなかの。なもやぼだふつだ。なんぼすいがってもとうろうがおのだよ (七オ) <というに> [なかい]<ちょっとそでをひき> もしな。ありゃおやしきのおさぶらいさん <といえばまけぬきになりかたをぬぎこたえなはちまきし> [けんじゅん]なんださむらいだ。しょうぶかわが。おっかねえか。ちときられてぇ。ひいやりと。あすいかじゃあるまい [なかい]もしなどうぞわたしにめんじて。とかくさきが <とゆびにほんだせば> [つうけん]にほんだ。えいわさぁ。ろっぽんにしてあけまでつめてやれ。こりゃやい。いざけやのとくりはいしをもってくちをそそぐ。ながれのさとをまくらとするおれだ。そんそはぁいわねぇ (七ウ) <とさわがしいなかからわるいくちあいもかまわずいう> [けんじゅん]なんぼこのくるわがしょうべんへのめったまりときている。まるいひとがらなところでも。そんなこというては。とうせいのままたきもきんけつだ。ばかばかしい <なかいはもしなもしなとてをあわせどききいれず> [つうけん]またかとうみおれ。どんなものだ。 おつむりのおどうぐでやけでらのにかでらやさんかでらのさいこんはしゃくもいらねぇおおかたひとめみやがったりゃ。このよのいとまごいとなりおろうかならずたのんでさけのさかなにゃぁえんれいたんにきんしょうがん。どくじんとうでもせんじてもらいあがれ。 (八オ) ああぜれてぇやろうだ <といえばなかいはなおなおけんじゅんがてをもちてひけばひかれながら> [けんじゅん]じまんじゃぁねぇが。おいらはまた。さのみおとこぶりもえいというじゃぁないがどうだか。びふにはすかれるしょうだ。これもまたこまるよ。ひぢりめんのゆもじとべっこうのおくびがでて。このごろはこころもちかして。はだにうろこがでそうだ。おりおりはおしろいのきをうけるやら。りゅうふんにおおこまりだよ [つうけん]おいらがせかいまたきけ。ちょっとのしょうべんがにもんめさんぶだ。 (八ウ) せっちんへいきゃみせじまいのごろっぱいずつだ。そこできんぎんはつかいはたししゅんしょくもあたいせんきんにうりはらって。うきよさんぶごりんのたくわえはのうても。かくちゅうへきてはどんなものだ。でぐちのちゃやがむかいにでりゃ。しんはちやもんのようえもん。よりばのおとこにおくりむかいのこどもまでがそうげざだ。うそはぁいわねぇ [けんじゅん]どうだか。うぬはえらくはながつまったそうだ。またむかいがくるとわるい。はやくかたすみでまあふんとかめ <とあくこうのところへしたよりなかいがはいもしたゆさんがおいでなましたという (九オ) ○ひきふねはもさざえもんがねまのからかみをひらき> [ひきふね]もしおゆるしな。ほんにわたしがもうしましたとおり。たゆさんはおくざしきにごしゅのおあいて。もういまおかえりなます。わたしにもささんがひかりなませぬようによろしゅう <とここひく> もうしてくれいと。いっこうあんじていなますほどに。かならずひかってあげなますなえ [もさざえもん]しょうちしょうちちかごろたいぎさやすまれやすまれ。はいごゆるりとおやすみな。 <とよきにかじとるひきふねや。あずまおとこにきょうじょろうのいとやさしさ。みかけはいとけなきわずかさんぼんたらぬさるだゆうも。けんじゅんをひとめみるよりすかぬきゃくゆえおいでなのほかむごん。 (九ウ) ふたりはにわかにえもんをなおし。がくしゃらしいかおさえすればほれるものかとおもい。ふたつみっつおぼええたいこくことばをつかいむしょうにこびて。さいごうをよぶ> [つうけん]はんもうさいそくかの(とくへん{左:しあわせ}いかん <かたかなはみないこくことばなり> [けんじゅん]ふねいおお(どろんこ{左:よい}におよびそうろう。ときによぐあんをめぐらすに。いまりんせきのぞうごん。すこぶるほんいならず。これまったくおうしなるか [つうけん]なんのさぁ。そのつみをにくんでそのひとだ。ただせきふつ{左:あかまえだれ}のにくみをくやむよ [けんじゅん]かくどうきあいもとめたるなんじ。そのうすくするところのつみをあつくして。のうれん。ひらりからすがあの。(おまん{左:かえり}なんとだ [つうけん]そくかなんぞたることをしらざるやあそぶことかならずほうあり (十オ) [けんじゅん]ぐしゃのつみはかならずじごくにおつだ [つうけん]いろにちかづきけんにとおざかるものはくらし [けんじゅん]ああぞくなるかななんじいろをこのむこととくをこのむがごとし [つうけん]あにほうゆうなんぞそむかんやねがわくはようぼううこんこうわれにあたえよ [けんじゅん]しょうのさとのめいにいわくまことにひびにあらたにひびひびにあらたにまたあらたにつくるちょうしゅうこれいかん [つうけん]<ちょうしゅうにはほとんどゆきづまり> ちょうしゅうとはすずりいしのことか [けんじゅん]ばかよ。ふりそでしんぞうのことだと。 <いいいいてをたたけば。はいとなかいおれんくびをかたぶけ。おもおもしいかおではらをおさえながらくる> [つうけん]てまえはどこぞわるいか。 (十ウ) おうごんにきわだのこをかけたというつらだ [なかい]ないしゃくきではらがいたみます [けんじゅん]どれここへきな <とたてひざしみゃくをみ> とんだほつねつだ。そうしん(あべ{左:ひ}のごとし <とかいちゅうよりむらさきちりめんのふくさにつつみたるあかじにしきうらのかみいれよりがんすすこしだし> このくすりを(かつか{左:みず}にてのみなさえ [つうけん]いやてまえはくすりなくともじすよ。よしひさがひうちじゃないがうけあいだ [けんじゅん]それはどうしてなおすよ [つうけん]はてれんしゃくなんぞたいびょうのこころをしらんだ [けんじゅん]こりゃいちばんあやまった。 (十一オ) みょうだみょうだ とはなうたで。しょうべんにゆききのひとのおともなく。ふけゆくそらのものすごぐ。かすかにきこゆる。うどんそばきり おらんだかがみまきよんおわり (十一ウ) おらんだかがみまきのご とこいりのまけおしみは。つうもふつうもつうけんのてをとって。なかいがおくざしきへひっぱれば。まあまて。けんはどこへいたどこへいたと。いいいいひかれてゆく。 けんじゅんはなにがなほれさしと。ろうかのはしらをいこくことばをもってよむ しねっぷ{左:いち} とっぷ{左:に} れっぷ{左:さん} いねっぷ{左:し} いわん{左:ご} あるわん{左:ろく} しねべし{左:しち} とべし{左:はち} あしき{左:きゅう} わなけり{左:じゅう} (一オ) ちょうどじゅっぽんあるといいいい。ざしきをみればたれもいず。ただべにのついたつまおりや。かみにさかながつつんであるやら。 せっかくきかそうとよんだものと。ひとりぼやきながらも。こうしていてはなかいめがもしちょとおいでなとぬかそう。ちょっとこいこわいなと。うじうじして。しりからおされていくもふるし。ああようたもなおこふうと。かみくずだらけのたはこぼんさげて。みなみをはるかにとうたいでとこへゆき。たぬきねいりという。おさだまりのばしょも。すいがってねながらびょうぶのとうしをよむ (一ウ) [けんじゅん]なんだすごうりゅうだな{左:しゅじん}{左:ふそう}なに{左:おる}でもなし  {左:すみざ}んうう{左:ため}{左:はやし}{左:いずみか}{左:なにああ}{左:それと} <かくひきがないとわからねえと。よめぬところはくちのうちでいい。たゆうをまたぬかおでいれど。にんじょうのあさましさに。あしおとがすればおりおり。びょうぶのそとをのぞき。こころのうちにはなにしていおる。おそいやつだと。こうがいへださず。うじうじしてまたよむ> (二オ) 挿絵 (二ウ) 挿絵 (三オ) {左:さかつぼか}なんだ{左:ちゅうじ}{左:ありぜに} <というところへたゆうくれば。みむきもせず。しんちゅうにはきょうえつをもよおし。よめぬところもよめるかおしてよんでいる。 たいふはあたまのどうぐもとり。きがえしてまくらもとにすわり。たばこをのみ。にふくめはおさだまりゆえと。いやながらもはいもしとさしだす。 けんじゅんはうれしけれどもなにげなく。おいとよそめしながらきせるをとり。なにやらいいいいのむ> [たゆう]もしふとんめしませんかえ <といえばはくがくというところをみせんと> [けんじゅん]いやふねいはせいしゅう{左:さけ}のふくかいいたし。いささかさむくはなきぞ [たゆう]してあなたのごせいめいはなんともうしますえ (三ウ) [けんじゅん]ぐめいははんもうさいけんじゅん。りゃくしてけんともうす [たゆう]いままではさぞかしおなじみさんが [けんじゅん]いやなかなかさようのぎはもうとうこれなく。かねがねそくかのびもくはん{左:うつくし}たることを。つたなきこのみにじにゅういたし。ねがわくはいっこくへんじたりともきょうめんのまくらをかわさんこうえんのなきやとおもいしに。いまとうせきのしだい。ちかごろかんぷくつかまつる <といえばたゆうはもとよりすかぬきゃくにこびるゆえ。なおなおうるさくおもいしが。すこしなぐさまんとすねたかおもせず> [たゆう]かずならぬわたしへしょかいから。ごしんもじのおことばさりながら。さらさらまことと思われず。よいかげんになぶりなませ (四オ) <とちわというかおでてをつめれば> [けんじゅん]そんしゅでおんうらみのちょうちゃくありがたし。かくそくかにまかせしふねいがみを。そんなにうたがいたまわば。むしろ。きょうちゅうをわってみせもうさんや [たゆう]どうやらそういいなますとせいじつとはおもえども。とかくみずからがこころさだかならねば。もろこしのせきこうが。ちょうりょうへやくげんし。しんこうのみたまいしこともあれば。ひとつのこうをみせたまえかし (四ウ) <これにはけんじゅんもこまりゆびをきるもぞくなりかみとおもえどわげはなし> [けんじゅん]ああけんなるかなそくか。このうえはけいらとなってさいようにつかんよがこころ。これにてうたがいはらしたまえと <てをふところへつっこみ> ちょときかい{左:したはら}がほとりへやらせたまえ <というてをしっかともち。よほどひがくしゃとみてとりさすがたゆうほどあってしきょうのごをひきて> [たゆう]てつめたくつららのごとし。くちにはほれるあぶらをいいなましても。なんぼくがいのわたしでも。たかいもひくいもひめごぜのとくしんなきにぶさほうな。みずからがむねのくもりのはれるまではゆびもささしはせぬ (五オ) <とすこしりっぷくのていをすれば> [けんじゅん]ごふくりゅうさりながら。ごじょうのてんじんいしみょうが。かみのちかいをかけまくうえは。あにきょごんはいっせつもうさぬ [たゆう]なるほどそれでうたがいはれました。ずいぶんおこころにしたがいましょう <とうしろむきにねがえりすれば> [けんじゅん]けだしふねいをちかん{左:あほう}とおもいこのみたまわずや。いわんやよかいちゅうにいってぐんのおこさんとほっするに。なんじはいめん{左:うしろむき}はこれいかに [たゆう]あほうちわにすることしりなませんか <というにけんじゅんもすこしこころおちつかせこびるをやめて (五ウ) [けんじゅん]ちとよりなさえと <てをもてば> [たゆう]おおせわしまあまちなませ <とほかのはなしにまぎらかす> もしな。しばいへいきなましたかえ [けんじゅん]このあいだいたよ。それもききなかくちゅうへこうとおもい。でたとちゅうでよしおとおくやまとにおうたれば。これはだんなおひさしぶりまあごきげんさんで。ちとしばいへおいでなさりませんかと。むりむたいにすすめおったゆえ。つれだっていたむこうから。やぶのうちせんせいと。かんがくやだいはちとが。どうどうできて。 (六オ) ちゃがいがあるこいといわれたを。ことわりいうてゆくところへ。らんざんせんせいと。あまがいるのしょうたとが。にしやまへぶっさんにゆくと。はなししていられたそのうしろから。けんさんけんさんとよんだ。たれじゃとおもえば。しんちのおそでにおりゅうめが。さがへいてやまのけしきをながめ。いっくずつするほどに。きてくれいといいおるをことわりいい。おおかたじまえゆきじゃあろ。そのかわりにからだはおれがしてやろほどに。みなみがわへつけさしておきやというてわかれしばいへいたが。こんどはだいぶよくしおるよ。 (六ウ) そのかえりにかわらのちゃやにやすんでいたりゃみながわせんせいとてれめんてんのおゃちがわせて。まるやまにしょがのよりあいがきがある。ぜひにきてくれとたのまれたを。いろいろとことわりいうてもどったが。もうまいにちまいにちかんばんかいてくれいの。いやかけものにするじさくのしぶんかけいの。いやのうこうぎょうするしゅっきんしてくれいのと。ゆうじにほとんどこまるよ (七オ) <といううちも。あすはあれにこれと。くちのうちでいうている。たゆうはうそとしりながらも。あしらわねばまたいやみとおもい> [たゆう]ほんにまんのうはくがくもさぞおこまりさん。おおかたかいちょうまいりなどしなましたら。おあしよりはおくびがいたみましょう [けんじゅん]そうさぁあたまあげてあるくまがないよ。きょうもぎおんまちのびさいのこうせんやのおやじと。いちりきたろううえもんがきた。みなあのれんじゅうはりっかのでしだと <しったがおするあほうものとおもいながらも。あまりききぐるしくそろそろなぶりかけかがみのめいをいう> [たゆう]あなたのようにちかづきのおおいおかたなら。あのてんかいちひとみいずみのかみさんしっていなますかえ (七ウ) [けんじゅん]ずいぶんちかづきだ。このあいだもあそびにいったよ [たゆう]よめさんよびなましたげな。どこからきなましたえ <といえばあれはそれなになにとしらぬことゆえくちのうちでいうたゆうはなおなおたずねかけ [たゆう]そんならなかとみのいそじさんはさだめておこころやすうしなましょう [けんじゅん]いそじかあれとはきょうだいぶんだよ [たゆう]ほんにどこにちかづきがあるまいものでもない <ときょうちゅうにはこめもらいときょうだいぶんかとわらわれもせずそしらぬかおで> それではゆきさんもおおかたしってんで (八オ) <といえばゆきさんとはいろのくろい。いちもんにいつつむっつうる。だどんのようなおとことはしらず。たずねるからはさだめてびなんのすいじん。ことになもすいなればおおかたやなぎをひとよみねばねられぬというひともしやくさいなかではないかと。わるくちもよういわず> [けんじゅん]ゆきはだいつうものだ。このあいだもせんくへつれていてやったよ [たゆう]そんならゆきさんのおととのまるいちさんわえ。 <これもさだめてすいじんもししらぬといわば。やぼとおもわれんかと> [けんじゅん]まるいちとはゆきよりはまだじゅっこんだ。ほんにかたいものはかんでくわすほどのなかだ <ときくにたゆうはたちあがり。ほんにきゅじゅうのひとをおおかたちかづきというからはさだめてだっこのきちがいともいとこぶんぐらいで。あろうといいいいしたへゆく」> (八ウ) けんじゅんはおおかたじこくうつりしゆえ。ちょうずであろうと。すこしこころよういしまっているところへひきふねがきて。びょうぶのそばへすわり。 あのうけたまわりますれば。あなたさんはゆきさんのおとうとご。まるいちさんとはおこころやすうしなますげな。たいていきいてもいなましょうが。わたしのところのたゆうさんとはふかいなか。ことにあなたさんもまるいちさんとおこころやすけりゃなおのこと。こんなことがきこえてはすまず。 (九オ) もちろんたゆうさんもぎりのたたぬこと。さいしょからまるいちさんのごれんちゅうとしれてあるなら。でなますはずもなし。またあなたもほかにおきにいった。よいたゆさんがたよびなますにもよけれど。いまじぶんにそんなこともならず。おきのどくさんながら。おうちでおやすみなさったとおぼしめし。こんばんのところはおひとりおやすみなませ。はばかりさんながらまるいちさんへよろしゅうおつたえなされてえ。 (九ウ) ほんにいっこうおきのどくさん。 おさびしかろ と。いいいいしたへゆく。 けんじゅんはなんにもいわず。ふゆむきひばちをとられたようなみぶりで。なんのいわいでもよいこというて。いまさらあれはまちがいじゃ。しらぬひと。うそじゃともいわれず。びょうにんのしんだあとへみもうたようなものだと。いしゃだけのたとえをいい。あいどこをうらやましくおもい。ひきてのとれたあとからくちあいてのぞいてみたり。うろうろたってだいどころをみれば。やばんのおんながはんえりにちりがみをあて。いねぶっているよりほか。たれもいず。 (十オ) いつにかわってよのあけるをまつはこよいばかりだと。れんじのしょうじをあくれば。むこうのまつにはやいちばんからす。 けんじゅんがかおを。ためつすがめつうちながめ。あほうあほうあほうあほう おらんだかがみまきのごおわり (十ウ) たれてもゆくちゃやは かねとはききしかど こうはまろうと おもわ ざり けり 挿絵 (十一オ) 漢文跋 (十一ウ) 漢文跋 (十二オ) 広告 (十二ウ) 広告 奥付け (丁なしオ)