『指微韻鏡私抄略』の刊本 岡島昭浩 −寛文九年刊『韻鏡秘傳鈔』− 奥村三雄先生退官記念『国語学論叢』(桜楓社)(平成元年6月)p848-860 熊本に居た岡井慎吾氏が、熊本県人吉の願成寺の経庫を整理した際、『指微韻 鏡私抄略』を発見した。昭和九年の『日本漢字学史』で岡井氏は本書を世に紹介 し、昭和十一年、貴重図書影本刊行会から第三期の一冊として影印刊行された。 九頁の岡井氏の解題が付されていて、本書の貴重なことが知られる。 その奥書きによれば本書は応永十一(一四○四)年八月十八日から十月十九日 まで覚算という僧が講義したのを、俊睿という僧が聞書したものである。写され たのは享禄五(一五三二)年、教厳によってであり、応永の約百三十年後の写本 となる。本書の他の写本として知られているのは、昭和十二年、古典保存会第六 期の醍醐寺本(嘉吉本)『指微韻鑑』影印刊行の際、解題の橋本進吉氏が大阪河 内金剛寺の蔵を記しているものがある。ところが、馬淵和夫氏、昭和二十九年刊 『韻鏡校本と広韻索引』の第三部研究篇の後編「韻鏡研究史考」によると馬淵氏 が昭和十六年に調査した時点では金剛寺には見当らなかったという。しかし馬淵 氏は、 高野山明王院に韻鏡諸鈔一覧不忘記私(正徳四年隆雄かきぬき)という一書 を蔵していたが、そのなかに岡井氏本とほとんどおなじ本文のところどころ をかきぬいたものがあり. という書を紹介した。その他には異本の存在は報告されてはいないと思うが、こ こに紹介するのはその江戸初期刊本である。(注(1)) 外題は『雪下/韻鏡秘傳鈔 全』、大本一巻一冊。大本と言ってもやや縦長で 26.5×17cm、表紙は紺色。全三十丁、内題は『指微韻鏡抄』、柱には 『韻鏡抄』とある。刊記は三十丁ウに、 寛文九暦 巳 酉 初冬上旬吉旦 松井七郎右衛門開板 とある。『韻鏡秘傳鈔』という題名は『国書総目録』では、宗雅の著書としてあ がっているが、本刊本のどこにも宗雅なる人物の名は見えない。『国書総目録』 の記すところ現存はなく「寛文十年書籍目録等による」と記される。斯道文庫編 の『江戸時代書林目録集成』によって見れば寛文十年刊の『増補書籍目録』から 書名は見えるが、宗雅の名の現れるのは延宝三年刊の『古今書籍題林』からであ る。しかし文雄の『磨光韻鏡余論』上二ウにも「宗雅ガ秘傳鈔一巻」と見え、 「眼之所経載于此」と記す文雄の立場を考えれば、本刊本とは別に『韻鏡秘傳鈔』 なる書があったとすべきものかもしれない。毛利貞斎の『韻鏡袖中秘伝鈔』も単 に『韻鏡秘傳鈔』と呼ばれることもあったし、よくある題名という訳かもしれな い。宗雅は『国書総目録』著者別索引では『四度印図』『念誦私記』の二書のみ で(共に寛文九年刊、筆者未見)、真言宗関係の僧侶らしい。 松井七郎右衛門という書肆名は井上隆明氏『江戸書林板元総覧』で見えず、松 井七郎左衛門なら見える。『能引秘要於府中寳珠院頼勢之』という書(注(2)) が寛文九年刊で松井七郎左衛門刊であるという。この項には大阪女子大と記され ているが、伝本が少ないと思われるものにそういう注を付したという。『大阪女 子大学附属図書館和漢書分類目録』によると、 大一刊 [道享]寛文九己酉季初冬松井七郎左衛門刊 とある。「道享」は外題とのこと。この書は『国書総目録』で『引導能印鈔』と あるもので、筆者の見た大谷大学蔵本の複写では、内題『能引秘要於府中寳珠院 頼勢之』で刊記は 寛文九巳 酉 季初冬上旬 前川茂右衛門板行 となっている。柱題も「道享」となっていて、書肆名のほかは同内容であること が知られる。前川茂右衛門は井上隆明氏によれば寛文から元禄の頃の書肆で、松 井七郎左衛門との先後は、大阪女子大学本を見ていないので何とも言えない。た だ、『韻鏡秘伝鈔』の刊年寛文九年と同じ刊年であるのは気になるところである。 さてこの『韻鏡秘伝鈔』の刊本には岡井氏の影印本に見える奥書きはなく、馬 淵氏の紹介した『韻鏡諸鈔一覧不忘記私』の奥書きと共通するものが二十六丁オ に有る。すなわち、 郡   本云應永十一甲申十二月十日於相州鎌倉雪下相承院東對屋師主    月 書   慈圓房覺算法印御房蒙免許盡寫畢覺法印仰云韻鏡相傳之書也故    懇望 檢   有其憚雖然異他謂故奉授與未代可為指南也但師曰相傳不背毛端   記之者也亦廣韻以反切檢少々記之也云云尓間於韻鏡者此抄所為    俊   亀鏡者也權律師後睿卅九歳 (右側の校異が馬淵氏のもの) 影印本は八月十八日から十月十九日までの講義と言い、本刊本や『韻鏡諸鈔一 覧不忘記私』は十二月十日と言う。これについて馬淵氏は  日数の関係からかんがえて、前者が序文の大体をきいたときになされたもの、 後者はすべての講義がおわったときにかかれたものであろう。 とするが、本刊本でも序文の解釈のみであって、韻図の解釈は見えない。 また、「本云」の前、影印本で言えば二十六丁オの「除歯音」の後に刊本では 「印融作」とあるが、印融は一五一九年の没であるから応永とは年代的に合わな い。韻学者としての印融の名の通っていたことによる後世の補入であろうか。 (注(3)) 岡井氏の解題に「私抄略の本文は第三枚に起り第二十七枚に訖る二十五枚で有 る」とあるが、刊本にもその部分が取られていて、「本書の第一枚の裏第二枚の 表また第廿七枚の裏第廿八枚の表のをも教厳が書き加へて」という部分は取られ ていない。また、二十六丁オからの「唇舌牙歯喉 来日 局〓 音和切…寄韻切」 の部分も無い。つまり「明了房云」に始まって「除歯音也」に終わる。その後に 「印融作」とあって奥書きがあり、更に刊本独自の部分(一丁半)、刊記(半丁) がある。刊本独自の部分については後で触れる 刊本の本文は影印本と比較してみるとかなり誤脱が多い。しかし刊本のほうが 優れた本文を持っていると思われる部分もあり、以下に校異を記して行くことと する。その際、振り仮名、送り仮名、返り点などは触れないこととする。両本に 字体の違いはあってもその差は無視し、また、通用の字体に直した。先に記した のが影印本の丁数とその本文、その後が刊本の本文である。傍線を付したのは影 印本に有って刊本に無い部分で、二重傍線は刊本にあって影印本にないものであ る。どちらが正しい本文を持つかは示さないこととするが、韻鏡序の本文に関し ては馬淵氏の校本によって記した。(「序」)と記したほうが韻鏡序と一致する ほうである。なお『指微韻鏡私抄略』が道恵抄(注(4))の強い影響下にあるこ とは馬淵氏などにより指摘されているので、そういう個所は道恵抄をも引いて、 影印本と刊本の優劣を判断する材料の一とした。また一致するほうに(道)と記 した。その他引用してあるものを比較のため記したものもある。 3オ1行 韻鏡始而 3行 而返之 而反之 4行 明了上人為丹波國小河嫡弟 4行 韻鏡之微旨 5行 西落 西洛 6行 反音之奥義無曇 反音奥義無不依 之 9行 可私云々 可秘 9行 序例之二 序倒二(この他「例」を「倒」に 作るもの多し。以下これを略す) 3ウ1行 二自韻鏡 2行 三自調韻指微 3行 自張隣之序後之一段 張氏之序後一段 3行 字母括要図 字母括字図 (直後のものも同) 4行 卅三六字母 4行 帰納助紐字 帰細助紐字 5行 横呼韻乃至列囲等 横呼列冂第 6行 張氏之述作也 6行 然者依彼 6行 張之或 張氏為(「張之」を「張氏」に作るもの多し。これは刊本優る) 7行 求源者也 逑源者之端歟 7行 此義宜義宜(刊本丁移りによる重複) 8行 廿八歳之歳也 廿八歳之季也 9行 本朝承保之白河院當御宇 本朝承保元白川 院當也 9行 甲寅之誕生 4オ3行 未詳誰人云事 3行 反切之妙用 5行 忽然一夕 7行 供韻人子 洪韻類子 7行 沙門神〓云人 9行 張之猶也 張氏猶不知  行 玉篇末 玉篇未(以下「末」を「未」に作るものあり) 4ウ1行帰紐納助紐字 2行 唇舌牙歯喉舌歯音歯舌音 3行 清次清濁清濁 3行 〓 封帛 6行 先侯切 先侯反(「切」を「反」に作るもの多し) 6 行 奴罪切〓盡切千竹反 7行 互用 牙用 7行 羽声畳韻 双声〓宜韻 7 行 馮切馮韻等切韻之法 馮韻馮韻音切之法法 8行 反切之旨之故 5オ1行 左点之意趣者 右点之意趣 2行 非不知其音 4行 左点者所謂 左点意 5 行 移余之句 移余勺(他にも「句」を「勺」に作るあり) 6行 古人看書曰 古人看書只 6行 無病 無痛 7行 誤訓故設 話訓故縦 8行 漢書楊雄伝 曰名雄 9行 家素貧(道刊本) 家索貧(道) 5ウ1行 六 四而往来 六 十四而往季 6行 一編与篇 一編者編(道「一編与編」) 6行 殺竹書書典 (道あり)謂之簡也(道なし) 7行 漢制長二尺 其編長二尺(道「漢制」) 9行 聖祖者宋朝先祖也(道あり)  行 在言徴不言徴 在言徴不言在言在不 言徴(道「在言徴不言在不言徴」) 6オ1行 縦以此韻鏡 1行 号而指微韻鏡 号云指微韻鏡 2行 宋朝之高祖 宋朝之高宗 2行 光宗之三朝 5行 此文 5行 両字 而字 5行 相協相 摩謂之(道ともにあり) 6行 此云也 此者此書也 7行 内外転分之 7行 縦模 縦横 8行 義也 8行 其製 其制 6ウ1行 虚之辞 6行 其韻反 其韻頭 6行 其部 其字 9行 五音 五韻(直後も) 9行 清濁之等 7 オ2行 精熟等者 精熟等文 3行 以下至此句者 3行 大略之詞也精者 大 略云以下至者 5行 子〓反(道) 子悟反 5行 晝夜也(道) 書夜義也 6行 復解数例 7行 下卅六字母 9行 適見 遇見(道) 9行 補注蒙求 (道) 神任蒙求 1行 泛波而 1行 〓粮(道) 喪粮 2行 王命 上命 (道) 3行 三故事 3行 桃源泛 桃源〓 5行 相友善差イ并 相友差並 5行 鳴琴伯牙弾琴(道あり)其意在山子期曰〓々如泰山伯牙又弾其意在水(道 あり)鐘(道なし)子期曰様々如江海(「在山子期」の「子」から「泰山」まで 影印本は欄外書き込み) 7行 凡友言為(道「凡言友為」) 7行 非浅解者浅者対深(道「浅対深」) 9行 朔者月一日也 8オ1行 子 儀者字也 4行 高祖之父謂之 高祖之父云 4行 翼祖者廟号也 5行 韻鏡 之鏡(道あり) 6行 鏡也依御諱(道「鏡」あり) 7行 例有如 7行 唐 大宋 唐木宋(道「唐大宗」) 8行 諱也 諱世氏(道) 7行 貞観政要為 正観政要(道) 貞視政要為正視政要 9行 注云今遷 9行 皇立七廟曰考廟 曰王考 王立七廟曰孝廟曰王孝廟  行 曰顕孝廟(道) 曰高祖廟  行 曰 祖廟曰祖孝廟曰遠廟遠廟(道ともになし) 8ウ2行 二〓前通 二〓通前(道) 3行 遷〓廟從本名者(道なし) 4行 入孝廟時(送り仮名には「トキ」あり。 道なし) 4行 遷皇孝廟皇孝廟遷顕孝廟々々々遷祖孝廟自孝廟 遷顕孝廟々々 々遷皇孝麻(「廟」を「麻」に作るものあり。道「遷王孝廟々々々遷祖孝廟」) 6行 二〓也〓也(道なし) 6行 超然 〓然 8行 遷太祖麻 9オ1行 高宗 高祖 2行 神〓之撰 3行 反紐図 4行 沈約 流約 6行 其本伝 7行 十五年迄也 7行 以此知 故知 8行 此僧者 9行 尺子所撰云是也 云々凡 尺子所撰也云々是也 9ウ1行 尺子 数子 1行 然而 1行 呼〓而 2行 然又 然亦(「又」 と「亦」の違い多し) 5行 洪韻而 7行 重問若 重問云何 8行 洪中何 人 8行 此僧了 此僧哉 8行 答云 9行 製作作(刊本丁移りによる重複) 9行 建立之体  オ1行 故作又 2行 五十歳之時也其時 4行 群齊 郡 齊 4行 心鑑而 5行 此意 此言 8行 幽源而 幽深 9行 揚侯〓者 9行 宋第十一帝  ウ1行 揚侯〓撰 2行 去来之義 5行 荘也恭也 〓 也 5行 言潔心 言潔也 6行 故云 故曰 9行 〓遺文旧体 〓遣文旧休 行 此末 此巻  行 字母之位  オ3行 非敷奉微 3行 卅六字 4行 如此是之 5行 此者 5行 今二紙 分二紙 6行 照穿牀三字母 胎穿状之 三母(道「照穿床三母」) 9行 故故云(道なし)  行 其次第(影印本丁 移りによる脱。道あり)  ウ1行 淆乱 者乱 3行 爵名也 爵有之(道「爵名」) 4行 名諱也 4行 進巻先朝 5行 序略也 6行 其要語曰〓此書文要語云者七音序略 8 行 振旦一州(道) 振且一列(「旦」を「且」に作るものあり) 8行 漢韻 増韻(道) 8行 謂之(道「曰」)諸夏文(道なし) 9行 梵者天竺(道) 天兵 9行 此教  行 七音之作起  オ1行 一州云々 1行 欲以此 2 行 序略云 3行 戎狄 戎状 6行 花僧従而等文華僧者是神〓梵僧所唱出言 音以華音訳之前音義可伝者(影印本「花音訳之前音義可伝者」を抹消し、欄外に 書き込んで有るが切れて見えない。刊本のみの部分と比較してみれば「…是神〓」 と読めそうでもある) 7行 梵僧之梵語 8行 不通之處者也 不通所云也 9行 倫者也 倫次也  行 上声々々次去声々々次入声々々  ウ1行 如此 故 如是故 2行 易云 易曰 4行 性情也何 6行 不可謂 不可云 7行 又云者 亦者云 7行 詞之故云亦云也 8行 其用也 其要也(「用」を「要」 につくるもの多し) 8行 一句 一段 8行 此書  行 無之  オ1行 唯云 准云 1行 梵僧云華僧者 2行 儀也 義也 2行 先生之 語 2行 以下 已下(直後も) 2行 六字者 3行 観之 〓之 3行 字 之字除之 3行 十三 十二 四行 三穴アリ 4行 小曰〓 5行 比竹 比 作 5行 地籟 6行 在之也 在之凡 6行 招非造化 7行 華等薫芳 7 行 人之造化耶唯此是書 人造作准此 9行 知其妙乎 十行 同時 與時 行 嘉泰 喜泰  ウ1行 十三季 2行 如云何 如云先 4行 有之 存之 象者所謂 所謂象者 5行 自此始 7行 天籟有以 天籟者 7行 如前 如 先 8行 黄帝 黄高(直後も) 9行 第一主 等十主  オ3行 其以下之 族如 4行 皇帝 皇高 5行 制文字 製文字 6行 是雖 8行 四声之 8行 其故  行 各亦有  ウ4行 唇 辰口(二例とも) 4行 五音之外 五音上 4行 詮也 規模也 5行 未以来 8行 其意 其義 9行 孔子也 行 平帝元始 平高元如 〓オ3行 人面之俗(序あり) 4行 字母之図所載之 字母面所載 5行 指 示(道) 詣示 6行 故云云 6行 四十三転登韻(道なし) 7行 胡僧音 韻 胡僧立韻(序で異同あり) 7行 得経緯(序あり) 9行 故云立韻得経 緯之全(序あり) 9行 用心(序) 要心(直後も同様。引用される論語で 「用心」) 〓ウ2行 博奕等者 3行 当代之(道あり) 4行 不翫究 不 習云(道「不誦究」ただし「誦習也」とあり) 5行 錯乱也 5行 謬也 謬 云々 6行 於於此一事 7行 陽休之 陽体之 8行 英彦 英産 9行 或 云 或曰  行 第一答 等一答  行 答云 答曰 〓オ1行 例答云亦 4 行 伏羲 伏義乃 4行 削桐 削相 4行 通八風(道あり) 5行 四気 (道) 四季 7行 以合君臣之恩(道) 答君臣之思 8行 夫一文 9行 謂之齒舌(序あり)  行 所以加 所以分(序) 〓ウ1行 先舌後歯々々々々者言 1行 伊音属歯音 故音属歯音 2行 半商 々舌音也 半微者微舌音也 2行 故云半微 3行 解触 4行 強差 強着 4行 以舌柱歯 5行 舌下 舌中 6行 尓知也 濁  余知也 7行 尓 音尓音 7行 知音声其舌音分明也 8行 音 為歯舌音又 為舌音是亦 9行 第三等 第三第 〓オ1行 是階式 其階式 次項は分かりにくいので左右に並べて示す。右が刊本、左が影印本である。刊 本では項目字が割注の中に入ってしまっている。 〓博章 上動五 圭牙肩 寸村困 日于伐 力六直 日入四質 〓 切 切 切 切 切 切 切 唇 舌 珪 歯 喉 半舌 半歯 〓博傍切 動五 肩珪切 村困切 于伐切 六直切 入質 商 〓 土 圭 寸 曰 力 日 唇音 切舌 牙 喉歯イ 半舌喉 半微舌 切半 歯 3行 義如文 4行 分四声 5行 半韻音イ 半音 5行 幽源也 深也 6 行 義理字而 〓ウ3行 第二 第一 3行 次清第三 4行 馮切反 4行 第二清濁第四 6行 第二清第四 7行 不正体之法 8行 紅洪之第一 8行 喉音 唯音 9行 @@第一  行 単行例  行 舌歯清平濁第三  行 偏 狡切正馮切云  行 廿三 廿二  行 歯平清濁第四 歯第第二清第四  行 異位音和切  オ2行 歯上第三 歯上第二 2行 音和切 5行 蟹第十五 5行 濁第三 濁第二 5行 音和切 6行 清濁第一 濁清第二 8行 音和 切  行 音和切  行 憑切難字切也 〓行 次清第四 歯清第四  ウ1行 不言(道) 不云 1行 反切而(道あり) 2行 女之往 3行 紐字之法 4行 揣磨 揣摩(道「揣量」) 4行 其子 其字(道) 5行 婦入謂嫁曰 婦 婦入謂嫁曰帰 5行 平声 6行 依類象形謂之文形声相益謂之字文者物象 也字本也 7行 如同 如前 8行 只挙一二 且挙二尺 9行 臣道也  行 父祖(道) 父神  オ1行 智也 宜也(道) 4行 衢州進士元晃 衢列進士毛晃 5行 尺一 文 5行 故云然也且 6行 芳弓位引而可見之也 芳弓切引可見之 6行 十 陽韻者 7行 同音之定位 8行 同音定位 同母位  ウ2行 音和切也凡反 切法 4行 亦如息中切 5行 第一与第四位 5行 第二与第三位  行 取 之故 8行 帰尺音 帰成普  行 息中切  オ2行 元成疏初第十一 初第 十二切三韻二 3行 切三韻四 切三員四 3行 切三員四直勇切 3行 直四 十三重第二勇上声角也 直第四十二勇上声角也第二重同 4行 切三員四治小切 4行 切三員四彼側切 5行 一三切四 5行 忍第十七 恩第十七 5行 四 三切四息中切 5行 二三切二初几切 6行 切二韻三差二也 6行 私云 和 云 6行 差同也 7行 二三切二〓里切〓第十一里第八士同 7行 二四切二 霜姨切師霜第三十一姨第六師同 7行 四三切二旬為切随旬第十八為第五随同 7行 劑子第八垂第五 7行 昌紹切藍昌第十三 三昌紹切藍昌第三十一 8行 三一昌来切鏘昌第三十一来第十三鏘三十一 8行 三二余廉切塩四余第十一廉第 二十九三十九塩第四十 8行 〓〓切〓以水切唯四以第八水第七唯以上元盛疏馮 切例  行 去第第二  ウ1行 広韻去声遇韻 1行 十内 2行 第二位 第三位 2行 此囗為句字位 此冂為字位 3行 文点之定義〓明察之義也 4行 寄声 奇声 6行 祖第十二 祖紅切帰(序) 6行 行体文 7行 第一清第一清位 也 9行 平声在韻 平声東韻 9行 二十二字  行 濁第一位  オ1行 歯音平声第一 1行 成@与@ 1行 子紅切也 2行 廿一字 2行 依之反 出位 3行 有便宜 3行 帰字例之内 帰字例之中 4行 後学之唯重也 後 学之准望也 5行 祖紅切之意 5行 謂上下或取同音者広韻取載以戸公切為洪 紅等二十二字随一 7行 慈陵切 慈陵反〓(序で有る本とない本あり) 8行 平声歯音 8行 慈也 9行 平一清濁 第清濁 9行 第三位也 9行 而陵 字 而両字  行 当縄字  行 陵字与  行 又不相映也 亦相映也  ウ 1行 只同一音(序) 且同一音 2行 疾陵切也陵在第三位 慈陵有第三位 3行 謂也 4行 如以陵字 4行 第三位字 5行 横遂 5行 韻反 韻頭 6行 〓昂 位昂 6行 余准此 余准之(序に校異でどちらもあり) 7行 収治 収復 7行 歯音也 8行 之第一 9行 来帰  行 歯云清濁 歯音 第二清  行 平之喉濁 平声喉音濁  オ1行 為音之喉濁第一隨本韻定音此切非音和 反而為音和之旨 3行 精清従心邪字母(序ともにあり) 5行 於一局 6行 侯字韻○等者 侯字韻○等文 6行 反出 反切 7行 音和切而而 9行 上 声也 上声世 9行 俗音如如去声(行移りによる重複)  行 呼之也  ウ 1行 次清第四位 1行 在 有 2行 見之時其中在存知之字其声易知之横転 之或六字 3行 屋韻之故皆此韻之下 3行 第五声 第四声 4行 入声処 入声之声 4行 第一等字卜木○禄等也 4行 第三声 第二声 5行 屋字有 イクオク之音故竪求四声葱○〓〓等 5行 五音之声 五音也声 5行 即声ナ ルベシ 即ソクノ音ナルベシ 5行 故云今  行 私抄三折一律 和抄三折一 転 〓オ3行 平同上声 4行 道同上声 5行 凡孔子 6行 動字廿五開也 韻策卅丁也卅二皓 6行 猶此 如此 7行 継以董同継以動字 7行 倒祷字 字 8行 上第卅二 上声卅広韻上声卅二  行 読之 謂之 〓ウ1行 半之 2行 不知反也 不知変也 2行 呼而 3行 然者則 5行 為史等 6行 位史者 7行 上者第卅一去濁 上声第卅一上第二濁 7行 第一濁 第二清 8行 如前 如何 8行 史上 8行 従邪往来 9行 可有混乱 〓オ1行 如前 如先 1行 上声濁 2行 如前 如先 2行 或唯云去音 2行 泥娘 日従邪匣喩等 泥浪従邪連喩 2行 恐不可 恣横不可 5行 一気之出(切韻 指掌) 7行 尋字者 8行 清次清濁清濁 8行 牙音  行 有十字  行 歯音歯頭 〓ウ1行 名軽重 各分軽重 1行 謂之者 諸者 2行 歯反 歯 頭 4行 故前謂 4行 第二清第二濁旨指示 5行 喉音 唯音 5行 二清 舌歯音二清濁 6行 直行(序) 真行 8行 平上去入声 9行 蒙崇爪嵩 蒙崇風嵩  行 平平第二一等崇上声第二等風去声第三等嵩入声第四等 〓オ1 行 擧者平声 2行 借音可也(序) 可借音也 2 摸之韻類 横韻之類 (「摸」を「横」に作るもの多し) 3行 韻反 韻頭 4行 一音之位也故列 之時有声一音三声無入声雖然若以遂之例 5行 摸姥等入声 横姥等之声 6行 今目字 6行 屋々韻 属屋韻 7行 三韻之例位 8行 韻母其位 9行 一 類哉 一類乎  行 答云  行 借此 借之者 〓ウ2行 知手〓 6行 隠 為有声有形之珎 7行 有声有形輾 有声無形輾 7行 然音 尓音 8行 有 声無形字 無声無形字 9行 以備足也 以借○也  行 是故云(道「是曰」) 〓オ2行 故云(道 あり) 3行 義如何 義如文 3行 在二冬韻(道) 有二冬韻 4行 於位 出位 5行 寄声之例也文 6行 寄韻寄声 奇韻奇声 無声無形(序あり) 7行 編慈行数 編応行数(序) 8行 歯音也 一見して分かるように、この刊本の校訂者は韻学に明るいものとは思えない。 『韻鏡』を手元において参考にすることもしなかったようである。「字母括要図」 を「括字図」と書いたり、「序例」を「序倒」、「帰納助紐字」を「帰細助紐 字」、「卅六字母」を「卅三六字母」と作るなど韻学用語は知らぬと見える。 むしろ校訂していないというほうが当っているかもしれない。貞観政要を貞視 政要と記すなどは韻学はおろか漢学というもの対して無理解と言うしか有るまい。 しかし、影印本には見えない本文もあり、影印本よりも良い本文も有ることはこ こに示した校異で伺えるであろう。さらに刊本独自の部分を以下に記す。 応永の奥書きの後二十九丁オより、「七廟之事」がある。影印本にも「七廟私」 があるが、内容を異にする。 七廟之事 祖孝廟 皇孝廟 孝廟 不入皇 五 三 一 〓廟 高祖欠廟也 曽祖廟也 父廟也 廟広也廟皆南向玄覚和加之 遠廟 父云遠廟 顕孝廟 王孝廟 七 六 四 二 或〓廟 高祖廟 祖廟 又様七廟事 父 父 父 最初君各大祖 二 昭 四 昭 六 昭 八十十二等 左 一 右 大祖 三 穆 五 穆 七 穆 九十一十三等 子 子 子 (二十九オ) 一韻字之数事 平声五十七上−五十五去−六十入−三十四 一内転外転開合事 内−者字始ウノ仮名アルヲ云内−外−字初アイヱヲ四仮名アルヲ云外−即此四 カナヲ開云ウ一内−云合云也開合アイウヱヲノ五韻混乱タルヲ云開合也 一軽重事 唇舌歯之三音軽重有之其中舌歯之二音キシシキ也重軽々重是也唇音重四等倶通 軽第三局也(二十九ウ)故一二四重局第三軽重通也然間横二通アル字母配四等可 分別也云々 牙喉舌歯三音軽重之無沙汰唯清濁迄也故字母横一通也 一成仏反実仏弼易状禪往来実也 一弘法反 滑 法八反也其侭反無字故法八字替也 仮名要二字トモハウハツノ故云々借音形也是コ二仮借云 一反事如悉曇父竪行母横行云々已上畢 (三十オ) 以上が、本刊本の凡その紹介である。あまり数多いとも思えない『指微韻鏡私 抄略』の一異本として紹介した次第である。 注 (1)筆者が古書店より目録注文で購入したもの。 (2)頼勢といえば韻鏡の注釈書も作った人だが、これは真言宗関係の 書である。 (3)『磨光韻鏡余論』に「密存即有印融抄一巻」とある。この『印融抄』は馬淵 氏により『三四反切私抄』であろうと推察されている。『三四反切私抄』は『三 切一律抄』の強い影響下にあり、その『三切一律抄』は『指微韻鏡私抄略』中に その名が見え、『指微韻鏡私抄略』と同作者であることが、やはり馬淵氏によっ て示されている。したがって、印融とこの書とは全くの無関係という訳ではない のである。 (4)馬淵氏著書のほか福永静哉氏「韻鏡切要抄の系統」女子大国文五○号参照。 なお六地蔵寺善本叢刊第五巻『古代韻学資料』の『韻鏡序解』の本文を使用し、 国会図書館蔵の承応刊本をも参照した。 《六地藏寺蔵の『韻鏡序解』には本文の欠落がある。》