―『陽台遺編・■閣秘言』翻字データ― ※ ■=女×壮 ------------------------------------------------------------------------- 秘戯篇 [女郎歌夕]まづたばこのむ <中居くめ茶持テ来ル また切炭のいけてある火入と下地の火入といれかへる> [中居くめ]夕さんなんにも御用はないかへ [女郎]いゝへ源七がたば粉もつてきたら。くだんせ。 こなんはおきばんか さむかろふナ。 [くめ]アイおきばんしやわいな。 何なと用が有ならいひなんせ [女郎]その屏風もつとこちらへ引てくだんせ。 (一オ) [くめ]アイ歌川の瀬もなる夜半もなるにといひ/\勝手へ行。 [女郎]まつねる。 ふとんきる。 扨たばこ吸付ル申ヽ。 これいな。 又いなまたたぬきねいりなんするといふてこそぐる。 [客]ウヽヽヽアヽ ついねたそふな。 もうなん時じや (一ウ) [女郎]しらんわいな [客]しらんほどなら。 もふよいいにぢぶんじや [女郎]客のかいなへ喰つく [客]あいたヽこりやめつたにかぶるまい ほうれんそうの汁がついて有ぞ [女郎]だんないわいな。 いつそしんだがましじやわいな。 [客]ハヽア 世をくはんじさつしやつたの。 (ニオ) 此上に桜のつぼみがちつたらよいていはつものじや [女郎]わたしがていはつしたら。よろこびなんしよな申といふて。 又きせるをとり。 ヱヽ心いきの通らぬきせるじや。 おまへはせんど桔梗屋へおいなんして井筒さんにあいなんしたげなようきくと思ひなんせ。 (ニウ) どふでまた。井筒さんのよふに。わたしらはないはつじやわいな [客]これはめいわく 成程以中{イチウ}や祗童{ギドウ}と付合で桔梗屋へいたが井筒とやら井げたとやらはしらぬ。 [女郎]ヘヱさよふで御座りましよ。 わたしやそのあけすぐに井筒さんへは付届して置キましてこざります (三オ) アイきつと/\いふてやりまして御座りますといふてつめる [客]こりやむごい。 こんやはちやうちやくにあいにきたのじやまで [女郎]それおまへの気はそんな気じやわいな。 ちつとさわるとあたげふさんな。 [客]われが事じや。 (三ウ) ちよつと桔梗屋へ行とかヽりかましう何ンなといふて。 のきたいか。のいてやろぞ [女郎]おまへが何ンのかのといふてのきたいのかえ アタむまひ マアなりませぬでござります [客]ならぬはたごや三輪の茶屋じやの。 [女郎]そして何じやいな。 きうくつらしいたびぬぎなんせ。 (四オ) 此帯はなんじや こはくならちつとならして見よチウ/\/\ <女郎枕に紙あてねるくろしゆすとく○ 客ふゑふき目になる> [女郎]ヲヽさむといふて ふとんきる手はいとふはないかへ [客]ハテいたくとま々よ <扨いな寝姿して フウ/\/\/\/\。> [女郎]大ぞうさやらしなんしたといふて。 手をのばして紙をとる (四ウ) [くめ]さんじましても大事ござりませぬか [客]ヲヽずつと書院まで御通りなされ [くめ]夕さん 源七どんがたばこ持てみへました [女郎]アイ爰へ下だんせ。 [客]こりやくめもうなん時じや [くめ]まだ申夜半になりやいたしませぬ [客]われがそふいや。 もふ八ツ過じや (五オ) [くめ]いへ申ほんじやわいなまだ申 むかいの松屋のあんどうさへひきやいたしませぬ [女郎]めつたにこんやはいにたかりなんすわいの なんぞ内かたによいことが有ものじやあろぞいな。 [客]ずつとよい事が有るはじやにしかられる。 [女郎]よいわいな (五ウ) あしたわたしが居ていひわけしてあげやんしよ [客]そりやすうきがよふて牢へ入よふなものじや [くめ]マアもそつと御休ミなされ。 わたしかよい時分におこしますわいな [客]そしたらマア一寸きらりよ [女郎]なんでそないに。 そは/\なんす 井筒さんにやくそくしておきなんしたか (六オ) [客]又井筒がでた。 その次而にいつゝやの客はどふした [女郎]のいたわいな [客]どふいふわけで [女郎]どふもすめぬ事が有たわいな。 こんどいふてきかしますで御座んしよ [客]聞はきついりんきしやであつたげな。 [女郎]どふもなるものじやなかつたわいな。 (六ウ) やうじにたつ事もならなんだわいな [客]いやそれほどにまたおもわるゝといふ事はたいていの事ではない さためし御馳走がよかつたものであろ。 [女郎]あたいやらしい。 そんな事いふてくれなんすな。 あのはなしはきくもいやじやはいな (七オ) <[客]また少シおきて手てんがう> [女郎]アヽ何なんすそいな こそばいわいな。 ろくにねなんせ フウ/\/\/\/\/\ <[客]ねかへり> [女郎]アヽないに髪をそこのふてあしたいんだらわらひくさろ [客]いやもいのわい。 [女郎]マアよいわいな。 まだ八ツ過じやぞへ [客]八ツ過ならヲヽこわや チヨン/\と手をたヽき [くめ]ハイといふて来る (七ウ) [客]駕籠いふてやつてくれ [くめ]ハイ [女郎]又いつおいなんす [客]こちのすゝはきのばんにこふ [女郎]いつじやへ [客]いつじやしれぬ [女郎]そないなめつそうな事。 そしておまへにあした文あげやんす程にちよつと返事してくれなんせや [客]ハアヽ君の仰ならば返事はおろか書出しなり共上ますでござりましよ (八オ) [女郎]にくてらし [客]ア此にくてら筋の駕籠はこぬかの [くめ]御かごがさんじました [客]ヲイたばこ入レは爰にあると鼻紙紙入頭巾が見へぬ [女郎]まちなんせ ヱヽ爰のふとんの下に有 <[客]勝手へ出る> くめねむたそふなかほじやな (八ウ) おれかあとへいてねい [くめ]御帰りなはるか。 御ちかひ内にへ申ろしうさんに心へておくれなはれ。 [客]ヲイかごはいつもの所におろしてたも [駕籠]ハイかしこまりました [くめ]仁兵衛どん頼むぞや [駕籠仁兵衛]ヲイ心へました あとでどうこでまたびさしやれ (九オ) [くめ]かまいくさんな <[女郎]表のくヾり戸のきわて> よふ御出なんした [駕籠]ハイ/\/\/\/\ [くめ]歌夕さんもとの所でねなんせ。 わしもおまへとねよそへ [女郎]またんせ わしやちよつといきたい所が有 [くめ]またかいな。 もふ七ツまへじやぞへ [女郎]だんないわいな。 ねんぱらししや。 (九ウ) ちよつといてこ [くめ]そんならまちなんせ わたしがついていく。 これおさんちつとの間おきていや これ/\/\いの。 てもよふねる子じやこれいの [小女郎さん]ウヽヽヽ何じやいの。 [くめ]これついあそこ迄夕さんおくつてくる程に其間おきていややねやんなや [さん(@)]ア。 [女郎] (十オ) かわいそふにノウ。 そんだいあしたわしがよいまめぎんちやくやろふぞや サア来てくだんせよい人じや [くめ]おまへの事なら。 なんのいなといふて。 中橋筋の門のきわで [女郎]ヱヽもふねてゐるそうなわいな [くめ]そふほかいな。 [女郎]ヱヽついこゝにねてじやけれどどふもおこされはせず (十ウ) またんせ 砂ほつて見よ ばら/\/\ ヱヽこれでもおきくさらん [くめ]もうよしになんせ けつく内の首尾がわるか新さんがわるかろぞいな [女郎]サアそれおもふてゑたヽかんわいな 歌親はなけれと子はそだつ。 よしおもはじと思へども。 (十一オ) 袖は涙に道はくれ ヱヽこないにいふても馬の耳に風 ほんにかぜひいたそふな ハアくつさめ サアおくめどん。 こんやはいのあたとんなこないにさむいめして来ても何とも思ひくさるまい [くめ]サアどふで男といふものは。 女子の思ふ程にはないものじやわいな (十一ウ) いつそこれからいむてじやうが酒壱ツのんでねなんせ [女郎]ほんにそうしやうわいな こなんいかひたいぎじやあつたなア おさんもかわいそふにねむたかろし [くめ]サアもどつたはいりなんせ 戸ぐはら/\/\。 [女郎]おさんとんねむたかろふのふ [さん] (十二オ) イヽヱ わしやもとりなんしたらと思ふて玉子酒しているわいな [女郎]よふきかついたかわいヽ子じや おくめどん一ツのんてねやんせ [くめ]アイせいがつきすぎやうかいな [女郎]よいわいな。 わしとねるとよいかげんになるわいの [くめ]サアおいなんせ 花情さんのあとでねよ (十ニウ) 是おさん表はしめておいた程にもふねやヽ [女郎]今のあとならふるふてくだんせ。 [くめ]そんな事いゝなんすと花情さんにつげるぞへ [じょろう]いわんせ だんないわいのといひ/\もとの所でねるより高いびき 早壱番太こにからすと共に朝むかいのかごにのり (十三オ) やかたへもどりすぐにベヾきかへ こたつへはいるよりほんの夢中/\(十三ウ) @閣秘言 置屋の段 <置やの小女郎[たね]> 歌夕さんおきなんせ [夕]ウヽ [たね]これいなおきてままもくいなんせ。 風呂もよいそへ [夕]ヲヽせわしない事じや。 何ン時じやいの [たね]もふ八ツじやわいな [夕]そんならおき風呂へいろか。 花咲さんはおきかや [たね]アイもふおまへよりさきに風呂へいりなんして。 (一オ) 今まヽくふてじやわいな。 それでお熊さんのはやふをこしてこいてヽ [夕]コレそしたらふろへいかふ程二かぶらおろしておいてたも そしテの玄周さんのかうやくをやいとのふた程二ニツしておいてたも <夫@風呂へ入てまヽくふ身じまいべ屋行く前ニ 置やのくはしや [おくま]> これ子供衆早ふ身じまいさしやれ。 たま/\留りに行と。 七ツ時分までねて。 そして風呂の。身じまいのと。 (一ウ) それじやさかいでよそからよびにくると。 一ツもまにあふことじやない。 またこちの子供衆程よふねむたがる衆はない程にの <夫@[花咲][歌夕]は見仕廻べやへぞ入にける> 身仕廻部屋の段 女郎[花咲]歌夕さん夕べ新さんにあいなんしたか [夕]いゝへ。 夕べも客を早ふいなしてしまふやうにこつちから帯といて手廻シたけれど。 (二オ) つい七ツまへになつて。 それからかどへいてわめいたけれど。 よふねていたわいな。 あげくのはて二風引てのけた [花咲]ほんにおまへのはよくじやわいな。 わしら此間ねツからあわぬ。 そしてあたいやらしい。 あの伊丹の客めがねから夜があけにや。 いにくさらん。 そして夕べもぬかす事聞てくだんせ。 あのこのやうにあつかましういふて。 (二ウ) あすは身仕廻べやで。 御そしりであろふとぬかしくさつた。 それでわしがおもふにはなんのおのれがこと咄しせふと。 心で思ふていたわいな。 そしてマアおまヘ アノ新さんとどふでもめうとになりなんすか。 浦山しいことじやナア [夕]サイナ 新さんもマアもつきなり わしももたるる気じやけれどおやごさんがかたいそふなわいな。 それでマアわしも気にかゝつてどふもならぬわいな (三オ) [花咲]なんのいなおまへがたは高で此嶋での色じやもの。 なんぼかたいといふても。町方のおやごさんたちのやうにやないわいな。 そりやついちつとあちこちともや/\がちつとあろと。 それでついおまへは新さんの所へいきなんすやうになるわいな どふもこんどすめんのがわしらのじやわいな (三ウ) [夕]それでもあの助五郎さんの親ごさんは。たいていすいじやないげなぞへ [花咲]サアそのすいも。こヽらでいふとたいていのやぼじやないわいな。 それでわしや末の事おもふと。とんときがわるいわいな [夕]そりやおまへのがまちがひじや。 こヽらのすいといふは。大分あつきかまじるわいな 町の衆のすいなはねからどくがないさかいで。 (四オ) たいていよい事じやないそへ [花咲]そりやそふかいな アヽまヽよ 来年の事いふと鬼が笑ふといふさかい。 いきやいにやりはなしに思ふていよふはいな。 したがわしらがよふな者が町へいたら。 どふさんせ。こふなんせといふたら。わらひおろし。 そりやそふと角の道行にそれ。 身仕廻部屋のたのしみにかわい男のうはさしてとはよふいふたものじや。 (四ウ) ナア <茶屋山里やの小女郎 [やつ]がきて> 歌夕さんうちにならこのふみあげましてくれなんせ <置屋女子[はる]> どこからじやへ <小女郎[やつ]> ヲヽわしじやわいの 御つかいがまつてじやほどにいまへんじしてくれなんせといふてくだんせや [はる]ちつとのままつていやんせ (又ノ四オ) <小女郎[やつ」> おくまさんなになんす <くはしや[くま]> これはこつちの子どもしゆの。正月のきりこみいしやうにかのこのゑりかけたら。みなしろぬめがよいとおつしやるさかいで。御はりにさそよりわとおもふてかけかへるのじや。 わがみも早ふ大きうなつてこんなべヾきるやうになりや。 (又ノ四ウ) そしてこないにこヾといわんやうにしやヽ [やつ]ほんにかのこのゑりは今はやらんわいな。 こちの小松さんも白ぬめじやぞへ。 せんど利八さんが見なんしてナ ヲヽゑいしゆのだんじりの狐の尾見るやうなといわんしたぞへ。 これおはるどん御返事わいの [はる] (五オ) ヲヽせわしない子じや。 これ。いなんしたらの。かうしうさんに御文下されました。 御返事いたしとうこざりますれど。今つかへがおこりましてよふ御返事いたしませぬ程に。おいちさんによいようにいふてあげましておくれなんせといんでいふてくだんせ。 [やつ]マアそんなら早ふいふたがよいわい (五ウ) [はる]やかましういわずとこけぬやうにはやふいにや [やつ]それおのれ二おのれにおしへらりふか ワアイといふてはしつていぬる [夕]なんじやいやらしい あのかんしやくもちが文ぜんさくおいてくれ。 去ながら見てやろか。 何じや此程はさむさことにまさり候へどもいよ/\これはしれた事よ (六オ) 何じや過しの御おもがけのたちさらで ヲヽいや そして何じやのきのふさんき山里もとへまいりしよし二而御うわさ承り候得ば。 何とや過しのわけ御心にそまぬ事あつて。御はらだちありとの御申と聞へ候 それは何事かぞんぜぬ事。 もとよりこなた身にとりまさ野とやらんの事は。ねから覚へなふ候 (六ウ) 冤角。ひとかたならずぞんじ候へばあらふ事かあるまい事か。 御げんにことはけ申べく候つきてむかふ日十日は山里屋もとへ御出あり度候 くどふは其ふしとかしく。 春の氷@参るてもいやなやつの。 こりや恋の文尽しから出しおつた。 (七オ) うすい心といふ心かいな。 そしてなんじや沢辺の火より。 さつてもかきおつた螢の事でこがるヽといふやうな事であろかいな。 すつきりうす雪物語のよふなことじや。 したがよい紙じや。 此紙で首筋ふいてやろ [花咲]コレそないにいひなんすな 客めうりにつきるぞへ。 (七ウ) そしてあの御客から来た文は廿日もわしらは取ツて置く。 又どのやうな事てその文出してせりふするといふやうな事が。有まいものではないぞへ [夕]なんのいな。 なんのかのがありや。のくぶんじやわいな。 したがマア十日はうつたものはよふいにおりやよいが マア新さんにしらしておこわいな。 (八オ) わしらは助さんの文より外は。ねからとつておきやせぬ。 其次而二せんどあのわしが身あがりの覚留メて置く延紙の手帳をだれが引ずり出しおつたやら。 旦那が見付ケて。 こりやなんじやといふたゆヘ イへなんでもござんせぬと引たくつたが。 ほんにめつたに錠のない所にかくす物はおかれぬぞへ (八ウ) [花咲]サイナわしも先度中払の書出しの内に野側のつしまやの書出しをお熊さんめが見付ケてれいのあて事でわしやモいつそねた顔していたわいな [夕]イヤモフあのあて事はらたてふなら。じやうじうけんくはじやわいな ほんにはなし斗していてねからけふは髪ができぬ (九オ) [花咲]ほんにそれつとがゆがんであるわいな。 デヱわしよふしてやろ。 あちらむかんせ。 その筋立おこさんせ。 それ/\それでよい [夕]ヲヽほんによふなつた。 わしや其内つのぐりはゑゆわんわいな。 咲さんこなんのも筋たてヽやろ。 こなんのかみはよふできた。 したがもふ何時じやいな (九ウ) [花咲]もうやがてくれるそふな。 ほんに日はみぢかいこつちや。 扨どここからもよびにこぬは。 いつそむかいノ京屋へいて。二切か。三切買ふて壱ツのもじやあるまいかへ [夕]わしらも大分こふてゐるがヱヽまヽよ。 どふなとなろぞ。 したが牛につられてじや。 そしてどふしやう (十オ) [花咲]わしさきへいてこなんよびにおこそ [夕]ヲヽそうしてくだんせ [花]コレおたねちよつとおじやものいふてきかそ。 これ。こう/\ [たね]アイそんならいきなんすか [花]ヲヽもし。 とこからぞよびにきたら。京屋へそつと呼二おじやといふて。 ちよこ/\と京屋へさして急ぎ <京屋女子[まつ]> 歌夕さんおくりましてくれなんせ (十ウ) [はる]アイそこへおくりましよ。 歌夕さん京屋からよひにきたぞへ [夕]ヲヽたれじやいなといふて。 駕籠に打のり京屋へこそ 浜の京屋身上リ之段 [花咲]夕さんごんしたか [夕]おつやさんどふじやいな。 <京やくはしや[つや]> ふたりながら何ンと思ふておいなんした (十一オ) [花]いやこふじやわいな。 こちノお熊さんがねすりこときヽあいて。 あんまりきしよくかわるさに。いひ合て一ツのみにきた。 一切か二切か程。呑ミこんでくれなんせ [つや]がてんじや/\ 是おかねあのおやまさんの所から市兵衛が見へたらおきやくのあるよふにいふておきや。 庄八が見へても市兵衛が見へてもじやぞへ (十一ウ) [かね]アイ [つや]ゆだうふでもさそか [夕][花]いへ/\ マア一ツのましてくれなんせ [つや]てもきついせきやうじや。 これ源七夕べのくずなもついやきや。 そこに海老もあろ。 サアひとつのみなんせ。 ほんにおまへがたもきのみじかい。 また/\こちのとなりやなんぞは。ほんに又々たいてのきばじやないぞへ。 (十ニオ) まだおまへがたはほんにつとめよいことじや [夕]いへもわたしも咲さんも外のことはかまはぬけれど。 ねすり事と何ンでもない事二うたがはれるのには。ほつとしたわいな。 もふ此噂やめて一ツのもかいナ [つや]いつそ覆にしやうかいナア [夕]それもよござんしよ。 [つや]サアマア咲さんせんじやあげやんしよ [咲]アイこれいな (十ニウ) こほれるわいナ [夕]是やろか。 こなんのすきのゑびじや [花]アイサア夕さんさそ [夕]アイおかねどんさそか [かね]アイお久ぶりじや おもどしもふしましよ [夕]おさよかいな [つや]わしあいしてやろ [咲]すけてあげやんしよ [夕]肴ニわしおもしろい事引てかそ。 おかねどん三味線かさんせんか [かね]アイ [夕]ヲヽ此はちわいの。 鼠がくふたかいな おヽしやうし 二上リ 雲にかけ橋かすみにちとり。 及びないとて [咲]アヽそれがなんのおもしろい事 (十三オ) アヽ文五郎さん二しらしたいな。 いつそ文やろかい [夕]わしもくだんの所へいきたいが。 あのおつやさんいつそよいやう二してふたりながらしまふといふてやつてくれなんせ [つや]ほんにおまへ方もやくたいじやぞへ [夕]いやもふそんはかけぬわいな へ々々 [つや]そりやよいがな。 そんなら何かへ 夕さんは中橋筋へかへ [夕]アイそふじやけれど あのさんも内の首尾がしれぬさかい。 (十三ウ) わしや野側の大和屋へいてあそこから人やるわいナ [つや]そしたら咲さんは [咲]わたしやいつもの通リ爰から人やるわいな。 御世話なから文やつておくれなんせ [つや]アイそしたら夕さんも一ツのんで裏町へいきなんせ [夕]アイそふいたしやんしよ ヲヽよふぞへおろしくれなんせ [つや]サアおまへのおろしが出ルと本ンのこつちや。 そんならいきなんせ [夕]そしたら市兵衛ても庄八でもきたらよいやう二してくれなんせ (十四オ) [つや]そりやきづかいなんすな [夕]咲さんそこでほめかんせ [咲]こなんこそたのしまんせ。 こちらとほひいさかいにしれやんせむ。 [つや]おかね夕さん二ついていきや。 是夕さん朝明ケぬ内二こちへむけてもどりなんせ [夕]アイいてこふへと別レてこそはアヽヽヽうらやましや 大尾 (十四ウ) -------------------------------------------- 注) 陽台十オ6  @→忍頂寺文庫蔵本本文では、人名「さん」に四角囲いなし。 秘言一オ1  @=女×壮 秘言一ウ5右 @=「より」の合字 秘言二オ3右 @=「より」の合字 秘言七オ6  @=「さま」の合字