粋好伝夢枕 ------------------------------- すいこうでんゆめまくら てん すいこうでんゆめまくらだいげん けんこうほうしにはあらねどもつれづれなるままひとりともしびのしたにつくねんとひげをみしりみぬよいまのよのことをむしゃくしゃとおもいつづけしに (一丁ノオ) ふとかのしょにたまのさかずきそこなきごとしとわらいたまいしにきづきわれもいまよりいきのみちをまなばんとおもいたちしかど かなしいかなもとよりしれたひがざえもん どんなことがいきじゃやらやぼじゃやらやみくもなれば (一丁ノウ) ひごろしんずるまりしてんではのうてまいすてんをきねんしつつついとろとろとまどろむうち ゆめともなくうつつともなくちんぷんかんのろうおうこつぜんとあらわれてにあやしのいっかんをたずさえしめしていわくよきかなよきかな (二丁ノオ) なんじやぼををはじていきのみちにはいらんとす しんみょうそのこころざしをのうじゅしたまいわれをちょくとしてひみつのまきをあとふ なんじわずかにこのあおびょうしをとっくりとのぞきおかばたとえよんもんのせんこうをたきはちぶのろうそくをともしきゅうびきんもうにとりかこまるるともうつつみたろうとなり (二丁ノウ) ささよささのさときらわるることなくあっぱれいきのほんがまとなりうんてれかんのくさめするのでれまくなし ゆめゆめおこたることなかれ (三丁ノオ) われはこれいけんそがにときたるところのげにもろこしのとうばこじからにもいきのあるものなり とかきけるごとくうすどろどろにてうせたまう ぼうぜんとしてきいのおもいをなしかたわらをみればいっかんのしょあり (三丁ノウ) うやうやしくひらきみればたえなるかなきなるかな こうめいもしらぬじょろうのぼうけいくすのきもおよばぬげいこのからくり そのほかよびやおきやのがくやあなありのはうのもつぶしのいるまで たなごころをさすがごとくひとつとしてもらすことなし (四丁ノオ) ああわがためのりくとうさんりゃく これさえあればはまることない いきがかわへおちることない おみなめしありがたしありがたしと いただくところをうしろからとられぬさきにここにうつしおきぬ みるひとくさしてひきさききにかいくずといっしょにすることおゆるしじゃえとしかいう (四丁ノウ) じじょ もろこしのかんしんはまたをくぐしてかんをひらきいまどきのげいこはまたをひらいてかねをとらん たけだのからくりははこをひらいてにんぎょうをだす (五丁ノオ) げいこのからくりはきのうきたえりかけもきょうはななつやのくらをみせん さておきゃくのからくりをひらきみればしんせつをもととしてざこねちょうまくのみをねがうや ああおそるべし げにかいかいのよのなかにやあらん あなかあしこあなかしこ ぶんせいじゅうにのとし しちゅうあん はなづき (六丁ノオ) 挿絵 (六丁ノウ) ここにむこのうらみなとがわのほとりはそのむかしくすのきこうのたたかいたまいしばにぞありしにじだいかわればしなかわるとやらでいまやだんじょのたたかいのさとにやなりぬ われつらつらこのさとのぐんぽうをかんごう【る】ところそののちききつたへしはちゃたておんなととなえぐんじょをあつめけるがなかにもげいこあるいはじょろうなどとありける (七丁ノオ) このじょろうというはきゃくごとになさけをあきなうことこれわがかぎょうとやいわん またげいこととなえしはしゃくじんのかわりとせしものにてざしきさびしくなればしゃみせんたいこなどにてそのばにようきをふくらましざをおもしろおかしくたもつがこれげいこのぎょうなり (七丁ノウ) しかしわがきゃくのうてはみさばきにおわるるなり ゆえにわがたよりとせしはいかにもしんじつにていちきりょうあるべきひとがらをみこみてついぶんしたがふべし (八丁ノオ) さすればそのほかよりどのようにかねにてつらはろうが なりひらのようなおとこがすいこうのくちぐるまにのりにこようが りゅうにつばさのいきおいしてきゃくをふることげいこのいきじとやいわん さていまどきのげいこはさみもひかず さけものまず (八丁ノウ) ざしきはさびしゅうしてただあのきゃくにはしりめをつかい こちらのきゃくにはようすをしたり ちょどいなかものがみせつきかいにきたようなかおして あのきゃとそろうかこのきゃくとろうかといっこうみぐるしきさまなり たまたまにさみをひけばそのうたにわしのすきなはこれざにあれどひとめあるゆえはづかしいなぞとわがほうよりいやみをつけ (九丁ノオ) ほんにざとうがまるたばしわたるようにどうやらするところびそうでちっとつづかないがそのかわりにせっきが【つつのう】ないといういれあわせもあれど これではげいこがじょろうになりそうな (九丁ノウ) またこのごろよこまちにはじょろうがげいこになったもあり まことにさんぜんせかいやりくりきょうげんのようにおもわるるが さてふるうつとめてのげいこさんのいいじゃをきけば いまはけっくわかいおこがようころんでじゃがなるほどしあんしてみればやはりそのほうがとくじゃということは第一はながうれるしさすればおやかたはよろこぶ (十丁ノオ) ついにぶづつもろうてもごにんあればにりょうにぶあり ほんにおふたごにおしえられてわたしもとうせいりゅうのげいこになりましたがまあこのせっきはどんなものじゃとおもいじゃ やぎさんとこでびんづけたけなが (十丁ノウ) それにあらしのみせでうなぎのあたま だいきちではゆまきのうらにしたべにもめんだい またせんりではまきずしながいなりしごへんもたべ やまひろにうどんとだしから やおそうにはいものおわし おはなさんとこへもつかいのちんはろうたところがあとにいっしゅがみっつとあかしふだがじゅうもんめばかりとあるゆえこれでおひなさんをこうてどうはづんだとおもうてじゃ (十一丁ノオ) たったいちごうのしろざけをへやじゅうがおひなさんのさかづきでたべていたところへうちわやのおきちさんがきてじゃあって きのどくなちくらではちぐみをしてとってじゃあったゆへ (十一丁ノウ) それからまたさけをかいにやるやらすしとりにやるやらながきちでにしんこぶまきとるやらあちらからはとふかうやらそっとゆきひらをもってくるやら そろそろかえじゃみせんいだしてそのなのあてうたをひいてうけたりうけさしたり (十二丁ノオ) さしつおさえつしているいるそのなかへおもんさんがおいでてちょっとみみかしてというてじゃゆえさんじたところが たもとからこばんそっとだして これはろじのくちからじゃ といちもんめきたは それはこのあいだざこねのきゃくにくいにげしられしとおもいはなはさんでいたをこのおきゃくこころえてかねくれてであったはまことにまかぬたねははえぬとはこのことなりとわらいになって (十二丁ノウ) それよりくちあいのきょうかを こけりゃこそいとどげいこのめでたけれ とよみているをおりふしかどぐちにてきいているげいこわがこととおもいて (十三丁ノオ) このことききすてがたしとおおきにはらをたて どやどやとうちへはいり あねさんひとくちにいふておくれな そんなげいことはちがいます とてすでにけんかにならんとせしをおもんさんやおきちさんのあいさあつにてどうやらこうやらこのばはむりやりにかえしたるところへ (十三丁ノウ) おちょぼどなたぞくじひきておひとりおこしらえなされといえば おゆるしじゃなあ おおかたこんなきゃくはときぐらいこうてしゃみせんはひきづめにさしてろくろくにうたもしらずにはしくれきいてきてはかんたんひけのろうさいがききたいのとせんにんがり (十四丁ノオ) たまたまにせんこうがつめになればしんせつらしいかおしてないしょうできいてくれいとなんのというものじゃ とくちぐちにわるぐちいうていでゆけば つぎになざしのよびだしをちゃやはどこじゃ とたずぬれば すきなおちゃや ときくよりも ねずみなきしてとびていく (十四丁ノウ) いしにくちかべにみみあるよのなかにただつつしむべきはかげぐちのあしきことにはすんぜんしゃくま ひとりがきかばふたりとなりすでにけんかとなるべきところをおきちさんおもんさんのあいさつにてそのひはすませしが (十五丁ノオ) さてうちへかえりこのことおやかたへはなせしも おやかたどちらひいてもへやじゅうのふわなりとこのことちととりあげぬようすとみえたり それよりとがめしげいこしゅうよりやいはやばやぎょうじたくへねがいあり (十五丁ノウ) とつめかくればぎょうじ これはげいこしゅうねがいのぎとはなにごとにてありけるや とたずねければ べつのぎにてはなくそうろう もものあげとておちゃやかたへおれいにあるきそうろうところ ふとそしりばなしをききそうらえば いまどきはわかてがようこけるのざこねでさしたのとうちからはなし このこともしまちしゅうへきこえなばわたくしとてもおなじようにあいなりそうらえばあまりくちおしくぞんじそうろう (十六丁ノオ) このわけきっとおただしくださるべし とききてぎょうじしゅうもうされけるは ねがいのぎいちいちしょうちいたしたがさきこのほうよりききただしおってさたいたすべしとありて そのひは (十六丁ノウ) めいめいやかたやかたへかえりける あとにてだんだんききあいしそうらえばなかなかじょちゅうよりげいこのきゃくおおし これではあまりしまのみだりとぎょうじおおきにはらだちいたし そうそうせんしゅうあんへげいこそうよりとつかいのものふれさしそうらえば へやべやのこどもらなにごとにやあらんとただあんずるもあればいさむもあり (十七丁ノオ) おもいがけなきみごしらえ かねつけみじまいかみじゃ それよねさんあんどじゃひいさんちょっとよんできての ぞっきんがかやったみずおくれと うろたえるそのなかに ふろあがりのふりおめこしょうしょうさむいともいわずじまえのいしょうをひろげたてえりをかけるかはずしたか (十七丁ノウ) ほんにゆうべのむしんのれいじょうとどけわすれたよびやのことわり これもかきたしこちらもしたし うえをしたへとみえになりける もはやひるすぎにもなりぬればぎょうじしゅうはじめあまたのげいこせんしゅうあんへとこころざす (十八丁ノオ) 挿絵 (十八丁ノウ) 挿絵 (十九丁ノオ) このせんしゅうあんというはもとよしののしょうしょうただいつともうすひとのしもやしきにてありけるところなり さきやかたはにかいづくりにしてうらはみなとがわのまつかぜことのねをしらべけん ひがしはたいかいにしてたいせんのほばしらいえのむねにみえたり (十九丁ノウ) にしにあたりてこくうんのことくまいあがりたり こはふしぎなりとたつよりみればただつちばえのけむりほうほうたり まえにながるるみずおとのみみへもいらぬながれのみのうえ かきねにさきしやまぶきのこころもとけぬうちょうてん じまえいしょうのそこたたきてんぐのはなやおたふくのはなもまぜりてつめかくるはやくわらわらとげたのおと (二十丁ノオ) まだしたなでのあいざかり のしめのいしょうのきてこなしはすえたのもしくみえにけり つづいてきたるそのなかにひのとめにつくさしものはちとぼってりのえがおよし これにまけじとうしろよりかんとうじまのえりがけにさすかんざしやこうがいやくしはべっこうにろっかせん (二十丁ノウ) あれあれそこへにぎわしくかおはいちやまこえまでもしおからごえのそのくせにさきしょうがつのかきあげはいちとさだまるてがらもの なんぼひくてもたかくみゆるはなをのばしていりにけり これにつづきておおぜいのなかにうちぎですきかみのなんにもささずすっぱりとしょうことなしのいきがおでこころのうちのさびしさもせんしゅうあんにぞいりにけり (二十一丁ノオ) もはやげいこしゅうのこらずあいそろいそうろう ととしぎょうじのもうしそうらえば ぎょうじもうしけるは みなみなべつのぎにてはなくそうろう さるげいこよりあまりみだらのことゆえせいりゃくのうえいかりくれよとねがいでたり (二十一丁ノウ) それよりだんだんないいをもってせいりゃくしたすところなかにもおなじへやのきゃくをとりあるいはわがほうよりつけぶみしたり またはにちょうつづみのくちでさしたのざこねのくちもちつきのくちなどとしまじゅうのひょうばん (二十二丁ノオ) それにはらのこをみつにしたこどももありということはみなそらにもせよ まあげいこたるものがきゃくのかずおおくてはいかんでもないが かりそめにもしちはちにんのきゃくとりもしどやなどわずろうたらどうしようとおもうぞや みなわがみだいじおやかただいじきっとたしなむべし としかってそれよりねがいいでしこともたずぬれどだれがねごうたやらいっこうわからず (二十二丁ノウ) あまりあまりふしぎゆえなまきやにてうかがいもらえばこれはうれぬげいこしゅうのへんねしのたましいがよりあつめたるにてあらんという このことよくよくかんがえてみればまえまえとちごうていまのげいこしゅうはどれもうつくしきゆえほれてがおおいのであろう (二十三丁ノオ) とじつにかんしんしていたとおもううち みじかよのとおでらのかねごんごんとみみへかすかにめのひらきみればからすのかあかあはるさめのひとよをゆめであかしけりであったか でもまあふしぎとまくらをみればこんたんのゆめのまくらとあり (二十三丁ノウ) なんにもせよとまくらのあてひらいてみれば こはいかにもまたもげいこやちゃやのあなきゃくまでまくりあげかきつくしたるほごがみあつめてみればつごういっかん てをぬらさずとのちのまき (二十四丁ノオ) くわしきはみてしりたまえ すいこうでんゆめまくらてんのおわり (二十四丁ノウ) ---------------------------------------------- 《注》 ・丁番号はみえなかったので、洒落本大成第二十八巻にみえる丁番号に拠った。 ・「芸」「学」「広」の字体は、実際は「藝」「學」「廣」と旧字体になっている(洒落本大成では「芸」「学」「広」)。 ・二丁ノウ「蝋」は、実際は「虫×(鑞の旁)」。