―『北川蜆殻』解釈データ凡例― ・本文中、押印部分は〔 〕でくくり「〔印〕」「〔花押〕」として示した。 ・庵点は「『 」で示した。 ・音引の表示箇所は「*」で示した。 ・本文中で会話と登場人物の紹介とを区切る際に用いられている記号は、「◆」で示した。 ------------------------------------------------------------------------- こうなんのたちばなもこうほくにしかえをとってほんしろうと あるいはごしょてのしんぞうなどとばけのかわのながもんくにおおびけのそうあげのくるいまでじょろうのふとことにひびくきたののかんざんじ まようてわかれさとりてわかれ すいとぶすいのふたまた (丁付なしオ) たけむすぶのかみもにどうにそらごととしんごんのうらおもてあることをほくせんしじみのからとだいしてこたびさちおぬしのすいしょをえらみたもうもかのいたいけなかいがらにいっぱいもなきしじみがわこいのふちせのうきしずみ (丁付なしウ) すてるかみあればひろうかみある みくにふうのながわきざし しじみさやのしろぬりにふたたびはなさくらんきくのきつねとなりわなとなりくもとなりてこのいろざとのしょわけてくだのあなかしこ あなかしこきふみなりとそのはじめにふでをとってやましばのしたにかきよせられんとしどんぐりおとこのよつはしがいう (丁付なしオ) わんわんのとしのしわす ほくせんしじみのからじょ はなになくうぐいす。みずにすむせんどう。 うわばいするはなじらみのしみたれなるも。ようきにとびあがるのみのこおとこも。げにいっすんのむしにも。ごぶのたましいありて。 おうなおうな。 こころやるばかりのたのしみはありぬべし。 ふねいそくかのとうじんも。いましおのれのわがくしゃも。たいようびょうかでものしりじまんに。いさんぜにあらずんばそのくすりをふくせずなどと。かとうやらかすおいしゃさんでも。そうもくこくどしっかいじょうぶつと。ばさまをなかすぼんさんでも。きみょうむりょうのたのしみは。ただこのおちゃやのにかいにとどめたり。 (序一オ) いでやきょうにさんばいあさづめのならわしあるも。おおさかにほどらいあるは。たしょゆきにもんめのそんあるも。しなこそかわれ。さみせんの。いとしかわいとにあがりの。あだなねじめをあげいしょう。 (序一ウ) ぬいのしたぎあるは。おりもののおりあしからぬ。 よいのはなぎのうわきより。いつしかえりかけものの。こころやすくうちとけ。つまらぬしゅうたんに。よをあかすなどと。このしんじょうは。えんまのみくにのじごくはしらず。 (序二オ) イギリス。 しょうじんこくのうえまちまで。いきとしいけるものの。いかでこのじょうの。たぐことのあるべき。 ここにわがあにさんにとうあんさちおぬし。 まだふりそでのむかしより。いまわかづめのわかざかり。 ものみなすいになりすまし。うかれてぬかすこしもとで。ごしょで。ごくちゅうでかけおち。 (序二ウ) おちをとりたるしじみのから。 このそうこうに。ちょとはしがきをものせよとのみことのり。 どっこいまかせとふでとれど。ほれさしがみのほそなごう。 やるにやられぬやぼたんさいのごろくなれば。ただにちょうめの。 〔印〕このこくいんの。おしのつよいをもとでにて。じょぶんのしあんをしじみがわ。 (序三オ) なにわともあれちょきできなさい ぶんせいここのとせというとし もちこしのやおやをくらういぬのあき ほくりろうじょうにおいてこどものべにふでをかりてかきつく くらにあんごろく〔花押〕 (序三ウ) いきとしいけるもの。なんよのじょうよくなきことあたわず。 さればくめのせんにんは。ものあらうおんなの。はぎのしろきをみて。つうをうしない。 よがともがらは。ものくうげいこの。くびすじのしろきをみて。つうのなをけがす。 かれはいんしょくしきじをたちて。すひゃくさいしんくれんまのこう。 これはびしゅかこうにあき。びふをあいして。とんだり。はねたり。ねたり。おきたり。 (序一オ) かんらくのしゅぎょう。 かれにいま。せんじゅつのしょうさつもつたわらねど。これにはすいどうおうぎのあおびょうしかずかずあり。 よってまなびやすく。はまりやすきは。このすいどうにして。かれとこれと。そのことなることうんでいばんり。 (序一ウ) つきとすっぽん。 しゅっぽんのしりからげのごようじんなさいと。むり。こじつけのしじみのから。 じつにみのなきしょうさつなれど。もとよりじんのじんよりいでて。いささかかんぜんちょうあくの。あくびのときにしたまえと。うぬぼれのふでをとることしかり (序二オ) ぶんせいここのとせというとしのあき にとうあん さちおしるす 〔花押〕 (序二ウ) 挿絵 (序三オ) 挿絵 (序三ウ) 挿絵 (序四オ) 挿絵 (序四ウ) 挿絵 (序五オ) 挿絵 (序五ウ) ほくせんしじみのから じょうのまき にとうあんさちおじゅつ くらにあんごろくえつ あだとうわきにそめあげたむらさきのうわぎ じせつは<しちがつたなばたごろ> ちゃやは<こちゃやいっちょうめなかほどなかいひとりぐらいのかぶなり> ゆうかくはぶすい<てだいにさんにんぐらいのところのだんなかぶ。 もっともせんばなりきつけは。しろのさつまじょうふ。 ちゃのかすりのかたびらもんのおおきなこもんろはおり。 ゆきすぎものにて。みなににくまるるふうぞくにて。ずんどうぬぼれなり。 (一オ) ちとふひとがらなり> げいこはおさつ<としのころにじゅうしごにてだいのけつなり。 かおもするしおしたてもよく。うつくしさもうつくしく。みせにてもたてられはながさもおおし。 どんなやぼにみせてもひときょうげんかいてみたいというふうなり。 もっともじまえ。きつけはろのしゃれがきゆうぜんのせんけちゃくやすそもよう。 ほんきんかちゅうやきか。なににもせよちゃじのきんらんのおび。 かみはごたいづけさんごじゅいりの。ぎんのかんざしいっぽん。 うすげしょうにて。あだなつくり。 なにかおもいいれあるべし> いちざげいこさんにん<おりん。さるまつ。こなべ。 おのおのかかえとみえていしょうはひるすぎなり。 しかしみなみなじゅうはちくにてうつくしきさかりなり> (一ウ) なかいおたま<まえだれとひもとにきをもみて。 すこしはなのとおいきゃくのわるぐちをきくというふうなり> べんけいけんび<でいりのちゃどうぐやとみえて。 としのことさんじゅうばかりにて。いやみのぬけたすいなれど。べんどくのおかげにて。みみがとおくておかしみあり> いまかようかみをひきしまい。 さけになったというざしき。 [ぶすい]さるまつ。 きさまきのうさくらばしのきわでみかけたが。どこへいたのじゃ [さるまつ]はああのときは。おるすさんのふねいきで。あのねきからのりました [ぶすい]やまさきでしろうまにひきほどのところ。はなびをみせてもろうて。さけはさわやまのみしだい。 なんでもおたのしみじゃったな。 (二オ) [さるまつ]おまはん。 どない。 なんぎしたぞ。 [おさつ]そうじゃとも。 おるすさんの。おふれまいは。いつでもかとうてほんまに。かなわんなあ。 そうして。さつまの。おかたやなぞは。ほんつとめにくい。 ぶすいさんなぞのおざしきは。ほんやぶいりしたようじゃ (二ウ) [けんび]なんぞおもしろいことなら。わしにちっときかせておくれ [さるまつ]めんめが。きこえもせんくせに。 <とおおきなこえで> おまはんにきかすような。おもしろいはなしじゃ。おまへん [けんび]なんじゃ。 おまはんにきらずを。くわせて。おもいにをもたすとか。 それはおそれ。 そないせわをやいておくれいでも。あしたはふつかときているから。うちへいぬとおなごをくどいて。とうふやへじょうしにやり。きらずをいちもんが。こうて。きなかがところは。いってかかがひるめしのさい。そのはんかたを。からじるにして。ねぶかのざくざくとちんぴの。たたいたのと。とうがらしと。どうぎょうさんにんを。はっと。およがして。むかいざけこなから。 なんとうまかろうがな。 (三オ) またくわぬうちから。うまがっているのもあしからずさ <とはなしのうちよにんつれびきにしんうたきりつぼをひく> 『かかるいのちやそでのつゆちゃん [ぶすい]それはきょねんおうぎみつで。せんしょがほんぞんでとりょうがわきだちで。うたびらきをしたのじゃな。 あのうたもげんじから。おもいつきのこじつけで。ちょうごんかをひきずりだして。てんぐすぎるぞ。 (三ウ) しかしおわりのもんくはひにくじゃ。 このあいだきけば。せんしょもとりょうもなをかえたげな [みなみな]なんと。かえてじゃったえ。 [ぶすい]せんしょのさちお。とりょうはごろくとかえたそうな とうどうおれもこうだしものにしられては。つまらぬて [みなみな]さようでおますかいな [ぶすい]さんしょは。こじんにとうあんの。だいすいのながれをくんで。にとうあんというごうをもろうたのじゃ [かしゃ]さようでおますかいなあ (四オ) [ぶすい]いやもう。だれかれということなしに。つきあいのひろいのにはあやまるて。 ああうるさいうるさい。 このごろはうきよのようにせめられて。みがこになりそうな [かしゃ]さようでおましょうとも。 ぜんたいおまはんは。すいのきれてじゃによって。あそこからも。ここからも。たてられなさるでなあ <とすかさぬかしゃのべんぜつにぐっとのりじになり> [ぶすい]いやもう。きいておくれ。 べっしてみょうちょうなどは。だいもんびで。ここならばてんじんまつりというものじゃ。 あさのうちに。さるおやしきからかねがごひゃっかんめくだるから。うけとりにゆかねばならんし。 (四ウ) しょうごにはりきゅうがちゃをあげたいというてくるし。 りはくととしみが。しかいをしたいというし。 ていかかりゅうが。うたのかいには。かならずでてくれねば。さびしいというておこすし。 かいしえんがしょがかいを。せいしょうあんでするから。ぜひというし。 ゆうかたしばいはてから。ちょとあおめにかかりたいと。ばいぎょくがてがみをおこしたし。 なんでも。あしたは。やたらにじゅうばこをせねばならぬ。まわりきらりょうかしらんさ (五オ) [おさつ]ぜんたいおまはんが。ひとにたのまれたことは。あとへひかんというきしょうじゃによって。わたしらをはじめ。おまはんをたよりにしているものじゃによって。ひともみんなそうじゃあろぞいな <というはきょうげんのほんよみなりのちほどしょにちというしたごこちなり> さあおたまやろ <というてちょくをなげるとおおひらのなかへぴっちゃりととびさりがおたまがにじゅうごにちのはれにしたまえだれへかかる> おおいややの <とともりをしている> [ぶすい]なんの。そんなまえだれのとおやにじゅう。おれがしてやるわい [おたま]はいそれはおありがとう <とにがわらいをしている> [けんび]なにをおまえがたは。おれのことをそのようにそしるのじゃ。 (五ウ) だんなのすいはむかしからのじゃが。おれのつんぼはきょねんからじゃによって。まああたらしいかたへ。ついてくれそうなもんじゃ [さるまつ]えらいわるずいなあ。 おまはん。わるぐちをだれがいいました [けんび]つっぼすねてはみずれどもさ。 つんぼといえばつんぼのいちだいきをよんで。おきかせもうしましょうか。 もしだんな。 あとのつききょうへのぼりましたところが。なにかきょうのともだちが。こよいは。ちとかとうへ。しのびこもうかといいます。 (六オ) れいのこごこうぶつなり。 ひめはよしと。つれだちてずっと。しじょうなかしまをまっすぐにひがしへねりだして。そこでともだちがいうには。ときにすめではなにぶんはんせんりくつじゃによって。どこぞでちょとかべしたじを。かこうじゃないかといいます。 そいつよかろうと。あまがいるさんぱちも。あまりはかないによって。たわらこまとしゃれかけ。はいはちくらいひっかけて。そこからかわはたの。さるちゃやへのぼりましたところが。ともだちがいうは。きさまをつんしゅうというも。あよりちえのないせんさくじゃによって。なんでもきさまは。さるところのわかだんなでいっこうものいわずじゃというて。おれがよいかげんに。つけこうじょうをやらかすよって。なんでもじんじょうに。やらかせと。もうします。 (六ウ) こいつおもしろからすどのとするうちに。さかずきがでます。 つづいてこうやとうふに。かまぼこの。とまっているのや。ゆりねと。うどの。あわいに。はものほんめきりの。およいでいるおおひらや。むすびこんぶなぞで。ざしきになりふたついちの。ずいぶんおおきな。ひきあいのくちを。よびにやって。 (七オ) うたしたり。ひかしたりして。だんだんさけがまわるにしたがい。ほんぞうやくそくうちわすれて。きじがしゃべりから。みがいたおとこじゃによって。しゃべりきょうへのぼりやと。そろそろやりだしたによって。ともだちもおおきにしんぱいして。いろいろのめつきや。てじなをしたりしても。このほういっこうずきなで。 きさまもえろうおかしな。てつきや。かおつきをするが。なんぞ。てんかんやみのみぶりでも。しているのかともうしましたら。このとこもこらえかねて。おおきなこえで。きさまはぜんたい。ものいわずじゃないかと。いわれて。ほんにときがつき。こんやはきつうようたと。せりふのまがぬけて。しろうとしばいの。わたりぜりふというようになりました。 (七ウ) そこで。どうもしかたがなさに。しょうべんじょはどこじゃと。たずねましたら。つれのおとこが。ずっとゆびざしをいたしましたものじゃによって。ぐっとやすのみこみにて。おしいれのからかみを。あけましたところが。にかいゆえかなんにもござりませなんだ。 (八オ) ところがうんのつき。 むさんこうに。ずうとはいり。またしめてひとあしあるくとゆきあたり。 これはけしからぬ。せまいところじゃとぞんじまして。どこぞがあくであろうと。まごついておりましたら。うえしたのおんなが。しょくだいをもってきて。むりにひきずりだして。そのとなりのすぎどをあけましたら。そこがしょうべんじょでござりました (八ウ) みなみなどっとわろうて。つんぼのしょうたいを。あらわしました。 きついさいなんな [おさつ]けんびさんのふるだしものも。ひさしいものじゃ <とみなみなわらう> [けんび]さあさあさけも。もう。いっぺんまわしとると。でかけましょうなあだんな [おりんさるまつ]まあようおますわいな。 まだよつにもならんのに。 [おさつ]それでも。またおうちのてがたがなあ [ぶすい]さあどうともどうとも [さんにん]<おもてをみあわせわらう> おおすかん。 そうでわたや。おっとがだいじでおます* <などのころしもんくはのちのぜんぴょうとぞしられたり> さあさあまわしとりといたしましょう (九オ) <とかしゃがはからいにみなみなさみせんしまい> [さんにん]ぶすいさん。 どなたもおありがとう。 またこのあいだにどうぞえあねはん。 いんでこうえ <とみなみなかえる おたまはこまへとこをこしらへさようならぶすいさんちとあちらへをきっかけにおくりみえおさつはしょうべんにたつ> そもそもほんぶたい。 とこはにしまくらにて。ほのくらきあんどう。ひつじさるのかどにしょんぼりとたち。 くろぬりのたばこぼん。まくらにそうてななめなり。 ごしゃくろくまいおり。いりぐちにすjかいたて。 うらはおさだまりのすずめがた。 おもてにいるしこみえのせんにん。 れんらつまらぬことのききやく。 ただきをわるくしてためいきをつくべし。 (九ウ) ぶすいかしゆかたをきがえてこける。 おさつはほどなく。かたてにかがみぶくろをもち。しとしとあがりくる。 まずそのままとこのそばへすわり。たばこをのみすいつけてだす [ぶすい]ときにきさまのかおは。ばいこうのおいわかわかづめが。とやをわずろうているといういろあいじゃが。 またさしものもなにもかも。じゅうのしりをまげたのじゃあろようまだそのきものがごぶじでいるな [おさつ]そのはずでもあろかいなあ。 おまはんもしっていなさるとおりじゃもの (十オ) 挿絵 (十ウ) 挿絵 (又十オ) さきにもわたとみからだしにきたけれど。あんまりきしょくがわるいよって。ことわりいうていかなんだが。おまはんおいでたと。きいてすこしは。うさばらしというきで。でてきました。 まあきいておくれ。 せんどもはなしておいた。かかさんのびょうき <といいいいおびをといてよこにねてまくらのしたへてをさしこみぐっとひきよせすこしうけにくいことどももあり このはなしをしかけはんぶんいいさしてかくのごとききょうげんはなはだふるだぬきのしわざなり> もうきょうは。よっぽどわるいわいな。 それにおいしゃさんが。これはかんとうとやら。しまちりめんとやらを。つかわねばならぬというて。それでひんずにごもんめほどしまいつけた。 (又十ウ) それにこのせっきは。いつもとちごうて <といいさしてくちのうちであくびをしてなみだぐむ> それに。こんなあたまをしていたよって。よそへはでられず。いよいよつまらぬわいな [ぶすい]ああもうみなまでいうな。 もうすじはわかっているわ。 またぞろおれにさそうじゃ。 まあようおもうてみいよ。 あいにごもんづつもやって。そのうえひがらの。よつずつもでてやるし。くるたびごとに。ついぞはなでよんだことはなし。 (十一オ) やれいもとをひいてでたというてはくくりつけ。 やれあいたは。しょにちじゃとやら。ととさんのほうじゃのと。すにつけ。こにつけ。 ひっきょうきんたつぶりのおおぶくちゅうなればこそあれ。 まことにねんちゅうぎょうじのほかなことまでしてやるとは。われがためににくづきのだんなさまじゃぞよ。 たいへいらくじゃないが。このしまはもちろん。 さかまち。ごうしゅう。むかいがわどこへゆきえも。おれがこうというたら。うんといわぬひめはないわい それにわれひとりをまもっているをありがたいともおもわず。 (十一ウ) またぞろおねだりはおいてくれ <とぞんぶんうぬぼれをいいたてられはらにすえかねたれどぐっとてのあるげいこゆえ> [おさつ]そないに。じゅうくもんみせのたなおろしじゃあるまいし。ならべたてていいなさることはおませんわいな。 そりゃおまはんにせわになればこそあれ。 わたしのようなものでも。そうおうにみせでもたてられています。 わたしがふそくをいやせまいし。 しかしそないにいいなさるのはおおかたわたしがようなものじゃによって。おもしろないようになったのじゃあろ。 (十二オ) いやならいやとしらでいうておくれ。 わたしもりょうけんがおます [ぶすい]おれがまた。いやじゃというたらどうする [おさつ]おまはんいやならいやで。どうぞすいておくれと。いうたてしようもなし。 わたしもまた。たのしみのあるからだではなし。 がいこつのすてどころにまよわねばならん。 いまさらわきでいろごとするもいやじゃし。 すりゃおまはんのてにかかって。しぬよりほかのことはないわいな もしころすのがいやなら。おまはんのうちへいて。わたいがでにしんでこます (十二ウ) <とにのうでのところにくいつく> [ぶすい]いたいわべらぼうめ <とはいえどこのしんでこますというもんくおおいにはまりもはやがくりとなり> [ぶすい]じょろうかい。 のこりしものは。あざばかりとはよういうたことじゃ <といいいいしょうべんにたつおさつはしじゅうなみだをふくこなしにてはらばいになりているぶすいはたちもどり> [ぶすい]こりゃこれは。われにやるのじゃないぞよ。 ははおやのびょうきが。あまりきのどくじゃによって。かしてやるわ <とにぶきんむつほどだしてやる> [おさつ]こないにこころやすだてで。はらもたてたりたたせたり。 ほんにおまはんのように。しんせつにしておくれるほど。なんじゃまたむねがいっぱいになってきて (十三オ) <とぴったりおおしげり ここぞしんけんさくしゃもしらぬきょうげんあるべし さだめてかたかたのてがじゃまになるであろう けんびやしたのだいどころにてざんぶつでびだらびだらとやうちをあいてにのんでいる しゅじんはあいせんこうのそばにすわっている おくからあいてきたぎ> [おまつ]けんびさんおひさしぶりじゃ。 ねからかおみせておくれんな。 <とおおごえでいう> [けんび]かおをみせるの。みせんのと。もちまるのむすめじゃあるまいしときにいつみてもうつくしし。 ひとあめひとあめもふるいが。きんねんりっぱになったものが。しばいのかんばんと。おまえとじゃというひょうばんきじゃ [おまつ]そこへよろしゅう。おとりさがし。 (十三ウ) まんすけどんへんじはどこどこじゃいなあ [まんすけ]てんつるとみずかめとじゃと。ぞんじています。 なんならみせで。たずねてさんじましょうかいなあ [おまつ]もうよいわいな。 どこもかもどうで。もう。おそかろ [けんび]ちょっとひさしぶりに。もってんか <とちょくをいだす> [おまつ]おいただきもうしましょう <とのみ> [おまつ]おかとうおますけど <とけんびにもどす> けんびさん。ごゆるりと。 おばさん。おじさん。おありがとう。 もしせんさんがきてじゃあったら。しらしてもろうておくれや (十四オ) [かしゃ]ようおいでた <にかいからちょんちょんてがなる> [こめろ]はい* <にかいへあがりびょうぶのあわいからすこしかおをだし> およびな [ぶすい]かごをいっちょういうてやってくれ (十四ウ) ほくせんしじみのから げのまき にとうあんさちおじゅつ くらにあんごろくえつ あたたかにはだざわりもよしのかんとうのしたぎ もちづきはんてんにかたむくころ. ものほしのちょうちんかげうすれいっちょうめのかどのだしみせぜにをおさむ. ともをなおせなおせというこえは。しじみがわにかえりくるのうりょうのふねなるべし. あんまけんびきのふえのこえ.ひゅうひゅうぜんとして. (一オ) こまげたのおとにまじわる. なかむかいのちょうちんかげをあらそうころ. すてせいふにてたちいずるは.いぜんのかぎおさつ. みせのおとことふたりなにかぼちぼちはなしをしながら.にちょうめのまちはずれにて、うすどろのあいかたはなけれど.こつぜんとたちぎえがする [おさつ]はちすけどんみせでな <とみみにくらいつくようにささやくはこいつさだめてきょうげんならんこのちゃやにいるということがもしうちへしれてはいちだいじというわけなるべし さくしゃくわしくいわざるはあたりさわりがあっておきのどくなればなり これらはこのおかたがたのはなはだひみつごとなればぞかし しかしこのわかいものはちすけおりおりははくばいっぴきにはあたるべし> (一ウ) [はちすけ]へいよろしゅうござります [おさつ]おばさんこんやは.このまつさんはあずけかえ <かしゃごじゅうあまりにてしごくきしょうのよきばあさまにてねこともろともにあんまをさせていねむっている> [かしゃ]おさつさんか. ようおいでた. あずけじゃないけれど.またもどらんわいな [おさつ]こうさんもだんだん.おまはんのおせわで [かしゃ]なんおいなあ.おくにねていてじゃ ◆さてこのこうじゅうろうというは.さるうえまちへんのむすこかぶ. しょうねんにじゅうしちさいばかり. あまりつかいすぎ.いまかんどうのみの.よるべなさに.すこしくあいをしたかねをもて.このにちょうめのごけぢゃやに.かかりうどとなり. (二オ) ひるはすっこんで.よるあらわれるたぬきどうようのじんぶつなり.こよいもむしゃくしゃ.おもいねも.ははのなさけのなみだのあめにさらしのゆかた. はつあきかぜにねむりいる. さてこのちゃやのかしゃも.はなはだしんせつものにて.ばしょににあわぬきしつ いままでこのこうじゅうろうが.つこうたおんをおもい。はなはだだいじにかける。 (二ウ) おさつはずっとおくへゆきて。よくねているこうじゅうろうが。まくらもとにすわり [おさつ]これこれこうさんこうさん <とゆりおこすこうじゅろうはめをさましあかしなければしんのやみ> [こうじゅうろう]ううんだれじゃだれじゃ。 このまつさんはまたわるいことをするぜ。 いまはなからもどりたか。 ほたえずとままおあがり [おさつ]これこれわたしじゃわいな [こうじゅうろう]なにわたしじゃ。 どこのわたしじゃ。 げんばちのわたしか。 ただしへいだのわたしか。 じゅうそか。 なんとおもうて。めずらしゅうでてきておくれた。 (三オ) こよいはよっぽど。おひまとみえるな <といううちこめろあんどにひをともしてくる> [おさつ]おおきにおかたしけ。 おまえはようねるひとじゃなあ [こうじゅうろう]ようねるか。わるうねるかしらぬが。よそのさわぎもききあくし。いっぱいのもうもかねはなし。ねるよりほかのしようはない。 おりおりよいゆめをみるのがたのしみさ。 ひるはでられず。よるもしったかおだらけで。ほうかむりでもせねばでられず。 このあついのにてぬぐいや。ずきんをかぶったら。あたまはかびだらけになるであろうし。まことにどうもしようがない。 (三ウ) そこでねるのよ。 きさまたちのように。まいにちまいばん。あちらへいてはうだつき。こちらへいてはいちゃつき。うまいものはくしだい。いちにちなりとも。かわってほしい [おさつ]それはどうりじゃが。わたしのむねをわってみせたい。 いまさらいうもおそいことじゃが。おまえゆえにどのようにくろうするぞいな。 うちでもおまえがここのうちに。きていてじゃことをしっているによって。ここのうちへちょっとでも。はなにくるとやかましゅういわれるし。 (四オ) つとめにくいざしきじゃというて。そないきままばかりしてみいな。 だいいちみせのうけがわるなるし。ここへこうとおもうほど。いちばいせいださねばならぬわいな。 それにせけんへも。おまえのことがふいちょうがまわったようすじゃによって。もうしょうがつのことがあんじられます [こうじゅうろう]ああまたしゅうたんのききやくか. (四ウ) ちっとはなやかな.わっさりとしたはなしをきかしんか [おさつ]なんのおまえがいいだしておいてから [こうじゅうろう]しかしまたじみなはなしにおちいるが.わしもこうしてばかりいても.はじまらぬせんさくじゃによって.どうぞにしみせからでも.たいこむらへはいって.どんどんにやけから.でてこまそうというたらここのおばさんが.もうちっとのしんぼうじゃによって.しんぼうしなされ. いまあじがわのおじこさんがわびごとしてじゃと.うわさがござりますと. (五オ) それはそれはしんせつにいうてくれてじゃによってそんなこともならずそうこうするうち.このあいだもちょっとはなすとおりまるじるしのきれめにはなるし. ああどうもしかたがない. そうしてこのあいだいうたことはどうしてくれる <とためいきをつくにつけおさつはどうりとむねせまりいぜんのぶすいからもらいしにぶきんとりいだし> [おさつ]そうおもいじゃももっとも. さらさらむりとはおもいません. これまではでにあそんでじゃあったのに。きゅうにいまそのようなからだになりたのじゃもの。 (五ウ) まあここにしもんめほど。こよいぶすいさんからもろうたのじゃさかいこれでまちっとのま。しんぼうしておくれ [こうじゅうろう]そんならおれをみすてもせず。これをかしてくれるきか。 かたじけない。 ほどのうかんどうもゆりたなら。このおんのおくりようもあろう [おさつ]なんじゃいな。たにんがましい。 そりゃわたしじゃとてこれをもらうにも。たいていのからくりをしたことじゃないけれど。おまえゆえとおもえば。なんともおもわんわいな (五オ) 挿絵 (五ウ) 挿絵 (六オ) [こうじゅうろう]ああまあまあこれで。ここのうちにいるのも。とおかかじゅうごにちはきずつのうもない。 またそれまでには。どうともなるものじゃあろぞい <とすこしげんきになりそろそろはいだしふすまのところからかをだし> [こうじゅうろう]おばさんおばさん [かしゃ]はあ [こうじゅうろう]おそなわって。 まことにおきのどくじゃが。だんうへなんぞとりにやっておくれんか [かしゃ]そりゃ。とりにやるにはおそなっても。だいじおませんが。 それもついえじゃがうちにあるみずからとにかいからひけたのこりでなどしまいなさらんか (六ウ) [こうじゅうろう]それはありがたいがそれでもここのうちにもおじゃまじゃしわたしもちっとこころいわいのこともあるさかいどうぞちょっと [かしゃ]はあそんならそうもうしてやりましょう <とこめろにいいつけるほどなくうなぎごいのすいものなどくる> [こうじゅうろう]これはこれはおねむかろうにおおきにごめんどう ときにおばさんちょっといっぱいやらかしなされ [かしゃ]はあおありがとう しかしおじゃまに (七オ) [おさつ]なんのいなあ。もうはなしもしまいじゃわいな [かしゃ]そんならちといただきましょう [こうじゅうろう]ああこのように。おまはんにおせわになるのも。いんねんじゃあろ ほんにおやのようにおもいます [おさつ]こうさんもどないにおばさんが。しんせつなというて。よろこんでいてでおますぞ。 もうすこしのあいだ。せわをやいてあげておくんなされ [かしゃ]なんのまあ。どうでおせわもいきとどかねどなるたけはとおもうています。 こうしておまえがここへきてじゃのも。どうかおまえのうちへたいして。ほんにおきのどくじゃけれど。 これじゃというて。もとからこうさんも。このようにもなし。 (七ウ) そうおうにせわもやいてあげてじゃあったものを。いまこうなりたというて。おまえもみすてられまいし。 そこはおまえのところのおばさんもちっとはしょうちしておくれにゃならん どうかうちにもしっていてじゃようすで。おりおりいやみがあるわいな。 (八オ) [おさつ]そうでおます わたしもこのあいだうち。それでかかさんとけんかをしたわいな。 それでもうちにも。ちっとのことはだまっていてじゃけれど。わたしがなにぶんせいだすものじゃによって。おまはんのこともなにもかも。わたしがむねにあるさかい。かならずあんじておくれな <とはなすうちここのうちのむすめいまはなからもどってきておおしんどとあがりぐちにこしをかける としのころにじゅういちにずいぶんうつくしくこのごろさしものもかわっていまをさかりのはなのやま おもてむきいまばしへんのなにのなにがしとかいうひとのぎっしりこいつもあいのてににさんにんあるべし おくをのぞいてみてずっとあがりべにをはがしてようじをくわえながら> (八ウ) [このまつ]はいおゆるしな。 こうさんあねさんおいでな。 こんやはひどうむしつきます [こうじゅうろう]いつもながら。りゅうてきのえらのみじゃな。 こんやはいまばしのくちなら。こうはようあいてもどるはずはないが。さだめてみなみのくちじゃあろう。 どうりでかおいろが。ありがたうれしいあんばいじゃ [このまつ]ようおっしゃってじゃ。 みなみのがきはこのごろねっからでてうせません [こうじゅうろう]そうまたただとったように。いうでもない (九オ) [おさつ]おまえどこへいてじゃった [このまつ]はなぜんではんこうさんでいていました。 あのおかたはわるうひとに。さけをのますおかたじゃさかい。どうもならん。 こんうあはそれで。ひどうよいました。 おおたばこいれを。みせにわすれてきた <とはなしをしているうちおもてのかたさわがしくけんかとみえていいようている> [このまつ]なんじゃいな <とみなみなたてごうしのあいだからのぞくひとりはえどものとみえひとりはかみがたもの なにかおんなのこととみえてふたりともみせのわかいもの> [えど]これてめえ そんなにかたをひつじさるのほうからちょんまげて。いきすじをきもんからひつぱってごてえそうを。ならべたてる。こたあねえじゃねいか。 (九ウ) たかがあのあまのことなら。そんなにのがわをしょうべんけえふねがとおるように。あっちへあたり。こっちへあたり。からんでいうこともべらぼうなせんさくだよ。 てめえまたおれがあのあまに。いちゃでもあるということは。いつのつきよのばんに。どんなしょうこでものをいうぞ [おおさか]わりゃこのあいだにじゅうににちのばん。さんちょうめのおおろうじの。てんまんのかどで。ぼちゃぼちゃはなしをしていやがって。とうどうひきずりこんだをしっているわい (十オ) [えど]おぬしゃあ。いくらとちのものだって。みどおしのほういんさまか。 たまちのうらやさんじゃああるめえしにちょうめにすわっていて。さんちょうめのことだわかるもんかえ にじゅうににちのばんにゃあ。はなきちさんで。たしょゆきをしたわえ [おおさか]われたしょゆきをしたというてもな。はなきちさんはしょやじぶんには。うちにいたわえ (十ウ) [えど]てめえまたあんなあまっちょをでえじにするがざまあみろ へべじゃあねえたんちゅうかふぐのどつからみっかげえりをしたというみでほうそうみめえのだるまさまにあてみをくらわせたというつらだわ あれでもてめえのためにあそらほどでえじのならしまぎりのやろうぶたでもあつれえてしょうのうたつぶらでしちやのくらへでもあずけておけ しかしおれがまたあんなおばけのさいらいでも。どこぞのむしのあんべえしきで。したらどうする (十一オ) [おおさか]したらどうするもすさまじい われがしていることは。ちがいないわいつべらこべらと。やくはらいが。のぞきのこうじょうのようにいやがってもな。しているにやちがいないわえ。 ぬすびとたけだけしくいわずと。どうぞわたくしがわるうござりましたと。たるさかなをもってきて。おれのまえでさんぱいせえ [えど]おやとんだだいふくもちか。やきまんじゅうじゃあ。 ねえがひらってこうじょうだな われがとこのかかじゃあるめえし ばかあいやあがれごていそうながらにちょうめのほりぬきいどのみずでうぶゆをおつかいあそばしてすいどじりのじょうとうろうをよこめににらんでちちのあいだにあじょうあんまきせんべいがべにやのきんとんでおそだちなさってごじゅうさんつぎにきんだまをのぞかせてきょうおおさかひとまたぎというおとこだあ (十一ウ) おそらくみやめぐりにうじがみのすずのしたと。おやじがしんだときぶつだんのめえとで。あたまをさげたまんまで。こらほどもひとにあやまったこたあねえおとこだ。 (十二オ) だりむくれのへちむくれやろうめ おとこをみそくなやあがったか [おおさか]われもなあいのちみょうがのないやつじゃ。 しまつをしておけばいっしょうあるいのちを。 いまめのまえでおれがてにかけ。じゃくめつじゃぞよ。 ふぬけというはわれがこっちゃわ。よこまちのちょうはんに。ふんどしひとつで。どづかれたこと。おぼえていやあがるか (十二ウ) <とだんだんこわだかになりくんづころんづたたきあいするとそこからもここからもひとがでてきてにしとひがしへとひっぱってゆくあとはおおかぜのないだようになり> [こうじゅうろう]つまらんやつらじゃが。えどのものはようしゃべるな [おさつ]あえはさくしゃの。だしものじゃわいなそしてあのえどものは。どこのやらのおとこしじゃなあ [このまつ]さいなああれはどこのやらじゃ <といいいいおくへゆく> ◆おりからおもてをあけていりくるものあり。 としごろにじゅうしごくらいにて。あかのぬけたほんだわげのおとこ (十三オ) 挿絵 (十三ウ) 挿絵 (又十三オ) [おとこ]もうしおゆるしなされませ。 わたくしはうえまちのごろくさんのところから。たのまれてさんじましたがちょときゅうにこうさんとやらに。おめにかからねば。わからんことがござりましててがみではわかりにくいによって。おめにかかって。そうもうしてくれと。おっしゃりました。 おそなわりましておきのどくで。ござりますが.どうぞちょとこうさんに。おめにかかりとうぞんじます <とかしゃがとりついでこうじゅうろうのところへいうていくこうもごろくさんときいておちつく> (又十三ウ) [こうじゅうろう]それはおおかた.みなみのえてきちが.こってござりましょう. あいましょう. なんのいやきになったあいつが.またなんぞというであろうが.のいてしまうと.ごろくさんにたのんでおいたもの. よもやなんの.かのと.ぬかさしもせまい [おさつ]こうさん.しっかりというてやりいな. おまえがぜんたいきがよわいよって.あかんわいな. いままでにえてきちさんのほうを.はようわけを.つけてしまいといふに. (十四オ) ごろくさんにたのんであるたのんであるとばかりいいなさって.ちょっともわけがつかんようすじゃが. ぜんたいおまえは.まだみれんがのこってあるのかいな [こうじゅうろう]あほらしいことをいうな. こんやいうてやるのをみい. どんなものじゃ. あいつにぎりがあるでなし.なんのためにみれんがのこるものか. しかしつかいをまたして.きさまとけんかをしていてもつまらぬさかい.こんやのところをみたがよいわいな (十四ウ) <といいつつおもてへでる> [こうじゅうろう]おまはんごろくさんのところから.きておくれたひとか. おおきにごくろうさん. まあおあがりなされ [おとこ]へいさようでござります. わたくしばかりでもござりません. もうひとりおめにかかりたいというおひとがござります.といいつつ. もうしえてきちさんおはいりなされませ <というこえにこうじゅうろうはびっくりせしがもはやとかくごしおちついている ずうといりくるおんなはにじゅうさんしなはえてきち> ◆そのふうぞく.ちりめんのじしろなんきんぞめのゆかた (一五オ) かおだちは.まずほそもてにて.いろしろく. めはつりたるかた.はなすじとおり.すがおにて.いちょうにすいたるどたま. すきあぶらのにおい.ふんぶんぜんとはなをうがち.せたかくして.つんつんえんとしてあがり [えてきち]こうさんおひさしゅう <といわれてこうじゅうろうもすこしめんぼくなくぐにゃぐにゃというている> [こうじゅうろう]このあいだはふみをおこしておくれたが.どうもへんじのしようもなし. きにかからんではなけれど.なにぶんしっていてじゃとおりのこのせつのしきじゃによって <とうならうならというぜんたいこのえてきちにもだいぶんぎりがあってひくにひかれぬわけなり もとよりいやきになったのでもなし こちらのおさつにぎりのあるうえこうしてこのちゃやにいるものゆえよんどころなくきれてしまうというりくつになったれどそれはただおさつのてまえのみなればじつはこうじゅうろうもそのきはなきことなり こんやおさつがきているゆえはなしあいにおおきにこまってあせみずになっている> [えてきち]こうさん. おまはんもきこえんおかたじゃぞえ. せんどからもたびたびごろくさんのところへ.ふみをだして.どこにいなさるやら.ちょっといなさるところを.きかせておくれと.いうてやっても. いまはちとようすあって.さるところにいなさるが.なにぶんいましばらく.おまえにさたをしてくれるな. (十六オ) そのうちには.こちらから.いうてやると.こうさんのたのみじゃによって.もうちっとしんぼうなされ. そのうちには.わかるとばかり.いうておこしてじゃけれど.きにかかるゆえ.このあいだあさまいりのもどりに.ごろくさんのところへいて.じきにきいても.そのとおりばかりいうていなさるところへ.ともだちのとろくさんがおいでて. (十六ウ) さてこうさんもきのどくなことじゃ. きけばきたのしんちの.てんかんたらいうちゃやに.いなさるげなとの.はなしから.とうどうおまはんの.いどころのばけが.あらわれて. ようようこよい.おまはん.しっていなさる.かわなみというおちゃやへ.はなをつけてもろうて.でてきました. このしまのわけも.なにもかも.ようしっています. おまはん.ぜんたいどういうきじゃいな. ようそないなぎりしらずに.うまれてきてじゃあったな (十七オ) <といわれてさすがにおさつがきているということもいわれずおおきになんぎをしている> [こうじゅうろう]おまえがそういうはもっともじゃが.それにはだんだんようすのあることじゃによって. まあいったんとくしんづくで.きれておくれ [えてきち]おきなされ.ところてんのはなおか.とうしんのかかえおびではあるまいし. そうこころやすうきれるくらいなら.せけんにぎりというものはおませんわいな. これまでだんだんくろうしたことも.よもやわすれはしなさるまいし。 (十七ウ) それにぼんのうまれるときじゃというて。ひささんのほうのわけが。むずかしかったことも。おぼえていなさるじゃあろうが。 ようまああつかましゅう。そないなことが。いわれるなあ。 しかしそれほど。のいてほしくば。そりゃどうともしましょうが。このしまの。 それ。あの。おさつさんとかいうおかたに。おうて。わたしが。はらいっぱいいうてから。どうともしましょうさかい。ちょっとよびにあげておくれ (十八オ) 挿絵 (十八ウ) 挿絵 (又十八オ) [こうじゅうろう]そういうてくれると。はなはだむずかしいが。なにはかくべつながいことでもないが。しばらくそれなあ <とこゆびをだして> のわけじゃによって。そこはのみこんで。 そりゃきさまに。くろうさせたことは。なんのわすりょう。 しかしさきにもいうとおり。だんだんようすのあることじゃによって。ついわかることもあるじゃあろう。 ここがきさまのよみとうたじゃ。 なあそれ [えてきち]なんじゃいな. (又十八ウ) ゆうれいとせりふしているようで.ねっから.わかりやせんがな. ぜんたいどうじゃぞいな [こうじゅうろう]いやさどうというたらそれ <とぜんたいこうじゅうろうのくはらがないゆえふすまひとえあちらにはおさつがきいているゆえあらわにはいわれず どういおかこういおうかとしあんしているゆえせりふつきまがぬけいっこうわけがわからず しじゅうさつこのまつかしゃさんにんつぎのまにきいている おさつがさいぜんからのせりふいっこうきにいらずひとりはらをたててささやきごえにて> [おさつ]なあおばさん. こうさんというおかたは.ぜんたいどういうひとじゃあろう. なんぼぬめたじゃというても.ほどらいがあるわいな. (十九オ) あんまりあほらしいわいなあ. しょうしょうのぎりひきはあるかというて. いやなら.いやでわかって.あることじゃないかいな. あのまたえてきちたらいうやつも.なんじゃくろうをしたわの.ぎりがあるわのと.おんにきせたらしい. そしてもうよもふけるさかい.よいかげんにしていなしてしまいなればよいがな. ちょっとこうさんをよんで.そういうておくれんか [かしゃ]そんならおたこに.よばしましょう (十九ウ) <といねむりをしているこめろをおこしいいつける こめろふすまのわきからかおをいだし> [こめろおたこ]もうしもうしこうさんちょっと <とよばれへんとうにいきずまっているところゆえさいわいおいというてたちかけるすそをおさえ> [えてきち]これこうさん。 おまはんいまのへんじをきききるまでは。どこへもいごかしやせんわいな [こうじゅうろう]それでもおくからよぶによってちょっと [えてきち]いやでおます とひっぱりあうとたんに <あんどがこける> [りょうにん]これはしたり <とよろしくあって> ひょうしまく (廿オ) さてこのさんにんのうわきもののだんぎり。 どうおちあうかよのなかのみやびおたち.らいしゅんこうへんのはつだつをまちてみたまえ (廿ウ)