――『竊潜妻』解釈データ凡例―― ・庵点は「『 」で示した。 ・本文中の絵は、該当箇所を「【 】」でくくり、図柄の説明を付して示した。 ・「@」での置き換えについては、翻字データの注を参照。 ・文、語の内容を解釈できなかった部分は、その前後を「▲」でくくって示した。該当箇所の詳細は末尾の注に記した。 ・音引の表示個所は「*」で示した。 ----------------------------------------------------------------------------------- じじょ ことわざにはなはさくらぎひとはもののふといえどさくらのえいえいたるふぜいをきみけいせいのえんえんたるすがたにみしはごろうせいか。 ひゃっかのふのみにしてかりそめのふでのあともなしさればにんじょうしれるひとなきよにや。 (上ノ壱オ) しかのみならずいちやかりねのたわれめなどひたすらにいやしむるやからすくなからず えぐちのしろめはわかをえいじてありがたきちょくせんにあいむろつみのくぐつはぼさつとあらわれしとなむそのよこういこうかんにおもわれてはかたじけなきまくらをならぶるもすくなからず (上ノ壱ウ) ましてつとめのみにまことなしとあざけるへんくつあればいつわりなしとおもうひがなんぞながれのきょじつをしらん (上ノ二オ) いざむまのいれてこころみるべしとこのうらひとのそのひとり もりたおしお しか いう うの はつふゆ (上ノ二ウ) ていけのはな まきのじょう げいこのなさけ もりたおしおちょ おおぼしよしかねがきんげんにうそからでたまことでなければねがとげぬとはむべなるかな はじめはとなりの【※提灯の絵】のにけんつづきでちょっとみそめたがれんりのみばえはしのりょうのさんかいにちょんのまのぬけがけ せんこうさんぼんのはつげんざんに もしなどうぞきんじつうそつきなえとちょっとせなかたたかれたがやみつき (上ノ三オ) くびすじもとからぞっとせしこいのほつねつみをこがす ほたるほどのつゆがねもめったにうかさぬきまりてがかたみっか おっとしょうちはつうまのへんがい おっとうけこみいせまいりのむほん おっとおもしろしこのまつりからひいてでるいもうとぶんのやくそくまでなにひとついやといわぬきのよいおかたじゃといわれたがやまとばしのゆうやみちどりかとうたがうあんまのふえにゆきあたるむこうみずのあわてづかいにぼんまえのしめたかむねおどろかす (上ノ三ウ) ほんのうじのかねのこえしょぎょうむじょうとてがたこしらえぜしょうめっぽうとはしりいでじときぎりのひきゃくあそびにせっかくきたところがおへんじでござりますときいてがっくりしながらも ちょうどよいこんやはきやまちへあねきのみまいにいた じゅうばこじゃ とまけおしんでうじうじしているうちももうよいへんじでもあろうかときせるをつつへいれてはだしいれてはだししているを (上ノ四オ) まあおこたつへ とこざしきにぬりやぐらのおきごたつちちぶうらのさらさふとんもあとからはげるかしゃがまにあい いったいあのこはおまえさんによっぽどきていますぞえ まあとうじうつくしゅうはありよううりはするつめけばなししようならあのこじゃどうぞなされい なあとあいたくちへもちつけたかしゃがすすめにのりがきてさしむかいになってまくらがけのそうだんそれさえごしょうちならきっとわたしがうけあいます (上ノ四ウ) といがのかみのおくがたとまがきとのふたやくなるとこそきけのだいきゅうようはまわりのはやいかしゃがぶんていまことやおんなのかけるくれくれにははくぞうすもつままるるとや ついにはなんびゃくりょうとやらじょうせきふうのてんだかみるようなねびきしてひそかなるところへうえかえ きのうまでみどりをむすびしやなぎのまゆもあきをまたずしてちりてはつ あわせのそでにおおうありりむかしこそしのばしけれとあるひとのうらやみしくに (上ノ五オ) 『くずれそめてみっかぼたんのながめかな。 とはさもあるべきことにこそどこやらにみずぎわのたつすきあげがみのかたてまきつくばぞめとなむえどぞめのあわせきりもんにちいさき【※花の絵】のもんつけしはこのごろまでのぜんせいをすこしにおわすきくえがぎめいのおもかげ となりのくらのひさしからひかげさすえんさきにまきえのきょうだいおしなおしややみときばかりかかってかねつけしまいしとみへすいがらをはんぞうへあけながし (上ノ五ウ) [きくえ]これしなこのはんぞうをすててのそうしてのちっとばかりゆをわかしてたも とかってより [しな]おつかいあそばすおゆならわかさいでもおっつけおしゅろがわきます [きくえ]いいやいのわしがつかうゆじゃないわいの おとのぎょうずいのゆじゃわいの [しな]おとのぎょずいならおふろのあとがようござりましょう (上ノ六オ) [きくえ]ほんにそうしょうかいの [おと]わんわんとかってへないてゆく [きくえ]しなまたいぬがはいったそうなぞや [しな]いいえいぬじゃござちません どなたやらみえました とかどぐちのさるどあけてきたりしはこのろじのおもてににけんまぐちのすまいもきれいにびせいたんのかんばんをすえおもてしょうばいのくすりのこうのうはおぼつかなくもないしょくにはおちこちのだいじんたちをよぶこどりのでんはすいがくのうえぞかし およそきょうじゅうにここんさんにんにひとりときこえしべんけいのひっとうりかきころよりさるだんしゅうのひぞうをあずかりいるきのくにやさくじがにょうぼうおつじとてとしのころはたにぐみからろくしちじゅうりもゆきすぎしじょうしゅううえだのあわせにくろじゅすのおびうすげしょうにくちびるのべにこまやかなるはさすがすいかのにょうぼふう うらからすぐにかどぐちのみずたまりにこずまひきあげあしをつまだて (上ノ六ウ) [つじ]おしなどんまたみぞがつまったかしてみずがこすぞえ といいながらうちにいる (上ノ七オ) ちんおをふってざれかかる [つじ]おとえおまいいまわしをしかりたの とあたまをなでながらかってよりおくをさしのぞき [つじ]もしきくさんみせからせきにさんじた とちょっとしゃれる [きくえ]おつさんどこへいきじゃ [つじ]あれみんかきょうはうちかたのやくそくじゃがなあ [きくえ]なんでいなあ [つじ]あれあれほどこのじゅうからやくそくのあおいまつりじゃがな [きくえ]きょうがかいな [つじ]おおしんきそうじゃわいな (上ノ七ウ) [きくえ]そうかいな おおはや [つじ]それでけさからちょっとままをたいてしもうてかみをなでつけるかゆをつかうかたいていやつしたことかいな [きくえ]どおりでかくべつうつくしいとおもうた [つじ]これでもおやじのきにいらぬじゃ [きくえ]おおもったいな とすこしうけてたばこつけてだす [つじ]さあこしらえんかいな [きくえ]いやいなこんなかみしているもの [つじ]なぜいわずじゃ (上ノ八オ) [きくえ]なんじゃしらんがきがむちゃくちゃしてねっからかみゆうきがないわいな。 きのうおなおさんがきてくれてであったけれど とかんざしでうしろをかく [つじ]ついすいてあぎょうか [きくえ]もうきょうはよしにするわえ おまえもやまにしんか [つじ]どうなとおまえしだい [きくえ]うれしいなあ そんならきょうはうちだてにするわえ [つじ]なにだてじゃえ [きくえ]なんなと [つじ]なにがよかろうぞ [きくえ]のりがある すもじしんか [つじ]そりゃええな (上ノ八ウ) しかしうちかたのままはこわし こちのままがまださだめにゃよいが [きくえ]おおはやもうたべたかえ [つじ]もうひるやつとすぎてある [きくえ]そうかいな これしなおひるはようし [しな]あいただいましかけました [きくえ]ようようけさおきてかねつけたばっかり このにさんにちはげがきもだいぶんかりになってある [つじ]もったいない ほかのこととはちがう げがきはないにちしい [きくえ]あとでふろへいりてからするわえ かっくでているじぶんはいそがしいなかでも みんごとしたけれととかくひいてからどうしてやらふつかみかほどずついっしょになる (上ノ九オ) というがやっぱりこころにくったくがあるによってじゃわいな [つじ]おおおかしいまのおまえのみにくがあるかいな [きくえ]おつさんのあんあこといいじゃいのうてな [つじ]なにがくじゃえ [きくえ]まあおまえこのあいだからだんなさんのおいでんがくじゃわえ [つじ]なんのふつかやみかおいでんというて [きくえ]なにいうてじゃ ようふつかやみかであろうぞ (上ノ九ウ) きょうでちょうどなのかほどになるわいな [つじ]そんなかいな [きくえ]それこのあいだおもてのなみざきさんのところにさらえこうのあったばんにみえたなりじゃわいな [つじ]まちや そりゃじゅういちにちのばんであったによって とゆびをおってみて [つじ]ほんにちょうどなのかになるなあ [きくえ]それみんか なんでじゃいなあ [つじ]なんのなんであろうぞいな [きくえ]いいえなんでもなんぞじゃわいな [つじ]おおまわりぎやの [きくえ]なんおまあなんぞならこそかきさんがとんとこまいがな [つじ]さあとんとこんなあ (上ノ十オ) [きくえ]それみ なんでもあやしい [つじ]ちょっとまち わすれていたうちがあいてある おしなどんままのしたひきたらちっとのまみていておくれ [しな]はいはいおとおいで かどみせてあぎょう とちんをだいてうらからおもてのうちへゆく [つじ]むむそうしておまえなんぞききたか [きくえ]おとといひがしのいもうとのところからじょうにふつかつづけてりきょうさんになわてでおうたというておこしたわいな [つじ]そうかいな むむそんならまち なにげのうかきさんをよびにやってくりだしてみよう (上ノ十ウ) [きくえ]おつさんのいいじゃことわいな ようかきづらがくりださりょうぞいな [つじ]さあそりゃおまえではいかんけれどおもいがけのうわたしがとうたらいうまいものじゃない というているところへしなとつかわもどって [しな]もしおつじさんいまひがしのひきゃくがこのてがみもってさんじた とだす おつじちょっとみて [つじ]むむこれやこちへきたのじゃない かきちさまだいきゅうようおしなどんおせわへおいていきというておくれ (上ノ十一オ) [しな]いえいえおきずてにしてかえりました [つじ]あいよしよし としなはまたおもてへゆく [きくえ]おつさんどこからきたじょうじゃえ [つじ]いづつやみつとしてある こりゃちゃやかいな [きくえ]ちゃやにもいみつというのはあるけれどひょっとそりゃいずつやのみつえがことじゃあるまいかな [つじ]そりゃかきさんのなんぞかいな [きくえ]なんのまあかきさんのなんでもないけれどみつえというはいつやらからだんなさんがいっしょによんでじゃといなあ (上ノ十一ウ) [つじ]そうかいな そんならやっぱりどのみつえかいな [きくえ]おおかたそうにちがいない なにいうてきたみたいものじゃなああつさん [つじ]まちまち とどびんのふたをとってふうじめをあたためかんざしのみみかきにてふうしをはなしひらきみるに きのうはおいでくだされそうろうよしおりふしまちがいおめもじなしもうさずおのもじにぞんじまいらせそうろう さてはこのほどおたのみもうしあげそうろうとおりぜひぜひきくはやめにおなしくだされそうろうようたのみあげまいらせそうろう (上ノ十二オ) 挿絵 (上ノ十二ウ) 挿絵 (上ノ十三オ) とよみさしちょっとしあんして [つじ]これみんか おかしいもんくなあ [きくえ]ちょっとみせてかし ととって ぜひぜひきくはやめにおなしくだされそうろうようおたのみあげまいらせそうろう [きくえ]ほんにこりゃおかしいもんくじゃなあ とまたつぎをみて なおそのことにつきてごそうだんもそうらえばきゅうきゅうおいでくだされたくまちいりまいらせそうろう [きくえ]こりゃいっこうあやしい おつさんおまえどうおもいじゃ (上ノ十三ウ) [つじ]ほんにこりゃあやしいなあ [きくえ]それみなんでもみつえができたのにちがいはない きくをやめにしてくれいはきっとわたしがことじゃ それでかきさんのところへたのんできたにちがいない みなかきさんのせわとみえる きついあくだまなあ [つじ]いよいよそうならいっこうすまぬなあ [きくえ]おつさんどうしょう [つじ]まあこちのとだんこうしてみ [きくえ]さくさんはえ [つじ]むかいのどうぐやにかしらん [きくえ]ちょっとよびにやっておくれんか [つじ]おしなどんでもだいじないな (上ノ十四オ) というているところへかどぐちにあしおとする [きくえ]さくさんかいな [つじ]なんのまあこちのはたしかげたじゃあった とかどぐちから [こまものや]きんぶでござります [きくえ]きんぶさんこのあいだのくしもっていんでおくれ [こまものや]はいはいとうちへはいる きくえてだんすよりはこいりのくしをだす おつじとりつぐ こまものやうけとり [きくえ]それまあおかえすわえ [こまものや]おきにいりませぬかな [きくえ]いいえそうじゃないけれどだんながまだみえずじゃによってしれんわ (上ノ十四ウ) [こまものや]へえそれはさようならまあおみせなさるまでにだいじござりませんのに [きくえ]そうじゃけれどまあもっていんでおくれ だんながみえたらかりにやるわえ [こまものや]ねだんのところはどうともいたします またしたじのくしもずいぶんこちらへおもらいもうします なろうことならふるいのをしたにつかわされましてあたらしいのとおかえなされますがおとくでござります [きくえ]おおきがかり おつさんあれききんか [つじ]そうじゃなあ このせつしたじのをよしにしてあたらしいのとかえることはきんくじゃ (上ノ十五オ) [こまものや]それでもつむりのどうぐとはいふきはあたらしいのがようござります [きくえ]あれやっぱりだいきらい とこごえにてしたつづみうつ [こまものや]さようならどうぞおたのみもうします [きくえ]あいあいおとといおいで とこごえにてしおしおばなうつまねをする こまものやかどぐちへでて [こまものや]ええあぶないみぞいたじゃ しかえるとよい といでてゆく [きくえ]きにかかるとおもうとやっぱりひつこうだいきらい (上ノ十五ウ) [つじ]かわいそうにあっちはなにもしりもせんもの とまたあしおとする [きくえ]これかいな [つじ]いいえこれもせきだのおとじゃ [きくえ]しんきはようもどったがよいのに [つじ]こちのおやじもまたるるじせつがあるじゃ とかどぐちがらり [ちゃや]むらいでござります [きくえ]あいまあよいわえ [ちゃや]このあいだからとんとごようがござりませぬ [きくえ]あいだんながみえずじゃによってそれでじゃわいな [ちゃや]へえそれはこのごろしんちゃをひかします おたのみもうします (上ノ十六オ) [きくえ]あれききんか いっそきにかかるな [つじ]なにがいなあ [きくえ]しんちゃをひかすといなあ [つじ]ほんになあ [きくえ]どんなこときこうもしれぬ はよういなしておくれ [つじ]むらいさんこんどのまわりによっておくれ [ちゃや]はいはい とかどぐちへでて [ちゃや]なむさんこのせったもおいとまじゃ きれかかってけつかる ときくさえもきにかかるおりからもどるきのくにや さくじかどぐちはいるやはいらぬから [さくじ]おつじあおいまつりはいちねんにいちどじゃ まだしるまい [つじ]そうかいな (上ノ十六ウ) とおつじもしゃれてうける [さくじ]もしゆくならほうきとちりとりもってゆくがよい [つじ]そこどころかいな さいぜんからきくさんがたいていまってじゃことかいなあ [さくじ]はあそれはさぞごちそうであろう となかじきりののはしらにもたれかかる [きくえ]さくさんたんとはなしがある まあしたにいい [さくじ]あとのつきのつごもりのばんにかぎってなかへいたおぼえはごんせぬ とちゅうごしになる [きくえ]おもしろそうにそんなきげんじゃないわいな [さくじ]どんなきげんじゃいな (上ノ十七オ) [つじ]なんのいなあ このあいだからりきょうさんはとんとみえずそれにまたかきさんもどういうものかこんじゃないかいな そこであのおこもおかしゅうおもうてじゃやさきへかとうのひきゃくがもってきたこのじょう かきちさまだいきゅうよういみつとしてあるによって [さくじ]かいふうしたか [つじ]さああけてみたところがな [さくじ]せっくまえののこりそうそうたのみいれそうろうであろう [つじ]いいえこのあいだたのみあげそうろうとおりぜひぜひきくはやめにおなしくだされそうろうようとか@@あるによってなんでもこりゃてっきりかきさん@あくだまでできたいづつやのみつえとやらのところからきたじょうじゃというてたいていのことかいな (上ノ十七ウ) [さくじ]それはおかしいじょうじゃどれ ときせるをくわえながらじょうをとりあげみて [さくじ]ははあよめた というひょうしにくわえたきせるがばったり [さくじ]ほいなむさん とひざへおちたるすい@らをはらいおとす [きくえ]さくさんおまえどうよめたえ [さくじ]どうよめたかむことったかしらぬがこりゃおおごとじゃ (上ノ十八オ) [きくえ]さあなんでもついしたことじゃない [さくじ]わだおぎのでもいけぬわい [きくえつじ]まあどういうものじゃいなあ [さくじ]どういうものというたらいまのすいがらでこのとおりじゃ とひざのつけあなをいろうてみせる [きくえ]おおいやおおごととはそのことかいな [さくじ]これほどおおごとやったもの [きくえ]わしゃまたこちらのことかとおもうてびっくりしたわいなあ [つじ]さいなあわたくしまでびっくりさしてからこれそのようにいらいないらやいらうほどおおきゅうなるわいな (上ノ十八ウ) [さくじ]@かさまおおきゅうなるときさまのやっかいじゃの [つじ]しれたこといな とまがおでいうとこころづけおもわずふとふきだす [きくえ]おつさんなにわらいじゃぞい@ [つじ]なんのいなあのおひとのいうてじゃことをうっかりあ@てになってあほらしいほほほほほ [きくえ]わしゃいっそきがすまぬ さくさんどうしょういな [さくじ]はてどうというたらこのじょうはおおまちがいじゃ [きくえ]どうして [さくじ]まちがいというは@ひ@ひきくをやめにしてくれとかいてあるはおまえのことじゃない (上ノ十九オ) こりゃかきちがしょうばいのちゅうもんじゃ [きくえ]ちゅうもんとはいなあ [さくじ]かきちはしっかいやじゃによってひがしでそめものうけとった そのちゅうもんのきくをやめにしてくれじゃ [きくえ]ええそうかい [さくじ]それかえすしょにもしいよいよきくにいたしそうらはばこうりんにいたしたくそうろうなんど [きくえ]ほんになあおつさんみんか [つじ]おおおかしいやいな [きくえ]あんありあほらしい [さくじ]きついあわてな (上ノ十九ウ) [つじ]しかしこれでおちつき@であろ [さくじ]いわいごとにひとちょうしはありそうなものじゃ といいつつはいいらずをうかがい [さくじ]おおかたしけであろ とみて [さくじ]おおさかみずからにこうめ。 ほしだいこんのごぶぎりのさんばいづけ さてやきどうふしいたけにくわえのにしめちょっぽりこちらにこんにゃくのしらあえ ははあまあしあげにはごていねいじゃ [きくえ]さくさんいやえぎえんのわるい [さくじ]おっとまったりなまぶしにたけのこなんじゃにしんのこぶまき (上ノ二十オ) おまえねことこころやすいそうな [きくえ]いやいなそりゃおとのたべものじゃわいな [さくじ]ちんこそめいわくなれ [きくえ]さくさんだいきらい [つじ]ほんにのりだしんか すもじしょう [きくえ]さかなとだなのひきだしあけ [つじ]よしよし とひきだしよりのりをだして [つじ]ほんにまだままたべずじゃなあ [きく]いまのそうどうでわすれていた ついたべてしまうわえ とふうふはうらからすぐにうちにいる [つじ]おしなどんごくろうさん きくさんがままたべるというてじゃ (上ノ二十ウ) はよういんであげ [しな]はいはい つじふくろとだなよりまつのともみつよつだし [つじ]これおとぼんにやっておくれ [しな]おかたじけのうござります [おと]わんわん [しな]おおぎょうぎわる うちでたべ とうらよりでてゆく [つじ]おまえもかかりあいじゃ たまごやいておくれ [さくじ]くちにつかわるるみぞつらや といいつつひばちのひをひろげたまごをやきにかかる [つじ]うどがほしいけれどあじつけにゃならずほんにままがさめにゃよいが (上ノ廿一オ) とひつのふたをとってみて [つじ]よしよしまだあたたかい とふたりごてごてすしつけているところへおもてからいきをきりてしっかいやかきちあがりぐちにてをつき [かきち]ごちゅうしんごちゅうしん [つじ]かきさんびっくりさしじゃ [かきち]びっくりどころじゃない えらいことができた [つじ]えらいこととはなんじゃいな [かきち]びっくりしいなや [つじ]おおいやわけもいわずに [かきち]いやもうえらいことじゃ [つじ]おおしんきはよういうてかしいなあ [かきち]やかましゅういいな いうにいわれぬことじゃ (上ノ廿一ウ) [つじ]いうにいわれぬとはなんじゃいな [かきち]さあいうにいわれぬというはなりきょうさんがぼうずになった [つじ]え [かきち]なんというにはいわれぬことであろうがな [つじ]おおしんきちゃりかいな びっくりさしてじゃ [かきち]おつさんちゃりじゃないほんまのことじゃ なんとちんせつであろうがな [つじ]うそつき なんのりきょうさんが [かきち]ほんまにぼうずになった [さくじ]とおもうたらゆめがさめたか [かきち]ゆめどころじゃないはしかじゃ [つじ]はしかとはいな (上ノ廿二オ) [かきち]ましんじゃということ [つじ]そうかいないったいなんでじゃいな [かきち]なんではうらのせんせいのことがうちへしれて [つじ]かきちさんまち ほんまのことならうらのこがきくとわるい ちいさいこえしていい とかきちこえをひそめて [かきち]ところがだんだんきょねんからせんせいにつこうたしりがみなわれてびぜんいっけへあずけるとないないそうだんがきわまったとこでかんてきせんえいちらりときいてなんのじゅっかんめやにじゅっかんめのかねでいっしょういなかずまいしょうよりというてけさころりとやられた (上ノ廿二ウ) [さくじ]ほんにそりゃおおごとじゃ [かきち]さしづめさくさんはかけつけてとのごぞんじょうのうちごそんがんをはいしたてまつるといわにゃならぬやくじゃ [つじ]おもしろそうにそこどころかいな [かきち]われらさしづめふすまたたいてきょううえもんどのきょううえもんどのというかおじゃときにうらのせんせいなんにもしるまい [つじ]こちらさえいまきいたがはじめてじゃもの [かきち]しかしきいたらきょうえつであろ [つじ]なんでいな [かきち]はてりきょうさんがああなったらまいっぱいでるであろ (上ノ廿三オ) [つじ]かわいそうにそんなきでもあるまい [かきち]なんのたいていみなそれじゃもの [つじ]いやいやそんなことはちゃりにもいうてやりな [かきち]おつさんみい ぜんのうえのはしじゃ とはなししているうちきくえかきちがこえをききつけうらぐちよりたちぎきしている さくじちらりとみて [さくじ]おつじうらぐちにだれやらたっているそうな ちょっとみや というにおどろきさしあしにてきくえうちへもどる (上ノ廿三ウ) しなはたなもとしもうている きくえはいまにいるこれをきっかけにろっかくのくれむつのかねごおん おりふしおもてのなみざきにて うた『はなもゆきもはらえばきよきたもとかなほんにむかしのむかしのことよわがまつひとはわれをまちけん とひきいだす このうたをききながらしあんしていたりけるがなにおもいけんすずりとりいだしあんどうのもとにてながながとふみをしたためさてきょうだいにおしなおりつくづくとわがかおをうちまもりおもわずほろりとなみだぐむ (上ノ廿四オ) うた『おしのおどりにもおもいねのこおるふすまになくねもさぞなさなきだにこころもとおきよわのかね とてらでらにつきするかねごおんごおんごおん うた『きくもさびしきひとりねのまくらにひびくあられのねももしやといっそせきかねておつるなみだのつららよりつらきいのちはおしからねどもこいしきひとにつみぶかくおもわぬことのかなしさにすてたうきすてたうきよのやまかずら (上ノ廿四ウ) とつれびきのあわれをきくにつけわがみかなしくかみすきあげひだりにもとどりみぎにかみそりをもちともしらがまでもとおもいしかいもあさなゆうなちすじとなでしくろかみをおもいきりてねもとよりふっつとおしきり (上ノ廿五オ) 挿絵 (上ノ廿五ウ) 挿絵 (上ノ廿六オ) おりふしなかじきりのふすまをおしあけ [つじ]きくさんなにしいじゃ とこえかけられはっとばかりにさしうつむく おつじはあわてかけよって [つじ]おまえまあめっそうなことしいたなあ とおつじがこえにおどろさくじもともにかけつけ [さくじ]おまえまあなんでこんなことしたのじゃ [つじ]おまえなんぞきいたか とふうふせりかけたずねけるにきくえはなみだのかおをあげ (上ノ廿六ウ) [きくえ]かきさんのはなしきいたによって [さくじ]りきょうさんのことを [きくえ]なんぼうふがいないわたしでもだんながそんなみになりなさったときいてどうまあこうしていらるるものでというてそんなみになりなさったらとてもいっしょにはいられまいとおもうによって [さくじ]たとえあまのすがたになってもりきょうさんとそいとげるこころで [つじ]そりゃおまえしれたこと そのきでのうてこのようにおもいきったことがなるものかいな (上ノ廿七オ) [さくじ]いよいよおまえそのこころならねがいのとおりにしてあぎょう [きくえ]そんならわたしを [さくじ]あまではおかぬかもじをいれてもとのすがたに [きくえ]そうしてどうするのじゃえ とこのときかってより。 [かきち]せんしゅうばんざいの。ちはこのたまをたてまつる とかたてにちょうしかたてにのりずしをぞんぶりにいれもてきたりまんなかへなおしおく [きくえ]さくさんこりゃまあどうじゃいなあ [さくじ]まずこのようすというはおまえもきいてのとおりりきょうさんにはなかだちうりのもりいのむすめごをもらうはずでいいやくそくがあったところがきょねんのふゆそのむすめがしなれたじゃ (上ノ廿七ウ) そこでそののちほうぼうからいいいれはあれどとかくりきょうさんががってんせぬでまあよめざたはわいやりになってあったところがこのはるはおやだんなのほんけですぐにいんきょのつもりなれどかんじんのよめがきわまらぬのでいんきょがならぬといっけしゅうがまいにちまいにちのそうだん (上ノ廿八オ) りきょうさんはぜひおまえをうちにいれたいこころなれどはらはたてな じゃがもしやおまえがいっぱいするきでいまいものでもないのにともどもせわしてうちへいれさしたときはこちらもすまず しかしじつじつおまえりきょうさんゆえならあまになってもというこころならはてりきょうさんはもとよりそのきわたしらもともどもいいいれてしろむくきせてさかずきがさせたさきたがるりきょうさんをきんそくさせたこのきょうげんのさくしゃはちかまつさくじ (上ノ廿八ウ) [かきち]ふでとりはまあわしかい [つじ]ほんにおもいがけもないどこでしぐんできてやらわたしにもしらさず [かきち]はてしちにんのこははすともじゃ [つじ]おおすかん 「きくえ」さくさんなんにもいいませぬ これじゃわえ とてをあわす [さくじ]まあわるうきいておくれぬでわしもうれしい なによりはおまえのまことがみえてりきょうさんもさぞおよろこび (上ノ廿九オ) おまえもしあわしもせわしたかいがあるというもの これをおもえばたまごのしかくがないとはいわれぬ とばったりきせるをおとしふじゃくのきどり [つじ]これじゃらじゃらといわずときくさんのあのつむりはどうしょうぞいな [さくじ]どうというてにわかにはへるものじゃなし なんときくさんものはだんごうじゃがおまえそのあたまをさいわいにおやだんなといんきょしんか [きくえ]こちゃいやいな (上ノ廿九ウ) とあんどうのかげへかくるる [かきち]ときにこのようすをききにだんしゅうおっつけおなりであろ [きくえ]そうかいおつさんこのかみどうしょういな [つじ]ほんにどんなものじゃなあ というているうちしとしととあやしきあしおとする かきちききみみをたてそっとうかがいこごえにて [かきち]これたしか とたかたかゆびをみせる [つじ]だんなかえ [さくじ]しい とおのおのむごんになるときりどがぎいきくえあんどうをふっ (上ノ三十オ) ていけのはな まきのじょうおわり (上ノ三十ウ) ていけのはな まきのげ もりたおしおちょ じょろうのまこと もろこしのそんけいはさおうろをとざしてまなびきゅうぼくはかぶりのおつるをしらずしてまなぶふじやいざえもんはすいをまなばんとしてついにきゅうかをでてうままちのかんきょをとざしてふゆあみがさのあかばしりをしらずとなんここにとうとあさくさほとりのしゅうふうなるものひんをまなばんとしてすでにこきょうをさってけいしにのぼる。ところはちおんいん (下ノ壱オ) ふるもんまえにあたらしきこうしづくりかどぐちはまなかのさるどをたてひそかなるすまいはなにとせいとはしらかわのながれにちかきしゅうふうがわびぐらしおとこせたいのきさんじはなべのしりかかざればそこばくのたきぎのついえをしらずやものともしびはむつよりむつまでともしずでなればあぶらはみずのごとくにつかいすつるかねのみょうがにつきよもやみもじょろうにうちこみやがてかみこをきるばかりおおかたほんもうとげたりとはこのおおみそかのむずかしさ (下ノ壱ウ) きょうぞこえなんとしのせきとしゅうふうはおくのまにふつかえいのむかいざけ でいりのあんまにしゃくとらせ じしんすきやきのかものあぶらはいとおろかなるしょくついしょう [あんま]だんなはごうしゅにきわまった きのうからのみつづけにむかいざけならあっさりとゆどうふににしきぎというところをかものすきやきとはおそれいりました [しゅうふう]なにさかみがたのさけだからなかなかもちまえのてなみがみせられねえ そういってもえどでのむさけはしちじゅうごりのえんしゅうなだをこしだものだからやわらかさもやわらかしさかなもくちにあっているからのめるとだしちゃあしゅてんどうじがひだらつかっておじぎするくらいだっけ (下ノ二オ) [あんま]いかさまこれよりふかざけならたまりますまい [しゅうふう]かのてらおかへいうえもんがごしゅでもむりにまいらずばよもおいのいもつづきますまいといったれどおれがようにのんではおいのちもつづきますまいだ それきたやましぐれじゃあついところをいかっしな [あんま]わたくしはせんこくからだいぶんやりました (下ノ二ウ) じすけさんはどうじゃな [しゅうふう]そうさじすけひとつのまねえか [じすけ]ありがとうございます いますこしさんようをしております とだいどころにてちょうめんひかえそろばんをおいている [しゅうふう]はていくらそろばんおいたといってとてもはじまらぬせっきだ うちやっておくがいい [じすけ]いやそうでもござりませぬ とやはりぱちぱちやっているとおもてから [さかや]おことおおうござりましょう [じすけ]だれだな [さかや]さかやでござります (下ノ三オ) [じすけ]さかやさんか だんだんおそくなりましたが とはんぶんきかず [さかや]だんだんおはらいがのびましてござります どうぞきょうはおかしくださりませ [じすけ]さあそれはそごくごもっともだがとてもきょうのことには [さかや]でもきょうはだいせっきでござります [じすけ]さあだいせっきはしょうちしているがなにぶんくにからたよりがねえから とぐずぐずいうているをしゅうふうききかね [しゅうふう]じすけはいな ばんほどかんじょういたすというがいい [じすけ]それじゃともうしまして (下ノ三ウ) [しゅうふう]はてさようならばんほどばんほど [さかや]はいさようならばんほどおたのみもうします とでてかえる [じすけ]もしだんなさかやもかれこれにせっきまたしたからじゅうごかんばかりござります おまえのようにばんとおっしゃっちゃあばんきたときはらをたてます [しゅうふう]はてまあばんにしてきげんよくけえすがいい ちょっとのびればひろというわな [じすけ]それじゃともうしまして とじすけはあたまかきながらなげくびしている とおもてのさるどががらり (下ノ四オ) じすけはなむさんまたきたとひやりとおもうているところへかごしまのおとからからとうちにいればしゅうふうがふかきえにしをむすびたるますもとやのつゆとなんきこゆ とうじのめいぎとしのころはにじゅうにさんにていったいじまいとみえあたまのどうぐもとうじりゅうこうのばかとやらあやしきをもちいずもっともくしはかざおりまきえのきぐしなれどもこうがいかんざしのたぐいはほんまものにてさしならべなまかべはぶたえのこそでにきんけなしのいとにしきのおび かみまいりのもどりとみえこめろをかどぐちよりかえしどっとさしあいにてなかどぐちから (下ノ四ウ) [つゆ]おことうござりましょう [じすけ]はいなにやさんだね とつゆふっとふきだす じすけみて [じすけ]かけこいかとおもったらつゆさんか おめえのぶしゃれはよくしょうちしていてときどきくうよ [つゆ]おおうそちょうしあわしておいて [じすけ]なにさほんとさ まあおあがり [つゆ]しゅうさんはえ [じすけ]おくにいさっしゃります [つゆ]そうかい といいながらあがり [つゆ]おおしんど とひばちのそばにかしこまりたばこのみながら (下ノ五オ) [つゆ]もしゆうべのものみせんか とおくより [しゅうふう]なにを [つゆ]なにをもすさまじい わしゃようしっているけれど [しゅうふう]しっているならみずともよかろう [つゆ]いいえあんまりかくしなさるから [しゅうふう]なんだかしりもしねえもの [つゆ]きっとしらずか おまえにみせるものがある [しゅうふう]おもしろいね [つゆ]おおにくあやまりなえ とたってつかつかとおくにきたり [つゆ]なんじゃいな ひるなかにびょうぶをたてておおくら とあんまのそばにすわり [つゆ]おまえそれほどおぼえのないものがおとといのばんなわてのぬけうらからなんででえた (下ノ五ウ) それでもかくしるか とあんまをこそぐりにかかる あんまたまらずふきだす つゆこのこえをきいて おおいやだれじゃいな [あんま]はいわたくし とつゆかおをすかしみて [つゆ]いややの けんえつさんかいなすかん [あんま]そうはおっしゃってくださりますな なんぼうわたくしじゃともうして [つゆ]ほんにしつれいなかんにんしいえ いったいくらいによってわるい とじしんたてびょうぶをあけてしゅうさんのいじわる (下ノ六オ) ちゃっとこたつにかくれていて [しゅうふう]なにさかくれるじゃねえがけんえつしとなにかむずかしいとりあいだからきいていたのさ [つゆ]いやいななんのけんえつさんとなにいうものでいな [あんま]いえいえそれでもいまおとといのばんわたくしがだいしんのうらぬけからでたことをすまんといいなさったじゃないか [つゆ]おおいや [あんま]そんならおっしゃらなんだか [しゅうふう]いったいった おれがきいていた [つゆ]おおおりょがいだれがきいていておくれというたえ (下ノ六ウ) わしゃおまえにいうたのじゃわいな [あんま]それでもおとおいのばんぬけうらからでたはわたくしじゃもの [つゆ]おまえがでてであったことをだれがなんというものでいな 「あんま」いまのほどりんきしておいてから [つゆ]おおきたなだれがおまえのりんきをするものでいな [しゅうふう]さあさあこりゃあ▲たいへんにこはしかけた▲けんえつしすむめえ [あんま] さようじゃな ちとてちにくいな [しゅうふう]まだたちにくいおとしではねえが (下ノ七オ) [あんま]いやもうそりゃなんどきでもどのようなはやわざでもおめにかけるじゃ [つゆ]おおなさけな けんえつさんによばれたじょちゅうはなんぎであろうな [あんま]なぜな [つゆ]なぜてて とけんえつがかおをみてちゃっとかおにそでをあてわらう [あんま]こうもうしたらすこしうけにくいかはぞんぜぬがわたくしがいちどよんだじょろうはいっしょうえわすれぬげな [つゆ]おおいやなんでいな [しゅうふう]あたごやまさ [つゆ]むむしんどいかえ [しゅうふう]なにさながとこぼうということだ [つゆ]おおなさけな (下ノ七ウ) [あんま]なんでもとくしんさすじゃて そこでわすれられぬからひといきはもういろがふってふってのちにはへどのでるくらいでござりました [しゅうふう]そこでながけんえつさ [あんま]ははははははは とおもてががらり [さかなや]はいさかなやでござります [じすけ]さてまいどきのどくだが とおくから [しゅうふう]ばんだばんだ [さかなや]さようならおたのみもうします とでてゆく じすけはこごえにて [じすけ]これはこまったものじゃ とまたおもてががらり [いけす]はいまつげんでござります [しゅうふう]ばんだばんだ [いけす]はいはい (下ノ八オ) とでてゆく [つゆ]しゅうさんあしたのこしらえはもうできたかいな [しゅうふう]こしらえとはなにを [つゆ]あしたはがんじつじゃないかいな [しゅうふう]たしかそんなことじゃ [つゆ]さあそれでなんやかやのこしらえのことじゃわいな [しゅうふう]なんやかやとはなにをこしらえる [つゆ]おおしんき まあくみじゅうからおぞうにからそうしてあのなに。さんぼうになんやかやたんとのせるものからみなきょうのうちにちゃんとしておくものじゃないかいな [しゅうふう]そりゃあにょぼうのやくだ (下ノ八ウ) おれにきかせずともしておくがいい [つゆ]はいはい とかってへたちてくる [あんま]もしごしゅはどうでござります [つゆ]いやいなこのいそがしいにさけどころかいな とすこしにょぼうのきどりにていう [しゅうふう]しかしてまどっていたらおふくろがこごといおう [つゆ]なんのまあだいじないわいな これじすさんおむしがあるかえ [じすけ]みそはきのうのがのこってあったかしらねえとたちてさかなとだなよりたけのかわにつつみしみそをとりだす [じすけ]これでいいかえ (下ノ九オ) [つゆ]おおすくなたったこれだけかいな [じすけ]おねえなにしなさる [つゆ]おぞうにのむしをすっておくのじゃわいな [じすけ]はあかみがたのぞうにはみそでするけえ [つゆ]そうじゃわいな [じすけ]はてなえどじゃあしょうゆうのすましぞうにさ [つゆ]すいなものじゃなあ といいながらたちて [つゆ]おむしするものはどこにあるえ とおくから [しゅうふう]それはたしかおたびまちのちゃわんばちやとやせのかかあのところにあったとおもうた [つゆ]しらんわいな (下ノ九ウ) [しゅうふう]はてしらぬからおそえてやるのさ [つゆ]いかいおせわさんえ といいながらあはしりさきのすりばちすりこぎをとってきて [つゆ]じすさんはしりにあるかしらはまだどうもせずにあるな [じすけ]かしらとはええたいそうおおきないもかしらのことけえ [つゆ]あいな [じすけ]ありゃあきのうしょうべんとりがもってきたがどうしてくったらよかろう [つゆ]おおしんきあれはあしたおぞうにのなかへいれるのじゃわいな [じすけ]そうけえ (下ノ十オ) [つゆ]いっこうなんにもしてないそうな とすりばちへみそをがらがらとすりかかり [つゆ]しんきいっそいごいてどうもならぬ [ちすけ]もちましょうか [つゆ]いいえだいじないわえ [あんま]いやげせつもちましょう とでてきたりすりばちをもつ [つゆ]こりゃおりょがいさん [あんま]これはこれはなんとかわりましょうか [つゆ]いいえだいじないわえ おおしんどちとやすも とおもてがらり [おんな]はいふじやでござります [じすけ]ふじやとはええにけんじゃやのふじやかね (下ノ十ウ) [おんな]さようでござります [しゅうふう]ふじやもばんだ [おんな]はいはいおたのみもうします とでてゆく [つゆ]もうよいかいな [あんま]わたくしはしょてからよいが [つゆ]なにがいな [あんま]とかくおなごはおそうようがるものじゃ [つゆ]それでもこちゃもうこれでよいかわるいかしりもせんもの [あんま]まそっとしんぼうなされ もうおっつけようなりますぞ [つゆ]おおしんどどうやらもうよいようなわいな [あんま]さあもうようなるじぶんじゃて [つゆ]いっそそこらじゅうへついたわいな (下ノ十一オ) 挿絵 (下ノ十一ウ) 挿絵 (下ノ十二オ) [あんま]さあようがるといつでもそうじゃて [つゆ]ちょっとまちいっぺんふくわえ とかみをだしてすりばちのふちをぬぐう [あんま]ついでにこれもおたのみもうしますとみそのついたすりこぎをだす [つゆ]ちょっとまちえ とのべがみにさんまいにてすりこぎのえをにぎりてふいてとりふとけんえつとかおをみあわし [つゆ]おおあほう とわらいだすとまたおもてをあけてくつのおとがりがりとして [さかなや]またしゅらどうのときのこえやさけびのおとしんどうしてちんちつんつつんつちんちつんつつんつとつつんつんつんつ (下ノ十二ウ) とすこしえいきげんにてうたいながらなかどぐちへはいる [けんえつ]これはいちたのばんとうえらきげんじゃな [さかなや]さあきょうはすこしげんきづかにゃかけがとれぬじゃ そこでいっちょういれてきをじょうぶにしてはらいをいちゃつくやつがあると。またしゅらどうのときのこえとしょうしょういちゃもやらにゃならぬじゃははははは [けんえつ]これはおとくいさきでちかごろしつれいなあいさつじゃな (下ノ十三オ) [さかなや]なんのうちかたのはらいにいちゃがあってよいものかなあ もうしばんとうさん [じすけ]いやいやめったなことはいわれねえ [さかなや]なぞとひとにものをおもわすように。 そりゃなにいわんすごろはちさん* [しゅうふう]いちたなんとそのくちへいまひとついれるはどうだ [さかなや]そりゃありがたいな [しゅうふう]どれどれ とおくよりちょくとちょうしをもっていで [しゅうふう]けんこうひばちをこれへおたのみもうす とけんえつこころえおくのひばちをもってでる (下ノ十三ウ) [さかなや]さようならおじぎなしに [しゅうふう]ぬるくはねえかあつくしてやろう とひばちへちょうしをかけ [しゅうふう]ときにいかめしくいったがさかなはそうしゅうごろうまさむねだ [さかなや]めいさくかな [しゅうふう]いやきれものだ ようようこれいっしゅさ [さかなや]なんじゃかものすきやきとはきびしいものじゃ こりゃのめるな [しゅうふう]どれちょっととひとくちのんで [しゅうふう]とおりすぎたくらいじゃ とちょくをだすとちょっとりかんのこわいろにて [さかな]これとくべえさんきげんなおしてさかずきさいてやらんせいのう (下ノ十四オ) おおそうじゃそうじゃ そこでいちたがいただいたものじゃ これいただくの おおさんままたあろかいのちちちちちちちとちんちち といいながらじしんしゃくしてのむ [けんえつ]あらきちはよっぽどてにいれたものじゃ [さかなや]なぞとちょうしをあわしてくれることもないじゃないか ちょうしよりこんをあわして [しゅうふう]はていいわな しずかにのむがいい といいながらはしりさきをみて [しゅうふう]じすけいつのまにかはながかってあるの (下ノ十四ウ) [じすけ]けさはなやがもってまいりました [しゅうふう]うちやっておいちゃあわるい [つゆ]いちたさんおまいがいっちちかい あのはなとってかし [さかなや]なざしにおうたはちよがめいわく とかたりながらはなをとってさらばうめおうとだす つゆとりつぐ しゅうふうとって [しゅうふう]もうきざきかしらねえ よくつぼみをもった とつゆぼんをとってわたす しゅうふうはくばいとつばきをまえにおきにじゅうぎりのおきばないけをとってきたりいけにかかる (下ノ十五オ) [さかなや]つゆさんといういろをもかをもあるはくばいをだいてねじめはたまつばきのやちよをこめしだんなのていけはていろのうきよじゃよなあ とこいさぶろうのこわいろ [つゆ]いやいなようおだてるひとなあ というているおりふしおもてにねているいぬをしかりつけ。がらりとあけてきたりしはこのやのいえぬししじゅうろくしちともみえてみじかきはおりによごれたかわたびかむりおとしたえんまというかおでずっとはいり (下ノ十五ウ) [いえぬし]けさからもなんのさたもないがやちんはどうなります とあがりぐちにこしかける [じすけ]だんだんとまちがいましてもうしわけもござりませぬがどうぞはるそうそうまでごふしょうをおねがいもうします [いえぬし]これこれはるまでとはどうしたごあいさつでござる そもそもくがつまえからとどこおってそれからなかじきりにもさたなし またこのおヽつもごりもかたがつかいでははなはだふらちともうそうか (下ノ十六オ) すまぬしかたではないか ぜひきょうはさんようなされ うそをいうもほどのあったものじゃ とにがりきっていう じすけもことばなくぐずぐずしている しゅうふうさいぜんよりはなをいけながらききいたれば [しゅうふう]これはよくおいでなされました せんこくからいさいうけたまわりましたがいちいちごもっともせんばん しかしえどおもてからたよりがあるはずでごかんじょうもいたすつもりでおりましたがどういうことかかわのつかえるじぶんでもねえにいまにさたがねえからただいまのとおりもうしたのでございます (下ノ十六ウ) ともうして だんだんのえんいんごりっぷくはきこえてござります ばんほどはいかようともつごういたしてごあいさついたしましょうからさようおぼしめしてくださりませ [いえぬし]どうぞまちがわぬようなされませ もしばんがまちがうときのどくながらうけひきとりへとどけおえをあけてもらわにゃならぬ [しゅうふう]いさいかしこまりました (下ノ十七オ) (下ノ十七オ) 挿絵 (下ノ十七ウ) 挿絵 (下ノ十八オ) [いえぬし]そんならかならずばんほどごそうまっています とにっこりともせずでてかえる さかなやはじめいちざきょうをさましいる しゅうふうはひとりよろこび [しゅうふう]けさからくるかけこいにいえぬしほどのやつがねえからことわけいうにほねがおれいでおもしろうなかった ようよういえぬしがこごとをきいたですこしおおみそかのこころもちがした [さかなや]わたくしはせっかくようたさけがどこへやらいてしもうた こりゃまひとつのまにゃならぬ (下ノ十八ウ) とちょうしをとりあげ [さかなや]なむさんつぎめじゃ けんえつさんおまえのうしろのたるをちょっと [けんえつ]ここでなおそう とちょうしをとりたるをみて [けんえつ]なむさんここもつぎめじゃ [しゅうふう]いやいやとてもさかなのないさけはのんでいられぬ にけんじゃやというしゃれもまんざらじゃあるめえ いちたどうだろ [さかなや]どうでぎおんまちへまいります おともいたしましょう [しゅうふう]おもしろい けんえつしつゆもいかねえか といえどもつゆはうつむいている (下ノ十九オ) [しゅうふう]ははあさけというとおきにいらぬ とはおりをひっかけでようとする [じすけ]もしだんなばんほどおおやをどういたしましょう [しゅうふう]はてどうともなろうわな といちたひきつれおもてへでてゆく けんえつもともにでようとする つゆちょっとささやく けんえつなにかしょうちしてでてゆく じすけはおおきにふさぎしていにてうつむいている つゆさしよって [つゆ]じすさんいったいどういうもんじゃいなあ (下ノ十九ウ) [じすけ]どういうものはくにからかねがこぬからくがつまえからないしょうのおおわずらい だんだんぶさただらけがおしつめた きょうになってまことにいちぶのあてもないにめったやたらにばんにばんにというてかえしどうするだんなのこころやら いっそわたくしはあなへもへいりたいこころもちさ いやまたつまらねえももっともかい よるひるなしにさけばかりのんでかねはゆみずとつかいすて えどにいさっしゃるときもしらぬところへきているときもおなじこころでござってはさりとはつまらぬ (下ノ二十オ) といいさしふとつゆをみてすこしさしあうとこころづきけるにや ああくのせかいではある とひぜせりしている つゆはさいぜんよりなにかしあんありがおにえりにかおをさしいれていたりけるがなにおもいけんつとたちあがりしたへおりる [じすけ]おめえおけえりか [つゆ]あいいまちっとおもいだしたことがあるよってちょっといんでのちにくるわえ [じすけ]もしだんなにあいなすったらはやくおかえるようおたのみもうしやす (下ノ二十ウ) とつゆはなかどぐちへでかける おりふしつきだすくれむつはじすけがむねとつゆがみにいとどひびかれ [じすけ]ありゃもうくれむつの [つゆ]かねのうきよじゃなあ とつゆはでてゆく じすけはこてこてともしびをともしそこらとりかたづけいる ○このうちこめやきやはいうにおよばずすべてかけこいやをいるごとくくる じすけもいまはふせぎかねただのちのちといいのがれけることしょやよりよつにいたる (下ノ二十一オ) べつにかわりたることなければこのいっけんをりゃくす とかくしてよつのころじすけはつくづくおもうにだんなもかえりこずかけこいはますますひきもちぎらざればきっとしあんをきわめこれはだんなをたずねがてらうちにいぬがよいとひのようじんをみてともしびをふきけしおもてへでんとするところへだれかはとっかわくるていなむさん またかけこいかとすりぬけんとするところ (下ノ二十一ウ) [つゆ]じすさんか [じすけ]つゆさんか [つゆ]これちょっとはいり [じすけ]きょときょとしい とりょうにんうちへはいる もっともくらきだいどころにこしうちかけて [つゆ]しゅうさんはまだかえ [じすけ]さあいまたずねにいてこうとおもうてでかけるところさ [つゆ]そりゃさいわいじゃ かならずしゅうさんにはさたなしじゃがなこれ とくらがりにてじすけがてをとりなにかてにわたす じすけもってみるにおもかりければ [じすけ]つゆさんこれは [つゆ]どうぞそれでこんやのところをよいようにしてあげておくれ (下ノ二十二オ) [じすけ]むむそんならこりゃたしかなかねじゃな まあまち とつけぎをともしあんどうにつけかのしなをみて [じすけ]こりゃおおかたじゅうしごりょう おまえどうしてこのかねを とふしぎさにつくづくとつゆをみるにくしこうがいはいうにおよばずかんざしいっぽんあらばこそありしにかわるつゆがかざりのさびしきにこころつき [じすけ]こりゃおめえつむりのどうぐを [つゆ]これおおきなこえしいないな (下ノ二十二ウ) [じすけ]おめえのまことをきかれたらさだめしだんなもうれしかろうがつねとちごうてあすはがんじつそんなあたまではいられめえ [つゆ]なんのいなかたみっかはとてもみえるおきゃくはなし ここへきていればよい [じすけ]そうしてこんやは [つゆ]もういなぬわえ とついとおくへいてこたつへはいる ○このうちひるからやくそくのかけこいおいおいにせめかけける じすけもしばらくしあんしていたれどもなにぶんだいどころはゆみはりのにさんじゅうもならびければもうぜひがないとつつみをときかたはしからはらいかけまたたくうちにじゅうしごりょうはらいきるとみなさかさまになってかえるここちよさ (下ノ二十三オ) ああうれしやとはおもえどもつゆがあすからでられぬにまたひとつむねをいためいるおりふしかえるあるじしゅうふうずっとはいって (下ノ二十三ウ) [しゅうふう]じすけさぞおしかけたであろう どうきりぬけた [じすけ]これごろうじませ とうけとりのちょうめんひろげてだす しゅうふういちいちみて [しゅうふう]こりゃあどうじゃ いえぬしはじめのこらずかねのうけとりは とじすけかのつゆがなさけのいっけんをささやく しゅうふうおおいにかんじまたあすのことをあんじしゅうじゅうかおみあわしてこくびかたぶけながらとてもいまはぜひなしとしゅうふうはおくにきたり [しゅうふう]つゆなんにもいわぬ これじゃこれじゃとてをあわす (下ノ二十四オ) [つゆ]こちゃいやえしらんわいな [しゅうふう]じゃというてそのあたまでは [つゆ]おおひつこ おまえをふさげさすまいとおもうたにやっぱりそのようにふさいでから [しゅうふう]おっとそのこころざしのむそくにならぬようきをとりなおしてねるにしょうか とこたつへはいる おりふしおもてをごとごとごと [しゅうふう]じすけもうかけこいはくすりにしたくてもねえはずだが [じすけ]さようさ といいつつおもてにいで [じすけ]だれだ [おとこ]あさくさやしゅうじろうさまはこなたかな (下ノ二十四ウ) [じすけ]あいこっちじゃが ととをあける [おとこ]ごじょうがまいりましたうけとりをくださりませ とじすけじょうをとりさらさらとうけとりしてわたししゅうふうがまえにきたり [じすけ]もしえどからごじょうがめいりました [しゅうふう]どれ とふうおしきるといちぶでしごじゅうりょうばらばらばら さくしゃここにてこうじょう これにてつゆがなさけのしちもうけだしわきてめでたくがんたんをむかえなおすえながくかたらいしはまったくじょろうのまこといったんのこうをなしたることここにりゃくす (下ノ二十五オ) ていけのはな まきのげたいび (下ノ二十五ウ) 天保三辰正月新板            伏見板橋二丁目             亀屋伊兵衛    書林      京三条柳馬場西へ入             近江屋治助 ---------------------------------------------------------------------- 注) 下ノ七オ6-7  ▲~▲=文意を解釈できないため、翻字のまま「たいへんにこはしかけたけんえつし」としている。